ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

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物語の舞台となる町の名前について
「五道町」から「五道市」に修正しました

第1話での表記も直しています


第3話「決裂と約束」

『……今回の作戦概要は以上となる』

 

大勢の記者たちの前でランダルがそう締めくくる

それを聞いた記者たちが何度もカメラのシャッターを切り、会場がフラッシュに包まれる

 

歩夢(あゆむ)とランダルはサルファルドへの対処が成功したことからGBCT初の大規模作戦成功事例として会見を開いていたのだ

歩夢は渋っていたが、ランダルが『これもPRの一環だろう』と歩夢の背中を押す形でなんとか納得させた

 

「今回の作戦成功は我々にとっても大きな一歩です。怪獣の生態を理解し、それに的確な対処をすることで未然に怪獣被害を抑えることができた。以前のように怪獣とみれば即排除という強硬策だけではなくなったのです」

 

歩夢が立ち上がり、GBCTの活動がもたらした成果を告げる

それに一人の記者が手を上げ、質問する

 

「GBCの篠宮(しのみや) 水輝(みずき)と申します。質問いいでしょうか?」

「はい、どうぞ?」

「今回の作戦、最終的な成功はウルトラマンと命名されたあの赤い巨人が偶然協力してくれたことによるものが大きいのではありませんか?」

 

至極尤もな問いに歩夢は笑顔で答える

 

「たしかに、結果としてウルトラマンの助力を借りる形になったことは間違いありません。ですが、あの怪獣ーサルファルドへの治療作戦はキャリアーとセンチネル、現在のGBCT保有戦力で可能であることを綿密にシミュレートした上で可能と判断しています」

「結果論として成功したものを信じてあなた方の活動を容認しろと言われて、果たして何人が納得してくれるでしょうか?」

 

ずけずけと問うてくる水輝記者に歩夢は少し頬をひくつかせながらも答える

 

「我々の活動理念は今の世界的認識で誰も彼もが容認するのは難しいでしょう。でも、ここに成功した事例が一つできた今、理解を得ていくことは不可能ではないということはわかりました」

 

「ならば我々が為すことは一つ。ただ我々の理念と信念に従い、怪獣たちとよりよく折り合いを付けていけるように、我々としての最善をこれからも尽くしていく所存であります」

 

 

「っはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ疲れたぁぁぁぁぁ………」

 

盛大なため息を吐き出しながらスターゲイザーベースの指令室脇の休憩スペースで歩夢がソファに横になる

 

「……ったく、これだからこういうインタビューは苦手なのよ。私たちのことイロモノみたいに見てるというかなんというか……」

 

クッションを抱きながらうんうんと愚痴を垂れる歩夢

その左腕のガジェットが小さく光を放つ

 

『実際オレがいないと隊長も避難してる奴も死にそうだったろうが。なんだかんだいい話にしようとしてるが』

 

むっ、と歩夢が体を起こし、ガジェットの手の甲部分を睨む

 

「あんたの力なくても避難してる人らは助けてたし、ランダルは作戦きちんと終わらせてくれたわよ。ウルトラマン無しでも可能な作戦なのは単なる事実よ」

 

歩夢が手の甲部分を指で弾く

 

『どうだかな。危なっかしい作戦で見てられねーことになりそうだけどな』

「なにおう!?」

『……一人で何をヒートアップしてるのだか知らないが』

 

ビクッと手甲を押さえながら歩夢が振り返る

ランダルがタブレット片手に立っていた

 

『……各社からの質問やら報告書が山積みだ。私も手伝うから早く片付けるぞ』

 

歩夢がうへぇ、と渋い顔を見せた 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

霧慧神獣教の教主ー火煙(ひえん)は一人夜の林道を歩いていく

その手にはハンティングタリスマンが握られていた

 

ーキリ・キリ・エルキル・キリ・エルト・キル・キリ・キリエル……

 

経文のような文言を紡ぎながらその手からタリスマンを投げる

ふわふわと浮遊し、タリスマンは紫の光に包まれながら地面の中へと消えていった

 

それを見届け、火煙が微笑む

 

ーガォォォォオオォォォォン!!!

