イッセーside
カキーンという気持ちのいい音とともにボールが宙に舞い上がる。
「オーライオーライ」
俺は飛んできたボールをいともたやすくキャッチする。
「ナイスよ。イッセー」
朝、ホームルーム前の時間。現在俺たちオカルト研究部の面々は野球の練習をしていた。別に遊んでるわけでなく、これも立派な活動の一つだ。
というのももうすぐ駒王学園では球技大会が行われるのだ。
大会ではクラス対抗戦以外にも、部活対抗戦なんてものがある。部活対抗戦はなぜか当日まで種目がわからないという謎制度を持つため、こうして目ぼしい競技は全部練習しようということになったのだ。
「じゃあそろそろ交替しましょう。次はイッセー投げてくれないかしら?」
「わかりました」
そういいながら俺はボールをキャッチャーのミットめがけてぶん投げる。
その速度はどうやら部長でも見切るのは難しかったらしく、本日初めての空振り三振である。
「ちょ、ちょっとイッセー!?いくらなんでも早すぎよ!!」
「……イッセー、もう少し加減したほうがいいっすよ。これじゃあもし本番野球だった時、けが人が出るっすよ」
「お、おう」
「次は私ですわね。お願いしますわイッセーくん」
「はい」
キャッチャーのミッテルトにも注意された。
……やはり少し加減を間違えたらしい。
いかんいかん。楽しくてつい少し本気でやってしまった……。もう少し慎重に投げないと……。そう考えながら、今度はかなり慎重に投げつけてみる。
それでも時速160はありそうな剛速球となってしまったが、それくらいなら木場のほうが早い。
「はあ!」
カキーンと金属音が響き渡る。朱乃さんは危なげなく、俺のボールを打ち取った。
ボールのとんだ方向は……ぴたりとちょうどいい位置に木場がいる。なんでもそつなくこなす男だし、あれくらいなら簡単に……って、ん???
どういうことか、木場はボールのほうを全く見ていない、というか気づいてもいない。ただポケっと突っ立っているだけだ。このままではおそらく頭に直撃する。
何やってるんだあいつは?
俺はとっさに木場の方向へ向かい、激突する前にボールを確保した。
「何やってるんだ木場!」
「……え、ああごめん。少しぼーっとしてた」
俺から見れば少しどころじゃなかったがな。
あの聖剣とやらの写真を見てからの木場は少し異常だ。
ここ最近ぼーっとすることばっかりで少し心配せざるを得ない。
部長も注意しようとするが、結局、時間になってしまったのでモヤモヤを抱えたまま俺たちは教室へと戻っていった。
**********
そして放課後。
「全く、ひどい目にあったぜ」
俺は今、アーシアとミッテルトを連れて部室へ向かっているのだが、周囲の視線が正直痛い。
というのも原因は松田と元浜のあほどもだ。
あいつら俺に関して変な噂ばかりを広めやがった。
曰く、部長と朱乃さんと共に夜な夜なやばいプレイをしているとか。
曰く、小猫ちゃんのロリボディを好き放題しているとか。
曰く、ミッテルトとアーシアの二人を日本文化の勉強と称して堕落させるとか……。
曰く、俺は両刀使いであり、木場ともいろいろやってるとか……。
以前から薄々知ってはいたが、実際ここまで酷い噂が広まっているとは思っていなかった。
そしてこれらを流していたのが松田と元浜の二人であるということが発覚したのだ。
それを知った俺はとりあえずボコボコにしてやった。特に最後の噂は絶対許さねえからな……。
「まあ、安心するっすよ……。さりげなく否定して噂を書き換えてやるっすから」
「マジ頼むぞミッテルト……。ついでにあの二人の変な噂流してやれ」
ミッテルトは社交性が割と高いため、結構人脈が広い。
俺のうわさはミッテルトの手にかかってるといっても過言じゃないし、マジで頼むぞ。
「……アーシア?さっきから黙ってるけど、なんかあったか?」
「へ?い、いえ、なんでもありません」
どうもアーシアの様子がおかしい。何やら先ほど桐生に何か吹き込まれていたけどまた変なこと教えたのかあいつ……。
何やら顔がメチャクチャ赤くなっているし、アーシアには余り変なこと教えないでほしいな。
この間なんか、いきなり風呂に乱入なんてしてきたし……、日本の文化と称して変なこと教えるのはやめてほしいものだ……。
……あれ?噂は間違ってない……?
「ん?」
部室の前に来ると、中から何やらオカ研メンバー以外の気配がする。
一応知ってはいる気配だから誰かはわかるけど、なんでここに……?
