イッセーside
ゲーム当日。
「すげー。空に浮かぶ島だ」
俺達は空中都市に続くゴンドラから上空に浮かぶ島を眺めていた。こんな景色、基軸世界でも観たことないや。
もしかしたら何処かにこういう場所があるのかもしれないが、少なくとも俺は行ったことがない。
横ではミッテルト、アーシア、イリナ、ゼノヴィア、小猫ちゃん、ギャスパーと並んで窓から空を眺めていた。
空に浮かぶ島。そこにある“アグアレス”という都市が今回のゲームの舞台だという。
島を浮かばせている動力は旧魔王時代に作られたものらしいが、詳細は現魔王のアジュカさんくらいしかわからないらしい。
……でも、それってこの浮かぶ島が何かしらの技術によるものということだよな? う〜む、興味深い。一介の研究職として、暇があったら俺も調べてみたいものだな。再現できれば魔国の観光資源にしてもいいかもしれん。
そう思えるほど、空に浮かぶ島は幻想的に見えた。ファンタジーすぎる光景だ。
アガレス領にあるというこの空中都市はここら辺一帯の空の流通を取り仕切る要でもあり、観光地でもあるらしい。
年の入り方としては魔法陣でのジャンプと飛行船、ゴンドラの三パターンがあり、今回はゴンドラからの眺めを見たい俺達の希望でゴンドラとなった。
そんな訳で俺達はゴンドラから雄大な風景を眺めながら上を目指していた。
空は快晴! 絶好の試合日和だな!
「実はな、今回のゲーム会場設定は上の連中がもめたらしい」
ポツリと空を眺めながらアザゼル先生が言った。全員の視線が先生に集中する。
「もめた? 会場の決定にですか?」
俺が聞き返すと先生は頷く。
「現魔王派の上役はグレモリー領か魔王領での開催を望んだ。ところが、バアル派がバアル領での開催を訴えてな。なかなかの泥仕合になったそうだ」
……そんなことがあったのか。
なんか、随分せせこましい争いしてるんだな。
「現魔王は世襲じゃないからな。家柄、血筋重視の上級悪魔にとっちゃ、大王バアル家ってのは魔王以上に名のある重要なファクターなんだよ。なんせ元七十二柱の一位だからな」
「……旧魔王派に荷担してた悪魔達も過去にそんなこと言ってもめたんですよね? なんで同じ事またしてるんだか……」
俺がそう訊くと先生は嘆息する。
「あれはあれ、これはこれってな。体裁、趣、いまだに貴族社会が幅を利かせている悪魔業界じゃ色々あるわな」
「……それで結局アガレス領」
小猫ちゃんがぼそりと呟く。それに先生が頷いた。
「大公アガレスが魔王と大王の間を取り持ったって話だ。中間管理職、魔王の代行、大公アガレス。時代は変われど毎度苦労する家だぜ」
中間管理職ですか……。俺の頭にはいつもいつも酷使される白の副官たる大公様の姿が浮かぶ。
うん、大公が苦労人ってのはどこの世界も変わらないのかもしれないね。
シークヴァイラさんも将来苦労しそうだな……。
そんな事を考えていると、木場が先生に尋ねる。
「僕たちのゲームは魔王ルシファーと大王バアルの代理戦争ということになるのでしょうか?」
「ま、そういう風に見る連中もいる。おっぱいドラゴンVS若手最強サイラオーグの好カードはあくまで一般人向けの煽り文句。裏では政治家があーだこーだ言ってるんだろうな。もっとも、バアル派の連中は最後までイッセーの参戦には反対してたみたいだが……」
あ、俺の参戦反対されてたのか。まあ、それは当然か。上層部の人達、俺を危険視してるみたいだし、それでサイラオーグさんが負けたら政治的な利用価値を失う。
サイラオーグさんの後ろには結構な数の政治家がいると聞く。サイラオーグさんを体裁よく利用しようという腹づもりなのだろう。
サイラオーグさん自身、魔王になるという目標のためのパイプ作りでそれを覚悟して関係持ってるんだろうけど……。
とはいえ、納得できない点も勿論ある。
家の特色を継げなかったサイラオーグさんを一度は捨てておいて、戻ってきたら甘い汁だけ吸うとかどうなんだ? とも思う。
でも、難しいけど政治ってそういうものなんだよな。つくづく俺に政は性に合わないと再認識させられる。
そんな俺の葛藤を認識したのか、アザゼル先生は苦笑しながら言う。
「ま、苦労した分やっと注目されたと思えばそれでいいだろう。どんな理由があろうと、名のある者に認められることは一つの成果だからな」
確かにアザゼル先生の言うとおりだな。そもそも、サイラオーグさんが納得済みだというのなら、この件で俺にとやかく言う資格はない。そもそも、サイラオーグさんは政治家の意見程度でどうこうされるものでもないだろうし……。
「……今更かもだけど、テロリスト────英雄派に対する対策はどのようになっているのですか?」
ふと気になったので、質問してみる。流石に対策なしなんてことはないだろうけど……。それに対して、アザゼル先生は複雑そうに回答する。
「まあ、確かに。会場には業界の上役が多数そろうわけだし、狙うならここだろうな。だが、その点に関しては杞憂に終わるかもしれん」
「どうしてそう言い切れますの?」
朱乃さんが聞くと、予想外の答えが返ってきた。
「実は、ヴァーリの奴いつの間にか帰ってきてたらしくてな……個人的な連絡が届いたんだ」
『────っ!?』
俺を含めて驚く一同!
