帰ってきたらD×Dだった件   作:はんたー

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校庭の決戦です

ミッテルトside

 

 

 

 

「ハア、ハア……」

 

うちは堕天刀を杖のようにして身体を支える。内蔵を痛めたためか血混じりの吐瀉物が喉まででかかっているのを感じ、それを無理矢理に飲み込んだ。

……危ない危ない。本当にギリギリだったっす……。

頭がフラフラするし、どうやら血を流しすぎたようすね……。

うちは悪魔族(デーモン)のような精神生命体じゃない。物質体(マテリアルボディー)に囚われているため、このレベルの傷となるとさすがにヤバイんすよね……。

 

 

「ちょっと、ミッテルト!?貴女、腕……大丈夫なの!?」

 

「あ~、問題ないっすよ。後で治せるんで……」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

うちらの家には“完全回復薬(フルポーション)”が隠してあるっすからね。それを使えば死んでさえなければ傷を治すことができる。それができなくてもラミリス様の迷宮で死ねば復活できるっすしね……。

 

「ククク、これが基軸世界の強者の力か……楽しい戦いだったぞ……」

 

「あいにく、うち程度じゃあせいぜい中堅どころっすけどね……」

 

こいつはどうやら基軸世界の強者と戦いたがっていたっぽいすけど、うちと互角程度じゃあ真の強者には通用しない。

 

「さあコカビエルよ。貴様を神の名のもと断罪する。覚悟してもらうぞ!」

 

ゼノヴィアちゃんはそう言いながらコカビエルにデュランダルを突きつける。もはやコカビエルには抗うすべもないだろう。しかし、コカビエルはそれすら愉快そうに笑ったのだ。

 

「何がおかしい?」

 

「いや?滑稽だと思っただけさ。もはや神などいないというのに信仰心を持ち続けるお前らにな」

 

その言葉にここにいる誰もが目を見開く。特にゼノヴィアちゃんはそれが顕著で、大きく目を見開き、震えていた。

 

「主がいない? どういうことだ! コカビエル!」

 

「おっと、口が滑ったな。まあ、もはやどうでもいいか……。先の三つ巴の戦争の時、滅んだのは魔王だけではない。四大魔王と共に神も死んだのさ!!!」

 

「「「なっ!?」」」

 

全員信じられない様子だった。確かにキリスト教の神様が死んでるとなると、こちらの世界の人たちにとっては大問題だ。

 

「神が……死んだ……?」

 

「神が死んでいた? そんなこと聞いたことないわ!」

 

「あの戦争で悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失った。天使も堕天使も幹部以外の多くを失った。どこの勢力も、人間に頼らなければ種の存続が出来ないほど落ちぶれたのだ。だから、三大勢力のトップどもは、神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠蔽したのさ」

 

 

 

ゼノヴィアちゃんはその言葉を聞き崩れ落ちる。

その表情は見ていられないほど狼狽していた。

 

「……ウソだ。……ウソだ。」

 

両膝をつき、ウソだをずっと繰り返す。この子はここまで神様のことを信じてたんすね。だからこそここまでショックを受けているのだろう。

あれ?となると一つ疑問点が……。

 

「じゃあ、今のエクソシストが使ってる聖なる力は何なんすか?ああいう力は信仰心によって上位存在から借り受けてもらえる力だと思うんすけど?」

 

エクソシストが使う光の力は神聖魔法と非常によく似ている。

神聖魔法は信仰の対象から力を借り受けることで発動するのが主。高度な使い手だと自力発動もできるっすけど、今まで見てきたエクソシスト連中はその水準まで至っていなかった。

信仰の対象がいないのならば、あの力はどこからきているのだろうか。

 

「あれはミカエルのおかげだ。ミカエルは良くやっているよ。神の代わりに天使と人間をまとめているのだからな。“システム”さえ機能していれば、神への祈りも祝福も、悪魔祓いもある程度は機能するさ」

 

