イッセーside
ヒュッ!
イリナが勢いよく俺に対して斬りか斬りかかってくる。俺はそれを紙一重でよけながら、指に魔力を張りめげらせる。
──隙を見て“
そう考えていると、イリナは何やら本能的に察した様子。
「いやらしい顔つきだわ。何を考えているのかしら?」
「気を付けてください。イッセー先輩は女性の服を消し飛ばす技を持っています」
ぶっ!?
こ、小猫ちゃん!?な、なぜばらしてしまうんだ!?
抗議の視線を訴えると小猫ちゃんは極めて冷静な口調で言う。
「女性の敵。最低です」
「なんて最低な技なの!体だけでなく、心までも悪に染まっているなんて……私が浄化してあげるわ!アーメン!」
「ま、まあ否定はできないすね。戦闘に卑怯もくそもないすけど」
くそ……。しょうがねえ。ミッテルトの言うとおり、戦闘には卑怯もくそもない。でもこれはあくまで模擬戦だしな……。小猫ちゃんの目もあるし、今回は“
俺は改めてイリナと向かい合う。
そして……
「え?きゃあ!?」
俺は一瞬で距離を詰め、イリナの脇腹に掌底をくらわした。
イリナは吹き飛びつつも何とか体勢を立て直し、息を整える。
「よくもやったわね……“
イリナはエクスカリバーの形態を変化させ、鞭のような状態にする。
「いくわよ!」
イリナはそういいながらエクスカリバーを振り回す。自由自在に変形するという特性をよく生かしている。
いうなれば抜群の切れ味を兼ね備えた鞭といったところだろう。しなやかで軌道も読みづらい。
まあもっとも……。
「俺には通用しねえけどな」
俺は冷静にエクスカリバーの軌道を見切り、刃を指でつかみ取った。
「う、嘘……ってきゃあ!?」
どうやらさっきは手加減をしすぎたようだ。そこで今度は先ほどより少し強めにエクスカリバーごとイリナを地面にたたきつけた。
「かはっ!?」
「……ま、こんなもんでしょ」
ミッテルトの言葉通り、俺とイリナの戦いはこれで決着がついた。
たたきつけられたイリナはというと、肺から酸素のほとんどがでてしまったらしく、酸素を取り込むように息を荒げていた。
「そ、そんな……いったいどうやって……」
息を荒げながら信じられないといった風に俺を見つめるイリナ。確かにいいアイデアだったけど俺にはあんまり効果がない。
「俺の妹弟子に鞭みたいなものを使うやつがいてな、そういうのには慣れてるんだ」
俺と同じく“ヴェルドラ流闘殺法”を学んだ妹弟子であり、炎を操る迷宮守護竜王の一柱である“炎獄竜王”エウロスは自らのしっぽを炎の鞭として自由自在に操るという戦法を得意としている。
練度で言うならイリナのそれはエウロスの足元にも及ばない。そもそも思考加速がある俺にとってはあの程度の鞭の速度など止まって見える。ゆえに簡単に止められるというわけだ。
「ま、筋は悪くないからもう少し修行しな」
そう言って俺はみんなの元に戻ろうとする。すると皆もイリナと同じように信じられないような目で俺のことを見つめていた。
「さ、さすがイッセーね。聖剣使いをこうもあっさりと……」
「本当にすごいですわね」
「……なんというか、イッセー先輩は規格外です」
「いやいや、俺程度で規格外とか言わないほうがいいですよ。俺の同門には
「「「え?」」」
どうやら俺の言葉が信じられないらしく目を見開く三人。
実際ゼギオンさんは切り札を使っても勝てるかどうかわからないほどの規格外だしな……。それ以外でもカリスさんも十分厄介な存在だし、守護竜王の皆だってその
「おケガはありませんか、イッセーさん」
「ありがとうアーシア。俺は無傷だよ」
そんな中アーシアは俺を心配して駆け寄ってくれた。
やっぱりアーシアは優しいよな。
何故、こんなにも優しいアーシアを追放したのか。一度教会の上層部の人間に小一時間ほど問い詰めたい。
