イッセーside
とうとう修学旅行当日だ。
俺達は東京駅の新幹線のホーム……そのホームの隅の人目につかない場所に集合していた。
学校の居残り組では部長とミッテルトが見送りに来てくれた。
朱乃さんや小猫ちゃん、ギャスパーは来たがってはいたけど普通に授業だからな。
学園祭の準備もあるわけだし、恋人であるミッテルトとオカルト研究部の代表である部長の二人がこの場に赴いたというわけだ。
「はい、これが人数分の認証カードよ」
部長が旅に出る俺達にカードらしきものを渡してくれた。
カードの表にはグレモリーの紋様が描かれている。
「これが噂の?」
木場が訊くと部長は頷く。
「ええ。これが悪魔が京都旅行を楽しむときに必要な、いわゆる『フリーパス券』よ」
日本の古都である京都の名所には寺が多い。さらに言うならパワースポットみたいな神聖な場所がわんさかある。
通常、悪魔がそこへ行けばダメージを受ける。まあ、聖なるものは悪魔にとっては毒だからな。
そこで、このフリーパス券。このパスは京都の裏事情を牛耳る陰陽師だとか妖怪が部長みたいな悪魔に発行してくれているそうだ。
無論、正当な理由があることが前提条件だけど。
「私たちのときもそうだけど、きちんとした形式のある悪魔にならこのパスを渡してくれるの。グレモリー、シトリー、天界といった後ろ盾あってのものね」
「なるほど、便利っすね。流石はグレモリー家」
ミッテルトの言う通り、こんな者を発行してもらえるあたり、グレモリー家やシトリー家が信用されている証拠だ。
人間の俺には必要ないけど、木場アーシア、やゼノヴィアには必要不可欠だろう。
「とりあえず、スカートか制服の裏ポケットにでも入れておきなさい。そうすれば、問題なく名所に入れるわ」
「「「はい!」」」
皆は返事をして、すぐに裏ポケットにカードを入れる。これで準備はOK。
そこで、丁度アーシアの携帯が鳴る。
「あ、桐生さんですか? はい。皆さんも一緒です。今からそちらに行くところです」
桐生からの呼び出しらしい。アーシアは電話を済ませ、部長に一礼する。
「では、リアスお姉さま。行ってまいります!」
「行ってきます」
「行ってきまーす」
「ええ、行ってらっしゃい」
アーシア、ゼノヴィア、イリナが部長に別れの挨拶をしてこの場を後にする。
「では、僕もこれで。お土産買ってきます」
木場も一礼して自分のクラスの方へと去っていく。俺もそろそろ行かないと。
そこで、ミッテルトが俺の襟元に手をやる。
「イッセー。襟元がズレてるっすよ」
「あ、マジ? ありがとう」
「どういたしましてっす。お土産期待してるっすよ」
どうやら襟元が乱れていたようだ。ミッテルトは俺の襟を直し、整えると軽く口付けをし、数歩後ろに下がる。
────ビックリした! いきなりキスかよ!?
「いってらっしゃいのキスっすよ。そりゃ、うちもイッセーに数日会えないってのは結構寂しいっすからね。でも、これで十分持つっすよ」
そう言いながら、ミッテルトは花のような笑顔で微笑んだ! 俺の彼女が可愛すぎる件! すると、今度は部長が数歩近づいてきた!
「ど、どうしたんですか────っ!?」
部長は俺に顔を近づけ、唇を重ね合わせた! こ、今度は部長ですかああっ!? や、ヤバい! 理性が削れる!
そんなこんなで動揺していると、部長は笑顔でしたをぺろりとする。
「……正直、あなたがいないと考えると私もすごく寂しいわ。だから、ミッテルトと同じで私も寂しさに耐えられるように……ね」
ミッテルトは少し殺気を出しつつも、仕方がないと言わんばかりに手を振っている。
二人のキス……マジで最高すぎる!
