帰ってきたらD×Dだった件   作:はんたー

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サイラオーグさんと手合わせです

 イッセーside

 

 

 

 

 

 

 

 

「将来的にはグレモリー領に北欧魔術の学舎を設立や、悪魔の女性から戦乙女を輩出したり、新しい事業に挑戦してみたいと思っています」

 

「ハハハ、ロスヴァイセさんは産業に関心をお持ちのようで……グレモリーの当主として期待が膨らむよ」

 

 ロスヴァイセさんが自身の思い描く未来のビジョンを語り、それを聞いたジオティクスさんが朗らかな笑みを浮かべる。

 修学旅行間近、俺達は部長のご両親とともにグレモリー家のダイニングルームでお茶をしていた。

 部長の眷属も兵士を除いた駒が揃ったということもあり、記念に改めてご両親に紹介することになったらしい。

 

「天使の私が上級悪魔のお屋敷にお邪魔できるなんて光栄の限りです! これも主と魔王様のおかげですね!」

 

 イリナも楽しそうにはしゃぎながらお茶を飲んでいる。

 勿論イリナだけではない。コイツラもだ。

 

「とても美味しいお茶ですね。ありがとうございます」

 

「良い風味……帝国の茶葉と比べても遜色ないわね」

 

「とっても美味しいの! ありがとうなの!」

 

「はぐれ認定の解けていない私まで招待してくれて感謝するにゃん♪」

 

 トーカ、ジウ、セラ、黒歌もまたここに招待されていた。特に黒歌なんか、本人の言う通りはぐれ認定も解けていない筈なのに招待してくれたわけだし、本当に懐の大きい家だぜ。でも、万が一バレたら大変なんじゃ……そう考えていたが、ジオティクスさんは笑みを浮かべながらこう言った。

 

「ハハハ、問題はないとも。サーゼクスの打診で黒歌殿のはぐれ認定を解くまであと少しといったところだからね」

 

「サーゼクスだけでなく、レヴィアタン様も協力してくれているし……何より、異世界の魔王様の使者様に失礼なことなどできませんわよ」

 

 なるほど。どうやらサーゼクスさんとセラフォルーさんが裏で働きかけてくれているみたいだな。

 黒歌が異世界の魔王……ルミナスさん直属の配下であるということも大きいみたいだ。

 下手に黒歌を突けばルベリオスとの戦争にもなりかねんからな。

 この調子だと、黒歌が小猫ちゃんと一緒に冥界で大手振って動ける日も近そうだ。

 

「ところで一誠さん達二年生はそろそろ修学旅行でしたわね。日本の京都だったかしら?」

 

「あ、はい。もうすぐ京都に行く予定ですね」

 

 カップを置いて、話題を変えてきたヴェネラナさんの問いに答える。

 すると、ヴェネラナさんは懐かしそうに何かを思い出す素振りを見せていた。

 

「そう。去年、リアスがお土産で京都のお漬物を買ってきてくれたのだけど、とても美味しかったのよね」

 

 へー。ヴェネラナさん漬物が好きなのか。部長もだけど、意外に庶民っぽい所あるんだな。

 

「でしたら、俺が旅行先でヴェネラナさんの分も買ってきましょうか?」

 

 元々、京都ではお土産たくさん買う予定だし、部長のお母さんであるヴェネラナさんの分を買っても誤差の範囲内だろう。

 

「あら、そういうつもりで言ったわけじゃなかったのだけど……。気を使わなくてもいいのよ?」

 

 ヴェネラナさんは少し恥ずかしそうに口元を手で隠す。

 うん、可愛い。どう見ても少女にしか見えない。これで部長のお母さんだというのだから、長命種って不思議だな。

 俺はそんな事を考えながら、お茶に手を付けるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 お茶会を終え、帰る前にサーゼクスさんに挨拶に行くことにした。

 どうやら、サーゼクスさんが魔国から戻ってきているらしく、帰り際にあいさつをしておこうということになったんだ。

 

「僕も行きます!」

 

 ミリキャスも父親に会いたいということで俺達と同伴することに。

 というわけで、サーゼクスさんが戻った時に使うという移住区にやって来た。

 しばらく歩いていると、俺達は通路でサーゼクスさんと黒髪のお客さんらしき人と鉢合わせする。

 

