イッセーside
出陣の時間だ。
俺達はホテルの入り口から外に出る。自動ドアの先にはシトリー眷属の皆が集まっていた。
「元ちゃん、無理しちゃ駄目よ」
「そうよ。明日はみんなで会長へのお土産買いに行く約束なんだから」
「元士郎。テロリストにシトリー眷属の意地を見せてやるのよ」
「危なくなったら逃げなさいよ」
「おう、わかってるって。ありがとうな、皆」
匙が激励を貰っているみたいだな。元々生徒会役員として厳格な分、付き合い少ないイメージだったけど、どうやらグレモリー眷属とのレーティングゲーム以降、連帯感が生まれてかなり仲良くなったらしい。
まあ、肝心の会長との進展はないようだけど……。強く生きろよ、匙。
俺が匙に心のなかで激励を送っていると、木場がぽんと肩に手をおいた。
「部長不在の今、仮として僕たちの“
「え、俺? いいの?」
突然の発言に少し驚く。俺は皆と違って正式な眷属じゃないし、グレモリー眷属の指揮をするなら木場とかのほうがいい気が……。
「うん。イッセー君は僕達と違って本当の戦争を経験してるって話だし、何より君の指示なら信頼できるんだ。お願いできるかな?」
「そうだな。私やイリナ、アーシアは指示があったほうが動けるだろうしな」
「うんうん。イッセー君の指示なら信用できるわ!」
「はい! 皆さんの言うとおりです!」
「私はこのチームに入って間もない身なので、チームの先輩のイッセー君に任せます」
木場だけでなく、ゼノヴィア、イリナ、アーシア、ロスヴァイセさんもそう言ってくれた。
チラリとジウの方を見ると、ジウはため息をつけながら言う。
「私はまだこの子達の戦力を全て把握してるわけじゃないから。取り敢えず、この子達はイッセーに任せるわ」
ふむ。まあ、そういうことなら、俺が指揮したほうがいいか。
と、ここで何かが俺たちのもとに転送される。
それは魔術文字で記された布にくるまれた長い獲物だ。中はデュランダル……おや、エクスカリバーの気配も感じるな。
「やっと来たか。これが改良されたデュランダルだ」
ああ、そういえば新幹線でそんなこと言ってたな。デュランダルとエクスカリバーを改良したのか。
確かに、デュランダルの力をエクスカリバーで抑えれば、ゼノヴィアでも十全に使いこなせるだろう。
正直、単体ずつのほうが強い気もするが、暫くはこれでいいだろう。
「悪い、話し込んじまった」
匙が謝りながら合流してきた。他のシトリー眷属は既に京都駅に向かっている様子だ。
俺達も早く二条城に行かないとな。取り敢えず、バス停に向かいながら俺達は作戦についてを話し合う。
「ウップ……」
「……あれでしたら、休んで大丈夫ですよ」
「い、いいえ。問題ありません……」
ロスヴァイセさんは口で手を押さえ、時折襲ってくる吐き気と戦闘中の様子。
どんだけ酒飲んだのこの人。本当に大丈夫か?
俺はバス停でバスを待ちながら、ロスヴァイセさんの背中を擦ってあげる。
その時、何かが俺の背中に飛び乗ってきた。
「赤龍帝! 私も行くぞ!」
金髪の巫女装束の幼女────九重だった。なんでこいつがここに? ヒナタさん達がいる裏京都で待機していると聞いていたけど……。
「なんで、九重がここに?」
九重は俺の背に肩車の格好で座ると、ほおをペチペチ叩きながら言う。
「私も母上を救う! 救いたいのじゃ!」
「おいおい……。危ないから待機するよう、魔王少女様や堕天使総督に言われてるだろ?」
「言われた! じゃが、それでもじゃ! 母上は私が……私が救いたいのじゃ! 頼む! お願いじゃ!」
うーん、ここまで言われると悩むな。
正直、九重は足手まとい。アカヤやシンシヤ、愛達を中心とした生徒達ならまだ連れていけるが、精々がBランクの九重じゃ、この先の戦場にはついていけないだろう。
先生に電話すれば、すぐに関係者がきてくれるだろうし、それが正解なのだろうけど、九重の気持ちもわかる。
九重は俺と同じなのだ。ミッテルトを助けようとした、あの時の俺と……。
「……うわ、もう来たよ」
「?」
気配がする。一度目は気づけなかったが、二度目はない。
俺は九重を優しく抱きかかえ、鎧を纏う。それと同時に、足下に薄い霧が立ちこもってきた。
────ぬるり
生暖かい感触が俺たちの全身を覆う。
「こ、これは……」
「どうやら向こうからお出迎えみたいだ。皆、近くのやつと手を繋げ! 分断されるかもしれない!」
俺の指示を聞いた皆はすかさず近くの人と手を繋ぐ。
瞬間、霧は俺たちの全身を覆い、強制的に転移させた。
