ー■■■■■■■■■!!!
悍ましい咆哮に目を覚まし、朦朧とする意識で周囲を見渡す
倒れた木が転がる中、そこかしこに火の手が上がっている
山火事の現場。だが、同時にその側の山も半壊し、土砂が山になっているところもある
(……すぐに、消火活動をしねぇと…)
体を起こそうと身を捩る
が、動かない。脚が重い何かに潰されている
ー■■■■■■■■■!!!
再び悍ましい声が響くと共に、それはこちらを見下ろしてきた
黒い大きな、大きな獣の影が
(そうだ…お前が…お前が現れたからー)
恐怖と怒りがない混ぜになって溢れ出す
黒い獣が、こちらに更に近づいてくるー
「ーッ!!」
息を荒げながら青年ー
脂汗でぐっしょり濡れた額を拭い、息を整える
ふと、自分の脚に手を伸ばし顔を顰める
「……くそったれ…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……うぷっ…」
あてがわれた専用のデスクに
「大丈夫、水輝?」
「……だ、大丈夫じゃないです…めちゃくちゃ気持ち悪い…」
「まぁそりゃそうなるわよね…」
水輝は現在、ランダルの監督のもとGBCTのメカの操縦訓練を受けていた
航空戦力をうまく扱えない歩夢のために半ば倉庫番と化していたGBCTのマシンーGBCTアルバトロス
マシンの運搬と現場管理、捕縛した怪獣の運搬が主な役割のGBCTキャリアーよりも小型なこちらは音響探知による調査や様々な装備の搭載による万能作戦機となっており、実戦投入されればGBCTの作戦の幅も大幅に上がる優れものである
が、水輝が来る以前のGBCT内では現場の後方支援を担当するランダルが乗るわけにもいかず、もう一人の歩夢は航空戦力の操縦だけは致命的に下手だった故に泣く泣くお蔵入りとなっていたのだ
『……すまない水輝。だが航空戦力の追加はこちらとしても急務でな…適性のあるキミには早く使いこなせるようになって欲しいんだ』
「気持ちと理由はわかります……GBCTの作戦って基本GBCTセンチネルによる地上戦が主でしたからね…空飛ぶ怪獣とか出てきたらどうしようもないですし」
ぐっ、と歩夢がバツの悪そうに頭を抱える
『なんというか、今までほんとよくやってこれてたなお前ら…』
イクサがなんとも不思議そうに呟く
『……実際私と歩夢だけの時は後れを取ることが多かったからな』
「二人だけだから対処できる事例の幅も狭かったしね…」
「広報の方とかもその…すごかったですよね…」
少し回復してきた水輝が乾いた笑いと共に呟く
「……まぁねぇ…」
『……返す言葉もない』
説明を削ぎ落としすぎて伝わらない広報を上げていた隊長と、逆に説明過多すぎて誰も読まなくなった広報を上げていた副隊長が気まずそうに目を逸らす
『……水輝隊員の存在には助かっているが、まだ後一人ほど隊員は欲しいところだ…できれば歩夢と共に前線に出れるような腕っ節のある隊員が欲しいところだが……』
「こればかりは水輝みたいな一般人上がりだと難しいわよね……せめて警察とか、自衛隊経験者とか……」
「ーあとは、レスキュー隊員とかもいいかもしれないけど…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
昼下がりの
その2階フードコートで険しい表情の青年は大きなイチゴパフェに向き合っていた
神妙な表情でスプーンを手に取り、静かに手を合わせて一口パフェをすくい、口に含む
険しいその表情が少し和らぎ、微笑んだ…ように見えた
「体の具合はどうなの?大介」
向かいに腰掛け、小さめのパフェを食べていた女性が口を開く
青年ー雨水 大介は少し顔を顰めると、スプーンを置き答える
「問題ない。脚の動きは……やはり悪いが、体調ならすこぶるいいよ。葵姉さん」
「そう?ならいいけど…でも、その脚じゃもうレスキューの仕事はできなさそうなんでしょ?働き口はどうするの?」
女性ー大介の姉の雨水
大介は申し訳無さそうに目を伏せる
「……探してる。けど、俺はやはり…レスキューのような誰かを助ける仕事がしたいんだ」