「お邪魔している。元気そうだな、リアス、赤龍帝」

 

「サイラオーグさん。ご無沙汰してます」

 

 その黒髪のお客さんとは貴族服を着たサイラオーグさんだった。

 こうして普通の状態でも、覇気が全身からにじみ出てるのを感じる。まだその域に達してはいないが、限りなく“魔王覇気”に近しい感じだな。

 紫色の双眸はギラギラとした闘志に満ち満ちている。流石は若手ナンバー1だぜ。

 

「来ていたのなら一言言ってくれてもよかったのに。そちらも元気そうで何よりだわ。お兄様もごきげんよう。こちらにお帰りになられていると伺ったものですから、ご挨拶だけでもと思いまして」

 

「気を遣わせてしまってすまないね。ありがとう、リアス。それから眷属の諸君も」

 

 サーゼクスさんがミリキャスを抱き抱えながら微笑む。

 すると、サーゼクス様は少し意地悪そうな笑みを浮かべながら指を指して、ミリキャスの視線を誘導する。

 不思議そうにその方向を見ると、ミリキャスは一気に顔を赤くしはじめた! 

 

「あ! ミリキャス君こんにちは! 遊びに来ましたよ〜!」

 

「し、シンシヤちゃん……!? こ、こんにちは……」

 

「あ、シンシヤちゃん! この間ぶりなの!」

 

「はい! セラちゃんもお元気そうですね!」

 

 そこにいたのはまさかのシンシヤ! しかも、気配的に他の子ども達もここにいるな。

 なんでアイツラがこんなところに!? 

 

「お? イッセーじゃん。奇遇だな」

 

 そこに聞き覚えのある声が響いてくる。この声はつい最近……具体的には魔国に行った時に聞いた声だ。

 

「────っ、リムル!?」

 

「り、リムル様!?」

 

「な、なんでここに……!?」

 

 そこに現れたのは魔国連邦の盟主にして、基軸世界最強と名高い大魔王“リムル・テンペスト”その人だ! 

 なんでこいつがグレモリー領にいるんだ!? 

 

「ふふふ、実は今後の付き合い方についてリムル殿と相談して、こちらにも魔国の使者を招くことになってね。リムル殿も冥界のことを知るために此方に来ることとなり、彼女達はその付き添いという形でやってきたのさ」

 

 な、なるほど。それでコイツラがここに来たってわけか。

 まあ、リムルからしてみても可愛い娘に新しい友達ができたわけだし、遊びたい盛りのコイツラを遊ばせたいという思惑があるのかもな。

 冥界にくるのもいい社会見学になりそうだ。

 サーゼクスさん的にも友だちが少ないミリキャスを同年代の友達と遊ばせる事ができるいい機会だったんだろうな。 

 

「俺もここに来た時、サーゼクス様から詳しい話を聞かされたのだ。異世界の魔王にその娘……驚きもしたが、同時に納得もした。お前の強さはそこで培われたものなのだとな」

 

 サイラオーグさんはたまたまここに来ただけだったらしいが、サーゼクスさんにこの話を聞かされるあたり、信頼されてるんだな。

 

「でも、子ども達が来ることを許すって大分破格っすよね?」

 

「確かに……神祖関連で慌ただしい中、リムル様もよく許可しましたね」

 

「まあ、そうだな。でも、シンシヤ達も新しい友達に会いたいっていうし、子ども達が自ら学ぼうとする姿勢にはできる限り答えてやりたいんだよな」

 

「俺は異世界の兵法について学びたかったんですよね。そうすれば、将来父を支える一助になると思いまして……」

 

「私もお兄様と同じですのよ。お母様は今だ三獣士としての地位を失ってはおりませんし、お母様の手助けになるかもと思いまして……」

 

「私もいつかは国を治める立場になりますので、今のうちに他国の勉強もしたいと連れてきてもらったんです」

 

「私もセツナと同じ理由。まあ、エドガー兄もいるしそこまで不安はないんだけど、一緒に行って損はないかなって」

 

「俺は父さんと母さんの故郷ってのを見たくてきたんだ」

 

「私も! 冥界はママの故郷だっていうしね!」

 

