ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

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第22話「願いと或る日の奇跡」

グリーザが撃破されて数週間後

虚空そのものなどという存在が撃破された故か、怪獣たちの出現はほぼなくなり、あっても人間の生活圏から離れた場所で姿だけ見られると言った報告程度だった

 

そんな時期ながらGBCTにもちょっとした変化が起こっていた

 

 

巫女服を纏う上からGBCTの腕章、GBCTパッドと隊員証をホルスターにしまったハーネスベルトを装着した苑樹(えんじゅ)が改めて隊員たちの顔を眺める

 

「改めて、玲武(れいぶ) 苑樹(えんじゅ)と申します。GBCTの皆さん、よろしくお願いします」

 

少し柔和な印象になった笑みを浮かべながら苑樹がぺこりと頭を下げる

 

「まぁそういうことで、苑樹もGBCTに加わってくれることになりました‼︎ ライセンス試験も一発合格だったし、怪獣に関する知識も申し分なし、ランダルや水輝(みずき)、ルシルがいるとはいえ助かるわ」

 

歩夢が苑樹の両肩に手を置きながら微笑む

 

「とはいえ、わたくしは社務もありますからこのベースまで来る日は限られてしまいますが…一応高校での勉強もありますし」

「…え、苑樹って、高校生だったのか…?」

 

苑樹の言葉に側のリュウが意外そうな様子で呟く

苑樹がこほんと咳払いする

 

「通信制ですが、一応これでも高校生ですよわたくしは。今年で17歳ですから」

「オレと4歳違いだったのか…なんか意外だ。もっと大人だとばかり」

「……なんだか複雑な心境です」

 

リュウの言葉に本当に複雑そうな顔を見せる苑樹

 

「……通信制の高校…そんなものもあるのか…」

「そういえば、リュウも学校気になってたわよね?」

「ああ…勉強は今のところ全部独学だったし…」

 

その言葉を聞いた苑樹がリュウに提案する

 

「でしたら、わたくしが授業受けさせてもらってる通信制高校に申請してみますか?入学試験は要りますけど…」

「いいのか…?」

「入試にさえ受かれば資格はあるはずですから」

「なら、頑張ってみる」

 

リュウが少し嬉しそうに頷く

 

それを見ていた歩夢(あゆむ)がふと思い出したように手を叩く

 

「そういえば、明後日12月24日はGBCTも休業日にするわ。怪獣の出現が落ち着いてるし、私たちみたいな組織は休める時に休まないとタイミング見失うからね」

「クリスマスイブ休みもらえるんですか⁉︎ やったぁ!!」

 

水輝が喜ぶながらスケジュール帳を取り出して色々チェックを始める

 

「休み…か……ちょうどよかった…礼もしたかったし」

 

大介は大介で何やら考え始める

その隣でリュウはぱちくりと瞬きをする

 

「休み…とは言ってもやることないし、訓練でもしようかな」

 

そのリュウを見ながら苑樹が何やらソワソワしているのを見て歩夢は苑樹の肩を引き寄せる

 

「な、なんですか歩夢隊長?」

「いやぁ、ちょうど私の知り合いで水族館勤務の子いるんだけど、優待券貰ってて、でも私一人だと使いきれないし…だからー」

 

歩夢が苑樹に水族館の優待券2枚を手渡す

 

「リュウと2人で行ってきたらどう?用事がなかったら、だけど」

 

歩夢から受け取った優待券を見て苑樹は少し照れたような様子を見せる

 

「……ありがとうございます。歩夢さん」

 

それを見た歩夢がニッと笑う

 

「ーしかし、案外あっさり私たちのところに来てくれたわね?」

「案外とは心外ですね。わたくしがまるで頑固者みたいな…」

「ごめん、頑固者だと思ってた…」

 

はぁと苑樹がため息をつく

 

「ーたしかに、わたくしは人類を許すことは大地を裏切ることだと意固地になっていました。何度も過ちを繰り返す人類を大地に生きるものは憎んでいるものが多かった」

 

苑樹は歩夢を見据える

 

「ーでも、ガイアルドやリュウミャクノオロチが認めたあなたを、わたくしも信じてみたいと思っていたのも事実です。素直になるのに、ティグリスやリュウの後押しが要りましたが…」

 

苑樹は自分の胸に手を当てる

 

「改めて、玲武 苑樹としてあなたの信念の手伝いをさせていただきます。よろしくお願いしますね、歩夢さん」

 

柔らかく微笑み告げる苑樹に歩夢も微笑みを返す

 

「こちらこそよろしく、苑樹」

 

ぺこりと頭を下げ、苑樹がリュウに話しかける

 

