「はぁ、はぁ……ッ‼︎」
だくだくと血が溢れる左目とこめかみを押さえながら
(くっ、まだ傷の痛みとダメージが……)
(あの乱入者……妙な予感……早く皆様に……)
貧血で揺らぐ意識の中、目の前に黒いスーツを纏う人影が現れる
「……あなた、は……?」
苑樹が意識を手放し、倒れる
その小さな体を黒スーツは見下ろしていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ルテミア…おい、オレだよ、イクサだ……お前ならわかるだろ⁉︎」
かたかたと体を揺らすルテミアはその声に応答しない
「ルテミア……」
「無駄だよ。それはもう死んでるのをいじったんだから」
くっくっと笑いながらガウルは告げる
「お前を追って戦士の頂に登ったらしいが、ウルトラマンではなくグルジオの力を授けられたらしい。それでも怪獣たちを狩ろうと狂気に抗いながら力を振るい続けた」
「だが悲しいことに狂気に飲まれて完全に怪獣化し、怪獣の群に襲われて死んだのさ。グルジオになったままで、なぁ」
歩夢の肩を突き飛ばし、ルテミアと離してからガウルは歩夢、イクサに顔を寄せて嗤う
「ーまぁ、怪獣をけしかけたのは私だがなぁ。あいつの負傷した仲間がいる街に放って、目の前で仲間から八つ裂きにして、完全に狂乱して怪獣化したのは……面白い見せ物だったよ」
ガウルの言葉に歩夢が顔を伏せ、拳を握り肩を震わせる
「お前は……お前たちは、どこまで……ッ!!」
ガウルはくすくすと肩を揺らして笑う
「まぁそう焦るなよ。毒が回りきるまでは3日ほど猶予がある」
パチン、とガウルが指を鳴らすとルテミアが黒い大型の円盤デバイスと一枚のクリスタルを取り出し、その中央にセットする
【狂化!!グルジオアンタレス!!!】
それを正面に構えて三度両側に引くとデバイスを中心にエネルギーの奔流が噴き出し、ルテミアの体が黒い光球に変化
ガウルたちの後方に飛来して赤黒い光の柱を屹立させてグルジオアンタレスの姿が顕現する
「ーッ」
それを見た歩夢はギリと歯を噛み締めながらイクサファーナスを構える
《リンケージ:ウルトラマンイクサ》
ーサァッ!!!
光から現れたウルトラマンイクサの飛び蹴りがグルジオアンタレスに直撃したかに見えた
が、その蹴りはグルジオアンタレスの右手に掴まれ、その脚を軸に振り回され地面に叩きつけられる
ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥッ!!!
グルジオアンタレスは咆哮し、首や背中の機構のハッチを展開、大量のミサイルを発射する
そのミサイルの雨を掻い潜ってイクサはグルジオアンタレスに組み付く
『頼む‼︎答えてくれルテミア!!オレは、オレはお前と戦いたくない!!目を覚ましてくれよッ!!!』
ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥッ!!!
しかしイクサの声は届かず、グルジオアンタレスは右手の鋭い爪に紫のエネルギーを迸らせて引き裂き、左腕のバルカン砲を乱射。イクサの体を吹き飛ばす
「ハハハハハハハハハハ!!!無駄だよ、むーだ!!!その女にもう自我なんて無い!!私が脳内に埋め込んだマイクロチップの命令に従って動くだけの人形だからなぁ!!!」
ダメージを受けた体を押さえながらイクサが立ち上がる
『ルテミア……‼︎ なんでだよ……ッ!!』
イクサの悲痛な叫びの中、歩夢が静かに口を開く
「ーグルジオアンタレスを、倒しましょう」
『ー歩夢、何言ってんだ……?』
歩夢の予想外の言葉にイクサが呻く
「もう既に死んでいるなら、助けられないなら、いっそ楽にしてあげたほうがいい。そうじゃないの…⁉︎」
歩夢は、あの歩夢が、「ルテミアを見捨てる」と言ったのだ
『そうかもしれないけど、まだ助けられるかもしれないんだッ‼︎まだ、まだオレは諦められねぇ!!』
「助けられないかもしれない方が高い可能性なら‼︎ まだ救える、まだ生きてるルシルたちを助けなきゃー」
『だから、だからオレの仲間はもう倒すって言うのか…⁉︎』
イクサの言葉に歩夢がハッと顔を上げ、目を泳がせる
「……私は……なんて……」
【ー死んだ宇宙人なんか見捨てる……いい選択じゃない。何を躊躇う必要があるの?】
「ーえ」
【面識も無ければ助ける価値もない。なら、今生きてる命のために全力を出す、それが「私」でしょう?】
「ッ、滅多なこと言わないで⁉︎」
突然叫ぶ歩夢
『歩夢⁉︎ 誰と話してんだ…?』
「誰と、って……」
ーグァァァァアァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!
余所見したイクサにグルジオアンタレスが組み付き、爪撃が何度も叩きつけられ、続けて紫のエネルギーを結集させた尾撃がイクサに打ち付けられる
ーサァ…ッ!!
