イッセーside
部長がヤバい……もうリタイヤ寸前だ!
サイラオーグさんと戦いながら、俺は倒れ伏す部長とレグルスに目を向ける。
部長も大分善戦していた……だが、レグルス相手はまだ荷が重かったか!
とっととサイラオーグさんを倒してゲームを終わらせたほうがいいかもな。そう判断した矢先、レグルスが口を開いた。
『そこの僧侶。とっととリアス・グレモリーを回復させろ。フェニックスの涙を失った今、どのみちこの試合中の復帰は不可能なのだからな』
……意外だな。トドメも刺さずにそんなことをするとは。
実際、回復したところでリアスがレグルスに勝つ確率は低い。アーシアと組んで消耗戦に持ち込んでもレグルスが勝利する。だが、サイラオーグさんが劣勢なのは見てわかるとおりだろう。このままリアスをリタイアさせればチームの勝利なのだから、普通ならそうする。
だが、レグルスは目先の勝利よりもサイラオーグさんの想いを優先したんだ。
『サイラオーグ様! 私を身に纏ってください! あの禁手ならばあなたは!』
レグルスの言葉に俺は眉をひそめる。纏う……? それに今、禁手って言ったのか?
レグルスの言葉にサイラオーグさんの怒号が飛んだ。
「黙れッ! あの力は冥界の危機に関してのみに使うと決めたものだ! この男の前であれを使って何になる!? 俺はこの体のみでこの男と戦うのだ!!」
……なるほど。この口ぶり……サイラオーグさんはレグルスの禁手を使うことができるってことか。
そして、それを今までずっと隠していたと……それを知った俺の腹の中から────
ずいぶんと舐めた真似をしてくれるじゃないか……。
「……サイラオーグさん。貴方、舐めてるんですか?」
「……なに?」
「今までの戦い。どいつもこいつも全身全霊を持って勝利のために戦ってきた。木場達は勿論、貴方の眷属もだ」
リアスの勝利のためを思うのであれば、有無を言わさずにこの人を倒すのが正解なのかもしれない。それでも言わずにはいられない!
俺は倒れ伏した仲間やサイラオーグさんのために戦った眷属達を思い出す。
どいつもこいつも死力を尽くしてお互いの主の勝利のために戦っていた。だというのに、肝心のこの人が力を出し切らずにどうするんだよ?
「誰もが勝利のために死ぬ気で戦ったって言うのに、貴方が本気を出さずにどうするんだよ……っ!」
「っ!」
サイラオーグさんが目を見開く。俺はそのまま二人に目を向け、言う。
「────獅子の力を使ってください。そしたら俺は……それに真正面から答えてやりますよ!」
暫しの静寂。一拍開けて、サイラオーグさんが笑みを浮かべる。
「……すまなかった。心の何処かでゲームなのだと……二度目があるのだと……そんな甘い考えを思い描いていたようだ。そんな考えを持つようでは、俺に着いてきてくれた眷属達にも顔向けできんな。なんと愚かだったのだろうか……」
ドンッ!
サイラオーグさんは自分自身の顔面を打つ。血を流しながらもスッキリとした表情となり、それと同時に気迫が漲っていく。
レグルスを傍らに力を解放し、カッと目を開き強く言う。
「俺は今日、この場を死線と断定するっ! 俺の夢に命懸けで殉じた我が眷属のためにもっ! 俺は貴様に勝つっ! 行くぞっ! レグルスゥゥゥゥゥッ!!」
『ハッ!!』
レグルスの全身が黄金に輝き、光の奔流と化しサイラオーグに向かう!
黄金の光を全身に纏ったサイラオーグは高らかに叫んだ。
「我が獅子よ! ネメアの王よ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せぇぇぇぇっ!」
フィールド全体が震えだす。
異空間であるフィールドが耐えられなくなってきたようだ。
周囲の風景を吹き飛ばしながら、サイラオーグさんとレグルスが弾けた!
『「禁手化ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」』
眩い閃光が辺り一面に広がっていく。閃光が止み、現れたのは金色に輝く獅子の全身鎧だ。
頭部の兜にはライオンのたてがみと思わせる金毛がなびく。
その姿は某女神の戦士の最強の十二人を彷彿とさせる。胸にある獅子の顔は闘志をみなぎらせている。アレにレグルスの意志が込められているのだろう。
「“獅子王の戦斧”の禁手化──“
ドンッ! という衝撃とともにサイラオーグさんが俺に向かってくる! 音を置き去りにしたその速度に俺の対応が一瞬遅れる!
ドゴォォォォンッ!!
ミシミシという音とともに俺の口に血の味が広がる! 重たい一撃だ! 生身のままだとマジで堪える!
練り上げられたその一撃に踏ん張りきれず、俺は後方に吹き飛んでいく!
「────ハハッ! これが貴方の本気ですか……最高ですねっ!」
俺は中空で体勢を立て直し俺は笑みを浮かべる。
本当に鋭い一撃だった! 多分、並の魔王種なら今ので消し飛んでる! 聖人でも危ないかもしれない!
