ギニョールや宇宙人たちと争う市民たち
各所から現れ出すグランギニョルとそれに襲われ、狂乱し駆ける怪獣たち
狂乱と憎悪の坩堝と化しつつあった五道市の中央部が突如、大きく陥没し始め、人々や街の建物を飲み込んでいく
「何……あれ…⁉︎」
暴徒を抑えていた
ぽっかりと空いた深淵の中から、紅い液体を溢れさせながら巨大な黒い杯が浮上してくる
漆黒ながら荘厳に輝くそれには、禍々しくも抗いがたい魅惑を放つ紅い宝石で装飾されていた
なみなみと満ちていた杯から、真紅の液体が街へと溢れ出していく
水の勢いはまだ弱く、だが着実に街は浸水していっていた
「あっははははははは!!!荘厳じゃないか‼︎とうとう我らが偉大なる主の御使が姿を現しなさる!!!」
ビルの屋上から巨大な杯を見上げ、アトラナクアが高らかに笑う
その隣に
「オレ様の用意した舞台に、御使の聖杯…これ以上無い絶景だとは思わないか?キリエロイド?」
愉快そうに口を歪めるアトラナクアを冷ややかに見つめ、火煙も薄く笑う
「ええ、まぁ…少々騒がしすぎる気もしますがねぇ」
「風情を理解しないヤツだ。つまらん」
アトラナクアの言葉に火煙がはっ、と鼻で笑う
「我らが主の傀儡に過ぎなかったあなたに、風情がわかるとは思えませんがね」
火煙の言葉を聞いたアトラナクアは右腕を鋭い爪に変化させ、火煙の首筋に突きつける
「オレ様のことを、二度とその呼び方で呼ぶな…‼︎」
薄い笑みを浮かべたままの火煙を突き飛ばし、アトラナクアが両手を広げて街を見下ろす
「さぁ、もう少し騒いでもらおうか。下等生物諸君」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「宇宙人め…‼︎お前らがいるせいで‼︎」
「地球人を殺せ‼︎やられる前に、やるしか無いんだ‼︎」
暴徒と化した人々が暴れる中を分け入りながら、水輝が声を上げる
「皆さん落ち着いて‼︎落ち着いてください‼︎」
だがその声も群衆の怒号に溶けて消えていく
男が鉄パイプでフック星人の頭部を殴打し、ナックル星人が地球人を締め上げ、倒れたセミ人間に人々が群がって拳や脚を振り下ろし続ける
「お願いだから、止まって…ッ‼︎」
『怪獣の味方をするGBCTの連中も敵だ‼︎やっちまえ‼︎』
群衆の中からの一声を聞いた人々がピタリ、と動きを止めてぐるりと水輝を睨む
手にした凶器を今度は水輝に向け、ゆっくりと人々が迫ってくる
「落ち着いてくれッ‼︎俺たちは敵じゃない‼︎」
「黙れ‼︎お前たちだって宇宙人の仲間じゃないか‼︎」
別の場所で暴徒の鎮圧を行っていた大介も暴徒の一撃を受け止めながら声を上げる
「きゃっ⁉︎」
共にいたルシルの悲鳴に大介が振り向く
倒れたルシルの腕からは血が流れており、その目の前には血走った目で血濡れたナイフを握る男がいた
「お前ぇッ!!!」
大介が男を取り押さえ、ナイフを蹴り飛ばす
『宇宙人を庇ったぞ!そいつらは地球人の敵だ‼︎』
また響いてくる声に群衆がぴくりと身を震わせる
「この声…こいつを聞いて人々は暴れてるのか…⁉︎」
「クカカカッ、いいダンスを踊ってくれるねぇ。全く」
ビルの屋上から階下を見下ろしながらアトラナクアが嗤う
その口元には腹をマイクのように変質させた小グモが待機していた
このクモを介してアトラナクアの言葉が煽動作用と共に群衆に紛れたアトラナクアの傀儡・ギニョールから響いていたのだ
「さぁさ、もっと殺し合え。その血で我らが主の御使の聖杯を満たしていけ‼︎」
「……状況は最悪…か…」
特殊自衛隊の管制室に
「ー歩夢隊長とGBCTは無実。いや、むしろ地球のために尽力をしてくれていたのは彼らの方だ」
未だに目を覚まさない歩夢を近くの壁に寄りかからせながら座らせ、黒斗が隊員たちに指令を下す
「GBCTの活動停止要請は取り下げ、我々も彼らと共に市民たちの避難誘導にかかる‼︎行動を開始せよ‼︎」
困惑していた隊員たちだが、黒斗の一喝を聴いてすぐに頷き行動を開始していく
「司令官‼︎五道市中央部の大穴周辺に多数の民間人が‼︎」
モニターに監視カメラからの映像が映し出される
そこには周辺のビルの屋上から大穴に向けて、一心不乱に祈りを捧げているかのような黒装束の集団がいた
その集団の先頭に立つ男を見て黒斗が眉を顰める
「
「あいつら…またこんなことしようとしてるのね…」
よろよろと立ち上がりながらモニターを見つめる歩夢
「歩夢、まだ休んでいなくていいのですか?」
「休んでなんかいれないでしょ、こんなの」