その尻尾をなんとか掴み、手繰り寄せてグルジオアンタレスの肩を再び掴み向き合わせる
『ルテミア…‼︎頼むから、止まってくれ…ッ‼︎元の、お前に…』
ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
もがくグルジオアンタレスを山肌に押し倒し、イクサが呼びかけ続ける
そのイクサの背中に数発のミサイルが突き刺さった
『ぐぁっ!?』
ミサイルだけでなく、他にも地上から攻撃が加えられ、怯んだイクサをグルジオアンタレスが蹴り飛ばす
「何よ…この攻撃どこからー」
周りを見渡したイクサ・歩夢の目に映ったのは
旋回するハウンダー小隊と戦車、歩兵部隊
特殊自衛隊の部隊たちだった
「ーなんで、なんで特殊自衛隊が私たちを……⁉︎」
驚くイクサに更にハウンダーからミサイルが降り注ぐ
誤射ではない。確実にイクサを狙っている
「そりゃ当然だろう?私が作ったグルジオアンタレスだが、こいつは私の兵器じゃない」
心底愉快そうな笑みに顔を歪めながらガウルが告げる
「ーこいつは、特殊自衛隊が運用する兵器だからなぁ」
「ーは?」
ガウルの言葉が信じられず、歩夢が呆ける
だが、それが事実なら現状の全てに説明がつく
怪獣であるグルジオアンタレスではなく、イクサが優先して攻撃されていること、グルジオアンタレスの出現に特殊自衛隊が警戒を向けていなかったこと
ハウンダーや地上部隊からの攻撃を防ぐイクサ
相手が人間である以上、後退する他なかった
「ハ、ハ、ハ‼︎ 信じられないなら、特殊自衛隊に、私にこれを発注した
グルジオアンタレスが器用に右手でガウルを掴み上げる
『ーッ、待て!!!』
「鬼ごっこと行こうじゃないか、ウルトラマンイクサ。3日以内に私たちを捕まえて、グルジオアンタレスの心臓を奪えたらお前たちの勝ち、だ」
「まぁ、どう足掻いてもお前たちには不可能だろうけど、なぁ」
止まない特殊自衛隊からの攻撃を避けるために、元の姿に戻り消えるしか選択が無くなったイクサの消失を見届け、ガウルはニヤリと愉快そうに笑った
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
GBCT地上基地
「スターゲイザーベースが……墜落……?」
保護したサルファルドを運搬し、格納庫兼収容ベースでその体調検査やら保護作業を行っていた
ざわざわとそれぞれ報告を聞いた機関員も騒ぎ始める
「……ランダルさんは…艦に残った機関員の人たちは、脱出したんですよね!?」
水輝の言葉に報告員は唇を噛み締めながら首を横に振る
「……脱出艇は確認できず。地上からの砲撃の爆風に飲まれた後は、破片すら残らなかったようです。ランダルさんも、残った機関員20余名も、皆死亡したと思われます……」
それを聞いた水輝がよろめき、作業台に背中をぶつけ、脱力してへたり込む
「協力者のハイルさん、ルプスさん、ホシさんが帰還しました‼︎ 負傷者、及び負傷怪獣あり!!怪獣、識別名エルシアとルシル隊員は共にバイタル不安定出血多量‼︎大介隊員とリュウ隊員は意識ははっきりしていますが、両名とも重傷です!!」
機関員の報告に水輝が顔を上げ、駆け出す
格納庫の入口にいたのはGBCTヘラクレスが運んできた大量の血を噴き出しぐったりとしたエルシアと、マニピュレーターに抱えられたルシル。どちらもぐったりとしており、ルシルは青い血がだくだくと噴き出す脇腹を押さえて苦痛に顔を歪めている
「エルシア……ルシルさん!?」
駆け寄る水輝にコクピットからハイルに肩を借りて降りてきた大介が気づく
「水輝、隊員…無事でよかった……ッ‼︎」
「大介さん…‼︎どうしたんですか、何がー」
大介の血の滲む腹部を見てその体を支えながら問う
「俺は、大丈夫だ……早くルシルを、リュウもかなり危険だ…」
隣でルプスがおぶったリュウも荒い呼吸を繰り返し、痛みに顔を歪めている
「……それよりも早く、ランダルさんにも状況をー」
「ーッ」
大介の言葉に水輝が言葉を詰まらせる
「………ランダルさんは、死亡したと報告されました…」
手にしたタブレットを握りしめながら水輝が答える
「……は?なんだって……」
「スターゲイザーベースが墜落。地上からの怪獣の砲撃で、残骸一つ残さずに消失しました……機関員の皆さん20余名とランダルさん、その全ての脱出は……絶望的です」
水輝の言葉に4人が一様に息を呑む
「なん、だって……」
「嘘、だよな…?そんな…こと……」
「そんな……そんなこと……」
「………」
信じられない、と言った様子の4人に水輝が首を振る
「……私も、観測班さんからの映像を、確認しました……」
水輝の頬を涙が伝う
「……私だって……嘘だと、信じたかった……」
顔を押さえ、肩を揺らす水輝を大介たちは呆然と見守ることしかできなかった
「怪我人を、こちらに‼︎」
運ばれてきたベッドに大介、リュウ、そしてルシルが寝かされ、医務室へと運搬される
その直前にリュウが出血する腹を押さえながら問う
「苑樹は……苑樹は、まだ帰ってないのか……?」
「苑樹ちゃん?……まだ帰ってきてません…‼︎」
リュウの問いに水輝が血相を変えて立ち上がる
その時だった
エルシアと共にヘラクレスが運搬され、開けた入り口付近に2台の黒いトラックが停車する