『みんなの面倒を見るのはまぁいいが、歩夢はなんか休むアテはあるのか?歩夢がぶっ倒れるのが一番ヤバいだろ?』

「もちろん、プランは出来上がってるわよ」

『そうなのか?それならいいけど…』

 

歩夢の終業を告げる言葉と共に各々が久しぶりの休みの予定を組み始めていた

 

スターゲイザーベースの外は澄み渡る夜空が広がっていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

12月24日 来るGBCTの休日

 

「皆さん!こっちこっちー‼︎」

 

五道市(ごどうし)中央地区のあるショッピングモール

薄手のダウンを着た私服姿の水輝が噴水広場の噴水近くで手を振る

 

そこに歩んできていたのは青年と女性、少女の3人組だった

 

「誘っていただいてありがとうございます、水輝さん」

 

青年ーハイルが頭を下げる

 

「いえいえ、せっかくの休日だから皆さんと地球のクリスマスを堪能したいなぁって思いまして‼︎こちらこそ来ていただいて嬉しいです‼︎」

 

「……良かったのか?地球人たちはこの時期、大切な人や家族と過ごすと聞いていたのだが…」

 

女性ールプスが少し寒そうに白い息を吐きながら水輝に問う

あはは、と水輝が頭を掻きながら答える

 

「私、家族の反対を押し切って上京したりしてる身なのと、彼氏とか特にいない身なのでどのみち毎年一人寂しくクリスマスしてたので…」

「………なんかすまない」

 

申し訳無さそうにルプスとハイルが顔を伏せる

 

2人の間のホシが歩み出て水輝の上着の裾を引く

 

「…今日は、ホシたちがいっしょ」

「ホシちゃん…‼︎ ありがと〜」

 

涙ぐみながら水輝がホシにハグする

 

「っとと、それじゃあ早速色々買い出ししましょう‼︎ご馳走に、プレゼント交換用のプレゼントに〜色々と見て参りましょう‼︎」

 

水輝の案内に3人がついていく

 

 

「まさかダイスケからお誘いを受けるとは思わなかったよ」

「そう言われると、なんだか複雑だな…」

 

五道市華岡(はなおか)町の商店街を大介は同じく休みを貰ったルシルと並んで歩いていた

 

「その……この前の岩神(いわがみ)諸島見学の時、色々助言してもらったお礼にな。せっかくのクリスマスだし、何かプレゼントでもしたいと思ったんだが…」

 

照れ臭そうに大介が頬をかく

 

「その……俺、姉ちゃんにしかプレゼントしたことなくて…姉ちゃん以外の女性がどんなもの欲しがるのか分かんなくてだな…」

 

おずおずと視線を逸らしながら告げる大介の様子を見てルシルがしばしキョトンとした様子を見せるが、ぷっと吹き出し笑う

 

「そ、そこまで笑わなくてもいいだろう⁉︎」

「す、すまない……なんとも微笑ましいなぁと思ってしまったんだ。仲がいいんだな、お姉さんと」

「………まぁな」

 

笑いすぎた涙を拭いながらルシルが空を見上げ、一歩前に出る

 

「姉、と聞いたら私も故郷の姉を思い出してしまったよ」

「姉?ルシルにも姉さんがいるのか?」

 

大介の問いにルシルはしばし沈黙を返す

空を見上げるその表情は、大介からは見えない

 

「……正確には、いた、だろうね」

「……それって…」

 

振り返らずルシルが答える

 

「……死んだよ。実験中の事故だった」

 

「姉も、私も、向こうでは科学者で、特に姉は優秀でもあったからみんな悲しんだよ。私も、心の底から悲しかった……」

 

「……すまん、その…無神経なこと言って…」

 

ルシルが微笑みながら振り返る

 

「……ううん、いいんだ。もう姉のことは踏ん切りがついてるから」

 

大介の手を取り引く

 

「ーほら、地球の祝い事を私に教えておくれよ。あのクレープというのは私の星では似たもの見たことない…美味しいのだろうか…?」

 

興味深そうにクレープ屋台を眺めているルシルの様子を見て大介もまた微笑む

 

「そうだな、じゃああのクレープから食べようか」

 

 

五道市星海(ほしみ)町 星海アクアリウム

 

様々な魚たちが泳ぐ大水槽の前にリュウと苑樹は並んで立っていた

 

興味深そうに眺めている苑樹

リュウは水槽のガラスに手を当てて目を輝かせながらかぶりつきで見ていた

 

そんな隣のリュウを見てやれやれと言ったような顔を見せ、苑樹が問う

 

「興味津々ですね」

「ああ……こんなの図鑑でしか見たことなかったから」

 