GBCTパッドを取り出して歩夢が水輝に通信を繋げる
「水輝、状況は⁉︎」
『隊長…‼︎無事でよかった…』
水輝の言葉に安堵の表情を見せながらも、すぐに緊張を戻す
「街の中は今どうなってるの?」
『あちこちで暴徒と化した人々が暴れています‼︎地球に来ていた異星人たちも、偽装を解かれて地球人と異星人で…争いが…』
水輝の言葉にすぐ駆け出そうとした歩夢を感じたのか、水輝が声を上げる
『来ないでください隊長‼︎』
「なんで…⁉︎私はもう、ちょっとやそっとじゃへこたれないわ‼︎早く混乱をー」
『そんなこともうわかってるとも』
新たに通信に弱々しい声ながらルシルが入ってくる
「ルシル…‼︎」
『隊長が、前よりももっと強くなったことは俺たちみんなが知っている』
『でも、そんな隊長がやらなきゃいけないことは、今私たちの手助けをすることじゃないはずです‼︎』
「大介…水輝…」
隊員たちの言葉に歩夢がふっ、と頬を緩める
「じゃあ、街の方はみんなと黒斗たちに任せるわ。私は、イクサと一緒に大元をぶっ飛ばすから‼︎」
歩夢の威勢のいい言葉を隣で聞いていた黒斗が微笑む
「やれやれ、勝手に任されてしまいましたね」
「ー水輝」
『は、はい?』
歩夢が通信を切る前に水輝に声をかける
「ーホシちゃんやハイル、るぷたちもきっと無事よ。諦めちゃダメ」
通信を受け取った水輝は暴徒と化す市民たちの中で立ちすくみ、目元を拭う
「ーはいッ‼︎諦めたりなんか、絶対しません!!!」
笑って頬を叩き、水輝がまた駆け出す
大介も、ルシルも、GBCTのメンバーたちは諦めることなく走り続けていた
「ーってことだから、後は頼むわ黒斗」
「わかっています。任せてくれ、歩夢。それと、ウルトラマンイクサ」
黒斗からの言葉を受け取って歩夢が走り出す
「イクサ、行くわよ‼︎これで、あの連中の野望を終わりにする‼︎」
『……あ、ああ、行こうぜ。歩夢ッ‼︎』
廊下を走りながら歩夢がイクサファーナスを突き出す
《リンケージ:ウルトラマンイクサ》
ーサァァッ!!!
ウルトラマンイクサが特殊自衛隊の本部から飛翔していく
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ーキリト・キリ・キリ・エルト
ーキリ・キリ・キリエル
杯に向けて祈りを捧げる信徒たちの頭上を真紅の巨人が飛翔していく
「霧慧神獣教の信徒がまたこんなに…‼︎」
イクサの中からそれを見下ろしながら歩夢が唾を飲み込む
赤い液体を溢れさせる杯を前に浮遊しながらイクサが構える
『とにかくコイツはヤバい気しかしねぇ…さっさと壊すぞ‼︎』
「同感。嫌な予感しかしないわ‼︎」
空に佇むイクサの姿を火煙はただ黙って見上げていた
「やはり、貴女がたはここに来ましたね」
火煙は法衣の袖から艶消しの黒に塗られたデバイス・キリエスパークレンスと悍ましい悪魔のような姿が描かれたハイパーキーを取り出す
《SCHNA KYRIEL》
《BOOT UP DARKDEATHPERION》
起動したキーをキリエスパークレンスに差し込み、逆手に構え祈るように手を添える
「ーオン・キリ・キリ・エルト、キリエ・キリエ・キリエルト…‼︎」
キリエスパークレンスを突き上げながら引き金を引き、火煙の姿が闇と炎に包まれる
《SCHNA KYRIEL》
ーキリィッ!!!
闇の炎と共に姿を現したのは異形の悪魔
右半身には吊り上がった目を持つ巨人の面
左半身には古びた彫像のような禍々しい巨人の面
2つの面を併せ持つ悪魔の顔は禍々しく歪み、笑っていた
《XV SERVERGA》
《ABSORB TORNADE》
インナースペース内でXVサバーガのハイパーキーを読み込むと、悪魔ー破滅信徒スクナキリエルの背中に一筋の紫の亀裂が入り込み、そこから獣のような翼が生え出す
ーキリィッ!!!
杯に向けてイクサライズ光線を構えるイクサの背に黒い影が被さり、鋭い鉤爪の一撃がイクサを叩き落とす
ーサァッ!?
赤い液体に満ち始めた地上に墜落するイクサ
その目前にスクナキリエルが降り立ち、翼を畳む
【貴女はまだ、怪獣や宇宙人という存在の本質を理解してくれないのですね。稲葉 歩夢】
「あんた…‼︎まさか、火煙!?」
よろめきながらも立ち上がるイクサを見据え、スクナキリエルが腕を眼前で交差し、降ろす
《YZAK》
《ABSORB STRENGTH》
スクナキリエルの体から筋肉が盛り上がり、マッシブな姿と変貌する
ーキリィッ!!!
