朝方の
村人があくびをしながら畑に降りていくと、畑の側に人が1人倒れているのを見つけ、顔を青ざめさせた
「た、大変だぁ…ッ‼︎」
村人が倒れていた人物に近づき、体を揺する
「あんた!おいあんた!!大丈夫か!?」
助け起こした初老の男性は髪を真っ白にし、顔は恐怖で青ざめていた
「あんた…
淡島と呼ばれた男性は口をぱくぱくとさせ、ながら村人の問いかけに答える
「オビコ…オビコを見た…おれは、オビコを…‼︎」
それだけ告げた淡島はぱたりと気を失ってしまった
「ハハハハハハ‼︎ 前祝いにはりきりすぎてしまったかのぉ…」
村の近くの森
朝ながら暗がりの多いその中に夜鳴きそばの店主はたたずみ、愉快そうな声で笑っていた
「宣戦布告は済ませたぞ、
近くに停めていた屋台を笛で叩く
屋台の側面がパカっと開き、黒い影のような、蛇のような何かが飛び出してくる
「影法師よ、今夜からまた宴じゃ…契りによる封印の弱まりももう十分。思うさま暴れ、蓮香とまた勝負の時じゃ!!」
【 おうさ‼︎ 】
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少しばかり時を遡り、
「…あの地を汚す人間が現れようとは、わたくしとしたことが、油断していました…」
朝ご飯の白飯を食べながら、
「
味噌汁をすすりながらリュウが問う
「封印したのは
箸を握る手に力を込めながら苑樹は言葉を続ける
「……最近、五道市の方の妙な澱みを警戒してこちら側の管理が疎かになっていました…」
「……五道市の澱み…?」
《退魔師か。面白い、斬ってみるか》
リュウの言葉に返答しようとした苑樹の言葉を別の声が遮り、2人が囲むちゃぶ台を囲むもう一つ敷かれた座布団の上に視線を送る
ウルトラマンに似た生首が柄にくっ付いた自称・魔剣のベリアロクがそこに浮遊し、口をぱかぱかさせて言葉を紡いでいた
「……錦田小十郎景竜は、江戸時代初期に現れていた人物です。もうこの世にはいませんよ」
《なんだ。つまらん》
「なんでもかんでも斬りたいって物騒すぎるだろお前…」
《オレ様はオレ様の斬りたいものを斬る》
《それにオマエではない。オレ様はベリアロクだ》
「はいはい……」
朱戀鬼との対決が終わった後、変身を解いたリュウたちのところにこの魔剣は飛んできた
曰く「使い手」がこちらではぐれたままになっているから、見つかるまではリュウたちと共にいることにしたらしい
それでも触ろうとしたら拒否されたので、この通り浮かんだままそこら辺をふよふよしたりしている
「村の人が見たらパニックになりますから、絶対に神社の敷地から出ないように…」
と苑樹が釘を刺したことには素直に聞いており、社殿からは基本出ずに一夜を過ごしていた
……事あるごとにに何かを斬ろうとして2人が止めに入っていたが
「ベリアロク…でしたか?あなたの使い手はどこに行ったのです?」
苑樹が問いかける
《わかれば苦労していない。この近くに共に落ちてきたことは間違いないはずだが…》
「なんかこう、気配とかはわからないのか?」
《普段ならばわかるが、この辺りではそれも何故か効かん。いつもなら空間を斬って飛んでいくこともできるが、今はそれもできん》
苑樹がベリアロクを見つめる
「そもそもあなた方は一体どこから来たのですか?」
《オレ様たちがいた宇宙は、恐らくこことは別だ》
「別の宇宙…⁉︎ それって、イグニスと同じってことか⁉︎」
《聞いたことのある名前だ》
《そいつはどうかは知らないが、オレ様たちはある宇宙人を追っている途中で妙な空間の裂け目に飲み込まれ、気づけばオレ様はあの岩に刺さっていた》
「空間の裂け目……」
それを聞いたリュウはイグニスも黒い妙な穴に飲まれてこちらの世界に来たと言っていたことを思い出した
(……この世界に通じる空間の裂け目が、複数の世界にできているのか……?)
