イッセーside
「い、イッセー様……ここは?」
「ここは基軸世界。俺たちの世界とは異なる異世界さ」
「い、異世界……?それはどういう……?」
「まあ、後で詳しく話すよ」
我が家のクローゼットから趣のある石造りの部屋に来たレイヴェルは困惑しながら辺りをキョロキョロしている。
レイヴェルは我が家でホームステイするわけだし、基軸世界のことは後々説明するよりももう早めに知ったほうが良い。そう思ってここに連れてきたわけだ。
勿論、ミッテルト経由でリムルにも事前に許可は貰ってるし、サーゼクスさんにも話は通してある。
「ムーッ! ムーッ!」
ちなみにコイツには知られないようにしている。俺はライザーが包まったままの布団を抱え、空間断絶を駆使して聴覚を遮断しながらここに来たわけだ。ライザーからすれば嫌なミステリートレインだろうな。
取り敢えず、“
転移したのを見計らって、俺はライザーの拘束を解く。
「ぷはっ! はぁー! はぁー!」
ライザーは拘束を解かれるやいなや、すごい勢いで酸素を取り込んでいる。まあ、三時間程簀巻きにされてたわけだし、無理もないか。
「し、死ぬところだった……おい! 赤龍帝! 貴様、俺をどこに……連れて……」
ライザーは俺に向かって怒鳴り散らそうとするが、徐々にその勢いは失われていった。
「……おい、赤龍帝。どこだここは?」
「とっておきの修行場だよ」
ライザーが目を開けた先にあったのは荒廃した荒野。地面のあちこちに巨大なクレバスがあり、巨大な砂嵐が頻繁に巻き起こっている。
「お、おい赤龍帝! 俺をこんなところに連れてきてなんの……」
「お待ちしておりました。兄弟子殿」
「久しぶり〜お兄ちゃん〜」
「ご無沙汰してますわ。イッセー殿」
「お久しぶりです」
「来たか、イッセー」
ここで空から五つの大きな影が飛来してきた。
ズウウウウウウウンッ!
大きな地響きを立てながら、五人の巨大なドラゴンが降り立っていたのだ。
「タンニーンっ!? なんでここに?」
部長が驚きの声で飛来したドラゴンを見つめる。
そう、そこにいるのはタンニーンのおっさん。元龍王の最上級悪魔だ。
「久しいな、リアス・グレモリー。実は、近々魔国との交易でドラゴンアップルを輸出、品種改良する計画が上がっていてな……その協定の摺り合わせで一昨日からこちらに来ていたのだ」
「そうだったの……イッセーは知ってたの?」
「ええ。部長が丁度出かけてるタイミングでリムルと一緒に小さくなったおっさんがやってきましてね」
あれは少し驚いたな。おっさんはすごくデフォルメされてて少し可愛い感じになっていたし。
「そちらのドラゴンは初めて見るな。イッセーの知り合いか?」
ゼノヴィアが竜王達を見て俺に問いかける。そういえば、皆は初対面だったな。
「ああ、紹介するぜ。コイツラは迷宮守護竜王。オレと同じヴェルドラ流闘殺法の門下生で迷宮十傑のメンバーでもある」
「うむ。我が名はボレアス。リムル様より“地滅竜王”の称号を与えられし地竜の王。イッセー殿とは同門で、我は弟弟子にあたる」
「“天雷竜王”のノトスだよ〜。よろしくね〜」
「“氷獄竜王”のゼピュロスだ」
「“炎獄竜王”のエウロス。お見知り置きを」
四竜王達はそれぞれ部長達に挨拶をする。しかし、おっさんと一緒に登場するとは……この短期間で仲良くなったのかな?