「苑樹っちゅう子なら、無事じゃ。ワシが拾って今ここでワシの部下が治療しよるけん、すぐにそちらの医務室に運ぶわ」
先頭のトラックの座席から降りてきたスーツの人物が独特の言葉遣いで答える
「あなたは……
「いよう、久々じゃなぁ水輝の嬢ちゃん」
現れたのはヴィクターB班室長にして歩夢の幼馴染でもある科学者、
「なんで永嶺さんが……⁉︎」
「説明は後での。それよりもー」
キョロキョロと見渡していると格納庫内の大型モニターの映像が外の監視映像から切り替わり、特殊自衛隊司令官の大紋 黒斗とその隣に並び立つ
「……ちと、面倒なことになりそうでのぉ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「五道市にお過ごしの皆さん、突然の放送をお許しください」
黒斗が静かに告げる
黒斗と湯田の映る放送は特殊自衛隊からの緊急会見として五道市中に放送されていた
「先程出現した謎の機械群たちはGBCTの実働部隊が怪獣の保護と並行して対処していましたが、GBCTの隊員たちは怪獣の保護を優先。周辺や市街地への被害を看過した上で保護を強行し、更なる被害を発生させることが予期されました」
淡々と告げた黒斗に代わり、側から前に出た湯田が手を広げながら続ける
「その被害予測を受け、我々特殊自衛隊がヴィクター社と開発した新兵器を用いた殲滅作戦を実行、怪獣と機械群の殲滅に成功しました‼︎」
新たな映像に切り替わり、映し出されたのはエルシアとυレナトゥスをその鋭い尾で貫くグルジオアンタレスの姿だった
「ご覧ください‼︎ この漆黒の怪獣こそが、我々が怪獣災害や侵略者に対応しうる新兵器‼︎ 機械改造怪獣・グルジオアンタレスなのです‼︎」
「制御系に侵略異星人より確保した怪獣を操るシステムを利用したことでヴィクターと特殊自衛隊は怪獣の思考を掌握し、コントロールする技術を得ることができた‼︎」
「初陣において、ウルトラマンすら苦戦していた怪獣を撃破したこの改造怪獣は、今後我々の作戦の中で大きな役割を果たしていってくれるでしょう」
湯田が襟首を直しながら真剣な顔になり続ける
「ーそして、誠に遺憾ながらある事実が本作戦より明らかになってしまいました……」
映像が切り替わる
新たに映し出されたのは、グルジオアンタレスに組み付き、その体を押し込んだり反撃したりするウルトラマンイクサの姿だった
「ご覧ください、皆様。我々が怪獣討伐の支援として助力したグルジオアンタレスに、かのウルトラマンは攻撃を加えてきた!!!あの怪獣の撃破の完了後は停止し、敵意などないと表明していたというのに‼︎」
「我々はこの国の平和のため、あらゆる懸念を検討し、その対抗手段を考えてきていました。その疑念の一つが今、証明された!!」
「ーウルトラマンは、我々の味方などではなく、敵となる存在だったということです!!!我々として力の限り支援したこのグルジオアンタレスを攻撃したことが、何よりの証拠だ!!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……何を、言ってるんですか……⁉︎」
湯田の演説をモニターから聞いていた水輝が目を見開く
それを共に見ていた駿河が目を細める
モニターの中で湯田は机をバンッと手を突く
『彼らの強大な力は怪獣を退け、結果的に我々の力となってきた。ですがそれは、単に大きな力を攻撃する彼らの習性でしかなかった!!』
『ならば、我々が防衛のために大きな力を手に入れれば、怪獣よりも我々にあの巨人は矛を向けるだろう!!』
興奮しながら熱弁する湯田を下がらせ、黒斗が代わる
『我々特殊自衛隊は、これらの理由からウルトラマンー識別名称・ウルトラマンイクサ、及びウルトラマンテラを排除対象として指定。次なる出現時には、全力を以てこれらの排除に注力することを報告しておきましょう』
黒斗は更に驚愕の言葉を告げる
『ー並びに、これらウルトラマンを友好的な存在と明言し、その助力をした挙句、一部侵略異星種族を匿っていたGBCTを著しくその使命を履き違えていると判断し、稲葉 歩夢隊長は拘束。以下隊員たちの資格を剥奪し、GBCTの解体統合を行うことをここに宣言しましょう』
「なー」
「……やっぱりなぁ」
黒斗の発言に慌ただしく作業をしていた機関員たちも驚きと不安の声を上げていく
「総員、その場を動くな‼︎」
騒然とする地上基地内に特殊自衛隊の機動部隊が突入してくる
「侵略種族への加担疑いが確認された諸君らGBCTは解体。この施設は我々特殊自衛隊のものとして統合される」
先頭の隊員が告げる
「そんな……なんの権限があってそこまで!?」
「黒斗司令の命令だ。元より、GBCTは特殊自衛隊より分化した別部門として国防省の特例によりその存在が認められていたが、このような火急の背信行為により、国防省側もその資格剥奪を了承している」
「……ッ!?」
予想外の厳重極まる措置に水輝が言葉を失い、呆然とする
「ー篠宮 水輝隊員だな?あなたの身柄も一時拘束が指示されている」
隊員が水輝に手を伸ばす
その手を何ものかが蹴り上げた
「ぐっ!?」
乱入してきた何ものかは更にその隊員を突き飛ばし、バランスを崩させる
「今じゃ水輝隊員!!はよこっちに!!」
駿河が引き連れてきたトラックのコンテナを開け、ハイルたちに大介やリュウ、ルシルの横たわるベッドを搬入させながら手招きをする