今のサイラオーグさんの存在値は百万を超えている。部長と同年代でありながら、この人は“
「流石ですよ、サイラオーグさん。だったらこっちも全力で応えますっ! 禁手っ!」
俺は赤龍帝の籠手を輝かせ、鎧を纏う。そして、お返しとばかりにサイラオーグさんに拳をぶつけた!
ズンッ!!
「ぬぅっ!!」
赤龍帝の鎧を纏った俺の拳はサイラオーグさんの胸に叩き込まれる! 鎧はひび割れ、サイラオーグさんも口から血を出しながら吹き飛んでいく。
それでも、サイラオーグさんの口にあるのは笑み。サイラオーグさんは踏みとどまり、再度俺に殴りかかる!
ドンッ!
俺の顔に正確に叩き込まれた拳は鎧を纏った俺にすら衝撃を響かせる!
「いいですね……そうこなくちゃ!」
俺は再び拳を叩き込み、サイラオーグさんも負けじと拳を放つ! 何度も何度も何度もっ!
ドドドドドドドドドドッ!!
『な、殴り合いです! 壮絶な殴り合いがフィールド中央で行われております! 殴って殴られてて……ただそれだけが頑丈なバトルフィールドを壊さんばかりの勢いで続けられています! 観客席は総立ちッ! ただの打撃合戦に老若男女が立ち尽くすっ! よくやるぜ、二人ともォォォッ!』
「「「「「「サイラオーグっ! サイラオーグっ!」」」」」」
「「「「「「おっぱいドラゴンっ! おっぱいドラゴンっ!」」」」」」
双方に向けられた声援が響く中、俺は殴る! サイラオーグさんの顔を、腹を、胸をひたすらに殴り続ける!
サイラオーグさんも負けじと拳を放つ! だが、その力は徐々に弱まってきている。
それでも、サイラオーグさんは諦めずに前を向き、俺を倒さんと拳を叩き込んでくる!
すげえぜ、サイラオーグさん! 俺の拳は魔王種ですら悶絶する一撃! 何度も喰らって、とっくに限界を超えているはずなのに、気迫が全く衰えねえ!
「俺は負けん! 夢のためにも! 俺についてきてくれた者達のためにもっ!」
ドォォォンッ!
鋭い一撃が俺の鳩尾に命中する!
重い……以前やりあったヴァーリとは違う。自らの存在値を十全に発揮した一撃だ。────だが。
「悪いけど、俺も負けるわけにはいかねえ。木場達に報いるためにも……部長に勝利を捧げるためにもっ!」
ズゥゥゥンッ!
「がはっ!?」
ヴェルドラ流闘殺法“魔竜崩拳”。サイラオーグさんの拳と同時に突き刺さるオーラを込めた俺の一撃は獅子の鎧を砕き、生身にも拳を食い込ませた。
それを食らったサイラオーグさんはとうとう膝を地につけた。
俺の全力をこめた一撃……レグルスがとっさにオーラを集中させ、防御したとはいえ少なくないダメージを刻んだのだろう。
サイラオーグさんは血を吐きながら立ち上がろうとその身を奮い立たせている。
「これでとどめだっ!」
ドゴォォォォンッ!!
俺の拳がサイラオーグさんの顔面に鋭く突き刺さる! 兜を割り、生身の顔にまで届き、その勢いではるか後方にまで吹き飛んでいく!
サイラオーグさんはその一撃でとうとう倒れ伏した。動く気配はない────ここまでだ。
会場も湧き上がり、勝利を確信する中、俺の視界に……一人の女性がゆらゆらと出現する。
あれは……思念体か? 肉体を失った精神生命体の様に見える。
ちらりとリアスを見るが、リアスは気づいてない様子。解析系のスキルを持ってないから無理もないが、誰の思念体がこんな所に……?
『立ちなさい! サイラオーグ!』
女性は静かに、確かな口調で言葉を放つ。
すると、ピクリとサイラオーグさんの指が動いた。
そうか……アレ、
いや、考えてみれば不思議なことではない。こっちの世界の悪魔は精神生命体である“
実はあの病が呪いと判明した時、病院で俺がこっそりと“
『あなたは誰よりも強くなると、私と約束したでしょう?』
サイラオーグさんのお母さんの言葉に反応し、サイラオーグさんの身体が動く。
『夢をかなえなさい! 貴方が望む世界を、冥界の未来のために、自分が味わったものを後世に残さないために、そのために貴方は拳を握りしめたのでしょう!』
ミスラさんの表情は厳しく、誇り高く、気丈なもの。応援ではなく、息子を叱咤するそれだ。
この言葉がサイラオーグさんに届いているかは定かではない。だが……。
『たとえ生まれがどうであろうと結果的に素晴らしい力を持っていれば、誰もが相応の位置につける世界。それがあなたの望む世界のはずです! これから生まれてくるであろう冥界の子供達が悲しい思いを味わわないで済む世界! それを作るのでしょう!』
ミスラさんは徐々に消えていく中、一瞬だけ慈愛を込めた微笑みを浮かべる。
『いきなさい。私の愛しいサイラオーグ。あなたは私の自慢の息子です』
その瞬間だった。
大地を大きく踏みしめて、血を撒き散らしながら、眼前の男は完全に立ち上がった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」
獅子が咆哮をあげた。
それは雄々しく、透き通るほど見事な獅子王の咆哮だ。
『確認しました。個体名サイラオーグ・バアルがユニークスキル“
“世界の言葉”!
