イッセーside
オカルト研究部に入部してから早一週間が経過した。
悪魔の仕事である契約などはできないが、それ以外の普通にオカルト研究部らしい活動をしているのだが、それが案外楽しいんだよな。
この世界にも向こうみたいな魔物てき存在がいて、そういうのを調べたりするんだが、元々
……向こうでは時折ラミリスさんやヴェルドラ師匠の無茶苦茶な思い付きに巻き込まれたりで大変だったしなぁ。
「イッセー、ミッテルト。少しお願いがあるんだけどいいかしら?」
「「はい?」」
部長からのお願い?なんだろう?
「悪いんだけど、このチラシ配るの手伝ってもらえないかしら?ちょっと多めに作りすぎちゃって……」
そういって渡されたのは大量のチラシだった。
内容は悪魔の契約に関するもので、転移型の魔法陣が書いてある。
なんでも、昔ならともかく魔術などの廃れた現在では悪魔召喚のための魔法陣を書くことができる人がほぼいないため、この簡易型の魔法陣を配っているんだとか。
「もちろん。お安いご用ですよ」
「まあ、別にいいっすよ」
「ありがとう。今日は日照りが強くてあまり外に出たくなかったから」
引きこもりみたいなこと言ってらぁ。
まあ、悪魔は陽光苦手らしいし最近確かに日照り続き……。
仕方ないっちゃ仕方ないか……。
*******
「ふう、だいぶ配ったかな?」
山盛りあったチラシの山もかなり少なくなってきた。
ミッテルトが頑張ってくれたお陰だな……。
なんか、俺が配ってるよりもミッテルトが配る方がチラシの方がすごい勢いで減っていくのが悲しくなるけど……。
「さてと、少し休憩しないすか?」
「そうだな……。小腹も空いたしなんか買うか……」
そうと決まれば何を食べるか……。ここはマクドにでもしとくか……。
「はわ!?」
ドシャっとすごい勢いで倒れる音と、すっとんきょうな声が聞こえてきた。
俺とミッテルトは振り返り、声の聞こえてきた方を見る。
そこにはシスターらしき人が盛大に転んでいた。
「大丈夫ですか?」
「怪我してないっすか?」
顔から盛大にこけてたけど大丈夫かな?
そう思いながら俺は転んだシスターに手を差しのべる。
「あ、ありがとうございます」
か、可愛い!!
顔を上げたシスターの容姿に俺は素直にそう思った。綺麗な金髪に透き通るようなエメラルドグリーンの瞳、何よりこの弱々しくて守ってあげたくなるような感じ……。
今までにないタイプの女の子だ。
「イッセー?」
はい、スミマセン。
ミッテルトはこういう時勘が鋭いんだよな……。
「あ、あの……、どうかしたんですか?」
「いやいや、なんでもないっすよ。あ、大変そうっすし手伝うっすよ」
ミッテルトが彼女がばら蒔いたであろう荷物をトランクケースに入れながら答える。
俺も手伝おうかな……って!?
手伝うつもりで俺は近くにあった布切れを拾う。最初はハンカチか何かと思ったが、その純白のフォルムを見てなんなのかを悟る。
こ、これはぱ、パンツ?