「ありがとうございます。じゃあ、行ってくるなミッテルト、ぶち」
「こんな時くらい、リアスって名前で言ってほしいわ」
部長の発言に俺は足を止める。リアス……か。そういえば、朱乃さんは二人きりのときとか普通に朱乃って呼んでるし、偶にはいいかもしれないな。
「わかりました。行ってきます、リアス」
「────ええ。いってらっしゃい。イッセー」
「お土産待ってるっすよ〜」
二人に見送られながら、俺は今度こそその場を後にし新幹線に乗り込むのだった。
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新幹線が出発して十分ほど経った頃。
「俺、実は新幹線初めてなんだよな!」
ウキウキした表情で松田が呟いていた。俺は新幹線に乗った記憶はある。まあ、物心ついたかどうかの頃だし実感は薄い。そもそも、新幹線じゃないけど、新幹線以上の速度が出る列車には何度も乗ってるしな。
ちなみに俺の席は車両の一番後ろ。隣は空いており、前の席には松田と元浜。通路を挟んだ反対側の席にはゼノヴィアとイリナが座っている。
すると、廊下を挟んで反対側の席に座るゼノヴィアが席から少し身を乗り出して言ってきた。
「イッセー」
「ん? どうした?」
「イッセーに先に言っておきたいことがあるんだ」
そこまで聞いて俺は“空間断裂”を発動し、周囲と外界を遮断する。
これで、周囲からは俺とゼノヴィアが適当な談笑をしている程度にしか見えないはずだし、何を喋っても外部に漏れることはない。
「……感謝する。それで、本題だが今の私はデュランダルを持っていない。完全に丸腰だ」
「あ、やっぱり?」
デュランダルは普段、ゼノヴィアの魔法による異空間に収納されている。その気配を全く感じなかったので予想はしてたけど、やっぱり持ってきてなかったんだ。旅行だから持ってこない────なんてことするわけないし、何かあったのか?
「ああ。なんでも、正教会の錬金術師がデュランダルのオーラを抑える術を見つけたらしくてね。天界経由であちらに送ったんだ」
なんでも、聖剣の攻撃力は下げずにオーラをなるべく抑えるための術式らしい。
ゼノヴィアはデュランダルのオーラを全く抑えられないので、ものは試しと思い切って送ってみたそうだ。
「デュランダルを抑えられないというのは不甲斐ないが、焦ってばかりでも仕方がない。取れる手段は取っておこうと思ってね」
なるほどね。以前のゼノヴィアなら責任感の強さから自虐的になってたかもだけど、色々なことを経験して精神的にも大きくなったようだな。まあでも、要件については把握した。
「つまり、アスカロンを貸してほしいってことだな」
「ああ。すまないね。いつもあの剣を借りてしまって」
「いいよ別に。アスカロンもゼノヴィアの事を気に入ってるみたいだしな」
「……剣が気に入る?」
「ああ」
アスカロンは等級こそ“
俺の力を浴びたことで、以前にも増して意思を持ち始めたその剣は俺だけでなく、ドライグやゼノヴィアの事をよく気に入っている様子なんだよな。
「なるほど。剣に気に入られるとは、剣士冥利に尽きるな。ありがとう、イッセー」
それだけ言うと、ゼノヴィアは元の席に戻っていく。
それと同時に黄色い歓声が鳴り響く。視線を送ると別のクラスのため、違う車両にいた木場がこちらに歩みを進めていた。
「え……、ひょ、兵藤のところに……?」
「そんな、木場きゅんがエロの領域に……」
「兵藤×木場きゅんは鉄板なのね!」
喧しいわ! というか最後どういうことだ! 別にこの程度の反応慣れたものなのだが、やはりムカつきはするな……。俺にイケメンの友人がいて何が悪い!
