イッセーside
「ちょっとあなた、いきなり何を……」
「少し黙ってもらおうか……こちらとしても大事な話をしているのでな」
ミッテルトが堕天使であるということを開示した瞬間、襲ってきたゼノヴィアという女剣士。あまりに突然のことに全員が困惑をする。
「ちょちょちょ……ちょっと待つっす!いきなりなんすか!?」
「とぼけるな!!さっさとエクスカリバーのところまで……」
いきなり刃を向けられたミッテルトも例外ではない。
あまりにも唐突のことで訳もわからずてんぱっているようだ。
それにしても、なんでミッテルトとエクスカリバーが関係あると思ってるんだ?ひょっとして聖剣を盗んだ奴らって……。
「待ってゼノヴィア。少し話を聞いてみましょう」
イリナの言葉にゼノヴィアは渋々ながらも剣をおさめる。
いったい何がどうなっているのやら……。
少し落ち着いたのかゼノヴィアは息を整え椅子に腰かけるがその目には猜疑の視線が宿っている。
そこでいたたまれなくなったのか、ミッテルトが口を開く。
「ひょっとして、聖剣とやらを盗んだのって堕天使なんすか?」
その言葉にうなずく二人。なるほど通りで。大方今回主犯の堕天使とミッテルトが仲間なのではと考えたのだろう。
まあ確かに窃盗犯が逃げ込んだ場所に関連ありそうなやつがいたら疑うの当然か。
「なるほど、でもミッテルトは二年以上前から俺の家に住んでるわけだし、その窃盗犯とは一切関係ないぜ」
「……それを信じろと?」
「ああ」
「……いいだろう。だが怪しい動きをしたら即座に斬る」
そう言うとゼノヴィアはミッテルトから視線を外す。どうやら少しは納得してくれたのかもな。
ゼノヴィアとイリナは改めてこの街に来た目的を語り出した。
「我々がこの地に来たのはエクスカリバーを奪った堕天使がこの町に潜伏しているという情報を掴んだからだ。我々はそれを奪取、もしくは破壊するためにここに来た」
「堕天使に奪われるくらいなら、壊した方がマシだもの」
なるほど。ひとまずこの二人がこの街に来た事情はわかった。
それにしても、奪取はともかく破壊か……。まあ確かに、そんなに強力な武器が敵に渡れば悲惨なことになるのは目に見えている。そうなるくらいならば確かに壊したほうが効率善いかも……。
「なるほど、事情は理解できたわ……それで、盗んだ堕天使の名は?」
部長はゼノヴィアにそう尋ねた。
この世界の神話にすら伝えられている聖剣エクスカリバーともなると警備だってそれなりに厳重なはずだ。そんな場所から三つも聖剣を盗むことが出来るとなるとそれなりの手練れの可能性が高い。
気になるのも仕方がない。
「“
その言葉にオカルト研究部の空気がしんと静まり返る。
誰もが目を見開いて驚いているのだ……俺たち二人を除いて……。
「あのすみません。コカビエルって誰すか?」
ミッテルトの発言に今度は別の意味でみんな目を見開く。教会の二人も信じられないものを見るような目をしているし……。
「ミッテルト……貴女本気で聞いてるの?」
「アハハ……。お恥ずかしい話、うちが堕天使領にいたの本当に小さい時だったんで……。なんとなく聞き覚えはあるんすけど」
まあミッテルトが基軸世界に召喚されたのって確か6歳くらいのときとか言っていたっけ……。ある程度物事は覚えているんだろうけど、下級の出だったらしいし、自陣営とはいえ幹部など縁もゆかりもなかったに違いない。
そこから基軸世界での数十年のほうがミッテルトからすればはるかに濃密な出来事だ。自分の事ならともかく会ったこともない奴の名前なんて覚えているはずもない。
現に俺もイリナのことを写真見るまですっかり忘れていたわけだし……。
「なんだかミッテルトの過去がすごく気になってきたわ……。コカビエルは古の大戦から生き残っているとされている堕天使の幹部よ。聖書にも記されている存在で、その力は最上級悪魔を越えているとされているわ」
最上級悪魔か……。
映像越しだから実際はどうかわからないけどレーティングゲームを見る限り、最上級悪魔の人たちは皆がみんな
ということは最低でも
まあそれはそうだろう。ある程度のレベル以下の存在で魔王に挑もうなんて無謀もいいところだ。
最低でもAランクオーバーが複数人はいないと手も足も出ないだろう。
「ってことは……俺たちに協力を求めたいってことか?」
俺はそれが向こう側の目論見なのだと思う。二人とも協力そうな使い手だし、特にゼノヴィアなんかまだ何かを隠している感じがする。とはいえそれを解放しても魔王種級の存在相手では到底及ばない。
ひょっとしたら善戦くらいはするかもしれないだろうが結局はそれどまりだ。それがわかっているからこそ協力を求めに来たのだと……。
所が向こうの要求は俺の想像の斜め上を行っていた。
「いや、そうではない。私達の依頼──いや、注文は私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに悪魔が介入してこないこと。つまり、今回の事件で悪魔側は関わるなということだ」
・・・・・・・・・・・はぁ!?