目を白黒させながらも水輝は駿河言葉に従い、頭を庇いながらトラックのもとに向かう
「対象が逃亡した‼︎ゴム弾による鎮圧を許可する‼︎撃てぇっ!!」
先頭の隊員の指示で部隊の隊員たちが銃を構え発砲。駿河や水輝にゴム弾が迫る
「ったく、横暴だなぁこの星の連中。ミステラー星の過激派よりヤバいよ」
パチンッと指を鳴らす音が響くと共にゴム弾が空中で制止する
「なッ!?」
その指の持ち主は大介たちが運び込まれているトラックとは別のトラックから覗いていた
「リーダー、こいつら飛ばしてもいいんだよね?」
「お手柔らかにやるならの。手加減はせぇよ」
「あいよ」
何者かが指をぐるりと回す
瞬間、特殊自衛隊機動部隊たちの景色が変化しザブンと着水する
「ー!?」
目を白黒させながらも機動部隊たちが慣れた動作で陸地に上がる
何故か機動部隊たちがいたのはGBCT地上基地の近くの川だった
「す、駿河さん、これは!?」
「話は向こう着いてからのぉ。あんま道中くっちゃべってたら追いつかれたらかなわん」
驚く水輝を助手席に乗せ、トラックを発進
残るもう一台のトラックの助手席から顔を覗かせた少年が運び込まれていたエルシアを睨むと、その姿も一瞬で消える
「リン、もういいよ。リーダーについていこう」
車内に戻った少年が運転席のスーツ姿の女性ーリンに告げ、リンは頷くとトラックを発車させ、駿河たちの後を追う
トラックたちが到着したのはどこかの山間部
走行中の助手席から見えた空に何機かドローンが浮いてるのを水輝は見つけていた。どうやらジャミングドローンらしい
「とりあえず無事到着。まぁここまでくりゃ安心じゃろ」
開けた場所に駿河たちがトラックを停める
「あ、あー……146875、ワシじゃ。1番昇降機に停めた」
トランシーバーで何やら連絡した駿河通信が終わるとほぼ同時にズンッとトラックが揺れ、地下へと下がっていく感覚が車内に発生する
「あの…永嶺さん?ここは……」
水輝の問いにニッと笑って駿河が答える
「決まっとろぉ。男児の憧れ、秘密基地じゃあ‼︎」
「………は?」
「なんじゃ、ノリ悪いのぉ……」
駿河がぶーと唇を尖らせる
「……ノリなんか、今乗れませんよ……」
水輝が顔を俯かせながらか細い声で告げる
「……湿っぽいのぉ。そんな顔しとったら歩夢が帰ってきたら怒鳴られても知らんぞぉ?」
「……歩夢隊長ぉ……」
そうこう話しているうちに地下最深部へ到着。トラックから降りる駿河に促され、水輝も降りる
正面に広がっていたのは地下に建設された大きな構造物とその入り口らしき機構だった
「ここは……?」
「言ったじゃろ、秘密基地」
「それじゃ伝わらないよリーダー」
隣に停めたトラックから降りてきたスーツ姿の少年が告げる
その隣にはスーツ姿の背の高い女性が並ぶ
「ああ、遅くなったが紹介しとくわ。こいつはヴィクターB班メンバーのデイズ。サイコキノ星人でこう見えても一応成人らしい」
「こう見えてもは余計だバカリーダー」
「あっちはリン。めっちゃくちゃ静かなヤツじゃけど、有能な技術者じゃけん、まぁこっちもよろしく」
駿河の紹介に頷き、リンが手を水輝に差し出す
「
「あっ…よ、よろしくお願いします……」
無表情ながら握手を返す水輝に凛が頷く
「大介隊員やらの怪我人はさっさと病室に運ばんとな。頑固ジジイの気が変わらんうちに…」
《頑固ジジイとは言ってくれるな、若造》
館内放送のようなものとして老獪な声が響く
《さっさと患者を搬送しろ。
「地下の穴蔵で暇しとるヤツが何言うとんじゃ…」
後頭部をかきながらも駿河はリンとデイズに大介たち4人の搬送を頼み、了承した2人が大介たちのベッドを基地から現れた数人と協力して運んでいく
「そろそろ説明をください…ここは一体…?」
「ん?ああそうじゃな。ここはワシらB班の秘匿地下施設。ワシが徹底的に身辺検査して認めたヤツしか入れん施設じゃ」
「そっちの副隊長ーランダルと話し合って『万が一』のために整備しといた。まぁ……万が一なんぞ起こらん方が良かったんじゃがのぉ…」
駿河が渋い顔でそう告げながら水輝を先導し、基地内に入っていく
メンテナンス用の格納庫などを見下ろしながら到着した一室は厳重な扉に似合わず、古いアパートの一室のような座敷になっており、地下であるにも関わらず窓が付けられ、夕陽が差し込んできていた
「まぁここでゆっくりしとき。色々あって疲れてとろぉ?」
ちゃぶ台の座布団を示し、水輝を座らせた後にレトロな冷蔵庫から缶のお茶を取り出してストローを刺して渡す
『メトロン茶を勝手に飲むなと前にも言ったはずだが?』
部屋に入ってきた新たな人物が声を上げ、駿河手から缶のお茶ーメトロン茶を奪いストローを刺しながらちゃぶ台を挟んで水輝の正面に座る
突然現れたその人物に水輝は驚き、呆けた顔を見せていた
「あ、あなたは…?」
現れた人物は明らかに地球人ではない風体をしていた
赤い体と一体化したような流線型の頭部、黄色い目とその下に並ぶ黄色い発光体。青い体の上から白衣を纏うそれは慣れた仕草で座布団に胡座をかいて座る
『…今更宇宙人の1人や2人驚くことではあるまい』
「いや、それはそうなんですけどやはり驚くというか…」
メトロン茶を少し飲み、卓上に置きながら異星人が水輝を見る
『儂はメトロン星から来たガルブ。医師をしている』