なるほど。どうやら神様とやらは自分が死んだ後のことも考えていて、それをミカエルという名の天使が引き継いだと……。ミカエルと聞くと別人だとわかっていても身震いするっすね。どうでもいいすけど。

 

「元気出すっすよゼノヴィアちゃん。今はそれについて考えてる場合じゃないっす」

 

そう言いながら見上げるのは、上空で繰り広げられている大激闘。たとえうちが万全の状態でも入り込む余地はないだろう。

 

(どうか無事で……)

 

うちはせめて勝利を祈って見届けることにした。

 

 

 

**************

 

イッセーside

 

 

 

まるでBGMのように音楽が鳴り響く中、俺と黒歌はルミナスさんの同僚だったという女と激戦を繰り広げていた。

 

「どうやらミッテルトはうまくやったみたいにゃん」

 

「当たり前だろ」

 

「ちっ、コカビエルの奴め……だがまあ実験は成功だったようだし、成果としては上々か」

 

どうやらコカビエルは倒したようだな。さすがはミッテルトだぜ。奴が覚醒を果たしたときはさすがに焦ったが、皆のおかげだな。

こちらも負けてられねえ。

ドライグ!

 

『おう!boostboostboostboostboost!!』

 

ドライグの力で俺の力は一瞬のうちに倍加する。

俺は背中のブースターで速度を上げ、メロウの懐に飛び込んでいった。

 

 

「“魔竜崩拳”!!」

 

「“音響振壁(サウンドウォール)”」

 

俺は倍加の力により魔力を高めた一撃をメロウに喰らわせようとする。

だがメロウは慌てることなく指を振るう。

すると、薄い壁のようなものが俺の拳を受け止めた。

 

「なっ!?防御結界!?」

 

いや、感触が違う。これは……空気の膜?

 

「音は空気を伝う振動だ。この技は相手の攻撃の威力そのものを振動として拡散する……。この程度の攻撃で貫けるものではないぞ……」

 

奴の言葉通り、技の衝撃は膜を中心に波紋状に広がり、威力を拡散した。

メロウは不気味に笑いながら、俺に杖での攻撃を仕掛けてくる。

神話級の杖に込められた魔力は、恐らく鎧に身を包んだ俺にも普通にダメージが通るだろう。

こういうタイプの結界は厄介だ。俺の“洋服崩壊(ドレスブレイク)”系統の技は、魂にしろ身体にしろ相手を包み、纏っているものでなければ効果が薄い。

そこへ黒歌は物理ではなく搦め手で攻撃をする。

 

「“毒霧”」

 

「“音響衝撃波(サウンドウェーブ)”」

 

空気の膜すらもすり抜ける仙術の毒は一直線にメロウへ向かう。それをメロウは衝撃波を出すことで相殺した。

永き時を生き抜いただけのことあって高い技量(レベル)を持っているな……。

だがそれは、迷宮で数多の手練れと共に技を磨いたこっちだって同じことだ。

 

「“竜魔断裂斬(ドラゴニックスラッシュ)”!!」

 

俺は手刀による斬撃で音の壁を切り裂く。それをみたメロウは一瞬目を見開くも、即座に杖で防御する。

杖と手刀がぶつかり合い、激しい衝撃がひしめく。

 

「っ!?」

 

瞬間、樹木でできた巨大な腕が複数メロウに襲い掛かる。

一つ一つに破壊の意思が込められており、執拗に奴を追いかける。

 

「あの黒猫か……」

 

黒歌が植物を仙術の力で成長させ、さらにそれを操作しているのだ。

仙術は黒歌の得意とする技で、気を操り生命を操作する力らしい。それに究極の力を加えれば、これくらいのことはなんなくやってのけるだろう。

メロウはこれを危なげなく回避する。

 

「“黒双爪撃”」

 

そのタイミングを狙って樹木の隙間から飛び出した黒歌が、闇爪でメロウの背を攻撃する。ルミナスさんから携わり、クロベエさんの元で新生させた闇爪は無類の切れ味を誇る。

その一撃はメロウの障壁を貫き、頬に傷を与える。

 

