ぴちゃ…ぴちゃ…
夜道に小さな水音が響く
夜の路地には小さな人影が一つ
地面のなにかに顔を寄せていた影は立ち上がり、口元を拭う
月の光に照らされたその顔には赤い血液がべっとりと付着していた
その丸い瞳は赤く、血のように輝いていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これが、俺の専用機体ってわけですか」
スターゲイザーベースの格納庫内、一機のマシンの前に新たにGBCT隊員となった
そこに屹立する機体はGBCTセンチネルともよく似た陸戦型の機体
2本のアームを持つセンチネルとは異なり、こちらにはセンチネルの物よりも格段に太い4本のアームが備わっている
『……GBCTヘラクレス。センチネルの数倍のパワーと同時に繊細なマニュピレーターを備えた陸戦特化兼救助活動特化型のマシンだ』
「でっかい腕がカッコいいわねぇ…私もこっちに乗ろうかな…」
と、目移りし始めた歩夢に見せつけるようにランダルは近くの長机の上に広辞苑が2冊ほど重なったような分厚さのマニュアルをドサリ、と置く
「……あのー……ランダルさんそれは…?」
『ヘラクレスの操縦マニュアルだ。こいつはパワー型ながらマニュピレーターの繊細な操作が要求される。その分操縦の際に覚えておかねばならぬことも多いということだ』
ぱらぱらと大介がめくるマニュアルの分厚さに脂汗をかく歩夢の肩にランダルがぽん、と手を置く
『……で、私も…なんだって?』
「イエ……ナンデモナイデス……」
ぽんぽん、と大介がマニュアルの表紙を叩く
「なるほど、確かにこいつは俺向きッスね。レスキュー特化なのもありがたい」
『確かに、大介は豪快な上にレスキューとかの心得もあるからピッタリな機体だよな』
イクサの声に大介も小さく微笑みながら頷く
「マニュアルなら一晩あれば多分覚えられます」
『……わかった。訓練はその後に』
「了解です」
米俵を担ぐかのようにマニュアルを担いだ大介はちらと水輝の方を見る
「そういえば、ランダルさん。私アルバトロスの操縦結構慣れてきましたよ〜」
『まだまだだ。基礎はマスターできてきてはいるが応用こそアルバトロスの真骨頂。これからも覚えることは多数あるぞ』
うへぇ、と露骨に嫌な顔を見せる水輝を、大介は険しい表情で見つめていた
「うーん…この怪獣はもっとわかりやすくした方がいいかな…」
指令室で唸りながらパソコンと睨めっこする横で大介は支給されたGBCTマグナムや他のガジェットを整備していた
『ーこんにちは、GBCTの皆さん』
と、そこに突然特殊自衛隊司令官の
雑務を片付けながらコーヒーを傾けていた歩夢が露骨に嫌そうな顔を見せながら口を開く
「急に何の用?黒斗司令」
『突然の連絡で申し訳ありません。あなた方の手を借りたい事件が起きていたもので』
「私たちの手を借りたい事件…?」
モニターに映る黒斗が手元のコンソールを操作し、いくつかの画像を共有する
『ここ数日、
「血液を多く?要するにざっくり切り裂かれて派手に出血したってこと?」
『それならこちらとしても楽な事件でしたが…そうもいきませんでした』
ふぅ、と黒斗がため息を一つ漏らす
『被害者に切り傷はありません。あるのは体のどこかに空いた数箇所の「穴」だけ。正確に血管を貫く形の、ね』
「穴ぁ?……なんなのよそれ。まるで吸血鬼みたいなー」
『…あまりこんな例えはしたくありませんが、正しくそんな感じですよ。町内では「吸血鬼事件」として騒ぎになっています』
歩夢が顎に手を当てながら唸る
『特殊自衛隊は怪獣の殲滅に特化した代わりに、怪獣や異星人の調査面ではあなた方には勝てません』
「ーなるほど、私たちに町内の調査を任せて、出てくるモノ次第ではあんたたちも出向くってワケね」
『話が早くて助かります』
「わかったわ。こちらはひとまず任せてちょうだい」
歩夢の言葉に黒斗は微笑む