「お医者……さん…⁉︎」
バンッと水輝がちゃぶ台に手を突く
ガルブはそれを察知しており、メトロン茶をさっとちゃぶ台から浮かす
「じ、じゃあ、ルシルさんたちも!!!」
『それが儂の仕事だからな。もう看とる』
メトロン茶を飲み干しながらガルブが告げる
『…酷なことだが、あのリンケイド星人の娘と怪獣は難しいかもしれん。地球人3人の方はすぐにでも治療に移れるが』
「ーッ」
そうではないか、と思っていたとはいえガルブの言葉に水輝が言葉を飲み込む
『娘と怪獣の方の体から検出された毒素、アレが儂の持つデータベースのどれとも合致しない。恐らく何者かのオーダーメイド、故に解毒の方法を今から見つけて…では間に合わない可能性が高いのだ』
その言葉を聞いた水輝は一度顔を俯かせる
が、意を決したように顔を上げ、ずっと抱えていたノートパソコンを開き何やら操作をしていく
『…何をしている?』
「…ガルブさんがガルブさんの仕事をしたように、私は私が今できる仕事をします…‼︎ 毒素がわからないなら、ランダルさんが残していた怪獣たちのデータベースから…‼︎」
『無理だ。医者の儂さえ、現状の症状を和らげるくらいしかできん。それも精々3日保てばいい話だと言うのに、簡単に対処法などー』
「諦めたくないんです!!」
水輝が声を上げる
「無駄かもしれない、無理かもしれない……でも、でもまだ生きてるなら、私たちは諦めない。諦めたくない……ッ‼︎」
「……歩夢隊長やランダルさんがここにいれば…絶対、そう言ってみんなの背中を叩いてくれる…だから今は、私が精一杯をやるんです‼︎」
そう告げた水輝を見てガルブは一時沈黙し、そのパソコンの横に一本のUSBを置く
『今のところの簡易的な診断データだ。今から血液検査も行う。他に必要なデータがあれば言え』
『患者のデータ化も、医療を心得ている者の仕事だ』
「ガルブさん……」
水輝が目元を拭いながら頬を叩く
「ありがとうございます…‼︎では、取れるだけの細胞・組織のデータをお願いします‼︎ しらみ潰しに調べていかないと……」
『全く、人使いの荒い話だ……だが、気持ちのいい言葉だ。できうる限りのデータを分析して提供しよう』
水輝の言葉を受け取り、ガルブが立ち上がる
「ーやっぱええ仲間見つけとるのぉ…さすが歩夢じゃ」
部屋の壁に寄りかかりながら呟く駿河の肩をガルブが叩く
『お前も働け若造。あの異星種族3人を含む動ける5人には地球人3人の処置を頼んでいる。儂が叩き込んだ心得のあるお前もそちらで応急処置に参加しろ』
「へいへい…もちろん働くわ」
ガルブが部屋から去るのに続きながら駿河が呟く
「……こんな時にその歩夢は、何しとるんかのぉ…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
特殊自衛隊基地 司令執務室
デスクに向かい、書類仕事を続ける黒斗
その正面の入り口の戸が勢いよく開けられる
「……ノックくらいしたらどうですか?歩夢隊長」
息を荒げながら部屋に入ってきた歩夢を冷ややかに見つめ、黒斗が告げる
傷だらけの身で肩を庇いながら入室した歩夢は黒斗をまっすぐ睨む
「黒斗……」
「……あなたからこちらに出向いてくれるとは、好都合でしたよ。放送は聞いていただけましたか?」
「聞いたわ。それもだけど……どういうつもり…?怪獣を改造して兵器に転用するなんて…⁉︎」
歩夢の怒りが籠った言葉を黒斗は鼻で笑って嘆息する
「ー利用できるものは、利用したまでですよ。宇宙怪獣は外来種、ならばより有用に使うのは悪いことではないでしょう?」
黒斗は冷徹に淡々と告げる
「だからと言って……だからと言って、命を弄ぶようなやり方をしていい理由にはならない!!!」
「あなたたちがやっている保護が、いつまで続くというのですか?」
黒斗は更に嘆息し、歩夢を見据える
その目は酷く冷たいものに見えた
「怪獣はその巨体故に害を為し続ける。ならば保護などと生温い事は必要ない。先の一件で私はそう結論付けたまで」
「怪獣は根絶やしにする。人類に仇なす存在ならば、強力な兵器を以て蹴散らせばいい。絶やしたその命すら利用してー」
「ーふざけないでッ!!!」
歩夢の怒声が響く
「そんなことを、いつまで繰り返すの…⁉︎ そんなことを続けた先に平和なんて無いわ…ウルトラマンまで敵にしたあなた達は、このまま進めば怪獣だけで済まない。その先にあるのはー」
「あなたの望む先にも何もないでしょう?怪獣の存在に気を使う平和が人類の望むもの?思い上がりも甚だしい」
黒斗は立ち上がり、扇型のデバイスを取り出す
「ー利用できるものは全て利用してしまえばいい。例え、邪悪な宇宙人だろうが、ね」
黒斗の言葉に歩夢が目を見開く
「ー黒斗ッ!!!」
歩夢の言葉に耳を貸すことなく、黒斗はデバイスーフェイクZライザーのスイッチを押し、開いた黒い扉ーフェイクヒーローズゲートに踏み込む
黒斗は襟を直しながら懐から一枚の紅いカードを取り出し、フェイクZライザーにスロットする
《DAIMON ACCESS GRANTED》
黒い3枚のメダルを取り出し、セット、スキャンする
『ゴルザ』
『メルバ』
『
《GOLZA》
《MELBA》
《SUPER C.O.V.》
スキャンを終えた黒斗がトリガーを引く
《TRY KING》
ーグォオオオオォォォォォォン!!!