大介の答えをわかっていたかのように、葵は小さくため息をついて微笑む
「……大介らしいわ。レスキューがダメなら、そうね…」
葵が目を動かし周囲を見る
と、偶然張り出されていたポスターが目に止まる
「GBCTとかどうなの?あの部隊も人を助ける仕事だし、特殊なマシンとか装備もあるから、あなたでも大丈夫ー」
「ーGBCTは絶対無理だ」
大介は少しイラついたような言葉で返答する
「人間を助ける…そうかもしれない。だが、あいつらは怪獣も守るなんて言い出してロクな攻撃をしないで怪獣を逃す……」
テーブルに乗せた拳を大介が握りしめる
その下で大介は自分の太ももを握りしめる
「……俺は、そんな部隊に所属したくなんかない…‼︎」
大介の剣幕にたじろいでいた葵が申し訳無さそうに前髪を直しながら口を開く
「ご、ごめん……そうよね……よりにもよって怪獣との共存や保護を考えてるような人たちのところなんか…行きたくないわよね…」
「……ごめん、姉さん…」
気まずい沈黙が辺りに満ちていた
溶けたパフェのクリームが一雫、置かれたスプーンに落ちた
五道中央デパート屋上
古めかしくも整備された屋上遊園地の真ん中で黒いローブのような服を纏った集団が一人の青年を先頭に天を仰ぎ、口々に呪文を唱えていた
ーキリエ・キリエル・キリ・キリ・エルト
ーリキエル・キルト・キル・キリエ・エルト
屋上遊園地にいた家族連れや客たちは黒ローブの集団を警戒し、離れていく
黒ローブー
「……もうすぐだ…もうすぐ我らが神の遣いが降りてくる…‼︎」
信者たちの先頭に立つ青年は興奮した様子で天に向かって手を広げる
信者たちの頭上、デパートの遥か上空の空に暗雲が立ち込め、その中央から渦巻く雲を押し退けて「それ」が現れる
乳白色の、ひび割れたような表面を持つ巨大な岩のような物体
凡そ意志など感じないそれの出現を見た信者たちは歓喜の声を漏らす
「来た!!来たぞ!!!我らの神の遣いが!!!」
見るからに大質量を持ったそれは、静かにデパートを押し潰しながら落下してきた
巻き込まれた信者たちは、死のその瞬間まで幸福の笑顔を浮かべていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ビーッ!!ビーッ!!
スターゲイザーベース指令室にアラートが鳴り響き、ランダルと遅れて水輝がコンソールに向かう
『……五道中央デパート上空に空間異常、同時に異常熱原体が落下』
「現地の中継映像、出します!!」
モニターに現地の映像が映し出される
そこには乳白色の巨大な結晶状の構造体が落下し、大部分がグシャグシャに倒壊したデパートが映し出され、歩夢も思わず顔を顰める
『……現状の分析だと、微弱な生体反応らしきものは確認できるが…生命活動の兆候や意志は見られないな』
「倒壊したデパート内に生命反応は⁉︎」
歩夢の言葉に頷き、水輝がコンソールを操作して結果を表示して答える
「生体反応多数確認しました!総数…42名!2階部分に8名、他は1階部分に確認しました。3階4階屋上はほぼ全壊状態!」
「
歩夢が特殊自衛隊へと通信を繋ぐ
『ーこちら特殊自衛隊。件の構造物体の分析等はできましたか?』
「詳細な分析は現地で行うわ。それとは別に倒壊したデパート内に多数の生存者を確認してる。特に1階部分には34人もいるから、そちらからも救助部隊を頼めない?データは今送るわ」
歩夢から送られてきたデパート内情報を黒斗が受け取り確認する
『わかりました。すぐに救助部隊を手配しましょう。今回のあの物体の処遇はどう考えていますか?』
「ほとんど意志の感じられない存在だから一応の調査が終わったら撃破を優先目標として行動する」
『ならばこちらも、救助が終わり次第その方向で作戦行動に移らせてもらいます。では』
黒斗からの通信が切れる
「水輝!私と一緒にセンチネルで降下、2階部分の8名を救助!ランダルはキャリアーからの分析と周囲の警戒をお願い!」
「『了解!』」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「う……」
