イッセーside
「ふう、少し緊張してきたわね」
『ティアマットの緊張する姿なんぞ初めて見たな』
「う、うるさいわねドライグ!」
「ははは」
どうやら本当に緊張しているらしく、扉の前で何度も深呼吸をするティアマットさん。
凛とした姿からは確かにあまりイメージできない姿だな。
しばらくして意を決したようにティアマットさんは扉に手をかける。
ギィィと音を立てながら開くスペースを恐る恐るといった風にのぞき込むティアマットさん。
そして扉の向こうに座っている存在を確認するや否や彼女は感極まった様子で室内に入り、ひざまずいた。
「あら、久しぶりね。ティアマットちゃん」
「……お久しぶりです。ヴェルグリンド様」
**********
なぜこんな状況になっているのか説明しなくてはならないだろう。
あれは今から一週間ほど前、ライザーとの戦いでの祝勝会の時のことだ。
ティアマットさんもこの祝勝会に参加し、大いにねぎらってもらったのだ。
そんな折、運よく俺とティアマットさんが一対一で話す機会が生まれたわけだ。
「なかなかすさまじい威力の技だったわね。本来ならばアレにドライグの力と究極の権能が合わさるのでしょう?まともに喰らえば私でさえあらがうこともできないでしょうね……」
「まああれはヴェルドラ師匠との共同開発で編み出したかなりの自信作ですから」
「そう、ヴェルドラ様と……。ヴェルグリンド様から聞いているけどかなりやんちゃなお方なんでしょ?」
「まあそうですね。ただ、ヴェルグリンドさんとヴェルザードさんには昔トラウマを植え付けられたとかでお姉さん方の前ではおとなしいんですよ。この前も……」
「ん?この前?」
「ん?」
あれ?今何か変なこと言ったか?と思っているとティアマットさんは驚いたように俺に問いただしてきた。
「ちょっと待ってイッセー君、あなた、もしかしてこちらの世界と基軸世界を行ったり来たりしてるの!?」
「え、あ、はい。次元渡航の“
それを聞いたティアマットさんの表情はかなり面白かった。
信じられないという気持ちが思い切り顔に出てるというかなんというか。
そんなことを考えているとティアマットさんは興奮したように俺の肩をわしづかみにし、しばらくした後落ち着いたのか耳元に近づき……。
「それって、私にも使える?」
他者に聞かれないように恥ずかしそうにそうつぶやいた。
**********
そして部長とアーシアが買い物でいなくなった隙を見計らって俺が基軸世界への入り口に案内をしたというわけだ。
部長とアーシアのことは信頼しているけど、こっちの世界の話はたぶん混乱するだろうしできるだけとどめておきたい。
だからまだ皆には基軸世界関連の事柄はしゃべっていないんだよな……。
いつかは話すつもりだがしばらくは様子を見たほうがいいというのが俺とミッテルトの共通見解なので慎重に行かないと……。
あ、ちなみに今回ミッテルトは家で留守番している。
俺が帰ってきたら魔力通話で教えるのでうまくごまかしてくれと言っておいた。
そんなわけで俺とティアマットさんはこの基軸世界に来たわけだがなんとちょうどマサユキとヴェルグリンドさんがまだ
「こうしてまた会えるとは思ってなかったわ。懐かしいわね。カルラはほかのルドラの生まれ変わりと比べても格段に強かったのを覚えているわ」
「ええ、最初は互角だったのにいつの間にか私たちを追い抜いてしまいましたからね、あの人は……。本当に人間なのかと何度疑ったことか……」
カルラ……それがティアマットさんの知るルドラの生まれ変わりの名前か……。
「貴方たちと過ごしたのは50年くらいの短い間だけど今でもよく覚えてるわ……。あ、そうそう、ほかの子たちは元気でやってるかしら?」
「そうですね。昔馴染みだと、“ルネアス”は精神が老いるのがいやという理由で冬眠じみた長い眠りを繰り返しています。
貴女を倒すことを目標に据えていた邪龍の“クロウ・クルワッハ”も強さを求めて数万年に及ぶ修行と放浪の旅を繰り返していますわね」
「ふふ、ルネアスちゃんはともかくクロウちゃんは変わらないのね……。定期的に私に挑んでいたのを思い出すわ」
「なんど負けても挑んでくる様はカルラやルネアスともども少し呆れてましたけどね」
どちらも初めて聞く名前だな。
知ってる?ドライグ?
