夜の
ーキヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィ
崩れた巨大な目玉に触手のような手と絡まったコードでできた脚が生えたその異形そのものは狂った笑い声のような声を上げながら崩れた目玉から紫の光弾を放ち、街並みを破壊していく
特殊自衛隊のハウンダー部隊もミサイルやバルカン砲での攻撃を続けているが、ほとんど効いていない
まるですり抜けているかのように手応えが感じられないのだ
『よっこいしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
そんな中目玉の怪物の足元にスライディングしながらGBCTセンチネルが突撃、その足元を掬い前のめりに転ばせる
ーキイィィィィィィィィィィィィ
足元をすり抜け立ち上がり、後方でジタバタと暴れる怪獣を見てうげぇと
「……なんなのこいつ…いや、これ生き物なの…?」
『……私に聞かれても困る』
追いついてきた上空のキャリアーからの通信越しにランダルもぼやく
倒れた怪獣にキャリアーからアナライズウェーブが放たれ、その分析が行われていく
『……なんだこれは』
『どしたの?ランダル』
分析結果に疑問の声を上げたランダルに歩夢が問う
『……こいつの生体反応は模倣だ。脈や心拍、生体熱のようなものが感知されてはいるがその全てがヤツを構成する機械部品が吐き出すものだ。体内からなんらかのエネルギーの波形は感じるが、ヤツ自身に生体から感知される挙動や反応はない』
『え、じゃあアレ生き物ですらないの⁉︎ あんなに動いてるのに』
『……回路系動力系すら体内に見当たらない。要するに機械生命やロボットですらない。あの体をどう動かしてるのか、科学的な説明が不可能だ』
ランダルが珍しく弱気に返答する
ーキヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィ
センチネルの前で怪獣が立ち上がる
「…ともかく、こいつは倒さなきゃならないってわけだ」
センチネルがシールドからパイルバンカーを延伸させ、その手にマシンガンを構える
と、怪獣の体に火花が散り、後退する
キャリアーからのミサイル攻撃と駆けつけてきたハウンダーの攻撃が命中したのだ
「一点突破ァァァァァァッ!!!」
センチネルがバンカーの伸びたシールドを突き出し、目玉の怪獣の胴体らしい部位を貫く
パイルバンカーが貫通した怪獣はしばらく手をバタバタさせてもがいていたが、体を硬直させて爆発した
センチネルがバンカーを格納し、ハウンダーたちとキャリアーが上空からその最後を看取る
カシャッ
その光景を遠方からカメラに写す人物が一人
「今回の怪獣は撃破、と。生物的な見た目ではないから、保護の余地がなかったから?」
カメラを下ろし、メモ帳にペンを走らせる
望遠鏡に持ち替え、再びセンチネルたちが帰投していく様を何かを探すように見遣る
「今晩はあのウルトラマン、来ないのかぁ……残念無念」
左腕にGBCの腕章を付けた女性ー
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『またあの怪獣出たよ』
『怖っ なんで同じヤツばっかり』
『あの怪獣が暴れたせいで怪我したんだが?』
『怪我ならいいだろ 俺なんか家潰されたわ』
『特殊自衛隊なにやってんだか』
『あのGBCTとかいうヤツらもヌルいことしてんなよ』
『逃した怪獣また来たら責任取れんのかってね』
『怪獣なんかのために俺らの血税使うのかよ政府様は』
『怪獣なんて皆殺しでいいだろ』
『そうだそうだ 殺せ殺せ、殺しちまえ』
『俺ら人間サマに逆らうなら死んで当然』
『異議なーしwwww』
ーキヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日 スターゲイザーベース司令室
『情報、把握しました。そちらとしても目下調査中ながら、あの怪獣に関しては撃破する方向で話はまとまっている、ということでよろしいですか?』
