イッセーside
キィンッ! ガギィンッ!
「いいっすよ、木場っち! そこはもう少し、踏み込みを強くするんすよ!」
「くっ、はあっ!」
休憩中、俺はおにぎりを頬張りながら木場とミッテルトの模擬線を眺めてた。
遠くでは、ゼノヴィアとロスヴァイセさん、リアスと朱乃のコンビ戦で戦っている。
小猫ちゃんはギャスパーと修行中。アーシアとイリナは神聖魔法の特訓をしてる様子だ。
この後、チーム形式での連係確認も行う予定で、だいぶハードなスケジュールだな。
「流石はミッテルトさんだね……でも、これなら!」
ドンッ!
そう言いながら木場はユニークスキルを駆使し、縦横無尽に飛び跳ねる。
壁を駆使して加速を続けているな。加速が最高まで達したのを見計らい、木場はミッテルトに切っ先を向けた!
「甘いっすよ。木場っち!」
「なっ!?」
だが、ミッテルトはその軌道を見切り、カウンターを木場に叩き込んだ!
加速が最高にまで達していた木場は軌道修正もできず、その一撃で倒れ伏す。
「はあ……はあ……さ、流石だね。ミッテルトさん」
「経験の差っすよ。でも、木場っちも良い線行ってたっすよ」
そう言いながらミッテルトは木場に手を差し伸べ、木場もまたその手をつかんで起き上がる。
……なんだろう、すげえモヤモヤする。俺はさっとミッテルトの手を引き、隣に座らせる。
「……妬いてるんすか?」
「……」
ミッテルトはニヤニヤとしながら俺を見つめる。俺はその視線に耐えられず、そっぽを向く。
それを見た木場は苦笑しながらも俺の隣に座った。
「それで、他の皆はどうかな?」
「ああ……部長と朱乃さんはだいぶ近接戦に慣れてきたみたいだな。ギャスパーも大分コンタクトの扱いに慣れたみたい」
視線の先には小猫ちゃんを停止させるギャスパーと騎士と戦車を相手に大立ち回りを見せるリアスと朱乃だ。
黒歌の指導もあってグレモリー眷属最強格となった小猫ちゃんだが、ギャスパーの停止は相性悪い。小猫ちゃんもそれをわかってて、うまく撹乱する動きを見せていたが、”魔眼専用コンタクト“をつけたギャスパーの前にあえなく轟沈した。まあ、見た感じ意識は保ってるみたいだし、数秒もすれば破れるんだろうけどな。
「なるほど……でも、それだとサイラオーグさんには通じそうにないね」
「まあな……」
ギャスパーも修行のおかげでだいぶ魔力が強くなった。今の小猫ちゃんすら止めてるのがいい証拠だ。だが、それでも数十秒もすれば破れるレベル。残念ながら、サイラオーグさんには通じないだろう。
リアス達も同じで、近接戦が強くなったと言っても二人の本来のスタイルは魔法による中〜遠距離攻撃。サイラオーグさんとやりあえるレベルではない。
「あの、一つ気になったのですが……」
「ん?」
見学に来ていたレイヴェルがおずおずと手を挙げる。
「た、確かイッセー様には“
………………
「「それいいね!」」
俺と木場はレイヴェルの言葉に同時に頷いた。
ていうか、“赤龍帝からの贈り物”か! 全然使わないからすっかり忘れてた!
あれは増加させた力を他者に譲渡することができるという権能だが、対象に触れなければならない上、一定以上の強者を対象にするとあまり意味のないから使い道がなかったんだよな。
だが、木場やリアスが対象なら全然問題ない。もしかしたら、サイラオーグさんとも同等に渡り合えるレベルになるかもしれない。
それと……例えば“覇竜絶影拳”と組み合わせたりしたら? 攻撃に見せかけて、実は譲渡! なんてことができたら? さらに戦術の幅が広がるぞ!
