ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

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第27話「疑心暗鬼と蜃気楼」

『怪獣怖いですよね。私たちの家とか潰されたら…』

 

『そりゃあ怖いよ。デカいし、炎とか吐くしな』

 

『怪獣保護とか言われてるけど、保護した怪獣が暴れ出したりしたらって考えたら気が気じゃないわ』

 

『この前なんかウルトラマンとかだって暴れたしー』

 

 

ちゃぶ台を挟んでニュース番組を眺めていた歩夢(あゆむ)がはぁとため息を吐く

 

「……耳が痛い限りね…今は反論のしようがない…」

 

その様子を見ていた駿河(するが)が頷く

 

「GBCTは凍結済みで活動しようもんなら特殊自衛隊がスッ飛んでくるわ、隊員のまだ半分は療養中だわ、ズタボロもええとこじゃしな」

 

現在ヴィクターB班の秘匿基地に拠点を移したGBCTは駿河の言う通りボロボロだった

 

 

イクサ暴走事件から1週間

GBCTは凍結され、歩夢たちも絶賛指名手配中

 

隊員資格が剥奪された以上、隊員たちも作戦行動に移るわけにもいかず、秘匿基地で療養しながら今後の策を練るしかない状態

 

不気味にも特殊自衛隊は動きを見せておらず、駿河の部下の(りん)とデイズが内部調査を続けている

 

怪獣や侵略異星人の出現がこの1週間は無いことが幸いだった

 

 

「しかし黒斗(くろと)が怪獣の力を使うとはのぉ……」

「……私もまだ信じられないわよ」

 

特殊自衛隊司令官・大紋(だいもん) 黒斗(くろと)は歩夢の目の前で怪獣トライキングー歩夢たちの前に何度も現れたあの合体怪獣に変身して見せた

ヴィクターA班のガウルーワロガ606の技術により手に入れた力だと笑いながら

 

「ぶっちゃけガウルは怪しい思うとったんじゃが黒斗まで真っ黒とは予想外じゃ。あいつはそんなことせんと思うとったが……」

 

歩夢同様、駿河も黒斗とは付き合いが長い。だからこそ落胆を含むようなその言葉だった

 

駿河の言葉に歩夢は重い口を開く

 

「……私は、まだ黒斗を信じたい」

 

駿河が歩夢の方を真剣な目で見据える

 

「黒斗は容赦ないし、痛いとこずかずか突いてくるいやーなヤツだけど…でも、人の道から外れる道は選ばない。最善を選ぶけど、道からは外れたりしないのが黒斗だから」

 

「ーまぁ、私がそうあって欲しいと思うだけだけど。いくら嫌なヤツでも、命の奪い合いとかしたくないし」

 

歩夢があはは、と頬をかく

 

駿河はそれを聞いてカッカッ、と笑う

 

「まぁワシもヤツは疑いとう無い。歩夢隊長の決定じゃ、信じれるとこまでとことん信じてみんとな」

「ありがと、駿河」

「気色悪!?素直に礼なんかよせや⁉︎」

「あんた喧嘩売ってんの!?」

 

などと言いあっていると駿河の通信機に着信が入る

 

「ー凛か、どうした?」

『特殊自衛隊基地に問い合わせに来て追い返されそうになっている少年がいまして』

「?なんじゃ、別にそんなん気にせんでも……」

『それが、怪獣を目撃したと証言しているのですが誰も取り合っておらず…』

 

凛の言葉を聞いた駿河が歩夢を見つめ、歩夢が頷く

 

「ー特殊自衛隊連中に悟られんよう案内してくれ」

『ー了解』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

駿河の指示を受領した凛が秘匿基地に連れてきた少年が待機所に来て歩夢たちを見つけると目を丸くする

 

「GBCTの歩夢隊長!?なんで…」

「あー、それは色々訳ありなんだけども…」

 

コホン、と駿河が咳払いする

 

「坊主、怪獣を見たってのはホントか?」

 

