三人称side
メロウは思い出す。
神祖“トワイライト・バレンタイン”の実験の過程で産み落とされた彼女は、神祖のことを強く信奉していた。
ゆえにその一人娘であり、神祖の寵愛を一身に受けていたルミナスをひどく嫌っていたのだ。
特に気に食わなかったのがルミナスの態度である。
何しろルミナスは自らの信奉する神祖の寵愛を受けながら、神祖の成すことに嫌悪を抱いていたのだ。それを彼女は許せなかった。
『私のほうがルミナスよりも、あのお方の寵愛を受けるにふさわしいのだ』
事実メロウは神祖の実験にどの高弟よりも積極的に携わった。
その過程で彼女はユニークスキル“
彼女こそ神祖の高弟の中で最も速く究極能力を手に入れたものなのだ。
しかし究極の力を手に入れてなお、神祖が寵愛するのは娘であるルミナス・バレンタイン。
しかしこの時点ではメロウはルミナスのことを嫌悪はしても憎んではいなかった。
彼女がルミナスを恨むようになったのは、ルミナスが神祖を弑した時である。
ルミナスは非道な実験を繰り返し、何度も人類や吸血鬼を滅亡寸前まで追い込んだ神祖に対し、とうとう我慢の限界を迎え、開発したばかりの神聖系最強魔法“
メロウにとってそれは許しがたい大罪である。
しかし、神祖の肉体が滅んだ直後、彼女は神祖とともにこちらの世界へと旅立つこととなる。それは当時究極の力を持たなかったルミナスにとっては幸運だったといえよう。
しかし、それから数千年の年月が過ぎようと、彼女の中の怒りがなくなるわけではない。
ゆえにメロウは決めたのだ。部下も国も、ルミナスが大切にしているものをすべて壊し、絶望させてルミナスを殺そうと。今日はその第一歩である。
*********
イッセーside
「部長、魔王様……サーゼクスさんはここへ来るんですか?」
「……いいえ、今回はお兄様を呼ぶつもりは……」
「私がすでに打診しましたわ」
「っ朱乃!」
非難の声を上げるが今回は朱乃さんが正しい。今回は俺たちがいるからいいが、これは普通に考えて、部長個人でどうこうできるレベルを遥かに超えているのだから。それを察したのか、部長も歯ぎしりしながら黙り込む。
あまり迷惑をかけたくないのだろう。ただでさえ、前回のフェニックス騒動で迷惑かけたわけだし……。
「う~ん、果たして私は大丈夫なのかにゃ……」
はぐれ悪魔である黒歌は、自分という存在について懸念しているようだ。まあ、こちらの世界では犯罪者だしな。
「まあ、できる限り早めに終わらせよう。そのあとはまあ、俺ん家で隠れてれば……」
「ありがとにゃん。イッセー」
そういって黒歌は俺の手に抱き着いてきた。豊満なおっぱいが当たってとても柔らかいです。
「黒歌っち!何してるんすか!?」
シャーと黒歌に威嚇するミッテルト。魔国の日常をまさかこちらの世界でやることになるとは……。
そうこうしているうちに駒王学園へと到着した。いつもの学園とはまるで違う、濃密な魔の気配が漂っている。思わず身震いしてしまいそうだ。
まあ、相手がルミナスさんと同格だった存在と聞けば、すんなり納得できるけど……。
「……黒歌。頼む」
「了解にゃん」
そう言いながら黒歌は、駒王学園の周りに強力な結界を張った。
万能結界の権能で作られた“多重複合結界”だ。相手の力量があまりにもかけ離れていると破られることも多々あるのだが、それでもその強度は並みではない。事実、無類の防御力を誇るゲルドさんの結界と比べても遜色ないのだ。
これならどれだけ派手にやっても外に影響が出ることはないだろう。
「な、なんてすごい結界なの?」
「黒歌っちは結界術が特に優れてるんすよ。いつ見てもすごいっすよね……」
部長は結界のあまりの強度に驚き、ミッテルトは何やら羨望のこもった目で黒歌の結界を眺める。
どうしたんだ?
正門から堂々と進むと何やら人影が……ってあれは!?