ヴァーリの奴、いつの間に帰ってたのか!?
「あの野郎、短くこう伝えてきやがった。『兵藤一誠の邪魔はさせない』だとさ。愛されてんな、イッセー」
「野郎に愛されても嬉しくないんですけどね……」
正直気持ち悪い。それにしても、彼奴帰ってきたってことはヴェルザードさんの地獄の拷問もとい訓練を乗り越えたってことだよな?
そう考えると……うん、相当レベルアップしてそうだな。どんな進化をしているのか、少し楽しみですらある。
「どちらにしても、彼奴がそう言ってきた以上、曹操側にも牽制してるのは確かだろう。体裁の問題もあるし、あちらもヴァーリチームと相対してまで会場潰しなんてしやしないだろうしな」
体裁……ヴァーリチームと英雄派は一応派閥は違えど所属は同じ“禍の団”だ。それを考えると、仲間割れで戦力を失うことにもなるし、士気にも関わる。それを踏まえると、強者勢揃いの中で暴れさせるという成功率の低い策は確かにしそうもないか。目を失った曹操も流石に短期間では回復できないだろうし……。
そんなこんな思っているうちに、ゴンドラは空中都市にたどり着くのだった。
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ゴンドラから降りた俺達を入り待ちのファンと大量のマスコミが待ち構えていた。出て早々フラッシュと歓声に包まれ、多数のスタッフとボディガードの誘導のもと、用意されたリムジンに乗り込む。
「お待ちしておりましたわ」
「お、レイヴェルじゃん。色々と準備してくれてありがとな」
リムジンの中で待機していたのは先にアグレアスに来ていたレイヴェルだ。
リムジンの用意にボディガード……これらは全てレイヴェルが用意してくれたっていうんだから、驚きだ。本当によくできた子だよな。
リムジンの車窓から後ろを見ると────マスコミの車らしいものが追ってきている。
何ていうか……本当に人気なんだな、俺たち。こんなのテレビのワンシーンでしか見たことねえよ……。
「おまえ達もそろそろ個別にマネージャーをつけた方がいいぞ。特にリアスとイッセーは必ずな。今回の試合の結果に関わらず、お前達の認知度は大きく上がる。日が経てばそれも落ち着くだろうが、しばらくの間はこんな感じになるだろう」
「マネージャー……ですか……」
なんか、本格的に俳優とかタレントみたいになってきたな。いや、おっぱいドラゴンやってるんだし、それも正しいのか……。
「あー、そうだな。レイヴェル。お前がイッセーのマネージャーやったらどうだ? こいつに付けば勉強になるぞ」
「わ、私がですか……?」
レイヴェルは驚きながら自分を指差す。
レイヴェルがマネージャーか……悪くないな。ここまでの手際の良さを見るに、滅茶苦茶合ってる気がするな!
何より、レイヴェルみたいな可愛い子がマネージャーになってくれると思うだけで滅茶苦茶嬉しいし!