とりあえず、俺の方は終わった。
「あとはあっちっすね……」
ミッテルトの言うとおり、あとは木場とゼノヴィアか。
「まさか、イリナがこうもあっさりと倒されるとは……。正直、彼を見くびっていたよ」
「フッ、次は君の番さ」
木場は二本の魔剣を握り、ゼノヴィアに迫る。
「燃え尽きろ!そして凍りつけ!ハアアアア!!!」
片方の魔剣から業火が生まれ、もう片方からは冷気が発生する。
木場は初っぱなから最高速度でゼノヴィアに斬りかかろうとする。
だが、冷静さを欠きすぎだ。あれでは俺でなくとも簡単に動きが読まれてしまう。
「気闘法も乱れているし、あれじゃあ当たらないっすね」
「そうだな……」
ミッテルトの言葉に俺はうなずく。
案の定、ゼノヴィアは木場の斬撃をすべて最小限の動きで交わしている。
「中々のスピードだ。そして、炎と氷の魔剣か。だが甘いっ!」
瞬間、ゼノヴィアの一振りが木場の二本の魔剣を粉々にした。
それを見た木場は絶句する。
「気操法で強化していたはずなのに……」
確かに強化はされていた。だがそれはいつもに比べたら多少は程度の事。
まだ気闘法を習得してひと月もたっていない現状では木場の気操法は完璧とはいいがたい。
おまけに冷静さを思いきり欠き、動揺しているあの状態では慣れない技術の練度はさらに下がる。
その状況では破壊力に特化しているであろうあの聖剣に押し負けるのは当然のことといえよう。
「我が剣は破壊の権化。君の魔剣など、私のエクスカリバーの相手ではない!」
ゼノヴィアは長剣を天にかざし、地面へ振り下ろした。
ドォォォォォォォン!
地面が激しく揺れて地響きが発生する。周囲に巻き起こる土煙。
煙がはれるとそこには大きなクレーターが生み出されていた。
「これが私のエクスカリバー、“
名前から予想はしていたけど、破壊力だけに特化した聖剣ってことだな。
しかし同じエクスカリバーでもイリナのものとは特性がこうも違うのか……。もとは一つというのが信じられないな。
元々がどんな剣だったのか気になるな……。
「七つに分かれてもこの威力。全てを破壊するのは修羅の道か……だけど!」
木場は新たに魔剣を作り出す。
「この力は同志の無念の思いで作られたものだ!この力で僕はエクスカリバーを破壊する!」
そう言いながら木場は新たな魔剣を作り出そうと……っておいおい。
「おい木場!勝負を焦るな!」
俺の忠告を無視し、木場は新たなる魔剣を創造した。
木場の手に現れたのはまがまがしい魔力を放つ巨大な魔剣だった。
木場の伸長をはるかに超える二メートル級の魔剣。木場はそれを構えながら真正面から特攻する。
「その聖剣の破壊力と僕の魔剣の破壊力!どちらが上か勝負だ!」
木場は大きくとびかかり、それをゼノヴィアに向けて振るおうとする。
それを見たゼノヴィアは大きく落胆したような表情を見せる。
「残念だ。選択を間違えたな」
そう、それは木場が最もやってはいけない選択だったのだ。
聖剣と魔剣がぶつかり合い、ガキンと金属音を響かせ、巨大な刀身が宙を舞った。
折れたのは木場の魔剣。このぶつかり合いを制したのはゼノヴィアだった。
「そんな……」
呆然としている木場の腹部に聖剣の柄頭が抉りこむ。
その破壊力により、木場は吐しゃ物を吐き出しながら崩れ落ちる。
「君の武器は多彩な魔剣と俊足だ。あれほどの巨大な剣を振り回すには筋力不足。自慢の動きを自ら封じ込むこととなる。そんなこともわからないのか?」
普段の木場ならあそこまでの愚は侵さなかっただろう。
そこまで冷静さを欠いていたということか。
木場は立ち上がろうとするが、ダメージが大きいせいでそれは叶わない。
木場は憎々しげにゼノヴィアをにらみつけるが、ゼノヴィアはそれを意に介さない。ゼノヴィアは木場を一瞥した後、俺の方に歩み寄ってきた。
