帰ってきたらD×Dだった件   作:はんたー

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竜の都です

 イッセーside

 

 

 

 

 陽の光が降り注ぎ、そこらにある木々の果物が反射する。瑞々しい果実を見ながら、俺は自然豊かな道の上を歩いていた。

 

「異世界の魔王様も中々見どころあるわね。なんてったって、私の故郷、“竜の都”に行きたいだなんて!」

 

「ここは自然豊かでいいところなんだ。ミリキャスもきっと気に入るぜ!」

 

「はい、とてもいいところですね! この林檎もとても美味しいです!」

 

「こっちもとても美味しいですよ! ミリキャス君も食べますか?」

 

「ふぇ!? あ、は、はい! い、いただきます!?」

 

 ミリキャスはシンシヤから貰った洋梨をまじまじと見つめながら顔を赤くしている。ああ、食べかけだから意識してるのか? 

 

 シャク! 

 

 ミリキャスは勇気を出して洋梨を齧る……まあ、シンシヤが口を付けた場所とはまた別の場所だけど……。

 

「どうですか?」

 

「……と、とても甘くて……美味しい……です……」

 

「ふふん! 当然よ! ここの果物は凄いんだから!」

 

 中々微笑ましい気持ちになるな。俺とミッテルトは今、サーゼクスさんとミリキャス、シンシヤを連れたって、愛とフィオ主導のもと、ミリム領に来ていた。

 あの後、電話でミリムさんにこちらの事情を話すと結構すんなりと許可をもらったんだよな。

 で、部長達が迷宮攻略に集中している隙にこっちにお邪魔させてもらったというわけだ。

 ちなみにミリキャスは既に子ども達と打ち解けている。今までずっとグレモリー領に住んでいたから、同年代の友人もいなかったみたいだし、ミリキャスも友達ができて嬉しいんだろうな。

 

「確かに、近代的なテンペストとは違って、随分と自然豊かな場所だね」

 

「そうですね。ミリムさんの所では農産業が盛んですから……まあ、テンペストにも似たようなところはあるんですけど」

 

「でも、果物の品質なら断然こっちのほうが美味しいんすよね」

 

「流石ミッテルトお姉ちゃん。いいこと言うわね」

 

 ミッテルトの言う通り、果物やら魚やらの品質は断然こっちのほうが上なんだよな。ミリム領では文明の利器とかも普及してきてはいるけど、未だにこういう田舎の風情がある場所が多い。こういうところって結構落ち着くよな。

 

「お待ちしておりました。兵藤一誠様にミッテルト様……そして異世界の魔王サーゼクス・ルシファー様」

 

 リンゴを齧りながら、自然あふれる場所をのんびりと歩いていると、天高くから何者かが飛来してくる。魔王種に匹敵するエネルギーにサーゼクスさんは一瞬警戒するが、俺と子ども達の様子を見て即座に警戒を解く。

 

「ルチア様! クレア様!」

 

「お久しぶりです。ルチアさんにクレアさん」

 

「元気そうっすね」

 

 現れたのは“ミリム親衛軍”の副官である有翼族(ハーピィ)のルチアさんとクレアさんだ。二人共魔王種級の実力者であり、フレイさんの魔王時代からの側近でもあるんだ。

 愛とフィオはルチアさんとクレアさんに駆け寄り、二人は少し微笑みながら撫でたりしてる。

 

「……クレア」

 

 ルチアさんが目配せをすると、クレアさんは何かを察したように子ども達の方へと歩み寄る。

 

「ええ。マナとフィオにシンシヤ様……あと、ミリキャス様はこちらへ案内いたします」

 

「ええ!? なんで! ママとパパに会うんじゃないの!?」

 

「そうだよ! 折角俺と姉ちゃんで案内しようと思ったのに……」

 

 愛とフィオはルチアさんの言葉に納得がいかないようで反論する。それに対し、二人は困ったようにしながらも優しい口調で諭そうとする。

 