と、リュウが我に返り申し訳無さそうに苑樹に向き直る

 

「…すまない、オレばっかりなんか楽しんで…」

 

口に手を当てくすくすと苑樹が笑う

 

「本当、すごく楽しそうに見てましたね」

 

水槽に視線を戻し、苑樹が続ける

 

「心配しなくていいですよ。わたくしも、思った以上に楽しめてますから」

 

優雅に泳いでいくエイや大きな回遊魚をみて苑樹がほう、と息を漏らす

 

「……こうして泳いでいる姿、とても絵になるのですね。わたくしもじっくり見るのは初めてでなんだか感動しました」

 

そんな苑樹を見て微笑み、リュウが真剣な顔になる

 

「なぁ…本当に、GBCTに加入してよかったのか?」

「……わたくしの意志でいいって言ったのはあなたですよ」

 

悪戯っぽく苑樹が返す

 

「大地は、怪獣たちは人間に怒ってる。それは、オレにもなんとなくわかる。苑樹や怪獣の怒りは、きっと簡単じゃない話だと思うしー」

 

2人の前を大きなウミガメが回遊していく

 

それを見上げた苑樹が告げる

 

「……知っていますか?ウミガメは、人間が廃棄したポリ袋やプラスチックを誤飲して死んでしまう個体が多いそうです」

「……そうなのか?」

 

驚いた様子で見るリュウの視線を受け、苑樹は続ける

 

「怪獣たちなんて大きな話にせずとも、人間は愚かな行動で自然を壊し、多くの命を奪ってる。それにきっと大地はまた怒っているのでしょう…」

 

苑樹はリュウに向き直る

 

「でも、今そんなウミガメを救おうとする人々も多くいます。飲み込んだプラスチックやポリ袋を摘出したり、海への廃棄を少なくしようとしたり、こうして水族館で保護して生態を研究し人間生活とぶつからない工夫を考えたり……皆が皆ではありませんが、そういう志を持つ人々はたしかに存在している」

 

苑樹はふっ、と微笑む

 

「人は、ほんの少しずつでも愚かな過去を償おうと前に進むことができる。過去のわたくしは、耳を貸そうともしない綺麗事です」

 

「でも、そんな綺麗事をまっすぐ伝えてきて、大地に生きる怪獣たちをも動かした。歩夢さんの意志が本物だったのは、もうわたくしにも伝わっていたのです」

 

「わかっていたはずなのに、わたくしはそれはただわたくしの個人の意志だから大地の代弁者であるために封じ込めていた」

 

苑樹がリュウの胸にとんと指を当てる

 

「ーあなたのおかげです。あなたのおかげでわたくしは、見ようとしなかったことに目を向けられた。向き合おうとしなかったことに向き合えた」

 

「わたくしも、歩夢さんの願いを、意志を信じてみたい。誰も憎み合わない星にしていきたい。これは、本物のわたくし自身の意志です。だから妙な遠慮とか心配は無用ですよ、リュウ」

 

2人の前を小魚の群れが泳ぎ去っていく

小さな影が交錯する中、リュウは安堵の笑みを浮かべた

 

「あなたの質問にも答えましたし、わたくしも質問いいですか?」

「?オレに答えられることならいいけど……」

 

首を傾げるリュウから視線を逸らし、目を泳がせながら苑樹は問う

 

「…何故、リュウはわたくしのことを親身に思ってくれたのですか?」

 

意を決して言葉を紡いだ苑樹に反し、リュウはなおさら首を傾げる

 

「……わたくしは、あなたに対して好意的な態度なんてとってません。むしろ、少し邪険にしていたかもしれない……それなのにあなたは、迷いが森までわたくしを追ってきて、わたくしにあんな言葉もかけてくれた。何故ですか……?」

 

消え入りそうな声で苑樹が言葉を終える

 

リュウは頬を掻きながらなんでもないように答える

 

「なんでって…苑樹、寂しかったんだろ?」

「……は?」

 

思いもよらぬ単純な答えに苑樹は思わず素っ頓狂な声を上げる

 

「小さい頃から怪獣と近くで育ってきたの、オレも同じで。でも、オレはアルマがいてくれて人間のことなんかほとんど知らなかったから寂しいって思ったことなかったけど…」

 

「アルマみたいなヤツもいなくて、怪獣も人間も知ってたら、もしかしてすごく寂しい思いをするのかもって思ったんだ。苑樹、あの村の人とも距離置いてたし」

 

リュウは照れ臭そうに笑う

 

「オレみたいなのには、側にいることくらいしかできないけど、でもなんだか放っとけなかったんだよ」

 