『活躍を期待していますよ』
通信が終了したのを確認し、歩夢は上着のチャックを締める
「聞いていた通り、火車町での怪事件調査を開始するわ。ランダルは各種計器の用意を。水輝と大介への詳細な指示はひとまず現場を見てからするわ」
「「『了解!』」」
出撃を準備している中、GBCTマグナムを腰のホルスターにしまう水輝に大介が声をかける
「
「整備?一度も使ってないから大丈夫ですよ」
「使っていなくとも不良は出る時はある」
「GBCTの技術はすごいですし何とかなりますよ」
あっけらかんと返す水輝を大介は険しい表情で睨んでいた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
五道市火車町
『……今のところ妙な数値は観測されないな』
手にしたGBCTパッドを操作しながらランダルが告げる
その背には様々な観測機器を複合させた特製の観測機械が背負われている
「じゃあとりあえず色々と聞き込みかしらね。水輝と大介は二人で。私とランダルはそれぞれ単独で聞き込みしましょう」
「了解です!」
「…了解」
歩夢の指示を受けてGBCTのメンバーが散開していく
「吸血鬼事件、もちろん知ってるわよ。物騒な事件で怖いわ…」
「お隣さんの一人が今病院なのよ…」
「それは…大変でしたね」
歩夢がまず聞き込んでいたのは主婦の二人
「何か不審な人物を目撃したとか、不審な行動をしている人らを見たとかありませんか?」
「不審な人物だとかなんとかならあの二人よ間違いなく」
「あの二人?」
聞き返す歩夢に主婦二人は口を揃えて返す
「宇宙人よ。宇宙人の二人組。ここらじゃ有名なんだから」
「宇宙人の二人組、ですか?」
メモを片手に水輝が大学生らしき青年に問う
「ああ、ここいらで最近見かけられるようになったヤツらなんだけど、なんか変な二人組でさ。小さい女の子と大学生くらいの男なんだけど、なんか生活感感じないし、夜遅くに変なとこで見かけるし、極め付けは…」
「極め付けは…?」
水輝の隣に立つ大介が更に問いかける
「ー女の子の方が血塗れで歩いてるのを見た人がいるんだよ」
『……奇妙な二人組…血塗れの少女、か…』
ランダルがうむ、と唸る
話を聞いていた老夫婦が頷く
「ごめんねぇ、あんたの前でこんなこと…」
『いえ、気に病む必要はありません。未許可の入星をした異星人が怖がられるのは道理ですから』
「…あ、あんた、ほらあそこ!!」
お爺さんがランダルの後方を指差して叫ぶ
振り返ったランダルは曲がり角の影から小さな黒髪の少女が覗いていることに気づいた
ランダルのことを視認した少女は曲がり角の奥へと姿を消す
『!ご協力、ありがとうございました!』
老夫婦に礼を述べ、ランダルが少女を追う
その背を見送ったお婆さんの隣でお爺さんは酷く冷たい顔でランダルを見据えていた
『待て!!』
曲がり角を曲がり、少女の姿を視認したランダルが追跡を続ける
と、新たに少女が曲がった先から入れ替わるように飛び出した人影がランダルに襲いかかる
『くっ!?』
襲いかかる人影にランダルは即座に応戦し、独自の格闘術で対応する
腕を捻り上げ、襲撃者の顔を視認する
「ーッ!!」
襲撃者は若い青年だった
『……この軍隊格闘術、ヴァイロ星の兵士か?』
「!?くっ!!」
図星だったのか青年は捻り上げた腕を中心にしてランダルの背を伝いながら拘束を振り解き、その胴体に掌底を突き立てる
よろめいたランダルの背後から黒い影が飛来し、青年の側に浮遊する
「ーホシ!!」
青年を守るように現れたそれは、角ばった大きな羽のような何か
赤い目を二つ煌めかせまるで威嚇するかのように浮遊したそれは先ほどの黒髪の少女の姿へと戻り、青年にしがみつく
『バネス族の少女だったのか…』
青年は少女を抱き上げ、ランダルとすれ違うようにして逃走する
『ーッ!?』
ーキィッ!!!