駿河の問いかけに少年はしっかり頷く

 

「ホントだよ。あと俺は坊主じゃない。吉井(よしい) (あきら)って名前があるんだ」

 

「玲か…どんな怪獣を見たんじゃ?」

 

駿河の問いに少年ー玲は少し目を伏せながら答える

 

「白い…なんか山みたいな怪獣。よく見えなかったけど、手の先がハサミみたいな感じだった」

「山みたいな、ハサミ状の手を持つ怪獣…」

 

玲の言葉を聞きながら歩夢がタブレットからアーカイブを調べていく

 

「よう見えんかった…?すぐおらんくなったんか?」

「いや、しばらく棒立ちしてた。ピクリとも動かなくて…なんか全体的にゆらゆらしてて…」

 

玲の言葉に駿河が頬を掻く

 

「……なんか煮えきらんのぉ…写真とかは無いんか?」

「……撮ろうとしたら、もう、いなくなってて…」

 

その言葉を聞いた駿河があからさまに落胆したため息を吐く

 

「なんじゃ、冷やかしか…」

 

駿河の言葉に玲が怒声を上げる

 

「冷やかしなんかで特殊自衛隊にまで行かない‼︎俺は本当に見たんだ‼︎白い山みたいな怪獣がいきなり現れて消えたの‼︎」

 

凛がタブレットを操作し告げる

 

「過去一週間に五道(ごどう)市内で巨大生物の出現報告、反応はありません。怪獣が五道市内に出現した可能性は限りなくゼロです」

「流石にこの状況でも怪獣が出たら特殊自衛隊でも動かないワケ無いしな。やっぱ冷やかしだろ」

 

凛とデイズの言葉に玲も言い淀む

 

「ーデータベースに類似の怪獣は無し、か…」

 

歩夢がタブレットを閉じて立ち上がり、玲の肩を叩く

 

「じゃあ現地調査行きましょうか。私と…苑樹も多分大丈夫そうね」

 

歩夢の言葉に駿河が目を丸くする

 

「な、何バカ言っとんじゃ⁉︎お前自分が今指名手配中なの忘れとるんか!?」

「忘れてないわよ。変装するから大丈夫よ」

「いや大丈夫なワケあるかぁ!?」

 

ツッコむ駿河を置いて歩夢は玲の背を押して苑樹たちのいる医務室に連れて行く

 

その様子を見て駿河は何度目かわからないため息を零す

 

「……変わらんなぁ歩夢…相変わらずアホじゃ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

秘匿基地医務室

 

「はぁ…流石に体が鈍って来そうだな…」

 

大介がパイプ椅子に腰掛けたまま肩を回しながら呟く

腹部などを撃たれたりしてその上で動き回ったせいもありまだ本調子になっていない1人でもある大介はガルブからも安静を言い渡されたままだった

 

「……すまない。こうでもしないと足止めできないと思って…」

 

その隣のベッドで上半身を起こしていたルシルが申し訳無さそうに答える

グルジオアンタレスの毒に侵され黒ずんでしまっていた髪をバッサリ切り、ショートヘアになっているが体調は安定しているようだ

 

「全く、容赦なくやってくれたよな…」

 

はぁとため息を吐く大介を見て目を伏せるルシルの背を大介がさする

 

「今度は俺たちにちゃんと相談してくれよ。俺たちは…俺はルシルの味方なんだから」

 

大介の言葉を聞き、ルシルが微笑む

 

 

リュウの寝るベッドの隣に座った苑樹(えんじゅ)がおっかなびっくりリンゴの皮を剥いている

 

「……まだ目はよく見えないのか?」

「…ッ、細かいところは…まだ少し…ッ」

「じゃあ、無理しなくていいって…見てるこっちが怖い…」

「大丈夫…これくらいならーッ⁉︎」

 

案の定手元を誤り、苑樹が指を切り思わずリンゴと包丁を置いて指を咥える

 