「うむ。タンニーン殿は素晴らしき御仁である。強さは勿論、人格面でも尊敬できる御方だ」
「うん。おじさん強いしとても頼りになる感じがするんだよね〜」
「ハハハ。それは光栄だな。貴公らも中々のものだと思うぞ。他の龍王にも見習ってほしいものだな」
なんでも、タンニーンのおっさんは迷宮を守る竜の王がいると聞き、興味を持ったのだそうだ。リムルは快く彼らとおっさんを引き合わせ、短期間のうちに意気投合したのだと言う。
基軸世界と俺たちの世界の交流もいい感じに進んでいるんだな。そうしみじみしていると、雛鳥みたいにガクガク震えている情けない男の姿が視界に映った。
「た、た、た、タンニーン……そ、それにドラゴンがこんなに……ど、ドラゴンが……ヒィィィィィィッ!!?」
……そういえば、ドラゴン見るのも駄目とか言ってた気がする。まあ、それ抜きにしても、でっかいドラゴンが五人もそろっていれば慣れてない人はビビるかもな。
そんな情けないライザーをおっさんの大きな瞳がとらえた。
『ライザー・フェニックスか』
『誰なのこの人?』
「俺たちの世界の悪魔の貴族階級の人だよ」
『ふむ。レーティングゲームの試合をいくつか見たことがある。将来有望な『王』として注目してたのだが……その様子だと、問題があるようだな』
「そうなんっすよ。この焼き鳥、うちのイッセーとバトって以来、すっかりドラゴンが駄目になったっぽいんすよね。ビビってるんすよ」
「なにそれ情けな」
ミッテルトの言葉にエウロスは率直な感想を述べる。エウロスだけでなく、おっさんを含む他の竜王達も目で語っている。『情けなさすぎる』と……。
「ふむ……イッセー殿には悪いのだが……ほっとくわけにはイカンのか?」
「まあ、俺としてもそうしたいのは山々なんだけど……」
俺はちらりとレイヴェルの方を見る。レイヴェルは強大な力を持つ五人のドラゴンに圧倒されていたが、すぐに切り替えると頭を下げて嘆願した。
「お、お願い致します! 私としても、こんな情けない兄を見るのは我慢ならないのです! どうか、兄を立ち直らせてくださいまし!」
レイヴェルの懇願を聞いた竜王達はレイヴェルとライザーを見比べて溜息をつける。
「全く、随分違う兄妹だな。主に精神面で……だが、まあこちらとしても暇を持て余していたからな……」
「挑戦者とか全然こないしね〜」
「ふむ。俺としても異論はない。どの道、話し合いはほとんど終わっているのだからな」
そう言いながら、おっさんはライザーを素早く鷲掴みにする。ライザーは逃げようとジタバタしているが、おっさんの頑強な鱗はライザーの火ごときではびくともしない。
「逃げようとするな。男なら覚悟を決めろ」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!? い、嫌だぁぁぁぁ!! そもそもここはどこなんだぁぁぁぁぁっ!?」
はたから見てるとドラゴンに食われそうな鳥って感じだな。
取り敢えず、俺はおっさんの背に乗っかり共に修業をすることにした。
「取り敢えず、俺もコイツについていきますよ」
「わかったわ。なら、私達も前回に引き続き迷宮攻略していようかしらね?」
「そうっすね。うちはひとまずアピトちゃんと模擬戦してるっすわ。アピトちゃん、うちとイッセーの模擬戦見てたらしくって、是非とも今のうちと手合わせしたいって言ってたんで」
どうやら部長とミッテルトはそれぞれ進んで迷宮で修行するみたいだ。本当、ライザーとは真逆だな。
「私もイッセー様についていきますわ!」
なんと、レイヴェルは俺の方に付き合うつもりのようだ。正直、守護竜王達の階層は環境面で厳しいからな……部長達ならともかく、レイヴェルを連れてくのは気が引けるな。
困惑する俺にレイヴェルはさらに告げる。
「私も……兄を……一緒に立ち直らせたいのです!」
────っ!
決意に満ちた良い目をしているな。よほどライザーが心配なんだろう。なんやかんやで愛されてんだな、コイツ。
ちらりとおっさん達の方に視線を向けるが、問題はなさそうだな。
「わかった。じゃあ、一緒に行こう! レイヴェル!」
「はい!」
俺の一言にレイヴェルは嬉しそうに応じる。彼女は自分の衣装を令嬢の着るドレスから、サファリジャケットに素早く換装。なかなか素早いな。やはり、レイヴェルも才能に満ち満ちた娘なんだな。
一方、兄貴の方は……。
「い、嫌だ! こんな訳の分からん場所で修行などという泥臭いことできるか! 俺は帰る! 家に帰るんだ!」
……何と情けない姿だ。虚勢でも妹の前で格好つけるとかできないのか、コイツ?