「そういう事ができれば、相手に知られても揺さぶりをかけることができるかもしれないね。遠距離の譲渡ができればすごく役立つ能力になるよ……ちなみに、イッセー君自身はできそうかい?」
「ああ。多分できる。考えたこともなかったけど、これはレーティングゲームだけじゃなくて実戦でも役立ちそうだな」
『相棒なら可能だろうな。歴代の中には実際、譲渡の力を極めようとしていた者もいるわけだしな』
ドライグも太鼓判を押してくれる。ていうか、確かに先輩方にそんな人いたわ。修行でも他の歴代の方々の力を底上げしたりしてたな。あの人にも師事して貰えれば……うん、問題なさそうだな。
「……なんか、うちの能力のお株奪ってないっすか、それ?」
ミッテルトは少し不満げな顔だ。
まあ、確かにミッテルトの能力も他者の力を底上げするタイプだしな。だが、流石に比べたら究極能力であるミッテルトのほうが上だと思うぞ。一度に付与できるわけでもないし、完全にミッテルトの下位互換になるとは思う。
それでも前回の京都みたいにミッテルトがいない状況下で皆の戦力を底上げできると考えるとかなり便利だ。今回のレーティングゲームでもミッテルトは不在になるわけだしな。
しかし、面白いこと思いつく子だな。この娘、頭良さそうだし軍師タイプなのかもしれないな。
「問題はゲームフィールドっすね。集団戦できるとこじゃないと意味ないっすよ」
「ミッテルトの言う通りね」
どうやら戦闘が終わったらしく、リアスがこちらに近づいてきた。ゼノヴィアとロスヴァイセさんはバタンキューか。やはり、即席コンビではずっと昔から一緒にいる朱乃とのコンビネーションには敵わなかった様子だ。
二人とも手の内知り尽くしてるし息ぴったりだしでいい連携だったからな。
「サイラオーグは私たちのすべてを受け入れると上役に打診したそうよ。イッセーがいる以上、だいぶ渋ったようだけど、最終的には上役も許可した。でも、それを踏まえた上で特殊ルールを敷いてきそうではあるわね」
特殊ルールね。
「今回の会場は大公アガレスの領土である空中都市で行われる。大勢の観客を同時に呼び込むそうだから、長期戦は見据えてないわね」
なるほど。短期決戦になるわけか。まあ、観客が大勢いるのであれば当然か。長々と戦っていても観客の負担がでかいだろうし。
「レーティングゲームはエンターテイメントでもあるから、ファンありきなのは仕方がない部分もあるわ」
部長は苦笑しながらそう締めくくる。
なんか、迷宮攻略生放送に似てるな。あれも迷宮の広報と同時にエンターテイメントとして成り立っているわけだし。
「冥界では既に魔王級とも称されるイッセー様を有するグレモリー眷属とサイラオーグ様のバアル眷属の戦いは話題ですわ。チケットも完売でプロにも負けない人気がありますもの。連日テレビで煽ってますわ」
レイヴェルがそう付け加えてくれる。
そのレベルの人気になってるのか……なんか、マサユキの気持ちがよくわかるな。少し気恥ずかしい感じがする。
しかし、そうなると迷宮の罠みたいに客受け良さそうな仕組みのあるフィールドになりそうだな。
俺、おっぱいドラゴンなわけだしそういうところも盛り上げないとなのかな? 子連れが多いって話は少し耳に挟んだし。
まあ、それは客側の事情。戦う俺達には関係ないことでもある。
今は対サイラオーグさんを目標にトレーニングするのが一番だな。レーティングゲームに関しては素人同然だし、ルール次第じゃ足元すくわれそうだ。
「ありがとな、レイヴェル。いいアドバイスだったぜ」
「こ、これくらい当然ですわ! ご厄介になってる先がこんな大舞台で負けたとなると、私も恥をかくのですから!」
俺が礼をすると、レイヴェルは顔を真っ赤にしてそう言う。
ちなみにレイヴェルはつい先日から兵藤家にやってきた。生粋のお嬢様育ちな故か、一から覚えることも多そうだ。飲み込みは早いし、すぐに馴染むとは思うけど。
ただ、小猫ちゃんにはよく突っ込まれて喧嘩してる様子。その風景はウルティマさんとカレラさんを思い出す。
気の置けない喧嘩友達ってところかな?
「さてと、今日はここまでにしましょうか」
俺が考え事をしていると、部長が手を叩きながらそう言った。
あれ? もう修行終わりか?
まだ、早い時間だし皆の疲労具合もそこまでだから全然行ける気がするけどな。
「明日は記者会見だから、今日は疲労を残さない程度にするわ」
「へ?」
記者……会見……? 何の話?