「チッ、よくも下等な黒猫ごときが……」

 

メロウは怒りに振るえながら黒歌に音の衝撃波を放つ。

それを黒歌は防御障壁で容易く弾き飛ばす。

 

「“魔仙火車”!!」

 

すかさず黒歌は黒い火車で応戦する。

黒歌の火車は仙術の力で邪な存在を浄化できる技だ。そこに魔の属性を加えることで、聖魔両方にダメージを与える恐るべき技へと昇華させた。

その火力を前に音の障壁は無意味。メロウはその炎を浴びてしまう。

 

「チィ……」

 

だがメロウは水の最上位精霊に近い存在だ。水を呼び出し、究極の権能で強化された仙術の炎をも簡単に消火してしまう。あの炎はベニマルさんの黒炎と同じで簡単には消えないはずだが、さすがはルミナスさんと同格の存在ってところか……。

 

「あのまま行けば燃やし尽くせたかにゃん?」

 

「なるほど手ごわいわね。少なくとも当時の三公筆頭……ギュンターよりもはるかに強い……」

 

メロウはそう言いながら、杖から魔力のこもった音波を放つ。黒歌はそれを結界ですべて防御しつつ、格闘戦を挑んでいる。だがメロウはそれには取り合わず、黒歌から距離をとり、音波攻撃を発する。それの繰り返しだ。

何か企んでいるな……。だが……。

 

「俺がいること忘れるなよ」

 

「……っ!」

 

俺は黒歌に集中していたメロウを背後から攻撃する。洋服崩壊(ドレスブレイク)の発展形である“結界崩壊(プリズンブレイク)”を込めた拳は、メロウの体を覆っていた防御結界を突き破り、ダイレクトでダメージを与える。

だがメロウは地面にたたきつけられることなく、空中で体勢を整える。

 

「ナメるな。“音破水流刃(サウンドカッター)”」

 

そしてカウンターで魔力のこもった水流を放ってきた。

……いや、水流というよりは刃、“水刃”に近い。

どうやら音波による振動も織り交ぜており、さながらウォーターカッターだ。“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”をも切り裂く威力があるだろう。相殺することは難しそうだ。

 

「“覇竜絶影拳(ドラゴニックバースト)”!!」

 

俺はとっさに魔力による衝撃波を放つことで、水の刃の軌道をずらす。

その余波で校庭が真っ二つになったけどみんなは体育館にいるからそこを注意すれば大丈夫か。

 

「考え事か赤龍帝?」

 

うお?あぶねえ。メロウは杖に音波を乗せ、渾身の攻撃を俺に叩き込む。そこから伝う振動は防御していなければ危なかっただろう。それでも俺は結界の端まで吹き飛ばされてしまう。

やっぱり強い……。これがルミナスさんの兄弟弟子の力……。

そもそも無造作に放つ音波攻撃だって、一撃一撃がとてつもない威力を誇っている。

黒歌の結界じゃなければとうの昔に町も巻き込まれ、辺りは地獄絵図となっていただろう。そうなれば我が家まで……。

少し沈んだ気持ちになってくる。今この状況だってもし皆を巻き込んだら……。

 

『おいイッセー!何をぼんやり考えている!』

 

「!?」

 

気付けばメロウの攻撃がすぐそこまで迫っていたのだ。ドライグの叱責でハッとした俺は慌てて上空に飛び上がり、回避する。

何だ今の!?何考えてたんだ!?

体育館や町は黒歌の結界が守ってくれている。黒歌の結界の強度は俺も知ってるからこそこうして全力で戦えているというのに、それなのに不安な気持ちが俺の心を支配していた。

そりゃあ、結界だって万全じゃねえし、そういうこと考えてしまうのは仕方ないけど、今は戦闘中だぞ!