「私もお勉強をしに来ました! ミリキャスくんやセラちゃんとも遊びたかったですしね」

 

「ふぇ!?」

 

「ありがとう! 嬉しいの!」

 

 皆真面目だな。どうやらただ遊びに来ただけじゃなくて、こちらで勉強をすることも目的に含まれているみたいだ。

 まあ、考えてみれば皆いずれは責任を負う立場になる身だし、今のうちにいろんなこと経験して勉強するのもいいかもしれないな。

 

「でも、大丈夫なんすか? リムル様だって忙しいから付きっきりで見るわけにはいかないっすよね?」

 

「ああ。実際、この後セラフォルーさんの所に行って今後の打ち合わせをしないとだしな。でも、ちゃんと護衛もつけているし、サーゼクスさんも見てくれるって言うから心配はいらないさ」

 

 仕事できたリムルも付きっきりでは難しいと思ってたけど、確かにサーゼクスさんがいれば問題はないか。

 サーゼクスさんだけでなく、親元離れてここにいることを許可するあたり、守護王の中でも上位陣が来てるんだろうな。

 そう思い、索敵の範囲を広げると、凄まじい気配を持つ者を三人ほど感じ取ることができた。

 なるほど、彼女達か……。確かに、サーゼクスさんに加え、この三人がいるのならコイツラの安全は保証されたも同然だな。

 子ども達と少し談笑すると、サイラオーグさんは興味深そうにマジマジと子どもたちを見つめている。

 

「先程も思ったが……まだ幼いというのにこれほどの力を……魔国は本当に凄いところなんだな」

 

 どうやらサイラオーグさんは戦わずしてシンシヤ達の実力を見抜いたようだな。流石。

 ……というか、サイラオーグさんはなんでここにいるんだ? そう感じたのは俺だけでなかったらしく、部長もサーゼクスさんに尋ねていた。

 

「ところでお兄様、サイラオーグがここに来ていたのは?」

 

「うむ。バアル領の特産品である果物をわざわざ持ってきてくれたのだよ。従兄弟に気を遣わせてしまって悪いと思っていたところさ。今度ぜひともリアスをバアル領に向かわせようかと話してたところさ」

 

 あ、そっか。

 サーゼクスさんから見てもサイラオーグさんは母方の従兄弟だもんな。

 そう考えるとサイラオーグさんの立ち位置もすごいもんだな。現魔王の従兄弟にして、次期大王だもんな。

 

「それから、今度のゲームについてもいくつか話してね。フィールドを用いたルールはともかく、バトルに関しては複雑なルールは一切除外してほしいとのこと。それだけじゃない。彼はイッセー君との戦いを所望していてね。どうしたもんかと僕も考えていたところなんだ」

 

 サーゼクスさんの言葉を聞いて、全員が驚愕する。

 ジウなんか、完全に馬鹿を見る目になってやがる。

 

「本気なの? 貴方ならわかっているでしょう? イッセーの強さは────」

 

「ああ、分かっているさ。交流会で彼の実力は認識している。はっきり言って、人間ということが信じられない程規格外な存在さ。正直、今の俺では勝負になるかどうかすら怪しいだろう……だからこそ、俺は彼に挑戦したいのさ。格上を恐れ、逃避しようとする者が大王家の次期当主を名乗れる筈がないからな」

 

「「「「────っ!」」」」

 

 サイラオーグさんの言葉に部長達は息を呑む。

 すごい気迫と覚悟が伝わってくる。

 サイラオーグさんの眼力高い視線が部長を捉え、そして俺に移る。悪意はない。敵意も邪念も一切感じない。あるのは純粋な戦意のみ。

 戦いを好む者でありながら、ヴァーリとも違う在り方だな。部長も本当にとんでもない人と同世代になったものだぜ。

 

「ひぃぃっ、こ、怖いですぅぅ」

 

 ギャスパーもその威圧を感じ取り、ガタガタ震えてらぁ。もっとも、俺の後ろに隠れたりしないあたり、こいつも成長したな。

 すると、愛がちょんちょんと俺の服をつまんできた。なんだろ? 

