ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

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第26話「痛みを知る刻」

ーガァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

黒変し獣のような咆哮を上げるイクサを特殊自衛隊基地の中から眺めていた黒ドレス姿のガウルが愉快そうに笑う

 

「ハ、ハ、ハ‼︎見ろ‼︎あいつ、自分自身が憎んでた怪獣みたいになっちまった‼︎ハハハハハハハハハハ!!愉快だなぁ!!」

 

それを聞いていたもう1人がふぅ、とため息を吐きながら袖を直す

 

「ハッ、元々オレ様の台本通り。こうなって当然さ」

 

ガウルがキヒヒヒと壊れたような哄笑を上げる様を見て影は問う

 

「オマエの復讐劇は、こんなクライマックスで満足なのか?」

 

「満足?愚問だなぁ‼︎ 満足かどうかなんて関係ない、イクサが狂って壊れてぜーーーーーんぶ台無しになればそれでいいのさ‼︎ハ、ハ、ハ‼︎」

 

狂ったように笑い続けるガウルを見て影は貼り付けたような笑みを浮かべる

 

「あの人間、アユムとかいうのはどうするんだ?」

 

ガウルは突然笑顔を消し、ぐるりと振り返り告げる

 

「人間?ああ、そんなのもいたな。そんなもの興味ない。どうせもうイクサから分離したなら終わりだろ」

 

ガウルは再び暴れる黒いイクサに視線を戻し、くすくすと愉快そうに笑う

 

影は退屈そうに椅子にもたれかかりため息をこぼした

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

しばらく咆哮を上げていたイクサは首を鳴らしながら歩み出し、しかし体にスパークが走り、ノイズが走ったようにシルエットが歪んでその巨体が崩れるように消え失せる

 

巨人の足元に影を纏ったような黒いスーツとコートを纏う「歩夢(あゆむ)」が現れ、自身の左腕を見る

 

その手にあるのは当然イクサファーナス

だが手の甲の白い輪状の装飾は今は赤い光を放ち、紫のスパークを放っている

 

金色の瞳でそれを見下ろし、フンと「歩夢」が息を漏らす

 

『まだ光が残ってるのね。さすがはウルトラマンかしら?』

 

嘲笑するように笑い、「歩夢」がどこかへ姿を消す

 

 

呆然と座り込んだまま俯いて動かない歩夢

 

思い出したようにのそのそと懐を探り、GBCTパッドを取り出す

 

どこかの衝撃で大きく液晶がひび割れたそれを見て歩夢が呟く

 

「……そうだった。ランダルは、もういなかった…」

 

装着されていたイクサファーナスが無くなった左腕を触る

 

「……イクサ、いなくても苦しくない。私の体も治ってたのね…もう、私はイクサとも戦えなかったんだ……はは……」

 

カタン、とGBCTパッドを手から取りこぼす

 

 

「………私、もう何もないじゃん……」

 

 

歩夢が地面に手をつく

しばらく動きすら見せなかった歩夢がゆらりと立ち上がり、ある場所に脚を向ける

 

 

歩夢が向かった場所は無惨な姿で絶命したグルジオアンタレスの側だった。あたりには紫の血がそこかしこに飛び散り、オイルのような独特の悪臭が充満していた

 

歩夢はグルジオアンタレスの死体を見上げる

生命の兆候は無くなり、ピクリとも動かない

 

しばらくグルジオアンタレスを見つめた歩夢は近くに同様に転がっていたルーガルフの死体にも目を遣る

 

「……あなたは、あの時も今回も友達のために怒ってくれてたんだね、ルーガルフ…」

 

「……グルジオアンタレス、いや…ルテミアさん。あなたのこと、結局私は何も知れなかった…」

 

歩夢が胸を押さえて俯く

 

 

「……ごめんなさい。私、結局何もできなかった…私一人じゃ、何も、助けられなかった…ごめん、ごめんね……」

 

 

それだけ告げた歩夢は死体に背を向け、ふらふらとどこかに去っていく

 

その背後でグルジオアンタレスの死体の胸元が輝き、青白い光が離れて歩夢の上着のポケットへと入り込んだ

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

特殊自衛隊基地 会議室

 

「グルジオアンタレスとヴィクター・ルーガルフが破壊され、こちらとしても大きく戦力は削られてしまった」

 

黒斗(くろと)がこめかみを押さえながら告げる

モニターには先の戦闘の様子が映し出されていた

 

「なんたること…‼︎ ウルトラマン、脅威レベルは遥かに怪獣たちより高い想定ではあったが、ここまでとは…‼︎」

 

湯田(ゆだ)がギリリ、と歯軋りする

 

「ー現在、ヴィクター改造を施した怪獣はゼロ。あと有効だと確認できるのはダビデ003と改造弾頭マリアV4。これらをハウンダー隊や戦車隊、機動部隊に装備させて待機。姿を消したウルトラマンイクサが再び現れたなら、フォーメーション・ティーガーで一気呵成に攻撃し、被害の拡大前にウルトラマンを殲滅する。今我々が考案できる最善の策は、これでしょう」

 

「ーよろしいでしょうか、大紋(だいもん)司令」

 

1人の士官が手を挙げる

 

「何かな?武藤(むとう)武官」

 

「……このタイミングだけでもGBCTの残る戦力や隊員に助力を求めることは、ダメなのでしょうか?」

 

武藤武官の提案に議場がざわつく

湯田が苛立たしげに机を殴りつけ立ち上がりながら武藤武官を睨む

 

「何をふざけたことを言っている、武藤!!そんなことあり得るわけがないだろうが!!!」

「し、しかし、現状の戦力で考えれば今我々が内輪で争う理由も必要もないかと思いー」

「黙れッ!!あんな逆賊も同然の連中の手などー」

 

「ー湯田副司令」

 

黒斗の一言に激昂していた湯田が口を噤む

 

「武藤武官、提案は尤もですがそれは飲めない話です。彼らは侵略異星種族の肩を持っていた。作戦として組み込んだ場合、内側に敵を入れてしまう可能性も高い。そのようなリスクある行為はむしろ選択できません」

 

「一時彼らの拘束や追跡は中止し、警戒体制に移行します。各自、警戒を怠らないように」

 

