イッセーside
「神社なんて久々っすね……」
「実際、初詣とかそこらへんくらいしか来る機会ないしな……」
「私は神社、初めてなの」
ギャスパーと打ち解けた次の日、俺は部長に言われて、とある神社を訪れていた。
セラは初めて見る神社に目を輝かせているようだ。
この子、機械だからか知らないけど、凄く物覚えがいい。知らないことの方が多いけど、一度やり方を教えると、それを完璧に覚えてしまうのだ。
「きゃあ!?」
「あ、カマキリっすね。しっしっ!」
だが、そんなセラでも虫嫌いは治らないようだ。カマキリを見るだけで涙目になってしまった。
……それにしても、なんで神社なんだろ?
本来神社は悪魔の入ってはいけない場所の一つだと部長から聞いている。
俺は人間だから普通に入れるけど、部長はいったい何用で俺をここへ呼んだんだ?
「いらっしゃい。イッセー君。ミッテルトちゃん。セラちゃんも」
「あ、朱乃お姉ちゃん」
「あれ、朱乃さん!」
「どうしてここに?」
そこにいたのは巫女衣装を身にまとった朱乃さんだ。黒髪長髪といういでたちの朱乃さんが巫女服を着ると大和撫子って感じがしてとてもいいな。そういえば朱乃さんの異名は“雷の巫女”だったな。
ひょっとしてその二つ名はここからきているのかもな……。
……ていうかアレ?
「朱乃さん大丈夫なんですか?神社なんかに入って……」
朱乃さんたち悪魔は聖なるものを苦手としている。神社や寺院は聖なる力が充満した場所の一つだ。
アーシアもゼノヴィアもお祈りをするたびダメージを食らっている。
さびれた廃教会ならばまだしも、こんな立派な神社は悪魔にとって危ないのでは?と思っていたが、どうやらそうでもないようだ。
「ここは裏で特別な約定が執り行われているので、悪魔でも入ることはできます」
なるほどね。そんなことができるのか。
何事もなく鳥居を潜り抜ける朱乃さんを見て俺は観察する。
もしかしたら、アーシアやゼノヴィアがお祈りしても大丈夫なようにするヒントが得られるかもしれないな。
眼前に立派な神社の本殿が建っている。
少し古さを感じるけど、手入れされてるのか壊れている様子はない。
「ひょっとして、朱乃さんはここに住んでいるんですか?」
「ええ。先代の神主が亡くなった後、無人になったこの神社をリアスが私のために確保してくれたです」
「なるほど」
俺が朱乃さんの解説を聞いて納得していると、気配を感じた。
「あなたが赤龍帝ですか?」
振り向くと、そこには端正な顔立ちをした青年がいた。
ただ、その青年は豪華な白いローブを身に纏い、頭部に天輪を浮かばしていた。
そして、背には十二枚の黄金の翼。
天使……それも幹部級か。殺気はないし、敵意もない。朱乃さんも驚いた様子はないから多分知ってたんだろう。
青年は優しげな笑顔で俺に握手を求めてくる。
「はじめまして赤龍帝、兵藤一誠君。私はミカエル。天使の長をしている者です」
「「ミカエル!?」」
その名を聞いた瞬間、俺たちの中の警戒心はマックスにまで高まった。
******************
俺と朱乃さん、そしてミカエルさんは今、本殿にいる。
神がいない現在、天界側を仕切っているのがこのミカエルさんらしい。会談前に粗相をしてはいけないとは思うのだが……いかんな。別人とわかっていてもなんか警戒してしまうぞ。
それはミッテルトも同じだろう……が、何とかそれを表に出さずにしている。
俺たちは本殿にある布にまかれた物体を中心に向かい合う。これは聖剣か?
「今日、あなたを呼び出したのはこれを授けるためです。お受け取りください」
ミカエルさんの掌から光が発せられる。
すると、本殿の中央にて封じられていた剣が姿を現した。
聖なる波動を宿しており、等級は“
相応の使い手が使い続ければすぐに“伝説級”に至るだろう。
面白いのが刻まれている特性だ。龍に対する特攻といったところかな?相手が竜の因子を持っているものならば、格上にも通じるだろう。
「これはゲオルギウス……聖ジョージといえばわかるでしょうか?彼が龍を退治するときに使った
ゲオルギウスやら聖ジョージとか言われてもさっぱり分からん。
だが、ドラゴンスレイヤーという言葉から察するに、龍を殺すための武器ってことかな?