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気づいたら俺は地下鉄のホームにいた。
『京都』って駅名プレートに書かれてるから、京都駅の地下ホームを再現した空間なのだろう。
周囲に視線を配るが、どうやら俺以外の人間はいない様子。待ち伏せされてると思ってたのに、意外だな。
「こ、ここは地下のホームか?」
俺に抱きかかえられた九重は困惑しながら辺りを見渡す。
「ああ。どうやら、京都駅を再現した別空間だ。……いや、渡月橋のことも考えると、京都の町丸ごと再現してるのかもな」
「な、なんと……ここも別の空間に創られた疑似京都なのか? 彼奴らの持つ技術は凄まじいのぅ」
全くだ。恐らく、レーティングゲームの異空間を“絶霧”の力で再現してるんだろう。
恐らく、実験場のつもりなのだろう。ラミリスさんが迷宮内で実験してるように、奴らもここで実験するつもりなんだ。
と、なると、二条城ってのはこの空間の二条城なんだろうな。
それにしても、京都全域を再現するってのは正直才能の無駄遣いな気がする。ここまで広大にしなくても、京都のエネルギーをそのまま流し込めばいいだろ。
まあ、こっちとしては被害気にせず戦える分、むしろありがたいんだけどさ。
俺が英雄派の狙いに思いを馳せていると、携帯の着信音が鳴り響く。
どうやら木場からみたいだな。電波は通じるのか。
「もしもし、木場か? 今はどこに?」
『うん。今は京都御所にいるよ。ロスヴァイセさんも一緒だよ。イッセー君は?』
「こっちは九重と京都駅の地下鉄ホームだ。そっちが京都御所ってことは、やっぱりかなり広大に作ってるな。多分、本物の京都と同じくらいの大きさあるんじゃないか?」
俺は頭の中に地図をインプットしてるため、大まかな位置はわかるんだが、やはりかなり広大だ。
『そうだね。多分、二条城を中心に京都を再現してるんだと思う。レーティングゲームのフィールドの技術を使ったのならそれも可能だとは思う』
木場も俺と同意見の様子。取り敢えず、早急に集まった方が良さそうだな。
このまま分断されたままだと、まず間違いなく襲撃を受ける。
俺としては、戦う力を持たないアーシアのことが気になるところだ。防御力ならグレモリー眷属最高峰だが、その防御をも突破する相手が現れた場合は危険だ。
「合流場所は二条城でいいな?」
『了解。他の皆への連絡はそちらから取るかい? 彼女達もこちらに来ていると思うからね。僕達は英雄派に招待されたようだから』
「俺の方から連絡してみるよ。木場は先生に連絡してみてくれ」
木場との連絡をそこで終わり、他の皆へ連絡してみる。
とりあえず、全員と連絡が取れた。教会トリオは仲良く一ヶ所に集まっていて、ジウは一人ポツンとしているらしい。まあ、ジウなら心配は皆無か。
俺は皆に二条城での合流を伝える。その後、再び木場から連絡が来たが、どうも外の先生とは連絡が取れなかったらしい。どうやら、内部と外界で電波が届いてないみたいだな。
これ以上は考えても意味はないだろう。まずは皆と合流が最優先だな。
「それにしても、天龍の鎧は赤くて美しいな。これが伝説の龍なのだな」
移動中、九重は俺の鎧をぺちぺちと叩いている。どうやら新鮮味を感じるみたいだな。この辺りは普通の子どもと変わらない。
その子どもからお母さんを奪うだなんて、マジで許せねえ……。ホント、覚悟しとけよ英雄派共。
「こんばんは。赤龍帝殿。俺のこと、覚えてくれているかな?」
声のする方向に軽く視線を向ける。
そこには、英雄派の制服を着た男なこちらに歩みを進めていた。
「……この間襲撃してきた影使いか」
「御名答。そう、あの時ボコボコにされてしまった男さ。でも、今は違う。アンタ達にやられた悔しさ、強さ、不甲斐なさが次の領域に至らせてくれた。見せてやるよ、本当の影の使い方を────」
ズズズズズッ……。
怪しげな魔力とともに、周囲の影が男のもとに集まり、体を包みこんでいく。
影に全身をぐるぐる巻きにされていき、やがて影は全身鎧となりて男の体を覆った。
ふむ……俺の鎧みたいだな。
「自分のような禁手だ。そう思ったかな?」
あ、本当に俺の鎧をモデルにしたのか。
「そう、アンタ達にやられた時、俺はより強い防御のイメージを浮かべた、あんたみたいな鎧が欲しいと感じたんだよ。“
影の鎧は生きているように各部位うねうね動いてる。
ふむ……まあ、準備運動くらいにはなるかな?