その手をリュウが取り、手元の救急箱から絆創膏を取り出して傷口に貼る

 

「ほら、無茶するなよ」

「……ごめんなさい」

 

申し訳無さそうに目を伏せる苑樹の前からリンゴを取り、しゃくっと豪快に食べる

 

「美味い。ありがとうな」

 

励ましてくれているらしいリュウの笑顔を見て苑樹は照れ臭そうに頬を赤らめる

 

「はいはい失礼〜隊員のみんな、体調はどうだい?」

 

病室に入ってきた歩夢を見て隊員たちは各々顔を綻ばせる

 

「なんだかんだ俺たちより重症だった体調が一番ピンピンしてんの、敵わないな…」

「フフッ、そうだな。あれだけのことがあったのに」

 

笑い合う大介とルシルに歩夢も混ざる

 

「ルシル、体調はどう?」

「毒の方はもう大丈夫だが、まだ体力が回復しきっていない気はするな…まだ少し目眩はする」

「まぁ、あれだけの重症だったもんね…」

 

笑みを見せながらもどこか不安そうなルシルに気づいた歩夢はその肩を優しく叩く

 

「大丈夫よ。今回の騒動でルシルが怪獣を操ってたのは公になってないし、むしろ何かあっても私がきっちり話付けるから」

 

「あなたは、侵略者じゃない。この星でやり直していきましょう。きっと、できるから」

 

優しく手を握りながらニッと笑って告げる歩夢を見て、ルシルは思わず涙を流しながらただ頷く

 

「……こういうところも、敵わないな」

 

 

「リュウは傷の方はどんな感じ?」

「オレとしてはもうそこまでなんだけど…ガルブの爺ちゃんがまだ休んでおれ、って」

「貫通してたのがもう治ってるのはさすがね」

 

隣に座る苑樹に視線を向ける

 

「苑樹のほうは、目は大丈夫なの?」

「傷ついた角膜はもう塞がってますが…まだ少し見えにくいですね。ホロボロスはもう回復しましたが、ティグリスはまだ眠っていますし…」

 

膝の上に乗せた銅鏡を苑樹が心配そうに撫でる

 

「やっぱりこの中で動けそうなのは私と苑樹くらいね…」

 

歩夢の言葉にリュウと苑樹が首を傾げる

 

「?なんかあったのか?」

「怪獣が現れたって報告があったの。だから調査にね」

 

歩夢の言葉に苑樹が眉根を寄せる

 

「……わたくしたちは、指名手配されてる状態のはず…行動しても大丈夫なのでしょうか…?」

 

苑樹の言葉に歩夢はニッと得意げな笑顔を見せる

 

「なに、バレなきゃいいのよこういうのは」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

五道市 金西(きんせい)

 

「まさかここで目撃されてたとはねぇ…」

 

はぁ、とため息をつく歩夢はいつもとは似ても似つかない服を着ていた

黒のフード付パーカーにダメージジーンズ、更に青い大きなサングラスにくすんだ黒のウィッグまで付けている

 

「金西町…確か、歩夢隊長の家もこの近くでしたよね?」

 

隣の苑樹がハンチング帽を軽く上げながら聴く

苑樹は白のセーターに薄緑のカーディガンを羽織り、茶色のロングスカートを着ていた

 

「そそ。しばらく帰ってないから郵便溜まってるだろうなぁ…」

 

あはは、と乾いた笑いを漏らす歩夢を側にいた吉井 玲少年がどこか胡散臭そうに見上げる

 

「…本当に怪獣、なんとかしてくれるの?」

「見てみるまでは断言できないわね。保護するか、倒すか、どちらにするのか決めなきゃだし」

 

歩夢の言葉を聞いた玲は唇を噛む

 

「……GBCTは、怪獣とか悪い宇宙人を匿ってたんだろ?」

「ーな、それは…‼︎」

 

玲の不躾な問いに苑樹が歩み出しかけるが、歩夢が制する

 

「……本当にそう思う?」

 