突然の衝撃に気を失っていた大介が目を覚まし、体を起こす
先程まで姉といたデパートは見るも無惨な状態になっていた
そこかしこが倒壊し、切れた配線から火花が散っている
「‼︎ 大丈夫か⁉︎」
近くにいた瓦礫の下敷きになっていた男性に駆け寄り、その身を揺する
が、反応は無い。脈拍が無いことを確認した大介は唇を噛み締める
「……姉ちゃん?姉ちゃん⁉︎」
冷静になってきた脳が、今し方一緒にいた家族のことを思い出し声を上げる
「……大、介……?」
か細い声が側の瓦礫から聞こえ、側に駆け寄る
額から血を流した葵の姿が見えていた
瓦礫同士が支えになる形で小さな空洞になった部分に奇跡的にハマったらしい。だが、体が押しつぶされているのは間違いない
「姉ちゃん!!!」
大介はすぐさま駆け寄り、瓦礫の山を見て即座に動かしても問題ないだろう鉄柱を見つけ、力を込めてどかそうとする
が、力を入れた瞬間に右脚に激痛が走り、うめいて膝をつく
「……クソッ、こんな時に‼︎」
その時、大介はもう一つの異変に気づく
フロアが異常に暑くなってきていたのだ
倒壊し、空調が止まった上に初夏な現在だが、まるで真夏の炎天下のような暑さがフロアを覆い始めていた
「どうなってんだよ…ッ⁉︎」
大介たちに再び衝撃が襲いかかり、崩れてきた瓦礫が今度は大介の右脚を打ち据え、思わず倒れ込む
金属の軋むような音がデパート内に微かに響いていた
数分前、デパート上空
GBCTキャリアーが到着。その下の1階部分には特殊自衛隊の車両が多数乗り付けられ、今も要救助者たちを運搬していた
その車両がいない場所を狙ってGBCTセンチネルが投下される
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「黙ってないと舌噛むわよ!」
慣れない落下の感覚に悲鳴を上げる水輝を横目に、歩夢はセンチネルを変形させデパートの側に着地、その右腕のバンカーユニットを延伸させて2階部分に突き刺して脚部を地面に固定する
「行くわよ水輝!救命アタッシュ忘れずに!」
「は、はい‼︎」
コクピットから移動を始めた水輝の声が震えていたことに気づき、デパートのフロア内に降り立った歩夢は水輝の肩を優しく掴む
「今はマニュアルに沿った行動を心がけて。マニュアル外の自体なら私かランダルにすぐ通信して聞いてくれたらいい。気負わなくても大丈夫よ」
「……はい」
力強く水輝が頷く
その瞬間デパート内に衝撃が走り、二人は思わず姿勢を低くする
『……歩夢、まずいことがわかった』
「どうしたのランダル?」
『……例の結晶生命体、現在進行形でどんどん高熱化・重量化している。このままだと巨大な重力場を形成しながら周囲のものを巻き込みながら沈んでいくことになる』
「救助を急がないとね…水輝、左手側は任せる。私は反対側からフロアをぐるりと回りながら救助者を探すわ。救助者を見つけたらマーカーをセットして窓の側に。救助者の回収はランダルにお願いするわ」
「『了解!』」
歩夢の指示に従い、2人は散開し救助に急ぐ
赤い光を放ちながら高熱化していく結晶生命体
その上空に待機するGBCTキャリアー
それを側のビルの屋上から黒ローブの人物ー霧慧神獣教の教主・
その手を開き、収められていたものーハンティングタリスマンに目を落とす
「ー我らが神の遣い。あなたさまがたにこれをお返しします」
そう呟き、呪文のような文言を唱える
同時にタリスマンが宙に浮遊し、そのまま結晶生命体めがけて飛来していく
タリスマンを取り込んだ結晶生命体がその表面に電気を纏い始めたのを見遣り、更にデパート前の地面に目をやりながら火煙は微笑む
「救済の使徒はここに揃う。浄化の炎に導かれて」
『……電力反応?急にどうして…?』
キャリアーの中で分析を続けていたランダルが結晶生命体の変化に首を捻る
そんな中アラートが鳴り響き、状況を確認したランダルが思わず呻く
『地底から生体反応が急上昇…⁉︎ まさかー』
デパートの目前の地面が大きく捲れ上がり、盛大な土煙が上がる
ーキュエェェェェェェ!!!