「ふん!」
取り敢えず、俺は小手調べに拳で奴を軽くぶん殴る。
だが、俺の拳は相手の体を通り過ぎちまった。当たった感触がないな。
「この影の鎧に直接攻撃は愚か、どんな攻撃もムダだ」
なるほど。この影の鎧が通常の物理攻撃をすり抜けさせちまうってわけか。
まあ、予想通りの能力だな。コレくらいなら、どうってことはないか。
俺は再度拳を握りしめ、もう一度影使いをぶん殴ろうとする。
「だからムダム……ゴフッ!?」
ドスン! という音とともに相手の腹を俺の拳が貫いた。
殺さないよう、手加減しすぎたのか、男は唾液をぼたぼたと垂れ流しながらも、殺意を込めた瞳で俺を睨みつけている。
「ば、馬鹿な……何故、俺に攻撃が……」
「簡単な話だよ。お前の影が攻撃を霧散させるのなら、影ごと空間を留めればいい。空間を固定してるから、影による反射ももう使えないぜ」
「そ、そんな……ありえっ!?」
ズンッ!
俺はもう一度拳を腹にめり込ませる!
その一撃には耐えきることができず、とうとう影使いは禁手を解除した。
しばらくは禁手どころかまともに戦うことも困難だろうな。
「……強い。禁手になっても……天龍には届かないというのか……」
そう言いつつも、影使いはナイフを取り出し、ジリジリと俺に迫ろうとしてくる。ダメージが大きいせいか、足を引きずりながらだが、それでも奴は俺に向かおうとしているのだ。
「おいおい、まだやるのか? これ以上やるってんなら、容赦しねえぞ?」
俺は脅しも兼ねて殺気を相手にぶつける。その殺気に何とか耐えようとしているらしく、ガタガタと震えながらも影使いは進み続けている。
「死んでもいい……あいつの……そ、曹操のもとで死ねるなら本望だ……」
心からの叫び。アイツ、そんなにカリスマ性があるのか。
「……神器を持って生まれた者は誰しもその力によっていい人生を送れたわけじゃない。俺のように、影を自在に動かす子どもが身内にいたらどうなると思う? 気味悪がられ、迫害されるに決まってるだろう。俺はこの力のせいで、まともな生き方ができなかったよ。でも、そうそうはこの力を素晴らしいと……英雄になれると言ってくれた。今までの人生のすべてを薙ぎ払うかのような言葉をもらったらどうなると思う? そいつのために生きたいと思ってしまっても、仕方がないじゃないか……」
そこまで言いながら、影使いは涙を流しながら俺を睨みつけた。
「悪魔も堕天使も妖怪も人間の敵だ! 常識だろうが! あんた、人間なんだろ! なんでお前はそっちに付くんだよ! アンタも俺たちのもとで戦うべきだろ!」
そこまで聞き入れて、俺は歩みを進める。
こいつにも同情するべき点があることはわかった。
でも、それはそれ。コレはこれだ。
「……アンタの言い分、分かんないわけじゃないけどさ。俺は人間も悪魔も堕天使も妖怪も変わらないって思ってる。いいやつもいれば悪いやつもいる」
俺は魔物たちよりも、むしろ人間のほうが怖い。
俺は見てるんだからな。大義名分を得た
「なんだと……そんなことっ」
「そもそもさ、お前を迫害したのは悪魔でも堕天使でもないだろ。確かにお前は酷い目にあった。だからといって、小さい子供を泣かせていい理由にはならねえ! そんな奴が英雄になれるわけねえだろ! それが、お前ら嫌いな理由だよ!」
ドゴォォンッ!
俺は生身のコイツに重たい一撃を食らわせ、意識を刈り取る!
「アンタのやってることで泣く奴がいる。どんな理由があろうが、俺はそれを殴り飛ばすだけだ」
どれだけ辛い過去があろうが、どんな大義名分があろうが、コイツラのやってることは絶対間違ってる!
俺がコイツラと敵対する理由なんざ、それで十分だ!
男を一瞥したあと、俺は暗がりの線路に視線を向けた。
あの先を真っ直ぐ進めば二条城に出られるはず。皆もこの程度の刺客ならぶっ倒して進んでるはずだ。
「行こう、九重。お母さんを助けにな」
「うむ!」
俺は九重を背中に乗せ、ドラゴンの翼を広げて線路の先へ飛び出した!