追おうとしたランダルの背後から光線が飛来する
そこに出現していたのは橙色の瞳を持つカラスのような頭を持つ黒服の怪人。その手には複雑な機構の大型銃が握られていた
『レイビーク星人…⁉︎ こちらランダル、未認可と思われる宇宙人を確認。ヴァイロ星人の青年とバネス族の少女、レイビーク星人の兵隊ー』
GBCTパッドに連絡を入れたランダルがレイビーク星人の大型銃から放たれた光線に撃ち抜かれ、小さくなって銃の中に吸い込まれていく
ーキキキッ
レイビーク星人はその銃を確認し、笑ったかのように見えた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ランダルさんが…⁉︎」
歩夢に招集され集まった水輝が歩夢の言葉に息を呑む
「やられたとは分からないけど、連絡は取れなくなってる…」
「この街に、何か潜んでいることは確実って訳ッスね…」
歩夢がGBCTパッドを操作し、ファイルをいくつか呼び出す
「ヴァイロ星人、バネス族、レイビーク星人、ランダルが報告してきた宇宙人はこの3種族ね」
歩夢から共有されたファイルを水輝と大介が確認する
「……このバネス族、『他の種族の血を食料とする』とありますが、この事件はこのバネス族の少女が主犯と見ていいのでは?」
「そうとは、限らないのではないですか?」
大介が歩夢に告げる言葉に水輝が異議を唱える
「……相手は生物の血を啜る宇宙人だぞ。状況証拠はほぼ出揃っているだろうが」
「でも、状況証拠だけなんですよ。いくら宇宙人とはいえ、大の大人を何人も襲ってるのが小さな女の子だなんて…」
「女の子の見た目をしていても宇宙人は宇宙人だ。危険なら早急に対処しなければ被害者が増えるだけだろうが!」
大介が怒声を上げる
喧嘩腰になりつつある2人を歩夢が制する
「はいはい喧嘩しない…ひとまず黒斗にも連絡入れておくとして、もう一度二手に分かれて宇宙人の捜索に移るわよ。大介は私と一緒に、水輝には一人で捜索を任せたいけど」
「…な⁉︎」
「え、私一人ですか?」
驚く大介と水輝に歩夢は頷く
「無茶はせずに何かピンチになったら必ず連絡すること。それができるなら、任せたいのだけど」
「は、はい!了解です!」
「じゃあ、頼んだわ。大介、私たちも行くわよ」
腑に落ちない様子の大介を引っ張り、再びGBCTのメンバーが散開する
一人の少年がそれを道路の端から無機質な瞳で見つめていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……納得行きません」
GBCTパッドを構えながら調査を続ける歩夢に大介が声をかける
「水輝を単独行動させたこと?」
「彼女…篠宮隊員は元記者、ほとんど一般人のようなものです。道具のメンテナンスも怠って、隊員としての自覚が足りない部分も多い」
「うーむ…まぁ確かに水輝はそういうのあんまりしないからなぁ…」
「俺たちの仕事は命に関わる仕事です。彼女ひとりの失敗も、多くの命に直結する可能性もありますしー」
大介の肩に歩夢が手を置く
「ー水輝なら大丈夫だよ。確かにまだ未熟なところはあるけど」
大介は黙ってその言葉を受け止める
「記者というと、私や大介とかから見るとほとんど一般人なのは理解できるけど、彼女はその仕事にきちんと魂をかけてる」
「………」
「それに、私らには難しいけど水輝ならできることだってあるからね」
「…篠宮隊員だからできること?」
首を傾げた大介の首根っこを掴み、突然歩夢が姿勢を低くする
瞬間、大介の頭があった位置を青い光線が通り過ぎた
「ーッ、今のは⁉︎」
ーキキッ!