土煙の中から青黒い鱗を持った怪獣が出現
顔を覆っていた襟巻きをマフラーのように畳み、くりくりとしたどこか愛嬌のある目で周囲を見渡す
『タイプR怪獣…こいつは、以前火力発電所近くで確認された個体と同じタイプ…識別名は確か、プルメウス!』
プルメウスは赤熱化している結晶生命体を見つけると、そこに向かって進撃を始めていく
「あいつは…‼︎」
こちらに近づいてくるプルメウスの姿が姉を助けようとしていた大介の目にも窓越しに映る
その姿を大介はよく覚えていた
火力発電所の倒壊事故、いや
大介の目の前に現れた怪獣と同じ怪獣が、そこにはいたのだ
大介の脚は震え、額には脂汗が滲んでいた
「……う……」
苦しそうに呻く姉の声で大介は我に返り、救助を再開しようとする
が、脚の痛みで思うように力が入らず、苛立たしげに自分の脚を殴りつける
(クソッ!頼む、動いてくれ…‼︎ 姉さんが死んじまう…‼︎)
力無く項垂れ、大介は遠くから迫り来るプルメウスの姿を睨む
(また……また俺から奪うのか……お前たちが…‼︎)
「誰かいますか⁉︎ いたら返事をして‼︎」
と、どこからか声が響く。若い女性の声だ
「こっちだ‼︎ ここに二人いる‼︎」
大介が叫ぶ。すぐさま瓦礫をかき分けて一人の女性が現れる
アタッシュケースのようなものを片手にしたその女性の制服には見覚えがあった
「あんた…GBCTか⁉︎」
「要救助者、2名確認!もう大丈夫よ」
歩夢が大介に歩み寄り、葵が下敷きになっている瓦礫の前に立つとアタッシュケースから取り出したジャッキを挟み込み、慎重に隙間を広げていく
葵の体から瓦礫が離れたのを確認すると、その体をゆっくりと引っ張り、瓦礫から引き出す
「姉ちゃん‼︎」
「骨は…大腿部骨折が一箇所。額からの出血以外は目立った外傷はなし…でも頭を打って朦朧としてるみたいね」
歩夢はテキパキと手早く応急処置を済ませていく
ーキュエェェェェェェ!!!
その時、窓の外の怪獣プルメウスが口から液体を放つ
それはデパート、いや結晶生命体に命中し…
「なっ!?」
「わわッ!?」
より激しい金属の軋むような音と共に今まで以上に大きな衝撃がデパートを襲う
「‼︎ 危ない‼︎」
何かに気づいた歩夢は地面に寝かせた葵と側に立つ大介をまとめて押し退ける
その歩夢の左脚に、デパート奥から伸びてきた巨大な赤い柱が掠め、その体を吹き飛ばした
プルメウスが吐いた液体を被った結晶生命体の変化は外で救助者を確保しながら様子を伺っていたランダルが目撃していた
液体を被った結晶生命体は、一瞬その発光を緩めたかと思うと激しい金属の軋むような音を上げ、その体を破裂させたかのように展開。その肉肉しい組織の見える隙間部分から赤い触手のようなものを突出させたのだ
『何!?』
咄嗟に突き出された触手を回避するが、その触手から放たれた電撃がキャリアーの主翼を掠め、火花を散らす
『くっ、高圧電流か⁉︎』
コクピットの計器に乱れが生じ、キャリアーが大きく揺らぐ
救助者の安全を配慮し、ランダルは特殊自衛隊の車両の集まる場所へと降下していった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いつつ……いいの貰っちゃったな〜……」
歩夢が引き裂かれた左脚に包帯を巻き付けながらさする
顔を上げ、突き出されてきた触手を見る
先程見た結晶とはうって変わって生物的なその触手は脈動しながらバチバチと電流を迸らせていた