執務室が大きく揺らぎ、窓から青く輝く目が覗く
「黒斗…‼︎あなたがその怪獣だったの…⁉︎」
『どうです?素晴らしい力でしょう‼︎ ガウル…ワロガ606が提供してくれた怪獣の力を自在に操れる兵装です!!』
歩夢は黒斗だったその怪獣を睨み、イクサファーナスを構える
《リンケージ:ウルトラマンイクサ》
ーサァァァァァッ!!!
イクサの蹴りがトライキングを大きく吹き飛ばす
「黒斗ォォォォォォォォォ!!!!」
倒れたトライキングに馬乗りになり、イクサが何度も拳を振り下ろす
『歩夢‼︎落ち着け‼︎こんなの罠に決まってるだろうが⁉︎』
イクサの制止の声も聞かず、歩夢の怒りのままに巨人の拳は振るわれ続ける
『ーやはり、あなたがウルトラマンイクサでしたか』
『ハハハッ、残念ですが、あなたの相手は私ではありませんよ』
ーグァアァアァアウゥゥゥ!!!
馬乗りになったイクサの背中にバルカンの掃射が突き刺さり、怯んだイクサをトライキングが突き飛ばす
ーグァアァアウゥゥゥゥゥゥ!!!
イクサの背後から現れたのはグルジオアンタレス
『ここは特殊自衛隊基地。排除するべき脅威が現れたなら全力で排除に移るのは当然でしょう?』
「あんた…いつからこんな…ッ‼︎」
『嫌だなぁ。最初から、ですよ』
『私は、怪獣の脅威から人々を守るために手段は選びませんから』
「黒斗ォ…ッ!!」
ーグァアァァァァァァゥゥゥゥゥゥ!!!
トライキングを睨むイクサにグルジオアンタレスは左腕のバルカン砲を放ちながら肉薄してくる
イクサはカミソリデマーガの双剣でそれを防ぎ、組み付いて押さえる
『ルテミアァ……ッ‼︎』
ーグァァァァァアゥゥゥゥゥゥッ!!!
「ーッ」
イクサの呼びかけに獣のような声しか返さないグルジオアンタレスを見た歩夢が唇を噛み締める
【もう手遅れ。わかりきった話だ】
また声が歩夢の脳内に響く
「ー黙ってて…」
【お前も理解しているだろう?そしてその怪獣は、お前の仲間の命を奪った存在だ。憎いだろう、許せないだろう?】
【ーそれでいいんだ。目を
「うるさいッ!!黙れ黙れ黙れぇッ!!!」
歩夢が頭を押さえながら叫ぶ
その怒りに呼応したかのようにイクサは雄叫びを上げ、グルジオアンタレスの頭部から伸びたツノを掴み、頭を膝に叩きつけてそのツノをへし折る
ーグァァァァァアゥゥゥゥゥゥ……!?
ダメージに痛みを訴えるような声を上げるグルジオアンタレスをトライキングから戻った黒斗が屋上から見上げる
「ふむ、やはり怪獣1体では苦戦しますか。ならばー」
黒斗は新たな端末を取り出し、起動スイッチを押し込む
ーガァァァァァァァァァァァァ!!!
獣のような叫びを上げながら怯むグルジオアンタレスを掴み、更なる拳をイクサが叩き込んでいく
『歩夢…⁉︎おい歩夢!!!』
イクサの呼びかけも歩夢には届いていないのかイクサは歩夢の怒りに呼応し狂乱を止めない
倒れたグルジオアンタレスに更にストンピングを見舞おうと脚を振り上げた瞬間、グルジオアンタレスの目が青い輝きを灯す
【ーイタイ イタイヨ イクサ……】
『ーっあ』
「ーッ」
イクサの動きが止まる
グルジオアンタレスから響いてきた声は、イクサにとって聞き覚えのあるものだった
『ルテミア……ルテミア⁉︎ やっぱり生きてー』
ガチャリ、とグルジオアンタレスの左腕のバルカン砲が突きつけられ、ゼロ距離で乱射されイクサが吹き飛ばされる
ーグァァァァゥゥゥゥゥゥッ!!!