「……大事な話になりそうですので」

 

「愛、フィオ。ここはルチアさんとクレアさんのいうことを聞くべきだぞ」

 

「そうっすよ。まあ、ミリキャス君は初めてなんだし、折角だから案内するっすよ」

 

「「はーい」」

 

 二人共ヤンチャなところこそあるが、聡い子どもだからな。雰囲気を察して渋々ながら、クレアさんの後についていく。

 俺とミッテルト、サーゼクスさんはそれを見届け、ルチアさんの案内に従う。

 しばらくすると、一軒の民家が目の前に現れた。俺達はその民家の戸をたたき、そのまま中へと入っていく。

 

「お久しぶりですね。サーゼクス・ルシファー様」

 

 扉の向こうには、白銀の髪に竜を祀る民特有の民族衣装が特徴的な女性がいた。優しげなその笑顔は、何処か儚い印象を与える。

 

「……予感はしていたよ。やはり君だったか、クレーリアさん」

 

 愛とフィオの母親にして、元ベリアル家の上級悪魔“クレーリア・八重垣”さん。彼女に対して、サーゼクスさんは何処か負い目を持っているような瞳を向けていた。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「どうぞ、この国の茶葉で作った紅茶です。とても美味しいですよ」

 

 クレーリアさんから頂いた紅茶を一口飲みながら、俺とミッテルトは成り行きを見守ることにした。正直、この人達の事情はよくわかってないし、当人で話すのが一番いいだろう。

 

「……まさか、こうして貴方様と会える機会が来るとは思いませんでしたよ」

 

 クレーリアさんは笑いながらそんな事をいう。実際、基軸世界への帰還方法もまだ正式に使えるようになったわけじゃないし、彼女も本当にサーゼクスさんに会う機会が得られるとは思っても見なかったのだろう。サーゼクスさんは瞑目し、複雑そうな顔をしながら立ち上がり、クレーリアさんと向かい合う。

 

「……本当に、申し訳無い。貴方達にしたことは、詫びても詫びきれないことだと思っている」

 

 サーゼクスさんは神妙な面立ちとなり、クレーリアさんに対して頭を下げる。クレーリアさんは驚いたような表情となり、慌ててそれを止めようとする。

 

「頭を上げてください、サーゼクス様。私達はもう気にしてはいませんよ。主人は若干思うところもあるようですが、それでも今は幸せなのですから……」

 

 どうやら相当根が深い事情のようだな。クレーリアさんも旦那さんである“八重垣正臣”さんもあまり過去の事は話したがらないから、本当によくわかってないんだよな。多分、詳しい事情を知ってるのは傷だらけの二人を助けたというミリムさんとミッドレイさんくらいだろう。こうなってくると、流石に俺達でも何があったのか気になってくるな。

 

「……私達は、教会とバアル家、それぞれの立場の者に粛清されかけたのだよ」

 

 声がした方を見ると、二階から降りてきた正臣さんが眉間に皺を寄せながら、俺達に語りかけてきた。どういうことかと訪ねようとすると、サーゼクスさんが教えてくれた。

 

「……彼女、クレーリアさんはそこの八重垣正臣氏と恋に落ちた。君達二人は、彼女達の立場を知っているかい?」

 

「えっと、確かクレーリアさんが上級悪魔で、正臣さんがエクソシスト……でしたよね?」

 

「……ええ。その通りよ」

 

 それについては何となく聞いている。クレーリアさんや愛が使う“無価値”の力はベリアル家固有の魔力であり、正臣さんが使う剣技もエクソシストの使うものだという。

 

「……今でこそ、悪魔と天使が同席するという状況もあり得る様になってきたけど、昔は悪魔と教会の者が会合することすら、滅多なことではありえないことだった。ましてや、教会の者と恋愛をするということは、禁忌とすらされていることだったんだ」

 