いや、おかしいだろう。最上級悪魔を上回る。聖書にも記された伝説の堕天使。それだけの情報でもやばい相手って普通わかるだろ。
いくら伝説のエクスカリバーを持ってるとはいえその等級はあくまでも
Aランクの力を持つこの二人でもそれは同じ。レベル1でレベル50を倒そうってのと同じだ。勝負にすらならない。
「ずいぶんな言い方ね。私達が堕天使と組んで聖剣をどうにかするとでも?」
「本部はその可能性も憂慮している。悪魔にとって聖剣は忌むべき物だ。可能性がないわけではないだろう?」
部長の瞳に冷たいものが宿った。
かなりキレてるな。
まぁ、自分達の失態を棚にあげておいてこれだからな。自分の領土での出来事なのに介入するなとあれこれ言われる。
部長もプライドが傷ついたのだろう。
「上は堕天使も悪魔も信用していないということだ。もし、そちらが堕天使と手を組んでいるなら、私達はあなた達を完全に消滅させる。たとえ、魔王の妹でもね」
「そう。ならば、言わせてもらうわ。私は“
“
部長がそう言い切るとゼノヴィアはフッと笑った。
「それが聞けただけで十分だ。私も魔王の妹がそこまで馬鹿だとは思っていない。今のはあくまで上の意向を伝えただけさ。まあ、協力は仰がないがね……」
ゼノヴィアの言葉を聞き、部長は表情を緩和させる。
はりつめていた部屋の空気も少し緩くなった。
「正教会からの派遣は?」
「正教会はこの件を保留にした。残る一本を死守するつもりなのだろう」
「では二人だけでコカビエルと戦うつもりなの?無謀ね。死ぬつもりなの?」
「そうよ」
言い切った。常軌を逸しているな……。
仲間のためならともかく、いるかどうかもわからない神様のためにここまで言い切るなんて俺には理解できねえや。まあ、実際にいるんだろうけど……。
会話が終わり、イリナとゼノヴィアは立ち上がる。
「本日は面会に応じていただき、感謝する。そろそろおいとまさせてもらうよ」
「そう。お茶は飲んでいかないの?お菓子もあるけど……」
「いらない」
「ごめんなさいね」
ゼノヴィアは部長の誘いを断り、イリナも手でゴメンをしながら謝る。
すると、二人の視線はアーシアに集まった。
「兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが、アーシア・アルジェントか。こんな極東の地で『魔女』に会おうとはな」
ゼノヴィアの言葉にアーシアはビクっと体を震わせる。
────魔女。
この言葉は信仰心を失っていないアーシアにとって辛いものだ。
イリナもそれに気づいてアーシアを見る。
「あなたが一時期噂になっていた元聖女さん?悪魔や堕天使を癒す力を持っていたらしいわね?追放され、どこぞへ流れたとは聞いていたけど……」
「あ、あの……私は……」
二人に言い寄られ、対応に困るアーシア。
「安心して、ここで見たことは上には伝えないから。聖女アーシアの周りにいた人たちもショックを受けるでしょうからね」
「だが、堕ちれば堕ちるものだな。まだ、我らの神を信じているのか?」
「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信じているわけないでしょう?」
呆れた様子でイリナはゼノヴィアに言う。
「いや、その子からは信仰のにおいがする。背信行為をする者でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。彼女からもそれと同じものが伝わってくる」
「そうなの? ねぇ、アーシアさんは今でも主を信じているのかしら?」
その問いにアーシアは悲しそうな表情で答える。
「……捨てきれないだけです。ずっと、信じてきましたから……」
それを聞いたゼノヴィアは布に包まれた聖剣を突き出す。
「そうか。ならば、今すぐ私達に斬られるといい。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」
ゼノヴィアのその言葉を聞いて一気に怒りが沸き上がってきた。ふざけるんじゃねえぞ……。
俺はアーシアに突き付けられた聖剣を掴み、無理矢理下に向けさせる。
「随分と好き勝手言ってくれるな。……アーシアが魔女だと」
「そうだよ。少なくとも今の彼女は魔女だと呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」
こいつ……!俺は怒りに奥歯を噛み、ギリギリ鳴らす。