『まあその認識で会っている。より正確に言うならドラゴンを始末する人間や武器の総称といったところか』
なるほど。
向こうにも悪魔の専門家とかいたし、要するに龍の専門家および、その人たちが使う武器ってことね。
「これを貴方に授けましょう。貴方には剣の心得もあると聞いていますし、きっとうまく扱えるでしょう」
「でも、どうして俺に?」
これってかなり貴重なものなんじゃないのか?
俺は人間だが天使にとって敵である悪魔の眷属の候補だ。しかも、大昔に迷惑をかけたドライグを宿している。
敵にこんなものを渡してしまっても良いのだろうか?
そう考えていると、ミカエル……さんは微笑みながら答える。
「私は今度の会談が三大勢力が手を取り合う大きな機会と考えているのですよ。大戦後、大きな争いは無くなりましたが、ご存じのように三大勢力の間で小規模な鍔迫り合いがいまだに続いています。この状態が続けばいずれ三大勢力は滅ぶ。いえ、その前に横合いから他の勢力が攻め込んで来るかもしれません。その聖剣は、私から悪魔サイドへのプレゼントの一つです。ほかの方にも似た品を渡しておりますし、堕天使側にも贈り物をしました。こちらとしても、噂の聖魔剣を数本譲り受けましたしね……」
他の勢力っていうと、ギリシャ神話とか日本神話とかか……。
確かに全神話の中でもトップの勢力を誇る聖書の三大勢力がふたを開けてみると王が死んで小競り合いが多いなんて状態を知られれば攻め入ってくる可能性もあるってことだ。
それを防ぐため、三大勢力の和平が必要不可欠であると……。
ミカエルさんから聖剣を受け取ると、ミカエルさんはそれを見て微笑みながら話を続ける。
「過去に一度だけ、三大勢力が手を取り合ったことがありました。赤と白の龍を倒したときです。赤と白の龍は我々の戦争に乱入し、戦場を乱しに乱してくれましたからね」
おい、言われてるぞドライグ。
『さて、なんのことやら……』
ドライグは俺の意識の中でとぼけたようにそう言う。ミカエルさんからは見えないし聞えないだろうが、俺には目線をそらし、冷や汗を流してる姿も見えているからドライグ自身もいたたまれない様子だ。
「あの時のように再び手を取り合うことを願って、あなたに────赤龍帝に言わば願をかけたのですよ。日本的でしょう?」
なるほど。
そういうことなら喜んで受け取ろう。基本的に俺が使うのは拳法だが、朧流もちょこっとだけ納めてはいる。
俺も自分の剣は欲しかったし、ちょうどいいや。
「分かりました。ありがたく頂くことにします」
「では、赤龍帝の籠手を出して同化させてみてください」
同化?
そんなことが出来るのか?
『相棒も知っての通り、神器は想いに答える。お前がそれを望めば不可能ではないさ』
なるほど。まあ、確かに
俺は籠手を展開して宙に漂う聖剣を左手に取る。
『相棒、赤龍帝の籠手に意識を集中させ、アスカロンを神器の波動に合わせてみろ』
了解。
俺は“赤龍帝の籠手”に意識を集中させ、神器と聖剣の波動を合わせる。
聖なるオーラが神器に流れ込んでくる。聖なる力が徐々に籠手に馴染んでいく。ドライグが聖剣の力を取り込んでいってる感じだな。
そして、カッ!と赤い閃光を走らせると、籠手の先端からアスカロンの刃が生えていた。
なんかかっこいいな。
神器と聖剣の融合。何やらロマンがあふれてやがる。
「上手くいって良かったです。そろそろ時間ですし、私は行かねばならないのでここで失礼します」
そう言いながらミカエルさんはこの場を立ち去ろうとする。
……ってあ!そうだ!うっかりしていた。
天使側の重鎮とあったら一言申したいことがあったんだ!
