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イッセーside
「銀じゃない!?」
銀閣寺に着き、寺を見たゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれであった。
うん、銀閣寺は銀じゃないよ。俺は小学生から普通に知ってることだったけど、ゼノヴィアは相当なショックを受けたらしく、開いた口が閉じないほどだった。
「ゼノヴィアさん、お家でも『銀閣寺が銀で、金閣寺が金。きっと眩しいんだろうな』って瞳を輝かせていましたから」
アーシアがゼノヴィアの震える肩を抱きながら、そう言った。
そうかよほど幻想を抱いていたんだな。
「そんな事も知らなかったの、ゼノヴィア。私、知ってるわよ。銀閣寺は普段はただのお寺だけど、銀を一面に貼ると、仕掛けが作動してプロレスのリングが出てくるのよ!」
「なに!? そうなのか!?」
いや、それ違う!
イリナはイリナで何か勘違いしてるんですけど! 別に、銀閣寺は正義の味方の源流が修行した地とかじゃないし、銀閣寺を作ったのも虐殺王なんかじゃないから!
なんていうか……イリナって日本の文化を勘違いしてないか? 一応、出身は日本だよな?
そんなイリナとゼノヴィアの漫才を笑いながら、桐生が説明してくれる。
「建設に携わった足利義尚が死んだから銀箔貼るの止めたとか、幕府の財政難で中止になったとか、諸説あるみたいよ」
流石はメガネ女子。事前に情報を調べてきたのか、名所について詳しいね。
伏見稲荷の時も思ったけど、京の山々は秋模様で綺麗だな。紅葉も舞っていて、天狗の隠れ里を思い出す。
こういう場所は冬景色も雪が舞ってて風流なんだよな。
銀閣寺を一通り回ると、近くのお店で昼食を済ませ、次の金閣寺に向かった。
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「金だっ! 今度こそは本当に金だ!」
金閣寺に到着し、ゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれだった。
銀閣寺の時とは違って凄まじいまでのはしゃぎようだ。喜んでいるのなら何よりだぜ。
「金だぞぉぉっ!」
両手を上げてゼノヴィアが瞳を輝かせるほど、金閣寺は金ピカだ!
実際に見ると思っていたよりも輝いていて、圧倒されそうだ!
他の生徒達も来ていて、皆撮影している。松田も夢中でパシャパシャとカメラで撮っている。
俺も写メして皆に送ってあげるか。なんか、監視っぽい妖怪達もいるけど、俺を警戒している分、手出しはしてこないはずだし、誤解が解けるまでは放おっておこう。
映り込むのはこの際仕方がない。取り敢えず、送信っと。
見て回ったあと、お土産をいくつか買い、お茶屋で一休みをする。
「どうぞ」
和服のお姉さんが淹れたての抹茶とお団子を運んできてくれた。
うん、美味い。苦味も少ないし、子ども舌でも安心して飲める感じだ。団子と一緒にいただくことで、風味も感じられて丁度いいな。
「うん、悪くないわね」
イリナも気に入ってる様子。まあ、イリナの場合団子中心に食ってる感じだけど……。
「少し苦いです」
アーシアはまだ少し苦そうな感じだな。でも、ちょびちょび飲んでる様子を見る感じ、嫌いってほどでもなさそうだな。
「……金ピカだった」
ゼノヴィアは未だに金閣寺を見た余韻に浸っていた。よほど感動したみたいだな。
というか、今日はゼノヴィアの見たところがない側面ばかり見れた気がする。中々面白かった。
修学旅行……というか、学園生活を一番楽しんでいるのは案外ゼノヴィアなのかもしれないな。
「ゼノヴィア、記念に祈っておきましょう!」
「そうだな!」
「私もお祈りします!」
イリナの提案にゼノヴィアは頷き、アーシアも続く。
「「「ああ、主よ!」」」
教会トリオはそう言いながら、天にお祈りをしている。正直、何の記念か全くわからないけど、楽しそうで何よりだ。
俺が三人を微笑ましげに眺めていると、不意にケータイがなった。
朱乃さんからだな。俺はケータイの通話ボタンを押し、耳に当てる。
「もしもし。どうしたんですか、朱乃さん?」