 

目を開くとそこには夕焼けに染まる木枠の天井が見えた

 

自分のアパートかと思うがそこまで古い建築ではなかったことを思い出し、歩夢が体を起こす

 

「ーッ…‼︎」

 

思い出したように痛みだす体を抱え、歩夢が呻く

 

『いきなり起き上がるな。他の連中よりマシとはいえ、お前さんも相当重傷だったんだぞ』

 

隣のちゃぶ台に胡座をかいて座るメトロン星人がメトロン茶をストローで啜りながら告げる

 

「あなた…は?」

『儂はガルブ。メトロン星人で、ヴィクターB班お抱えの医者をやっておるジジイだよ』

「ヴィクター!?」

 

警戒して立ち上がろうとして痛みにうずくまる歩夢をガルブははぁ、とため息をつきながら手で制する

 

『安心せい。儂らB班はA班の連中のような傀儡ではない。永嶺(ながみね)の若造もまた然り。儂らはお前さんらの味方だ』

「永嶺…そうか、B班って駿河(するが)の……」

『何があったかは知らんが、まぁまずは話さんといかんヤツがいるだろう、お前さん』

 

バサリ、と何かを取り落とす音が響く

 

部屋の入り口に立っていた水輝(みずき)が手にしたファイルを取り落とす音だったようだ

 

「あ、水輝……」

 

一瞬放心していた水輝が歩夢に飛びつき抱きしめる

 

「歩夢隊長ぉ……無事でよかった……」

 

しばらく目を白黒させていた歩夢だが、半泣きの水輝の頭をぽんぽんと撫でる

 

「……心配かけちゃったわね、ごめん。水輝」

 

「おーようやっとお目覚めか歩夢」

 

もう1人入り口から現れた人物ー駿河がニヤニヤと笑いながら告げる

 

「駿河…ありがとね色々と」

「あほ。ワシはワシの算段があってお前ら助けたんじゃ。こっからきびきび働いてもらうけんのぉ」

 

駿河のその言葉に歩夢はハハ、と乾いた笑いを返し目を伏せる

 

「私なんかじゃ、きっと力にならないわよ」

 

その言葉に駿河が眉をひそめ、離れた水輝が目を見開く

 

「……どういう意味じゃ」

「そのままの意味。私なんかきっと、力にならない」

 

自身の左腕を袖を上げて見せながら歩夢が告げる

 

「ー勘違いしてた。誰も憎しみ合わない世界にしたいとか言って、GBCTをランダルを巻き込んで作ってとにかくやれることをやってきたけど……私だけじゃ何もできない小娘だった」

 

「今度こそ助けるって思ってたルーガルフを、私一人の感情で見殺しにしたも同然のことして、イクサの仲間だった人も見捨てようなんてして、結局ルシルやエルシアも助けられなくて……憎み合わない世界にしたいって言った私が、周りが見えなくなるほど怒って……」

 

ハハ、と乾いた笑みを歩夢がまた浮かべる

 

「ね?私一人じゃ全然何の力にもならない。だからー」

 

 

ーパァンッ!!!!

 

 

大きな、乾いた音が響く

 

一瞬歩夢は何が起きたのか分からなかった

 

目の前にいたのは、唇を噛み締め涙を浮かべた水輝

その手が振り抜かれていたのを見て歩夢は水輝に頬を思いっきり叩かれたことを自覚。頬が今更にじん、と痛みを覚える

 

「バカなこと…バカなこと言わないでくださいッ!!!」

 

今までに聞いたことの無いような声色で水輝が怒鳴る

 

「力がない…?役に立たない…?そんな訳ない‼︎ 私は、私たちはッ‼︎GBCTだからついてきたんじゃない、歩夢隊長がッ、『特別』だからついてきたんじゃないッ!!!」

 

 

「ー歩夢隊長が、『歩夢さんだから』ついてきたんですッ!!」

 

 

水輝の言葉に歩夢が目を見開く

 

涙を拭いながら水輝が部屋から去るのをただ見送ることしかできなかった歩夢の前に別の人影が現れる

 

「……一部始終は聞かせてもらった」

 

現れたのは歩夢以上に包帯を巻いた大介とリュウ、そして頭と右目に包帯を巻いた苑樹だった

 

「大介、みんな……」

 

大介が腕を組みながらはぁとため息をつきながら歩夢を見据える

 

「隊長…いや、歩夢さん。俺たちは、あんたにたしかに救われてきた。強い力を持っているからとか、特別だからじゃない。あんたの行動で俺たちは、また歩み出せたし助けられてきたんだ」

 

大介は自分の左胸に手を当てる

 

「怖くて、憎くて聞こえなかった怪獣たちの本当の声を聞こえるようにして、俺にもう一度レスキューのように命を助ける『脚』をくれたのはあんたなんだ」

 

リュウが前に歩み出る

 

「オレ自身のことすらわかんなかったオレのゴクジョー、なりたい自分自身を見つける道標になってくれたのが、アユムなんだよ。それに、こっちでのこと色々教えてくれたのもアユムだ」

 

苑樹(えんじゅ)が口を開く

 

「曇りかけていたわたくしの目と、頭を覚ましてくれたのはあなたの言葉です。あなたの真っ直ぐにすぎる言葉は、わたくしの心にたしかに響いていたんですよ」

 

隊員たちの言葉を歩夢が目を伏せながら聞く

 

『貴様ら…まだ寝ていろと言ったはずだぞ…?』

 

姿を現した3人をガルブが睨み、顔を青くした3人がすごすごと引き下がり、ガルブが3人を送りに行く

 

そんな中、駿河がタブレットを取り出し何か操作をして画面を映し出し、歩夢に手渡す

 

 

『……私も、アユムに救われた一人だ…忘れてくれるな…』

 

 

「ーッ」

 

その声に思わず歩夢が顔を上げ、駿河からタブレットを受け取る

 

タブレットに写っていたのは、ベッドに横たわるルシルだった

 

肌はまだ青白い部分があり、クマもでき、呼吸は荒い

白銀の髪は首上くらいまで黒変しており、受けた毒素の激しさが嫌でも伝わってくる

 

だが肌には血色が戻り始めていた

 