何かおかしいと思い、俺は俺自身に解析鑑定を施してみる。

すると、思考誘導に近い何かが俺に施されていたのだ。

おそらくBGMのようにさっきから流れているこの音楽だろう……。

 

「こざかしい真似を……」

 

「気付いたか。“誘発する不協和音(ディソナンストリガー)”。相手の抱いている不安や恐れを増幅させる素晴らしい音楽よ」

 

なるほど。それで急に不安が俺の精神を支配したのか……。恐ろしい技だぜ。そんなことされればいつも通り闘うなんて不可能になる。ドライグがいなければ危なかったな。

 

「うぅ…………」

 

うなり声のするほうを見ると、黒歌が青い顔をしながら頭を抱えていた。

すかさずメロウは笑みを浮かべ、音波攻撃を黒歌に放つ。

 

『boostboostboostboostboost!!』

 

俺は全速力で攻撃の先回りをし、音波攻撃を防御した。

 

「黒歌!気をしっかり持て!!」

 

「う、うん。ありがとにゃんイッセー」

 

まだ青い顔をしてはいるが、それでもなんとか抵抗(レジスト)はできたようだな。小猫ちゃんをチラ見していたところを見るに、おそらく小猫ちゃん関連の不安を増幅されたと言ったところかな。

実際こっちの世界に来ることすらためらっていたのだ。俺以上に効果があったことだろう。

だがそれにしてもだ。究極保持者の精神にまで影響を及ぼすとか、なかなかとんでもない権能だな……。

俺は奴に対しての警戒を強めながら魔力を拳に込める。

 

「いくぞ黒歌!」

 

「わかってるにゃ!」

 

俺と黒歌は接近戦による集中攻撃を仕掛け、メロウはそれを必死にかわそうとする。

今までの戦闘で分かってきたが、メロウは接近戦の技術(レベル)も高いが、基本的に中距離からの攻撃を得意としているようだ。少なくとも肉弾戦ならば俺や黒歌に分がある。

 

「ふん」

 

「うお、あぶねえ!」

 

メロウが距離を離し、再度音波による攻撃を仕掛ける。それを拳や結界で防ぐという攻防の繰り返し。

奴を追い詰めているのは間違いないが何か違和感がある。

どうも先ほどからこいつは防がれることを前提として攻撃を放っている節がある。何を企んでるのか。その答えはすぐに出た。

 

「そろそろ頃合いか……」

 

メロウが狂気的な笑みを浮かべながら指揮棒を掲げる。ゾクっと嫌な予感がした俺たちは防御体勢になる。

だがそれを嘲笑うかのようにメロウは魔素を高め、それを解放した。

 

 

「“鳴動震動音波(サウンドブレイク)”!」

 

 

ズゥゥン!!

 

瞬間、凄まじい高音と共に大気が震える。

その衝撃は俺の鎧と黒歌の結界をいともたやすく貫き、凄まじいダメージを俺たちに与えた!

 

「ぐわ!?」

 

『こ、これは!?』

 

「がは!?」

 

な、なんだ今の一撃は!?黒歌の万能結界と俺の“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”を貫きやがった!?

メロウの必殺の一撃は黒歌の身体をボロボロにし、俺の鎧を大破させたのだ。

その様を見ながらクスクスとメロウはおかしそうに笑う。

 

「お前たちに放った音の震動は消えたわけではない。それはずっと貴様たちの体に溜まっていたのよ。それを共鳴、共振させることで、内部から貴様の身体と魂を破壊したと言うわけさ……」

 

ぐっ、なるほどな。ずっと防御してたとはいえ今まで結構奴の攻撃を喰らっていたからな……。それを体内で増幅させれば、凄まじい威力になるのも道理と言うわけか……。

奴の攻撃を防御してたとしても、それはこの技の威力が上がるだけ。これからはできる限り攻撃を喰らってはならないと言うことだな。

なにしろ今の技、身体はもちろん精神体(スピリチュアルボディー)にまで響いてきやがった。えげつない技だぜ……。

俺の心を覗いてみるとドライグにまでダメージが通ってやがる。

 

(ドライグ、まだ行けるか?)