真剣な表情で歩夢は玲に目線を合わせ問う

玲はふるふると力無く首を振る

 

「……わかんなく、なった」

 

「この前、ウルトラマンが暴れたりして大騒ぎだったし…」

 

玲もまた歩夢の目を見据える

 

「俺の母ちゃん…GBCTの人に助けてもらっててさ。あの岩みたいなうねうねってした怪獣から…だから、悪い人たちじゃないって信じたいけど…」

 

「……そっか」

 

歩夢はそれだけ告げ、玲の頭をわしゃっと撫でる

 

 

「それならそれでいい。私は、私たちはまた、信頼を積み上げていくだけだからさ」

 

 

ニッ、と笑って歩夢が告げる

それを見ていた玲。その目線が上に行き、見開かれる

 

「ー怪獣!!!」

 

咄嗟に振り返る歩夢と苑樹

その目前ー金西町の街中には巨大な影が屹立していた

 

白く、横幅の広い体格をした怪獣

背中には大きな裂け目があり、その腕にはハサミが備わっていた

 

白い怪獣は街中に立ち尽くし、その姿を揺らめかせていた

 

「……何も、してこない…?」

 

思わず呟く歩夢

 

周りでも野次馬がちらほら集まり、悲鳴を上げるものもいたが怪獣はピクリとも動かない

 

GBCTパッドを取り出し分析していた苑樹が告げる

 

「生体反応…どころか熱源もほぼ見られません。あれは、あの場所にいない何かの影…のようなものでしょうか?」

「…わからないわね。ひとまず映像記録は残しとかないと」

 

歩夢もGBCTパッドを取り出し、立ち尽くす怪獣の画像を記録していく

 

と、カメラ越しの怪獣の輪郭がやけにハッキリとして見えたことに歩夢が気づき視線を上げる

 

 

ークァァァァァァオォオォォォン…‼︎

 

 

緩慢な鳴き声を上げ、怪獣は突如動き出し目の前のビルを破壊した

 

「なっ!?」

 

見物客と化していた野次馬たちもたまらず悲鳴を上げながら逃げ出す

 

「苑樹は玲を連れて下がって避難誘導を‼︎」

「わかりました‼︎」

 

苑樹が玲を下がらせ、その姿が見えなくなったのを確認して歩夢はイクサファーナスを構える

 

「行くわよ、イクサ!」

『おう‼︎』

 

 

《リンケージ:ウルトラマンイクサ》

 

 

ーサァッ‼︎

 

ゆっくりと歩を進める怪獣の側に赤い巨人が降り立つ

 

ークァァァァァァオォオ…

 

怪獣はイクサの出現を意に介することなく町を破壊しながら歩んでいく

 

『こいつ、待ちやがれ‼︎』

 

イクサが怪獣に側面から掴みかかる

 

その手が白い巨体をすり抜け、空を掴んだままよろめく

 

「は⁉︎」

『なっ!?』

 

あまりの出来事に呆気に取られたイクサが振り向くが、怪獣はやはり気づくことなく歩みを進めていく

 

その足元では車が踏み潰され、爆炎が上がっていた

 

「実体はある…のよね?」

『でないと町を破壊してんの説明がつかねぇ…‼︎』

 

ーサァッ‼︎

 

イクサは大きくジャンプし、怪獣の目前に着地する

 

『なら、こいつはどうだ‼︎』

 

イクサが手から赤い光弾を放つ

 

が、直撃する目前で怪獣の姿が空間に溶け消え、ターゲットを失った光弾がビルに当たり、炎を上げる

 

『しまった…‼︎』

 

消えた怪獣を探して辺りをイクサが見回す

 

怪獣はどこにもいなかった

 

ただ炎上する建物や破壊された町並みが怪獣が「たしかにいた」ことだけを証明していた

 

 

「何しにきたんだ‼︎宇宙人‼︎」

 

 

呆然とするイクサに罵声が浴びせられる

思わず下に目を向けると、そこには民間人たちが集まって声を上げていた

 