右腕の鉤爪を構えながらスクナキリエルが駆ける
一撃を受け止めるが、間髪入れずに振り下ろされたかかと落としに膝を突かされ、その首根っこが掴まれて引きずりあげられる
【怪獣や宇宙人、彼らは世界の自浄作用‼︎ 我らが主が選び、遣わす御使!!! 驕り冗長した文明を、惑星を滅ぼす終末装置!!!】
スクナキリエルがイクサを投げ飛ばす
《GUN Q》
《ABSORB ILLUSION》
【キヒヒヒヒヒィィィ】
スクナキリエルの周囲に目玉模様の円盤が浮かび上がり、それぞれからイクサへ光弾が放たれる
イクサは即座に起き上がり、何発かの光弾を弾いてバク転で回避する
【さぁ、ご覧なさい。これが怪獣です】
スクナキリエルが右手を広げ、そこに2枚の札のようなものを出現させて左手で印を結ぶ
【ーキリ・キリ・エルト、急急如律令…‼︎】
スクナキリエルの手から放たれた札が足元の赤い液体の中に沈むと、そこから真紅の巨体が2体起き上がる
片やイクサと歩夢が母星に返さんとした宇宙怪獣コッヴによく似た姿
もう片方は捻れた角を持つ獣のような姿
2体の真紅の怪獣が悍ましい咆哮を上げ、イクサへと襲いかかる
ーサァッ!?
イクサが立ち上がり応戦するが、多勢に無勢に押し込まれていく
【ーさぁ、貴女たちにも我が主の救済を…‼︎】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「キリエロイドも動き出したか…オレ様の脚本外のことだが…」
アトラナクアがニヤリと笑う
「それも有効に使ってやるのが、オレ様だ」
パチンとアトラナクアが指を鳴らす
水輝たちが暴徒を押さえ込む中で街中のモニターが突如切り替わる
そこに映し出されたのは赤黒い怪獣もどきーコッヴ・ボイドとパズズ・ボイドに打ちのめされるイクサの姿
「たいーイクサ!?」
ーキリッキリッキリッ…
そのイクサを見下ろしながら不気味に微笑む破滅使徒
【滅びは必然。緩やかな苦しみを持った死よりも、我らが主の救済による破滅こそが救い…‼︎ 怪獣や異星人たちも、我らが主と同じ慈悲深き破滅の使徒に他ならない…‼︎】
勝ち誇るように告げるスクナキリエル
なすすべなく追い詰められていくイクサの姿を見た人々は皆、失望したように、あるいはどこか納得したように脱力してモニターを見上げていた
水輝たちも、どこか諦めたように項垂れていく
『ー勝手なこと、言ってんじゃない!!!』
イクサから放たれた、怒りを露わにしたその声を聞き、水輝が顔を上げる
コッヴ・ボイドとパズズ・ボイドを押し上げながら、歩夢が吠える
「怪獣や宇宙人が終末装置…?誰かを滅ぼす使徒…⁉︎バカ言わないでッ!!!」
「怪獣も、宇宙人も、人間も同じ…みんなみんな生きようとしているだけ…時に悪人や、悪意ある存在はいても、その悪意にも生きた意志がある‼︎ ただ滅びを望むだけの機械なんていない…‼︎」
ーサァァァァァァァァッ!!!
歩夢の気迫とシンクロし、イクサが力の限り2体の傀儡怪獣を押し退ける
『歩夢の言う通りだ。悪党だろうが、怪獣だろうが、ただ破滅のために存在するヤツらなんかいないッ‼︎ どいつもこいつも、力の限り生きているから強いんだ‼︎』
「それを分かろうともしないお前がー」
『ー平気でその意志を踏み躙って笑うお前らが‼︎』
「『ー命を語るなぁ!!!!!』」
《フォージング:EXエレキング・カミソリデマーガ》
《エンチャント・ハンマーアップ:サンダーツヴァイソード》
パズズ・ボイドが双角から黒い稲妻を放つが、イクサが装備した電光を纏う双刃がそれを叩き落とす
《フォージング:EXゼットン ・EXレッドキング》
《エンチャント・ハンマーアップ:フレイムメタルフィスト》
炎を纏う鉄拳を装備し直したイクサが2体に突撃
コッヴ・ボイドとパズズ・ボイドを押し込んでいく
立ち上がるイクサの姿を見た水輝たちはぐっと口を一文字に引き絞り、頬を叩く
「私たちだって…」
「ああ、遅れてられない‼︎」
「隊長が戦ってるんだからなぁ‼︎」
気合いを入れ直して人々に向き直る3人の元に、突如特殊自衛隊の機動部隊が姿を現し、その前に整列する
「あ、あなたたちは…」
「ここは我々が引き受けます‼︎」
それぞれの隊から隊員が1人前に出て水輝、大介とルシルに敬礼をする
「大紋 黒斗司令より伝言がありますッ‼︎」
「君たちは、君たちのなすべき事を‼︎とのことですッ‼︎」
その言葉をポカンと聞いていた水輝たちに他の機動隊員が発破をかける
「我々もあなた方に負けていられません‼︎」
「形は違えど、俺たちもまた、守るために戦うのが使命だ‼︎」
「あのウルトラマンにも、助けられた…その恩を今、返させてくださいッ‼︎」
その言葉に水輝は姿勢を正し、GBCTパッドを起動して何かを操作していく