「ある宇宙人とは一体どんな宇宙人なのです?」
リュウが思考する中、苑樹がベリアロクに問う
《ヤツの名はたしか、バロッサ星人。五代目とか言ってたか…盗賊行為を繰り返す宇宙人で、オレ様たちの宇宙ではもう4人倒されてる。懲りない連中だ》
「……その五代目を何故追っていたので…?」
《デビルスプリンター、とかいう代物を持ち逃げしたからだ》
《たしか別名は悪魔の破片だったか》
「なんとも物騒な……」
首を傾げながらも食器を片づけ始めるリュウと共に苑樹も食器を片づけながら呟く
あらかた片づけ終わったところで玄関の戸が叩かれる音が響き、苑樹とリュウが玄関に向かう
「巫女さん!玲武の巫女さん!!大変だ…淡島のが‼︎」
「淡島さんがどうかしたのですか?」
「オビコ、オビコを見たって寝込んじまったんだ‼︎」
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『オビコを見た』という言葉を聞いた苑樹は真剣な顔をし、リュウと一応ベリアロクを伴って淡島という男の家へと出向いた
「淡島さん、無事ですか⁉︎」
奥の寝室で寝込む淡島に苑樹が声をかける
うなされていた淡島はそれにロクに応えず、代わりに枕元でオロオロとしていた淡島の奥さんらしい人が口を開く
「主人は…主人はどうなってるのですか⁉︎
苑樹は奥さんの肩をさすりながら優しく告げる
「安心して下さい、邪気のようなものは感じません。それに、御彦様は土地神が変容した妖怪でこそありますが、人を呪うことはしないはずですから」
涙目になる奥さんを苑樹が宥め、ひと段落したところで苑樹が魔除けの呪いと札を施し、淡島家を後にする
家を出たタイミングでリュウが苑樹に問う
「なぁ、オビコサマ、ってなんだよ?」
「シッ…‼︎」
苑樹が口に人差し指を当て、リュウを睨む
「…今村は過敏になっています。迂闊にその名前を出さないように」
「あ、ああ…わかった」
こほん、と苑樹が咳払いをする
「…御彦様、オビコボウシ、オビコ、そういった名前で呼ばれる彼の存在は闇に生き、闇に現れる妖怪。元はこの地方の土地神である存在であったモノでしたが、信仰の変化と衰退により人を驚かし誘拐したり悪戯する妖怪へとなってしまったモノです」
「妖怪…?」
「『夜道一人で歩く時、背後から遊ぼうと声をかけられることがある。しかし決して振り返ってはならない。振り返ってしまったならば、お前はオビコに攫われる』、そういった怪談でこの地方に伝わるのがオビコという妖怪。攫われた人は村の井戸の近くから見つかるとか、夜鳴きそばの店主が鍋から取り出す、とも言われています」
説明を終えた苑樹は口元を押さえ、目を泳がせる
「……しかし、オビコは…お婆さまが封じたはず…」
そんな時、村の中に夜鳴きそばの笛の音が響き渡った
「笛の音!?」
「夜鳴きそばの笛だ!!」
「オビコの屋台が来た!?」
「攫われちまう!!」
たちまち村のそこかしこから恐怖の悲鳴と喧騒が響き出す
「おい⁉︎闇に現れる妖怪じゃなかったのかよ⁉︎」
「わ、わたくしだって混乱してます⁉︎」
軽快な笛の音はそこかしこから響いてくる
所々で人々の悲鳴も定期的に聞こえてくる
「心地よい、心地よい…人々の恐れは格別じゃあ…」
すぐ背後から聞こえてきた笛の音に2人が振り返る
淡島家の玄関口、薄暗がりになったそこに夜鳴きそばの店主が寝そべり、笛を吹いていた
《ほう、コイツが妖怪か。面白い》
リュウのバッグから顔を覗かせたベリアロクが呟く
「オビコ…‼︎」
「久しいのう、蓮香…もう100年は前になるかのう?」
「……蓮香…?」
聞き慣れぬ名前にリュウが耳打ちをする
(なぁ、蓮香って誰だ…?)