「ルシル、ルシル!?無事なの…⁉︎」

『……まだあちこち痛むし、気分も悪いが…大丈夫だ』

 

脂汗を浮かべながらもルシルは笑みを返してくる

 

『……あの時話したことは全部本当だ…私は、姉さんを奪った皆が…怪獣たちを利用した私の星の文明が許せなかった復讐に、リプロダクトマシンやυ(イプシロン)レナトゥスたちを作った……他の星に、同じ運命を辿って欲しくない、と思っていたのも本当だ……』

 

『……同時に、アユムたちならば、大丈夫だと思えて、手助けをしたくなったのも……私の本心だよ……』

 

「……ルシル…」

 

ルシルは気丈にもまた笑って見せる

 

『……アユム、私は…アユムに会えてよかった……やり直したいと、罪を償って、今度こそは前を向いて生きたいと思わせてくれた……そんな中でダイスケや…みんなにも出会えた…』

 

『……ありがとう、アユム…』

 

そう告げたルシルを最後に画面が暗転する

 

『病人を(そそのか)すな若造。特に彼女はまだ経過観察療養中だ』

「ワシはあん子の手伝いをしただけじゃ」

『減らず口を……』

 

フンッ、とガルブが息を吐いてタブレットを駿河に押し返し、ちゃぶ台の前にまた胡座をかく

 

呆然としたままの歩夢にガルブが口を開く

 

『あのリンケイド星人の娘。処置したのは(わし)だが、救ったのはさっきの水輝とかいうお嬢さんと、お前さんとこの副隊長だ』

「水輝と…ランダルが…⁉︎」

 

『副隊長の残したデータバンクから必要な情報、関連があるやもしれぬ情報を探し出し、丁寧に纏めた上で薬剤の管理もしてくれおった。大したもんだ、お前さんの部下は』

 

メトロン茶を啜り、ガルブが続ける

 

『それに、水輝の嬢ちゃんの手早い解析のおかげで、あの怪獣の献身も無駄にせんで済んだ』

「怪獣の……献身……って……」

 

ガルブは少し言葉を飲み込み、続けた

 

『……お前さんには、辛い話だが話さねばなるまい。先のリンケイド星人の娘さんは助かったのだが……あの娘さんの相棒だったらしいあの怪獣は助けられなかった……いや…』

 

ガルブは歩夢に向き直る

 

『あの怪獣のおかげで、リンケイド星人の娘さんは助けられたのだ』

 

 

歩夢が運び込まれる数時間前

 

『……まずいな。あのリンケイド星人の娘さんのバイタルが不安定になっておる‼︎』

「ーそんな!?」

 

ガルブのラボで共に解毒剤の配合と試行を繰り返していたガルブと水輝。隣の部屋でベッドに横たわるルシルの異常にガルブが気づく

 

『恐らく傷口と出血による衰弱で思ったより毒の進行が早いのだろうな…3日は保つかと思うたが…』

 

隣の部屋に移り、ガルブが応急処置を施していく

 

「そんな……じゃあ、後猶予は…⁉︎」

『分からん…だがもう、1日も保たんかもしれぬ』

 

ガルブの言葉に目を見開き、水輝がペンを落とす

 

《ークォォォォォォォォォン!!!》

 

その時、施設内の通信から怪獣の鳴き声が響いた

 

『ええい、こんな時になんだ!?』

 

『ガルブ先生‼︎ 格納ブロックで保護していた怪獣が暴れ始めてー』

 

『この娘さんの相棒というあの怪獣か…‼︎水輝お嬢ちゃん‼︎』

「は、はい!!」

 

ガルブに続き、水輝も格納ブロックに急ぐ

 

 

ークォォォォ……

 

格納ブロックの中で治療装置に繋がれていたエルシアは体を無理やり起こし、出入り口に向かって歩を進めていた

 

応急処置的に塞がれていたはずの胸の傷口は開き、そこを中心に体の大部分が黒く変色して腐り始めていた

大介たちからの話から、エルシアは件の怪獣の尻尾をまともに食らっていたらしい。だからルシル以上に毒の侵食が激しいのだろう

 

「……エルシア…‼︎」

 

腐る体を引き摺りながら歩んできたエルシアが水輝を見つけて頭を下げる

 

ークォォォォォォォ……‼︎

 

エルシアは安心したようにひと鳴きすると

 

ーズブシュッ

 

自身の胸の傷口に、鉤爪を突っ込んだ

黒く変色した血液がボトボトとこぼれ出す

 

「ーッ⁉︎」

 

あまりのことに水輝が口を押さえ驚愕する

 

そんな水輝の前にエルシアは体内から肉片を抜き取り、それを水輝たちの前に差し出してきた

 

『……まさか、お前さん…それを自分の相棒の治療に使えと…⁉︎』

「えー」

 

ガルブの驚きにエルシアは力無く頷く

 

内臓を無理やり引き抜いたダメージからか、エルシアの腕が震え始め、膝を突く

 

『ーッ、至急消毒済みの中型生体保護カプセルを‼︎ こやつの献身を、無駄にはさせん‼︎』

 

ガルブの指示に従い、作業員たちがカプセルをエルシアの元に運搬しエルシアがその中に自身が引き摺り出した内臓を入れる

 

ークォォォォ……

 

エルシアは水輝たちの方を見て頷き、微笑みを浮かべたように見えた

 

膝をついて座るエルシアが顔を俯け、動かなくなる

 

水輝が事実に気づき、涙を浮かべかけるのをガルブが見て告げる

 

『……今、やるべきことは泣くことじゃない』

 

ガルブが水輝の肩を叩く

 

彼奴(あやつ)の相棒を、家族を必ず救うぞ』

「……はいッ‼︎」

 

 

「エルシア……」

 

ガルブからその話を聞いた歩夢は声を漏らす

 

『彼奴の内臓と血液の大量提供のおかげで、娘さんの治療に必要な移植臓器の培養と血清の作成を行えた。あの怪獣の治療も考えている段階では、できなかった治療だった』

 

ガルブは歩夢を見据える

 

『……お前さんがどうするかはお前さんにしか決められぬ。だがお前さんなら、決められるだろう?』

 

