ーギュイィィィ……
闇の中で蠢く異形の獣ーイザーティアを見下ろした
イザーティアが
ペギラ、ラゴラス、ゴモラは意志を感じられない虚な瞳で棒立ちになっており、それを見つけた触手たちに絡め取られてもなお身じろぎすらしないままにイザーティアへ取り込まれていく
ーギュイィィィアァァァァ…‼︎
イザーティアはその食事によって覚醒したのか、今まで光を失っていた瞳が再び輝き、触手を解いて胴体から袋状器官を一つ脱落させる
ぐねぐねと蠢いた袋状器官は突如肥大化。その姿を体の各所から鋭い棘の生えた恐竜じみた怪獣ーコキュトウスへと変貌させる
ーコァァァァァァ!!!
コキュトウスの咆哮と共に周囲に身も凍る冷気が放出され、そこかしこに霜が下りていく
コキュトウスはそのまま足元の地面を掘り進み、姿を消した
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「怪獣の保護区の捜索、ですか?」
スターゲイザーベースの指令室にて
『……あぁ。兼ねてより探してはいたものだが、昨今の怪獣の連続出現により計画が半ば凍結していたのだ』
「先日、ルシルさんとエルシアを保護したのだけど、彼女たちの宇宙艇の修繕に時間がまだまだかかることもあって、彼女たちがのびのびと暮らすことのできる保護区の必要性が急務になったってことね」
話を指令室の隅で聞いていたルシルが申し訳無さそうに目を伏せる
「済まない…私たちの為に何だか急かしてしまったようで…」
「気にしないで、ルシルさん。私たちの方としても早いとこ保護区は見つけておかないと」
歩夢がモニターに映る画像を何個かピックアップし、複数の島が連なるある諸島を示す
「で、候補地自体は絞れていたからもう一度洗い直ししていたのだけど…この諸島、
『衛星からの簡単な調査ではあるが、この島には火山も存在しているらしいが、観測されたエネルギーは火山の噴火やマグマのモノとは異なるものだと確認している』
ランダルが更にデータをいくつか提示する
『更に、この諸島には火山や少し寒冷なエリア、岩山が連なるエリアなど様々な地形の存在が確認されている。こちらで確認したことのある怪獣たちは問題なく生育できる環境が整っていると見てもいいだろう』
「私たちが今まで対処してきた怪獣たちはGPSマーカーを撃ち込んで逃して動向を観察、再び人間たちの生息域に近づきそうな時は私たちが誘導して出来るだけ怪獣をなるべく傷つけずに遠ざける、そういう形しかできなかったのよね…GBCTの管理地はスターゲイザーベースと地上基地が一つしかないから…」
歩夢がぱちんと手を合わせる
「そういう訳で明日の明朝より私と
「了解」
「了解です!」
『了解。水輝、キャリアーの操縦はもう大丈夫か?』
「はい!アルバトロスよりも操縦しやすいので、もうすっかり!」
作戦の伝達が終わったのを見計らってルシルが手を上げる
「……その諸島の調査、私も同行していいだろうか?」
「ルシルさんも?」
「エルシアと私がしばらく滞在するかもしれないなら、私もその地を見ておきたい。何か協力できることがあれば、是非力にもなりたい」
「どんな危険があるか分からないからNo…と言いたいところだけど、怪獣と普段から過ごしてきたルシルさんの知識は役に立つ場面があるだろうし…お力を貸してもらえるなら嬉しいわ」
歩夢が差し出した手をルシルが握り返す
「私と、私のパートナーの命を救ってもらったあなたたちの力になれれば、私としても嬉しい」
こうしてルシルを臨時隊員として迎えた歩夢、水輝は岩神諸島へと飛び立った
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【シュルルルルルル……】