(……わたくしの大お婆さまの名前です)
カッカッ、とオビコは笑い、苑樹を睨みつける
「100年前にお主との勝負に敗れ封印されて幾星霜。ようやく弱まった封印から抜け出てみれば、お主が戻ってきているとはなんという僥倖か…‼︎」
オビコは笛を苑樹に突きつける
「玲武の巫女、蓮香よ…わしと再び勝負せよ…‼︎ わしを、捕まえてみせるがいい‼︎」
笛を突きつけられた苑樹は思わず素っ頓狂な声を上げる
「は、はいぃ…⁉︎」
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夕暮れ時になり、疲労困憊になった2人が神社の座敷に転がり込み、倒れる
「はぁ……はぁ……クソッ……あの野郎…ッ」
《翻弄されっぱなしだったな》
「……走ってないからって……偉そうに……ッ‼︎」
ふよふよ隣に浮かぶベリアロクを恨めしげにリュウが睨む
「はぁ……はぁ……さすが妖怪変化…手強いったら…‼︎」
あの宣戦布告の後、早速苑樹とリュウはオビコを追い始めた
玄関口に現れたオビコを2人がかりで押さえようとし、突如姿を消した故にもつれあって倒れて頭をぶつけ
近くの野外にあるトイレの個室に現れたのを見つけたリュウは掴み損ねた挙句便器の中に転ばされかけ(ベリアロクが噛みついて引っ張らなかったら危なかった)
納屋に現れたのを見つけた苑樹は棚のバランスを崩して頭に金タライとバケツの直撃をもらい、余裕綽々といった様子で天井裏から覗いた禿頭を捕まえようとして落ちてきたネズミたちに驚き尻餅を付き
森の中に逃げたオビコを追った2人は木々の影やらうろに現れたり消えたりを繰り返され疲労困憊になるまで逃げられた
そこから更に追い続けてもまだオビコは捕まえられず、今に至る
倒れていた苑樹がゆらり、と立ち上がる
「……苑樹?」
様子の変わった苑樹に首を傾げ、リュウが恐る恐る声をかける
俯いたその顔は影になっておりよく見えなかったが……
「ーふふ、ふふふふふふふふふふっ」
壊れたような笑い声でどういう表情なのか瞬間的に察した
「!?!?」
《…気でも触れたか》
「いいえ?いいえ、至って正気ですよ、わたくし」
爽やかな(しかしどこか恐ろしさを感じる)笑みを浮かべながら顔を上げた苑樹は懐から2本の襷を取り出し、巫女服の袖を肩口までたくしあげて括り付ける
「……え、苑樹さん…⁉︎」
「ーそちらがそのつもりなら、こちらも答えるまで」
ズンズンと座敷の奥へ進んでいった苑樹は床の間に飾られていた甲冑の籠手を取り、がしゃりと装着する
「ー玲武の巫女をナメたこと、後悔させてあげましょう…‼︎」
思わず身を震わせるリュウの隣に浮かぶベリアロクが呟く
《……覚えておけ、小僧》
「……なんだよ?」
《……どこの宇宙でも、キレた女は怖い》
「……間違いない」
「リュウ!ベリアロク!」
苑樹の一括に1人と1本が姿勢を正す
「わたくしに秘策がいくつかあります。手伝いなさい」
「はいっ‼︎」
思わず最敬礼でリュウはその命令に応えた
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その夜
「夜じゃ…夜が来たぞぉ!!!」
宙舟村近くの丘の上
一本杉の幹の影から夜鳴きそばの屋台と共に姿を現したオビコが歓喜の雄叫びを上げる
「征くぞ、影法師…‼︎思うさま暴れ、人間たちの悲鳴をー」
と、夜鳴きそばの屋台から顔を出した影法師が辺りをキョロキョロと見渡し、オビコに告げる
【 オビコ 闇 が ない 】
「……何ィ?」
影法師の言葉を聞き、オビコが辺りを見回す
影法師の言う通り、村からは、否そこいらの森からも闇がほとんど消えていた
村や森はぼんやりと暖かい光で照らされ、闇と呼べる暗がりのほとんどが消えていた。村の方からはガヤガヤと賑やかな声も聞こえる
