というわけで、記念に投稿いたします
イッセーside
明くる日の放課後。
俺は冥界の新聞を読みながらため息を吐いていた。
『おっぱいドラゴン、スイッチをぶちゅうううっと吸う!?』
何度見ても酷い見出しだ。なんか目眩がしてくる。あれ、可笑しいな。涙まで出てきたぞ?
……今考えるのは辞めよう。一先ず優先すべきはゲームに関するミーティングだ。
部室にいるのは俺と木場とギャスパーだ。
あとのメンバーはまだ来ていない。同じクラスの教会トリオは学園祭に使う布地を求めて新校舎に向かっている。
ミッテルトは先程リアスと一緒に職員室に向かっているところを見かけたので、二人してアザゼル先生を呼びに行ったのだろう。まあ、何が起きてるかはわからんけど……。
「なぁ、ギャスパー。クラスでの二人はどうよ?」
取り敢えず俺はギャスパーに話題を振ってみる。
「は、はい……。小猫ちゃんとレイヴェルさんはことある度に口喧嘩ばかりですぅ。いつもは静かな小猫ちゃんが、レイヴェルさんが相手だと容赦ないツッコミ入れてばかりですぅ……」
二人は相変わらずか。
「で、でも、人間界に不馴れなレイヴェルさんに文句を言いつつも小猫ちゃんはきちんと面倒を見てあげてますし、レイヴェルさんも小言を言いながらも小猫ちゃんの後をついて回ってますよ……?」
なるほど。なんやかんやで交流はできてるようだな。やっぱり、喧嘩するほど仲が良いと言える間柄になりつつあるんだろうな、あの二人。
「ま、二人とも意中の相手が分かってるからこそ、ぶつかっちまうんだろうな。同学年だから余計にな」
部屋に入ってきた先生が開口一番にそう言った。
「……先生、大丈夫ですか?」
「ん? ああ、まあ……なんとかな」
先生は頬にそれぞれ重たい一撃を食らったらしく両頬が赤く腫れていた。誰がやったかは聞くまでもないだろう。
ちなみにリアスとミッテルトは後から来るとのこと。どうやらロスヴァイセさんがテストの採点がなんかで少し時間がかかるとのことだ。
先生はコホンと咳払いをすると先程の続きを話す。
「ま、小猫もおまえの言うことを聞き続けてクラスでの面倒を見てくれるだろうし、レイヴェルも何だかんだで小猫を頼って人間界での生活に慣れていこうとするだろうさ」
まあ、その点は同感かな。小猫ちゃんとレイヴェル、相性は悪くなさそうだし。
「……ぼ、僕は小猫ちゃんのようにレイヴェルさんのお役にたてそうにないです。と、というか、プライベートでも戦闘でも皆さんのお役にたてそうにもなくて……」
ギャスパーが落ち込み気味に言った。
少しずつ学園での生活にも慣れてきてはいるが、今だに引き籠もり時代の感覚が抜けず人見知りだからな。そこら辺を気にしてるのかもしれない。
でも、コイツはコイツでレイヴェルのサポートをしてることは知ってるし、何よりコイツには根性がある。
「大丈夫だって。お前は強い。それは他でもない、俺が保証してやる。それでも不安なのか?」
「……ぼ、僕にはイッセー先輩のような力も、裕斗先輩のような剣技もないですし、せめてサポートだけでもお役に立てれば幸いなのですが……ぼ、僕、男子として恥ずかしい気持ちでいっぱいですぅぅぅっ!」
なるほど。数少ないグレモリー眷属の男子として、コイツはコイツなりに役立ちたい訳だ。
「よし、じゃあ俺が『グレモリー眷属男子訓戒』をお前に与えてやる!」
「く、訓戒ですか?」
「ああ。俺が今から言うことを胸に刻め! 『其の一、男は女を守るべし』! 『其の二、男はどんなときでも立ち上がること』! 『其の参、何が起きても決して諦めるな』! これを刻んで、グレモリー男子らしく戦えばいいさ」