 

『当然だ!』

 

俺はドライグの返事を聞くと、再び“赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)”を発動する。赤い鎧が俺の身体を纏い、体勢を立て直す。

 

『boostboostboostboostboost!!』

 

鳴り響く機械音と共に再び俺の力は倍加されていく。

初速から音速を越える俺の速度にメロウは目を見開く。

 

「驚きね。並みの聖人や魔王なら、今の一撃で消滅するというのに……」

 

「あいにく並みじゃない人たちにさんざん鍛えられてきたからな!」

 

メロウは俺の攻撃を躱しながら音波攻撃を仕掛けてくる。

ワンパターンな奴だ。

 

「もう喰らわねえよ!」

 

俺は奴の攻撃を回避しながらメロウに殴り掛かる。

 

「どうやらそれがお前の最大速度のようだな」

 

メロウは余裕をもって俺の拳を防御しようとする。

……かかった。

俺は今までドライグの倍加の力しか使ってこなかった。だからこいつは今の俺の力が最大だと勘違いしているのだ。

 

「ブースト!」

 

「!?」

 

瞬間、さらに加速した俺の一撃にメロウは反応することができず、俺の拳は奴の腹にめり込ませた。

これが俺の切り札の一つ。 国津之王(オオクニヌシ)による“多重倍加”だ。

俺の究極能力、 国津之王(オオクニヌシ)にはドライグに頼らずに力を倍加するという権能がある。

普段ドライグの力を使い続けていたからこそ、その力が俺の魂に刻まれ、権能に取り込まれたのではないかというのがリムルの仮説だが、ドライグの力を借りない分、俺自身の魔力を消費しなければならず、今の俺には負担が大きい技だ。

だがドライグの倍加とは別枠になるというメリットがあり、ドライグの最大倍加からさらに力を上乗せすることができるのだ。

今までドライグの力だけで戦ってきたため、奴は俺の力を見誤った。その差が奴に一撃を与えたのだ。

 

「グっ、おのれ……」

 

そして今の強化された一撃で、とうとう()()()をこいつにぶちこむことができた。

俺は笑みを浮かべながら指で音を鳴らす。

 

「喰らえ!“洋服崩壊(ドレスブレイク)”!!」

 

瞬間、メロウの衣服が弾け飛び、その未熟な肢体が露となった。

 

「は?」

 

いきなり衣服が弾け飛び、困惑した様子を見せるメロウ。

さっきまではこいつの身を守っている防御結界に阻まれて使用困難だったのだが、最大出力まで倍加したことで洋服崩壊の性能も上がり、結界ごと破壊することに成功したのだ!

今のうちに脳内保存しなければ……。

 

「訳のわからん技を……」

 

メロウは羞恥で少し顔を赤くしながらも、悪魔族(デーモン)と同じ物質創造で衣服、ついでに結界を再構成する。

その間わずか一瞬にも満たないが、それだけあれば十分だ。

 

「今だ黒歌!!」

 

黒歌はその一瞬の隙をつき、メロウに気を叩き込もうとする。

だがメロウはそれに対し、カウンターの姿勢をとる。

 

「馬鹿め!気づかないとでも思ったか!!」

 

メロウは自らに迫ってくる黒歌に振動を重ねたウォーターカッターで迎え撃つ。

その威力たるや凄まじく、衝撃が大気を切り裂くほどだ。

その必殺の意志が込められた一撃は、見事に()()()()()()()()()()()()

 

「なに!?」

 

必殺の一撃がすり抜けたことに驚愕するメロウだが、そんな暇はなかった。

死角となっていた背後から本物の黒歌の一撃が叩き込まれたのだ。

黒歌は元々魔法使い型(ウィザードタイプ)。肉弾戦以上に魔法や仙術を得意としている。自らを模した幻影を作り出すなど簡単なことなのだ。

 

ザン!!