「隣、座るよ?」
「別にいいけど……どうした?」
「いや、今のうちに有事の際の確認をしておこうと思ってね」
別に向こうについてからでもいい気がするけど、たしかに必要なことか。
俺と木場はクラス持ちがければ班も違うから行動ルートも全くの別。それで“禍の団”や神祖に襲撃されないとも限らないわけだし、確認はしておいても損じゃないだろうな。
「明日は清水寺と銀閣寺金閣寺に行く予定。三日目に天龍寺だな」
「あ、僕も三日目は天龍寺に行く予定だよ。時間が合えば会えるかもね」
ほう。それは奇遇だな。
「その後は京都周辺でお土産買って終了だな。時間があればイリナと一緒に京都タワー登る予定」
「なるほど……そういえば、ジウさんとトーカさんは? 確か、護衛としてついてくるって話だけど……」
「ああ、もういるよ。ほらそこ」
「……本当だ。全然気付けなかったよ」
俺が指を指すと、修学旅行組とはまた違う席に隣り合わせで座っているトーカとジウが確認できる。何やらかなりギスギスしているみたいだな。
どうやら木場は気づくことができなかった様子。まあ、木場が気付んでも仕方がない。片や暗殺者、片や隠密とどっちも潜入のプロだもん。
「取り敢えず、木場にジウが、俺たちの班にはトーカが付く予定になっている。ジウは聖人だから、“英雄派”連中は勿論、神祖関連の相手が来ても最悪時間稼ぎにはなるはずだ」
「それで、僕が対応できそうならそのまま僕が。神祖の高弟が確認できた時点で君に連絡する……そうだね?」
ぶっちゃけ英雄派なら“
でも、逆に言えば時間を稼ぐくらいのことはできるということ。その隙に俺に連絡を入れてもらい、そのまま神祖の高弟と俺がぶつかる……というのが緊急時の対応だ。
というか、それくらいしかできないってのが大きいな。
「ソウエイさんは母さん達の護衛……黒歌は小猫ちゃん達居残り組の護衛で手が空いてないからな……」
「まあ、仕方がないさ。もしもの時は君を頼ることになるけど……」
「大丈夫だって。簡単には負けるつもりねえしな」
取り敢えず、俺たちは打ち合わせを打ち切る。その後はレーティングゲームの話題になっていき、次第にサイラオーグさんについての話になっていく。
「……で、木場。お前から見て、サイラオーグさんはどうだった?」
「率直な感想としては、部長と同世代というのが信じられないね。足も速い。多分、ユニークスキルを使用しない素の速度じゃあ太刀打ちできないと思う。パワーもゴズールさんと同等かそれ以上。まともに打ち合えるのは眷属中だと小猫ちゃんくらいじゃないかな? 多分、それ以外じゃあ拳の破壊力に耐えきれないかもしれない」
なるほど。大体俺と同じ見立てだな。
実際、サイラオーグさんと真正面から打ち合えるのは小猫ちゃんだけだ。小猫ちゃんには黒歌直伝の仙術に加え、新たなるユニークスキル“
それを使えば、ある程度はサイラオーグさんとも殴り合えるだろうな。ただ、勝てるとは断言できないけど。
「小猫ちゃん並のパワーに木場並のスピード……身体強化に特化してる分、魔法耐性も高い。搦手も通じづらいだろうな……」
「そうだね。イッセー君も出るとはいえ、君に頼ってばかりもいられない。旅行から帰ったら、トレーニングを再開しないとだね。……じゃあ、僕はそろそろ戻るよ。お土産を買うときは連絡をくれないかな? 中身がかぶると面白くないからね」
「OK。その時は連絡するわ」
その確認だけ終えると、木場は自分のクラスの車両に戻っていく。
さて、会話も一段落したし、アーシアも楽しそうに桐生と談笑している。
松田と元浜も寝てるし、京都に着くまで時間はある。
ぶっちゃけ暇だ。
「あ、久々に潜るのもいいかもな……」
俺は瞑目して、神器に意識を持っていった。
意識を集中させ、ドライグに任せることで俺の精神は神器の中に入り込んでいく。