俺は目をパチクリさせながらリアスを見る。
間の抜けた顔をしている俺にリアスは微笑みながら言った。
「あら、言ってなかったかしら? 明日はゲーム間近ということで、私達とサイラオーグのところが合同で記者会見をすることになっているのよ。テレビ中継されるから、変な顔しちゃダメよ?」
「ええええええええええっ!?」
初めて聞いた情報に俺は度肝を抜かされた。
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翌日。俺達はグレモリー領にある高級ホテル、その上階に用意された控え室に待機していた。
だだっ広い部屋で、高そうな家具一式が揃い、テーブルの上にはフルーツ盛りやケーキ、お菓子やらが並んでいた。
このホテルの二階ホール会場にて、グレモリー、バアル、両眷属の合同記者会見が開かれることになってるらしい。
内容はいたってシンプル。ゲーム前の意気込みをというものらしい。
基本的にリアスとサイラオーグさんを中心にインタビューされるとのことらしいが、俺にもインタビューが来るらしいんだよね。
おっぱいドラゴンだし。
うむ……何を話せば良いんだ? インタビュー自体は研究員時代に何回かあったし、初めてではない。だが、その場合は研究についての質問が来ることが多かったから、予め何を話すか考えてその内容を喋るだけで良かった。
だが、今回の場合、俺にどんな質問が来るか見当もつかん。
そんな感じで悩んでる俺の膝上では小猫ちゃんがケーキをもぐもぐ食べてる。緊張とかは感じられない。落ち着いたものだな。グレモリー眷属としての期間も長いし、こういうのは何度も経験してるのかもしれないな。
アーシアとロスヴァイセさんは鏡の前でメイクの方と「これでいいのでしょうか?」「似合うかな、似合わないかな」って化粧に必死だ。
対照的にゼノヴィアは簡単な薄化粧で済ませていて、雑誌を読んでいた。
リアスと朱乃は準備万端。
俺達は駒王学園の制服で記者会見することになっているんだけど、二人は化粧を済ませたせいか、艶のある雰囲気を出していた。
綺麗だよな……二人とも……。
うん、見惚れていたら緊張も和らいできたな。記者会見は流石にしたことないが、まあ研究の発表とか個別のインタビューとかだと思えば楽なもんだ。
「ギャスパー君はいつもの女子の制服でいいのかい?」
「は、はい。今更男子の制服を着るのもなんなので……ていうか、出たくないですぅぅぅぅっ! 引きこもりの僕には記者会見なんて場違いすぎですぅぅぅぅぅ!」
そう叫びながら、ギャスパーはダンボールの中へと逃げ込もうとしている。まあ、頑張れ。
……それにしても、今日は小猫ちゃんが妙になついてきているな。
来るときも俺の制服の端を引っ張りながら歩いてたし、今も一向に膝の上から離れようとしないし。
怪訝に思う俺に気づいたのか、小猫ちゃんはほんのり頬を赤く染める。
「……今日は焼き鳥もミッテルトさんもいないから、イッセー先輩の膝の上にいたいんです」
「あらあら。小猫ちゃんったら、レイヴェルちゃんにイッセー君を取られると思っているんですわね。普段はミッテルトちゃん優先ですし……」
朱乃に言われて気恥ずかしそうにする小猫ちゃん。
「そ、そうなの……?」
「……イッセー先輩は優しすぎるから、困ることも多いんです」
な、なるほどね。
小猫ちゃんとレイヴェルに先輩の俺を取られると思ったと。
うん、嬉しいね! 先輩冥利に尽きるってもんだ!
「大丈夫だって。俺は小猫ちゃんのこと、ちゃんと可愛いとと思ってるからさ」
俺がそう言うと、小猫ちゃんは不満げな表情のまま尻尾をふりふり振っている。ちょっとは機嫌直してくれたかな。
「皆さん、そろそろお時間です」
時間が来たようだな。
俺たちは係の人の案内の元通路を歩む。すると、見知った顔を見つけた。
「あ、匙じゃん。何やってんだ?」
「お、兵藤……こっちも記者会見だよ。まあ、そちらほど注目はされてねえけどな」
「そっちも?」
「ああ。アガレスとゲームをすることになったからな」
「ほう。それは初めて聞いたな」
それは初耳だな。なんでも、俺たちと同じタイミングで匙たち生徒会もシークヴァイラさんとレーティングゲームをすることになったそうだ。
俺の言葉に匙は苦笑する。
「だから注目されてないって言ったろ。まあ、そっちはおっぱいドラゴンとリアス先輩で有名なグレモリー眷属と、若手ナンバーワンのサイラオーグ・バアルの一戦だもんな」
うぅ、すまんな匙。確かに客観的に見れば皆そっちに目が行きがちだもんな。
それでも知ってればお互いに激励とかもできただろうに……。
「おっと、そろそろ時間だな……じゃあ、俺たちはこれで」
匙は頭を下げてこの場を後にする。
それにしても、お互いに知略派と名高いソーナ会長にシークヴァイラさんか……これは玄人好みの一戦になりそうだな。
『お着きになられたようです。グレモリー眷属の皆さんの登場です!』
拍手とフラッシュの中、広いフロアの会見場に入る俺達。
凄い人数だな。会見席の上には悪魔文字でサイラオーグ・バアルVSリアス・グレモリーと書かれた幕がある。
バアル眷属は既に揃ってるみたい……。
……ん? なんか凄いのいない?
バアル眷属の中に一人だけ凄まじいエネルギーを宿してるのがいるんだけど? これってエネルギーだけならサイラオーグさんと同等────どころか下手したら上回ってないか?