同じく呆気に取られていた大介とルシルに通信が入る
『大介さん‼︎ルシルさん‼︎』
「水輝隊員か⁉︎」
通信越しの水輝の声は、凛とした自信に満ちていた
『ー反撃、開始しますッ‼︎』
モニターに映し出されたイクサの戦う姿を眺めながらアトラナクアがくぁ、とあくびを溢す
「全くバカだなぁ。勝敗なんか決まってるのに…アホくさ」
ガンッ‼︎
と、その背後から音が響き、面倒そうにアトラナクアが振り返る
そこにはGBCTマグナムを構えた大介とルシルが立っていた
「……お前ら、どうしてこんなところに?」
「うちの広報兼情報担当の有能さ、舐めるなよ…‼︎」
はっ、と笑いながら大介が告げる
水輝は通信回線から街中の監視カメラのデータを並行して見比べ、あるポイントを見つけていた
近くを通る人がおらず、かつ街を見下ろせるような高所
街中パニックになる中、ただ1人屋上に優雅に佇む赤衣の人物の姿
「こんな事をする犯人なら、絶対特等席にいるはず…‼︎」
水輝の言葉を思い出しながらルシルも笑う
アトラナクアがぱち、ぱちと手を叩く
「カカカッ、お見事。下等な駒もできることがあるもんだな」
赤衣の魔人は余裕を崩すことなく大介とルシルを見据える
「リンケイド星の連中もこれくらいできたらもっと面白い劇になったのに、もったいなかったよなぁ?」
「…なぜ、お前がリンケイド星のー」
ニヤニヤと笑うアトラナクアの姿を見て、ルシルはハッと目を見開く
「お前、が…まさ、か…ッ⁉︎」
顔を押さえ、腹を抱えてアトラナクアが悪辣に笑う
「傑作だったなあの星の滅び‼︎まぁ最後に手を下したのは、お前だったわけだが、な‼︎ハッハハハハハハハハハハ!!!」
ルシルがGBCTマグナムを持つ手が小刻みに震える
「ーこの状況で、余裕を見せてる場合か⁉︎」
大介にアトラナクアは人差し指を突き出し、チッチッと振る
「わかってないなぁ。オレ様がここにいる理由。それはもちろんオレ様が脚本家兼演出家だからってのはあるけど…」
覆っていた手を離し、アトラナクアが八つ目の異形の本性を現しながら告げる
『お前たち下等生物なんか、一捻りでオワリだからだよ…‼︎』
アトラナクアが手を広げ、その体が赤黒い糸に覆われてビルから滑り落ちて消えるとともに赤黒い糸の柱が立ち上がる
糸が裂けたその先から現れたのは首のない巨体
その胸の蜘蛛の顔に、器用に糸が織り込まれた白黒の鴉のような面が装着されると共に、胴体から鋭い爪を持つ腕と鴉のような頭部が形成される
『頼りのウルトラマンは共に行動不能。特殊自衛隊の無能どもは暴徒やらオレ様の人形にかかり切り。お前たちはここでただ残酷に死ぬだけ。公開処刑ってヤツだよ!!!』
アトラナクアが両手を広げて高らかに笑う
怪人と荒い息で銃を構える手を震わせるルシルを大介が見やる
「ルシル…」
ルシルは震える自身の手をもう一方の手で覆う
「……大丈夫、と言ったら…嘘になる…」
「あいつは、私の最大の仇だ。憎くないはずがない…だけど…」
キッと、蜘蛛の怪人を見上げルシルが告げる
「復讐からじゃない…私は、今の私は何よりも…この星の人々や怪獣たちを、愚かしいと嗤うこの魔人を許せないッ‼︎」
『なら、とびっきりのヤツがあるぞ』
通信から声が響くと共に、巨大アトラナクアを巨大な何かが突き飛ばしながら着地する
「こいつ、は…⁉︎」
着地したその機体。シルエットはGBCTセンチネルにも似ていない。むしろ、それは怪獣に近い
その巨体を、ルシルも大介も知っていた
「υレナトゥス…⁉︎」
そこにいたのは、ルシルがかつて地球を滅ぼす敵として自分を倒させようとしたサイボーグ怪獣ーυレナトゥスだった
よく見ると、その装甲部は一新されており、肩パーツや胸部装甲にはGBCTのロゴが付いていた
『名付けて、GBCTレナトゥス‼︎ 嬢ちゃんのあの怪獣、ちょいといじらせてもろうたんじゃ‼︎』
通信から自慢げな駿河の声が響く
『嬢ちゃんがまだ死のうとか、この星を壊そうだとか言うならコイツはこのままお蔵入りじゃったが、そういう気概なら任せられる。あのクソ野郎に一発かましたれ‼︎』
「スルガ…‼︎ありがとう」
GBCTレナトゥスの胸部ハッチが開き、コクピットへのラダーが伸びる
『あーそういやコイツは、元の制御系の再現のために元より変わっとるとこがあるんじゃ』
にひひ、と駿河が笑いながら告げる
『ー二人乗りなんじゃ。頼むぞ、色男』
「……言われなくとも」
はぁと嘆息しながらも大介がコクピットに続けて乗り込む
起動したGBCTレナトゥスを見てアトラナクアが肩を竦める
『あのガラクタを作り直して、何ができるっての?』
「できるとも。私は、もう1人じゃない!」
「俺たちは、隊長がここにいなくともGBCTだ。この星の命を嗤うお前を、倒す!!」
ークオォォォォォォ!!!