イツシが見上げる先を神社の階段に腰掛けた
「……地脈が騒いでいる…」
と、苑樹が膝の上に置いていた銅鏡がうっすらと光を放っていることに気づき、鏡面を表返して縁をなぞるように鏡面を丸くなぞる
【ゴォォアァァァァ……】
鏡面に映し出された黒い巨体の影が上げた「声」を聞き、苑樹は眉を顰める
「あの島に…?何故拒まないのです、岩の神よ」
【ゴォアア……】
苑樹の言葉に岩の神は「声」を返す
「見定める…ですか……」
それだけ告げると鏡面から岩の神の姿は消える
苑樹はきちりとした所作で立ち上がり、視線を鋭くする
「この地脈の騒ぎ方……何も無ければ良いのですが……」
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太平洋 岩神諸島近海上空
「そろそろ目的の岩神諸島に到着しますね…あ、見えてきました!」
水輝の言葉を聞いて歩夢とルシルが窓から島を見下ろす
そこにあった島はかなり特殊な形状をしていた
大きな中央の島と中型の3つの島に分かれた諸島
そのどの島も、海に半ば沈んでいた
島の周囲が巨大な岩壁となって屹立し、周囲からの海水の流入を防いでいるのだ
お陰で上空から見える島の内景はわずかとなっているが、頂部の岩壁は大きく崩れており、全域に日光は十分入ってきているようだ
「なんだかめちゃくちゃ特殊な地形してるわね…自然にこんな地形になるものかしら…?」
「ひとまず中央の島に着陸してもいいですかね?」
「そうね。着陸地点が簡単に確保できそうなのは中央島みたいだし、それで行きましょう」
一番大きな中央の島から調査を行うことを決定し、キャリアーの機首を中央島に向け飛行していく
森林が広がる中、木々がない平地を見つけてキャリアーを着陸させる
「周囲の大気組成は問題なし…滞留している有毒ガスなども検出されません」
「OK。ならこのまま降りても大丈夫ね」
大気組成を調べ、無毒であることを確認した歩夢たちが地表に降り立つ
歩夢、水輝がGBCTパッドで辺りの分析を進めていく中、ルシルは目を閉じて耳を澄ませる
「……驚いた。鳴き声だけでも数種類、大型の動物が含まれている。怪獣のものと見てもいいだろう」
「鳴き声の聞き分けができるのね。数種類も怪獣が……」
と、ルシルが目を見開き、岩山と岩壁が見える方向の森に向き直り警戒し始める
「!!こちらに向かってくる⁉︎」
ルシルの言葉を聞いた歩夢と水輝がGBCTマグナムを抜いて構える
ーキシャァァオオオゥ!!
森林の木々を掻き分けて現れたのは2mほどの大きさをした肉食恐竜に似た赤に黒の縞が入った鱗を持つ獣が4体ほどの群れを為して姿を現した
「た、タイプRの小型怪獣!?というか恐竜の生き残り的な…?」
困惑しながらもマグナムをパラライザーに切り替え向き直る歩夢と水輝を凝視する4体の小型怪獣は獰猛そうな牙の覗く口からだらだらと涎を垂らし、荒い鼻息を漏らしている
「どうやらヤツらには、私たちが旨そうな餌に見えているらしい…」
「みたいね…涎だらだら垂らしちゃってまぁ…」
ーキシャァァオオオゥ!!
痺れを切らした怪獣の一匹が飛び出してくるが、歩夢はすかさずパラライザーを発砲。命中し、高電圧を受けた怪獣はその場に倒れふす
「そこまで速いとか強い怪獣じゃないみたいで助かったわ。とりあえず、この場はパラライザーで動きを止めてー」
ーグァァァァァウゥゥゥ!!!
歩夢の声が先の怪獣の咆哮をさらに獰猛にしたような大音量の咆哮にかき消された
地響きと共に森の木々を掻き分けて新たに現れた巨大な影が3人を見下ろす
現れたのは小型怪獣と同じ姿、されど見上げるほど巨大な怪獣だった
「な…⁉︎大型種もいるのこの怪獣⁉︎」
ーグァァァウゥゥゥ!!!