「継続調査は行うけど、そう考えてくれていいわ。流石に生物でもない存在は保護できないし、何より宇宙怪獣ー外来種の可能性が強くて敵性が強いならこちらとしてもそちらを選ぶわ」
モニターに映し出された
『分かりました。こちらの方でも調査は続けますが、この手の調査は貴女がたのほうが慣れているでしょうから何かありましたらまたお願いします』
『…あのウルトラマンと呼称されている巨大異星人についても、是非に』
黒斗からの通信が切れ、はぁと歩夢がため息を吐く
『なんとも厳しいヤツだな…』
「昔からあんなヤツなのよ。アイツは」
イクサに返答しながら歩夢がデスクに戻り、椅子に身を沈める
「……イクサ、あの怪獣と似たヤツ見たことはない?」
『……オレは見たことがないが…別宇宙からの噂話みたいなので目玉に手足が生えたヤツってのなら聞いたことはある気がするな』
イクサの言葉を聞き、歩夢が思案する様に顎に手を当てる
「となると、やっぱり宇宙怪獣……?あんたが追ってきたヤツとは違うのね?」
『ああ、アイツはイザーティアとは似ても似つかない』
タラトスクの件の後、イクサは歩夢とランダルに自分が地球に来た経緯を話していた
イザーティアの話を聞いて、先日の妙な細胞片が思い当たったラ歩夢とランダルはイクサの推測通りこの星にイザーティアが降り立っているとして日々警戒と調査を行っていた
そんな中、件の目玉怪獣の出現が何度も起こったのだ
この5日間で既に同じ目玉の怪獣が5回、毎晩現れている
映像記録での比較解析から現れた怪獣は5体とも全くの同型。同一個体とも言っていいほどの酷似を示していた
最初は特殊自衛隊のハウンダーたちが迅速に対処していたが、先日の個体は手強く、GBCTも初会敵となった
(こんな得体の知れないやつ、初めてすぎて訳わかんない…)
改めて映像記録に残された怪獣の記録を見て歩夢が顔を顰める
ーピロンッ
『ん?歩夢、着信じゃないのか?』
「あ、あーこれは気にしなくていいわ」
気の乗らなそうに答えた歩夢が一応スマホの画面を開く
表示したのはSNSアプリケーションのノベッターである
「これの通知音なのよ。色んな人が見れるネットワークチャットサービス…ってやつ」
そう言いながら歩夢は自分のアカウントーの代わりに使っているGBCT公式広報のアカウントを表示する
「一応、ランダルから『怪獣保護なんて理解の得づらいことをしている以上、広報にも力を入れた方がいい』ってことでアカウント作って色々してるのよ」
『なるほど、たしかに理解を得るのは大きな一歩だな。……ん?だったら尚更無視するのはまずいんじゃ…』
歩夢はアカウントの一番最新の書き込み『作戦報告レポート』へのコメント欄を見る
《怪獣が暴れたせいで店がなくなっちまった。さっさと倒せばよかったのに》
《街はぼろぼろ、怪獣は逃す。これ意味あるの?》
《怪獣なんテ死ネばよかっタのに》
《税金の無駄遣いしてんな》
『なんだこりゃ…⁉︎』
「こんなのばっかりだから、見ててもしょうがないのよね。いいコメントもごくごくたまにはあるんだけど」
コメントの9割は否定的な、かつ攻撃的なコメントで埋まっていた
「まぁ、私たちの役割が理解されて無いのは承知の上だもの。気にしてないわ。どんなことを言われても私たちがやることは変わらないから」
歩夢はそう微笑むとスマホをしまい、伸びをする
と、デスク上の内線電話が鳴り響く
「はい、こちら歩夢」
『歩夢隊長、外線通話より隊長とお話をしたいという方がいるのですが…』
「私と?どこからの電話なの?」
『玲武神社の、
「玲武神社?五道市の端っこの?なんでそんなとこの人が…」
その言葉に歩夢の中のイクサが息を呑む
『……玲武⁉︎あの巫女か⁉︎』
「ー知ってるの?イクサ」
『まだお前と一心同体になる前にオレの存在を感知したヤツだ。怪獣と共にいて、ただならぬ雰囲気を感じたヤツだ…』
「……ひとまず話は聞いてみるわ。繋いでくれる?」
歩夢の返答を受け、延樹との通話が繋がる
『はじめまして。玲武神社の巫女を務めさせていただいています。玲武 延樹と申します』
「はじめまして。GBCT隊長、