リュウの「答え」を聞いた苑樹はしばらく呆けた様子を見せていたが、はぁ〜と大きなため息をつく

 

「なんともあなたらしい、単純な理由だったんですね……」

「な、なんだよ…単純じゃ悪いかよ」

 

苑樹がリュウの手を握る

 

「悪くなんかありませんよ。わたくしは、そんなあなたに救われたのですから」

 

苑樹はリュウの方を向いてたしかに微笑んでいた

 

「ー責任とってくださいよ、リュウ。あなたのおかげでわたくしは、寂しかったわたくしに気づいてしまったのですから」

「責任……ってのはわからないけど、側にはいるよ。苑樹の側にいるのは嫌いじゃないーいいや、なんだかんだ居心地がいいからな」

 

なんの気なしにリュウが言った言葉に苑樹は頬を赤くする

それを隠すようにマフラーを引き上げてしばらく2人並んで大水槽を眺めていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ん〜最高ッ‼︎やっぱクリスマス限定味でもいい仕事してるわねぇ、狩屋のたい焼き‼︎」

 

五道市金西(こんせい)町端の自然公園

セーターにロングコートと暖かそうな格好をした歩夢がベンチに腰掛け、白いたい焼きを頬張って恍惚としていた

 

『……予定ってこれのことか?』

「これって言うけど、とっても有意義な時間でしょ?美味しいものの食べ歩き。普段はサクッと食べてるからこんなに味わって食べれないもの」

 

口元についた赤い餡を指で摘んで残さず食べながら歩夢が答える

 

『にしても……買いすぎじゃねぇか?』

 

歩夢の座るベンチには紙袋が3つ

狩屋のたい焼きのもの(たい焼きがぎっしり詰まっている)以外に別の店のものが更に2つ並んでいる

 

「え」

『いや、え、じゃなくてだな…』

「ふふうひゃない?ほれふらい」

『いや食いながら喋るなよ…』

 

なんてことを言ってる間になんとたい焼きの袋を食い尽くした歩夢が紙袋を丸めているとふと、妙なことをしている青年が目に止まる

 

コートを着た線の細い青年

その手には何やら複雑な機械が握られており、それをそこら辺に向かって振り回している

 

傍目から見ると何かを探しているようにも見えるが挙動不審そのものだった

 

次の袋を開いて焼き芋を頬張りながら青年の方を注視し始める

 

「……ふぁにひてるのかひら?」

『いやだから食べるか喋るかどっちかにしろよ…』

 

歩夢が青年を眺めていると、青年が機械を振り回しているのが遊んでくれる合図だと思ったのか、そこいらを散歩していた犬たちが主人から離れてわふわふと青年に絡んでいく

 

慌てた様子でオロオロしていた青年が足をもつれさせそのまま芝生に倒れ、遊び開始の合図と勘違いした犬たちがわーっと青年の顔面に殺到してその顔を舐め回し始める

 

流石に見ていられなくなった歩夢は焼き芋を食べ切ると、側にあった枝を拾って声を上げる

 

「はーい、ワンちゃんたち〜取ってこぉい‼︎」

 

ーブンッ‼︎

 

と、芝生の向こうに枝を投げると犬たちもそれを追って走っていく

 

ようやく犬から解放された毛まみれの青年を助け起こす

 

「あはは、助かりました。ありがとうございます…」

 

よだれ塗れになっていたメガネを拭きながら青年が頭を下げる

 

「こんなとこで何やってたの?なんか不思議な機械持ってたけど」

 

歩夢が訝しむように青年を眺めながら問う

 

「えっと、その…少し探し物をしていたんです」

「探し物ぉ?」

「はい‼︎」

 

「僕は、ある怪獣を探しているんです‼︎」

 

興奮気味に告げた青年の言葉にパチクリと歩夢が瞬きをした

 

 

「ま、紛らわしいこと言ってごめんなさいッ‼︎GBCTの方から見たらそりゃあ、怪獣を探してるなんて怪しいですよね…」

 

ベンチに並んで座った青年ー(あらた) 文博(ふみひろ)がまた歩夢に頭を下げていた

 

「いやいや、こっちもいきなり取り調べみたいに問い詰めてごめんね…鈴カステラ食べる?」

「あ、いただきます…おいしいですね」

「でしょ?」

 

先程、「怪獣を探している」なんて言った文博を何やら不審者として歩夢が問い詰めたところ、文博の目的は邪なことではなく、危険物の類は持っていないことがわかった。手にしていた機械もなんらかの測定装置らしいことがわかった

 

本当にとある怪獣を探していただけらしい

 