『ルネアスとやらは俺も知らないが、クロウ・クルワッハのほうは知っている。
“
邪龍最凶……その肩書だけでやばい奴ってのが伝わってくるわ。
ルネアスさんとやらはわからないけど、二人の口ぶりからこの人も強者に違いなさそうだ。
『だが、クロウ・クルワッハは滅んだはずでは……?』
「いえ、クロウ・クルワッハは別に滅んでいないわよ。なんでも彼、キリスト教の介入が煩わしかったんですって。やってくる天使も人間も雑魚ばかりでそのくせ数だけは多いからきりがない。
そこで死んだふりして今は身分を隠して世界中を放浪中よ。私も昔のよしみで教えてもらっただけだから多分三大勢力上層部ですら知らないんじゃないかしら?」
『まじか……』
「まじよ」
なるほど。もしかしたら封印される前のドライグより強いのかもしれないな。ティアマットさんもそうだけど、強さを追求し、
まあ、ヴェルグリンドさん相手に何度も戦いを挑んだというのはさすがにバカじゃないの?と思うけど……。普通しないだろそんなこと……。
まあ、ガッツがあってなによりだ。
「……さて、それじゃあそろそろ本題に入ろうかしら」
ん?本題?
「……気付いていらしたのですね」
「もちろんよ。ティアマットちゃん、何か私に言いたいことがあるんじゃないかしら?さっきから妙にそわそわしているわよ」
そうなのか?全然気づかなかった。
まあ、ヴェルグリンドさんはティアマットさんの師匠なわけだし付き合いの短い俺ではわからない癖みたいなものを知っていても不思議ではないか。
「ええ、さすがはヴェルグリンド様。敵いませんね。実はあなたと再会したら真っ先にやりたいと思っていたことがあるんです」
そう言うとティアマットさんは妖気を醸し出しながら静かに立ち上がる。
そこから感じられる妖気はかなりのものだ。
「……貴女がいなくなってから数万年。私も私で研鑽を積み重ねてきました。
その成果を、師である貴女にお見せしたいのです」
おお、つまりそれって……。
「ヴェルグリンド様。私とどうか手合わせ願えないでしょうか?」
「いいわ。久しぶりに指導してあげる」
五大竜王最強のドラゴンと創造主の血縁たる最恐のドラゴン。
今ここに夢のドリームマッチが決定した。
**********
「別にいいだわさ。遠慮なく戦ってくれちゃっていいのよ」
「ありがとうございますラミリスさん。無理言ってもらって……」
というわけでやってきたのは地下迷宮の研究施設……の隣にあるモニター室だ。
さすがに近くで見る度胸はないので俺たちはここから観戦させてもらうことにしたわけだ。
『というかお前帰る時間大丈夫か?そろそろ5時間は……』
「お、そろそろ始まるみたいだな」
結果はわかっているんだけど、ティアマットさんがどこまでヴェルグリンドさんに食らいつけるのかは興味がある。
あの人の持つ
そしてティアマットさんは神話級の100%を見事に引き出せている。
おそらく数万年という長き時をかけ、完全に性能を引き出したのだろう。もはや彼女の体の一部といっても違和感ないかもしれない。
『いきます!ヴェルグリンド様』
『かかってきなさい』
その言葉と同時に駆け出すティアマットさん。
やっぱり人型のほうが竜形態より強いんだな。速度が段違いだ。
ティアマットさんの片手から放たれた炎がヴェルグリンドさんを襲う。画面越しでもそのすさまじいまでの熱量が伝わってくる。少なくともライザーとは格が違う。