 

突如、火煙のいたはずの場所に巨大な何かが突き刺さる

 

常人には思えない身のこなしで一撃を避けた火煙がその一撃の主を見る

 

ーグルルルルルル…‼︎

 

そこにいたのは虎のような面を持つ四足歩行の怪獣

硬い甲殻に包まれた表皮と各所から伸びる硬質なトゲ、頭から伸びる二本の長いツノが特徴的な怪獣だ

 

ーガォォォォオオォォォォン!!

 

怪獣ーティグリスは確かな怒りの意志を持った金の瞳で火煙を睨み、威嚇する

 

「大地の牙。これはこれは、こんな場所で出会えるとは光栄ですね」

 

火煙は慇懃に一礼し、ティグリスを見遣る

 

「ワタシはただ、貴方がたが浄化を滞りなく行う為に祈りと供物を捧げているだけ。その爪と牙をお納めください」

 

ーガォォォォオオォォォォン!!!

 

火煙の宥めるような言葉にもティグリスは耳を貸さず、火煙に向かって突進をはじめる

 

「仕方ありません。貴方がたにこの手は使いたくなかったのですが」

 

火煙がフッと取り出した人型に息を吹き付け、空へ投げる

 

投げられた人型が紫の炎を上げて燃えあがり、その炎が巨大な人型を形作る

 

ーキリィッ!!

 

紫の炎で型作られた人型は鋭い蹴りを頭部に放ち、ティグリスを転倒させる

 

紫の炎の影は格闘技のような構えをとり、ティグリスを睨む

が、その姿は陽炎のように揺れ、消えていく

 

霧慧(きりえ)の神、その化身を一時お借りいたしました」

 

声は響くが姿の見えない火煙をティグリスが探る

 

「焦らないでくださいませ。貴方様がたの望む終末を全ての人々が受け入れる日は近いのですから」

 

教主の姿を見失ったティグリスは悔しそうに牙を鳴らすと、地底へと潜り姿を消した

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

翌日

 

「歩夢ちゃん今日は休みかい?」

「そう、久々のオフ」

 

「歩夢姉ちゃんテレビに出てたよね!歩夢姉ちゃんすっげぇんだな…」

「今更気づいたのかよ隼人……GBCTは凄いチームだっていつも言ってるだろ?」

 

「おう、歩夢嬢ちゃん!コロッケ買ってくかい?」

「おっちゃんのコロッケ美味しいからなぁ…一つおまけしてくれるなら買っていこうかな〜」

 

家近くの道を歩きながら道行く人々に言葉を交わしていく歩夢

 

『古馴染みばっかりなんだなこの街』

「ここ越してから10年くらいだからまぁね、特殊自衛隊の訓練生だった時から色々話してきたし」

 

肉屋のおじさんから買ったコロッケを頬張りながら歩夢が答える

 

『越してきた……ということは、歩夢はこの町の生まれではないのか?』

「まぁね。田舎の小さな村生まれだったんだけど」

 

と、歩夢が一瞬言葉を詰まらせる

 

「……まぁ、色々あってさ」

 

その脳裏に過ぎる炎の夜の記憶

遠吠えのような吠え声を上げる巨影

 

歩夢がコロッケを持つ手に少し力が篭る

 

『……お前も色々あったんだな』

「ちょっと何それ?私みたいなのがなんか暗い過去持ってるのがおかしい?」

『怪獣助けるためにいきなり攻撃までしてくる女がそんな感傷浸ることあるんだなぁってな』

「どういう意味よそれ…?」

 

口論を始めた二人を突然の衝撃が襲う

 

流石に只事では無いと立ち上がった歩夢が辺りを見回していると、GBCTパッドに連絡が入る

 

『……オフのところすまない。位置的にお前も既に知っているだろうが五道市金西町地下に巨大生体反応。地上に向けて浮上中だ』

 

 

ベキベキベキベキベキベキベキベキ…‼︎

 

コンクリートの地面を砕きながら町の地下を何かが進行していく

 

車や建物もその衝撃と振動で吹き飛ばされていく中、その「何か」は時々進行を止めながら地中を進んでいく

 

「皆さん指定の避難場所に避難を!!すぐに特殊自衛隊とGBCTが駆けつけますから慌てずに!!」

 