 サーゼクスさんの言葉に俺は思い立つ。確かにそうだ。今でこそ、天使のイリナと悪魔の部長が協力するといったこともあるけど、半年もしない最近まで、天界と冥界は冷戦状態だった。そんな中、互いに敵国の存在同士が恋に落ちる……なんてことがあれば……。

 

「……つまり、お二人が死にかけてた理由は……」

 

「察しの通り、お互いがお互いの不備を正そうとし、粛清されたのですよ。僕達はただ愛し合っていた。それだけだと言うのに……」

 

 忌々しげに呟く正臣さんの言葉が響く。ただ愛し合っているだけだと言うのに、それを不備とし、殺されかけたことに関して今でも思うところがあるようだ。その事に苦笑しながらも、クレーリアさんは続ける。

 

「お互いの勢力が私達を説得しようとしたわ。でも、例え命を落とすことになっても、私は、正臣君と一緒にいたかった……」

 

 ……そして、二人は粛清を受けた。どちらの勢力が先だったのかは二人にもわからない。エクソシストに悪魔、その両方から襲撃を受け、眷属の助けを借りながらも逃げ切ることはできず、最終的には互いに庇い合うような形で死ぬ寸前の致命傷を受けた。

 

「そんなとき、私達は世界の歪みに巻き込まれ、ミリム様に助けられた」

 

「最初は驚いたがね。まさか、異世界なんてものに飛ばされるとは……」

 

 ミリムさんに助けられてからは、二人は魔王ミリム領の“竜を祀る民”としてこの地で十数年生きてきた。眷属悪魔だった人達もこの地に帰化し、別々に暮らしているのだという。

 

「今は幸せよ。愛しい子どもにも恵まれて、昔では考えられないくらいにね……」

 

 向こうの世界で追手に追われながらでは、ここまで安心して幸せを謳歌するなんてできなかった。だから、これで良かったのだとも語っている。

 

「ですので、私は大丈夫ですよ。そもそも、サーゼクス様は当事者でもないわけですしね」

 

「……そう言ってもらえると、此方としては気が楽になりますよ」

 

「……僕も一応は吹っ切れてるつもりです。まあ、実際に当事者に会えばどうなるかはわかりませんがね」

 

 そういう正臣さんは笑顔こそ浮かべているが目が笑ってない。その有り様にはクレーリアさんも苦笑いだ。

 

「まあ、紫藤さんも此方に斬りかかる際に涙を浮かべて謝っているのを見ましたし……向こうの事情もわかるにはわかるつもりです。クレーリアの言う通り、今が幸せなんだ。会ったら一発殴るくらいで許してやるつもりさ」

 

「ん? 紫藤?」

 

 俺は正臣さんの言葉に少し引っかかるものを感じる。偶然か? いや、こういう時って案外合ってたりするしな……。そもそも、イリナの父親がエクソシストだという話はイリナからそれとなく聞いてるし……。

 

「……もしかして、お二人共駒王町で活動されてました?」

 

「ええ、そうよ。私は元々、駒王町の管理者だったの」

 

 つまり、クレーリアさんは部長の先人に当たるということか。というか、これ確定っぽいな。なんか、運命じみたものを感じるぞ。

 

「……実は、うち達駒王町に住んでるんすよね。で、転生天使に紫藤イリナって友達がいるんすケド……」

 

「……聞いた覚えがありますね。間違いなく紫藤さんの娘さんでしょう」

 

 やっぱりかー。まさか、こんなところに繋がりがあるとは夢にも思わなかったぜ。これ、部長に報告すべきか? いや、知ってたら部長もあらかじめ説明してるだろうし、資料の一つ二つあってもおかしくない筈だ。多分、これは秘匿されてる類の情報なのだろう。となると、サーゼクスさんの許可がない限りは喋らないほうがいいな。

 

「……最後に、サーゼクス様に聞きたいことがあります」

 

「ええ。聞きましょう」

 