「……バカな…どういうことじゃ…⁉︎ この村は、夜になれば殆どの明かりが消え、電灯もないはず…⁉︎」
【 まぶしい 】
驚愕しながら眩しさに目を細めるオビコ
その側の影法師が現れている屋台がガタガタと揺れる
「おわぁぁぁぁぁぁーッでっ!?」
屋台の鍋からスポンッと気の抜けた音と共に吐き出されたリュウが顔面から地面に着地し、その側にベリアロクが突き刺さる
スポンッともう一つ音が鳴り、現れた苑樹がスタッと着地する
「玲武の巫女…⁉︎ 蓮香、お前の仕業か…‼︎」
「はい。あなたの弱点、調べ直させてもらいました」
巫女服の袖から一本の古い巻物を取り出しながら苑樹が告げる
苑樹が神社の奥から引っ張りだしてきたのは彼女の大婆様が残した巻物や書の数々
曰く、大婆様は多くの妖怪変化を封じてきた偉大な巫女だった
オビコも名を知る彼女なら、「オビコを打ち負かした記録」もあるはずだと
その予想は見事的中したのだ
「『闇から闇へ移動できても少しの灯りの中でも眩しがり、避けてしまうこと』、『村の側の森の古井戸からオビコの屋台に移動することができること』、わたくしが知りたかったことが全部書かれていました」
「灯りの中であなたは行動できない。なので、村の方々に協力をお願いして、この辺りに祭りの提灯を張り巡らさせてもらいました。小さな薄暗がりは残ってしまいましたが、そこには退魔の札を貼っていますから、どうせ侵入はできませんよ」
ビシッと籠手を装着した手でオビコを苑樹が指差す
「ー観念してください、オビコボウシ!」
オビコはその姿を見て、遠い日の情景を思い出していた
『捕まえたわよ、御彦様』
しめ縄のロープで縛り付けられ、寝かされたオビコを巫女服の女性が見下ろす
玲武 蓮香。この村に住まう大地に生きるものの代弁者
『くそぅ…くそぅ……ッこのわしが…捕まるとはぁ…‼︎』
ジタバタともがくオビコを見下ろし愉快そうに蓮香が笑う
『ハッハッハ、手強かったわ。さすがは土地神が変じた妖怪様ね』
蓮香が札を取り出す
『約束通り、あなたは封印させてもらうわ。悪事三昧だったのだから、少し頭を冷やして反省なさい』
『口惜しや…だが約束は約束…必ずいつかは戻ってきてやるぞぉ‼︎』
『あなたならできそうだから困るわね…』
蓮香はふと思いついたようにオビコに付け加える
『ーなら、もう一つ約束しておきましょう、オビコボウシ』
「ー負けじゃ負けじゃ…わしの負けじゃ……」
オビコは笛を置き、あぐらをかいて告げる
「……やけにあっさり認めるな…」
「……昔の約定を、思い出したのじゃよ。のう、蓮香」
オビコの言葉に苑樹は唇を噛み、意を決して答える
「オビコ、わたくしは蓮香ではありません」
その言葉にオビコが血相を変える
「……なんじゃと…?」
「蓮香は、わたくしの大お婆さまです。何年も前にもう亡くなりました。ですがー」
「蓮香は……おぬしは、わしを騙していたのか…ッ‼︎」
怒り心頭にオビコが立ち上がる
「騙していません⁉︎ わたくしは、蓮香大お婆さまの代わりにー」
「代わりなど、代わりなどおらん!!!」
オビコの叫びが苑樹の言葉をかき消す
「約定を、約定を違えたこの村も、おぬしらも許さぬ……」
「全て…全て叩き潰してくれる……ッ‼︎」
『ぬぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
天に向かってオビコが吠える
同時にその体が大きく膨張。人間の姿から鎧のようなものを纏う髪を振り乱した妖怪の姿へと変化する
「苑樹ーッ!!!」
オビコが振り下ろした脚からリュウが苑樹を庇う
苑樹が逃げたのを見たオビコは口惜しげに拳を握りしめ、今度は宙舟村に目を向けた
ずしん、ずしんと村に向けて森の木々を倒しながらオビコが歩んでいく
リュウがテライグナイターをスパークモードへ変形させ、構える
《ウルトライブ‼︎》
《ウルトラマンテラ!!》
ーテァッ!!