突如現れた怪獣に町の人々はパニックになり、散り散りに逃げていく

その人々に声を張り上げて歩夢が的確に誘導を行う

 

『怪獣が出たんだな⁉︎ さっさとぶっ飛ばしに行くぞ!』

「ぶっ飛ばさない‼︎ それにまだこの町の人たちの避難が終わってないんだからそれが先!!」

 

イクサの声に返答しながらも転んだ子供や老人を助け起こしながら的確に避難指示を行っていく

 

「歩夢嬢ちゃん!!」

 

息を切らしながら声をかけてきたのは肉屋のおじさんだった

 

「田中のおっちゃん⁉︎何かあったの⁉︎」

「角の松野の婆さんとこが、やべぇんだ…あの婆さんこの前ぎっくり腰になってたから多分まだ家ん中に…‼︎」

 

それを聞いた歩夢が避難している人々とは反対方向に駆け出す

 

『おい!怪獣を倒せばその婆さんも助けられるだろ⁉︎』

「そういう簡単な話じゃない!!」

『ハンターのオレならどんな怪獣もサクッと狩れる!そしたらこの町も守れるだろうが!!』

 

イクサの言葉に歩夢は耳を貸さない

 

『ああ!もう!!ちょっと体借りるぞ!!』

 

痺れを切らしたイクサが叫ぶ

歩夢がガクンと立ち止まり、振り返る

 

目つきが変わり、瞳の色がオレンジに輝いていた

 

「埒があかねぇ。ここはオレが終わらせてやる!」

 

歩夢の体を借りたイクサが人気の無い場所に移動し、イクサファーナスを構える

 

 

展開されたイクサファーナスにカードを差し込む

 

《アユム:イクサイテッド》

 

その腕を前に突き出し構え、右掌に打ち合わせる

 

《リンケージ:ウルトラマンイクサ》

 

「ハァッ!!」

 

左腕を掲げる歩夢の姿がイクサに変化し、巨大化していく

 

 

ーサァッ!!

 

ウルトラマンイクサが着地

コンクリートをめくり上げながら進む何かを見据える

 

が、突如膝を突き肩を上下するほど息を荒げる

 

『なんだ?力が……⁉︎』

 

体の異常を確認する様にイクサが自分の手を見る

その胸のカラータイマーは現れたばかりなのに赤く点滅していた

 

ベキベキベキベキベキベキ…‼︎

 

困惑していたイクサだが、迫る亀裂を見て立ち上がる

 

『それがなんだ‼︎ とっとと終わらせたらいい話だ!!』

 

その手にハンティングタリスマンーシマキルガから取り返したEXゼットンのタリスマンを取り出し、イクサファーナスに通す

 

《フォージング:EXゼットン》

《エンチャント:フレイム》

 

イクサの左腕に炎が宿り、迫る亀裂にめがけて拳を振り下ろす

亀裂に沿って爆炎が上がり、たまらず中にいた存在が飛び出してくる

 

ーキュルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……‼︎

 

現れたその怪獣はサルファルドと比べると小柄な怪獣。身長はイクサより頭一つ分ほど小さいくらい

 

リスのようなその怪獣は全身に棘のような金属光沢を放つ毛を持ち、体の倍は大きくたっぷりと針毛を蓄えた尾を持っていた

 

ーガリ、ガリガリガリッ…‼︎

 

手にした鉄骨を膨らんだ頬袋を揺らしながらかじる怪獣は油断なくイクサを睨む

 

『なんだこいつ…?まぁともかく、さっさとぶっ飛ばして終わりだ‼︎』

ーサァッ!!

 

イクサが構えると怪獣は手にしていた鉄骨を放り投げ、逆立たせた体の毛を発射する

イクサの体に何本も針毛が突き刺さり、一瞬怯むがそれを払い除け、イクサが怪獣の頭を燃え盛る左手で掴む

 

『オラァ!!』

 

身動きを封じられた怪獣に右腕に炎を纏ったイクサのアッパーが命中

その体を軽々と空中に打ち上げる

 

打ち上げられた怪獣からバラバラと何かが落ちてくるのをイクサが払う

 

『な、なんだこれ…?岩?』

 

ーキュルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

イクサ目がけて尻尾を抱え、体を丸めた怪獣が高速回転しながら落下してくる

 

金属質の針毛がイクサの体を削り、たまらずその場に倒れ伏す

 

イクサの体にバウンドする形で跳ねた怪獣は器用にビルの上に着地、スンスンと鼻を鳴らしどこか遠方を見やる

 

『この野郎……‼︎』

 

立ち上がり、反撃しようとするイクサの体の動きが止まる

 

『…人の体使って勝手すんのもいい加減にしなさいよイクサ…‼︎』

『歩夢お前…⁉︎ 人の体ってオレの体でもあるだろうが⁉︎』

『変身する前に体使っといて何言ってんのよ‼︎』

 

目を覚ました歩夢の意識がイクサの体を押さえていたのだ

 

『ともかく、あの怪獣はキャリアーの到着を待って分析してからー』

『おい!前!!』

 

イクサの警告よりも早くその体に衝撃が走り、再びイクサが倒れ伏す

 

ーキュキュキュ…‼︎

 

怪獣がその口から何かを取り出しながら手で器用に丸め、トゲ鉄球のようなものを作り出し、咥えて吐き出してきていたのだ

 

更に数個のトゲ鉄球がイクサに直撃、たまらず倒れたイクサが姿を消す

 

ーキュルゥゥゥゥゥゥ……

 

怪獣は消えたイクサにしばし首を傾げていたが、どこかに向けて視線を移す

 

その体にバルカン砲の攻撃が命中し、火花を上げる

 

飛来してきたのはハウンダー。特殊自衛隊が扱う黒い特殊戦闘機だ

 

3機は絶妙なコンビネーションで怪獣へ攻撃を加えていく

 

ーキュルゥゥゥゥゥゥ!!

 

鉄球をぶつけようにも遠すぎ、早すぎる相手を狙うのは難しいと判断したのか怪獣は高速で地面を掘削し、その中へと姿を消した

 

ハウンダー隊が退却していく中入れ違う形で追いついてきたキャリアーに乗るランダルが呻く

 

『……逃げ足が早いヤツだ…』

 

怪獣とイクサが格闘していた場をキャリアーから見下ろし、ランダルは何かを見つける

 

『……これは』

 

低空飛行していたキャリアーが近場の空き地に着陸し、ランダルがそこから降りていく

 

 

「はぁ、はぁッ……」

 

ダメージの残る体をよろよろと引き摺りながら、怪獣が暴れた跡の残る町を歩夢が急ぐ

 

肉屋の田中が言っていた角の家に辿り着き、そこに駆け込む

 

「松野婆ちゃん!!」

 

部屋を片っ端から開けて周り、歩夢が松野の姿を探す

奥の座敷に松野の姿を見つけ歩夢は安堵する

 

「よかった…松野婆ちゃん無事で……」

「あ、歩夢ちゃん…‼︎ 良かった来てくれて…あたしゃ怖くて怖くてもう生きた心地がしなかったよ……」

 

へたり込む老人に視線を合わせるように歩夢が膝を突き、その体を支える。よほどの恐怖に松野老人の声は震え、その足元は濡れていた

 

「……ッ」

 

松野老人には見えない位置で歩夢が唇を噛む

が、すぐに優しく微笑み歩夢が松野老人を助け起こす

 

「もう怪獣はいないから、ちょっと着替えだけして皆のとこ行こうか」

「……すまないねぇ…ありがとう歩夢ちゃん…」

 

松野老人に肩を貸し、立ち上がる歩夢

 

『……なぁ、歩夢ー』

「話しかけないで」

 

申し訳無さそうに声をかけるイクサにだけ聞こえるような小声で、今までの歩夢から想像がつかないような冷たい声でイクサの言葉を遮る

 

「……今はあんたと口聞きたくない」

 

 

日の暮れる中松野老人を避難所に届けた歩夢

金西町の人々は松野老人を預かると歩夢に口々に礼を言っていたが、歩夢はそれを上の空な様子で聞いていた

 

避難所から離れ、一人俯いたまま道を行く

道中、崩れた家や壊れた車など、怪獣が暴れたことで生じた被害が目に入る

 