『ある事をお伝えしたくて。それと、いい機会なので貴女と少しお話をしたいと思いまして』
「ある事…?私と話…?」
『ー最近出没しているあの目玉の怪物について、わたくしは心当たりがありまして』
その言葉に歩夢がぴくり、と眉を上げる
「なるほど。本当なら確かに聞いておきたい話ね」
『お見せしたいものもありますので、玲武神社の方にお越しいただきたく思います。ご都合、よろしいでしょうか?』
「丁度仕事がひと段落ついたところだからすぐにでも大丈夫よ」
『では、神社の方でお待ちしております』
通話を終了し、歩夢が立ち上がる
「鬼が出るか蛇が出るか、ってやつかしら」
挑戦的微笑むと歩夢は指令室を後にした
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五道市のはずれ
玲武神社の鳥居の端を歩夢がくぐる
「ようこそ、稲葉 歩夢様」
本殿の前に佇む銅鏡を携えた巫女ー玲武 苑樹がきちりとした姿勢で一礼し、歩夢を迎える
「……そちらの方も、隠れてないで出ていらしたらどうです?」
苑樹の言葉に神社入り口近くの茂みがガサッと音を立てる
「な、なんでバレちゃってたんですか…?」
現れたのは動きやすそうなパンツルックの女性
左腕にGBCの腕章を付けているその人物を見て歩夢が声を上げる
「あなた…たしかこの前の会見の時もいたGBCの記者ね?」
「あはは…覚えていただいていたようでありがたいです」
ぺこり、と会釈しながら女性が名乗る
「改めまして、GBCで怪獣災害部の記者やってます!篠宮 水輝と申します!」
「怪獣災害部…?そんな部署あるのあそこ?」
「私が立ち上げました!まだ私一人だけですが……」
照れながら頬を掻く水輝
「隠れてた理由は?私か、玲武神社、どちらかのことについて調べてるとか?」
「いえ、私が調べてるのはあの巨人のことですよ」
水輝が言った言葉にピクリと歩夢が眉を動かす
「巨人…?」
「はい、あの赤い巨人です!怪獣を三度も退けた謎の赤い巨人。五道市の市民みんなが気になっているウワサの巨人……その謎に一番近いのがあなたと判断して張り込んでいました!」
水輝が敬礼の真似事をしながら答える
「………一応、理由はなんかあるのかな?」
「ありますよもちろん。稲葉隊長の専用機体のGBCTセンチネル、普段の作戦では怪獣に先陣を切って突撃してるのにあの巨人が現れてる時は見られませんから」
図星を突かれて歩夢が冷や汗を垂らす
コホン、と苑樹が咳払いをする
「積もる話もあるのかもしれませんが、こちらとしても早く要件を終えたいのです。本当は歩夢様だけお通しするつもりでしたが…水輝様もこちらに」
「やった、ラッキー!ありがとうございます!!」
現金にも水輝が目を輝かせる
はぁ、とため息をこぼす歩夢に水輝が耳打ちをする
「ー何だかわかりませんが、この後ゆっくり色々取材させてもらいますね、稲葉隊長」
とスキップするように離れていく水輝の背を見ながら歩夢がまた冷や汗を垂らす
『……まぁその…ファイト?』
「ーやかましい」
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水輝と共に案内された場所は社務所の中の大部屋だった
長机の上に巻物が一つ置かれていた
「こちらは、この五道市の過去に起こったことをわたくしの先祖が記していたものになります」
巻物の封を解き、苑樹がゆっくり丁寧に広げていく
それを水輝と共に興味深そうに見ていた歩夢
ある描写を見つけて思わず机に手を当てながら目を寄せる
「これって…⁉︎」
そこに描かれていたのは最近五道市に出現していた目玉ーあの正体不明の怪獣と恐ろしいほどよく似た絵だった
「近頃出現し続けてるあの怪獣にそっくりですね…」
水輝も興味深そうに覗き込み、すかさずカメラを構えるが苑樹に睨みつけられ渇いた笑みで誤魔化しながらカメラを下げる
「……一応写真、いいかしら?」
「本来は撮影厳禁ですが、データとして必要なのでしょう?どうぞ」
苑樹の許可を得て歩夢はGBCTのデバイスを取り出し、巻物の記述を録画していく