 

「あのさ、よくわからないけど挑戦したいって言ってるわけだし、今戦ってあげれば良いんじゃない?」

 

「ふふ、面白そうだね。やってみるかい? サイラオーグ」

 

 まだここに来たばかりでレーティングゲーム云々をわかってない愛の言葉に興味を示したサーゼクスさんが問う。その言葉にサイラオーグさんは鋭い眼光で俺を見据える。

 この人の純粋な戦意と覚悟。これを受けなきゃ男じゃないな。

 

「……わかりました。じゃあ、今ここで少し手合わせしましょう」

 

 俺は一歩前に出て、そう宣言する。すると、サイラオーグさんはその言葉を待っていたと言わんばかりに笑みを深めた。

 

「ありがとうございます、サーゼクス様。感謝しよう、赤龍帝。これはいい機会だ。今の俺の拳がどこまで通用するか……試させてもらおうっ!」

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 グレモリー城の地下には駒王学園のグラウンドがすっぽり入りそうなくらいの広さを持つトレーニングルームがある。

 俺達はそこへ移動していた。ミリキャスとセラ、シンシヤ達も興味があるのかずっと俺達を見つめている。

 眼前でサイラオーグさんは貴族服を脱ぎ、グレーのアンダーウェア姿になっている。

 現れるのは鍛え抜かれた見事な肉体。相当な修行をつんできたことがよく分かる。カリオンさんにだって引けを取っていない。

 見せかけではなく、それを裏付ける存在値もある。EPにして40万超え、下手な魔王種にだって引けを取っていない。

 多分、ゴズールとだってタイマンで殴り合えそうだ。はっきり言って、部長と同世代ってことが信じられないくらい抜きん出てやがるぜ。

 

「……こうして対峙してるとよくわかるな。凄まじい限りだ。だが、いつまでも睨み合っているわけにはいかん。此方から行かせてもらうぞ!」

 

 サイラオーグさんの体からは分厚いオーラが放たれる。それと同時に力強く地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた! 

 

 ドゴォォォンッ!! 

 

 強烈な一撃が俺の腹を抉る! 痛え! 真っ直ぐで強い思いが込められた強烈な一撃だ! ディオドラなんかとは格が段違いだ! 鎧を纏っていないとはいえ、俺にダメージを与えるとは……腹筋固めてなきゃ貫かれてたかもな。

 

「いい拳ですね。流石はサイラオーグさんだ!」

 

「っ!!」

 

 ドッ! ガギャンッ! 

 

 俺は拳を振るい、サイラオーグさんをぶん殴る! サイラオーグさんは両腕を固め、クロスさせてガードするが衝撃を殺しきれず後方の壁まで吹き飛ばされた! 

 サイラオーグさんはジンジンしびれた腕を見ながら笑みを深める。

 

「ガードした上でこれか……流石は歴代最強の赤龍帝だな。少なくとも、並の上級悪魔なら今ので終わっていただろうな!」

 

 サイラオーグさんはそう言うと一瞬で俺の背後に回る。“瞬動法”か。しかも木場と同じくらい練度が高い。

 身体能力では断然サイラオーグさんのほうが上だから、練度が同じでも木場のそれより遥かに速く感じるぜ。

 

(まあ、今の木場にはユニークスキルがあるからそれ込みだと木場のほうが上なんだけどな)

 

 そんな事を考えながら、俺はサイラオーグさんの拳を受け流す。だが、サイラオーグさんはそれを予見していたようで手首をくるりと返し、俺の服の袖を掴んだ! 

 

「こうすれば受け流しは関係あるまい!」

 

 サイラオーグさんは柔の崩しの感覚で俺の体勢を崩し、そのまま拳を顔面に叩きつけようとする。

 俺は慌てることなく頭突きで迎撃し、怯んた隙をついて、蹴りを腹に食らわしてやった! 

 

 ドガァァァンッ!! 

 

「がっ……!」

 

 ……すごいな。今の一撃を食らっても俺の袖を掴み続けてやがる。サイラオーグさんは苦悶の表情を浮かべながらも、俺の足を狙って蹴りを放つ。

 俺はそれを脛でカットし、サイラオーグさんを背負投げの容量で地面に叩きつける! 

 

「離さんぞ……」

 

 これでも離さないか! サイラオーグさんは傷ついた体に鞭打ちながら地面を蹴って飛び上がり、その勢いを維持したまま、再び俺の腹めがけて拳を放った! 