もう少し詳しく見てみたかったが、部長達が席に着いたので俺もそのまま席に着く。
『両眷属の皆さんが揃ったところで記者会見を始めたいと思います』
司会進行役の言葉で記者会見はスタートした。
ゲームの概要、日取り、基本的なことが通達され、その後『王』であるリアスとサイラオーグさんが意気込みを語る。
会見は無事に進行していき、ついに両眷属の注目選手への質問に入る。
男性人気の高いグレモリー眷属の女性陣が質問に一言返し、女性人気の高い木場も難なく返していく。
そして、質問はついに俺にもやってきた。
『冥界の人気者おっぱいドラゴンこと兵藤一誠さんにお訊きします』
「はい」
どんな質問が来るんだろう?
初出場だし、ゲームへの意気込とか? それとも、おっぱいドラゴンとして子供達に一言とか?
思考加速で色々な質問のパターンを考えどんな質問にも答えられるように準備万端。そう思っていた俺に届いた質問は────。
『兵藤一誠さんは女性の胸をつつくとパワーアップするという情報があるのですが、それは真実なのでしょうか? もし、真実だとしたら、今回も胸をつつくのでしょうか?』
………………。
…………………………。
……………………………………………………?
よ、予想外すぎる質問に俺の頭は完全に真っ白になる。
だ、誰だそんな事言ったのは!? あれか!? ミッテルトのおっぱいつついて禁手会得したこと言ってんのか!?
もしそうなら、知ってる人は極わずか。それを外部に漏らすとすれば、考えられるのは一人しかいない……。
あの愉快犯教師め、確信犯だな!?
「え、えーとですね、ぶ、ぶちょ……じゃなくて……リア……」
だ、駄目だ。混乱してリアスに助けを求めようとしたけど、なんか部長呼びになってしまった。こういう場ではさすがに部長じゃなくて様つけとかで呼ばないと……と思っていたら、どうやら記者たちには面白記事の火種に聞こえたそうで。
『ぶちゅう!? 今、ぶちゅうと言おうとしてませんでしたか!? つまり、ぶちゅうと胸を吸うということでしょうか!? リアス姫の名を呼んだということは、リアス姫の胸をですか!?』
フラッシュがたかれ、記者たちもざわつく!
そんな訳あるかい!? あんたら絶対確信犯だろ!
おい、そこの黒縁眼鏡の青髪美人記者さんよ! なに口元押さえて震えながら記事書いてんだ! 何処で出版する気だその記事!
『リアス姫! これについてコメントをお願いします!』
「……し、知りません!」
リアスは盛大に赤面しながら恥ずかしそうに両手を覆う。
部長の隣では、朱乃が堪えきれずに吹き出している! 笑ってないで助けて! み、ミッテルト────は、完全に目を逸らしてる!
完全に気配遮断してるし、他人のフリされてるんですけど!?
『サイラオーグ選手! これに対してコメントを!』
笑いを堪えている青髪の記者がサイラオーグさんに問いかける!
待たんかいぃぃぃぃいい!! そっちに振るなぁぁあああ!!
バカなの!? あんた、バカなのか!? またギィさんに言いつけるぞアンタ!
サイラオーグさんは真面目な表情で答えた。
「うむ……。赤龍帝がリアスの胸を吸えば、恐ろしく強くなりそうだな」
『おおおおおおっ!』
それを聞いて記者陣は沸き立つ!
ちょ、サイラオーグさん!? なんで、あんたまでそんなことを言っちゃうんですかぁぁぁあああ!?
そんなこんなで記者会見は盛大に盛り上がり、笑いに満ちた状態で幕を閉じたのだった。
****************************
「もう、サイラオーグも変なこと言わないでちょうだい!」
赤面して涙まで浮かべるリアスはサイラオーグさんに怒っていた。よほど恥ずかしかったのだろう。
「本当にスイマセンでした! 俺のせいで滅茶苦茶恥をかかせちゃって……」
「いいではないか。結果的に話題性に富んだものになったようだしな。明日の朝刊が楽しみだ」
俺は憂鬱ですけどね。もしも『おっぱいドラゴン、次は吸う!』みたいな見出しとかあったら俺はドライグと一緒に泣く自信あるぞ。
「まあ、あれはイッセーのせいだけじゃないっすからね」
「……ええ、そうね。取り敢えず、明日はこの怨みを込めて思い切り吹き飛ばしてあげたいわね」
ミッテルトとリアスの目が笑ってない。先生の明日はどうなることやら……。
サイラオーグさんは踵を返し、手を降って俺達の元を去る。
「今夜は楽しかった。次会う時は決戦の刻だな。空で会おう」
次に会うのは決戦の日か。
俺たちは気を引き締め、サイラオーグさんを見送るのだった。