ガルブはそれだけ告げると部屋から去っていった

 

駿河は歩夢に一つの端末を投げてよこす

GBCTパッド。使われていないのか小さな傷もほとんど無い

 

「これは?」

「さぁなぁ。まぁ、お前さんに渡せって言われとったから渡しとくわ」

 

駿河はそれだけ告げてヒラヒラと手を振り、部屋から出て行った

 

 

部屋から出た駿河が廊下を歩いていると廊下の端で頭を抱えていた水輝を見つける

 

「……水輝隊員?なにしとるんじゃ」

「あ、あー……その、罪悪感というかなんというか…」

「ぷっ、はははは‼︎ 歩夢殴ったヤツか?あのくらいであのアホは動じんから心配すんな」

「笑わないでくださいよ⁉︎私割と真面目にやっちゃったぁ…って」

 

水輝は駿河を見つめる

 

「……さっき渡したの、なんなんですかあれ?」

 

水輝の問いに駿河はあからさまに視線を逸らす

 

「……秘密じゃ」

「え、えー……なんでですか…?」

「まぁなぁ……」

 

ちらと歩夢が残った部屋の方を見て駿河が悪戯っぽく笑う

 

 

「……女の趣味の合ういいダチの頼みじゃから、かのぉ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

充てがわれた部屋に入ってベッドに腰掛けた歩夢

 

薄明かりの部屋の中、渡されたGBCTパッドを開く

案の定、ほとんど使用の形跡はなかったが、歩夢が開くことを待ち侘びていたかのように音声メッセージのファイルが開かれる

 

無題のそれを見て首を傾げながら再生のボタンを押す

 

『んんッ、あーあー……録音はできているな』

 

「ーッ」

 

再生が始まったのは聞き覚えのある声

 

もう二度と聞くことができないと思っていた、ランダルの声だった

 

 

『ーこのメッセージファイルは、お前が持つライセンスタグの信号を検知しないと開けない。更に、駿河には私に何かあった場合にこれを歩夢に、渡さねばと思った時に渡してくれと頼んでいる』

 

『聞いているということは、恐らく私はもうこの世にいないのだろうな。気に病むな、スタンデル星で軍人をやっていた時から覚悟していたことだからな』

 

『歩夢、お前の今悩んでいることとは違うかもしれない。だが、私はこれがお前の今欲している言葉だと信じて話をする』

 

ランダルはコホンと咳払いをし、言葉を続ける

 

 

『歩夢、私はお前に感謝している。この星で、ただ本から知識を得ることしかしなかった私に、本では得られない知識をいくつも教えてくれた。この星で生きる命の輝きを、いくつも見せてくれた』

 

『意味もなく戦い、戦う意義の無意味さを噛み締めて星から逃げた私に、心から立ち上がりたいと、生きる意味をくれたのはお前だ』

 

『ーお前はすぐに調子に乗るから、普段は黙っていたんだ。悪かったな』

 

歩夢はランダルからの言葉に思わず吹き出す

 

「言ってくれるじゃない、こいつ」

 

『もう一つ。これも、お前は多分最後の一つを掴みかねてるだろう。これは誰かから言われないと、お前は掴めないだろう』

 

『だから私から教えてやるー』

 

 

『ー歩夢。もっと素直に怒れ、悲しめ、そして…お前は憎んでもいいんだ』

 

 

「ーえ」

 

ランダルの意外な言葉に歩夢が声を漏らす

 

『憎み合わない世界。その志は立派でとてもお前らしい。戦争ばかりの私の星では誰も至れなかった優しい夢だ。だが、どこの星もその優しさを利用する者、そこにつけ込む許し難い悪はいる』

 

『お前はきっと、優しくあろうと誰にも本気で怒らず、涙も堪えて、憎いと思う感情に蓋をして押さえ込むだろう』

 

『ーそんなことしなくていい。怒れ、悲しめ、そして、憎むべき悪を憎め。お前なら、正しく怒り、悲しみ、そしてその痛みもきっと忘れないでいられる』

 

 

『痛みを知る最後の一人にお前はなれる。怒り、悲しみ、憎しみ、その痛みを知り、そして誰にも同じ痛みを負わせないために力を振るって全力でがむしゃらにやっていける』

 

『それがお前だ。私が、心の底から良き人間と思えた、稲葉 歩夢という人間が持っている強さだ』

 

 

メッセージファイルが終わり、役目を終えたようにディスプレイが暗転する

 

「……なんだよそれ…勝手なこと言ってくれちゃってさ」

 

ハハ、と歩夢が乾いた笑いを漏らす

 

「……私が、強い人間?そんなわけないじゃん。今だってこんなに…こんなに辛くて胸が痛いのに……」

 

歩夢が胸をギュッと掴む

暗転したディスプレイに水滴が落ちる

 

「……バカ…大バカ…ッ‼︎ なんで、なんであんたは、昔から私の欲しい言葉をくれるのよ……ッ‼︎ なんで……なんであんたは、言葉が足りないのよ……ッ‼︎」

 

「生きてる時に、面と向かって言いなさいよ……遅いのよ、バカランダル……気づきなさいよ…私の大バカッ……‼︎」

 

大粒の涙をこぼしながら歩夢がGBCTパッドを抱き締める

 

夜の一室に、子供のように泣きじゃくる歩夢の泣き声が響いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

翌日の朝

五道市中央の高いビルの屋上に腰掛けた黒い歩夢は眼下の街を見下ろし、ニヤリと笑う

 

『ようやく馴染んだことだし、暴れますか』

 

黒い歩夢がその左腕を掲げる

 

黒い巨人となったイクサが街中に出現

その鉤爪に紫に輝くエネルギーを纏わせ、周囲に解き放ち市街地の破壊をはじめていく

 

ーガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

黒いイクサの出現にB班拠点も大騒ぎになっていた

 

そんな中水輝は歩夢が部屋に残っていないことを発見する

 

残されていた書き置きを見て、水輝が微笑む

 

「まかせましたよ、隊長‼︎」

 

 

黒いイクサが闊歩していく街中、そこを歩夢が走ってゆく

 

「なんかできるか、じゃない、なんとかする‼︎」

 