起き上がるグルジオアンタレスの瞳はまた赤い目に戻っていた
「まさか…意識を模倣して油断を…⁉︎」
『ワロガァ…ッ‼︎ お前はどこまでぇッ!!!』
イクサが怒りと悲しみを滲ませ、再び構える
ーグァアァァゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
その背後から飛びついてきた巨影が引っ掻き、イクサがうずくまる
新たに現れた存在を見て今度は歩夢が息を呑む
ーグァァァァゥゥゥゥゥゥ…‼︎
そこにいたのは歩夢が幼少期に「救えなかった」怪獣
「ルー、ガルフ…なんで……」
その様を見ていた黒斗が告げる
「ヴィクター社の開発した怪獣制御パーツ。そして、異星人より回収した怪獣を操るバトルナイザーなる装置を流用して完成した改造怪獣。これもまた、我々の新兵器ですよ」
ーグァァァァゥゥゥゥゥゥ!!
機械改造されたルーガルフ、ヴィクター・ルーガルフがイクサに迫る
そこにまた新たな影が乱入、ヴィクター・ルーガルフを掴み共に大地を転がる
ーグァァァァゥゥゥゥゥゥ!!
新たな影の正体は、機械改造されていない野生個体のルーガルフだった
「おや、野生個体が紛れ込みましたか。ならば先にそちらから始末しなさい」
黒斗が端末を用いて指令を下すとヴィクター・ルーガルフは野生のルーガルフに爪を立て、ダメージを与えていく
ーグ、ァァァァウゥゥゥ!!
野生個体はヴィクター・ルーガルフを攻撃せず、ただ縋り付くようにして押さえつける
ーグァァァァウゥゥゥ……‼︎
静かに唸る野生個体を気にも留めず、ヴィクター・ルーガルフはその爪を野生個体の体に何度も立て、何度も突き刺す
悲痛な咆哮と共にルーガルフが膝を突き、鮮血が舞う
それでもルーガルフはヴィクター・ルーガルフを抑えようとするが、それすら跳ね除け、ヴィクター・ルーガルフが馬乗りになり、追撃する
「やめろ、やめろォォォォォォォォォ!!!」
歩夢の悲痛な叫びと共にイクサが必殺のイクサライズ光線をヴィクター・ルーガルフに向けて放つ
光線の直撃を受けたルーガルフは吹き飛ばされ、エネルギーをスパークさせて爆発する
馬乗りから解放された傷だらけのルーガルフをイクサは抱え上げる
「あ、あぁ、こんな、こんな血が…‼︎」
『まだ、まだ息はある、もう大丈夫ー』
息も絶え絶えになったルーガルフが突如目を見開き
イクサの首に牙を突き立て押し倒した
ーサァッ!?
『ぐぁっ!?どうしたんだ!?』
ーグゥゥゥッ‼︎ グァァァァウゥゥゥッ!!!
獰猛な唸りを上げながら牙に力を込めるルーガルフに動揺するイクサと歩夢
【おや、大切な怪獣くんが何か伝えたいらしい】
【特別に翻訳してやろう】
頭の中で声が響くと共にルーガルフのうめきが言葉に変わる
【ナカマ タイセツナ ナカマ コロシタ!!!】
【ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ!!!】
その唸りは、仲間を殺した憎い的にぶつける憎悪の声だった
言葉を失う歩夢の脳裏にあの光景がフラッシュバックする
幼い歩夢と友達になったルーガルフ
彼が凶暴さを見せて暴れ出した時
彼は自分が何度も竹槍に刺されても怒らなかった
でも、歩夢が、「彼の友達」が村の人に引かれて転び、擦り傷を負ってしまった時
ー彼の仲間が、傷ついた時にルーガルフは、激怒の咆哮を上げたのだ
「あ、ああ、あああ……」
全て思い出し、全て繋がった
イクサの中の歩夢が放心した声を上げ、目を見開き顔を手で覆う
息が苦しい、心臓の音がうるさい
ーグァァァァウゥゥゥッ!!!
噛み付くルーガルフの赤い目から涙がこぼれ落ちる
【目を背けるな。こいつの同胞を殺したのはお前だ】
【でも仕方なかったよなぁ?今度こそ助けたい怪獣を守るためなら、あんな機械人形殺すしかない】
頭に響く声が笑う
混乱した思考の中、歩夢は気づいた
気づいてしまった
【そうだよ。それが憎しみ、それが怒りだ】
【誰も憎み合わない世界?そんなもの絵空事】
【本当は自分がよくわかってる】
その頭に響く声は
【わかるとも、だって私はー】
歩夢自身の声だった
【お前自身、稲葉 歩夢そのものなんだから】
イクサの中に立つ歩夢の前に闇が渦巻き、人の形を為す
それは黒い服を着た歩夢
黒い歩夢は自身の左手を微笑みながら見せつける
そこには、イクサファーナスが装着されていた
「は、あ、ぁあっ!?」
歩夢は自分の左手からイクサファーナスが無くなったことに気づくが、それよりも早く黒い歩夢が歩夢の胸に手を当てる
【じゃあな、歩夢。今日から私がーお前だ】
ートンっ
歩夢の視界が明滅し、投げ出された歩夢が地面に尻餅をつく
何故かイクサの外に出たことに混乱しながら顔を上げる歩夢
ードグシュッ!!!