「それはそれとして…怪獣って…どんな怪獣を探してるのよ?」

 

歩夢からもらった鈴カステラを飲み込み、文博が答える

 

「ユニジンという怪獣です。厳密には、神話の幻獣なので怪獣とは少し違う存在ですが…」

 

「ユニジン…?」

 

当然ながら聞いたことのない名前に歩夢が首を傾げる

 

「はい。ユニジンは時を超えて旅をする幻獣として神話に語られていた存在なんです」

 

文博はユニジンという存在について語り始める

 

「彗星が大きな楕円軌道で宇宙を巡るように、ユニジンは過去と未来を12年の周期で周り、12年に一度の12月24日の夜、ほんの一瞬だけ姿を「現在」に現すんです」

「時を旅して、12年に一度に出現する、ねぇ…」

 

半信半疑というような感じで聞いていた歩夢が問う

 

「…そのユニジンを、あなたはどうしたいの?保護して手元に置きたいとか?」

 

文博は首を振る

 

「そんなことはしません。旅を続けるユニジンを捕まえるのは、かわいそうですから。彼には彼の生きる場所がきっとあるはずですし」

 

文博のそんな言葉に歩夢はふと、岩神諸島見学の時に女子生徒が言っていた言葉を思い出す

 

『なんだか……かわいそう……』

 

と、目を伏せていた歩夢に気付いたのか文博が慌てて手を振る

 

「あ、いや、その…保護が悪いこととは思ってません‼︎ 僕はその、ユニジンの写真だけ、残しておきたくて…」

 

文博は首から下げた古いカメラを見せる

 

「写真…?」

「はい。ユニジンに出会いたいのは、実は僕の恋人の夢だったんです」

 

懐かしむようにカメラを撫でながら文博が告げる

 

「僕と僕の恋人…祐希(ゆうき)は同じ大学の研究室で神話研究をしていたんです。そんな中祐希が5年前に見つけたのがユニジンの伝説でした」

 

「過去の記述をいくつも調べて、ユニジンが実在するかもしれないと知った彼女はユニジンを一眼見ようとユニジンを発見するための研究を繰り返して、この観測機ー時空観測盤と出現の周期を見つけたんです」

 

「へぇ、すごい彼女さんじゃない」

 

歩夢が感心して呟く

文博はどこか寂しそうに笑う

 

「去年、亡くなりました。生まれつきの心臓病が悪化してしまって」

「あ……ごめんなさい、辛いこと思い出させちゃって……」

 

文博は優しく首を振る

 

「いいんです。彼女は、最期のその時までユニジンを一眼見てみたかったと言っていました。僕と一緒に、ユニジンを…」

 

文博は時空観測盤を持ち上げる

 

「彼女の残したこれで探し続けて、五道市のどこかに出現するという予測から毎日毎日しらみ潰しに探していきました。でも、見つからなかった…今日見つからなかったら、もう未練と一緒に諦めようって決めてるんです」

 

寂しそうに笑い、空を見上げる

 

「今日がダメだったら、また12年後ですから…」

 

そんな文博を見て歩夢が立ち上がる

 

「その観測盤貸して‼︎」

「え、えっと…どうぞ…?」

 

おずおずと差し出された観測盤を受け取り、歩夢がそこかしこに振り回す

 

「こういう、日なんだからッ、奇跡の一つくらいー」

 

そこら辺をぴょんぴょんとジャンプしながら歩夢が観測盤を振り回し、自然公園の中央ー大きなモミの木が生えた場所に突きつける

 

「起きなさいよッ‼︎」

 

ーピーッ、ピーッ‼︎

 

と、観測盤が探知音のようなものを上げる

 

それを聞いた文博が血相を抱えて立ち上がる

 

「そ、その音は…⁉︎」

 

同時に広場の中央でバチバチ、と派手な雷鳴のような音が鳴り、一瞬だけ白銀の光と共に翼を持つ「何か」の姿が見えた

 

「なー」

「あれは…‼︎」

 

「何か」の姿はすぐに消えたが文博は興奮した様子で歩夢から観測盤を受け取り、何やら観測盤を見ている

 

「間違いない…ユニジンだ…ユニジンがここに現れる…やっと見つかった…‼︎」

 

喜びの声を上げる文博の背中を歩夢が叩く

 

「奇跡、起こったじゃない‼︎ おめでとう‼︎」

「歩夢さんのおかげです‼︎ 僕や彼女の言葉を、信じて協力してくれたから…」

 

文博はえへへ、と微笑む

 

 

夕暮れに染まっていく空を背景に文博はカメラの整備をしている

その側で歩夢はランダルに通信を取っていた

 