大型種が咆哮を上げ、こちらに迫る
小型種たちもジリジリと迫ってくる
「あわわ…⁉︎いきなり大ピンチ⁉︎」
「くっ…」
「……こうなったら、イクサー」
意を決してイクサファーナスを構えようとする歩夢
が、その横から飛来してきた何かが先頭にいた小型怪獣の鼻先に突き刺さり、小型怪獣が怯んだのを見て歩夢が目を見開く
飛来してきたのは一本の矢尻だった
「こっちだ!」
そこに現れたのは赤黒い皮のようなものをマントのようにし、簡素な服を着た中学生ほどの少年だった
その手には手製らしい弓が握られていた。矢を放ったのはこの少年のようだ
「は…⁉︎男の子!?」
「早くこい!」
困惑していた歩夢たちだったが、ひとまず少年の言う通り彼のいる方へ走る。小型怪獣と大型怪獣も共にそれを追いかけてくる
3人が側に来たのを確認し、少年は指を咥え指笛を吹いた
「アルマ!」
ークォォォォオン!!!
その笛の音に応えるかのように、少年の背後の森林から新たな巨影が現れる
灰色の岩石様の表皮に包まれた四足歩行の怪獣ーアルマンドラは大きく跳躍し、体を丸めて大型怪獣に体当たりを放つ
ーグァァァァァウ!?!?
大型怪獣はよろめきながら呻き、アルマンドラのひと睨みにすくみ上がると踵を返して岩山の方へ逃げていく
小型怪獣たちもそれに続いて退散していく
ークォォォ…
怪獣たちが去ったのを確認したアルマンドラは少年に目配せをし、少年がそれに頷きを返す
「えっと…助かったよ。助けてくれてありがー」
礼を言おうとした歩夢の首に石を磨いたナイフが突きつけられる
「おまえら 知らない ニンゲン」
少年は歩夢たちを睨みつけ敵意を剥き出しにする
「ガイアルド 知らせる ついてこい」
少年はナイフをこちらに向けたまま、アルマンドラへと向き直る
アルマンドラは背を低くし、その背に乗るように促しているかのようだった
「どうする?アユム」
ルシルが問いかけ、水輝も歩夢の指示を待つ
「……ひとまず従いましょう。敵対する理由がないわ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
4人を乗せたアルマンドラは中央のより高い岩山へ向けて森林を掻き分けながら進んでいっていた
アルマンドラの背から見た森林のそこらや岩山の山肌には青い結晶がいくつも生成されているのが確認された
キャリアーはアルマンドラがまるで子猫を咥えるかのように咥えて運んでくれている
居心地悪そうに座る水輝とは違い、歩夢とルシルは時折会話を挟みながらそこらの景色や時折見える巨体を観察していた
「テールダスにサドラ、ゴルメデまで。まばらとはいえ色んな怪獣たちがいるわね…」
「どの怪獣たちも見たところ落ち着いている。ここは相当暮らしやすい場所のようだな」
ルシルが怪獣たちの様子を微笑ましそうに眺める
「……怪獣以外も見たことない生き物が多いわね。なんか虫たちも異様に大きいし、あちこちに青い結晶が生成されてるし…色々気になるところだけど、一番は…」
歩夢は一同の先頭に胡座をかいて座る少年を見やり、その隣に腰掛ける
近づいてきた歩夢をギロリと睨みつけ、少年が口を開く
「よるな 知らない ニンゲン」
「私は人間って名前じゃないわ」
「ナ…マエ…?」
「あなたにもあるでしょ?」
「おれは おれ だ」
少年はその言葉を聞いてもなお首を傾げる
(この子、名前の意味を理解できてない…?)