「怪獣と戦うんじゃなかったのかよ‼︎」

「また逃したの、グルだからだろ‼︎」

「暴れるんならこの星から出て行け‼︎」

 

数人ほどの集まりがちらほらとイクサに口々に罵声を浴びせていた

 

「……思ったよりダイレクトに言われたら堪えるわね」

 

歩夢が唇を噛み、イクサが拳を握る

 

その罵声を背に受けながらイクサは静かに飛翔した

 

その様子を苑樹と見ていた玲は目を伏せていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

基地に戻った歩夢は水輝(みずき)、苑樹、駿河、凛、デイズ、そして玲と共に怪獣を写した映像記録を見返していた

 

「なんか妙なヤツじゃなぁ…歩き回るだけでなんもせん」

「無気力…っていうか、怪獣らしくない気はするね」

 

駿河とデイズが眺めながら呟く

 

「…歩夢隊長、これ‼︎」

 

水輝がタブレットの画面を慌てて歩夢に見せる

 

『ウルトラマンが都市を破壊⁉︎』

『やはり巨人は侵略者なのか』

『ヒーローの正体は赤い悪魔‼︎』

 

「何よこれ…確かに怪獣は逃したけど、ここまで書かれるの⁉︎」

 

タブレットに映されたニュースサイトの見出しを見た歩夢が驚く

 

「それが…」

 

水輝がニュースサイトの画像をクローズアップして表示する

 

そこにはイクサがただ1人写るのみで怪獣の姿はなかった

怪獣と相対した瞬間の画像で、怪獣が写らないはずはないのに

 

「怪獣が…写ってない…⁉︎」

「多くのニュースサイトの画像も同じ状況です…一部SNSなどの画像では共に怪獣が写ったものもありますが数が少なく、むしろそちらが合成じゃないのかとまで…」

「……どういうこと…?」

 

歩夢が記録されていた映像をもう一度再生する

 

が、まるでノイズがかったかのように怪獣の姿だけが乱れ、そのシルエットが徐々に薄れていく

 

「これって…⁉︎」

 

記録を見ていた苑樹が口を開く

 

「……もしかすると、あの怪獣は『記録にすら残りにくい』性質があるのかもしれません…出現当初のあの状態でも、怪獣は怪獣。町中に突然現れた怪獣を、玲くんだけが通報するのは冷静に考えたらおかしな話な気がしてきましたし」

 

「記録に残らない…まるで幻…蜃気楼みたいな…」

 

会議を眺めていた玲は歩夢たちを睨む

 

「…なんだよ、やっぱりGBCTも頼りにならないじゃん」

 

あんまりな言い方に水輝がムッとした表情を見せる

 

「ちょっと、それはー」

「水輝」

 

歩夢が水輝の肩を押さえる

 

「……俺、帰る…」

 

玲は踵を返し、基地から出て行く

 

 

「なんで言い返さなかったんですかぁ…」

 

玲がいなくなった後に水輝が問う

 

「言い返す資格が今の私たちにはなかったからよ」

 

歩夢が苦笑しながら返答する

 

「私たちがやってる怪獣保護は、ワロガたちの介入前から賛否が真っ二つに割れてる大変な話。理解を得るのも難しい話だった」

 

「事故みたいなモノとはいえ、私が急いたのもあって今怪獣保護の信用はほとんど無い。今私たちが何を言っても、疑われるだけ」

 

 

「失った信頼は、また一から積み上げていくしかない。裏表ない、私たち自身のやり方でね」

 

 

歩夢が水輝と苑樹の肩を叩く

苑樹が苦笑しながら答える

 

「先の長い話…でも、貴女らしくていい話でもありますね」

 

2人の肩に置いていた手そのままにパンパンとその背中を叩く

 

「よしッ‼︎ひとまず雲を掴むようなモノだけど、対策を練りましょう‼︎またいつ現れるか分からないのがネックだけど」

 

 