塀の上から黒い影が跳躍、身を翻しながら着地して2人に向き直る
「レイビーク星人…‼︎ そっちから出向いてくれるとはね」
手にした銃を構え直すレイビーク星人に相対し、歩夢と大介が構える
「ランダルさんのGBCTパッドの反応は…この向こうの民家から?」
GBCTパッドを操作しながら水輝はランダルのパッドの反応を追う
幸い、ランダルのパッドは生きているらしく反応を拾うことができていたのだ
「えっと…ここのアパートの2階みたいね」
水輝がたどり着いた先は2階建ての古いアパートだった
その奥の部屋から反応が検知されている
念のためGBCTマグナムを抜き、アパート前の塀を通り過ぎ敷地の中に入っていく
「ー‼︎」
視線を感じた水輝が右に向き直りながらGBCTマグナムを構える
「……ッ」
マグナムを向けた先に立っていたのは、長い髪と赤い目の女の子だった
自分が向けたGBCTマグナムを見て震えているのを見た水輝は銃口を下げる
「あ、ごめー」
「う、動かないでくれ…‼︎」
チャキッ、と水輝の背後で物々しい音が鳴る
視線を動かし見たものは、こちらに向けて拳銃のような銃を構える青年の姿だった
それを見た水輝は右手に握っていたGBCTマグナムを落とし、遠くへ蹴り飛ばす
「え…?」
「……いきなり銃を向けてごめんなさい。でも、私はいきなりあなたたちを撃ったりはしないわ」
呆けていた青年に水輝が微笑みを向け語りかける
「話を聞かせて。私はそれくらいしかできないけど」
ーキキッ!!
襲いかかるレイビーク星人の攻撃をいなし、なんとか銃を奪おうとするがレイビーク星人はそれを振り解き、改めて銃を構え直す
「隊長!」
大介がレイビーク星人にGBCTマグナムを向ける
「待った!大介!!」
それを歩夢が制止する
レイビーク星人は引き金に指をかけ、引き絞らんとする
「ー私たちは、あなたを捕まえにきた訳じゃないわ。今のところは」
「歩夢さん!?」
歩夢の言葉にレイビーク星人の指が止まる
『………』
「手口が違うわ。あなたのやり方」
歩夢がGBCTパッドを見せる
「あなたが連れ去ったランダルの生体パルスはまだ生きてる。殺すまで吸血する目的なら口封じも兼ねて殺せばいい。でもあなたはそうしなかった」
『………‼︎』
レイビーク星人はしばし警戒を続けていたが、銃口を下げー
ーすぐに持ち直して歩夢に銃口を向けた
「ーッ!!」
大介が息を飲み、マグナムを構え直した
「………」
水輝の言葉を聞いた青年は言葉を決めあぐねたか沈黙する
その側に、いつの間にか少女が駆け寄っていた
「ハイル だいじょうぶ この人 こわくない」
「ホシ……」
ハイルと呼ばれた青年は銃を下ろし、少女ーホシの頭を撫でる
「……ボクは、ハイル。ヴァイロ星人の元軍人で、戦地から逃げた身です……身分の証の仮面を捨ててきたので本星ではボクは戦死した扱いになってるはず……」
「ヴァイロ星人……ランダルさんが言ってた通りね。その子は?」
水輝の視線がホシへと向かう
「この子は、ホシ。ボクが名付けました。ボクが最後にいた戦地で置き去りにされていた、バネス族の子供です」
「バネス族もランダルさんからの報告にあったわね…血を吸うって聞いたけど、そのホシちゃんもそうなの?」
「違います!」
どこかおどおどした口調だったハイルが怒声を上げる
「この子は…牙が未発達で血を吸えないんです」
差し出されたハイルの指をホシが申し訳なさそうに噛み付く
歯を立てて噛み付いたはずだが、小さな噛み跡がついた程度で傷にはなっていないことがわかる
「吸血種族なのに血が吸えないのね」
「はい。置き去りにされたのも、きっとそのせいです」
ハイルがホシを庇うかのように抱きしめる
「…この町に潜んでいたことは本当です。でも、ボク達は侵略の意思も、地球の人を傷つける意思もありません!そんなのは、もうたくさんだから……人が襲われる事件も、偶然遭遇しただけなんです!」
ハイルの必死の訴えを水輝は受け止める
「うん、信じます。そして、信じさせてみせます!」
水輝は胸を叩いて自信満々に告げる
「え……」