触手が貫いたデパートの床や柱に大きな亀裂が入っていることを目撃し、歩夢が苦い表情を見せる
(建物が限界に近い…このままも危険だけど…)
窓の外にいるプルメウスを見やる
プルメウスは深呼吸をするように深く息を吸って吐いていた
歩夢はGBCTパッドを取り出し、水輝に回線を繋ぐ
「水輝、そちらは無事?」
『な、なんとか…いきなり触手が飛び出してきた時にはびっくりしましたけど』
「そちらの救助した人は何人いた?」
『こちらは4人救助しました。マーカーも設置済みです』
「こっちも4人、今2人は側にいる。これで全員だから水輝は先に外に出て特殊自衛隊の手伝いをして」
『歩夢隊長はどうするんですか⁉︎』
「心配しないで、私もすぐに脱出するから」
『わ、わかりました。無理はしないでくださいよ‼︎』
水輝との通信が切れる
それが早いか否か、ランダルから通信が入る
『すまない、不覚を取った。結晶生命体の電撃でキャリアーがやられて今特殊自衛隊と合流している』
「了解。救助者たちは?」
『マーカーに従ってこちらは6人救助した。全員無事だ』
「よかった…8名全員無事ね」
『こちらが見ていた限りでは、出現した怪獣…識別名プルメウスが口から液体を放ち、それが触れた結晶生命体が大きく変異した。電流は変異の前から確認されていたが…』
「なるほどね…あの火力発電所に現れた子だったか…」
『ヤツの放つ液体がかかった場所は一時的に温度が低下していた。以前火力発電所でも回収したが、この液体は水より蒸発の際に奪う熱量が大きい。そしてそれと同時にプルメウス体内のエネルギー量は増大していた』
『そこから考えるに、プルメウスはあの液体が吸収した熱エネルギーを間接的に摂取していると考えられる。だから熱量の高いものに引き寄せられるのだろう。本来はマグマなどを食糧代わりにしているところを、火力発電所の熱やあの結晶生命体の熱に誘引されてしまった…』
「そっか…あの子もびっくりしてるんだろうね」
『……特殊自衛隊はそう判断していないようだがな』
ランダルの言葉に反応し、歩夢が外を見やる
ーキュエェェェェェェ!?!?
ハウンダーや戦車部隊の砲撃を受け、プルメウスが悲鳴のような声を上げて後退る
後方にあった車につまずき、仰向けにビルを巻き込みながら倒れ込んでしまった
「あいつら…‼︎ 要救助者がいるからこちらの判断は待たないってわけ⁉︎」
思わず歩夢が怒声を上げる
「……怪獣なんだから倒されて当然だろ…」
大介が怒りのこもった声を発する
「あの怪獣のせいで……火力発電所の時も多くの被害者が出たんだぞ⁉︎びっくりしてるだろう…?なんで怪獣なんかに気を遣わなきゃいけないんだ⁉︎」
歩夢はその言葉を受け止めながら左腕のイクサファーナスを弾く
「ーイクサ、一時的に私から分離することってできる?」
『あ?ああ、できるぞ。でも今まだお前の体は治りきったわけじゃねぇからオレが離れたら1分も……』
「1分ももつのね。じゃあ、イクサ。しばらくあの怪獣をお願い」
歩夢がイクサファーナスを外に向けて伸ばす
『ば、バカかお前は!?下手したら死ぬぞ⁉︎』
「それくらいの覚悟はもう、この制服着た時にしてるっての」
『お前なぁ……』
しばらく逡巡していたが、イクサは頷く
『わかった』
イクサファーナスが歩夢の左腕から離れ、赤い球体になる
『ー死ぬんじゃねぇぞ‼︎』
「当たり前よ」
デパートから飛び出した球体は光輝き、赤い体の巨人ーウルトラマンイクサへとその姿を変える
ーサァッ!!