「ソーナ!よかった無事だったのね!」
「か、会長────!!ご無事でしたか────!!」
そこにいたのは生徒会長であるソーナ・シトリーさんだ。
会長は自らに駆け寄ろうとする匙を笑顔で迎え…………
「駄目だ匙!!近づくな!!」
「え?」
匙めがけて殺意のこもった水流を打ち込んできた。
「くっ!」
あまりに突然のことで呆然とする匙をかばい、水流を打ち消す。
だが、この威力は今のシトリー会長ではとてもひねり出すことのできない威力だ。もしも匙がこれを食らっていたら、間違いなく致命傷になっていただろう。
「ほう、
シトリー会長は背後に幾重もの水流を作り出し、いつでも打ち込めるようにしている。
それにしてもこの言い回し、普段の会長ならば絶対言わない言い方だ。
「な、なんの冗談ですか会長?どうしちゃったんですか?」
「匙、会長はおそらく操られている。あの女は他者の心を操る能力を持っているんだ」
レイナーレの件からも予想はしていたが、おそらくメロウの
同じ
「ごめんなさいリアス。でもあの人たちの仕事を邪魔されるわけにはいかないのです」
洗脳された影響からか、会長の魔素量が大幅に上昇している。
前はEP1万程度だったのに、今ではライザーと同等のEP7万Aランクオーバーだ。
本来ならばもっと底上げすることもできるんだろうが、恐らくは俺たちとの戦いの前に、できる限り消費を抑えたかったのかもしれない。たとえいくら強化したところで、究極持ちには通用しないと判断しているのだろう。
「イッセー、あなたたちは先に行きなさい」
「部長?」
「ソーナは私の親友なの。親友が操られているのを黙ってみてるなんてできないわ」
「そ、そんな。ま、待ってください。会長と戦うなんて……。」
会長が敵に回ったということを信じたくないのか、匙は躊躇する。
そう言えば匙は会長のことが好きなんだったな。確かに惚れた女と戦いたくないという気持ちも理解できる。
でも……
「匙、覚悟を決めろ。ほれ……主が操られてるのを見てただ黙ってるだけなのか?誰かがやらないと、会長は一生操り人形だ。会長を倒すんじゃない。助けるんだよ!」
俺も同じだ。あの時俺はミッテルトを助けるためにミッテルトと戦った。
本当に惚れてるんなら根性見せろよ。
「兵藤……。わかった。会長が操られたままなんて絶対嫌だ!俺が貴女を助けます!会長!!」
部長と匙は操られた会長と戦うつもりのようだ。部長は滅びの魔力を宿し、匙もデフォルメされた竜の頭のような籠手が装着されている。あれが匙の
『あれは“
五大竜王。ティアマットさんと同じか。
なるほどずいぶん強力そうな代物だな。
「よし、ココは任せたぜ」
俺たちは部長と匙に会長を任せてその場を後にする。
操られてるとはいえある程度自由意志は残してるようだし、親交の深かった二人と戦えば自我を取り戻すかもしれない。実際、レオンさんもミカエルに操られながらも自我を取り戻そうと努力した結果、体の自由はともかく自我は取り戻せたっていうし……。メチャクチャ低い可能性だが、今はそれに賭けるしかないか。
「……見たことない魔法陣だな」
校庭にたどり着くとそこには異様な光景が広がっていた。校庭の中心には四本の聖剣。それが宙に浮いており、校庭には怪しげな巨大魔方陣が全体に広がっている。
魔法陣の中央にはバルパーの姿がおり、何やら怪しげな儀式をしているようだった。
「……で、この魔法陣はいったい何なんすか?」
「この魔法陣は、四本のエクスカリバーを再び一つにするための魔法陣よ」
その疑問に答えたのはメロウだった。
正直言って、エクスカリバー云々はこいつに必要ないだろうと思うんだが……。何を企んでいるんだ?