「吸血事件の現場は見てます。被害者の人たちはみんな、深々と刺し傷を負ってました。ホシちゃんの甘噛みではつかないような傷です。これなら、十分な証拠になります」
水輝はハイルとホシの手を取る
「誰がなんと言おうと、私が信じさせます。お二人が、悪い宇宙人じゃないって」
水輝のその言葉を聞いて安堵したのか、ハイルはほっと息をつく
その顔を見て安心していた水輝の表情が凍りついた
ハイルたちの背後から飛び出した青年が、ハイルめがけて金属バットを振りかぶっていたからだ
「危ないッ!!」
2人を抱えて飛び退った後に金属バットが勢いよく振り下ろされる
飛んだ先に転がるGBCTマグナムを回収、シリンダーをパラライザーに変更して引き金を引く
ーカチッ
が、乾いた音が響くだけで弾丸は発射されなかった
「は!?嘘ォ!?」
先程取り落とした時にどこかの部品が外れたらしい
困惑する水輝に狙いを改め、青年がバットを振り上げる
水輝は2人を庇って目を瞑る
「だから、整備しとけと言ったんだ!」
どこからか放たれた射撃が金属バットを取り落とさせる
そこに割り込んできた人影が青年の腕を捻り上げ、地面に組み伏せる
「よっ、水輝!」
「あ、歩夢隊長ぉ!!」
間一髪、歩夢が合流してきたのだ
今しがたマグナムで援護した大介も合流し、水輝を助け起こす
『ハイル、ホシ!』
そこに新しくカラス頭の宇宙人ーレイビーク星人も合流し、ハイルとホシを助けおこす
『怪我はないか?』
「うん だいじょうぶ」
「ありがとう、ルプス。そこの人が助けてくれたから、なんとか無事だよ」
ルプス、と呼ばれたレイビーク星人は水輝に改めて頭を下げる
『ありがとう。2人を守ってくれて』
「いえ、実際男の人を取り押さえたのは雨水隊員たちでー」
「篠宮隊員が信じたから、この2人は無事だったんだろ」
謙遜する水輝を大介が制する
「……俺は、成果が評価されないことも嫌いなんだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーブブブ、ブブブブブブ…‼︎
耳障りな音が歩夢が取り押さえていた青年から響き、めちゃくちゃな動きと共に歩夢が振り解く
尋常じゃない様に歩夢たちはGBCTマグナムを構え、ルプスもハイルとホシを庇いながら銃を向ける
『気をつけろ‼︎ アレは皮を被っているだけだ』
「か、皮…?」
「道中でルプスさんから聞いた話だと、どうやら……」
「……私たちが呑気に談笑していた方が、ヤバいやつだったみたい」
歩夢が冷や汗を垂らしながら苦笑すると共に青年の体を突き破り、黒い煙のような何かが羽音を響かせながら飛翔していく
『ヤツらは宇宙吸血群虫モスキュラス…生命体の血液を主食とし、食した血液の遺伝情報を蓄えて急速に進化を繰り返す生命体だ』
「じゃあアレが、吸血事件の真犯人⁉︎」
飛翔していった虫の群体たちは町の上空で渦巻き始める
『ここに潜伏していたヤツはもう既にかなりの進化をしていた。どうやら我々を排除できる程度には進化が終わったらしい』
その群体に向かって町の各所から似たような虫の群体が集まっていき、はっきりとした昆虫にー厳密には藪蚊に似た巨大なシルエットを完成させていく
ーブ、ブブブ…‼︎
細長い翅をさざめかせ、赤い複眼に歩夢たちを捉え、細長い腕を振り上げ叩きつける
「イクサ!!」
『おう!害虫退治と行こうか!!』
それを転がって回避した歩夢はイクサファーナスを起動し、掲げる
ーサァッ!!!
モスキュラスの細い体にイクサの拳が突き刺さり、その体をよろめかせる
ーブブブ、ブブブブブブッ!!!
ーサァァァッ!!
モスキュラスが振りかぶる両腕を掴み、力比べが始まる
『今のうちに、あなたたちの仲間のスタンデル星人を解凍する。ハイルとホシは私の部屋に隠れていてくれ!』
ルプスは銃のカートリッジを取り出して処置を開始する
それを見ていた水輝に大介がGBCTマグナムを手渡す
「俺のスペアだ。今はとりあえずこれを使ってくれ」
「あ、ありがとう!」
2人はGBCTマグナムのカートリッジを威力の高いボムモードに合わせてモスキュラスの顔を狙って攻撃を加え、イクサを援護する
ーブ、ブブッ!?