「…………」
「ん? どうしたの、小猫ちゃん?」
「……なんでもないです」
そう言いながら、小猫ちゃんはプイッとそっぽを向いてしまった。どうやら、怒らせてしまったようだな。
でも、俺は候補だけど立場上は同じグレモリー眷属である小猫ちゃんにマネージャー業を任せるわけにもいかないしな……。まあ、そこは要相談か。何もここで決めないとってわけでもないし。
そんな風に考えているうちに、リムジンは都市部を走り、会場となる巨大ドームを目前にした。
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この空中都市には様々な娯楽施設がある。
その中でも一際目立つ巨大な施設こそが、今回のゲーム会場“アグレアス・ドーム”だ。
俺達はそのドーム会場の横にある高層高級ホテルに移動していた。
豪華絢爛な造りで広いロビーに天井にはデカいシャンデリアがある。
まあ、流石にグレモリーのお城には及ばないけど、十分立派な作りになっているな。
ボーイさんに連れられて、俺達の専用ルームに案内される。試合は夜なのでまだ時間はある。開始時間まではその部屋で待機となる。
通路を進んでいるときだった。
通路の向こう側から不穏な雰囲気と肌にピリピリと刺すような冷たいオーラを放ちながら歩いてくる集団がいた。
顔が見えないくらいにフードを深く被り、足元が見えないほど長いローブを着こんだ不気味な雰囲気の集団。
その集団の中央には司祭の服らしきものを着込んだ────骸骨がいた。
……なんだありゃあ?
司祭の服を身に包み、頭部には司祭が被る帽子。確か、ミトラだっけ? 手には杖を携えている。
風貌だけならアダルマンさんそっくりだが……明らかに違う。アダルマンさんのような冷たい中から感じる暖かみのある雰囲気は全くしないし、何よりもその眼光が別物だ。
その冷たい雰囲気に嫌なものを感じた俺は警戒を強める。
神祖関連や禍の団じゃなさそうだが……何者だ、コイツ?
《これはこれは紅髪のグレモリーではないか。そして、堕天使の総督》
骸骨司祭の声を聞き、先生は皮肉そうに笑んだ。
「これは冥界下層────地獄の底こと冥府に住まう、死を司る神ハーデス殿。悪魔と堕天使を何より嫌うあなたがここまで上がってくるとは……」
……冥府の神……ハーデス。そうかこの人が。
そう言われれば納得だ。オリュンポス十二神の一柱にして、冥界を支配する王。“
《ファファファ……カラスめが、言うてくれるわ。なに、最近上で何かとうるさいのでな。視察に来たまでのこと》
「骸骨ジジイ、ギリシャ側の中でもあんただけが勢力間の協力に否定的なようだが?」
《だとしたらどうする? そこの赤龍帝を使ってこの年寄りも屠るか? ロキのように》
ハーデスがそう言うとその後ろに控えているローブの集団が殺意を放ってくる。
……おいおい、ここでやる気かよ? 流石に試合前なんだから勘弁してほしいぜ。
アザゼル先生は頭を振って嘆息した。
「別に。オーディンのエロジジイみたいに寛容になれって話だ。黒い噂が絶えないんだよ、あんたの周囲は」
《ファファファ……偽物のカラスと紛い物のコウモリがピーチクと鳴いておるとな、私も防音対策をしたくもなる》
うわー、凄い敵視した蔑みだ。
カラスが堕天使でコウモリが悪魔ってか。偽物に紛い物っていうのは、ヴェルダナーヴァではなく聖書の神由来だからってことだよな。
ハーデスが視線を俺に移し、その眼孔が光る。
《赤い龍。白い龍と共に地獄の底で暴れまわっていた頃が懐かしい限りだ》
……おい。言われてるぜ、ドライグさん。アンタ、この骸骨さんに何しでかしたんだ?
『ちょっとな』
ちょっと……か。こういう時のドライグは信用できないからな。まあ、現代にまで続く恨みつらみじゃないことを祈ろう。
《ファファファ……、なるほど。これが今の赤龍帝か。ギィ殿に認められた存在というのは本当のようだな》
その言葉に周囲の死神とやらに動揺が広がる。俺も少しびっくりした。ギィ殿だって?