「すごい炎だね。お兄ちゃん」
「ん?ああそうだな」
「でもヴェルグリンド様に炎は効かないよ。あの異世界の竜王は何を考えているんだろう?お兄ちゃんはわかる?」
「う~ん、ちょっと難しいな。ティアマットさんもそれくらい熟知してるだろうし……」
そう呟くのは可愛らしい仕草で首をかしげる小柄な幼女。俺とともに観戦をしている俺の妹弟子の“天雷竜王”ノトスだ。それだけじゃない。
今この場には冥獄竜王ウェンティを除く俺の
彼ら彼女らは異世界の竜王たるティアマットさんに興味津々らしい。
話を聞くや否やすぐさまこのモニター室にやってきたのだ。
「おそらく目くらましだろうな。だが、万能感知を使えるヴェルグリンド様には効果が薄いように思える」
そう言うのは筋肉質な体に全身に生えたとげが印象的な“地滅竜王”ボレアス。
それについては俺も同意見だが、おそらくそう単純では……ってこれは。
「炎が形を成した?」
「なにあれ、私でもそんなことできないわよ!?」
そう。なんとティアマットさんの放った炎の一部が獄炎の中で人の形を成したのだ。しかも見た感じおそらく質量も持っていると思われる。
そうして作った偽物にティアマットさん自身も自らにも炎を纏わせることで視覚的にも魔力的にも
炎をあそこまで精密に操作するとは……。
威力重視のベニマルさんとかからは絶対に出てこない発想だ。
炎の専門家たる“炎獄竜王”エウロスですら驚いている。
巨大な炎と煙によって視覚から見破るのは非常に困難だろう。
『なるほど。考えているようだけど、私の目はごまかせないわよ』
まあいくら炎でカモフラージュしても並みの魔力感知ならばともかく万能感知の前では通用しない。
即座に正体を見破られるがティアマットさんだがこれはまだ想定内ということなのだろう。まるで焦っていない。
青龍刀を構え、纏わせたのは……なんと水。
「え?ティアマットさんって炎使いじゃなかったの!?」
『ティアマットは炎と同じくらい水を操ることも得意としている。あの水に込められた魔力はなかなか脅威だぞ』
へえ、そうだったんだ。水を纏った青龍刀での斬撃はヴェルグリンドさん以外のあらゆるものを切り裂いていく。
さながらウォーターカッターだ。神話級の青龍刀に込められた力も加算されており、かなりの脅威を感じる。
『甘い』
しかしそれもヴェルグリンドさんには通用しない。ヴェルグリンドさんの放つ小さな……しかしあきらかに頭おかしいレベルの火力を持つであろう炎を前にティアマットさんの放つウォーターカッターは蒸発してしまう。
『いえ、まだですよ』
ティアマットさんは今度は自らの権能により生み出した“業炎”を纏わせる。
あの炎はうまく防御できなければたぶん“
炎の化身たるあの人は炎に対する絶対的な優位性を持っているからだ。
いったい何を……と思っているとティアマットさんはヴェルグリンドさんの周囲に水の檻を出現させ、ヴェルグリンドさんを閉じ込める。
『“
ヴェルグリンドさんは何かに気づいたらしく、不敵な笑みを浮かべる。
確かにこの激流はすさまじい。おそらく少しでも触れようものならば高密度の魔力がこもった激流によって流されズタボロのシェイク状態になってしまうだろう。少なくとも並みの魔王種ならばこれで詰みだ。
でもティアマットさんの言うようにこれがヴェルグリンドさんに通じるとは思えない。
いったい何を狙っ……ん?