「はわ!?」
彼女は俺がパンツを拾ってしまったのを見るが否や凄まじい勢いで俺からパンツをひったくり、それをトランクケースに入れた。
「お、お見苦しいものをお見せしました……」
いえ、とんでもない。しっかり網膜に焼き付けました。
しかも彼女がしまうとき、彼女が履いているものもチラッと見えたし……眼福です。
「また変態的なこと考えてるっすね……」
そしてそれをまたもミッテルトに諫められる。
なんか最近こういうの多い気がする。
ミッテルトは俺のことをジトーとした目で見つめてくる。
「い、いや別に……。そ、それよりもけ、結構な荷物だけど……旅行?」
俺は慌ててごまかすため荷物をトランクケースに積めながら、シスターさんに話しかける。
「いえ、私、この町の教会に今日赴任することになりまして……」
教会?そんなのこの街にあったっけ……。何分13年向こうで生活しててこの2年も通学路やよく行くDVDショップとか、ゲーセンとか娯楽施設くらいしか行ってないからな……。
そういえばあったようななかったような……。
「教会ならうちが知ってるんで案内するっすよ」
「本当ですか!ありがとうございます。
実は……私、この町に来てから困ってたんです。道に迷ったんですけど、言葉が通じなくて……。やっと、言葉が通じる方が見つかって本当に助かりました」
あ、そうか。俺達には魔法があるから普通に彼女の言っている言葉が理解できるけど、見るからに外国人だしな……。
日本語話せなくても無理はないか……。
「うわぁぁぁん」
ミッテルト主導のもと教会に向かおうとすると子供の泣き声が聞こえた。
鳴き声のした方を見ると見ると、転んで擦りむいてしまったのか一人の男の子が膝から血を流して、泣いていた。
すると、それに気づいたシスターさんはその子供の傍へ駆け寄った。
「大丈夫? 男の子ならこのくらいで泣いてはダメですよ」
そう言いながらシスターさんは自分の掌を子供の擦りむいた膝に当てる。
すると、彼女の掌から淡い緑色の光が発せられ、光に照らされた膝の傷があっという間に消えていった。
何だ今の?回復魔法か?
「いまのって……、回復魔法すかね?」
『いや、今のは
俺の持つ“
彼女のもそういった回復型の
向こうの武器にも魔法の籠った武器はあるけど、あんな風に回復する武器なんかは少なくとも俺のしる限りでは存在しない。
「ありがとう! お姉ちゃん!」
ケガが治った子供は彼女にお礼を行って走っていった。
「ありがとう、だってさ……」
俺が通訳すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
俺は彼女の手に視線を移して訊ねた。
「その力って……
「!?知ってるんですか?」
「まあ、多少は……」
「はい。治癒の力です。神様からいただいた素敵なものなんです」
?なんだろう?
口では素敵とか言ってるけどそれにしては何だか寂しそうな表情だな……。
「そっか……、優しい力なんだな」
「……ありがとうございます」
そんな彼女の表情にこれ以上は聞くことができなかった。
「……と、とりあえず案内するっすよ」
この少し重い空気に参ったミッテルトが案内のため立ち上がろうとする。
俺とシスターさんもそれに続く形で立ち上がる……。
グゥ~
ん?すると何処からともなく腹の音が聞こえてくる。
視線を向けるとそこにはとても恥ずかしそうにしているシスターさんの姿があった。
「……案内の前にまずは腹ごしらえをするっすかね……」
*******
というわけで俺達はシスターさん……、アーシアと一緒にマクドにやって来た。
だが、アーシアはなかなか口にしようとしない……。
どうしたんだろう?
「……あの、ナイフとフォークがありませんが……?」
「あ、こうやって手で掴んで食べるんすよ」
なるほど、食べ方がわからなかったのか……。
外国との文化の違いだなぁ……。
「では、手を清めないと……」
そういってアーシアは懐から聖水を取り出す。
……これも文化の違い……なのか?
「さすがにそれは大袈裟っすよ。このウェットティッシュで十分っす」
「あ、スミマセン」
ああ、やっぱりこれはちょっとおかしいよな……。
ルベリオスの聖騎士もしねえよこんなこと……。
アーシアはウェットティッシュで手を一生懸命拭きはじめ、暫くすると綺麗になった手を自慢するかのように見せつけた。
行動が可愛いなこの子。
「美味しいすか?」
「はい!とても!」
どうやらミッテルトはアーシアと打ち解けたみたいだな。
ミッテルトも楽しそうだ。
暫く黙々とハンバーガーを食べていたアーシアは何かを見つけたのかふとそとを見つめ出す。
「?イッセーさん、ミッテルトさん。あれはなんですか?」
「ああ、あれはゲーセンだよ」
「げーせん?」
ゲーセンも知らないのか……。
一体どんなところで育ったんだか……。
「ゲーセンってのはゲームセンター……。友達と一緒にゲームして遊んだりするところだよ」
「友達と一緒に……ですか」
まただ。アーシアはふと寂しげな表情となり、ゲーセンを見つめる。
友達と遊んでいる子供を見つめる目もそんな感じだった。
もしかしたらこの子今まで友達と呼べる存在がいなかったんじゃないか?