 

背後からの闇爪の一撃は見事にメロウの左腕をえぐり取った。それをメロウは信じられないといった風な表情で眺めている。

 

「ば、馬鹿な……この私が幻や分身体などに惑わされるはずが……」

 

「どうやら私の力を甘く見すぎてたみたいね」

 

普段のメロウなら、本人の言うように幻や分身体で惑わすことなどできなかっただろう。

だが黒歌は先ほどの肉弾戦による攻防のさなか、仙術により気をメロウに送り続けていたのだ。

その気はごくわずかなもので、メロウの通常攻撃の魔力を乱すほどの力はない。しかし、微弱な魔力しか必要としない魔力感知の質を乱すには十分なのだ。

メロウは自分の魔力感知の精度が落ちていることに気付かず、まんまと黒歌の罠にはまってしまったのだ。

メロウは憤怒の形相で黒歌をにらむ。それだけで射殺してしまいそうな形相だ。

 

「貴様といい、ルミナスといい、貴様らはことごとく私をイラつかせてくれるな……」

 

髪の毛をワシャワシャ掻き乱しながらメロウは鋭い眼光を放つ。

コイツとルミナスさんとの間に何があったのかは知らないが、相当ルミナスさんを憎んでいるということか。どうりでさっきから隙あらば優先して黒歌ばかりを狙うわけだ。

メロウは右手で指揮棒を振るうとあたりの音楽の曲調が変わる。すると失われた左腕がみるみると回復していった。

 

「絶対に殺す!貴様ら全員皆殺しだ!!」

 

奴はさらに魔力を高め、それを指揮棒の先端に宿す。曲調も激しく、悍ましい音だ。どうやらコイツの奥の手ってところかな。

 

「死ね“破滅と破壊の葬送曲(デストラクションレクイエム)”!!」

 

「「っ!?」」

 

神話級の指揮棒から解き放たれた究極の破壊の音は、一直線に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

コイツ……。俺たちがかばうことを知りながらやりやがったな!いくら黒歌の結界があるとはいえ、この威力を防ぎきれる保証はない。

 

「ドライグやるぞ!黒歌、受け取れ!」

 

『Transfer!』

 

「ありがとにゃイッセー、ドライグ」

 

黒歌に『赤龍帝の贈り物』を使うことで、一気に黒歌の力を上昇させる。

俺たちは最大速度で先回りをし、結界を張りなおす。

 

 

ドオオオォォォン!!

 

 

 

究極の結界と究極の破壊音が激突する。そのすさまじい衝撃に部長たちは思わず吹き飛ばされそうになる。

 

「きゃあ!?」

 

くそ、なんて威力だよ。黒歌が直で結界に力を込めているというのに、結界がガリガリ削られていく。

いや、まるで触れた端から分解されているような感じか?

 

「無駄だ!その音の振動は文字通りすべてを塵と化す!いかに強固な結界といえど、そう簡単に防げるものではない!」

 

音の振動ですべてを分解するってか!厄介な技だな!

俺と黒歌の二重結界でも防御することは厳しそうだ。かといって今よけたら皆に当たっちまう。どうすりゃいいんだよ!?

 

「イッセー!」

 

「!?ミッテルト……」

 

後ろからミッテルトの声が聞こえてくる。振り向くとミッテルトはなけなしの魔力を手に集中させていた。あいつ、まさか……。

 

「うちの最後の魔力、受け取ってほしいっす!」

 

そう言うや否やミッテルトは振り絞った魔力を俺たち二人に譲渡した。あいつ、無茶しすぎだろ。こんなにぼろぼろの状況じゃあ、スキルを発動するのだってつらいはずなのに……。

 

「ちょ、ちょっとミッテルト!?」

 

「しっかりしてください」

 

ミッテルトは魔力を俺たちに譲渡し終わると同時に倒れこむ。

思わず駆け寄ろうとすると、ふとミッテルトと目が合う。その目は強い覚悟と信頼のこもった眼差しだった。

ほんと、俺にはもったいないくらいのいい女だよな。

 