ランダルも仕事を休むように伝え、実際そうしているのだが『一応留守番はいるだろう。アーカイブ資料読んだりとできるここの方が私は休めるから』とスターゲイザーベースに残っている

 

『…そんな怪獣、あり得ない』

 

ランダルはキッパリとそう告げる

 

「断言するわね…」

『過去と未来を回遊する怪獣など…そんな存在がいれば12年に一度だろうが100年に一度だろうが、現れたそばから周りの物体が時空の狭間に落ちていくことになる』

「うぇっ!?そんなことになるの…⁉︎」

『ああ。時空間の整合性を保つための自浄作用…みたいなものか』

 

ランダルは通信越しにそう告げる

 

『……だが、あり得ないものもあり得てしまうのが、怪獣でもあるのもまた事実だ』

「……まぁそうよね」

 

『どうするつもりだ?何か現れた場合は皆にも召集を?』

「いや、大丈夫よ。一瞬だけ現れるだけなら、私だけでもなんとかなると思うし、せっかくの休みを邪魔しちゃ悪いわ」

『お前の休みはどうなるんだ?』

「私はもう十分休んだし、平気よ平気。じゃあ緊急の事態になったらまたかけ直すわね」

 

ランダルとの通信を終えた歩夢はベンチに座る文博の元に戻り、コートのポケットにしまっていた缶コーヒーを渡す

 

今しがた自販機から買ってきたヤツだ

 

「夜も近づいてきたし、冷えるでしょ?どうぞ」

「ありがとうございます」

 

文博は缶コーヒーで手を温めながら自然公園の広場を見上げる

夜闇に包まれ始める空は不思議な色彩を見せていた

 

「……いざとなると、緊張してきました…」

「そりゃあねぇ…一瞬がどれくらい一瞬かわかったもんじゃないもの。これを逃したら、また12年後だものね」

 

文博はカメラを握る手に力を込めている

 

 

19時を過ぎ、夜闇に染まってきた街

 

変化は突然に、静かに起きた

 

キラキラと白銀の粒子を降らせながら、自然公園中央のモミの木の側に白い光を纏う大きな体が降り立った

 

大きな翼を持つ鳥のようなシルエット

それでいてその頭部はどこかサメを思わせるシャープさを感じる

 

ーキュアァァァァ……

 

神話の幻獣 ユニジンが『現在』に降り立ったのだ

 

 

「本当に、現れた…‼︎」

「ユニジンだ…本物だ…‼︎」

 

驚きながら文博は必死にシャッターを切る

 

呆けてそれを見上げていた歩夢はあることに気づく

 

ユニジンは何やらキョロキョロと辺りを見回しているのだ

 

(…?何かを探してる…?)

 

次なる異変はすぐに起きた

ユニジンが羽から放出していた銀色の粒子が触れた電灯がスゥッと空気に溶け込むように消え始めたのだ

 

電灯だけではない、粒子が触れた建物や屋台も消え始めていた

 

「ちょいちょいちょい⁉︎嘘でしょ⁉︎」

『マジかよ…アレ、まさかランダルが言ってたー』

「ど、どうして…⁉︎ ユニジンはすぐに旅に戻るはずなのに…」

 

同じく異変に気づいた文博が顔を青くする

歩夢は文博の肩を掴む

 

「落ち着いて‼︎」

「⁉︎」

 

歩夢の言葉に文博は我に帰る

 

「あなたはユニジンのことをずっと調べてたんでしょ?」

「でも、わからないことも多くて…」

「それでも素人の私よりはよく知ってる」

 

歩夢がその肩を叩く

 

「あの粒子は私たちがなんとかする。頼んだわよ‼︎」

 

歩夢が文博から離れて駆け出し、文博から死角になったのを確認してイクサファーナスを起動する

 

《リンケージ:ウルトラマンイクサ》

 

ーサァァッ!!

 

自然公園の側、ユニジンの正面にイクサが降り立つ

 

『なんとかするって言ったが、どうするんだよ⁉︎』

「幸い、公園には私たち以外人がいない。ならー」

 

歩夢とイクサがホシウミノツルギを掴み、剣身をイクサファーナスに通す

 

《共鳴せよ、2つの魂‼︎》

 

デュアルブレイブの姿に変わったイクサがホシウミノツルギの水の力を解放する

 

《優しき水‼︎》

 

ーサァッ…‼︎

 

イクサがホシウミノツルギで空に円を描く

 

それと同時に公園の周辺をぐるりと囲むように水の壁が出現し、光の粒子を防いでいく

 

ーサァァ…ッ‼︎

 