「俺の新車がパーだ…」

「家のローンまだまだ残ってるのに…」

「うちの子、あんな大怪我して…血がたくさん出て生きた心地がしなかったわ…」

 

あちこちから人々の悲しむ声も聞こえてくる

 

「やっぱ怪獣なんかすぐに退治するべきだよ」

「あんなヤツら出てこなきゃいいのに」

 

怪獣への怨嗟の言葉を乗せて

 

俯いたまま唇を噛む歩夢のGBCTパッドに着信が入る

 

「……はい、こちら歩夢…」

『……歩夢か。まだ金西町にいるか?』

「ランダル…?いるけどどったの?」

『緊急事態だ。座標を送るから来てくれ』

 

それだけ告げ、GBCTパッドに座標が表示される

 

「ランダルのヤツ…どうしたってのよ…⁉︎」

 

 

送られてきた座標の位置に着くとそこには確かにランダルがいた

 

路地裏の壁に背中を預けてぐったりした様子のランダルがいた

 

『……来てくれたか…助かった…』

「……何してんのよあんたともあろう者が…」

 

呆れた様子ながら手慣れた様子でランダルを助け起こし、肩を貸す

 

『……面目ない。サンプルの採取に思ったより手こずって日が傾いてるのを忘れていた』

 

スタンデル星人には二つの種族がおり、それぞれに異なる体質を持っている

ランダルの種族であるレドルは昼の種族。日光に限らず、十分な量の光がある場所なら問題なく活動ができるが、暗闇の中では極端に衰弱してしまうのである

 

「全く。だから無理せず定時退勤で構わないって言ってるのにさ…」

『……どこかの鉄砲娘を放っておけなくてな』

 

ランダルの皮肉に苦笑いする歩夢

その顔をチラと見る

 

『……失敗したな』

「……うん」

『サルファルドと違って今回は街中だ。多くの人が傷つき、多くの人が色々なものを失った』

「………」

『怪獣を恨む声も多かったな。無理もない話だ』

 

ランダルを支えて歩きながら歩夢はランダルの言葉を黙って聞く

 

『……それでもお前は誰も恨まないのか?人間も、怪獣も』

「当然。恨むわけないわ」

 

歩夢がニッと笑って即答する

 

「ただ、めちゃくちゃに悔しいだけ」

 

俯く歩夢にランダルがフッと笑う

 

『……そうだな。それがお前だ』

 

『……なら、その新しい同居人ともさっさと仲直りした方がいいんじゃないのか?お前らしくない』

 

告げられた言葉に歩夢が目を丸くし、ランダルの方を向く

 

「な…⁉︎い…ッ⁉︎」

『……何故?いつ?サルファルドへの対処作戦の時、お前の座標がセンチネルから離れていたのにお前が無事帰ってきたことと、あの時現れたウルトラマンの動きの癖や行動がお前に近かったからあの時点で勘づいてはいたさ。伊達に副隊長呼ばわりはされていないからな』

 

ぱくぱくと口を開閉しながら驚く歩夢を愉快そうにランダルが眺める

 

『……その同居人と変われるのか?』

「……一応できるわよ」

『……なら、頼む。盗み聞きはしてくれるなよ』

 

ランダルの言葉を聞き、少し嫌そうな顔をした歩夢だったが、渋々ながら左腕のイクサファーナスでコツンと頭を叩く

 

歩夢の目つきが鋭くなり、オレンジの瞳に変化する

 

「……変わったぜ」

『……ふむ、一心同体になっているという認識で違いないようだな』

「こんな星にスタンデル星人が住み着いてるなんて珍しいな……しかも、あんなヤツの部下だなんて」

『実際、この星では最近こそ見慣れられてはいるが、来て特殊自衛隊連中と協力し始めた頃は異端の目でよく見られた』

 

ランダルが続ける

 

『……元々私は、異星の生態系を調べるために一人旅をしていた中でこの星に流れ着いた。ちょうど怪獣や異星人が認知され始めたこの星で、交流が可能な私のような友好種族は珍しかったのだろう。特殊自衛隊ーこの星の防衛機構の客員として私は招かれた』

 

『……怪獣を含めたこの星の生物の在り方は興味深く、私がこの星に住まうことを決めるのはそうかからなかったよ。課題は少なくなかったがね。孤独を嫌う訳ではないが、奇異の目で見られたり、避けられたりするのはあまりいい気はしなかった』