『もしもし。イッセー君? いえね、大したことではないのだけれど……。小猫ちゃんがちょっと気になることを言っていたの』
「気になること……金閣寺の妖怪ですか?」
『ええ、そうなの。やっぱりわかっていたのね。小猫ちゃん曰く、狐の妖怪が何体か映り込んでるらしいんだけど……』
「ええ。まあ、妖怪達が悪魔である皆を監視するのは不思議じゃないですし、金閣寺のどの角度から撮っても写っちゃってたから仕方なく一番少なそうなやつ送ったんですよね……幸い、よほど感覚が鋭くなければぱっと見わかんない感じでしたし……」
『そうなの? でも、私の時はここまで監視が酷くはなかった……もしかして、何か起こっているの? まぁ、狐の妖怪自体は京都では珍しくないのだけれど……』
朱乃さんの少し心配げな声。
ここで何が起きてるのかを馬鹿正直に言うのは簡単だけど、それを言えば、朱乃さん達は多分学校放ったらかしにしてこっちに来る可能性が非常に高い。
正直、迷惑は掛けたくないしアザゼル先生にも止められてるからな……。
「いえ、大丈夫ですよ。今のところ何も起きてませんよ。取り敢えず、アーシア達に呼ばれたからまた後で……」
『……何かあったら、連絡くださいね』
「はい」
それだけ言って電話を切る。……アーシアに呼ばれたというのは嘘だけど。
取り敢えず、この写真のことはアーシア達にも伝えておくか。
「ん?」
と、ここで違和感が生じる。
これは……精神魔法か?
見ると、周囲に眠りに誘うタイプの精神魔法が仕掛けられている。一瞬、メロウを連想したけど違う。それにしては、術式が杜撰で弱すぎる。正直、子どものあやし用に使われるような術式と大差ない。
振り向くと、眠っているのは松田と元浜、桐生の三人。アーシア達は普通に起きている。
ゼノヴィアは下手人であろう、女性店員を怖い顔で睨みつけている。
ふむ、どうやら狐の“
観光客の皆さんは、その場で倒れ込むようにねてる様子だ。
まさか、こんな白昼堂々とした場所で襲撃か?
でも、殺気は感じないな……。怪訝に思ってると、ロスヴァイセさんが走ってやって来た。
「ロスヴァイセさん、どうしてここに?」
「ええ、貴方達を迎えに行くようにアザゼル先生に言われました」
「先生に……ということは……」
「ええ。察しのとおり、誤解が解けました。九尾のご息女があなた達に謝りたいと言うのです」
どうやら、先生たちが上手くやってくれたみたいだ。
納得していると、獣耳のお姉さんが前に出て深々と頭を下げてきた。
「私達は九尾の八坂に仕える狐の妖でございます。先日は申し訳ございませんでした。我らが姫君も謝罪したいと申されておりますので、どうか私達についてきてくださいませ」
「……どこにですか?」
「我ら京の妖怪が住まう裏の都です。魔王様と堕天使の総督殿も既にそちらいらっしゃっております」
流石は先生。誤解を解くのが早いな。こういう面は頼りになる。
俺はその言葉を信じ、彼女達についていくことにした。
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金閣寺近くの人気のない場所に設置した鳥居。そこを潜った先にあったのは完全な別世界だ。
俺達が足を踏み込んだのは、レーティングゲームの異空間をベースに作られたらしい異界。
江戸時代の町並みのセットのように、古い家屋が立ち並んでおり、窓から面妖な生き物たちが顔を覗かせている。
一つ目小僧にろくろ首、河童に歩く狸達。
なるほど、どうやら様々な因子を持つ魔物達が一つのコミュニティを形成してるみたいだな。
これが妖怪達の本拠地というわけか。皆が皆、好奇の視線で俺たちを見ている。
この間の狐の姫様がいるところまで狐のお姉さんが案内してくれている。
「うきゃきゃきゃ」
「きゃっ!?」
いきなり現れた提灯お化けにビックリするアーシア。
周囲の妖怪達が多すぎて、魔力感知がうまく機能してなかったみたいだな。
それを見た狐のお姉さんは少し苦笑いをする。
「すみません。ここの妖怪達は悪戯好きでして……害をなすことはないと思いますが……」
「ここが妖怪の世界なんですか?」
「はい。ここは京都に住まう妖怪が身をおく場所です。悪魔の方々がレーティングゲームで使うフィールド空間があると思いますが、あれと似たような方法でこの空間を作りだしています」