現れたテラがオビコを押し返す
押されたオビコは憤慨し、その頭部を振り回してヘッドバッドをぶち当て、よろけたテラを掴んで相撲のように投げ飛ばす
怒りを体に表しながらオビコはその口を両手で押さえ、火炎弾を吐き出す
起き上がったテラは避ける暇もなく火炎弾の直撃をくらい、山肌に倒れ込む
『クソッ…⁉︎』
《妖怪を斬るのも面白そうだな》
テラのインナースペース、リュウの隣にベリアロクが現れる
『斬らないぞ、あいつは』
《なぜだ?怨霊と違ってアレはただ害を為す存在だろ》
『たしかに、めちゃくちゃな悪戯をしてきやがる…』
怒るオビコはテラに掴みかかり、起こしてジタバタと腕を振り回して叩きつけてくる
テラはそれをただ受け止めて続ける
『……でもな、わかるんだよ。こいつは、ただ害を為すために人を襲ってるんじゃないって』
「害を為すためじゃない…?」
苑樹が眉をひそめる
「……オビコは、人を攫い村の近くに捨てる怪異…害を為したいなら、返す必要がない……⁉︎」
今までのことを思い返し、苑樹が思い至る
そもそも「勝負」も妙な話だった
自身を封印した玲武の巫女が現れたなら、わざわざ正面から勝負をせずとも奇襲をして「勝ったこと」にすればいい。それだけの能力と狡賢さはオビコにあるのだから
それでも彼は、オビコは苑樹に正面から勝負を挑んできた
まるで「勝負すること」が目的であるかのように
『なぁ、オビコ‼︎ あんた…寂しいんじゃないのか⁉︎』
リュウの言葉にオビコが暴れるのを止める
『あんたの暴れ方、まるで駄々をこねてる子供なんだよ。今まで戦ってきた怪獣とか宇宙人みたいな、倒そうとか命を奪おうみたいな感じがしないんだ』
リュウの言葉に図星を突かれたようにオビコは項垂れる
それを共に見ていた苑樹は何かに気づく
「オビコボウシは元は土地神……多くの人に祀られていた存在……だから、人のことを愛しく思う気持ちはまだ残っている…?」
『オビコ‼︎』
リュウ、テラはオビコに背を向けると近くの開けた土地の端に立ち、肩を鳴らしながらオビコを見据える
『収まらない怒りとかあるなら、オレが相手してやる。相撲……ってのは、知ってるだけでやったことはないんだけどな』
それを見たオビコはフンと鼻を鳴らしながらもテラの正面に立ち、四股を踏み、低く構える
《おい小娘。掛け声だ》
「わ、わたくしが…?」
《相撲には行司がいるだろう》
いつのまにか隣に現れたベリアロクと見合う両者を見比べ、観念したかのように苑樹が手を伸ばす
「……見合って見合って、はっけよい……」
テラとオビコが睨み合う
「ーのこった!!!」
苑樹の声に合わせて前に飛び出すテラ
が、その目前にオビコの手が伸ばされ、パンッと軽快な音を立てる
そこをオビコの張り手がクリーンヒットし、テラが後方に転がる
決まり手ーねこだましからの押し出し
かぶりを振りながら立ち上がるテラをオビコが勝ち誇るように見下ろして肩を揺らす
『やったな…もう一回だ‼︎』
構えなおすテラに合わせてオビコもまた構える
「ーのこった!!!」
再びねこだましをしようとするオビコに今度はそのままテラが組み付き、押し合いへし合いが続けられる