 

ランダルの言葉を歩夢の体を借りたイクサが静かに聞く

 

『……そんな私に、毎日のように会いにくる物好きが一人いたんだがね。それが歩夢だった』

 

『何度も押しかけ、聞いてもいないことをつらつら聞かせてくる。ウンザリだと思った時もあったが、それでも歩夢はたまに私が話すことも親身に聞いてスタンデル星のことを、私たちレドルという種族のことを知ろうとしてくれた』

 

『“異星人”の私ではなく、“スタンデル星人レドルのランダル”として、彼女は私と話してくれた』

 

「……昔から奇特なヤツだったんだな…」

 

『……めちゃくちゃなヤツだよ。子供の頃助けてあげられなかった怪獣がいる。その子みたいに、誰かに恨まれる怪獣も怪獣を恨む人間も生み出さないために私は戦うってGBCTを立ち上げて特殊自衛隊から出て行って』

 

面倒くさい、といったように言うランダルだがフッと自嘲気味に笑う

 

『……そんなヤツ、放っておいたら気が気じゃないと付いてきた私も大概なんだろうがな』

 

「……」

 

イクサはランダルの言葉を聞き、先のことを思い出す

 

『そういう簡単な話じゃない!』

 

松野老人を守ろうとし、あの怪獣も守ろうとした歩夢

荒唐無稽だし、めちゃくちゃな話だ

 

それでも、歩夢は本気なのだ

 

松野老人が怪獣を恨まないように、怪獣には何も奪わせず恨ませないように戦う。それが歩夢という「戦士」の戦い方なのだ

 

『……ウルトラマン、名をなんと?』

「イクサだ」

 

『……イクサ、これだけは知っていて欲しい。歩夢はかつて故郷の村をある怪獣に、識別名・ルーガルフに全滅させられている』

 

ランダルの言葉にイクサが目を見開く

 

『……それでもうちの隊長は、「あの子を救えなかった」と泣いたのだ。村の皆がルーガルフを傷つけて、ルーガルフが皆を傷つける最悪の形を防げなかったと』

 

「そんな……ことが……」

 

イクサの脳裏にフラッシュバックするイクサのかつての故郷

怪獣たちに滅ぼされ、火の海になっていく故郷の姿

 

(アレと同じ目にあっても、こいつは怪獣と向き合うのを選ぶのか…)

 

『お前が怪獣を何故狩るのか、恨んでいる…かは知らないが、そこまで何故目の敵にするのかは私たちは知らない。だが、もし歩夢がただのお人好しだと思うなら考えを改めておいて欲しいのだ』

 

『うちの隊長は、傷も痛みも、不条理も全部背負い込んで、それでも笑って怪獣と人間どちらにでも手を伸ばす。そんな「特別なお人好し」なのだ』

 

ランダルからの言葉が終わるが早いか、夜の町に再び大きな振動が起こる

 

「こいつは…⁉︎」

『……やれやれ、もう帰ってきたのか』

 

ランダルがよろめきながらも歩夢から離れる

 

「おい、ここで離れたらお前は⁉︎」

『……構わない。アボルバス族のように体が崩壊するまで闇に弱いという訳ではないからこれくらいなら少々動けなくなる程度だ。その前に歩夢にまた変わってくれるか?』

「あ、ああ」

 

イクサが歩夢の頭を小突く

オレンジになっていた瞳が元に戻る

 

「ランダル⁉︎ 怪獣がまた来たのね…‼︎」

『……悪いが今回私はこの場から動けない。作戦は用意できるが』

「作戦…?あるの⁉︎」

『……推測に推測を重ねた急ごしらえだがな』

 

ランダルを信頼する歩夢は頷き、その話を聞いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

避難していく人たちを横目に歩夢は路地裏に入り、イクサファーナスを構える

 

『歩夢…』

 

光に包まれた中、歩夢の正面に立つ形で現れたイクサが口を開く

 

『……その、なんだ。悪かった』

 

ぶっきらぼうに謝罪の言葉を口にするイクサ

 