暗い場所を抜けていき、その先に白い空間が出現する。
テーブル席がおかれて、歴代達が座っている。
『ども、お久しぶりです』
『お? 久しぶりねイッセー君、何か用かしら?』
『用ってほどじゃないんですけど、大丈夫かなって思いまして……』
『心配ないさ。たしかに“
まず現れたのはエルシャさんとベルザードさんの二人。歴代赤龍帝の中でも女性最強だったエルシャさんに、白龍皇を二度も撃破しているというベルザードさんは、歴代の残留思念の中でも最初からある程度意識を保っていた存在だ。
『そうよ……そのおかげでドライグが滅茶苦茶面白いことに……フフ』
『な、なんだ!? 俺に何が起きてると言うんだっ!?』
『教えねえよ。あれ、教えたら絶対お前傷つくもん』
『おい! 教えろ! 何が起きてるのか分からないのが一番不安なんだぞ!?』
ドライグが滅茶苦茶焦りながら俺に叫ぶ。すると、周囲の歴代赤龍帝の方々も俺に気づいたようで徐々に集まってきた。
『おお、イッセー殿。こうしてここに来るのは久しぶりですな』
『心配してくれるなんて相変わらず優しいよね〜』
こうして歴代の話を聞いてると、少し感慨深いな。
彼らは元々、この“赤龍帝の籠手”に残った残留思念であり、俺が覇龍を克服したことで憎悪といった負の念も消失し、本来ならば消えるはずだった存在でもある。
それを、リムルと師匠が、改めて神器に定着させ、演算装置として活躍してくれている。リムル曰く、“信仰と恩寵の秘奥”の応用らしい。
歴代の方々も最初の頃は意識がほとんど無い状態でどれだけ語りかけても無反応だったからな……。今こうして話すことができるのが凄く嬉しいぜ。
『最近の活躍もよくここから観ているよ』
『ええ、とてもいいわよ……“乳龍帝おっぱいドラゴン”の活躍は……』
ふふふととってもいい笑顔で聞き捨てならないことを口にするエルシャさん。見ると、ベルザードさんを筆頭に歴代の方々も口元を押さえてやがる。
『おっぱいドラゴン! ここで皆と一緒に大笑いしながら見ていたわ! 本当に傑作だったわよ!』
『ああ! いいおっぱいだったぞ!』
と、カラカラ笑っていやがる! さ、流石にコレは恥ずかしいぞ!
『う、うおおおおおおおおおんっ!!』
ドライグも涙を流してやがる! 歴代の相棒の方々にあんなの見られたとなりゃ、ドライグの精神への負担は相当だ! 本当にゴメン、ドライグ!
『……ところで、ここに来たのは本当に私達に会うためだけなのかしら?』
エルシャさんは好戦的な目で俺を見つめる。
見渡すと、歴代の方々も“赤龍帝の籠手”を装備しながらこちらを見つめている。
ここはいうなれば精神世界。イメージすれば、それはそのまま力となる。そんな好戦的な先輩たちに苦笑しつつも俺は構えを取る。
こうしてここに潜るのは何もただ会話を楽しむだけじゃない。真の目的は……ここにいる方々と組手を行うこと!
『ええ、もちろんですよ。俺ももっともっと強くならなきゃだし、久しぶりに皆さんの胸を借りさせてもらいますよ!』
『その意気よ。言っとくけど、私たちもこの精神世界で修行をしているから、以前よりも強いわよ』
『エルシャの言う通り……真の歴代最強赤龍帝はどちらか、確かめてみるといい』
歴代の方々は力を解放する。特にエルシャさんとベルザードさんは精神体だと言うのに凄まじい威圧感だ! 正直、ヴァーリのそれよりも遥かに上だ!
この世界では肉体の消耗完全度外視で戦うことができるから、丁度いい!
こうして俺は歴代の方々と久方ぶりに拳で語り合うのだった。
『行くぜ! “
『おっと、危ない!』
『えっ!? き、きゃあああああ!』
『え、エルシャさん、なぜ私を盾に……きゃああぁっ!?』
バリバリバリバリィィッ!
────余談だが、歴代女性赤龍帝の方々のおっぱいはとても柔らかそうでした。
そしてエルシャさんは相変わらず逃げ回ってばかりでした。