その横で水輝が「えー!?ズルいです!!」と声を上げていたが歩夢と苑樹には無視されていた。水輝はぶーぶーとブーイングを上げる
「これは一体……」
「この異形は戦国時代の記述です。高名な呪術師・
苑樹の言葉に眉根を寄せる
「呪いぃ…?でも、戦国時代の呪いがなんで今更……」
「魔頭 鬼十郎は倒され、その妄念もわたくしたち玲武一族の長年の戦いの中で消滅したはずでした」
苑樹はどこか悲しげな、怒りも感じる瞳を見せる
「ーですが呪詛は再び現れた。当時と変わらぬ姿と共に」
「それは…何故なのでしょうか?」
水輝が首を傾げる
「呪詛、とは何も儀式を介したものだけではありません。言霊…放つ言葉そのものもまた力があるのです。祝う言葉、祈る言葉、そして…誰かを、何かを憎み呪う言葉…」
「元々五道市は地脈の収束点が多く、それに魔頭も目を付けてこの地に現れました。一つ一つの呪いは小さくとも、集まればこの地においてはそれは強大な呪詛になりうる」
苑樹はどこか歩夢と水輝を責めるように睨む
「その呪詛は地脈を汚し、人間にも返ってくる。ヒトの自業自得…それどころか大地をも汚す災を生み出す。どこまでも愚かしい…」
「……それは、違うと思います」
意外にも声を上げたのは水輝だった
今までの好奇心いっぱいの表情とはうって変わって真面目な表情を見せ、水輝は続ける
「確かに、元の呪いも現代の呪いも、生み出したのは人間でそれにより大地も影響を受けるのかもしれない。でも、だからただ人間が愚かしいとするのもまた、呪いになってしまうのではないでしょうか?」
「………」
水輝の言葉を苑樹はしかと受け止める
「……一理はあります」
苑樹がぽつり、と答える
「ーですが、事実コレを産んだのはヒトの業。大地と寄り添うわたくしたちから見れば愚かと言わざるを得ない」
苑樹の厳しい言葉に水輝が言葉を飲み込む
パンっ、と歩夢が手を叩く
「話は理解したわ。一応その情報を元にあの怪獣…呪いへの対策は組めるだけ組んでみる。情報提供ありがとうございました、苑樹さん」
そう微笑みながら告げると水輝の背中を押し、部屋を後にしようとする
歩夢一人になったタイミングを見計らい、苑樹はその背に向けて口を開く
「人間が怪獣を憎むことも、怪獣が人間を憎むこともないようにする。あなたはそう言っていますね」
「……そうだけど」
インタビューやらで何度か告げた歩夢の意志の言葉
それを吐き捨てるかのように苑樹は告げる
「地脈を汚し、『彼ら』の生活地を奪う人間に、あなたは本当に怪獣を憎む資格があると思いますか?怪獣に、人間を憎むなと言えますか?」
苑樹の厳しい言葉に歩夢は足を止める
「言えるし、思うよ。私は」
歩夢は振り返り、苑樹の目を見据えながら告げる
「人間も、もちろん怪獣も、意志がある。奪われたら憎む人も怪獣もいる。そこに資格なんていらない。だから誰も憎まないように、知らないことが多い私たちが『あの子たち』のことを知らなくちゃいけない」
「ただ大多数が愚かだからと言っても、人間はきっと変わっていける。だから私は、最初に変わって皆に伝えていく道を選んだの」
そう言って微笑むと、歩夢は苑樹に一礼して去っていく
その背を見て、苑樹は唇を噛みしめる
「……その変化を、大地はいつまで待てばいいのです?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
玲武神社からの帰り道、歩夢は通信端末GBCTパッドを使ってランダルに苑樹から聞いた話を報告する
『……呪いだと?』
「正直私も参ってるけど、あの怪獣のことを考えるとそれしか考えられないのも事実なのよね」
『……実に非科学だ。そんなものが質量のある姿をとるなど…』
ランダルは渋い声で返事する
『……だが、確かにその面も考えなければ辿り着けないものもあるだろう。こちらでも情報を集めてみておく』
「さっすが話が早い。こっちも脚使って調べてみるからそっちのことは頼んだわ」
『……了解した』
歩夢が端末の電源を落とし、しまう
「ーで、私への取材はいいの?篠宮さん」