【ーキュイィィィィィッ!!!】
咆哮するGBCTレナトゥスに、ブリッツブロッツのものと同じような構えを取りアトラナクアが相対する
展開した翼から放つ光線をアトラナクアが手刀で叩き落としながらGBCTレナトゥスへ肉薄、その肩口に手刀を叩き込む
よろめくGBCTレナトゥスだが、その打ち込まれた手刀を掴み、グローでの爪撃をアトラナクアの胴体に続け様に打ち込む
【ーキュイィィィッ!!!】
アトラナクアは体を捻ると、GBCTレナトゥスに鋭いハイキックを浴びせて怯ませ、その拘束から離脱
「逃さないッ!」
離れたアトラナクアを逃さずロックオンしたルシルがトリガーを引く
翼部から新たに何条もの光線が放たれ、アトラナクアに直撃する
が、その光線のエネルギーはアトラナクアの胸部に吸い込まれるかのように収束していく
『お返し、だッ!!!』
アトラナクアが拳を突き出し、エネルギーを撃ち返す
収束・肥大化したエネルギーを受けGBCTレナトゥスがよろめき爆発。辺りが爆煙に包まれる
アトラナクアが勝ち誇ったような笑みを浮かべる
しかし、爆煙の向こうから青いエネルギー光が閃く
「ーぉおッ!!!」
背部ブースターを点火したGBCTレナトゥスが急速接近、アトラナクアの胸部に爪を突き立てる
【ーキュイィィィィィィッ!?!?】
驚愕の声を上げるアトラナクアの頭部に更にアッパーの要領で爪の一撃がヒット。仮面のような顔面をボロボロに引き裂く
「行けるッ‼︎ルシル!!」
「ああ、エネルギー再装填ッ‼︎」
GBCTレナトゥスの翼部が展開。更にその顎門が開き、主砲が伸びて青いエネルギーが充填されていく
『ー勝ち誇るな、ゴミがぁッ!!!』
アトラナクアの肩から細長い蜘蛛足が立ち上がり、胸部と頭部に新たな仮面ーハエのような造形に多数の目玉を持つ異形の面を編み上げる
同時にGBCTレナトゥスが多数の光線を放つが、ほぼゼロ距離でその光線を受けながらアトラナクアはビクともしなかった
【ーシィィィィッ!!!】
右腕に糸が束なり、刀のような刀身を作り出したアトラナクアは自分を捉えたGBCTレナトゥスの右腕を斬り落とし、斬り払いでその巨体を遠ざける
「ーッ、このっ!?」
負けじと翼部からの光線を放つが、アトラナクアの目前で黒い電光と共に光線は霧散し、魔人の体には届かない
「な、そんな!?」
『ハッ、人間と死に損ないの宇宙人ごときが、このオレ様…破滅魔人アトラナクアに敵うわけないだろう、がッ!!!』
左腕に黒い電光を集め、アトラナクアが放つ
GBCTレナトゥスのボディ各部でショートが起こり、コクピットにも大きな衝撃となって伝わる
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
GBCTレナトゥスの巨体がよろめき、ビルへと叩きつけられる
『言ったはずだぁ、公開処刑…だってなぁ!!!』
アトラナクアが右腕の刀を向けながらGBCTレナトゥスへと迫っていく
その光景をビルの上から1人の怪人物が見上げていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《フォージング:EXゴモラ》
《ハンマーアップ:スピア》
《共鳴せよ!2つの魂!!》
ーサァァッ!!!
EXゴモラスピアとホシウミノツルギを手にし、デュアルブレイブとなったイクサの一閃がコッヴ・ボイドとパズズ・ボイドをまとめて切り払う
直撃を受けた2体が赤黒い液体となって爆散する
ーキリィィッ!!!
その水煙を払い、スクナキリエルが両腕から漆黒と紫黒の光線を放つが、イクサはスピアを回転させてそれを防ぎながら駆ける
忌々し気に握り拳を払い、スクナキリエルもその両手に錫杖のような槍を作り出して応戦。2人の激突に足元の赤黒い液体が大きな飛沫を上げる
ーサァァッ!!
ーキリィィッ!!
イクサの剣と槍、スクナキリエルの双槍が交錯し、黒と金の火花が何度も炸裂する
【ー小癪ッ!!】
スクナキリエルの双閃がイクサの手からスピアを弾き落とす
ーキリィィッ!!
大上段からの槍撃がイクサの肩を打ち据える
勝ち誇るスクナキリエル
が、その胸にイクサが構えていたホシウミノツルギが突き立つ
「………ッ」
【ーハハハッ、最後の足掻きですか?惨めですねぇ】
スクナキリエルが片方の槍を投げ捨て、その手に紫の炎を纏っていく
イクサの中、そのインナースペースで
歩夢の手に光が握られていた
GBCTレナトゥスに迫るアトラナクア
そこに飛来するは水輝が乗ったGBCTアルバトロス
「あの魔人…全身が強力な電磁バリアで守られてる…何か、何か穴があれば…‼︎」
アルバトロスに搭載された計器でアトラナクアの体を分析していく
電磁波形表示が並ぶ中、揺らぎは確かに存在した
「胸の仮面、その目の部分だけバリアが薄い!」
水輝は震える手で操縦桿を握りしめる
【ーシィィィィィィッ…】
左腕にエネルギーを貯めていくアトラナクア
「うわぁぁあぁあぁぁぁあぁああ!!!!」
そこにバルカン砲を乱射しながらアルバトロスが突撃していく
「ミズキ!?」
「お前、無茶するな!戻れ!!!」
ルシルと大介の制止を聞かず、アルバトロスはそのままアトラナクアへ突き進む
『ハハハッ‼︎バカも極まると哀れだなぁッ!!!』
アトラナクアが光弾と雷光を放つ
アルバトロスの主翼や機関部に被弾し、コクピットも火花を上げるが、水輝はターゲットサイトをずらさず、バルカン砲も止めない
豆鉄砲にも等しいその砲撃も虚しくバリアに弾かれていく中、限界まで迫ってきたアルバトロスをアトラナクアの右腕の刀が貫く
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」
コクピット脇を刀身が貫き、激しい衝撃とスパークがコクピットに襲いかかり、水輝が額から血を滴らせる
「水輝ィッ!!!」
アトラナクアは串刺しにしたアルバトロスをそのまま胸元の仮面近くに引き寄せる
割れたコクピット越しに仮面の赤い瞳が傷ついた水輝を覗き込む
『特攻のつもりかぁ?残念ながら大失敗だなぁ』
脱力し項垂れる水輝
だが、その手はまだ操縦桿を握っていた
「…私…射撃とかは、皆さんと比べても…下手くそなんですよ…」
『あん?何だって?』
ーガチャリ
アトラナクアは今更気づく
アルバトロスの機体下部から伸びたミサイルカタパルトが、胸元の仮面ー自身の顔に照準を合わせていることに
コクピットのターゲットサイトがアトラナクアの『目』を捉えた
「ー私みたいな下手くそでも、この距離なら外しようがない‼︎」
アルバトロスからミサイルが放たれる
ほぼゼロ距離でミサイルはアトラナクアの目に突き刺さり爆発。その赤い光が失われる
ーが、グ、ギィヤァァァァァ!!!!