「へぇ、妖怪の世界でもレーティングゲームって知られてるんですね」
「レーティングゲームの試合の様子はこちらでも見ることができるのですよ。中には熱狂的なファンもいます」
ほへー、それは知らなかったな。最初に俺が感じたレーティングゲームの異空間がベースっぽいというのも間違ってはいなかったわけか。
「人間か?」
「みたいだな、悪魔もいるぞ」
「あの綺麗な外国の娘っ子も悪魔か?」
「あの人間、龍の気配がするな」
妖怪達の話し声が聞こえる。何やらここに人間や悪魔が来てることに珍しさを覚えてるみたいだ。まあ、妖怪の領土だし、悪魔も人間も滅多に来ないだろうしな。
家屋が立ち並ぶ場所を抜けると林に入る。そこを更に進むと巨大な赤い鳥居が現れた。
あ、鳥居の先にアザゼル先生とセラフォルーさんが。軍服姿のテスタロッサさんと、聖騎士姿のヒナタさんもいるな。
「お、来たか」
「やっほー、待ってたわよ☆」
妖怪の世界でも皆さん変わらないな。
そして、鳥居の蔭からひょっこりと金髪の少女が現れる。
あの時襲ってきた“九頭獣”の娘さんだ。
今日は巫女装束ではなく、戦国時代のお姫様が着るような豪華な着物を着ていた。
こうして見ると確かに小さなお姫様って感じだ。
「九重様。皆様をお連れいたしました」
俺達を案内してくれた狐のお姉さんはそう言うとドロンと炎を出現させて消えてしまった。狐火ってやつか。どうやら、特殊な炎に術式を編み込んで転移してるみたいだな。転移の範囲は狭そうだけど……。
お姫様は俺達の方に一歩出てきて口を開く。
「私は表と裏の京都に住まう妖怪達を束ねる者────八坂の娘、九重と申す」
そう自己紹介をした後、深く頭を下げてきた。
「先日は申し訳なかった。お主達の事情も知らず、私の勘違いで襲ってしまった。どうか、許してほしい」
と、この間のことを謝ってきた。俺はポリポリと頬を掻きながら、言う。
「別になんとも思ってねえよ。お前たちにも事情があったわけだし、こっちにも怪我人はいなかったんだからさ……」
「ああ。誤解が解けたのなら、私は別にいい。せっかくの京都を堪能できれば問題はないよ。もう二度と邪魔をしないのならね」
「そうね。許す心も天使に必要だわ。私はお姫様を恨みません」
「はい、平和が一番です」
「し、しかし……」
どうやら、お姫様は昨日のことを俺たち以上に気にしてるらしいな。そこで、傍観していたヒナタさんが口を開く。
「被害者である彼らが許すというのだから、貴女がこれ以上気にする必要はないわよ。それとも、貴女は責任を取るための何かがある……とでも言うつもりなのかしら?」
「そ、それは……」
ヒナタさんの正論パンチでしょんぼりうなだれる九重。そんな九重に日向さんは目線を合わせ、話しかける。
「貴女が気にするのもわかるわ。でもね、謝罪をして相手がそれを受け入れたのなら、それでいいのよ。次に間違えなければ、それでいいんだから」
ヒナタさんは少し、昔を思い出すように言う。俺もまた、九重と目線を合わせる。
「九重はさ、お母さんが心配なんだろう?」
「と、当然じゃ」
「そうだろう。だから、俺たちを襲ったわけだし、それは場合によっては問題になるかもしれない。でも、九重は俺達に謝った。間違ったことをしたと思ったから謝ったんだろ?」
「もちろんだとも」
俺はそれを聞き届けると、彼女の肩に手を置いた。
「それなら俺達は九重のことを責めたりはしないよ。九重はちゃんと謝ってくれたからな。次に気をつければそれでいいさ」
そう言って俺は笑顔で九重の頭を撫でてあげた。すると、九重は顔を真っ赤にしてモジモジしながら呟いた。
「……あ、ありがとう」
「おう!」
これでOKだろう。
誤解も解けたし、九重も謝ってくれた。
俺が立ち上がると先生が小突いてきた。
「流石はおっぱいドラゴンだ。子供の扱いが上手いな」
「ちゃ、茶化さないでくださいよ」
どちらかというと、おっぱいドラゴンうんぬんより、教師としての経験だと思うぞ。
「いやいや、流石はおっぱいドラゴンだ」
「はい! 流石です! 感動しました!」
「本当、見事に子供の味方よね」
「ちょっと見直しました。教師として、鼻が高いですね」
照れる俺にゼノヴィア、アーシア、イリナ、ロスヴァイセさんが賛辞を贈る。というか、ロスヴァイセさんの中でどれくらい俺の評価は低いんだ?