地上からの援護射撃に弱った隙をイクサは見逃さない
《フォージング:カミソリデマーガ》
《ハンマーアップ:ツヴァイソード》
《フォージング:EXゼットン》
《エンチャント:フレイム》
デマーガツヴァイソードに炎を纏わせた斬撃をイクサが振りかぶり、モスキュラスに振り下ろす
が、その斬撃は分裂したモスキュラスの一部を切り裂いただけだった
『何!?』
「蚊の集まりだからってこと!?」
無数の群体に分裂したモスキュラスはイクサの周りをまとわりつくように飛び回る
炎を纏うツヴァイソードで群体を振り払おうとするが、一部を焼き落とすだけであまりダメージになっていない
「あぁもう!!めちゃくちゃ鬱陶しい!!!」
振り払うイクサの背後にモスキュラスは突如実体化、4つの腕でイクサを掴み上げ、その首筋に鋭い口吻を突き立てる
ーグァァッ!?
ごく、ごく、と口吻を光のエネルギーが伝っていく。モスキュラスがイクサのエネルギーを吸収しているのだ
地上からの援護射撃やイクサの肘鉄にもびくともしないモスキュラスを睨み、水輝は意を決して何処かへと走っていく
「篠宮隊員!?」
「アルバトロスで援護に向かいます!キャリアーにドッキングされてますからすぐに出撃できます!!」
町の郊外に停泊したキャリアーの上部にドッキングされたGBCTアルバトロスのコクピットに水輝が到着し、計器類を起動させる
「GBCTアルバトロス、オールチェックグリーン!」
「行き、ますッ!!」
キャリアーとのドッキングを解除したアルバトロスが主翼を展開し、飛翔していく
カラータイマーを点滅させながらもがくイクサの前にアルバトロスが飛来、ブースターとして機能していた主砲パーツを延伸、前方に展開してモスキュラスに狙いを定める
「ブーステッドパルサー、発射!!」
2門の主砲から放たれた青い光線がモスキュラスの頭部に命中。その複眼の片方を破壊し、たまらずモスキュラスがイクサを解放する
「やった!」
喜ぶ水輝の乗るアルバトロスに向けてモスキュラスから一部分離した群体が放たれ、主翼を掠めてそのバランスを崩す
「きゃああっ!?」
火花散るコクピットの中で水輝が機体のバランスを取り直そうとするが、うまくいかずアルバトロスはよろよろと地上へと落ちていく
「水輝!!」
ーブブブッ!!
アルバトロスを助けに向かおうとするイクサにモスキュラスは目から放つ赤いビームでダメージを与える
「ッ、まずい…‼︎」
じわじわと近づく地面に思わず水輝が目を瞑る
と、軽い衝撃と共に機体が突然安定し、空へと戻っていく
「あれ…?」
《だいじょうぶ おちついて》
響いた声の主人を探し、見上げる
コクピットから見えたのは鋭角な翼のような形状。そこに光る赤い目が優しく点滅する
「もしかして、ホシちゃん?」
《うん わたし》
アルバトロスの機体はバネス族本来の姿になったホシに支えられていたのだ
『彼女の言う通りだ。一度深呼吸をしろ』
「ランダルさん⁉︎」
無事元に戻ったらしいランダルから通信が入る
『機体の損傷は軽微だ。まだ飛べる』
「ーはいッ‼︎」
深呼吸し、気を落ち着かせた水輝の返答を聞いたホシがアルバトロスから離れる
「ありがとう、ホシちゃん」
『モスキュラス群体の制御個体は複眼の間に配置される。そこに電磁パルス弾を撃てば、群体の制御を失って分裂できなくなるはずだ』
「了解ですッ!!」
ランダルの指示に従い、電磁パルス弾を装填しロックオンサイトを立ち上げる
イクサを抑え込み、更にエネルギーを得ようとするモスキュラスに向けて旋回したアルバトロス
ロックオンマーカーが確かにその複眼の間を捉える
放たれた電磁パルス弾が直撃、制御個体を通してモスキュラスの全身に電撃が走り、悶え苦しむ
「今です!」
水輝の言葉にイクサが頷き、両腕を赤熱化させる
「『イクサライズ光線ッ!!!』」