その顔に赤い液体が飛び散った
どろりとしたその液体を手に拭う
真っ赤に染まるその手を見て、かかった液体を血と認識
騒ぐ心臓と揺れる視界を落ち着かせながら見上げる
ーグァァ……ヴゥ……
ウルトラマンイクサの拳は、自分を押し倒していたルーガルフの胸を正確に貫いていた
「ーあ」
目の前の光景の認識が遅れる。認識を脳が拒む
「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
歩夢が頭を掻きむしりながら絶叫する
イクサは立ち上がり、ルーガルフから拳を抜くと動かなくなった死体をゴミを放るかのように転がす
ーフゥゥ……
イクサの体に刻まれていた青いラインは黒く変色していた
ーグァァァァァアゥゥゥ!!!!
しばらく状況を静観していたグルジオアンタレスのバルカン攻撃をバリアで受け、それをエネルギー弾として纏めて投げ返す
直撃したエネルギー弾がグルジオアンタレスの首元で弾け、爆発
怯んだグルジオアンタレスに近づいたイクサの拳が鈍い音と共にグルジオアンタレスの脳を揺らす
ークッハハハハハハハハハハ!!!
今までのイクサで見たこともない哄笑を上げながら、うずくまるグルジオアンタレスをイクサが頭を鷲掴みにし、片手で無理やり立たせる
胴体に押し付けられたバルカン砲を引っ掴み力任せに腕ごと引きちぎる
ーギャァアァゥゥゥゥゥゥ!?!?
紫色の鮮血を撒き散らしながら片手を失ったグルジオアンタレスが倒れ伏す
【ーイダイ、イタイ、イタイィィィィィィ】
合成音声のようなルテミアの「鳴き声」でグルジオアンタレスが慟哭する
『な、なんで、なんでッ、体が…勝手に⁉︎歩夢が動かしてんのか⁉︎』
勝手に動きグルジオアンタレスを、かつての大切な仲間を傷つけていく自分の体にイクサが困惑の声を上げる
馬乗りになったイクサが何度もグルジオアンタレスの胸部装甲を殴りつけ、凹んだそれを周りのケーブルごと引きちぎる
紫の鮮血が吹き出し、グルジオアンタレスが慟哭する
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
『クソッ、やめろ、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!』
歩夢とイクサの絶叫が重なる
それすら意に介せず、巨人はグルジオアンタレスの胸に拳を突き立てる
グルジオアンタレスの巨体が痙攣する
巨人が怪獣から引きずり出したのは赤黒い光を放ち脈動する怪獣の心臓部だった
まだ血管が纏わりつくそれを乱暴に引き抜き、巨人はそれを握り潰した
グルジオアンタレスは紫の血液を吐き出しながら、その体を静止させ、瞳からは輝きが失われた
「あ……あぁ……」
歩夢はその光景に絶望し、脱力してへたり込む
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「答え合わせをしましょう。ウルトラマンイクサ」
「我らが主は、この汚れきった文明を持つ星を浄化せんと遣いとして獣を放ってきました。時にこの星に生くる邪悪を呼び覚まし、時に別の世界から獣を呼び寄せて」
「ーその時獣を追ってくるイレギュラーたち。光の巨人たちやその協力者は主の大いなる力で送り返した」
火煙が歩みを進めながらフッ、と笑う
「では、何故あなたは送り返されなかったのでしょうか?ウルトラマンイクサ。あなたもまた、光の巨人であるはず。我らが主の脅威となりうる存在だというのに」
火煙が肩を震わせる
「簡単なことですよ、ウルトラマンイクサ」
火煙が顔を上げる
今までにない、邪悪な笑みを浮かべ、その瞳を狂気に光らせながら天を仰ぐ
「あなたもまた、我らが主が呼び寄せた『獣』に過ぎなかったということですよ!!!」
「ワタシが以前いた世界、ワタシがまだキリエルの神などを崇拝していたあの世界で、ワタシは恐ろしくも美しく、深淵なる闇を見た!!!キリエルの神と我が同胞はそれを脅威と見てその世界から逃げ出した愚かな連中だ!!!!いや、同胞もまた気づいていたのだよ、ちっぽけな神など足元にも及ばない、あの闇こそが絶対なる神だということに!!」
火煙は顔を押さえながらくっくっと笑う
「深淵なる闇の主は、愚かにも反抗した人間どもの光が消してしまった。だが、だが消えてはいない。光がある限り、それと同等以上の闇は必ず生まれ、そしていつか!!!光すら飲み込む闇が生まれくると!!!!」
「大いなる光が有れば、それを飲み込む闇もまた生まれくる。我らが新たな主もそれに思い至りあなたが選ばれたのですよ…」
「本来ならば、イザーティアを使いあなたを闇に落とすはずだったがイレギュラーが含まれた。稲葉 歩夢というあの人間が」
一瞬怒りのような表情を見せた火煙だが、すぐに狂気的な笑みに戻る
「だからワタシは考えました。2つの心を、共に壊して闇に返してしまえば、1人のウルトラマンより深く濃い闇になる、と」
グルジオアンタレスを殺したイクサは項垂れたまま動かなかった
その体が、徐々に漆黒に染まっていく
胸のカラータイマーは点滅を止め、血のような赤い光に輝いたままになる
ゆらりとイクサが立ち上がる
ーガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
獣のような咆哮を上げ、漆黒のイクサが腕を広げる
その指先は鋭く尖った鉤爪になっていた
「良き仕事を果たしてくれました、ビゾーム」
「これで真なる黒き獣が舞い降りた」
「霧慧の黙示録…いえ、根源破滅の黙示録は今、円熟の時を迎え、地上の罪は全て
次回ウルトラマンイクサ
「痛み知る刻」