「は、はい! ぼ、僕、これらを胸に刻んで頑張りますぅぅぅっ!」
俺の訓戒を最後まで聞いたギャスパーは気合を入れて返事をする。それを見た木場も小さく笑ってる。
「いいね、それ。僕も胸に刻もうかな」
「そうしとけそうしとけ」
そんなやり取りをしているとミッテルトやリアス、他のメンバー達も入室してきた。
「……やっぱりこんな記事……もう冥界を歩けないわ」
「……さりげなくうちの胸突いて禁手になったことも書いてあるっすね。先生、後でまたお仕置きしたほうがいいっすか?」
リアスは両手で顔を隠し、ミッテルトはジト目で先生を睨んでいる。
先生はコホンと一つ咳払いをし、全員集まった俺達を見渡すようにして言った。
「じゃあ、ミーティングを始めるぞ」
「いや、話を逸らさないでほしいんすけど?」
****************************
開口一番に頭上にたんこぶを増やした先生は険しい顔つきとなっている。
……腫れた頬のせいで威厳もクソもないが、まあ細かいことはいいだろう。
「どうしたんですか?」
頬やたんこぶが痛むのかと思ったが、どうもそういうわけではなさそうだ。暫くして先生は口を開く。
「……ゲームについて話す前に各勢力について話したいことがあってな。ちょいと神器に関して厄介なことになりそうなんだ」
「厄介なこと?」
木場が訊くと先生は頷く。
「英雄派の連中のせいで禁手使いが増えているのはおまえ達も認識しているな?」
「ええ。実際に戦いましたから」
修学旅行に行った俺達二年生は京都で英雄派と戦った。
正直能力に目覚めたて故の未熟さが目立ったけど、どいつもこいつもユニークスキル並に強い能力ばかりだった。
俺達の神器にも詳しかったし、先生が正攻法での研究とすると、英雄派はバグ技や禁止技の類に手を伸ばしてるって印象だな。
「あいつら、英雄派に属していない一般の神器所有者や悪魔に転生している神器所有者にその禁手に至る方法を伝え始めているらしいんだよ」
はい!? 一般の神器所有者や転生悪魔に禁手に至る方法を!?
「それってかなりマズいですよね?」
あの影使いを見ても分かるように、神器所有者は必ずしも良い人生を送れたわけじゃない。中にはその異能ゆえに迫害、差別された者も少なくない。
俺は向こうの世界で神器が目覚めたわけだし、そこまで困ったことはなかったけど、アーシアやギャスパーは神器のせいで辛い目にあっている。
「不遇な人生を送っていた者が一転して、世界の均衡を崩す力を得れば、そいつの価値観が変わる。悪魔に転生した所有者も理不尽な取引で眷属になったケースだってあるしな」
先生の言葉を聞いたリアスは悲しそうな表情を浮かべる。
「……全ての悪魔が良心的なわけではないものね。上級悪魔にも心無い者は少なからずいるわ。人間界の影響で多様な考えを持つ悪魔が増えてはいるけど、本来は合理的な思考を持つのが悪魔ですもの」
実際問題、リアス達若い世代の悪魔はともかく、上層部の老人連中やその思想に染まり切った者達の中にはそうやって無理やり眷属にさせられたケースもあるのだろう。
「理不尽な思いで暮らしている神器所有者もいるってことだ。それらが世界の均衡を崩す圧倒的能力……禁手を得たらどうなるか?」
その言葉に部室に緊張が走った。
先生は表情に影を落としながら言う。
「────使う、だろうな。人間なら他者への復讐、世俗への逆襲。転生悪魔なら己を虐げてきた主への報復を考えるだろう。そうなれば世界各地で暴動が起こる」
これから先、人間界や冥界のあちこちで暴動が起きる危険性があるということか。しかも、禁手状態で!