「今イクサに手を伸ばせるは、私だけだ‼︎」

 

逃げ出していく人々を掻き分け、歩夢はイクサへと向かっていく

 

ビルの屋上までたどり着いた歩夢がイクサを見上げる

 

それに気づいたイクサが歩夢を見下ろす

 

 

『今更何をしにきたの?私』

 

「同じ私ならあんたにもわかるんじゃない?」

 

 

不敵に笑いながら言い返す歩夢にこめかみをひくつかせながら黒い歩夢が鬱陶しげに手を払い、イクサの手も同様に動き歩夢へと迫る

 

が、その手は歩夢に当たる前に青白い光の壁に弾かれる

 

『……何?』

 

顔の前に腕を出して身を庇っていた歩夢も異変に気付き前を向く

 

そこには左右に大きなハンドルが付けられた円盤型のデバイスが浮いていた

 

「……これって⁉︎」

 

そのデバイスに歩夢は見覚えがあった

それは、イクサの仲間だったルテミアがグルジオアンタレスに変貌する時に使っていたものだったのだ

 

燐光を放つそれを歩夢が手にする

 

と、歩夢の上着のポケットから小さな光球が飛び出し、姿を変える

 

革の簡素な服を纏い、特徴的な機械のような弓を持つ翠の髪の女性がそこに現れていた

 

「あなたは……」

 

『今のわたしにはもうこれしかできない』

 

燐光を放ちながら姿を揺らがせる女性は胸元に手を祈るように重ねると、その姿を小さな一枚のクリスタルに変える

 

歩夢の手に落ちたそれは黒い「蠍」の字が描かれたものから、白銀の「月」と描かれたクリスタルへと変化する

 

それを掴み直し、歩夢が決意と共に黒いイクサを見上げクリスタルをデバイスに装填する

 

 

深化(しんか)!!!グルジオアルテミス!!!】

 

 

「ー力を貸して、ルテミア!!!」

 

ーガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

デバイスを構えた歩夢に向けてイクサが手を振り下ろす中、歩夢は両サイドのグリップを三度引き絞る

 

青と銀の光が中心のクリスタルに向けて吸い込まれ、更にそれが解き放たれていく

 

白銀の光と共に黒いイクサに巨体が激突、その体が吹き飛ばされる

 

黒いイクサの前に現れたのは白銀の体と青い目を持つグルジオアンタレスによく似た姿の怪獣だった

機械改造されてはおらず、肘からは三日月型のカッターが、頭部からは一本角が伸びている

 

ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

白銀の怪獣ーグルジオアルテミスは猛々しい咆哮を上げて疾駆、黒いイクサに真正面からぶつかる

 

 

「な、なんだと!?」

 

黒いイクサを眺めていたガウルが思わず目を見開き、屋上の柵を掴む

 

「あの、あの姿は……⁉︎ ルテミアの!!」

 

それもそのはず

そこにいた怪獣ーグルジオアルテミスは、かつて自身が貶めその手で殺したイクサの仲間であるルテミアの戦闘時の姿だったのだから

 

 

「ぐっ、うぅぅぅ……!?」

 

グルジオアルテミスの中、歩夢は体に走る激痛に体を曲げる

 

怪獣の力はウルトラマンの力よりも遥かに負担が大きいのか、その力を使う「代償」が歩夢に降りかかっていた

 

「めっちゃくちゃ痛い……でも、これを背負っても、戦おうとしたルテミアの想いは…ッ、その無念と悲しみは……」

 

足を大きく開いて踏ん張り、曲げていた体を上げ胸を張る

 

 

「ーもっともっと、辛くて痛いのよッ!!!」

 

 

グルジオアルテミスが咆哮、イクサへとその腕のカッターを何度も斬りつける

黒いイクサはその攻撃に小揺るぎもせず、パンチやキックで反撃してくる

 

「ぐぅっ!?」

 

怯むグルジオアルテミス、更にそこに攻撃を加えんとする黒いイクサに飛来した戦闘機からのレーザー攻撃がイクサを怯ませる

 

「あれ……GBCTアルバトロス!?」

 

飛来してきたのはGBCTアルバトロス

 

「援護しますよ、隊長!!!」

「ハハッ、頼んだわよ、水輝!!」

 

鬱陶しげに飛ぶアルバトロス目掛けて斬撃を放とうとする黒いイクサの腕を掴み、押さえ込む

 

「やらせるわけ、ないでしょうが…ッ‼︎」

 

ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!

ーガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

グルジオアルテミスを振り払う黒いイクサ

だが、それにカウンターするようにグルジオアルテミスもカッターを振るい、共にその胸に一撃が突き刺さる

 

『しゃらくさいのよ!!死ねぇッ!!!』

 

黒いイクサがイクサライズ光線を構える

 

が、それより早く突撃してきたグルジオアルテミスが黒いイクサを掴み、その赤いカラータイマーを殴りつける

 

「イクサ!!今助ける!!!」

 

グルジオアルテミスの中、歩夢の隣にルテミアが並び、共に拳を構える

 

 

「『届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』」

 

 

2人の声が重なり、その意志を乗せ、グルジオアルテミスの角がカラータイマーに突き刺さり、眩い光が黒いイクサとグルジオアルテミスを包んだ

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

深い、深い闇の中を落ちていく感覚

 

朦朧とする意識ながら、歩夢の胸には様々な黒い感情が流れ込んできた

 

 

怪獣の命を軽視する連中が「  」

人の命を弄んで笑う存在が「    」

助けようとして手を伸ばした存在が死ぬのが「  」

 

 

力の無い自分がー

 

 

「ーええ、そうよ‼︎ 無力な私が、私は憎いッ!!!」

 

 

歩夢が叫ぶ

 

「憎い悪人もいる‼︎許せないヤツもたくさんいる‼︎辛かったこともある!!全部全部苦しくて、胸が痛くて、もうほんっと勘弁してほしいくらいよッ!!!」

 

歩夢が自分の胸を叩く

 

「こんだけ痛いもの、他の人たちに背負わせるなんて嫌だって…散々その痛みを味わった私だから、立ち上がれる…ッ!!!」

 

 