「な、何よ急に…」

『オレは今まで、お前は何も知らずにどっち付かずで動いてるようなヤツだと思っていた』

 

『……だけど、お前にはお前の背負うものがあるんだってわかった。だから…改めて契約だ』

 

イクサが左拳を突き出す

 

『この星ではお前のやり方を、信じてみる。正直オレは怪獣を許せないし、倒すことが最善だという考えはまだ変わらない』

 

『だが、お前が前に怪獣も人間もどうにかして生かして終わらせたのを見た。お前と一心同体として戦うことを選んだ以上、オレはお前の戦い方をまずは信じてオレの力を託す』

 

イクサの言葉を歩夢は静かに受け止める

 

『……万が一お前が怪獣を倒せないし、人間たちも救えない、そんな時に戦えなくなったら今回みたいに無理矢理にでもオレが戦う。怪獣を倒すことになってもな』

 

それを聞いた歩夢は一つ、息を吸って吐く

 

そしてニッと笑ってその拳に自分の左拳をぶつける

 

「ーやっとあなたのこと聞けたわね。やっぱり話さないと分からない。話してみたらなんとかなる、か……さっきは私も突き放してごめんね」

 

「契約成立よ。ま、私が戦えないなんてないけどね」

 

二人のイクサファーナスが輝き、その姿が重なる

 

 

ーサァッ!!

 

夜の町にイクサが現れ、着陸する

そのカラータイマーは今度こそ青く輝いていた

 

『あの怪獣は…‼︎』

 

再び現れたイクサの姿を見て地面からあのリスのような怪獣が飛び出し、唸り声を上げて威嚇する

 

ーキュルルゥゥゥゥゥゥ…‼︎

 

『また会ったねリスくん!いや、今名付けたタラトスクくん!』

『嫌にカッコいい名前だな…』

 

怪獣ータラトスクは器用にビルの上に昇ると、尻尾をくるくる回し針毛を逆立たせる

前回とは違いいきなり戦闘態勢のようだ

 

ーキュルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

尻尾を振り回し、針毛を飛ばす

イクサはそれを払い除けるが、針毛の弾幕は厚く、何発かははたき落とせずに直撃する

 

『チッ、この針厄介だな……‼︎』

『なんとか撃ち落としながら近づけたらいいんだけど…』

『スピアだと振り回しが大きすぎる。せめてカミソリデマーガのタリスマンが残ってれば……』

『カミソリデマーガ……それってもしかしてコレ?』

 

イクサのインナースペースで歩夢が以前回収していたものを取り出す

 

『あーーーーー!?それだ!!なんで歩夢が⁉︎』

『前に変な隕石の落下地点で見つけてたの。この前似たようなのイクサが持ってたから一応持ってきといてよかった…』

 

歩夢がイクサファーナスを展開。リング部分にカミソリデマーガのタリスマンを読み込む

 

《フォージング:カミソリデマーガ》

《ハンマーアップ:ツヴァイソード》

 

イクサの腕に黒光する二振りのナイフーデマーガカミソリソードが現れる

 

ーハッ!サァッ!!

 

タラトスクが放つ弾幕を連続で斬り裂き、針毛の弾幕を凌ぎ切る

 

ーキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?

『いいわね、コレ。めっちゃ扱いやすい!』

 

ソードを逆手に構え、狼狽するタラトスクをイクサが睨む

タラトスクはまたイクサとは別のどこかに視線を移した

 

(やっぱり、あの方向はー)

 

歩夢はランダルからの言葉をー提案された作戦を思い出す

 

 

『……あの怪獣の出現地点に落ちていた岩石を採取していたんだが、どの岩石も磁鉄鉱を含む岩石だった』

「磁鉄鉱……鉄食べてるのあの子?」

『……厳密にはただの鉄とは異なるが、まぁ似たようなものだ』

『だからあの時鉄骨をバリバリ食べていたのか……』

 

イクサの言葉にランダルが目を向ける

 

『……いや、それはおかしい。磁鉄鉱を含む岩石は唾液のような分泌液に塗れていたが、消化はされていなかった。恐らく頬袋に蓄えていたものだろう。だが、それなら新たな鉄成分をわざわざ摂食する必要性がない』