元気に告げた歩夢と共に会議を始める3人を遠目に眺めながらデイズが愉快そうに笑う

 

「なるほどなぁ、リーダーが気に入るわけだ」

 

隣で待機していた凛も目を閉じながら静かに頷いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

翌日

 

昼下がりの金西町のある公園のベンチで玲はカメラを弄っていた

 

「あの怪獣、なんとか写真に写して特殊自衛隊に見せてやる…」

 

歩夢たちに見切りを付け、物的証拠を押さえるために玲は意気込んでいた

 

その周りを歩く人々がスマホ片手に呟いていく

 

 

「ウルトラマン、また現れて街を壊したわね」

「やっぱ侵略者なんだなぁ、あいつ」

「カッコいいとか思ってたけど、ガッカリだわ」

「さっさと特殊自衛隊たちが倒してくれないかなぁ」

「もう出てこないで欲しいわね。怪獣もウルトラマンも」

 

 

ウルトラマンに対する猜疑心や敵対心がこれでもかと露わになった言葉たちを聞いて、玲はどこか胸が痛かった

 

昨日現れたウルトラマンは、怪獣を止めようと戦ったのだ

光線で建物を壊したのだって、怪獣が突然消えたからなのに

 

多くの人々の記憶から蜃気楼のように「怪獣」は消え、覚えている何人かも、多くの人に流されて幻だったんだと忘れていく

 

玲はそんなモヤモヤを振り切るように頭を振り、ふとカメラのレンズを覗きながらビルの方を見る

 

真昼間のビル街に、突如現れた白い蜃気楼に目を見開いた

 

 

ークァァァァァァオォオォオ…‼︎

 

 

蜃気楼の怪獣ーファルドンが再び姿を現した

現れたファルドンが街を壊しながら進む中、人々は悲鳴を上げながら逃げていく

 

玲は必死にカメラでその姿を撮っていくが、通りがかった警官に手を引かれる

 

「キミ‼︎危ないから一緒に逃げよう‼︎」

「待って‼︎まだ写真がー」

 

ークァァァァァァオォオォオォオ…‼︎

 

ファルドンが玲たちの近くのビルを叩き壊す

崩れたビルの残骸が降り注いでくるのを見た玲と警官が思わず顔を庇う

 

その2人を1人の人物が抱き抱えて転がり、瓦礫を回避する

 

「いつつ…‼︎間一髪ね」

「あ、歩夢隊長⁉︎」

 

あの変装スタイルの歩夢が現れたことに驚く玲

倒れた警官と玲を助け起こし、警官に玲を預ける

 

「この子を頼みます」

「了解しました‼︎」

 

警官が玲の手を引いて避難していく

玲は思わず後方を振り返り、歩夢の方を見る

 

歩夢は降り注ぐ瓦礫の中に走り込んでいき、土煙の中眩い赤い光が煌めくとそこから赤い巨人が現れ、ファルドンにアッパーを当てて吹き飛ばす

 

「ー歩夢隊長が…⁉︎」

 

 

ーサァッ‼︎

 

倒れてうつ伏せにもがくファルドンの背にしがみつき、羽交締めの形でファルドンを引き起こす

 

ークァァォオォオ…‼︎

 

『よし‼︎今度は掴めるー』

 

ガラ空きの背中にチョップを打ち込もうとするイクサ

 

だが、その瞬間ファルドンの背中の亀裂から吹き出した眩い光に吹き飛ばされると共に視界が奪われる

 

『クソッ、なんだよこの光…‼︎』

 

視界が回復したイクサは周りを見渡し、愕然とする

 

「嘘、でしょ…?」

 

 

そこには、街中を歩く無数のファルドンの姿があったのだ

 

ただ歩み続けるもの、立ち尽くすもの、ゆっくりと辺りを見回すもの

 

十数体の同じ怪獣たちが金西町に現れていた

 

『これ、どれが本物なんだ…⁉︎』

 

翻弄されながらも周りを見渡していたイクサは左側を歩んでいた個体が踏みつけた車が爆発したのを確認する

 

『こいつか‼︎』

 

咄嗟に飛びつくイクサ

だが、イクサの手はその巨体をすり抜ける

 

「違う、こいつは蜃気楼ー」

 

ークァァォオォオ…‼︎

 

ガラ空きになった背に背後のファルドンが鼻から放つ青い光線を命中させる

 

ーサァァッ!?