胸元の蜘蛛頭の顎が大きく開かれ、紫の体液を撒き散らしながら絶叫する
が、この距離から放たれたミサイルの爆風で半壊したアルバトロスが無事でいられるはずがない
へし折れたコクピット部分が宙を舞うのを、水輝は朦朧とした意識でただただ感じていた
(血が、足りない…力が…入らない…)
その視界の隅から、黒い翼が横切り、無防備なコクピットを拾い上げる
再度の衝撃に水輝が頭を振り、見上げる
そこには、一回り小さいながら中型サイズまで大きくなったバネス族の姿が見えた
「ホシちゃん…ホシちゃん!?」
『ん。わたし』
赤い目を点滅させながら答えたバネス族ーホシは水輝の乗るコクピットを慎重にビルの屋上に下ろす
人間態へと戻ったホシはコクピットを心配そうに覗き込む
その体は所々血が滲み、あざになっていたが丁寧に包帯が巻かれていた
「みずき。けが、してる…」
「ホシちゃん…‼︎」
先程まで朦朧としていたのが嘘のように、水輝はその小さな体を抱きしめる
「無事でよかった…ッ‼︎」
ホシも水輝の体を抱き返す
「いろんなひと。たすけてくれた。ホシも、ハイルも」
その言葉と共に屋上に数人の人間が入り込んでくる
「ホシちゃん‼︎GBCTの人たちは⁉︎」
「うん。ぶじ。まにあった」
よかった…と人々が安堵の息を漏らす
「みんなの、おかげ」
「そんなこと無いよ。当たり前をしただけさ」
「そうそう。最初はびっくりしたけど、俺たちの命の恩人たちを守ってくれた人らなんだから!今度は俺たちが助ける番だ‼︎」
駆け寄ってきた人々の言葉に水輝は気づく
集まっていた人々は、ホシ、ハイル、ルプスが棲まう地区の人々だと。かつてホシたちがモスキュラスから守った彼らだと
「皆さん…‼︎」
助け起こされながら、水輝の目頭に熱いものが溜まっていた
倒れ込みながらもシステムを復旧させたGBCTレナトゥスを、複雑な模様の体表を持つロボットが持ち上げ助け起こす
「な、なんだこいつは⁉︎」
「これは…バドリュード⁉︎ヴァイロ星人が扱う有機ロボットがなんで…」
「ヴァイロ星人って…‼︎」
「皆さん、ご無事ですか⁉︎」
近くのビルからハイルがGBCTレナトゥスに手を振りながら叫んでいた。その隣にはルプスも立っている
「ハイル‼︎こいつはお前が…?」
「…軍人時代の忘形見です。もう駆動限界が迫っていて起動したらすぐに自壊するレベルでしたが…」
ハイルの言葉通り、バドリュードはすぐさま体の各部が泡立ち、液体となって崩れ落ちる
「皆さんの力になれたなのなら、奪うしかなかったあの頃の嫌な思い出も浮かばれます!」
「ハイル…ありがとう」
大介とルシルが頷き合い、苦悶の声を上げるアトラナクアを睨む
アトラナクアは頭部と両腕が糸に解け、見る影も無い姿になっていた
『クソが…クソがクソがクソが!!!劇の小道具にも満たないクソ駒どもがぁ!!!』
獣じみた咆哮と共にアトラナクアは新たな頭部と腕、そして仮面を編みあげる
醜悪な昆虫にも似た仮面と頭部と共に、鋭い鉤爪を備えた腕が4本出来上がる
『そんなに死にたいなら、今すぐ終わらせてやるゥ!!!』
肩から伸びた腕の指先から糸が踊り出す
『グランギニョル!!!全て全て全て全て踏み潰せぇ!!!』
「あの昆虫怪獣を暴走させる気か⁉︎」
が、アトラナクアの咆哮に反し、街からは爆発音一つ聞こえてこない
手応えのない糸にアトラナクアが動揺を見せる
『な、グランギニョル、が…消えてやがるッ!?』
アトラナクアの言葉通り、五道市各地で怪獣や街を襲っていた巨大な傀儡たちは全てその姿を消していた
その様を、赤いカード越しに怪人物が満足げに眺める
『やれやれ。久しぶりに怪盗を復業したが、こんなつまらないものを盗んでしまうとはヤキが回ったな、私も』
カードの中で力無く蠢くグランギニョルたちを眺め、怪人物ー元怪盗ヒマラがくっくっく、と笑う
『こんなもの私のコレクションには加えないとも。ブラックホールにでも捨ててしまおう』
『クソが、クソがぁ!!どいつもこいつも、オレの脚本から外れるなぁ!!!』
アトラナクアが咆哮しながら出鱈目に爪を振り回し斬撃を放つ
「…今度は、この星を守るために。この星に生きる命を守るために‼︎力を貸してくれ…ッ‼︎」
GBCTレナトゥスはバリアーを展開しながら脚部アンカーを地面に突き立て、表層テラジュームを汲み上げていく
「ロックアンカー固定、テラジュームリアクター正常稼働」
「表層テラジュームエネルギー充填…70、80、90…100‼︎」
GBCTレナトゥスの胸部装甲が展開され、テラジュームのエネルギーが充填されていく
ルシルが息を吐き、操縦桿を改めて握って照準をアトラナクアに定める
「ー外しはしない。今度は、お前を逃さない‼︎」
「レナトゥスフレア、発射!!!」
ークォォォォォォォォッ!!!