放たれた必殺光線がモスキュラスの頭部から足先までを焼き払い、その群体を残さず焼却する
構えを解いたイクサにコクピットから敬礼を送る水輝
アルバトロスの側を並列に飛行するホシにも笑顔で手を振った
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
モスキュラスの事件が解決した後、ハイルとホシ、ルプスは不正惑星侵入によりGBCTに身柄を拘束され、3人ともそれを受け入れた
火車町の町民の大部分はルプスが縮小光線銃で保護し、モスキュラスから守っていたらしく、すぐに解凍されて検査の後に町に戻された
ルプスは母星の侵略部隊から逃亡してきていたらしく、数年前から火車町に潜んでいるうちにこの星と地球人に愛着が湧き、町の人々をモスキュラスから守るために行動していたらしい
『……結果的に私は町の人々を騙していました。ですが、私はあの町の人々が好きになってしまっていたんです。見殺しになんかできるわけがなかった…』
ルプスはそう告げて潔く罰を受けると誓ってくれた
ハイルとホシは1年ほど前に地球に訪れ、火車町で繁殖をはじめていたモスキュラスに襲われようとしていたところをルプスに助けられ、行動を共にしていたのだ
血の吸えないホシは偶然遭遇したモスキュラスの犠牲者が垂らした血液を舐めたことはあるらしいが、検査から地球人の血液を吸血したことはないことが無事証明され、3人が無害な異星人である認定はすぐに降りるだろうとランダルは言っていた
待機部屋でホシと並んで座る水輝がコーヒーを傾けながらパソコンを操作しているとホシがその袖を摘んできた
「これから ハイルたち どうなるの?」
「えっと…しばらくは私たちが身柄を預かる…要するにここにいてもらわなきゃなんだけど、それが終わったら地上の町で生活しても良くなるはずだよ」
「よかった……」
ほう、と安堵の息を吐くホシ
すると、小さなバネス族の少女は水輝をおずおずと見上げる
「みずき」
「?なぁに?」
「また あえる?」
ホシの言葉に水輝は笑顔で頷き、その頭を撫でる
「休みの日は、遊びに行くよ」
諸々の仕事を終えた水輝は司令室で報告書を纏めていた
その隣に大介が腰掛ける
「……その、すまなかった」
大介が謝罪を水輝に告げる
「お前にも信念や命を賭ける覚悟があること、よくわかった。真実がわかるまでとことん信じ抜く……俺にはできなかったことだ」
「……いやぁ、私はそれしかできませんから」
「だが、それは立派な長所だと俺は思う」
ゴホン、と咳払いをし大介が続ける
「整備の仕方、俺でよければ教える。今回みたいなことに何度もなったら大変だからな」
「ぁあ…それは私も思い知りました…願ってもない話です!」
改めて水輝は大介に手を差し出す
「改めて、よろしくお願いします。大介隊員」
大介もしばし照れ臭そうにしていたがその手を取る
「…こちらこそよろしくな。水輝隊員」
水輝はいそいそとGBCTマグナムを取り出し、そこで思い出したように手を打つ
「そういえば、ホシちゃんに配給する血液パックの目処はたったみたいですよ。人間でなくてもいいらしくて、なんでも牛の血液がお気に入りになったとか」
「そうなのか。血液と肉の違いはあるとはいえ、やっぱり牛は宇宙人にも人気なのか…っと、まずはそこのパーツから分解してだな…」
GBCTマグナムの整備をしながら、2人の新入隊員は交流を深めていった
金剛山に落下した隕石
それは宇宙船に乗った怪獣と異星人だった
金剛山近くに弾薬庫を有する特殊自衛隊は宇宙船共々土砂に埋まったままの怪獣を異星人ごと新型兵器で殲滅する作戦を立案する
助けられる命とそうでない命
その天秤の狭間に大介の心は揺れ動く
次回ウルトラマンイクサ
「救うべき命と救いたい命」
GBCTヘラクレス、起動!!