「人間のやれることの限界、超常の存在への挑戦、禁手の研究をしてきた英雄派の連中にとって、ある意味一つの成果だろう。してやられたってわけた。テロリストであるアイツラの結末がどうなるかは分からんが、大きな一発をもらったことは確かだ。今後に影響が出る。悔しいが、人間の恐ろしさを改めて思い知った」
人間の恐ろしさか……。確かにな。
こういう戦闘面の恐ろしさではなく、情勢面での恐ろしさは例外はあれど人間のほうが長けてる印象がある。
テスタロッサさんはよくこんな奴らを手玉に取れるもんだぜ。
……ヴェルダナーヴァの配下だったという聖書の神様はなんでこんなシステムを作ったんだ? ヴェルダナーヴァを奪った人間への嫌がらせ? それとも、純粋に人間を好んで幸せにするため?
もし、前者なら目論見大成功だし、後者ならあんまり叶ってませんよ。
各地で暴動が起きるくらいには繊細な代物だしさ。
……俺も何か一つボタンの掛け違いがあれば、破壊する側に回ってたのかな? 俺の両親は異世界関連のことを受け入れてくれるし、ドライグのことも家族として接するくらいには良い人たちだから、そういう面での心配はないけど、それでもテンペストに行かずにこの世界で神器が目覚めていたら? そのせいで両親が死んでしまったら?
考えたくはないが、十分ありえるIFストーリーだな。
「そんなこと、ありえないっすよ」
「そうよ。その時は私達が貴方をいい方面に導くんだから」
暗く沈んだ俺の思考を遮るようにミッテルトとリアスが俺の手を握る。
俺はそれが無性に嬉しくなり、思わず手を握り返した。
それを見た先生は咳払いをして話題を変える。
「と、悪い悪い。俺がここに来たのはサイラオーグ戦へのアドバイザーとしてだったな。ゲームも近いし、話を変えよう」
そうだな。元々今日のミーティングはそれがメインなわけだし。バアル戦は近いんだから。みんなで作戦を決めるためにも、先生からのアドバイスは是非とも頂戴したいものだ。
俺は部屋の雰囲気を変えるためにも挙手をして先生に質問する。
「サイラオーグさんも先生みたいにアドバイザーが付いているんですか?」
俺達グレモリー眷属にはシトリー戦前と変わらずアザゼル先生がアドバイザーについている。一勢力のトップがアドバイザーについている時点で若手にしては恵まれていると言っていいだろう。
先生はシトリーの方にもアドバイスをしてるようだし、結構色々教えてくれるだろう。
「ああ、向こうにもいるぜ。皇帝様が付いたそうだ」
「っ! ディハウザー・べリアル」
先生の一声に一番反応したのはリアスだった。
将来、ゲームで各タイトルをゲットしたいリアスにとっては目標となる存在。それが“
俺としてもこの情報は予想してた中でも特に厄介な部類と言える。
強くなることに貪欲なサイラオーグさんはベリアルのアドバイスはガンガン吸収するだろう。
仮に戦闘面でこっちが勝ってたとしても、ルール次第では足元すくわれるかもしれない。
ただでさえ、サイラオーグさんの眷属にはとんでもないのがいるんだからな。
「さて、お前達。サイラオーグの眷属のデータは覚えたな」
先生の言葉に皆が頷く。
データには現状のバアル眷属のEPも含まれている。正直ズルかもしれんが、こちらも勝つために妥協をするつもりは一切ないからな。
先生はバアル眷属の面々がパラメータ付きで表示された立体映像を展開し、言う。
「グラシャラボラス戦では能力を見せていない者もいたな。まあ、あの試合は途中でグラシャラボラスのガキ大将がサイラオーグにタイマン申し込んだし、実質サイラオーグの一人勝ちみたいなものだ。それの、サイラオーグはお前達と同じ、悪魔では珍しい修行するタイプ。グラシャラボラスの時よりもパワーアップしてるだろうな。イッセーの提供してくれるEPも戦闘技術までは分からないっていうしよ……」
そこなんだよな。バアル眷属は悪魔では珍しい努力を重ねるタイプ。トレーニングして力を上げてる以上、技術も高くなる。そうなると、相性次第では苦戦もあり得る。