「負けてられねえな!黒歌!!」

 

「わかっているにゃ!!“災禍天福”!!」

 

黒歌はミッテルトからもらった魔力を結界に込め、さらに自らの切り札である“災禍蓄積”を解放し、結界の強度をさらに高めた。

 

「うにゃあ!!!」

 

気合いと共に魔力が弾け飛ぶ。

黒歌の結界は見事にメロウの一撃を防ぎ切ったのだった。

それを見たメロウは目を大きく見開き、狼狽する。

 

「そ、そんな馬鹿な!?ルミナスを屠るために編み出した技なのだぞ!?奴ならまだしも配下ごときに……」

 

黒歌の“災禍蓄積”という権能は、受けたダメージを電流として翼に蓄電するというフレイさんの権能と似ている。その力は受けたダメージを蓄積するというものだ。

もちろん蓄積するだけでなく、“災禍天福”を使うことで魔力や仙術に使う“気”に変換し、自らの力に変えることもできる。

受けたダメージが消えるといったことはないものの、一撃で殺さない限り強化されるこの力は、非常に面倒で恐ろしい権能だと思う。

メロウは先ほどの技で黒歌に大ダメージを与えた。あの威力のダメージを魔力に変換し、それを結界に注いだならば、結界の強度もいかにばかげたものかわかるというものだ。

 

「今にゃん!イッセー!!」

 

「!?」

 

俺は呆けたメロウの目の前に立った。拳にはミッテルトから託された魔力がこもっている。

 

『boostboostboostboostboost!!』

 

ミッテルトから託された魔力を圧縮し、倍加する。それにより、ミッテルトの魔力が膨大なものへと跳ね上がった。危険を察知したメロウはとっさに逃げようとする。

だがそれはかなわぬ夢となった。とっさに放った黒歌の“気”がこもった魔力弾がメロウに命中したのだ。

“災禍天福”により強化された魔力弾は、魔力よりも仙術の力が込められていた。その一撃はメロウの体内の魔力や気の流れを完全に乱してしまったのだ。これで回避も防御もできないだろう。

それに気付いたメロウは顔を青ざめさせ、叫び出す。

 

「ふ、ふざけるなああああ!!私はこんなところで終わらんぞ!!ルミナスを血祭りにあげるまで私は……」

 

「悪いけど、これで終わりだぜ!!

ヴェルドラ流闘殺法“赤覇竜滅爆炎掌(ドラゴニックブレイク)”!!」

 

瞬間、爆炎が視界を覆う。究極まで高まった一撃は土壇場で作ったメロウの結界を貫き、直線に会ったすべてを焼き尽くす。

煙が晴れるとえぐり取られた校庭があり、そこには全裸で倒れ伏すメロウの姿があった。

 

 




メロウ
種族 水精人(セイレーン)
EP 402万1861(人魚姫の指揮棒(マーメイドタクト)+200万)
加護 神祖の加護
称号 神祖高弟第6位
究極能力(アルティメットスキル) 麗歌之王(セイレーン)
魔王覇気、思考加速、空間支配、思考操作、感情操作、身体操作、魅惑の美音、音響操作

神祖トワイライト・バレンタインの高弟第5位にして人魚、魚人といった種族の祖。
神祖に心酔しており、神祖の娘であるルミナスに対して激しい憎悪を抱いている。
神祖の高弟の中で最も早く究極能力を手に入れた存在でもあり、音と振動を操るその力は様々な効果を持つ。
音の振動による破壊の力以外にも、その音色で相手の精神に干渉し、他者を操ることもできるが究極能力を手に入れるまでに精神と魂を鍛えたものには効果が薄く、精々が思考や感情を誘導するのが精一杯である。そのため、今回は真っ向勝負するしかなかったが本来ならばその操作能力は並みの聖人や魔王種程度なら自由に操ることができるほど強力なものである。
名前の由来はそのままアイルランドの民話に登場する人魚「メロウ」から。
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