GBCTレナトゥスの咆哮と共に青白いテラジュームエネルギーの極大砲が放たれる
アトラナクアは四つ腕で糸を編み込み盾とするが、それをものともせずに貫通し、そのままアトラナクアの巨体に直撃してエネルギーをスパークさせながら爆散する
排熱機構をフルオープンし、排熱の水蒸気が噴き出す
ーキシャオォォォォォォォォッ!!!
爆煙を切り裂き飛来してきた中型の怪獣をレナトゥスは難なく受け止めるが、怪獣ー巨大な蜘蛛型のそれは何個か砕けた赤い複眼を血走らせながら首を伸ばし、胸部コクピットに顎門を向ける
『ナゼだァァ…ッ‼︎ なんデ、このオレガ…破滅魔人の、こノオれがァァァァッ!!!』
巨大蜘蛛ー否、破滅魔虫アトラナクアは、ノイズの混じる悍ましい声で怨嗟を連ねる
「ーお前は、人間を侮った。その時点で負けていたんだよ」
大介が静かに告げる
「確かに、人間は1人1人じゃ弱い。強大な存在に、すぐに足が竦んじまう」
「でも、だからこそ誰かと手を繋げば前に進める。どこまでだって」
「一度挫けても、手を引く誰かがいる限り人間は、より良い未来に進んでいける‼︎」
「その強さを見ないふりしたお前は、俺たち人間にすら敵わないんだよ」
GBCTレナトゥスはアトラナクアを天高く放り投げる
空を飛ぶ力も無い蜘蛛は、自身の直下から何条もの光線が迫るのをただ見ることしかできなかった
『ち、ク、しョウがァァァァァァァァァァァァッ!!!!』
断末魔の叫びと共に、アトラナクアが爆散する
焦げ落ちてくるアトラナクアの顔の破片がニタリ、と笑う
『せいぜい、短イ余韻、ヲ…楽しメ……』
『猜疑、呪詛、恐怖、慟哭、怒声、絶望……』
『あノオ方は…悪食で、暴食…ダ』
『ーオレが、用意シたノは…
蜘蛛はそう言い残し、塵と消えた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「最後の足掻き?そうよ…私たちは、命の限り足掻いていく‼︎」
『オレたちの命を、もう二度と笑わせねぇ‼︎』
イクサがホシウミノツルギに力を込める
【戯言を‼︎ワタシすら貫けないその刃で何を!?】
「あんたをぶん殴りたいのは、私たちだけじゃ無いってことよ‼︎」
歩夢が手にしていた新たなタリスマンをイクサファーナスに読み込む
《フォージング:イザーティア》
《エンチャント:ガイア》
【な、にッ!?】
イクサの体が翠の輝きに包まれ、触手の如く這い出したエネルギーがホシウミノツルギに集まっていく
「食らいなさい‼︎私たちと、イクサと‼︎今まであんたらにオモチャにされてきた怪獣たちの、とびっきりの一発よ!!!」
『お前にゃ、勿体無い大盤振る舞いだ…残さず受け取れ!!!』
ホシウミノツルギのトリガーが引かれる
「『トライアッドライズ・バーストォォォォォ!!』」
ーキュイィィィアァァァァァァ!!!
どこからか響いてきた母神の名を冠する怪獣の声が2人に重なる
ホシウミノツルギから放たれた翡翠の一撃がスクナキリエルを捉え、その半身を吹き飛ばす
【ーが、ァァ、アァァァァッ!?】
スクナキリエルが絶叫と共に奈落の穴の淵まで吹き飛ばされる
【ーあ、か、ク、クハ、クハハハハッ!!!】
スクナキリエルは苦悶しながらも哄笑を漏らす
【わた、ワタシが、は、滅…する…ぁあ…ワタシ、は…ようやく…主の下へ…‼︎】
【偉大なる、御使よ…我が身を、あな、た…に……‼︎】
ークッハハハハハハハハハハハハハハハァァァァ!!!