後方についてきていた水輝を振り返り、歩夢が告げる
「あ、ええと……その……」
珍しく歯切れが悪い感じでしばし躊躇していた水輝が口を開く
「……稲葉隊長は、本当に怪獣と人間が憎み合わない世界にすることができると思ったから、GBCTの隊長になったのですか?」
思っていたよりも真面目な問いに歩夢はしばし呆けて立ち止まる
「……そんなことでいいの?」
「…純粋に、聞いてみたいことです。取材ですから」
照れたように笑い頬をかく水輝
彼女に向き直り、歩夢は胸を張って答える
「ー『できる』とは思ってない、というか…確信はないかな」
「……え?」
予想外の返答に水輝が思わず声を漏らす
「後ろ向きってわけじゃないよ。そんな簡単なことだとは思ってないってだけ。怪獣と人間の共存、大きさも生き方も全然違う種族だもん。絶対一筋縄じゃ行かない。私の代ではどうにもならないかもしれないし」
歩夢が腕を組みながら答える
「ーでも、だからって『やらない』とは私は選ばなかった」
続く一言に水輝は目を丸くする
「できると思ったからやってるわけじゃない。そうしたいから、私はGBCTで隊長をやってる。そういうワケ」
「………」
その返答に水輝の目が泳ぐ
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
そこにどこからともなく薄気味悪い声が響いてきた
「この野郎!!!」
と近くの通行人が別の通行人に掴みかかりいきなり殴りつけていた
「ちょっとちょっとちょっと!?ストップストップ!!」
取っ組み合いの喧嘩を始めた通行人たちを歩夢が引き剥がし仲裁を始める
「一体何してんの⁉︎」
「こいつが俺のこといきなり笑いやがったんだ‼︎ バカにしたような感じで!!」
「ハァ!?お前だろうが笑ったのは!!」
「だからストップだっての!!落ち着きなさいな…」
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
再び気味の悪い声が響き、歩夢が押さえていた青年が今度は水輝を睨む
「お前まで…⁉︎何がおかしいってんだよ!?」
「わ、私⁉︎いやいや、私は何も…⁉︎」
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
頭をかきむしる男を嘲笑うかのように、集まりつつあった野次馬から、水輝の手元から、様々な場所から気味の悪い声が響き、どこまでも反響して大きくなっていく
思わず手元ー手にしていたスマホの画面を水輝が見ると、そこにはノイズの中から巨大な目が表示されていた
「ひっー」
水輝がスマホを取り落とす
その画面に映る目が、ぐにゃりと黒目の部分を歪め
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
心底愉快そうに“笑った”
ふわり、とそのスマホから目玉が浮かび上がる
それが吸い寄せているかのように野次馬たちの手からもスマホが飛び出し、様々な場所から電子部品やコードが飛来。目玉を中心に渦を巻く
その塊は確固たる形を成し、巨大な目と目玉が映るモニターを多数備えた異形の怪物として現実に足を下ろした
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ーうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
姿を現した目玉の怪獣ーガンQ コードNo.EXを見た人々は蜘蛛の子を散らすように逃げていく
その人々に向けて奇獣は腕を鞭のようにしならせ、先程歩夢が押さえていた青年を巻き取る
「う、うわぁ!!」
その腕に歩夢が放ったGBCTマグナムの光弾が命中、解放されて投げ出された青年を歩夢が受け止める
「早く逃げて!」
歩夢が青年の背中を押す
恐怖に歪んでーどこか憎々しげな顔で青年は吐き捨てる
「お、お前らが早く倒してたら、こんな目に合わなかったんだ!!」
その言葉を受け止めながら歩夢は眉根一つ動かさない
ーパシャッ!