黙った歩夢を睨みつけてくる少年の視線を感じとり、歩夢が慌てて口を開く
「名前は、それぞれを表す言葉みたいなものよ。私は歩夢。あっちは水輝で、こちらの銀色の髪の人はルシルさん」
「アユム……ミズキ……ルシル……」
歩夢の告げた言葉を咀嚼する様に繰り返す少年に歩夢がもう一度問いかける
「あなたのお名前は?」
「…おれ ナマエ なんだ?」
「あなたがこの子をアルマと呼んだヤツとか、私の「アユム」みたいなものよ」
「……それ たぶん おれには ない」
少年はあっけらかんと答える
「名前がない…?あなたのお母さんとか、家族から名前で呼ばれたりとかは…?」
「おれのかあさん アルマ かぞくも アルマだけ」
少年が愛おしそうにアルマの背を撫でる
「え…じゃああなたは、怪獣に育てられたってこと⁉︎」
歩夢の驚きに少年は不思議そうに頷いて肯定を返す
ークォオオオゥ
そんな中、目的地らしい山の麓にたどり着いたアルマンドラが一声鳴き声を上げた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルマンドラの背から降りた少年はまた指笛を鳴らす
その背後で歩夢は少年から聞いたことを二人に報告していた
「怪獣に育てられた男の子…⁉︎」
「…怪獣と共に育つ私たちが言えたことでもないが、そんなことがこの星であり得るのか…?」
「正直、真偽の程は定かじゃないけど…でも嘘をついてる感じではなかったしね……」
歩夢の言葉を聞いてGBCTパッドで水輝が行方不明者や遭難者の話を調べていく
「…見たところ中学生くらいですが、ここ20年で子供を連れた船団や航空機などの遭難報告は無いです。子供の行方不明者でも該当しそうな人はいません」
「該当者なし…?なんか一気にキナくさくなってきたわね…」
ーズゥン…
大地が揺らぐ音が響く
島の中央部に屹立する巨大な岩山。その後方に連なっていた小山が揺らぎ、起き上がりこちらを向いて近づいてくる
ーゴォォォアァァァァァ…‼︎
現れたのはまるで動く山のような超大型の怪獣
何層も重なった岩石の体は70m近くあり、肥大化した前脚を地に付けて、ゴリラのような歩法で悠然と歩いていた
体の各所から生えた深い青の結晶が優しくも力強い光を放っていた
「ガイアルド こいつら なんだ?」
少年は巨大な怪獣ーガイアルドを見上げ、問う
ーゴァア…
「外…?外からきた ニンゲン?」
ガイアルドの言葉が理解できているのか、少年が頷き、手にしていたナイフをしまう
「……おまえら 敵 ちがう なら 攻撃 しない」
ーゴァア……
安心しろ、とでも言いたげにガイアルドがこちらを見て声を上げる
少年も敵意が薄れているのを感じる
「あの怪獣…なんだかとてつもなく大きな存在に感じられる…」
「確かに、70m超えるサイズの怪獣は珍しい部類だけど…」
「いや、なんというのだろうか…命の質量が大きい、そんな感じがするんだ」
ルシル独自の感覚なのか、ガイアルドを見上げながらルシルはそう告げる
「しばらく ここに いるのか?」
少年が歩夢に問う
歩夢は屈んで少年に目線を合わせながら答える
「ええ、この島と周りの島、怪獣を移住させるのに適しているのか調べたいの」
「イジュウ?」
「なんて言えば伝わるかな……怪獣を私たちのいる場所から、ここに移動させるの」
「なんでだ?」
「私たちの住む場所では、人間がここよりもずっと多いの。だから怪獣がいっぱいいると、人間には大変なことだから、怪獣だけで暮らせる場所を探してるの」
歩夢の言葉に少年は一層首を傾げる
「カイジュウ と ニンゲン なかよくしたら いいじゃないか」
少年の言葉に歩夢は一瞬目を丸くし、苦笑する
「……仲良く、できたらいいんだけどね」
「できるぞ 絶対。ガイアルド この島守る いいヤツ。アルマ も じまんの かあさん」
島の周りを見渡すガイアルドと岩山の側で横になって眠るアルマンドラを示しながら少年が言う
(この少年の言うアルマが母さんって話も気になるのよね…)
「歩夢隊長!前に観測されたのと同じエネルギーを感知しました!」
水輝がGBCTパッドを見せてくる
この近くの地点から異常なエネルギーが観測されていることが分かる