ホシウミノツルギを横に構えるイクサが悲痛な声を上げる

 

『ただの粒子なのに…‼︎ なんつー重さだ…ッ‼︎』

 

 

光の粒子を防ぐイクサの足元、文博は必死に頭を回していた

 

「考えろ、考えろッ‼︎ユニジンは何を探してる…?」

 

「過去の伝説の中でユニジンは姿を現しても何かを食べたり持ち帰った記述はない……すぐに去らずに残った記録はいくつかあるけど、それも参考になる記載はなかったし……」

 

ふと、文博は思い至ることがあった

 

「……なんでユニジンは、この場所を選んだんだ…?」

 

ユニジンは12年に一度「現在」に降り立つ

 

何故ユニジンは12年に一度の機会をこの場所にしたのか

 

その時文博はあることを思い出す

 

「ここは、この公園は…‼︎」

 

文博はユニジンの足元へと駆け出した

 

 

ユニジンの足元にたどり着いた文博の前に1人の人影が、淡い光に包まれて立っていた。こんな真冬なのに白いワンピースだけを着た女性だった

 

それを見た文博が驚きに目を見開く

 

「祐希……」

 

そこに立っていたのは、亡くなったはずの文博の最愛の人だった

 

『久しぶり。文博』

「祐希…祐希なのか…⁉︎」

『ええ、本物よ。魂だけになっちゃったけどね』

 

2人をユニジンが見下ろし、祐希がそれを見上げる

 

ーキュアァァァァ…

 

『ユニジンはね、旅の途中で拾った時間軸から溢れた願いや想いをあるべき時間に返して回ってるらしいの』

 

『死んでからわかっちゃうこと、あるんだね』

 

祐希が力無く笑う

 

『文博、約束覚えてる…?』

 

祐希の問いに文博は溢れ出る大粒の涙を拭いながら答える

 

「……ユニジンに出会えたら、2人の一生の思い出にしよう、だよね。もちろん覚えてるよ。忘れるはずがない」

 

文博は三脚にカメラを固定し、タイマーをセット

後ろのユニジンも映ることを確認し、ユニジンの前にいる祐希に並ぶ

 

『文博』

「…祐希、どうしたの?」

『泣き虫なの、変わってないね』

 

祐希が文博の涙を拭う

 

『でも、優しいところと、必ず約束を守ってくれるところも、変わってない。私の大好きな文博のまま』

 

祐希は文博の腕を組んで引き寄せるとカメラに向かって腕を突き出す

文博も一瞬呆気に撮られていたが、祐希に負けないくらいに笑う

 

ーカシャリ

 

とカメラのシャッターが下された

 

 

ーキュアァァァァ…‼︎

 

ユニジンはイクサに向かってひと鳴きし、頭を下げるとそのまま地上を離陸

 

少しだけ空に浮かび上がると同時にその姿を白い粒子として消滅させた

 

同時に粒子に触れ、消えかけていたものたちも元に戻っていくくる

 

『……ったく人騒がせな怪獣様だぜ』

「ほんとね…」

 

あはは、と歩夢が笑う

 

ユニジンが去った空を見上げてイクサは続ける

 

『……でもまぁ、たまにはこんなのも悪くねぇな』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ユニジンが去っていくその瞬間

神話の幻獣は、もう一つクリスマスプレゼントを残していった

 

 

『…ん?』

 

書類の整理やアーカイブの閲覧をしていたランダルがふと、窓の外を見る

 

『……こんな高高度で…こんなものが…?』

 

あり得ない、と呟きかけたがその言葉を引っ込める

 

『…たまにはそんなことも、あるのかもな』

 

 

「きれい…‼︎」

 

水輝のアパートの一室、クリスマスパーティをしていたホシが窓の外をジッと見つめていることに水輝やハイルたちが気づく

 

「これは…地球の気象現象…?」

「はじめて見ました…」

 

ルプスとハイルが感嘆の声を上げる中、水輝も目を輝かせる

 

「すごい…‼︎五道市でも久しぶりですよ、こんなの‼︎」

 

 

アクアリウムからの帰り道、サメの縫いぐるみを抱いた苑樹とアザラシのまんまるなぬいぐるみを抱えたリュウも空から舞い散るものを見て足を止める

 

「ホワイトクリスマス、ってヤツか」

「あら、よく知ってますね」

 

意外そうに苑樹がリュウの顔を見る

 

「ああ、本で見たことあるだけだったんだ…‼︎」

 

そこから先は言わずとも

リュウは子供のように目を輝かせて舞い散るそれを雪を見つめていた

 

「…それは、いい夜になりましたね」

 

苑樹が微笑み、リュウと共に立ち止まって空を見上げる

 