 紅茶を飲み干し、一息つく。ポツリとクレーリアさんはサーゼクスさんに何かを問おうとする。それを見たサーゼクスさんは、何かを覚悟していたらしく、クレーリアさんの瞳をじっと見つめる。クレーリアさんはそれに対して静かに呟く。

 

「……“王の駒”は実在するのですか?」

 

 ……“王の駒”? 初めて聞く単語だ。“駒”というからには、レーティングゲーム……“悪魔の駒(イーヴィルピース)”関連か? 何のことだかはよくわからないけど、少なくとも何か重要そうなものだということはクレーリアさんの表情を見てわかった。

 

「……ええ。実在します」

 

「そう……ですか……」

 

 サーゼクスさんの答えを聞いたクレーリアさんは、沈痛な面立ちとなり、首を振るう。そして、今度は静観していた俺とミッテルトの方へと向き合った。

 

「……イッセー先生、ミッテルトちゃん。貴方は今、リアス姫の眷属候補をしているそうね」

 

「あ、はい」

 

 知ってたのか。まあ、リムルや守護王の方々に、シンジ達までもがエスプリ経由の情報で知ってたしな。クレーリアさんは愛とフィオ関連で魔国にもよく来るし、何処かから知られてもおかしくはないか。

 

「なら、今聞いた話はあまり言わないでほしいわ。最悪、リアス姫に危険が及ぶわ」

 

 ……“王の駒”。どうやら相当重要そうなものらしいな。サーゼクスさんをちらりと見るが、サーゼクスさんは複雑そうな顔をしながら首を縦に振る。サーゼクスさんでもおいそれと話せない秘密。悪魔の闇の部分に関係してる事柄なのかもな。なら、サーゼクスさんが話すまでは意識の隅に留めておくだけにしておくか。

 

「わかりました」

 

「了解っす!」

 

 俺達の言葉に満足したのか、クレーリアさんは笑顔を見せながら小さく頷いた。

 

 ガチャ! 

 

「「ただいま!」」

 

「お邪魔しまーす!」

 

「お、お邪魔します」

 

 タイミングがいいな。どうやらずっと黙って控えていたルチアさんがクレアさんに思念伝達で状況を伝えてたらしく、話の終わったタイミングを見計らっていた様子だ。

 

「? クレアさん、何かありました?」

 

「……いえ、何もありませんよ」

 

 なんだろう。何やら途轍もなく疲れている感じがする。魔王級の力を持つこの人が疲れるって尋常じゃねえぞ? なんだ? 子どもたちが何かしたのか? でも、なんか違和感があるな……。

 

「ママ! 今日はシンシヤと、さっき友達になった子を連れてきたわよ!」

 

「はじめまして。ミリキャス・グレモリーと申します!」

 

「あら、サーゼクス様の御子息様ね。歓迎するわよ」

 

 ミリキャスを微笑ましそうに見つめるクレーリアさんは来客用の菓子を取り出し、子どもたちにふるまう。そんな中、フィオは少し言いづらそうに正臣さんの元へ近づき、耳打ちする。

 

「ねえ父さん。実は、あの方も遊びに来てくれたんだけど、家に入れていい?」

 

「ん? あの方……ちょっと待て、なんか覚えのある気配がするんだが」

 

「なんだろう。目茶苦茶嫌な予感がするんですケド……」

 

 フィオの言葉に嫌な予感を覚えた俺と正臣さんはだらだらと汗をかく。俺も気づく。途轍もない気配がこの家にのしのしと近づいてきているのが。この気配、師匠にも匹敵するほど大きいものだ。それでいて、その力を完璧に抑え込んでいやがる! そんな事ができる人、竜の都では一人しかいねえぞ!? 

 

 バアァンッ!! 

 

「たのも────なのだ────!」

 

 ドアを勢いよく開けながら、小さな影が部屋の中へと入ってきた! 俺と正臣さんの不安が的中だ! 現れたのは、ツインテールに纏められた桜金色(プラチナピンク)の髪と青い瞳、露出度の高い恰好が特徴の美少女! 八星の中でもトップ3に入る最恐の魔王“ミリム・ナーヴァ”さんその人だ! 