「言われてみればたしかに…」

『恐らく怪獣は鉄分に異様に拘りを持っている。欠乏するだけなら頬に蓄えた磁鉄鉱もあるはずと考えれば、恐らく体内かどこかに、怪獣をそうさせる何かがある可能性がある』

 

 

タラトスクが見ていた方向は金西町にある製鉄所の方角だった

製品としての金属、鉄製品が多くあるそこをタラトスクは狙っていたのだ

 

『余所見は禁物だぞ怪獣くん!!』

 

その隙を逃さずイクサがタラトスクに肉薄

迫る巨人に反応し、振り向くがその口にイクサの手が突っ込まれ目を丸く見開く

 

『……あ?これか⁉︎』

 

岩とは異なる感触をタラトスクの頬の中に見つけ掴む

突っ込んだ手を引き抜く

 

ーキュルル…?

 

しばらくは面食らったような顔をしていたが、タラトスクはどこかスッキリしたような顔をして地面に降りる

 

自分が飛び出した穴を見つけるとそこにそそくさと潜り、町から姿を消した。異常が治ったからか、今度はコンクリートをめくりながらの大胆な移動はしなかった

 

『一か八かのやり方ではあったけど、なんとかなったわね』

『……これ頬袋とか口になかったらどうする気だったんだ?』

『そりゃその時はこう、ぺっしなさい!って感じでこう…』

 

タラトスクが去るのを見送ったイクサは空に向けて飛び立ち、去っていった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

翌日スターゲイザーベース

 

デスクに腰掛ける歩夢がチャラりとハンティングタリスマンを指で摘み、ぷらぷらと振る

 

「まさかタラトスクがこれ飲み込んでいるとはね……」

 

歩夢が今手にしているタリスマンは先日タラトスクの頬袋から見つかった新たなタリスマンだった

 

『EXタイラントのタリスマン……オレがこの宇宙に来る前に戦った怪獣に奪われたヤツに違いない。やっぱりヤツはこの星に来ているのか…』

「ヤツ?」

『……イザーティアという名前の怪獣だ。怪獣を無限に生み出す怪獣で……オレの故郷を滅ぼした原因だ』

 

イクサの言葉を歩夢が真剣な表情で受け取る

 

『……タリスマンと回収したあの細胞片、アレの持ち主がそのイザーティアという怪獣かもしれん。こちらでも情報収集は続けよう』

「特殊自衛隊の方にも警戒促しとかないとね。宇宙怪獣ならこの星にとっての外来種だから対策は早めに用意しておかないと」

『お前ら……』

 

歩夢が左腕のイクサファーナスを指で弾く

 

「この星に来た怪獣なら、私は全力で理解しようとするし、その上で対処はしっかりする。外来種ならこの星の生態系のために倒すことが基本になるだろうから、イクサの力はその時借りることになる」

 

「その時は私たちも一緒だけど、頼んだわよ」

 

歩夢が告げた言葉を聞き、イクサも頷く

 

『ああ、必ずヤツはオレが倒す』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

あるアパートの一室

 

薄暗い部屋の中を端末の光が照らし出す

 

そこに映る映像にはウルトラマンイクサの戦う姿が映し出されていた

 

コップに入れたコーラを一口飲み、モニター前の女性ー篠宮(しのみや) 水輝(みずき)が映像をじっくり眺める

 

「さてと、謎の巨人出現・敵か味方かってね……」

 

椅子に深く腰掛け、水輝が笑う

 

「しっかり取材させてもらうわよ。巨人さん。あなたが正義の味方なのかどうか、その真実をね」

 

そのモニター脇の水輝のスマホにSNSからの通知が入り、画面が点灯する

 

【キヒヒヒヒヒヒヒィ……】

 

その画面に一瞬ノイズが走り、目のようなパターンが現れ消えた




五道市に巨大な眼を持つ奇妙な怪獣が出現
似た姿の怪獣の連続出現にGBCTと特殊自衛隊は共に市内調査を開始する

そんな中歩夢に密着取材がしたいと記者の篠宮 水輝が接近
奔放な水輝に振り回される歩夢たちの前にまた怪獣は現れる

五道市を包む嘲笑と視線、その正体とは

次回ウルトラマンイクサ
『密着取材と謎の目玉』
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