「さて、まずは様子見だ。地獄から連れてきたペットと遊んでもらおうか」
コカビエルが指を鳴らす。
すると、魔法陣がいくつも展開され、十メートルはあるであろう三つ首の犬が出てきた。
数は十体は超えている。
「ギャオオオオオオオオォォォォォォンッッ!」
三つ首から発せられた咆哮が周囲を震わせる。マンガやゲームでおなじみのケルベロスか。初めて見たぜ。
「本来は冥界に続く門の周辺に生息している生物ですわ。それを人間界に連れてくるなんて……」
朱乃さんは思わず冷や汗をかきながらそう答える。一体一体が
だが、所詮は知恵なき獣だ。恐れる必要はない。
「朱乃さん、小猫ちゃん、木場、ゼノヴィア。みんなそれぞれ一体ずつ相手してくれ……皆なら一対一なら勝てると思う」
「イッセー君たちは!?」
「それ以外をやります」
言い終わると同時にケルベロスたちは一気に襲い掛かってきた。時間は描けられねえし、一気に行くか。
「行くぞドライグ」
『boost!』
俺は拳に魔力を込め、ケルベロスにその魔力をぶつける。
「ヴェルドラ流闘殺法“
インパクトの瞬間、解放された力が一条の光となって数匹のケルベロスを一撃で粉砕した。
それを見たみんなが驚いたような顔をしている。まあ、相手は地獄の番犬ともいわれる魔獣だし、仕方ないけどさ……。
「みんな、とりあえずまだ来るから集中して!」
俺の言葉にハッとなって、皆各々のケルベロスと向かい合う。
「“朧・流水斬”!」
ミッテルトは一閃でケルベロスの三つの首を同時にはねる。首をなくしたケルベロスは力なく倒れ伏せた。
「ランガさんと比べるのもおこがましいにゃ。“仙樹砕牙”!」
黒歌は植物に仙術を使うことで幾千もの巨大な樹木の牙を作り出し、ケルベロスをすりおろしてしまう。仙術は気を流し、自然と一体となることで生命の流れを操作する技だ。それを使えばこれくらいの芸当は簡単だろう。
しかし黒歌よ。ランガさんと比べるのはさすがに酷過ぎるだろうて……。
「ほう、すさまじいな……」
見るとコカビエルの奴が目を輝かせている。
どうやら生粋の戦闘狂みたいだな。
「くっ……」
小猫ちゃんはケルベロス相手に苦戦しているようだ。いつもより精細さが欠けている。
やはり黒歌のことがどうしても気になってしまうようだな。
「なっ……!?」
小猫ちゃんにケルベロスの爪が迫り来る。流しきれなかったのだ。
このままではその爪で無惨にも切り裂かれてしまうだろう。
だがそうはならなかった。黒歌が結界でケルベロスの爪を弾いたのだ。
「今にゃん、白音!」
「っ……」
小猫ちゃんは複雑そうな顔をしながらもケルベロスを殴り飛ばす。その一撃には気操法により小猫ちゃんの魔力が多分に込められており、ケルベロスは苦悶の声をあげる。
「はあ!!」
いや、それだけでは終わらない。鬱屈を晴らすかのごとく怒涛の連打がケルベロスを襲う。最後の一撃でケルベロスは完全に絶命した。
「…………礼だけは言っておきます」
「……どういたしましてだにゃん」
小猫ちゃんはまだ複雑な顔してるけど、それでも今ので少しは歩み寄る気になってくれるといいな。まあ、そう簡単にはいかないだろうけど……。
「はぁ!!」
朱乃さんは冷静だ。ケルベロスの噛みつき攻撃を紙一重で避けながら雷の魔力を溜めている。
ケルベロスは一向に相手に攻撃が当たらないことに苛立ったのか、攻撃のギアを上げていく。
対して朱乃さんは、なんと魔力感知を用いてケルベロスの攻撃を見切ってるようだ。まだ精度は荒いが、自力でたどり着いたのなら大したものだ。
「フフフ、これならイッセーくんの豪速球のほうが全然早いですわ」
そう言いながら朱乃さんはチャージしていた雷の魔力を解き放つ。
「雷よ!!」
ピシャーンと音が鳴り響き、光がケルベロスを丸焦げにした。さすがは女王。
とはいえ相手もエネルギーで大きく朱乃さんを上回る存在だ。どうやらまだ絶命していないようだ。
だが、朱乃さん相手に一撃で絶命しなかったのはケルベロスにとっては不幸だろう。なぜなら彼女は……。
「あらあら。まだ立ち上がるんですの?さすがは地獄の番犬。……どこまで耐えられるか楽しみですわ」
彼女はドSなのだから。嗜虐的な笑みを浮かべた朱乃さんは雷を再びケルベロスに叩き込む。しかも今度は先ほどより微妙に弱い。その分、長時間の持続性が高く、ケルベロスはいまにも気を失いそうだ。
しかし、朱乃さんの雷の電流がそれを許さない。気絶と目覚めのエンドレス状態。ご愁傷さまというか、少し同情してしまう。
「はああああ!!」