『お、りゃあッ!!』
気合い一喝、テラがオビコを投げ倒す
転げたオビコは起き上がり、悔しそうに腕を振るいながら土俵代わりの平地に戻る
『よしきた‼︎』
再びテラとオビコが見合い、巨体がぶつかっていく
「おおい、ありゃなんだ⁉︎」
村で家にいた人々が騒ぎに気づいて飛び出し、大一番を続ける2人の巨人を見上げて騒ぎ出す
「ありゃあ、最近噂のウルトラマン、ってヤツか⁉︎」
「あっちは昔ばばさまが見た御彦様にそっくりだ‼︎」
「御彦様とウルトラマンが相撲してんのか⁉︎」
皆が驚き、中には怖がる人もいたが中には懐かしむように両者を見上げる人々もいた
「そういや、御彦様は相撲も好きだって前の巫女さんに聞いたなぁ」
「こわーい話で語られたけど、御彦様結局は皆を村まで送ってくれてるんだよな」
「御彦様の話のおかげで、子供が無闇に一人で夜道を歩かなくなってくれたから助かったのかもなぁ」
村の大人たちが語るのは遥か昔の思い出
恐怖の対象として、夜の闇に現れる怪異として
妖怪・オビコは語られた
土地神が変上した怪異として
妖怪・オビコは恐れられた
それと同時に
夜道に現れ、人々を見守る存在として
悪童を叱る存在として
皆の中に「御彦様」は生きていたのだ
かつての人々にも
話を聞いて育った今の人々にも
オビコがテラを転ばせたのを見て村人がワッと歓声を上げる
最初こそ怖がっていた人々がいた中、今人々はテラもオビコも応援し、笑ってその相撲を見ていた
「御彦様の決まり手だぁ‼︎さすがはこの村の妖怪‼︎」
「いんや、あっちの青いウルトラマンも中々筋がいいぜ‼︎」
立ち上がったテラがオビコを大外刈りの要領で投げ飛ばし、また歓声が上がる
「おおっ、すげぇ‼︎いいぞウルトラマン‼︎」
「御彦様!負けないで!!」
立ち上がり、村からの歓声に気づいたオビコはガッツポーズのように両手を上げ、力瘤のようなものを見せてまた人々から歓声が上がる
その光景を行司をしながら見ていた苑樹もまたあることを思い出していた
『いいかい、苑樹。巫女として大地に寄り添うなら、人と寄り添うことも忘れちゃいけないよ』
それは大お婆さまー蓮香がかつて聞かせてくれた言葉
『大地の声を聞き、大地の代弁者が我々玲武の民だ』
『人々の中には大地を汚すものもいるだろう。それを諫めるのも我々の仕事』
『でも、わかり合うことを忘れちゃいけないよ。苑樹』
『たとえ何度裏切られたとしても、我々玲武のものの血が呪われているとしても』
『お前が信じたいものができたなら、お前の意志で信じればいい』
『その声を、大地の獣たちもきっと、聞き届けてくれるから』
苑樹はぎゅっと、その胸を握りしめ俯く
「……分かり合える、きっと…でも、わたくしは…」
俯いたまま苑樹は唇を噛む
「……お母様は……ッ‼︎」
テラとオビコの大一番は今度は拮抗している様を見せていた
オビコが押し込んだかと思えば、テラが押し返し
テラが投げようと体を傾けたかと思えば、オビコが持ち直し
白熱した大一番に村の人々の高揚も合わさる
「いけー‼︎御彦様‼︎」
「ウルトラマン‼︎根性見せろぉ‼︎」
両者の拮抗状態は長らく続いたが、決着の時は訪れた
ーテァッ!!!