「さて、兵藤一誠。イリナを一瞬で倒したキミの強さには私も驚いたよ。是非とも手合わせ願いたいところだ」
「まあ、また次の機会にな」
「分かっている。私達も忙しいのでな。リアス・グレモリー、先ほどの話、よろしく頼むよ」
そう言い残すとゼノヴィアは踵を返しイリナと合流する。
「それでは失礼するよ」
「イッセー君!今度は私が勝つからね!次こそ絶対裁いてやるんだから!」
「おう、いつでもリベンジ受け付けるぞ」
イリナは拗ねているのか少し泣きながらリベンジを申してる。
いいだろう。その時こそは“
身魂計測を使うまでもなく分かる健康的な肢体。
次こそ“
「な、なんかいやらしい顔してる!?ま、まさかさっき言っていた技を……?」
「イッセー、自重するっすよ」
「最低です」
ハイ、ごめんなさい。
こうして、二人はこの場を去っていった。
*********
「ありがとな小猫ちゃん」
「……いつものお礼です。してほしい時は言ってください」
あの後小猫ちゃんがマッサージをしてくれることとなった。
戦車の力も相まってなかなか気持ちいいや。
基本的に突っ込みと罵倒が多い小猫ちゃんがしてくれるというだけでも感動ものだ。
……それにしても。
「?どうしましたか?」
「いや、なんでも……」
こうして間近でみるとやっぱり小猫ちゃんってどことなくに誰かに似てる気がするんだよな。
まあ気のせいだとは思うけど……。
「でも本当に良かったです。イッセーさんの身にもしものことがあったら……」
アーシアも本当に心配してくれていたんだな。
笑顔もまぶしいし、本当に教会の上層部の人間になぜ彼女を追放したのか小一時間は問い詰めたい。
「大丈夫っすよ。イッセーがあの程度の使い手に負けるハズないすもん」
ま、まあミッテルトの言う通りなんだけどさ。もう少し心配したそぶり見せてもいいんじゃないかな?
一応恋人のはずなのに少し悲しくなってきたぞ。
「待ちなさい!祐斗!」
そんな中、突如部長の制止する声が聞こえてくる。
そちらを見ると、その場を立ち去ろうとしている木場と激昂している部長の姿があった。
なんだなんだ?
「私のもとから離れることは許さない!。あなたは私の大切な“騎士”なのよ! “はぐれ”になんて絶対にさせないわ!留まりなさい!」
はぐれ……木場の奴そこまで思い詰めてたのか。
「……部長、僕を拾っていただいたことにはとても感謝してます。だけど、僕は同志達のおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、僕は彼らの怨みを魔剣に込めないといけないんです…………」
「祐斗……どうして……」
部長は悲しそうな顔で木場を見つめる。
「木場」
「…………」
俺は木場に近づく。大方俺も木場を止めようとしていると思っているんだろう。
でも……
「行きたいなら行けばいい」
「!?」
「イッセー!? 何を言うの!?」
復讐したい。その気持ちは俺にも少しは俺だってわかるつもりだ。
ファルムスの非道に腹が立った時、俺だって確かにそう感じたのだから。
「部長、木場を行かせてやって下さい。今のこいつにはそれが必要です」
「で、でも……」
「もちろん条件も付けさせます。必ず帰ってこい。それが条件だ」
ここで木場の気持ちを無視すれば後々必ず尾を引くことになる。
ベニマルさんだってオークへの恨みを振り切れたのは……確か……ゲロミュード……だっけ?そいつにけじめをつけることができたからだ。
木場の気持ちに区切りをつけさせるためにも、何かしらけじめをつけないとだめなのだ。
「……ありがとう。イッセー君」
木場は少しやつれた笑顔でそう言い残し、その場から消えた。
さてと、俺も俺でそろそろ行動するとしますか。