「憎み合う世界なんかもうたくさん。だから、憎しみの痛みを抱くのは私だけで終わりにする!!悪を、許せない存在を憎んで、その怒りも悲しみも、未来を作る力に変えて!!私は前に進むッ!!」

 

 

歩夢が手を伸ばす

 

「イクサ!!あなたは絶対、私が助ける!!!」

 

「今度は絶対、あきらめないッ!!!」

 

歩夢の手が何かに触れる

触れたそれを掴むが、歩夢の力だけでは掴みきれず、手の中をすり抜けていかんとする

 

「く、そっ……‼︎」

 

唇を噛み締める歩夢

その手に、白銀の光を纏う優しく力強い手が添えられ、力が増す

 

歩夢ともう1人ールテミアの手が、イクサの手を掴んだ

 

 

綺麗な夜空が広がる丘の上

 

歩夢が目を覚ますとその隣に見慣れない青年が立っていた

 

革をなめした狩猟民族のような簡単な服からは浅黒い肌が覗き、手製の石槍を手にした左手には金属の手甲。赤いメッシュの入った黒髪からはオレンジの瞳を持つ切長の目が覗いていた

 

「……イクサ?」

「……いや、よくわかったなお前…」

 

立ち上がり、問いかけた歩夢の言葉に青年ーイクサがツッコミを返す

 

「いや、なんか雰囲気でわかるというか…え⁉︎人間になってる⁉︎」

「今更かよ!?」

 

呆れたようにため息をつくイクサが頬を掻きながら返答する

 

「この姿はオレがまだ戦士の力を手にする前の姿だよ。もう何百年も前だけど」

 

イクサの言葉に歩夢はハハッと朗らかに笑う

 

「なーんだ、私たちと似た種族だったのね、イクサ」

 

歩夢は顔を真剣な表情に戻し、イクサに告げる

 

「ルテミアのこと、諦めようとしてごめんなさい、イクサ」

 

歩夢の言葉を受け取りイクサはしばし沈黙を返す

 

「……改まってなんだよ?」

「助けられるかもしれないのに、私はルシルの命の方を取ろうとした。最低なことをしようとー」

 

イクサは歩夢の頬をつねる

 

「っててててて!?」

「お前にそんな真面目な感じで話されたら調子が狂う」

 

歩夢の頬から手を離し、イクサが改めて告げる

 

「それなら、謝らなきゃならんのはオレの方だ」

 

「オレは、お前が助けられるはずだと言うかもしれない怪獣たちを怪獣そのものが悪だと決めつけて何体も殺してきた」

 

イクサは目を伏せる

 

「……オレは、ルテミアから離れてしまったのをずっと後悔していた。ギャビッシュたちから助けて、側にいてやるとまで言ったのにオレから離れて1人残して。だからこそ、オレはあんな姿になったルテミアのことも諦めきれなかったんだろう…虫のいい話だ」

 

「そんなこと無いよ。あんな姿でも、助けたくなるに決まってる」

 

歩夢とイクサが並んで星空を見上げる

 

「イクサ。私、あのワロガが許せない。命を弄んで笑う悪党が憎い」

「憎い、か。お前からそんな言葉聞くとはな」

「私たちで最後にするのよ。こんな、憎しみとか怒りの辛さも痛さも、知っているからこそ…」

「なるほどな。たしかに、こんなもんはもう誰かに背負わせるわけにはいかねぇよな」

 

 

「だからこそ、私たちが」

「『痛みを知る最後の1人』でいい」

 

 

歩夢とイクサが向き合い、ニッと笑う

 

「もうちょっと、力貸してよイクサ」

 

歩夢が左拳を突き出す

 

「水臭いヤツだな」

 

イクサが歩夢の左拳に自身の左拳をぶつける

 

「当たり前だろ。オレたちは相棒なんだから」

 

 

『ーいいコンビだね、2人とも。ちょっと妬いちゃう』

 

2人の背後から、青白い燐光に包まれた翠の髪の女性が現れる

 

「ルテミア…‼︎」

『久しぶり。イクサ』

 

ルテミアが微笑む

 

『これだけはどうしても伝えたくて、最後の力振り絞ってきちゃった。ごめんね、死んじゃって…』

「謝る必要なんかねぇ……謝らなきゃならねぇのは、オレの方だ」

『ううん。イクサも、アユムも…利用されただけ。どのみちグルジオアンタレスの中で私の体はもう、死んでたから』

 

ルテミアはイクサの手を取る

 

『イクサ。あなたのおかげで私は、最後まで守りたいもののために前を向いて、胸を張って戦えた。あなたの背中に憧れて、ずっと追いかけ続けてきたからだよ、イクサ』

 

ルテミアはイクサの頬に触れ、少し背伸びをしてその唇に唇を重ねる

 

『本当に、本当にありがとう。イクサ』

 

イクサから離れたルテミアは歩夢へと歩み寄る

 

『アユム。イクサの手を掴んでくれてありがとう』

「ーなんてことはないことよ。私は、私にできる精一杯をしただけだから」

 

ルテミアは右拳を突き出す

 

『ー私の想いも、あなたに託すわ』

 

『だから、イクサと一緒に作ってね』

 

 

『誰も憎み合うことのない、そんな世界を』

 

 

ルテミアの頬を涙が伝う

 

体を覆う光が強くなると共にルテミアはグルジオへの変身に使っていたあの円盤型のデバイスを取り出す

 

『私の想いの力、2人に託すね』

 

ルテミアは体が光の粒子となって解け、手にしていたジャイロに宿り、その形状が変化していく

 

(もく)」と「(ごん)」の文字が刻まれた円盤型のアイテムーホシミノカガミに変化したそれが、2人の手に収まる

 

「イクサ‼︎」

「ああ、行こうぜ歩夢‼︎」

 

歩夢とイクサがイクサファーナスを身につけた拳をぶつける

 

 

《リンケージ:ウルトラマンイクサ》

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

グルジオアルテミスが光となって入り込んだまま動きを止めていたイクサは項垂れたまま動かない

 

「歩夢隊長……イクサ……‼︎」

 

心配そうにアルバトロスのコクピットから見つめる水輝

 

ぴくり、とイクサの指が動く

 

その目に光が戻り、カラータイマーが赤から青へと変化する

 

 

ーゥ、オォォォオォォォォォォ!!!!