「この近くのポイントみたいね。怪獣たちの様子はともかく、このエネルギーをはっきりさせておかないと、移住なんてできないわね」
「私がアルバトロスで調査して来ます!」
「私も良ければ水輝に同行しよう」
「OK。私はこの辺りの調査とランダルたちへの定期連絡を済ませとくわ」
水輝とルシルがキャリアーからアルバトロスを分離させ、離脱するのを見送り、歩夢は少年の方を見る
微睡むアルマンドラの顔に背中を預けて共に眠るその顔を見て、微笑ましく思った歩夢は思わず柔らかい笑みを浮かべていた
『ありえねぇ…』
「何がありえないの?」
『怪獣とただの人間だぞ?それが共存、どころか家族代わりだって?』
「でもアルマはあの少年のことを本当に大切に思ってる気するわよ」
『……気がする、だけじゃないのか』
イクサの言葉に歩夢が息を呑む
『あの怪獣は、あの子供を本当に母性で育てたのか?いつか大きくなった時、食おうと思って育ててるってことはないのかよ?』
「………」
歩夢は返答しない。いや、出来なかった
(確かに、怪獣がまるで姿形の違う存在をあそこまで育てる理由はない…じゃあ、アルマはー)
もう一度アルマンドラと少年を見つめ、歩夢はため息を一つ吐く
「……まだ、そうは思えないわ」
『……そうかよ。だがな、これだけは覚えとけ、歩夢』
『ー狡猾な怪獣なんて山ほどいるぞ。モスキュラスも霞むほどの、な』
イクサの言葉を歩夢は、ただ黙って受け取ることしかできなかった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『70m級の大型怪獣に肉食と思われる怪獣の群れ、他にも多くの怪獣たちが住まう島、か…興味深い』
キャリアーの中でモニター越しにランダルとの定時連絡を行っていた歩夢が頷く
「さながら怪獣の楽園って感じね。こんな島が今まで見つからなかったなんて…」
『見つからなかった訳では無さそうだぞ』
ランダルが歩夢にも見えるようにモニターに資料を送る
「
『ああ。お前たちの出発後にこちらでも岩神諸島をよく調べていたんだが、数件ほどの記述の中で気になる記述がこれだった』
ランダルはさらに資料を展開し、付け加える
『生体工学と遺伝子学の権威、神代博士はこの岩神諸島の独自の地形や生態に目をつけ、13年ほど前にその地に研究所を作ったらしい。だが、10年ほど前に定期的な研究報告が途絶えたきりで今は行方知らずらしい』
「この島で研究所を……その博士、一人息子がいたとかいう報告はあるかしら?」
『先に報告していた怪獣と暮らしていた少年のことだな。残念だが、神代博士は独り身で、研究報告にもそういった報告はない。ただ…』
「ただ…?」
新たな資料として提示されたのは11年前の日付が記された報告書のファイルだった
『11年前のある日、研究所に収容していた実験生物が「私の大切なもの」を取っていったと記述がある』
「大切なもの……」
『……想定できる話、とすれば…そのアルマという怪獣が研究所を襲撃、どういう間柄かはわからんが、博士の「大切なもの」、即ち少年を奪って育てた、と考えるのが一番妥当だろう』
歩夢が息を呑む
「……とりあえず、こちらももう少し調べてみるわ。ここを保護区にするとしても、その点は気にかかるし」
『了解した』
ランダルとの通信を終え、キャリアーの窓から少年とアルマンドラの姿を見る
どこかで捕らえてきたのか、火を起こして魚を焼く少年をアルマンドラは愛おしそうに見守っていた
だが、今の歩夢はその光景を微笑ましいものと見ることはできなかった
ーグァァァァァァウゥゥゥ!!!
その時、聞いたことのある咆哮が耳に届いた
あの大型怪獣の咆哮だ
キャリアーから降りた歩夢は森林地帯の方を向く
そこにはこちらに迫りつつあるあの大型怪獣の姿があった。今回は4体が一気にこちらに向かってきている
「な、あんなにいたのあいつら!?」
「どうして⁉︎ ここ あいつら こない はず⁉︎」
歩夢の隣に駆けてきた少年が叫ぶ
「来ないはず?」
「マグマイーター つよいやつには おくびょう ガイアルド ぜったい 近づかない‼︎」
あの怪獣ーマグマイーターという怪獣はどうやら生体的に優位な存在には臆病らしく、ガイアルドがいるこの地帯には近づかないらしい
「おいはらう!!」
ークォォォォォォ!!