「こんなところで“おっぱいドラゴン”の布教を広げようとするなんて! 私も魔女っ子テレビ番組『マジカル☆レヴィアたん』の主演として負けていられないんだから!」
なんか対抗意識燃やされてる!? 悪魔の皆さんは平和だよな……。
見ると、ヒナタさんとテスタロッサさんは少し笑ってる! この人、“おっぱいドラゴン”のこと知ってやがるな! なんか、馬鹿にしたかのような笑みが透けて見えるんですけど!
そんなやり取りをしている俺達に九重が言った。
「……咎を犯した私がこのような事を言うのは身勝手だとは思う……じゃが、どうか……どうか! 母上を助けるために力を貸してほしい!」
少女の悲痛な叫びが木霊する。
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まずは状況交換と整理だ。
この京都を仕切る“九頭獣”────妖怪のボスの八坂さんは須弥山の帝釈天から遣わせれた使者と会談するために数日前に屋敷を出たという。
ところがその八坂さんは会談の時間になっても姿を現すことがなく、そのまま連絡が取れなくなった。不審に思った妖怪サイドが調査を行ったところ八坂さんの護衛についていた烏天狗を瀕死の状態で保護した。
そのカラス天狗の死の間際、八坂さんが何者かに襲撃され、さらわれたことを告げたらしい。
で、京都にいる怪しい輩を徹底的に探したところ、俺たちを発見し、襲撃したというわけらしい。
その後、先生とレヴィアタン様が九重たちと交渉し、冥界側の関与はないことを告げ、“禍の団”及び、“神祖”の存在と情報を提供したのだという。
「なんか、えらいことになってますね」
「各勢力が手を取り合おうとすると、こういうことが起こりやすい。オーディンの時はロキ。そんでもって、今回はテロリストってことだ。どいつもこいつも面倒な奴らばかりだ。そんなに俺達が気に入らないのかね?」
先生が不機嫌そうに言う。ひょうひょうとしているけど、平和な日々を願う先生のことだ。きっと腹の内は煮えくり返ってるのだろう。
九重の両脇には先ほどの狐のお姉さんと、鼻の長い天狗のじいさん。爺さんのほうは、天狗の長で、九重の一族とも古くから親交があるという。
「総督殿、魔王殿、そして異界の重鎮の方々、どうか八坂姫を助けていただきたい。こちらが八坂姫の人相書きになります」
そういいながら、天狗のじいさんは一枚の絵画を見せた。
巫女装束を着た金髪の綺麗なお姉さん! 絵からもにじみ出色気に大きいおっぱい! 滅茶苦茶美しい! おのれテロリストどもめ! こんな美人さんさらってどんな卑猥なことをしようってんだっ!