「サイラオーグ達は禍の団相手にも戦っているって話だから危険な実戦も積んでいる。『若手を戦にかり出さない』というサーゼクス達の意向も虚しいか。おまえ達みたいに無茶な戦闘に連続で出くわす若手もいるしな」
先生が苦笑しながら言う。それは本当にそう思う。
ただでさえ、禍の団相手だけでも忙しいのに、他神話の悪神や神祖関連。せめて、どれか一つに絞ってほしいものだね。
モニターに映し出された記録映像を見て、ロスヴァイセさんが険しい顔つきで言う。
「……この“兵士”、記録映像のゲームには出てませんよね?」
ロスヴァイセさんの視線の先に映っているのはサイバーな作りの仮面を被った者。
名前も“
サイラオーグさんの眷属は女王1、戦車2、騎士2、僧侶2、そして兵士が1。
こちらの陣営と似た構成だ。
「記者会見でも記者が兵士について質問をサイラオーグ・バアルに向けていましたね」
と、木場が言う。確かに訊かれていたな。
サイラオーグさんも今回が初お披露目であまり触れないでほしいと言っていたが……。
「そいつは滅多なことではサイラオーグも使わない兵士だそうだ。情報もほとんど無くてな。仮面を被っていてどこの誰だか分かりもしない。今回、初めて開示された者だ。噂では兵士の駒を六つか七つを消費したとのことだ」
『六つ!? 七つ!?』
異口同音で驚愕の声を出す皆。
俺とミッテルトはその言葉に納得していた。そりゃそうだ。
何しろ、あの馬鹿でかいエネルギーを内包してるんだからな。
アザゼル先生は端末を操作し、立体映像に数値を表示させる。
EP54万4412
表示された数値にリアス達は顔を引き締める。
それを確認した先生が続ける。
「イッセーが提供してくれた数値は見ての通りだ。正直、記者会見の場にサイラオーグが彼奴を連れてきてくれて助かったぜ。数値の上ではサイラオーグと比べても遜色ない。データが不十分な以上、この兵士にはサイラオーグと同等かそれ以上に細心の注意が必要となるだろう。こいつはサイラオーグの隠し玉、虎の子ってところか?」
虎の子、か。
サイラオーグさんのお母さん、ミスラさんは獅子を司るウァプラ家の出だし、どちらかと言えば獅子の子かもな。
その後はゲームの戦術と相手への対策を話合い、皆で一つ一つ詰めていった。
眷属でないミッテルトとイリナは興味深そうに話を聞き、レイヴェルは一生懸命メモを取っていた。レイヴェルは勉強熱心だな。
「お前達はサイラオーグと合わせて、若手でも異例の布陣だ。実戦経験────それも、世界レベルでの強敵との戦闘経験がある。本物のゲームに参戦したとしても、トップテン入りは時間の問題だろうな。変えてやれ! レーティングゲームを! トップテンも“皇帝”も、お前達若手がぶっ倒して新しい流れを作ってやれ!」
そうだな。リアス達は素質ではベリアルにだって負けてない! それをこの試合で証明しよう!
先生の言葉に俺達は笑みを浮かべて気合いを入れた。
****************************
三人称side
「ふう……久しぶりに戻ってきたな……」
「ええ……何やら清々しい気分すら感じますね……」
「全く……今度ばかりはお前に付いていったこと、本気で後悔しかけたぜぃ……いや、マジで」
兵藤家のタンスから現れた三人────ヴァーリ、アーサー、美猴は何処か疲れ切ったような、解放されたような表情を浮かべながら部屋の中に降り立った。
「あ、兄様! ヴァーリ様も戻ってらっしゃったのですね」
それに気づいた魔法使い風の少女────ルフェイはトコトコとヴァーリ達に近づいた。
それを確認し、ヴァーリは獰猛な笑みを浮かべ虚空に手を伸ばした。
「これで少しは追いついたと思いたいね、兵藤一誠。君と再び見える時が楽しみだ……だが、色々とやることもある。まずは……」
ヴァーリは何かを呟く。それに頷く仲間達を確認し、そのまま姿を消した。異世界へ続くタンスの間にて、残されたのは静寂だけだった。