少年が弓を構えて駆け出し、アルマンドラがそれと合わせてマグマイーターたちに突撃する
「私も加勢するわ!」
キャリアー内からセンチネルのコクピットに移動、出撃し、歩夢もマグマイーターの制止に向かう
ーグァァァァァァウゥゥゥ!!!
マグマイーターに向けてセンチネルのマシンガンが放たれる
怯むマグマイーターだったが、猛進は止まらず、センチネルのシールドでその突進を受け止める
「くっ!?」
ーグァァァァウゥゥゥ!!
そこに横から強烈な衝撃が走り、センチネルが大きく吹き飛ばされる
もう一体マグマイーターが加勢してきたのだ
「この…‼︎ イクサ!!」
『ああ!行くぞ、歩夢!!』
歩夢がイクサファーナスの甲を展開、カードをセットする
《アユム:イクサイテッド》
歩夢とイクサ、鏡合わせになった2人の左拳が衝突する
《リンケージ:ウルトラマンイクサ》
赤と青の光が混ざり合い、ウルトラマンイクサの姿となって森林から屹立。センチネルの目前にイクサが現れる
ーサァッ!!
ーグァァァァウゥゥゥ!!
マグマイーターにイクサが構える中、自動操縦に切り替えたセンチネルが岩山付近に戻っていく
ーグァァァァウゥゥゥ!!!
マグマイーターの突進を受け止め、後方にいなしながら迫るもう一体に後ろ回し蹴りを当て、更に押さえたもう一体に連続でパンチを撃ち込み、渾身のひと殴りで大きくその体を吹き飛ばす
ーグァァァァウゥゥゥ!!
マグマイーター2体は並び立ち、口から火炎を放つ
ーサァッ!!
イクサは目の前に青い円形のバリアーを作り出し、それを受け止める
バリアーごと火炎を絡みとり、光球にしたそれをマグマイーターへと投げ返す
ーグァァァァウゥゥゥ!?!?
マグマイーターたちは光球をくらい、後退する
構え直すイクサ。だが、マグマイーターたちは体を震わせ、こちらに迫る気配を見せなかった
「……怯えてる?」
『は?何言ってんだ。ガンガン襲ってきてるだろ⁉︎』
「でも、なんだか今ー」
ーコァァァァ!!!
瞬間、新たな咆哮と共に周囲の気温がグッと低下した
ーグァァァァウゥゥゥ!!
マグマイーターの顔付近に矢を放ち、怯ませて後退させていた中、少年も尋常じゃない気配と気温の低下を感じ取り、顔を上げる
その口から漏れた吐息は白くなっていた
「なにか くる⁉︎」
ーコァァァァ!!!
新たに現れた咆哮と共に更に周囲の気温が低下、その冷気に捕まったマグマイーターの足元が凍りつく
ーグァァァァウゥゥゥ!?
突然のことに困惑するマグマイーター
その胸を何かが貫き、血飛沫を派手に散らす
「なー」
糸が切れた人形のように脱力し、目から光を失ったマグマイーターが倒れ伏す
マグマイーターを貫いたそれー長く伸びた腕は持ち主の下へと戻っていく
そこに立っていたのは白い体の各所から鋭い棘を伸ばした恐竜のような怪獣だった
少年は嫌悪を隠すことなくその怪獣を睨む
「なんか イヤな かんじ…‼︎」
ーコァァァァァァァァ!!!
咆哮する怪獣ーコキュトウスを見たイクサが驚きの声を上げる
『コイツは…⁉︎ イザーティアの眷属⁉︎』
「イザーティアって…あんたが追ってる怪獣じゃない⁉︎」
『ああ、ヤツは取り込んだ怪獣の遺伝子を複合して新しい怪獣を生み出し続ける怪獣だ……ヤツから感じるこのエネルギーは、間違いなくイザーティアのものだ…‼︎』
イクサがいつも以上の警戒を見せ、構えをとる
『眷属たちはイザーティアが産み落とした化け物…共存なんて出来ねぇぞ』
「…わかった。ここは気を引き締めてー」
ーコァァァァ!!!