その隣にいた水輝は一人、カメラのシャッターを切っていた
「何やってんの!?早くあなたも避難を!!」
「これも私の仕事です!私が、しなくちゃいけないこと…‼︎」
歩夢の言葉に水輝が反論する
「真実が伝わらないまま、誰もが何かを忘れていく…誰かの道が閉ざされる…そんなことはもう嫌なんです!何も言い出せなかった私とは違う今の私だから…今の私にしかできないから!私は退きません!」
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ガンQの振り上げた脚が水輝めがけて振り下ろされる
思わず顔を覆う水輝
その体が押し倒され、足裏から逃れる
「稲葉…隊長……」
自分を庇った人物を見上げる
歩夢は水輝の前に立ち上がり、ガンQを見上げる
「……なるほど、あなたも命と人生をかけられるものがあるのね」
歩夢は優しく微笑み左腕のイクサファーナスを弾く
「行くわよ、イクサ」
『……いいのか?正体がバレたら色々まずいだろ』
「いいの。篠宮さんなら、本当のことを書いてくれるだろうし。というか…勝手に決めちゃったけど、イクサはいいの?」
『オレとお前は今一心同体。お前が信じるなら、オレもまずは信じてみるさ』
「何を…話してるんですか!?」
水輝に歩夢がウインクを送る
「あなたの知りたかったこと、今教えてあげる」
《リンケージ:ウルトラマンイクサ》
突然の眩い光に水輝が目を覆う
回復した視力の中、歩夢の姿は消えていた
代わりにそこに立っていたのは、赤い体に青いラインが走る巨人
ーサァァァッ!!
ウルトラマンイクサがガンQに戦闘態勢を見せていた
「稲葉隊長が…あの巨人…⁉︎」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
気味の悪い体を震わせながらガンQが咆哮する
「この前の時よりも体がしっかりしてる…完全体ってワケ」
『ならこっちも、全力で行くぞ!!』
《フォージング:EXゴモラ》
《ハンマーアップ:スピア》
スピアを出現させたイクサが夜の街を駆け、ガンQに肉薄する
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ガンQはその腕を鞭のように伸ばし迎撃する。が、それをスピアで叩き落としながらイクサはその目に突きを放つ
ーずぶり
穂先が目の奥に突き刺さる
が、ガンQは槍の突き刺さる目を歪ませて“嗤う”
『あ?なっ、抜けねぇ!?』
目に突き刺さったスピアはまるで向こうから引っ張られているかのようにビクともしなくなった
なんとか抜こうと奮闘するイクサに向けて、至近距離から紫の光弾が放たれ、その体を吹き飛ばす
ーサァァァッ!?
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
持ち主の手から抜けたスピアをずぶずぶと目の中に飲み込み、ガンQはお腹らしい部分を腕でさする
『こいつ…⁉︎』
「最近の呪いは好き嫌いしないって…⁉︎」
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ガンQは更に背中から二つの大型モニターを分離させ、イクサを取り囲むように浮遊させる
浮遊したモニターは先日まで現れていた不完全なガンQの姿となる
「分身!?」
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
分身に気を取られたイクサに本体の目から紫色の光線が放たれる
それに包まれたイクサは頭を押さえ、膝をつく
『怪獣なんか殺しちまえ』
『なんも役に立たん特殊自衛隊もGBCTも辞めちまえ』
『さっさと殺せよGBCT』
『怪獣なんか守ってどうするんだよ』
『宇宙人と怪獣の喧嘩とか迷惑なんだよ』
『帰れ!赤いの!!』
『地球人以外は殺せ!!』
「こ、れは…ッ!?」
イクサのインナースペースに立つ歩夢も思わずうずくまる
『なんなんだ…ッ!これ……』
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
身動きの取れなくなったイクサに分身体からの光弾が浴びせられる
イクサがよろめき、倒れ伏さんとしていた
「……ここまで肥大化していようとは…」
奇獣たちとウルトラマンを俯瞰できるビルの屋上に苑樹は立っていた
その手には銅鏡と、どこか幾何学的な意匠を感じる札が握られていた
「呪いは、地脈も汚す大地の病。となれば、わたくしも黙って見ているわけには行きません」
銅鏡の鏡面部を空に向け、月の映る鏡面に指を這わせる
指先から水面のように波紋が広がり、鏡面に月の代わりに琥珀色の目を輝かせる虎のような怪獣の姿が浮かび上がる
【グァァァウゥゥゥ…‼︎】
「ティグリス、お力をお貸しください」
苑樹が札を鏡面に貼り、祈るように目を閉じて詞を紡ぐ
それに合わせて札に鏡面から光が凝集し、《帝虎理守》の文字が刻まれる
目を開けた苑樹は札をとり、イクサと奇獣にめがけて放つ
「ーモンスロード!!」
イクサに向けて光弾を放つ分身体の一体に光り輝く巨体がぶつかり、転ばせる
ーグァァァウゥゥゥ!!!