「そんなわけないでしょう……」
「いだだだだだっ」
そんなこと考えていると、トーカに思いきり頬をつねられた。いかんいかん、変な妄想していたぜ。
そんな俺にあきれた様子のテスタロッサさんが言う。
「それは構いませんが、困難を極めるでしょうね。遺体から情報を読み取りましたが、下手人の姿は一切見ていないんですもの」
「テスタロッサさんでも難しいんですか?」
「ええ。最初は、傷口から発せられる聖なるオーラをたどり、感知すればいいと考えていたんだけど、この私の感知能力をフル活用しても、わずかに残留した痕跡をたどるだけで精一杯でしたわ」
「私も同じよ」
テスタロッサさんとヒナタさんの解析すら誤魔化すか。“英雄派”連中にそんな芸当できるやつがいるのか?
……いや、それはないか。
ヒナタさんの“
「あなたもわかっているとは思うけど、確実にいるわ。気をつけなさい」
どうやら二人も同意見のようだな。
おそらく、敵の中に“神祖の高弟”がいる。これは腹をくくらないとやばそうだ。
俺はそっと、決意を固める。
「まあ、収穫がゼロだったわけではないわ。敵はまだこの地にいることは確かよ」
ヒナタさんは茶を飲みながらそう言う。残留した痕跡から、彼女たちは究極能力と神器の複合であるとあたりをつけることはできたようで、もしも転移をすれば察知はできると思うとのことだ。
「このことから、敵の中にカグチはいないわね。彼の力なら、私たちですら痕跡を見つけることも難しかったでしょうし」
というのはテスタロッサさんの談だ。彼女もまた、カグチとは何度か戦ったことのある仲らしく、奴の隠蔽なら痕跡すらたどれないらしい。
そして、その痕跡の中にスキルとは異なる結界を使用された痕跡を発見したらしい。
探知こそできないが、朧げな気配を感じ取ることはできるらしく、もしも移動をすれば察知することができるそうだ。
敵は京都にいる。そして、それはアザゼル先生も同意見だった。
「俺も同じ意見だ。奴さんはまだ京都にいる。京都全体の気が乱れてないのがその証拠だ。御大将────九尾の狐はこの地に流れる様々な気を管理し、バランスを保つ存在でもある。京都ってのはその存在自体が巨大な力場だ。もし九尾がこの地を離れるか殺害されていれば京都には異変が起こるんだよ。まだそれがないってことは御大将は生きてこの京都にいるってことさ。そして、さらったテロリスト共もそこにいるだろうぜ」
やっぱり京都って特別な都市なんだな。まあ、この星の“龍脈”も京都に集中してるっぽいし、少なくとも日本のバランスを保つ一つの力場となっていることは間違いない。その力の流れを管理するのが八坂さんだというなら、早いところ救出したほうがよさそうだ。
テロリストが八坂さんをさらったってことはだ、少なくとも八坂を使って何かするということだ。
もしかしたら、京都どころか国中に異変が出る可能性だってある。
「セラフォルー、悪魔側での調査はどうなっている?」
「今も動いてもらってるけど、情報はないわ」
先生はそれを聞いて、俺達を見渡す。
「おまえ達にも動いてもらうことになるかもしれん。人手が足りなさすぎるからな。強者との戦いに慣れているおまえらなら、対英雄派の戦いでは力を貸してもらうことになる。木場とシトリー眷属には俺から連絡しておく。申し訳ないが、いざという時が来たら頼むぞ」
『はい!』
先生の言葉に俺達は応じた。
九重が手をつき深く頭を下げる。脇に座る天狗の爺さんと狐のお姉さんもそれに続く。
「どうかお願いじゃ。母上を……母上を助けるのに力を貸してくれ……。いや、貸してください。どうか……お願いします……!」
震える声で言う九重。
俺は立ち上がり、九重の頭に手を置いて、彼女をなでながら言った。
「安心しろよ。俺たちが絶対助けてやるからさ」
「うぅ……頼むのじゃ……」
そういいながら、九重は声を大にしながら泣き叫んだ。
何が英雄だよ。ふざけやがって。
英雄名乗るなら、こんな小さい女の子を泣かすような真似すんじゃねえよ。
決めた。英雄派は俺が徹底的に叩きのめす。
決意を新たに、俺は九重が泣き止むまでひたすら頭をなで続けるのだった。