 

金西町の自然公園

 

ベンチに座る文博の下に歩夢が戻ってくる

 

「ふわぁ…粋なことするわね、ユニジンも」

 

降りしきる雪を見上げて歩夢が白い息をこぼす

 

それを見ていた文博が歩夢を見上げて声をかける

 

「……歩夢さんたちのしている怪獣保護、すごいと思います‼︎」

「…薮から棒に何よ…?」

「ユニジンは、旅を続けることがきっと幸せで、祐希もそれに救われてるけど、でもー」

 

「歩夢さんたちが保護してくれたから、生きられる怪獣たちもきっといると思うんです…‼︎」

 

文博の言葉を聞いた歩夢はぱちくりと瞬きをする

 

しばらく反芻し、その言葉が自分のモヤモヤに向けられていたことに気づく

 

「文博さん……」

 

文博はカメラを手に頭を下げる

 

「ありがとうございました、歩夢さん。それに、ウルトラマンさん」

 

それだけ告げた文博は、カメラを大事に抱えて去って行った

 

 

「…やっぱバレてたか」

『そりゃそうだろ。ったく、不用心にも程があるだろ?』

 

あはは、と歩夢が乾いた笑みを漏らす

 

降りしきる雪をまた見上げて歩夢は微笑む

 

「まさか、あんな青年に肩を押されるなんてね」

 

パンパンっ、と頬を叩く

 

「ー私は私の全力を頑張る。頑張っていかないとね」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

小高い丘の展望台でルシルと大介は白い雪の降る街を見下ろしていた

 

「綺麗だな…」

「ああ…この星にもこんな綺麗な雪が降るんだな」

 

そう告げたルシルを大介が横目で見つめる

 

「それ、早速役に立ったな」

「ああ、とても暖かい。それに綺麗なデザインだ」

 

ルシルは大介からのプレゼントー青と白のチェック柄のマフラーを大事そうに撫でる

 

「リンケイド星も、雪が降るのか?」

「降るとも。大気中のチリの成分で、私たちの星には赤と黄色の雪が降る。地球の白い雪とは風情こそ違うが、幻想的で私は大好きな景色だった」

 

懐かしむように優しくルシルは微笑む

 

「雪の日、翡翠の海水が満ちる海、2つの月が浮かぶ空…リンケイド星も、地球に負けず劣らないいい星だ」

「そうか…一度、見てみたいな、ルシルの故郷」

 

大介の言葉にルシルはぎゅっと手すりを握る

 

「ーダイスケ、キミはこの星が好きか?」

 

「……なんだよ、急に…?」

 

ルシルは振り返らない

真剣な問いであることを察した大介はしばし思考して答える

 

「……他の星と比べようがないけど、でもやっぱり俺はこの星が好きなんだと思う…怪獣たちのこととかも、最近は嫌いじゃないし、何より歩夢隊長たちや姉ちゃんたちもいるしな」

 

「そうか…良かった…それが聞けて」

 

「……なぁ、ルシー」

 

ービシュンッ

 

異音

 

一瞬何が起きたか分からなかった

 

大介が次に認識したのは、左脇腹の鋭い痛み

恐る恐る手を当てると脇腹には血が滲んでいた。べったりと指に血が付着する

 

よろめき、膝を突く大介

 

見上げた正面

 

そこに立つルシルは、無表情で立っていた

 

その右手にシャープな形状の銃を握って、銃口をこちらに向けて

 

「ルシ、ル…?」

 

痛みと出血で薄れていく意識の中、ルシルに這い寄ろうとする

が、力付き大介は倒れる

 

それを冷ややかに見下ろし、ルシルは銃をしまう

 

「ーさようなら、ダイスケ」

 

 

雪の降る夜道をゆっくりと歩きながらルシルは巻いていたマフラーを脱ぎ、襟元のスイッチを押す

 

着慣れた地球の服が、リンケイド星で着ていた黒いコートのような服に変化する

 

マフラーを持ったまま薄く積もった雪に足跡を残しながらルシルが口を開く

 

「赤と黄の雪、翠玉の海、双月の夜空……懐かしく美しい、愛しき故郷。姉さんと私が愛した故郷……」

 

微笑みを真剣な顔にし、ルシルは呟く

 

「……もう、繰り返さない。繰り返させない。それが、私の生きる意味だから」




ルシルがエルシアを残し姿を消した

そこに現れたのは最後の天体リプロダクトマシン

雷を放ち、大地を穿つフルメン
それを見たランダルはマシンたちの「目的」を悟る

次回ウルトラマンイクサ
「真実と天体の再生」
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