イクサはプルメウスへ肉薄するとショルダータックルでデパートから距離を取るように吹き飛ばす
その間も特殊自衛隊からの攻撃は続く
『ーったく!バカ野郎が!!』
イクサはその攻撃に割って入るかのように乱入し、プルメウスをデパートに近づかないように押しとどめる
「かはっ、ゴブっ…ッ‼︎」
「おいっ!?」
激しく咳き込み、膝をつく歩夢に大介が肩を貸す
歩夢が口を押さえていた右手にべったりと血が付着しているのを見て大介が思わず怒鳴る
「お前、なんでそんな体で…⁉︎」
「ごめん…びっくりさせちゃったね……私さ、この前の怪獣保護の時に……ガスいっぱい吸って死にかけてさ……あいつが私と一体化して助けてくれてなかったら死んでたんだよ、ね……」
ゴホッ、ゴホッと咳を繰り返す歩夢
「……あのウルトラマンってヤツ、あんただったのか…」
「力を借りてるだけよ……居候みたいなもん……」
歩夢は口元の血を拭いながら、大介を見据える
「なんで怪獣なんかに気を遣わなきゃ、だっけ……違うよ……怪獣だけじゃない……貴方たちも守りたいの……」
「は……?」
歩夢は荒い呼吸を繰り返しながらも微笑んで続ける
「怪獣も、人間も……突然の変化は怖い……だから、寄り添ってあげなきゃいけない……もっと理解しないといけない……怖がって、刃を向け合う関係は……もう終わりにしないと……」
歩夢の言葉を聞いた大介は外でイクサが押しとどめているプルメウスを見つめる
ーキュエェェェェェェ!?!?
プルメウスは出鱈目に腕を振り回してイクサをどかそうとしている
が、特殊自衛隊の機体からの攻撃を受けると頭を抱えて姿勢を低くし、ふるふると体を震わせていた
まるで怯える小さな子供みたいに
「…………」
大介は、あの時のことを思い出していた
自分の脚を、目の前で救助者の命を奪ったあの怪獣ープルメウスが憎かった
でも、それ以上に自分の身の丈よりも遥かに大きなその存在が、怖くて仕方がなかったのだ
あの時、大介自身も今のプルメウスのように震えていた
恐らく、あの時のプルメウスも
「……お前も、怖くて訳がわからなかっただけなんだな……」
『歩夢隊長!!!大丈夫ですか!!!』
と、窓の外から通信機越しの声が響く
そこに現れたのはGBCTセンチネル。水輝がマニュアル片手に操作してきたのだ
「み、水輝…⁉︎」
『今バンカーユニットを伸ばします‼︎ えっと、ここをこうして……』
おぼつかないながらもなんとかバンカーユニットを歩夢たちのいる階に固定して水輝が窓を割って急行してくる
「あ、歩夢さん!?大丈夫ですか!?」
吐血している歩夢を見て顔を青ざめさせながら水輝が駆け寄る
「私はいいから……この2人を……女性の方は頭を、強く打ってて骨折もあるから早く治療を……」
「わ、わかりました。こちらです‼︎」
水輝がストレッチャーを搭載した小型ドローンに葵を固定し、歩ける大介を連れてセンチネルへと戻る
「あんたはどうするんだ⁉︎」
「私はまだ、やることがあるのよ」
歩夢はにっと笑って返す
大介たちがセンチネルに戻ったのを見届けて歩夢は声を上げる
「イクサ!」
『ああ、わかった!』
歩夢が伸ばす手にイクサも手を伸ばす
光となった歩夢がイクサのカラータイマーの中へと入り、イクサの体に青いラインが入る
「ふぃ〜ギリギリだった…」
『バカ野郎。もうこんなことするんじゃねぇぞ』
「心配してくれるんだ。優しいねイクサ」
『目の前で死なれたら寝覚めが悪いってだけだ』
ーキュエェェェェェェ!!!
プルメウスが声を上げ、腕を振り回す
「ごめんごめん。すぐにキミも元いた場所に戻してあげるからー」
構え直すイクサ
その背にどこからか電撃が直撃し、思わず仰反る
ーサァァァァァッ!?!?
後方の結晶生命体が、周囲に電撃を放出していたのだ
よろめくイクサにプルメウスも口から水鉄砲を放ち、ダメージを与えていく
既に戦っていたのもあり、イクサのカラータイマーが点滅を始める
「要救助者はこれで全員です!」
水輝が特殊自衛隊に葵の乗ったストレッチャーを預ける中、大介は苦戦するイクサを見上げていた
そして、決意を固めたかのように拳を握ると水輝に向き直る
「なぁ、あんた。こいつを貸してくれ!」
「へ?あ、ちょっと!?」
水輝の返答も聞かず、大介はマニュアルをひったくりセンチネルのコクピットに乗り込む
マニュアルをパラパラと高速でめくりながら、それでも確かに読み込んでマニュアルを頭に叩き込んでいく
「ーなるほど、レスキューヘリよりかは分かり易い」
大介は手慣れた様子で操作し、センチネルを起動させてプルメウスに突撃していく
水鉄砲を吐き続けるプルメウスの足元に近づいたセンチネルは右脚付近の地面にバンカーユニットを叩きつけ、そのアスファルトを崩して穴を開ける
ーキュエェェェェェェ!?!?