 

 ドゴォォォン!! 

 

 その強烈な一撃に俺の服の袖は引き裂かれ、俺は数メートルほど後ずさった。

 マジで魔王にだって負けてないかもしれない。最初ゴズールと比較したがそれよりも上……下手したら覚醒前のカリオンさんと同等のパワーかもしれないな……これが若手最強の拳か! 

 

「凄いですね。一人でそこまで鍛えたんですか?」

 

「ああ。俺には魔力の才能など皆無。あったのはこの体のみ。だから、俺は己の身体を信じ、ひたすらに鍛え続けたのだ」

 

 一人……つまり、この人には碌な修行相手や師匠すらいなかったはずだ。それでここまでの強さになれのだから、マジで尊敬するぜ。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

「ええ! 受けて立ちますよ!」

 

 サイラオーグさんは最初の時よりも速いスピードで俺に迫ってきた! 

 動いた衝撃で、サイラオーグさんがいたところが大きく抉れる! 

 木場以上のスピードに小猫ちゃん以上のパワー! よくここまで練り上げたなと尊敬すら覚えるほどだ。

 

「ぬんっ!!」

 

 ブゥゥゥゥンッ

 

 拳が繰り出され、風を切る音が響いてくる! この拳圧だけでもBランクの魔物なら吹き飛ばせるだけの威力がある! 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 そんな殺人級の拳から繰り出される連撃! 隙も殆ど見当たらないし、大したものだぜ! 

 

「でも、コレくらいなら!」

 

 俺はそれを受け流し、いなし、躱して見せる! 先程のように掴むこともできないサイラオーグさんは苦悶の表情を浮かばせつつも楽しそうだ。

 

『本気ではないとはいえ、相棒にここまで喰らいつくとはな。攻撃力を伸ばしに伸ばしたパワータイプ。あまりにも極端で興味が湧くな。これでリアス達と同世代とは末恐ろしいものだ』

 

 ドライグも感心してる。実際その通りだ。

 これで部長と同じデビュー前だというから驚きだ。分かっていたけど、半端な鍛え方じゃない。

 血反吐にまみれた愚直なまでの鍛錬をしてきたことがよくわかる。

 濃密なオーラを纏ったサイラオーグさんが叫ぶ。

 

「まだ俺は終わらんぞ、兵藤一誠!」

 

「ええ! 受けて立ちますよ、サイラオーグさん!」

 

 ぶつかり合う拳と拳。暫し拮抗するが、サイラオーグさんはその衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされる! 

 だけど、直ぐ様体勢を整え、再びぶつかろうと向かってくる。

 凄まじく真っ直ぐな人だ。正直、俺とサイラオーグさんなら俺の方が圧倒的に上。それでも、俺はこの戦いを楽しんでいた。

 サイラオーグさんも俺と同じみたいでこの戦いを楽しんでいるようだった。

 

「おい二人共。そこまでにしておけ」

 

 っとと、俺とサイラオーグさんがさらにギアを上げようとしたタイミングでリムルから待ったがかかった。

 何だ何だ? 

 

「オイオイ、リムル。今いいとこなんだけど……」

 

「確かにそうかもだけど、ここは迷宮じゃない。それ以上は自重したほうがいいぞ」

 

 見ると、周囲一帯は瓦礫の山と化していた。

 それを見て俺とサイラオーグさんは我に返る。ここは城の地下空間だから、これ以上はヤバい。下手したら城が崩壊してしまう。

 いけないな。なんか、迷宮やら山奥やらで手合わせしてたときのノリそのままでやってたぜ。

 俺とサイラオーグさんはお互いに振り向き合い、苦笑しながら臨戦態勢を解いた。

 

「やれやれ、ここまでヒートアップしてしまうとは……俺もまだまだだな」

 

「お互い様ですよ。俺も気づきませんでしたし……」

 

 そう言いながら、サイラオーグさんは俺と握手を交わす。

 

「いや〜、中々凄い戦いだったな。サイラオーグ……だっけ? イッセーとここまでやり合えるとは、大したもんだよ」

 