 

「あ、ミリム様! 久しぶりっすね!」

 

「あら、ミリム様。ようこそいらっしゃいました」

 

「うむ、邪魔するのだ……おお、イッセーにミッテルトではないか! 久しぶりなのだ!」

 

「えっと、久しぶりです。ミリムさん」

 

 俺達の姿を確認すると、ミリムさんはトコトコ近づき、声をかけてきた。近づくやいなや、不満げな顔で憤慨している様子だ。

 

「全く、リムルといい、お前といい、異世界の魔王などという面白そうなことを黙ってるだなんて、ズルいではないか!」

 

 やっぱりその件か。おそらくはサーゼクスさんの気配でも感じて面白そうだから来たのだろう。そこで、子ども達から異世界関連の話を聞いたといったところだろうな。

 ミリムさんは一通り文句を言った後、視線をサーゼクスさんの方へと向けた。その瞳からは、僅かな歓喜が滲んでいる。

 

「ほう、お前が異世界の魔王だな。中々強そうではないか」

 

「……貴方様が創造神の御息女、ミリム・ナーヴァ様ですか。はじめまして、サーゼクスと申します」

 

「うむ! よきにはからえ!」

 

 ミリムさんはサーゼクスさんの強さを見抜き、面白そうだと感じてるみたいだな。対してサーゼクスさんの方も、ミリムさんの力を測ろうとしている。だが、直に途方も無い力だと認識した様子。

 

「ミリム様、フレイさんにちゃんと言ったんすか?」

 

 有頂天になっていたミリムさんはミッテルトの言葉にドキリと身体を震わせ、直ぐに目を泳がせた。

 

「う、うむ。フレイの部下にはちゃんと出かけてくると言ったから、大丈夫なのだ……多分……」

 

 また部下を簀巻きにしてるんじゃなかろうか、この人。フレイさんの宿題をサボってきたな。それを悟ったミッテルトはジト目を維持しながらも、クレアさんとルチアさんに目配せをする。内緒にするようにしているのだろう。それを悟ったクレアさんとルチアさんは、ミリムさんと一緒にいると不味いということで何処かへと飛び立っていった。

 

「まあ、フレイ様に怒られたらうちも謝っとくっすよ」

 

「う、うむ。感謝するぞミッテルトよ」

 

「その会話……聞かれていたら意味ないと思うわよ」

 

 ビクッ! とミリムさんの肩が跳ね上がる。ミリムさんが冷や汗をかきながらゆっくりと後ろを振り向くと、そこには怒気を放つフレイさんの姿があった。

 

「ふ、フレイ!? な、何故ここに!?」

 

「貴女の行動なんて想定済みなのよ。異世界の魔王という、貴女の興味を惹きそうな存在がここに来ていると知った時点で、私はこの近辺を監視していたのよ」

 

 さ、流石はフレイさんだ。元々有翼人(ハーピィ)は卓越した飛行能力と同じくらい、視力に特化した種族。そんなフレイさんならどれ程遠く離れていても、一つの場所に注視すれば、ミリムさんが来たことに気付くことも容易だろう。後は気配を消しての隠密飛行で近づけばいいだけのことだ。

 フレイさんはその自慢の爪でガシッとミリムさんの頭を掴むと、ズルズルと城へ引き摺ろうとする。

 

「うぅ……フレイのバカ……」

 

「バカで結構。遊びは私の宿題をちゃんと終わらせてからにしなさい」

 

 小学生かな? 引き摺られていくミリムさんの姿には、流石のサーゼクスも苦笑を禁じ得ない様子だ。

 

「まあまあ、子ども達だってミリム様と遊びたそうっすし、少しくらい良いんじゃないすかね?」

 