バランスを崩したプルメウスは前のめりに倒れ込む
そこにすかさず修理を終えたキャリアーが飛来し、首元に麻酔弾を撃ち込む
一瞬びっくりした様子を見せたプルメウスはすぐにパタリと倒れ込み、すやすやと寝息を立て始めた
それを見たイクサは頷き、結晶生命体に向き直る
金属の軋むような音を上げ、デパートの残骸を崩しながら結晶生命体ーレザイトが立ち上がる
ーサァッ!!
イクサは素早く距離を詰め、回し蹴りを打ち込む
内部の肉肉しい構造に命中し、レザイトは一瞬苦しむような様子を見せるが、すぐに回復し、触手を伸ばしてイクサの首に巻き付けて電撃を流し始める
が、その触手に弾丸が直撃し、半ばから千切れとぶ
センチネルが腰だめに構えたライフルの銃口から煙が上がっていた
触手を振り解き、イクサはセンチネルに頷きを返してレザイトに掴みかかる
あまりの高熱に少し手を引っ込みかけるが、意を決してその体を掴み力を込める
高熱化に伴い、上昇したレザイトの質量に苦戦しながらもその体を持ち上げ、思いっきり上空へと投げ上げる
「『イクサライズ、光線ッ!!!』」
直上に向けて放たれたイクサライズ光線がレザイトを貫く
エネルギーを迸らせ、レザイトは爆散。その体からハンティングタリスマンがイクサの元に戻ってくる
『EXエレキングのタリスマン…』
「イザーティアに奪われたヤツが紛れ込んでるの?」
歩夢の問いにイクサはしばし沈黙し、答える
『分からない。だが……何かの思惑は感じる……』
佇むイクサをビルの屋上から見上げる火煙
その姿が一瞬、悪魔のような異形の人形へと変貌する
ーキリキリィ……
すぐに火煙の姿へと戻ると煙のようにその姿が消え去っていった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『……何か釈明はあるか?』
「……ありません…」
腕を組み仁王立ちになったランダルの前に正座した歩夢が申し訳無さそうに頭を下げる
「私も心配したんですよ隊長!!」
「水輝もごめん…でもアレが確実だったからさ…」
『……このバカものは百歩譲ってともかく、キミもだ水輝隊員。一般人にセンチネルを操縦させるなんて言語道断だ』
「うえっ!?いやいやいや、アレは無理矢理ひったくられてー」
『それもまた管理不足の結果だ。始末書を書いておくように』
「そんなぁ…」
「水輝…ドンマイ」
『お前は反省文10枚だ』
「うぇえっ!?!?」
項垂れる歩夢と水輝
「……でも彼は、一般人のままにはならない気もするかも…」
「姉さん、足の具合大丈夫?」
「大丈夫よ。あんたと同じ脚に怪我しちゃうなんて、変なとこで姉弟してるわよね…」
ベッドから上体を起こして雑誌を読んでいた葵が笑う
検査や治療を終えた葵は特殊自衛隊の付属病院に入院していた
骨折以外は特に異常なしで「病室って退屈だわ」とよくぼやいているくらい元気である
「……俺、やっぱりGBCTに入るよ。レスキュー隊に入る時に一応ライセンスだけは取ってたし」
「へぇ、どういう風の吹き回し?」
「別に。ただ…」
大介は付き物が落ちたように微笑み答える
「あの人たちも、人の命どころかもっと色んなものを守るいい仕事をしてると気付かされたから、かな」
晴れやかな笑顔を浮かべる大介を見て、葵も満足そうに笑みを返した
五道市のある町で吸血事件が発生
聞き込みをしていく中、ある少女が疑われていると気づく
その少女と、彼女に連れ添う男性に近づいた水輝はある真実を知る
特殊自衛隊も疑い始める2人
奔走する水輝
闇に紛れる吸血鬼の正体とは
次回ウルトラマンイクサ
「吸血鬼と星の翼」
飛翔せよ!GBCTアルバトロス!