 

いつの間にか転移した本物を振り返り、キックを放つがこれもすり抜け、その間に遠くに佇んでいた一体が徐に目の前のビルを叩き壊す

 

それを見たイクサが光弾で攻撃するが、遠景のそのファルドンの体を虚しくすり抜ける

 

驚愕するイクサの右からゆったり歩いてきた個体のハサミ腕でのパンチがイクサの腹にめり込み、くの字に体を曲げたイクサが膝を突く

 

苦し紛れの拳はまたも空を切る

 

「瞬間的に蜃気楼と本体を入れ替えてるの…⁉︎」

『なら、移動できないくらいの速さで叩いてやればいい‼︎』

「んな無茶苦茶な…」

『今のオレたちなら、できるだろ?』

 

イクサの言葉の真意を掴んだ歩夢が微笑み頷く

 

「ーえぇ、そうだったわね‼︎」

 

 

歩夢の伸ばす手にホシノハバキリが握られ、それをイクサファーナスに通して合体させ、背後に現れたイクサと腕を交差するかのように裏拳を打ち合わせる

 

《集うは五元‼︎束ねるは星の命‼︎》

 

歩夢とイクサが共に腕を伸ばし、声を重ねる

 

「『イクサァァァァァァァァァァァァ!!!』」

 

《マキシマムリンケージ‼︎》

《ウルトラマンイクサ・五元絢爛‼︎》

 

ーサァァッ!!!

 

 

金と銀に彩られ、五元の鎧を纏う絢爛たるイクサが舞い降りる

 

ーサァッ‼︎

 

その背に負う帯ーワダツミノオビを渦巻かせ、辺りの蜃気楼たちを攻撃していく

 

そのほとんどはすり抜けてしまうが、最後の一体に手応えと共に纏わりつく

 

「そこっ‼︎」

《ホシノハバキリ‼︎》

 

ホシノハバキリを抜き、イクサが本物のファルドンに突撃する

ワダツミノオビに絡め取られたファルドンはもがくが帯は解けない

 

ーサァッ‼︎

 

イクサがホシノハバキリを振り抜く

 

が、その刀身は空を斬り、帯がすり抜ける

 

『なっ⁉︎』

「このタイミングで、瞬間移動⁉︎」

 

ークァァォオォオ…‼︎

 

イクサの左前方の蜃気楼が鼻から光線を放つのを察知しホシノハバキリで撃ち落とすが、その隙に背後の蜃気楼がイクサに組み付き身動きを止め、別の蜃気楼が放つ光線がイクサに突き刺さる

 

ーサァァッ!?

 

イクサが膝を突き、そのカラータイマーが赤く点滅する

 

 

警官と共に避難先のビルからそれを見ていた玲が息を呑む

 

(あの怪獣…本物はどこにいるんだ…⁉︎)

 

玲は辺りを見回すが、数多いる蜃気楼たちはどれも本物そのままで区別がつけられそうも無い

 

玲は唇を噛み締めながらもっと注意深く見ようとカメラ越しに蜃気楼たちを見る

 

ゆらゆらと揺れる蜃気楼怪獣たちを見た玲はあることに気づいた

 

「あのゆらゆら…なんか見たことが…」

 

ハッと玲は顔を上げる

 

「おじさん、それ貸して‼︎」

 

隣に立つ警官が持っていた避難誘導用らしいメガホンを手に取る

 

「あ、こ、こら⁉︎」

 

慌てる警官を放って屋上の柵に駆け寄るとイクサにメガホンを向けて思いっきり叫ぶ

 