コキュトウスはその口に冷気を一気に収束させ、一条の白銀の呼気として放ち、それを薙ぎ払う
マグマイーター2体とイクサが巻き込まれ、その体に白銀の光線が走る
呻くことすら許されず、横から両断されたマグマイーターたちの上半身が凍りつきなだらかになった断面を滑り落ち、切り裂かれたイクサの胸元がぱっくりと光り輝く傷口を開き、血飛沫のように大量の光が吹き出した
ーサァ…ッ!?
「かはっ…⁉︎」
イクサはたまらず膝をつきながらも、その傷を撫で塞ぐ
が、その一撃で多くエネルギーを失ったからかカラータイマーは既に赤く点滅し、肩で息をするほど消耗していた
ーコァァァァァァァァ!!
残ったマグマイーターたちの下半身を蹴り飛ばしながらコキュトウスが迫り来る
そのコキュトウスの目元に小さな矢が突き刺さる
「オマエ!嫌なヤツ!!倒す!!」
イクサの前に現れた少年が更に弓をつがえる
『バカ!!逃げろ!!!』
イクサの警告も虚しく、コキュトウスは少年に狙いを定め、先ほどの圧縮冷気光線のチャージを始める
放たれた少年の弓を弾き、高速・超威力の冷気が少年に迫る
ークォォォォォォ!!!
が、その冷気光線は少年に当たることはなかった
その前に割り込んだアルマンドラの巨体
冷気光線はその左前脚を斬り飛ばしながら、背中の岩石のような表皮すら深く斬り裂いた
ークォォォ……
傷口を凍結させながら、力無くアルマンドラが倒れ伏す
呆然と見つめていた少年は、その事実を飲み込むのに数瞬必要だった
「アルマァァァァァァァァァァァァ!!!!」
母だと呼んだ怪獣に少年が駆け寄り慟哭する
コキュトウスはトドメを刺そうと再び冷気のチャージを始めていく
その発射は横顔に叩きつけられた烈火の拳に妨げられた
ーコァァァァ!?!?
たまらず吹き飛ばされ、大地を転がるコキュトウス
放った拳はそのままに、イクサが、歩夢が叫ぶ
『「お前…何しやがんだ…ッ!!!」』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
激闘が始まる数刻前
中央島の中央にある岩山から少し北東に進んだ森林の中に、この自然の中不釣り合いな近代的な建物が聳えていた
だいぶ年月が経っているようで、その外壁には草が絡みついて半ば崩壊している
その前にはGBCTアルバトロスが停泊
水輝が見つけたエネルギーの発生源はどうやらこの建物だったようだ
その建物を臨む森林の中に、これまた不釣り合い…かつ不自然な服の人物が現れた
特殊自衛隊の士官用制服を纏うその人物は襟を正すと、どこからか扇のようなデバイスを取り出し、そのトリガー横のスイッチを押し込む
同時に、謎の人物の背後に黒い空間へのゲートが現れ、そこにゆっくりと足を踏み入れる
謎の人物は扇型のデバイスーフェイクゼットライザーにカードをスロットインする
《■■■■■■. Access Granted.》
続いてその手元に3枚の怪獣が描かれたメダルを取り出し、一枚ずつ丁寧に装填していく
「超古代怪獣」
「超古代竜」
「宇宙戦闘獣」
メダルが装填されたパーツを、カードにかざすようにスライドさせていく
《Golza》
《Melba》
《Super C.O.V.》
ガイド音声を聴き終わると、謎の人物はトリガーを引く
眩い光と共にその姿が人のものから怪獣ーゴルザの胴体にメルバの翼と頭、超コッヴの顔と脚を備えた合体怪獣のものへと変貌していく
《Tri-King》
ーゴォアアアアア!!!
建造物の側に着地した怪獣ートライキングは背の結晶体と目を赤く光らせ、建造物を睨む
その体内ーインナースペースで袖を正し、黒手袋をはめ直した謎の人物が無感情に告げる
『ーさぁ、仕事といこうか』
コキュトウスの攻撃に倒れたアルマンドラ
その母性故とも言える行動にイクサは困惑する
明かされていく岩神諸島の秘密
神代博士の研究
怪獣の楽園に危機が迫る時
想いを知った少年の心が奇跡を起こす
次回ウルトラマンイクサ
「家族の愛と大地の光」