木場は魔剣を携えてケルベロスに斬りかかる。
騎士のスピードで翻弄して次々と斬撃を与えていく。斬りつけられた場所が凍りつき、火傷している場所もある。多種多様様々な魔剣を使って翻弄しているのだ。
「“朧流・斬乱影”!」
木場は怒涛の連続義理でケルベロスを叩き切る。今のは間違いなく朧流の剣技だ。木場の奴、いつのまにモノにしてたのか……。ほんと、冷静な時は頼りになる男だぜ。
「それが君本来の力というわけか。負けてられんな!」
ゼノヴィアは木場同様にケルベロスに斬りかかる。
聖剣からなる破壊力抜群の一撃がケルベロスの腹を割る。
傷口からは煙が立ち込め、胴体が大きく消失していく。
「聖剣の一撃は魔物に無類のダメージを与える!」
なるほど。どうやら聖剣は魔に属するものに大ダメージを与えるとは聞いていたけど、ここまでか。
ゼノヴィアの破壊力抜群の斬撃がケルベロスに直撃する。トドメの一撃を受けたケルベロスは体が塵と化して消滅した。効果は抜群だな。
「──完成だ」
瞬間、聞こえて来たのはバルパーの嬉々とした声。バルパーのほうを見ると、聖剣が淡く発行しだした。次の瞬間、神々しい光が校庭を覆う。
あまりの眩しさに俺を含めた全員が顔を手で覆った。まあ、魔力感知で回りの状況は判断できるけどな。
わかる。四本のエクスカリバーが一本に統合される様が。
やがて光は徐々に勢いを失っていく。
そして、陣の中心に青白いオーラを放つ聖剣が現れた。
「エクスカリバー…………ッ!」
木場が憎々しく呟く。
エクスカリバーが統合されたことで笑みを浮かべるバルパー。
「エクスカリバーが一本になった光で下の術式も完成した。あと20分程度でこの町は崩壊するだろう。仕込んだ魔法陣を解除するにはコカビエルを倒すしかないぞ」
「「「!?」」」
バルパーの言葉にこの場にいる全員が驚いた。
急いで魔法陣を解析すると、確かにとんでもない規模の大爆発をする術式が仕込んである。
このままでは町が崩壊するというのも嘘ではなさそうだ。幸運なのはあくまでコカビエルだけで、メロウは含まれていないということか。急がねえとな。
「フリード。邪魔が入らないように、その聖剣で悪魔とエクソシストを始末しろ」
「ヘイヘイ。全く、俺のボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、素敵に改悪されちゃったエクスカリバーちゃんを使えるなんて、感謝感激の極み、みたいな? ウヘヘ! さーて、悪魔ちゃんでもチョッパーしますかね!」
そう言ってフリードは誕生した新たなるエクスカリバーを携え刃を向ける。
それだけじゃない。どうやらケルベロスはまだ控えがいたようだな……。魔法陣からさらに数匹のケルベロスが現れた。
「リアス・グレモリーの騎士。共同戦線はまだ生きているか?」
「……もちろんさ」
「なら、あのエクスカリバーを破壊しよう。私はあくまで核を回収できればそれでいい。何より、あれはもはや聖剣ではない。問題はあるまいよ」
そして二人は魔剣と聖剣をフリードに向ける。
その目からは闘志がみなぎっている。
「ならば、残りのケルベロスは私たちがやりますわ」
「もうへまはしません」
朱乃さんと小猫ちゃんもやる気満々だ。特に小猫ちゃんはさっきので少し吹っ切れたようだ。今なら冷静に戦えるだろう。
「イッセー、あの堕天使はうちがやるっす。イッセーたちはあの女を……」
そう言うとミッテルトは相棒とも呼べる“
これがミッテルトの戦闘形態。完全なる臨戦態勢だ。
「ほう、12枚……堕天使の翼はそのままその者の力量を表すが……元々下級の出の分際でここまで練り上げるとはな……」
「うちは師に……仲間に恵まれたっすからね。その恩恵ってことで……行くっすよ!!」
コカビエルの光の槍とミッテルトの
「さてと、じゃあ……始めるか!」
俺と黒歌はメロウと向かい合う。
改めて凄まじい圧力だ。守護王の皆を相手にしてるかのような威圧感を感じる。
「兵藤一誠、そして黒歌!貴様たちに死の鎮魂歌を奏でてやろう」
「やってみろよ……。行くぞドライグ!」
『おう!』
「
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
籠手の宝玉が赤い閃光を解き放つ。
赤いオーラが激しさを増し、俺の身体を包み込む。
そして、俺は赤い龍を模した全身鎧を身に纏った。
「それが貴様の……」
「
「やれるものならやってみろ!!」
そして俺たちの死闘が幕を開けた。本当の戦いはここからだ。