狂った哄笑と共にスクナキリエルが仰向けに倒れ、赤黒い液体の中にその身が沈んでいく
「やった……」
ホシウミノツルギを突き立て、体を支えながらイクサが聖杯を見上げる
「早くアレを、壊さないと…ッ」
『ー歩夢』
「いきなり、何?イクサー」
気がつくと歩夢は、赤い大きな手の上にいた
「ーは?」
歩夢はそのまま、近くの比較的崩壊していないビルの上に下ろされ、自分を下ろした赤い巨人を見上げる
歩夢が一体化していた証である青いラインが消え、元の真紅の体色に戻ったイクサがそこに立っていた
『ここで、お別れだ』
しばらく状況を飲み込めなかった歩夢が、面食らって叫ぶ
「ちょ、何言ってんのよイクサ!?まだアレを止めてないじゃない‼︎分離する必要なんかー」
『だからこそ、オレの中にお前がいたらダメなんだ…』
「何、言ってー」
瞬間、大地が鳴動する
五道市の各地に聳え立っていた赤い柱が、大地の下に姿を消していく
否、それはただ元ある場所に集まってきているだけだった
畝り、大地を捲りあげながら集っていく「柱」は、あるものは角を、あるものは牙を、あるものは目を、鱗を、骨を、肉を露わにし、次第にその姿を「柱」から本来の姿である「邪竜」へと変えていく
「何、これ…」
呆然と光景を眺める水輝が溢し、GBCTレナトゥスから見ていた大介とルシルが息を呑む
倒れ伏していたスクナキリエルの亡骸が空中に浮かび上がり、その身が赤黒い液体へと変化すると共に巨大な聖杯の中へと注がれる
がご、がご、がごん
巨大な聖杯はそのサイズを縮め、それでもビルほどの大きさのあるそれを、穴の底から伸びてきた白いしなやかな手が優雅に掴んだ
畝る邪竜は穴の底に集い、長大な体を束ねて赤い玉座を作り出し、そこに座る存在を押し上げていく
手にした聖杯を愛おしげに揺らし、白い、まだ少女の面影の残る「女」がそれを妖艶に傾け、飲み干す
蠱惑的にペロリ、と唇を舐めたそれは、確かに古代ギリシャの人々に似た純白と真紅の衣を纏う人の姿をしていた
否、人と呼ぶには美しすぎた
竜を束ねた玉座に座り、気怠げに脚を組むその女は、イクサや階下の街を見下ろし、ぶかぶかの冠を揺らして少女のように微笑んだ
「こいつ、は…⁉︎」
女はくるり、と聖杯を回す
同時に女の周囲に赤黒い液体が多数集まり、鋭い槍の形となる
カチン、と聖杯を鳴らすと、その槍はイクサへと向かって降り注いできた
ーサァァッ!!!
イクサはその槍をホシウミノツルギを振るってたたき落とす
が、何発かはそのままイクサの体に直撃し、激しい火花を散らす
ーサァァッ…!?
イクサが赤黒い海の中に膝を突く
「イクサッ!!!」
歩夢がイクサに駆け寄り、気づく
イクサの目の光が、弱まっていること
カラータイマーが、見たことないほど速く点滅していること
「イク、サ…まさか…⁉︎」
イクサは自嘲気味に微笑む
『オレも、お前のことバカって言えねぇな』
イクサはホシウミノツルギを抜き、女へと向かって駆け出す
「待って‼︎行ったらダメ‼︎イクサぁッ!!!」
ーサァァァァッ!!!
イクサは放たれる槍を弾きながら、何発かは食らいながら、竜の女帝に向かっていく
女はあはは、とあどけなく笑いながら手をすっと横に引く
指の描く軌跡から赤黒い刃が放たれ、イクサを打ち据え切り裂き吹き飛ばす
ーグォアァァァァッ!?!?
何棟も、何棟もビルを吹き飛ばしながら飛ばされたイクサが赤黒い海の中に叩きつけられる
「やめて…逃げてイクサァァッ!!!」
それでもなお立ち上がるイクサ
ーフフッ、アハハハハッ
女は愉快そうに笑うと左手をギュッとゆっくり握りしめる
イクサの周囲に赤黒い槍が何本も出現し、その体を無慈悲に貫いた
鮮血のように、イクサの体から大量の光の粒子が噴き出す
あまりの光景に歩夢が脱力し、膝を突く
ーグ、ォ…
もうほとんど光が失われた瞳をまだイクサは女に向け、力無く手を伸ばす
女は聖杯から一口、液体を口に含むとぷっ、と吹き出す
その液体が、禍々しい形の槍となってイクサの胸をトドメとばかりに貫いた
イクサのカラータイマーが消灯。その目から、光が失われた
「イクサ…イクサァァァァァァァァァァッ!!!」
歩夢の悲痛な叫びも虚しく、脱力したイクサを玉座の竜の一柱が咥えあげ、自身が渦巻く奈落へと落とす
ーフフフフフフ、アハ、アハハハハハハハッ!!!
愉快そうな笑い声が響く
女ー根源破滅神妃ザハは満足気に、聖杯の液体を再び飲み干した
「イクサは、イクサはまだ死んでない…‼︎」
「こんなの、どうしたら…」
「諦めちゃダメです!!」
「思い出しなさい‼︎彼らは、どんなことをしてきてくれたのか‼︎」
「まだやれることはある。まだ、負けはしない」
「この星は、私たちの命はッ!!!」
『まだ負けてないッ!!!!』
次回
最終回
「地球は皆と生きる星」
ーサァァァァァァァッ!!!
ーテァァァァァァァッ!!!