「ふざけるなよ。聖女だと勝手に祭り上げ、悪魔を癒してしまえば今度は魔女だと勝手に追放する。何様のつもりだよ……。おまえら教会側の人間はいささか身勝手がすぎると思うぞ。アーシアを聖女とあがめるだけあがめておいて、友達になってくれる奴も一人もいなかったって話だしな」
「聖女に友達など必要ない。聖女と呼ばれながらも、神に見放されたのは彼女の信仰心が足りなかったからだろう?」
その言葉で怒りが一周回って逆に頭冷えてきた。
友達が必要ない?それが本当に神様の言葉だとしたら……
「……随分と器の小さい神様なんだな」
「……なんだと?」
俺の言葉にゼノヴィアは眉を吊り上げて反応する。
「だってそうだろ。悪魔にも優しくできるってことは、要するに誰にでも分け隔てなく癒してくれるってことだろ。そんなアーシアを認めない。アーシアみたいな優しい子が救われないなんて、そんな信仰は絶対間違っている。それに……」
脳裏に浮かぶは周囲から神とあがめられる
あの二人は絶対にそんなことは言わない。
「聖女だから友達が必要ないとかわけわからん戯言をほざく奴を神様と俺は認めない」
「……今の発言は我々、教会への挑戦か?一介の異教徒がそこまでの口を叩くか」
ゼノヴィアが俺に向けて殺気を放つ。
「イッセー、お止め──」
部長が俺を止めようとしたときだった。
俺とゼノヴィアの間に木場が入る。
「ちょうどいい。僕が相手になろう」
強い殺気を発して、木場は剣を携えていた。
「誰だ、キミは?」
ゼノヴィアの問いに木場は不適に笑う。
「キミ達の先輩だよ。──失敗作だったそうだけどね」
その瞬間、部室内に無数の魔剣が現れた。
**********
球技大会を行った芝生の上。俺たちはそこに立っていた。
周囲丸ごとには部長が用意した結界が張られており、外では部員の皆が俺たちを見守っていた。
「では始めようか」
イリナとゼノヴィアはローブを脱ぐと肌をさらしてはいないがボンテージっぽいエロい衣装……もとい戦闘服があらわになった。
……絶対誰かの趣味だろあの服。
なぜこんなことになっているか。先ほど、俺とゼノヴィアの口論に木場が飛び込んできて、一触即発の空気になった。
部長は止めようとしたのだが、木場が売った喧嘩をゼノヴィアが買い、今から殺し合いは無しの決闘が行われることになった。
俺の前にはイリナ、木場の前にはゼノヴィアがそれぞれ対峙するかのように立っている。
「リアス・グレモリーの眷属の力、いかなるものか見させてもらおう」
ゼノヴィアは布を取り払いエクスカリバーを解き放つ。
イリナの方は腕に巻いていた紐が日本刀の形になった。
「イッセー、ただの手合わせとはいえ、聖剣には十分気を付けて!」
「分かってますよ、部長」
腐っても
まあ俺は大丈夫だろうけど懸念事項もある。それは……。
「…………笑っているのか?」
ゼノヴィアが木場に聞く。
「倒したくて、壊したくて仕方かなかったものが目の前にあるんだからね。嬉しくてね」
明らかにやばい感じになっている木場の奴だ。
不気味な雰囲気を醸し出しており、いつものさわやかフェイスの面影がみじんもない。
ゼノヴィアは周囲に展開された魔剣を見る。
「
ゼノヴィアの問いに木場は答えず、ただ殺気を向けるだけだ。
あいつ、これは殺し合い禁止だってこと分かってんのか?
「兵藤一誠君!」
いきなり、イリナが話しかけてきた。
というか考えてみると口論してたのは俺とゼノヴィアなんだよな……。相手逆じゃね?
「な、なに?」
「再会したら懐かしの男の子が悪魔に魅入られた異教徒となっていたなんて、なんて運命のイタズラ!かわいそうな兵藤一誠くん。いいえ、昔のよしみでイッセー君とよばせてもらうわね。聖剣の適性を認められ、晴れて主のお役にたてると思ったのに!これも主の試練なのですね!でも、この試練を乗り越えることで私は真の信仰に近づけるんだわ!さあイッセー君!このエクスカリバーで貴方の罪を裁いてあげるわ!アーメン!」
目をキラキラと輝かせながら、難易度の高い言葉を飛ばしてきたよ!?関わっちゃダメな感じの女の子だこの子!!
完全に自分に酔ってるよね!実は楽しんでるとか!?
これは完全にアダルマンさんたちと同じタイプだ。狂信者という言葉が非常に似合うタイプの人だ。
俺はなんて返せばいいんだよ……。
「行くわよイッセー君!」
おいおい、本気で斬りかかってきてないか?
それが久しぶりに会った幼馴染みにすることかよ!
『……とはいえ、この程度の実力なら問題なさそうだろ。軽くのしてしまえ』
ま、ドライグの言うとおりだな。そう考え、俺はイリナと改めて向かい合った。
さっさと終わらせますか。