 

「ウルトラマン‼︎周りを冷やして‼︎」

 

 

その声が届いたイクサが顔を上げる

 

『周りを冷やす…?なんでだ…』

 

疑問符を浮かべるイクサの代わりに歩夢が閃いたらしく手を打つ

 

「そうか、蜃気楼‼︎蜃気楼は空気の温度差とかでできる層で見えるモノだから、周りの空気の温度を同じにすれば…‼︎」

 

歩夢はホシノハバキリを手に属性を解放する

 

《水》《土》

《多元連星‼︎二連星‼︎》

 

水と土の力を纏った刀身を大地に突き立てる

 

それを中心に冷気が大きく広がり、円形状に凍りついた岩石の壁が周りにせり上がり、ファルドンたちを街ごと囲う

 

壁内の気温が少し下がると共に多くのファルドンたちがその姿を霧散させ、ただ一体だけが残る

 

ークァァォオォオ…⁉︎

 

突然の事態に右往左往するファルドン

その目前でイクサはホシノハバキリの水の力を解放し、唾部分の勾玉をタップする

 

 

《絢爛解放‼︎》

 

「『星降剣(ほしふりけん)水冷一斬(すいれいいちざん)!!!』」

 

 

イクサと歩夢の声が重なり、2人が剣を振り抜く

清廉なる水と冷気を纏う斬撃がファルドンを縦一文字に捉え、その体がぼろぼろと崩れ落ちていく

 

周囲の凍りついた岩石の壁が割れ、氷の欠片が降り注ぐ中イクサはホシノハバキリを振り、立っていた

 

 

それを見上げていた玲の側で警官が思わず呟く

 

「……ウルトラマン、やっぱ味方…なのかな…」

 

その言葉に玲は少し逡巡したが、頷いてみせる

 

「…うん、きっとそうだよ」

 

警官は微笑み、玲の肩を優しく撫でた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「にしてもあの怪獣、なんだったのかしら…」

 

基地内の座敷で足を伸ばしながら歩夢が呟く

 

「……蜃気楼の怪獣…記録に残らない怪獣…」

 

ちゃぶ台の前に正座し、同じように悩む苑樹

 

「もしかしたら…前に出たガンQみたいなのと同じ、なのかも…」

 

水輝がボソッと呟く

 

「…その心は?」

「いるかもしれない、いないかもしれない。全くわからないけど、現れたら街が壊され、記録に残らないから皆が誰かを疑う…」

 

タブレットを開きながら水輝が複雑な表情で呟く

 

「……それって、今五道市に渦巻いてる嫌な感じに近いから…」

 

タブレットにはSNSやネットニュースが表示され、様々な声が飛び交っていた

 

 

『あんな怪獣いたっけ?』

『GBCTが匿ってたんでしょ』

『でもウルトラマン怪獣倒したじゃん』

『わっかん無いなぁ、どうなってんの?』

『誰が悪者なんだ?』

『てか特自仕事しろよな』

『もう終わりだよ。怪獣出ても誰も信じられない』

 

 

スマホから見れる混乱を眺めながら大紋 黒斗は笑う

 

『ハハッ、アクシデント的な怪獣出現だったが…なるほどいい具合に観客席があったまってきたじゃないの』

 

お人形クンたち(特殊自衛隊)のいい起爆剤になってくれそうだなぁ、カカカッ』

 

愉快そうに男は笑う

 

机に置いた右手の袖から赤黒い蜘蛛が溢れ出してきていた




重なっていく猜疑心
募る不信感

それを祓うかのように霧慧の信徒は祈り歩く

祈りが導くかの如く空は割れ
現れる異形の凶星が大地に牙を剥く

立ち向かうイクサとテラ、そしてGBCT
空より来る怪獣の咆哮は嘲笑か、それとも涙か

次回ウルトラマンイクサ
「暗雲と惑星破壊」

怪獣は、やはり滅びの使徒なのか…?
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