 

 

獣とは違う。戦士の咆哮を上げ、イクサが天を仰ぎ、身に纏う闇を振り払う

 

真紅の体の、光の巨人が再び姿を現した

 

「ーやった!!!!」

 

水輝がコクピットで歓声を上げる

 

それを見据えていた火煙(ひえん)は驚愕に目を見開き、士官服はヒュウと口笛を吹く

 

ガウルはその光景を見て驚愕に表情を歪ませ、わなわなと震えながら立ち上がる

 

 

闇を振り払ったイクサの前に分離した闇が再集結し、影の人形のような巨人が現れ、よろめく

 

【バカな…バカな……!?なんで、なんで私を吐き出せたァァ!?】

 

黒い人影ー精神寄生体ビゾームは頭部と胸の裂けたような黄色の発光体を脈動させながらイクサを睨む

 

「こっちも負けてられないのよ。あんたらみたいなのをぶっ飛ばすまではね!!!」

 

歩夢の啖呵を聞いてか聞かずか、ビゾームはその右腕から黄色の光の剣を伸ばして構える

 

イクサもホシウミノツルギを取り出し、その剣と撃ち合う

 

 

「ッッッ!!!ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

ガウルが咆哮と共に光球に変化し飛翔、イクサの背後にワロガとなって巨大化し、腕のアームランスで斬りつけその体を掴む

 

『ワロガ…!?』

『何故だぁ…何故お前は、お前は生きているゥ!!!』

『死んでやった気は、ねぇからなッ!!!』

 

イクサはエルボーでワロガをどかし、その刺突を回避して腕を掴み回転しながら放り投げ、ビゾームに激突させる

 

衝突し、もがくビゾームにアームランスを叩きつけ振り払う

 

『邪魔だ愚図がァァァァ!!!イクサ、イクサァァァァ!!』

 

獣のような怒りの咆哮と共にワロガがイクサを見据える

 

『なんでだ、なんでお前は、お前は立ち上がるゥ!?全て、全て全て全て全て全て奪ってやったんだぞ!?お前の恋人ルテミアも!!そこに一体化した地球人の大事な仲間もォ!!あのリンケイド星人と怪獣もだァァァァ!!!』

 

「残念だったわね。ルシルは生きてるわ。私の自慢の仲間が、助けてくれたからね。それにー」

 

歩夢は自分の胸を掴む

 

「ーランダルだってここにいる。あんたは、なんも奪えてなんかいないのよ!!」

 

『ーッ!!!!!』

 

ワロガがたじろぎながら叫ぶ

 

『ーハ、ハハ‼︎ 滑稽だなァァ‼︎誰も憎まない世界なんか望んでおいて、お前は、結局私を仇討ちとして殺すんだろう!?お前も結局、私を憎んで殺すんだ!!ハハハハハハァァァァ!!!』

 

ワロガの言葉に歩夢は首を振る

 

 

「そうよ。私はあなたが憎い。でも、あなた個人を憎むんじゃない」

 

「私は、あなたのような人の命を弄ぶ悪そのものを憎んで怒って戦い続ける!!その最中で背負った悲しみも、憎む痛みも、私たちで終わりにするために!!」

 

「私はー」

『オレはー』

 

 

「『痛みを知る最後の1人として戦い続けるッ!!!』」

 

 

『綺麗事を、ほざくなァァァァ!!!!』

 

ワロガがアームランスから光線を放ち、ビゾームも便乗して頭部発光体から光線を放つ

 

それに向けてイクサが手を伸ばすと、その中にジャイロ型の鏡のようなデバイスが現れ、光線を受け止めてワロガとビゾームに弾き返す

 

『ワロガ‼︎お前が奪ったつもりのルテミアの魂と想いの力、今からそいつを見せてやる!!!』

 

 

イクサのインナースペースで歩夢もホシミノカガミを手にすると、首から下げていたガイアルドの勾玉が光を放ち、歩夢の前に浮かぶ

 

石のようだった表面が剥がれ落ち、クリスタル状になったそれーホシイクルマガタマを歩夢は手にする

 

正面に構えたホシミノカガミを左腕のイクサファーナスに装着、中央のくびれ部分にホシウミノツルギをスロットし、(つば)の部分まで下ろし鏡と剣を合体。円盤型の唾を持つ一振りの剣となったそれの鍔中央に、更にホシイクルマガタマを装填する

 

一振りの剣となったそれが光を纏い縮小、イクサファーナスを覆う金と白銀の装甲のような形となる

 

拳を前に構えた歩夢が、裏拳のように拳を振るう

それを背中合わせに現れたイクサが同じように振るった拳で受け止め、2人の左腕が交差する

 

 

《集うは五元(ごげん)‼︎ 束ねるは星の命‼︎》

 

 

歩夢がニッと笑い、イクサが頷く

 

 

「『イクサァァァァァァァァァァ!!!!』」

 

 

《マキシマムリンケージ‼︎》

 

《ウルトラマンイクサ・五元絢爛(ごげんけんらん)!!!》

 

 

イクサの赤い体が白銀に変化し、金色のラインが走る

手足の先には金と銀に彩られ、「()」と「(ごん)」が刻印された手甲と具足が装着され、腰の背面から装着された「(もく)」が刻まれたエンブレムからベルトと腰布が伸び翻る

 

背中には青い光と共に「(すい)」が刻印された天女の羽衣のようなパーツが浮遊し、カラータイマーに重なるように「()」の刻印が刻まれたプロテクターが纏われる

 

ーサァァァァァァァッ!!!!

 

生きゆくものの意志、遺された魂、その全てを背負い纏う絢爛なる姿になったイクサが光の中から現れ、ワロガとビゾームに立ち塞がる

 

 

「きれい……‼︎」

 

水輝が新たなる姿のイクサを見て思わず声を漏らす

 

『コケおどしがァァァァ!!!』

 

ワロガが咆哮し、両の手を揃えてイクサに向けてエネルギーをチャージして赤黒い収束破壊光線として放つ

 

ーサッ!!

 

それに対し、イクサはその場から動かず、手を振るう

それに合わせて背面の帯型のユニットーワダツミノオビが伸びて駆動し、渦を巻いてその光線を絡みとる

 

ーサァッ!!