テラが豪快にオビコを投げ倒す
たまらずオビコは転がり、尻餅をついた
ーおおおおおおおおおおッ‼︎
村から大きな歓声が上がる
負けを悟り、項垂れるオビコにテラが手を差し出す
その手と村の様子を見つめる
「御彦様!カッコ良かったぞぉ‼︎」
「怖い話しか聞いたことなかったけど、面白かったわ‼︎」
「ウルトラマンも根性見せたじゃねぇか‼︎」
「今度、わしらとも相撲しようぜ‼︎」
人々の朗らかな歓声がその耳に届く
オビコにとって、闇に生きる妖怪にとって
たしかに人々の悲鳴は心地よいものだった
だからオビコは夜道で人々を驚かし続けていた
でも、オビコは同時に人々のことを愛おしく思っていた
自分と人々は違う存在
光に生きることのできる人と闇にしか生きれない自分は、相容れぬ存在だと
でも、彼らの光は眩しくもどこか暖かかった
それを、見抜いた人物は1人だけだった
封印してやる、捕まえてやると追いかけてきたその巫女
だが、巫女は自分を追いかけるのに害意は見せなかった
むしろ楽しそうにオビコとの追いかけっこをしてくれた
オビコもそれが楽しかった
オビコはテラの手を取り、立ち上がると告げる
『わしの負けじゃ……今度こそ本当に』
それを聞いたテラと共にオビコは元の人間の姿へと戻り、2人は苑樹の元へと戻ってくる
「……本当は、わかっておったよ。おぬしが蓮香でないことは」
「……え?」
「魂のにおいが似ているが違うからのぉ。じゃが、約定を違えたことの怒りは本当じゃあ。蓮香のやつめ……果たせぬ約束を、わしなんかと結びおって……」
悲しそうな顔で呟くオビコに苑樹が頭を下げる
「すみません、大お婆さまが不誠実なことをー」
カッカッカッとオビコは笑う
「何を言うておる。ヤツが違えたのは、『また勝負しよう』という約束だけじゃ。大元の約定は違えておらぬよ」
「大元の約定…?」
「ああ。『いつか人は闇を恐れなくなる。それはあなたには辛いことかもしれないけど、同時にあなたと寄り添える人が増えてくれることでもある。きっといつかそんな人々があなたとまた勝負して競い合いに来てくれる。その時は、目一杯の勝負をすると人間である私が誓う』とな」
「あ…」
オビコの言葉を聞いた苑樹がリュウを見る
「坊主、名をなんと言う?」
「リュウ、稲葉 竜だ」
「おぬしとの相撲、楽しかったぞ。まだまだヒヨッコみたいじゃがなぁ。ガッハッハ‼︎」
「なにを!?そっちはそのヒヨッコに負けてるじゃないか」
「まぐれというやつじゃ。本気のわしは負けんぞぉ…‼︎」
オビコはリュウの肩をポンポンと叩く
「わしはいつでもこの村の闇におる。またいつか試合おうぞ」
「ー受けて立つ!今度も負けないからな‼︎」
勇ましいリュウの言葉にオビコは微笑む
屋台の持ち手を掴み、オビコは闇へと去ろうとしてふと振り返る
「そうじゃ、そういえば封印が解けてすぐの時に妙なヤツを見たのぉ」
「妙なヤツ…?」
「なんだか珍妙な格好をしたヤツじゃ。慌てた様子じゃったが腹が減っていたのか綺麗にそばを食って『ぜっとさんとべりあろくさん』を見なかったか?などと問うてきおったよ」
《‼︎》
オビコの言葉にベリアロクが反応する
《そいつはどこに行った?》
「心当たりがない、と言ったら大声で礼を告げて駆けていってしまうたわい。確か…あの方向は…」
ぽんとオビコが手を打つ
「ー迷いが森の方向じゃったな」
ベリアロクの使い手が行ったらしい迷いが森
そこは人が惑い、人ならざるものも惑う禁足地
踏み込んだ苑樹は森を彷徨ううちに「過去」へと迷い込む
そこは忌まわしき「継承」の記憶
忘れえぬ玲武の呪いの記憶
惑う苑樹を探すリュウはもう一人の迷い人に巡り合う
惑いの中にリュウは、苑樹は、何を見るのか
次回ウルトラマンイクサ
「迷いが森と戦士の決意」
「オレの、戦う理由はー」