 ミッテルトの言葉にフレイさんはチラリと子ども達を見つめ、暫し思案すると溜息をつきながらミリムさんを離した。

 

「仕方がないわね。その代わり、ミリムは終わったら宿題を少し増やさせてもらうわよ」

 

「うっ、わ、わかったのだ……」

 

 ミリムさんは一瞬躊躇したが、それでも遊びたい欲の方が勝ったらしく、渋々とフレイさんの提案を受け入れた。

 フレイさんが飛び立つのを見送ると、ミリムさんはくるりとこちらの方に振り返り、子ども達と向き合った。

 

「さあ、気を取り直して遊ぶのだ!」

 

 そんなミリムさんに対し、子ども達は笑顔でそれを迎え入れた。

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、用事も済んだことだし、うち等も戻るとしましょうか」

 

「そうだな。部長達も迷宮攻略頑張ってると思うし、速めに準備しとくか。お前等も用意しろよ」

 

「「「「はーい!」」」」

 

 日も暮れ、ミリムさんが帰ったのを確認した俺の言葉に、子ども達はシンシヤを除き少し元気のない様子だが、充足感のある笑顔で答えた。

 ミリムさんとの取っ組み合いや最近普及し始めたテレビゲームなどで遊んだ四人は、疲れつつも満足そうなご様子だ。シンシヤはまだまだ全然行けそうな辺り、流石といったところだな。

 愛とフィオも現在は学生寮暮らしだし、休日ならまだしも明日も学校があるわけだからテンペストに戻るつもりのようだ。

 それを確認して、俺とミッテルトは転移魔法陣を用意する。すると、クレーリアさんがサーゼクスさんの方に近づき、微笑む。

 

「ディハウザーに伝えてください。私は元気にしていると……」

 

「ええ、必ず」

 

 こうして、俺達は竜の都を後にするのだった。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「あっ! やっと来ただわさ!」

 

「丁度良いタイミングですね」

 

 竜の都から帰還してから二日程。皆の攻略具合が気になってきたので迷宮に戻るとラミリスさんとシンジが何やら慌てた様子で俺を呼び出してきた。

 

「どうしたんだ?」

 

「それが……」

 

「あいつら、もう五十階層に来てるだわさよ!」

 

「え? まじすか?」

 

 これは流石に驚いた。部長達も強くなっているとはいえ、広大な迷宮を攻略することは生半可ではない。一日二日で二十もの階層を攻略するとなると、凄まじいスピードだ。

 

「どうやら、エレンさん達から迷宮攻略のコツを色々聞いたようで……」

 

 なるほど。エレン達にはある程度慣れるためのアドバイザーとして一日だけ同行させたんだけど……どうやら、後々の階層の罠の種類や敵の種類なんかも口を滑らせてしまった様子だ。

 

「ま、まあそれくらいならいいんじゃないすか? どの道、部長達なら二度目以降の罠は通じないでしょうし……」

 

「初見殺しの罠を予め知ってて攻略してたら意味ないだろ……」

 

 正直、そういう罠で対応力を身に着けてほしかったわけなんだが……。

 

「……例え事前に聞いていたとしても、実際に体験するのとでは全く違うっすし、対応力はちゃんと身についてるんじゃないすかね?」

 

 うむ……確かにミッテルトの言う通りかもしれないな。初見殺しと言っても知ってたところで早々に攻略できるものでもないし、映像を見ると危なっかしい点はあれど、ちゃんと実力で突破してる。

 

「それに、五十階層のボス二人の情報はエレンちゃんも流石に言ってないみたいっすしね。それなら問題ないと思うっすよ」

 

「……そうだな」

 

 今回、五十階層のボスには二人で出撃しろと予め言ってある。二人共やる気満々だったし、あの二人を同時に相手取るのは今の部長達でも中々キツイ。部長達の真価が発揮されるのはこれからだ。俺はそう思い直しながら、モニターに目を向けるのだった。

イッセー対ミッテルト

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