「では、早速修行開始と行こうか!」
「ひぃぃぃいいいいっ!!」
おっさんの凛々しい掛け声とライザーの情けない叫び声を聞きながら、俺とレイヴェルは飛び立つのだった。
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まず降り立つのは迷宮九十六階層の中間地点。環境的には砂塵が舞い散り、砂嵐や地割れが頻繁に起こるエリアだ。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!? ど、ドラゴン……っ!」
ライザーの視線の先にいるのは大量の“
「ライザー・フェニックス。我等ドラゴンがお前の心身を一から叩き直す! 覚悟すると良い!」
「うう……なんてこった……」
ライザーは首を横に振りながら顔を両手で覆う。覚悟を決めたほうがいいぞ。まあ、死ぬ思いはするだろうが、ライザーは超速再生を持ってるし、最悪腕輪で復活すればいいだけだから問題ないでしょう。
ボレアスはライザーを掴み、そのまま砂嵐の中に突っ込んでいく。
「ぎぃやああああああっ!?」
消しゴムみたいに握られながら砂塵に突っ込み、叫ぶライザー。悲痛な悲鳴を無視して俺は他の龍王たちと打ち合わせを行う。
「じゃあ、ライザーの修行としてはおっさんと四竜王がそれぞれの階層で順番に鍛える感じになるのか……。待ってる間は俺もお前らも暇になるし、折角だから手合わせでもしてるか」
「ほう。イッセー殿と手合わせですか」
「フフフ、いいですわね。受けて立ちましょう」
俺の言葉に人型形態に変化する竜王達。それを見ながら俺はポキポキと指を鳴らすのだった。
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それから暫く経った。ライザーは相変わらず逃げ惑ってる様子だ。
「不死鳥の炎ってのはその程度なのかしらっ!」
「ヒィィィッ! お、俺の炎が燃えたぁぁぁっ!?」
火山地帯でエウロス相手に戦うライザー。勇気を出して出した炎も完全に押し負け、吹き飛ばされている。
まあ、エネルギーの総量も出力も違いすぎるから仕方ないんだけどね。
「お兄様! これぐらいで音を上げてどうしますの!」
『レイヴェルちゃんの言う通りだよ〜。恥ずかしくないの〜?』
ノトスの背に乗るレイヴェルが上空から兄に檄を飛ばす。ノトスもまた呆れたように言う。
俺は役目を終えたボレアスと組手をしながらライザーの方を眺める。だいぶボロボロになってるな……。ぶっちゃけ、火山地帯でドラゴンに襲われる冒険家って感じにしか見えねえ。
「ハア、ハア……そ、そろそろ終わりだろう……?」
ライザーは汗だくになりながらぶっ倒れる。火山地帯は火属性の魔人であるライザーにとってはそこそこ過ごしやすい環境だし、いい準備運動にはなっただろう。
『エウロス。そろそろ私の番ですね』
『ええ、任せたわよゼピュロス』
青色の竜王がライザーの倒れ込むライザーの前に現れる。それを見たライザーは顔を青くし、涙目になりながらゴキブリみたいな移動法で脱走を図る。
『悪いですが、兄弟子殿のお願いですからね。逃しませんよ』
ガシィィッ!
脅威のゴキブリ走行でそこそこの速さを出していたライザーだったが、抵抗虚しく一瞬でゼピュロスに捕まる。
「も、もう嫌だ! 帰らせてくれ!!」
『まだ修行を始めて数時間も経ってないではないでしょう? 先ほどの砂塵でも簡単に蟻地獄に引っかかって失神してしまって……恥ずかしくないんですか?』
「う、うるさい! そもそもここはどこなんだ!? 山にこもって修行とか野蛮人のすることだぞ!」
『何をおっしゃってるのですか? 修行はすればするだけ強くなるのですから……やって損はないでしょう?』
「俺は生粋の上級悪魔だぞ! 受け継いだ血と才能を重んじて貴族らしく生きてこそ上級悪魔だ! こ、こんな泥臭い真似しなくてはならないなんて……」
『貴族ならば民の手本となるためにもなおさら努力しなければならないでしょう。私の知る王や貴族達は皆研鑽を欠かさない人達ですよ。しっかりしなさい』
ゼピュロスの言葉は正論だ。勿論、全ての王侯貴族がそうとは言わんけどゼピュロスの知る原初の悪魔や爵位を持つ悪魔、魔王にその配下といった上位の立場にいる者達はどいつもこいつも研鑽を欠かさない凄い人たちばかりだからな。
それにしても、ライザーは酷いな。お坊ちゃん気質が骨の髄まで染み付いてやがる。
ゼピュロスの言う通り、まだ大した修行もしていない。せいぜい砂塵の中で追いかけっこしたり、火山地帯で鬼ごっこしたくらいだろ? 音を上げるのが早いって。
……嫌、でも一般の感性ならあの反応が普通なのか? 俺は慣れすぎてるから正直大した事ないって思ってるけど。
ドゴォォォォォォンッ!!
「ぎゃああああああっ!?」
情けない悲鳴を上げながら盛大に吹き飛ぶライザー。
前途多難だな。俺はそう思いながら、天井近くまで吹き飛ぶライザーをぼんやりと眺めていた。