光に包まれた巨体は徐々に虎に似たその姿をー怪獣ティグリスの姿を露わにする
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
分身体たちが光球を放つが、ティグリスは身軽な動きでビルの上を跳躍しながら回避。エネルギーを迸らせた爪の一撃で分身体の一匹を吹き飛ばし、踏み付けにしてとどめを刺す
エネルギーに包まれ、膝を突いたままのイクサをティグリスが睨む
その瞳に苑樹の姿が一瞬映り込む
『……そちらは任せましょう。元々、人間が撒いた火種です』
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ガンQの放つ怪光線に動きを封じられるイクサ
それを近くのビルから水輝は見据えていた
「呪詛……何かを憎む言葉……もしかして⁉︎」
スマホを取り出し、SNSから様々な書き込みを見ていく
その中にいくつか明らかに行き過ぎな暴言があり、その暴言から続く形で多くの人々が口汚く書き込みを続けているものも見られた
その内容は主にウルトラマンや怪獣、GBCT、特殊自衛隊への不満から発せられているものが多く見られた
「やっぱり……だとしたら…‼︎」
水輝は早速自分のアカウントで書き込みを始める
『あの巨人は味方です!私を助けてくれました!』
『本当です!GBCTの稲葉隊長も避難誘導に必死でした』
『彼らを信じてください!』
GBCTやウルトラマンを応援する書き込みを連投していくが、誰も相手をしてくれない。それどころか反論やサクラを疑う心無い言葉が投げかけられる
「届いて…届いてよ…‼︎」
水輝は必死に書き込みを続けていく
それを察知したのかガンQがこちらを向く
「動画、動画を撮って共有すれば…‼︎」
とカメラを起動してガンQに向ける
そこに映るガンQは水輝へ光弾を放とうとしているその瞬間だった
「ーあ」
気づくのが遅れた水輝に光弾が放たれる
ーサァッ!!!
が、光弾は直撃しなかった
一時的に解放されたイクサが、水輝を庇ったのだ
こちらに迫るガンQを受け止め、拳を頭部に叩きつけて退ける
「…あ、これなら!」
水輝は先程の動画を確認する
そこにはイクサが水輝を庇う背がちゃんと映っていた
『これが証拠です!彼が敵対的な侵略者なら、私は死んでいました』
『彼は敵じゃない。私たちのために怪獣と戦ってくれてるんです!』
祈るように水輝は動画を添付して投稿する
「お願い…お願い…‼︎」
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ガンQは鞭のように伸ばした腕でイクサを打ち据える
「くぅっ…‼︎ 頭痛くなってる時に…‼︎」
先の攻撃のダメージが残っているせいか、まだイクサの動きは鈍い
胸のカラータイマーも赤く点滅を始める
ーキヒヒヒヒ……ヒィ!?
その時、突如ガンQの動きが止まる
と共にその体がぶるぶると震え始め、少しずつ溶け落ち始めた
『なんだ…⁉︎』
『その人の言ってること、私は信じる』
水輝の書き込みに反応が入る
『私のおばあちゃん、怪獣に襲われて逃げそびれて…でもあの巨人が戦ってくれてGBCTの人が救助して助かったから』
『……これ見たら確かに。あいついいヤツなのかも』
『守ってくれるんだ…カッコいい』
ぽつぽつと、それでも確かに巨人を信じるという書き込みが増えてきていた
「やった…届いた…」
安堵と共に水輝がペタンと座り込み、微笑む
ーギ、ギキヒヒヒヒヒヒィィィィ!?!?
ドロドロと溶け落ちていくガンQ
その眼前にイクサが立ち上がる
『やってくれたな呪い目玉…‼︎ コイツでぶっ飛ばしてやる!』
イクサはその手にEXタイラントのタリスマンを取り出す
《フォージング:EXタイラント》
《ハンマーアップ:チェーンハンマー》
イクサの左腕に直接装着される形で手甲とその先に鎖で繋がるトゲ鉄球が出現する
その鉄球を振り回すイクサにガンQは手を振り、後ずさる
『今更逃げようなんて、問屋が下ろさねぇよッ!!』
ーサァッ!!!