 

イクサが腕を振るうと共にその絡み取られたエネルギーが打ち返され、ワロガの体に炸裂しその体を吹き飛ばす

 

ビゾームが入れ替わりに光の剣を振るいながら近づいてくるが、歩夢とイクサは左腕を前に突き出し、その手の甲にある装甲の中央をタップすると装甲が元の白銀の剣の姿に戻り、右手に収まる

 

《ホシノハバキリ!!》

 

ビゾームの振るう剣をホシノハバキリでイクサが受け止める

 

ーサァッ!!

 

光の剣を払い上げ、ガラ空きになった胴に黄金の一閃が叩き込まれる

ダメージによろめきながらもビゾームは更に剣を振るうがイクサはホシノハバキリを流麗な剣技をもって振るい、受け流し押し込んでいく

 

ホシノハバキリの一閃でよろめき、ワロガの方へ後退したビゾームを前にイクサがホシノハバキリを構える

 

インナースペースで歩夢が剣身と柄を引く

 

《火》《水》

 

多元連星(たげんれんせい)‼︎ 二連星(にれんせい)‼︎》

 

火と水の刻印を光らせ、トリガーを引くとホシノハバキリに紅蓮の炎と紺碧の水が吹き出し、渦巻く

 

ーサァァァァァッ!!!

 

火と水の力を纏い、大きく伸びた刀身が縦横斜めとワロガとビゾームをまとめて斬り裂き、大ダメージを与える

 

『がァァァァア゛ァァァァァァ!!!』

 

半狂乱となったワロガとビゾームが共に最大出力の光線を放つ

 

《水》《金》《土》

多元連星(たげんれんせい)‼︎三連星(さんれんせい)‼︎》

 

3つの力を解放したホシノハバキリを大地に突き刺すと、イクサの目前に岩石で構築された盾が現れ、その表面に氷が纏われて鏡面となり、放たれた光線を受け止めそのまま撃ち返し、ワロガとビゾームの体を吹き飛ばす

 

「決めるわよ、イクサ!!」

『ああ!!』

 

インナースペースの歩夢が剣身と柄を引いたままキープ

刻印の発光が一周すると同時に戻し、もう一度引き戻す

 

 

《束ねるは想い、重ねるは星の命‼︎》

 

 

体の正面に構えたホシノハバキリが金色に発光、刀身が消え鍔飾りが5つの鏡に分離し、イクサの周囲を周りエネルギーを貯めていく

 

その中心でイクサは両腕の手甲を重ねて擦り合わせ、金のエネルギーを纏う

 

周遊していた鏡たちが再び鍔飾りの形に集まり、イクサの目前に大きな星型のエネルギー陣を生み出す

 

 

「『フィフスライズ、光線ッ!!!』」

 

 

イクサが十字に組んだ腕から五色の光線が迸り、エネルギー陣の黄金のエネルギーも取り込んでワロガとビゾームに向けて放たれる

 

『チィッ!!!』

 

ワロガはビゾームの体を掴み、自身の目前に突き出す

光線は盾にされたビゾームに直撃し、黄金のエネルギーをスパークさせて光の柱となりながら爆散する

 

再構築されたホシノハバキリを掴み、手甲に装着し直したイクサが悠然と屹立する

 

 

その戦闘を見ていた火煙は自身の顔を手で覆いながらイクサを睨む

 

「ア゛ァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

怒りの絶叫を上げながら火煙はその姿を闇に消す

 

 

「いやぁー中々いいものが見れた。面白かったなぁ、ワロガの復讐劇。他の異星人連中も捨てたもんじゃないな」

 

キシシ、と笑いながら士官服が手を叩く

 

「ーさてと、我が主もそろそろお怒りだろう。『演出家』としては面白くないことだ……」

 

「そろそろオレ様も、第二幕とするかねぇ」

 

 

ぼろぼろの姿になったワロガーガウルがふらふらと路地裏を歩み、ゴミ袋の山の中に倒れ込む

 

「ぐゥゥゥゥゥゥ……‼︎」

 

獣のような唸りを上げながらガウルは自身の顔に爪を立て、ぎちぎちと引きずり傷を作る

 

「ァアァァァァ……ガァァァァァァッ!!!」

 

黒いネイルに滴る血に気を留めることもなくガウルは天を仰ぎ、獣じみた絶叫を上げた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

B班基地に戻ってきた歩夢を水輝が迎える

 

「おかえりなさい、歩夢隊長」

「ただいま、水輝」

 

笑い合う2人だったが水輝はフラつき、歩夢が慌ててその体を支える

 

「っとと……あれ、なんか、めまいが…?」

『働きすぎだ馬鹿者。他の連中が療養してる上、他に動ける面子が民間の異星人3人だけの中、何人分の仕事をしていたと思っている』

 

現れたガルブが苦言を呈する

 

「全く無茶しちゃって…休んどきなさい。残ってることはしばらく私がやるから」

「ぐぬぅ……歩夢隊長に言われるとなんか敗北感……」

 

などと言いながらもガルブに連れられ、療養室に水輝が連れていかれる

 

『やれやれ、やる事はまだ山積みって感じだな』

「そうねぇ…黒斗の感じも気になるし。まだまだ倒さなきゃいけない悪党はごろごろいるみたい」

 

歩夢が左腕に装着したイクサファーナスをつつく

 

「まぁ、私たちなら大丈夫よ。きっと」

『相変わらず楽観的だなぁ…』

 

ぼやきながらもイクサもまた頷く

 

『まぁ、それに関しては全面同意だがな』

 

イクサの言葉に歩夢が微笑み、伸びを一つするとB班基地に向かって歩んでいった




特殊自衛隊内で暗躍する存在
その調査とGBCTの建て直しに励む歩夢たち

そんな中、街中に突如怪獣が出現
駆けつけたイクサの前で怪獣は煙のごとく姿を消す

現れ続ける怪獣
ウルトラマンに募る不審

人々の恐怖を煽るかのごとく
蜃気楼の怪獣は再び現れる

次回ウルトラマンイクサ
「疑心暗鬼と蜃気楼」

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