「……あんた、ギィさんと知り合いなのか?」
《無論。ギィ殿はかの創造神様唯一の友人であった存在故にな……彼の者の強さには羨望を抱いたものよ……そして、その存在に認められた人間がいると聞いた時は大層驚いたが……なるほど、これは中々》
ハーデスは品定めでもするかのようにジロジロとこちらを見ている。暫くすると、満足したのか俺から視線を外す。
《今日は楽しみとさせてもらおうか。今宵は貴様達の魂を連れにきたわけではないのでな》
それだけ言い残すとハーデス達は俺達のもとを通りすぎて行く。
皆は息を吐いて、張り詰めたものを解いていた。
「北欧時代に先輩のヴァルキリーからハーデス様の話は聞いていましたが……魂を掴まれているような感覚は生きた心地がしませんね」
と、ロスヴァイセさんがつぶやく。確かにそんな感覚はしたな。何ていうか、魂まで丸裸にされる感じ……多分だけど、解析系のスキルでも持ってるのかもな。取り敢えず
なんていうか、やりにくそうな相手だぜ。
「冥府の王ってのは伊達じゃなさそうですね。プレッシャーが半端じゃなかった……」
俺がそう言うと先生も堅苦しかったのか、首をコキコキと鳴らせていた。
「そりゃ、あの骸骨ジジイは各勢力の主要陣の中でもトップクラスの実力者だからな。俺よりも遥かに格上の化け物だ。絶対に敵対するなよ? ハーデスもそうだが、奴の周囲にいる死神共も不気味だ」
そうだな。付き人が死神って時点で怖すぎるし、文字通り触らぬ神に祟りなしだ。
戦わなければならない状況に置かれた時は別だが、そうじゃないなら関わらないに越したことはなさそうだ。
「……あれって悪神なんですか?」
俺が訊くと先生は首を横に振る。
「いや、単に悪魔と堕天使……というよりは他の神話に属するものが嫌いなんだろうな。ま、俺も嫌いだけど冥府には必要な存在だ」
あら、ハッキリと嫌いって言っちゃったよ。
俺は嫌いって言うよりは苦手って言うべきなんだろうな。
俺を観察する視線といい、悪魔に対する敵対意識と言い、関わり合いたくない手合いだ。
「デハハハハ! 来たぞ、アザゼルゥッ!!」
「こちらも来たぞ、アザゼルめが! ガハハハハ!」
と、先程までの重たい空気をぶち壊すかのように豪快な笑い声が通路に響き渡った。
見ると、体格のいいひげ面なオッサン二人が笑い声とともに先生のもとに駆け寄ってきた。
二人は先生にまとわりつき、先生は半目で嘆息する。
「……来たな、ゼウスのオヤジにポセイドンのオヤジ……。相変わらず暑苦しいこった。ハーデスもこの二人くらい分かりやすけりゃいいのによ」
そのビッグネームに俺は仰天する! マジか!
この人がオリュンポスの主神にして全知全能とまで称される“天空神”のゼウス! そして、海と地震を操り、“
どちらも超有名な神様だ! なるほど、確かにハーデスに勝るとも劣らない力を持ってやがる! 確か、兄弟なんだっけ?
俺が驚いてる間にも二人は先生を弄り回していた。
「嫁を取らんのか、アザ坊! いつまでも独り身では寂しかろう!」
「ワシが紹介してやろうか! 海の女はいいのがたくさんだぁぁぁぁっ!」
「あー、余計な心配しなくていいって……」
先生が押されてる! ゼウスもポセイドンも随分フレンドリーな神様なんだな! 豪快すぎるぜ!
「そういえばアザ坊! 今日はこの会場にあの御方が来ておるというのは本当か!」
「あ、そうだった! あの御方を一目見たいのだが、何処にいるんだ!」
「ん? ああ、あの人ならVIPの個室の一室で試合を楽しみに待ってるよ。今ならまだ試合前だし会えると思うぜ」
「おお、誠か!」
あの御方? 誰がここに来てるのか? たぶん、基軸世界の人だよな……まあ、俺はそこまで気にしなくてもいいか。
「来たぞ、おまえ達」
今度は聞き覚えのある声。
振り返ればそこにはチビドラゴンと化したタンニーンのおっさんが宙に浮いていた。
「おっさんも来てたんだな」
「うむ。若手最強渡渉される存在とリアス達の戦い! 気にならんわけがないからな!」
スゲー楽しそうな笑みを浮かべてるな。
こういうところで知り合いに会うと、テンション上がるな!
「あっ! オーディン様!」
突如、ロスヴァイセさんが素っ頓狂な声をあげる。
ロスヴァイセさんが指を向ける方向にはオーディンの爺さんの姿。
オーディンの爺さんはロスヴァイセさんの姿を確認すると「これはマズい!」と叫んでその場から走り去っていく!
それを見てロスヴァイセさんが吼えた!
「ここで会ったが百年目! 待てぇぇぇぇっ、このクソジジイィィィィイッ!! その隣の新しいヴァルキリーはなんなのよぉぉおおおおお!!!!」
瞬時にヴァルキリーの鎧姿と化したロスヴァイセさんは、逃げ去るオーディンの爺さんを追いかけていく!!
ロスヴァイセさん、そこまで怒っていたのね。まぁ、見知らぬ土地に一人置いていかれたわけだし、当然と言えば当然か……。
それを見たリアスが額に手を当てて嘆息する。
「……イッセー、祐斗、ゼノヴィア、お願い。ロスヴァイセを止めてきて」
そう言うリアスは本当に疲れてる様子だった。
試合前だと言うのに、ホテルは想像以上のにぎわいを見せていた。