おそらく非常に低温であろう激流の水。そして青龍刀に纏わせた業炎。
・・・・・・まさかこの人。
『きなさい。ティアマットちゃん』
『行きますよヴェルグリンド様!』
ティアマットさんは業炎を青龍刀に纏わせながら水の檻に向かって一直線に走っていく。
俺の考えが正しければこの人は……。
『“
水の檻に業炎を纏わせた青龍刀を思いきり叩き込まれる。瞬間起きた大爆発。その爆発の威力たるや凄まじく、階層が違うはずのこの部屋にまで衝撃が伝わってきた。
やっぱりそうだ。これは水蒸気爆発……それも高密度の魔力を帯びた極大の大爆発だ。
あかん。これやばい……。
おそらく究極保有者をも殺しうる威力がある。カレラさんの
神話級の青龍刀の魔力とティアマットさんの水と炎。この三つの相乗効果により天井知らずの破壊力を出している。
現にモニターからはいくつかの階層をぶち壊したらしく、階層の断面が見えている。
「……恐ろしいお方ですね。異世界の竜王……まさかあれほどとは」
冷静沈着な“氷獄竜王”ゼピュロスすらも目の前の光景に目を疑っている。
いくら神話級の武器を持っているとはいえ
ティアマットさんをもってしても消耗が激しいのか息を荒げながら膝をついているが本当とんでもない人だな。
まあ真に恐ろしいのはあの爆発をまともに受けてなお、ダメージらしいダメージを一切受けていないヴェルグリンドさんか。
やっぱり竜種は
『すごいわティアマットちゃん。よくここまで強くなったわね。褒めてあげるわよ』
『……ありがとうございます。ヴェルグリンド様』
画面の向こうでは膝をつくティアマットさんに対し、微笑みながら手を差し伸べるヴェルグリンドさんの姿が映し出されている。
ティアマットさんも満足そうにしておりその師弟愛溢れる光景に思わず俺もほころんでしまった。
**********
「すごい技でしたね。あんな隠し玉を持っていただなんて」
「でもあの技は私の魔力のほとんどを持っていくから一日一回が限度なうえ、範囲も広いから味方がいる状況では使えない。結構不便な技なのよ」
まああの爆発だしな。ある程度の指向性は持たせられるらしいけどそれでも下手打てば自分自身が巻き込まれることもある。
ティアマットさんにとって最後の切り札というべきものらしい。
そんなことを話しながら俺は魔方陣の上に立つ。
ティアマットさんはもう少し魔国でヴェルグリンドさんの指導を受けるそうだ。
「じゃあまた会いましょう」
「おう」
こうして俺はわが家へと戻ったのだった。
帰ってきた俺を向かい入れたのは・・・・・・・。
「遅かったっすね。イッセー」
「げっ、ミッテルト!?」
「今何時だと思ってるんすか?もうすぐ朝っすよ」
「い、いやこれには深いわけが……」
「イッセーさん!どこに行っていたんですか!?」
「心配したのよイッセー!!」
ミッテルトだけでなく、アーシアと部長まで駆け寄ってきた。
特にアーシアなんか少し泣いているし……。
少し遅く帰りすぎたかな……?
『だから言っただろう……』
そういえば言ってましたねごめんなさい。
斯くして俺はみんなからありがたいお説教を受けたのだった。
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???side
兵藤家の住民が寝静まってからしばらくした後、“
「……ほんとはまだここに来たくはなかったんだけど、仕方がないにゃ……」
そういいながら現れたのは黒髪の美女。人間ではないのだろう……特徴的な猫耳と二又の尻尾ピョコピョコと動いている。
「誰かに見つかる前に、早いところ調査した方がよさそうにゃん」
そういいながら女性はその嗅覚と聴覚で周囲の状況を把握し夜の闇へと姿を消した。
迷宮守護竜王
ラミリスの地下迷宮を守る4体の竜王たち。
全員が覚醒魔王に限りなく近い魔王種級の力を持ち、ヴェルドラ流闘殺法を学んでいる。
なお、口調などについては完全オリジナルです。(本人の会話シーンが全くないので)
ということでティアマットさんは一時離脱です。
なお、カルラの名前はルドラ・ナスカのアナグラムで仏教の迦楼羅とは関係ありません。