部長と話でもあるのかな?そう思いながら俺たちは部室の中に入る。
「遅れてすみません」
「どもこんにちは」
「あら。彼らは……」
そこにいたのは駒王学園の生徒会長・支取蒼那さんだ。
この人も部長と同じ悪魔。それもたぶん上級悪魔なのだろう。その魔素量は部長とほぼ互角だし、魔力の質も転生悪魔とは微妙に違う、純粋な悪魔のそれだ。
後ろにはおそらく彼女の眷属であろうと思われる悪魔が控えているし、間違いないと思う。
「遅かったわねイッセー。でも、ちょうどよかったわ。彼女は蒼那。知ってると思うけどこの学園の生徒会長よ」
「部長と同じ悪魔ですか……。親しくしてるとこを見ると、部長と同じ上級悪魔ですかね」
俺の発言に驚いたような反応をする生徒会長。
初見で見抜かれるとは思ってなかったのかもな。
部長も気持ちはわかるとでもいうような視線を会長に送っているし……。
「イッセー。礼儀としてあいさつはしたほうがいいっすよ」
それもそうだな。
「はじめまして。リアス・グレモリーの眷属候補、兵藤一誠です」
「僧侶のアーシア・アルジェントといいます!よろしくお願いします!」
「イッセーの恋人で堕天使のミッテルトといいます。よろしくお願いします」
すると、支取先輩も俺達に自己紹介をする。
「はじめまして。学園では支取蒼那と名乗っていますが、本名はソーナ・シトリーといいます。上級悪魔、シトリー家の次期当主でもあります」
「次期当主ですか?」
なるほど、部長と同じ立場ってわけか。
シトリーといえば、レヴィアタンとかいう魔王様だ。
以前聞いた話なのだがティアマットさんいわく、現魔王の一人がシトリーという悪魔の家系の出らしい。
部長も上級悪魔グレモリー家の次期当主だしな。魔王の妹という立ち位置も含め、非常によく似た境遇であると言えるといえるだろう。
「それで、ソーナの用件はなにかしら?」
「そうですね。私も新しい眷属を得たので紹介しようと思いまして。サジ、あなたも自己紹介を……」
支取先輩にそう言われて男子生徒が前に出てくる。
この男の顔には見覚えがある。確か、最近生徒会に入った追加メンバーだったばずだ。
役職は書記だったかな?
「はじめまして。ソーナ・シトリー様の兵士となりました、二年の匙元士郎です。よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
兵士か……。なかなか強そうな素質があるし、俺やティアマットさんと同じく、こいつからは微弱な竜の気配も感じられる。
もしかしたら俺と同じ、ドラゴン系の神器を持っているのかもしれないな。
俺は愛想よく笑いながら、握手をしようと手を出す。
ところが、匙はその手を見ながら怪訝そうに答える。
「ふん、変態三人組と仲良くやる気はないね。最近だと人間のくせに複数人の悪魔の女性とよろしくやってるみたいだしな」
「それはあいつらが流したデマじゃい!!喧嘩売ってるのか!?」
「おっ?やるか?俺は駒四つ消費した兵士だぜ?最近、悪魔になったばかりだが、人間のおまえなんかに負けるかよ」
(多分)同じドラゴン系の神器持ちということで仲良くなれるかな?と思っていたが、しょっぱなから仲良くなれる気がしねえ。
というか、駒四つを消費したってことは、それなりの実力……というか素質があるってことか?
支取先輩の持つ“兵士”の駒を半分消費したことになるし。
『かもな……。まあ、相手の実力が測れないようではまだまだだが……』
まあ、それはこっちが力を
とここでヒートアップしていた匙に待ったが入る。
「いい加減にしなさい匙。ごめんなさい兵藤君。匙に代わって謝罪させていただきます」
「か、会長、なんでそんなやつに頭を下げるんですか!?」
「黙りなさい、サジ。今のはどう見てもあなたが悪いです。あなたも無礼を詫びなさい」
「で、ですが……」
「そもそも、あなたもライザーとの戦いを見ていたでしょう?あなたでは兵藤君には勝てません。今のあなたでは瞬殺されます」
「グっ……。すまなかった」
匙は少し納得いかないようだけど、それでも主の面目を保つため、素直に謝れるのは好感が持てるな。
俺への反感も……まあ、あのうわさが発端だし、根はまじめな奴なのかもしれない。
まあ、多少傲慢の気があるが、向こうはまだ悪魔になりたてだし少し力に酔っている感じなんだろう。なら仕方ないかな。
「まあ、あまり気にしませんよ」
根も葉もない噂をいじられるのは腹立つけど、これくらいならまあ別に。
向こうでは匙以上に好戦的な奴なんて腐るほどいたし……。
シオンさんにベニマルさん、守護竜王たちもなんやかんや好戦的だし他国からもジウやスフィアなどなど……。
他にも数多くいるけど正直言って切りがない……。あっちの世界は迷宮があるから死んでもOKというのも拍車をかけているのだろう。
話がそれたな……。
「では、紹介も済んだことですし、私たちはこれで失礼します。また球技大会で会いましょう」
「フフフ、今年はイッセーにミッテルトという秘密兵器もあるしそう簡単にはいかないわよ」
「まあ、頑張りますわ」
「うちも結構楽しみっすね……」
こうして本日もオカルト研究部は平和な時を過ごしたのだった。
「…………」
木場の纏う不穏な空気を除いて……。