「異世界の魔王様に褒められるとは、光栄の限りです。ですが、兵藤一誠は微塵も本気を出さず、終始手加減されていましたがね……」

 

「それでもだよ。正直、手加減してるとはいえイッセーと殴り合える時点で十分すごいって」

 

 どうやらリムルもサイラオーグの事を認めた様子で拍手をしながらこちらに近づいてくる。中々どうして楽しそうだ。

 サイラオーグさんは俺が手加減してることに少し不満げな様子だが、リムルはそれでもサイラオーグさんの強さを認めている。

 実際、俺の拳は並の魔王種程度なら耐えられないレベルの威力を持ってるつもりだ。ゴズールも俺の拳で悶絶するわけだし……。

 少なくとも、俺はそのレベルの攻撃は何度もサイラオーグさんに放ったつもりだ。それでも、サイラオーグさんはそれを耐えて、俺に向かっていたんだ。本当、大したもんだぜ。

 

「これはレーティングゲームとやらも楽しみだな。確か、俺も観に行っていいんですよね」

 

「ええ、勿論ですとも。サイラオーグも本気を出してはいないですし、ルールによってはどんな戦いになるか楽しみだよ」

 

 リムルとサーゼクスさんが楽しそうにレーティングゲームについて語り合う。

 その言葉を聞いたサイラオーグさんは目を見開き、とても嬉しそうに笑みを深める。

 

「ということは?」

 

「……イッセー君は眷属候補。ルール上、候補の子は相手側の王が参加を認めればゲームに参加することもできるんだ。あくまで、ソーナの際は特例だからね」

 

 それもそうだ。ぶっちゃけ、ディオドラの戦いでは俺は参加できてたわけだしな。

 その時はサイラオーグさんも更に強くなってるだろうし、ルールに則れば勝敗は分からなくなるかもしれない。

 まあ、そんな複雑怪奇なルールになるかはともかく、サイラオーグさんとまた戦えるのは楽しみだぜ。

 サイラオーグさんはサーゼクスさんの返答に満足気に頷くと、脱いだ上着を拾い、肩にかける。

 

「それでは俺はこれで失礼します。兵藤一誠、また拳を交えよう」

 

「もちろんです」

 

 そう言いながら、サイラオーグさんは転移用の魔法陣へと向かっていった。その後ろ姿を見ながらサーゼクスさんが尋ねてきた。

 

「彼の拳はどうだったかな?」

 

「正直、驚いてますよ。しかも、あれって手足に枷をつけた状態ですよね?」

 

 最初から気づいてはいたが、サイラオーグさんは自分の手首と足首に封印の紋様をかけて、力を制限していたのだ。

 おそらく、自らの力を高めるためにあえてあんなことをしてるんだと思う。それであの強さ。もし、本気を出したら“百獣化”したカリオンさんとだって殴り合う事が出来そうだ。

 もっともそれは進化前かつ、スキルが絡まない純粋な殴り合いの話だけど、見立て的には間違った評価はしてないと思う。

 

「その通りだ。彼はまだ若手だが、上級悪魔の中であの拳を受け止めることが出来る者は殆どいないだろう。彼はもう、プロの“王”と比べても遜色はないどころか上回っている。彼と相対したものの中には、軽い手合わせで戦意を喪失したものも出るほどだからね。魔力が通じず、肉体のみで圧倒されれば魔力こそステータスであると考えている並の悪魔は心が折れてしまうんだ。位の高いものほどプライドが高く、一度折れたら再起は困難だからね」

 

「なにそれ? 情けなさすぎない?」

 

 愛の辛辣な言葉にサーゼクスさんは苦笑する。でも、確かにサイラオーグの力は抜きん出ている。

 実際、今の部長や肉弾戦に特化した小猫ちゃんですら、サイラオーグさんと正面から挑むのは無謀だ。

 少なくとも、映像で見た“最上級悪魔”級の実力がなければ勝負にすらならないかもしれないな。

 

 サイラオーグ・バアル。

 

 滅びの魔力を持たずに生まれてきた異端の悪魔。武器は鍛え上げられた己の拳と肉体。

 あの人とは今度こそ本気で殴り合ってみたい。本気の拳を受けてみたい。

 俺はその時を楽しみにしながら、皆のもとに戻るのだった。

 

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