会場が大きく震えている。この人はまだ終わっていない! その波動は今までのものとは全くの別物だ!
「兵藤一誠! 俺は負けん! 俺には叶えなければならないものがあるのだ!」
サイラオーグさんは向かってくる! ボロボロの状態で、その拳を繰り出してくる!
「俺だって負けられない! 皆のためにも……リアスのためにもっ!」
ドオォォォォォンッ!
俺とサイラオーグさんの拳が同時にお互いの顔面に鋭く食い込む!
威力が今までとは段違い! 肉体強化のユニークスキルか!
恐らく山すらも一撃で砕くほどの破壊力を秘めている。少なくとも、進化前のミッテルトよりも確実に強い!
「本当に末恐ろしいぜ……これでまだ発展途上だってんだからな……だが!」
俺はサイラオーグさんの足にローキックを放ち、その勢いのまま思い切り拳を放つ!
先程鳩尾に叩き込んだものと同じく、カグチやメロウ、ダイスケに放つ拳と同レベルの破壊力を込めた本気の一撃!
いくら身体強化のユニークスキルを持ってるとはいえ、ダメージは芯まで響く!
現にその一撃でサイラオーグさんは激しく吐血している。
「ぐっ……負げるがぁぁぁぁぁっ!」
ただ、それすらも無視して俺に攻撃を繰り出してくる。
どうやらこの期に及んで俺はまだサイラオーグさんを見くびっていたらしい。いかにサイラオーグさんが強くても、俺の負けはありえないと考えていた。
だが、その考えは取り払おう。サイラオーグさんは十分、俺を倒しうる存在になっていると!
「わかりましたよ、サイラオーグさん。貴方に敬意を込めて……全身全霊の一撃を見せましょう!」
「……ああ! 来い! 俺は逃げん! その上で貴様に打ち勝ってみせよう!」
サイラオーグさんの言葉に笑みを浮かべながら俺は拳に魔力を込め、圧縮し、解放する!
それは俺が最も信頼するヴェルドラ流闘殺法の奥義! 師匠と考えた最高の必殺技!
「ヴェルドラ流闘殺法“
「うおおおおおおおっっっ!!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
先程放ったものとは違う。手加減抜きの正真正銘全力の覇竜絶影拳。
並の魔王種なら原型すら残らない程の破壊力を持つ正拳突き。それを食らっても尚、サイラオーグさんは確かに両の足で立ち拳を構えている。
「アレを食らってまだ……っ?」
リアスが驚いたようにサイラオーグさんを見る。だが、もう終わりだ。
『……もう終わりだ。サイラオーグ様は……既に意識を失っている』
レグルスの言う通り、サイラオーグさんは限界を迎え意識を落としている。それでもなお、この人は俺と戦おうとしているのだ。
────俺には肉体これしかなかった。だから負ければ全てを失う。積み上げてきたものが崩れるだろう。『消滅』の魔力を受け継げなかった俺にとって、勝ち続けることのみが唯一の道だった。だから、俺は拳で勝つしかない
────格好は悪いが、これが俺の戦い方なのだ。俺とお前の差は理解している。だが、それは負ける理由にはならん。必ずや勝利をつかんでみせる!
やれやれ……どこがカッコ悪いんだか。今のアンタは最高にカッケー人だ。誰に文句は言わせない!
「本当に楽しい戦いでした。ありがとうございます! サイラオーグさん!」
俺は倒れ伏そうとするサイラオーグさんを抱き留め、言う。それと同時にサイラオーグさんが光りに包まれていく。光に照らされ、見えたサイラオーグさんの表情は実に満ち足りたものだった。
『サイラオーグ・バアル選手、投了。リタイヤです。リアス・グレモリーチームの勝利です!!』
最後のアナウンスが流れ、会場が熱気に包まれた。
こうして、バアルとグレモリーの若手対は俺達グレモリーの勝利で終わったのだった。
サイラオーグ・バアル
EP 59万4400(獅子王の剛皮+100万)
種族 悪魔
加護 バアルの庇護
称号 バアル眷属“王”
ユニークスキル
思考加速、獅子奮迅、王ノ鼓舞
バアル眷属の王。皇帝ディハウザーとの修練により生身の状態でも魔王級の力を得ている。禁手である“獅子王の剛皮”を纏うことで数値の上ではディハウザーやセラフォルーを上回るほどの力を発揮する。
ユニークスキル魔獣之主は強化+支援系のスキル。
“獅子奮迅”はダメージを受けるたびにそれを糧に自らの身体能力をさらに高める力を持ち、“王ノ鼓舞”は自らに付き従う配下の力を底上げする