イクサの投擲した鉄球がガンQの頭部を激しく打ち据える
更に一度巻き戻した鉄球をもう一度投げ、その腕に巻き付けて引き寄せる
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィ
ガンQはそのまま前方につんのめって倒れふす
『歩夢!決めるぞ!今回はいいよな?』
「もちろん!呪いなんてさっさと倒しちゃわないと!」
イクサは鉄球をしまい、その両腕の手甲を擦り合わせて赤熱化させる
「『イクサライズ光線!!!』」
二人の声が重なり、X字に重ねた腕から赤熱するエネルギーの光線が放たれる
よろよろと立ち上がったガンQにイクサライズ光線が直撃
膨大なエネルギーを迸らせながらガンQは倒れ伏し、爆散する
それを分身体に牙を突き立てながら見ていたティグリスは分身体を離し、それが消滅していく様を見届けてから光となって姿を消していった
イクサは遠巻きにあるビルの屋上ーそこに座る水輝を見据えると、彼女にサムズアップを送る
水輝は一瞬キョトン、としながらも笑顔でサムズアップを返した
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翌日 スターゲイザーベース指令室
『……で、民間人の前でイクサとして変身して戦ったことへの弁解はそれだけ、か?』
どこか怒気を孕んだような声のランダルがデスク前に座る歩夢にかけられる
当の歩夢は脂汗をかきながら沈黙していた
「……いや、でもさ、ほら、篠宮さんはどこにも記事上げてないみたいだし、その、やっぱ私の見立て通りの人で…」
『そういう問題じゃないだろうが』
「はい、すいません……」
どちらが上司だかわからない問答にランダルが頭を抱える
『……まぁいい。今日はいい知らせがある。我が隊に新人がやってきたんだ』
「……ぅえっ!?マジで!?!?」
歩夢がバッと顔を跳ね上げる
『……入りたまえ』
ランダルの言葉に従い、入口から制服を纏った女性が入ってくる
その顔を見た歩夢が思わず目を白黒させる
「篠宮 水輝、本日より着任しました!よろしくお願いします!」
「え、えぇっ!?」
新人隊員はなんと、水輝だったのだ
はにかむように微笑む水輝が歩夢に改めて一礼する
「な、どうしてまた…」
「怪獣を保護すること、理解することを私たちマスコミはまだ知ろうとしていない部分が多いな、と思ったんです。まぁ今日からは私はここの広報担当ですが…」
『……ライセンスだけ持つ、いわゆるペーパーだったわけだが中々情報機器の扱いは類を見ない成績だった。私以外にも後方担当が欲しかった現状、願ったり叶ったりの人材だ』
水輝が歩夢の手を取る
「カッコいいな、と思ったんです。だから手伝わせてください!歩夢隊長!!」
歩夢は頬をかきながら微笑む
「はぁ、じゃあこきつかわせてもらうわよ水輝。うちは人員不足甚だしいんだから」
『ここに来たなら大丈夫ってわけだ。改めてよろしくな水輝!』
「あ、ウルトラマンイクサさん!ここにいるんですねぇ」
水輝が興味深そうにイクサファーナスを撫で、何かを思い出す
「そういえば、広報ページの特集一枚目は作って来たんですよ」
水輝は慣れた手つきでコンソールと自分のGBCTパッドを繋ぎ、メインモニターに映し出す
《ウルトラマンイクサ、大調査!》
と描かれたスライドを
『お、オレぇ!?』
「なるほど…中々いいかもしれないわね」
慌てるイクサを他所に水輝は満足そうに微笑んでいた
怪獣災害により傷つき、職を辞した元レスキュー隊員・雨水 大介
心にも傷を負った彼の前に現れた巨大魔石がショッピングモールを襲う
思いもよらぬ心の傷に苦しむ大介
ショッピングモールに残された人々と共に救うべく歩夢たちが立ち上がる
次回ウルトラマンイクサ
「怪獣災害と傷だらけの勇気」