……かつてのミッテルトみたいに……。
よし、決めた!
「よかったら、一緒に行ってみる?」
「え、で、でも……。早く教会に行かないと……」
「大丈夫!少しくらい遅れても神様は怒んないって」
実際、ルミナスさんは懐が大きいし多少の愚痴は言うかもしれないけど、本気で怒ったりはしないと思う……。
ここの神様は知らないけどそこまで狭量じゃないだろ。
*******
「ありがとうございます!このラッチューくん一生大事にしますね!」
「あざーす。うちも大事に持っとくっすね」
ゲーセンにて俺は有り金の大半を使いきってしまった……。
クレーンゲームのラッチューくんをアーシアが欲しそうにしてたからとってあげたのだが、それを不満に思ったのかミッテルトも欲しいと言い出して財布のなかはすっからかんである。
トホホ……。
まあ、でもプリクラの写真で二人ともいい笑顔撮らせてくれたしチャラにしてやるか……。
「あ、ここっすよ」
そうこうしているうちにミッテルトの案内のもと、俺達は教会にやってきた。
……ボロボロだな、本当にここなのか?
「間違いありません。ここです。よかったぁ」
「……しかし、ボロボロっすね。人が寄り付くとは思えないっす」
まあ、そうだな。
今までに来た教会が全部綺麗だったから余計にそう思える。
ルミナス教の教会や、リムルは決して近寄ろうとしないリムル教の教会とか……。
「さてと、じゃあ俺達はこれで……」
そろそろ夜も遅いし早く部室に戻らないと……。
「ま、待ってください!ここまで連れてきてもらったお礼をしたいんですが……」
う、それはそそられるな。
アーシアが淹れるお茶とか絶対美味しいやつやん……。
ぶっちゃけ飲みたいけど、なんか部長今日の夜は必ず来いって言ってたしなぁ。
仕方ない、今回は諦めるか……。
「ごめんなアーシア……。今日は予定があるんだ。でも、また必ず遊びに来るからそのときにな……」
「は、はい!今日はありがとうございます!」
俺の言葉に少し寂しそうにしてたが、あとに続いた言葉を聞いてアーシアは花のような笑顔で礼を言った。
これが俺達とアーシアのファーストコンタクトだった。
*******
「もう教会には近づいちゃ駄目よ!」
部室に戻って部長に今回のことを報告すると厳しいお叱りを受けた。
なんでも、教会は三大勢力の一つである聖書の神の陣営の拠点で悪魔や悪魔に関わりを持つ存在が入るとどうなるかわからない……。下手したら両勢力の国際問題にも発展しかねないのだと……。
思った以上に三大勢力の溝は深いのかもしれないな……。
気を付けないと……。
『まあ、安心しろ相棒。例え敵対することになっても魔王も神も向こうに比べれば可愛いものだ』
いや、それでも十分強そうだけどな……。
だって全盛期のドライグやそれと同格の白い龍も封印したって言うし、中々に手強そうである。
できれば戦いは避けたいものだ……。
「……まあ、貴方達は悪魔ではないから大丈夫かもしれないけど、私達と一緒に活動する以上警戒はして欲しいの。わかったかしら?」
「はい!気を付けます!」
「よろしい。じゃあ早速行くわよ」
行く?何処に行くんだろう?
「はぐれ悪魔の討伐よ。ちょうどいいから貴方達に悪魔の戦闘を見せて上げる」
そう言って部長達は外に出るのだった。
そういえばみんなどんな戦い方するのか知らないし、楽しみだな。
俺とミッテルトも彼女達の後を追った。