「あの、ミカエルさんに聞きたいことがあるんですけど!」
「会談の席か、会談後に聞きましょう。必ず答えますので安心を……」
そう言うとミカエルさんの全身を光が包み込み、一瞬の閃光の後、ミカエルさんの姿は消えていた。
******************
「お茶ですわ」
「ありがとうございます、朱乃さん」
ミカエルさんが去った後、俺は朱乃さんが生活しているという境内の家で一息ついていた。和室に通され、茶道的なおもてなしを受けている。
ミッテルトは今セラと共に神社のなかを見物している。
お社の中に入るなんて滅多にないからか、とても楽しそうだ。
朱乃さんが入れてくれたお茶を、俺は器を回したのち飲んでみる。茶の類は以前練習したことがあるからある程度の作法はわかるのだ。
うん、苦みがいい味出しててかなり美味しい。茶に関してはシュナさんと比べても引けを取らないと思う。
「朱乃さんはミカエルさんとアスカロンを?」
「はい、この神社でアスカロンの仕様変更術式を行っていたのです」
まあ、龍殺しの聖剣をドラゴンが使えるようにするって大変そうだしな……。死霊が聖なる技を使うのに特殊な工程が必要なのと同じで相応の準備が必要なのだろう。
なんか、部長も朱乃さんも大変だな。
三大勢力の会談の打ち合わせやセッティング。それに加えてこのアスカロンと、あっちこっちで仕事をこなしてる。
俺も手伝いたいけど、正直三大勢力の実情がわからない以上、下手に手を出すとかえって足を引っ張りかねない。
こんなことなら、地球の裏事情の話、もう少し詳しく聞いとくんだった。
異世界人の中には地球の裏にかかわっていた人なんかも稀にいるし、ミリムさんのところに住んでいる八重垣さん夫婦なんか、元エクソシストに元上級悪魔だって話だし、もしかしたらこういう事情に詳しかったのかもしれない。
まあ、あの人は元の世界の話をあんまりしたがらないけど、それでも情報収集くらいはちゃんとしとくべきだったな。
『もともと裏にかかわる気は毛頭なかったわけだし、仕方ないんじゃないか?』
それはそうだけどさ……。ま、過去を悔やんでも仕方ない。これから学んでいけばいいんだから。
ここで俺はあることを思い出す。ミッテルトが言っていたんだが、コカビエルの発言で気になってたことがあるんだ。
「あの、ひとつ聞いても良いですか?」
「なんでしょう?」
「……以前から、朱乃さんからは悪魔以外の、ミッテルトに似たオーラを感じてたんです。コカビエルも言ってたし、もしかして、朱乃さんって堕天使の幹部の……」
俺の問いに朱乃さんは表情を曇らせる。
「……そうよ。もともと私は堕天使幹部のバラキエルと人間の間に生まれた者です」
やっぱり、そうなんだ。
初めて会った時から堕天使の気配は感じていたし、うすうすそうなんじゃないかとは思っていた。
だが、その力を全くと言っていいほど使わなかったことから、何やら訳があるんじゃないかとは思っていたんだが、朱乃さんの表情を見るに思った以上に根深そうな問題なようだ。
「母はとある神社の娘でした。ある日、傷つき倒れていた堕天使幹部のバラキエルを助け、その時の縁で私を身に宿したと聞いています」
なるほど。朱乃さんも複雑な家庭事情があるんだな。
父親のことを言われて激昂したとも聞いたし、親子仲は悪いのかもしれない。
そんなこと考えていると、朱乃さんは巫女服の上を脱いだ。
そして、朱乃さんの背中から現れたのはいつもの悪魔の翼ではなく、片方が悪魔の翼ともう片方が堕天使の黒い翼というものだった。
「汚れた歪な翼、私は悪魔の翼と堕天使の翼、その両方を持っています。堕天使の翼が嫌で私はリアスと出会い、悪魔となったの。でも、その結果、生まれたのは堕天使と悪魔の翼を持ったおぞましい生き物。ふふ、この身に汚れた血を持つ私にはお似合いかもしれません」
そう言って自嘲する朱乃さん。
その姿はとても痛々しく思えた。
「俺はそうは思いません。少なくとも、俺は朱乃さんの翼、カッコいいと思いますよ」
俺は素直に思ったことを口にする。
すると朱乃さんは驚いたような表情をする。
「朱乃さんはミッテルトのこと、どう思ってます?」
思えばミッテルトの初カミングアウトの時、一番警戒していたのは朱乃さんだった。
恐らく、最初はいいイメージを持ってなかったんじゃなかろうか……。
でも今は……。
「……最初は堕天使、ということでいい思いは抱かなかった……けど、今はとても素敵な子だと思っているわ」
「でしょ。俺は堕天使だろうが、悪魔だろうが、人間だろうが大事なのはその人がどういう人なのかだと思ってます」
朱乃さんは自らの非対称な翼を歪な汚れた翼と称していたが、俺は別に朱乃さんが汚れてるとも歪だとも思えない。
「誰の血を引こうが、朱乃さんは朱乃さんだ。他の誰でもない。俺にとって朱乃さんはオカルト研究部の副部長で、とても優しい人で、大好きな先輩です。それでいいんじゃないですか?」
俺の言葉を聞いて、朱乃さんの目からは一筋の涙がこぼれた。
マ、マズイ。泣かせてしまった。どうしよう!?
「す、すみません!泣かせるつもりは……」
俺は地に伏せて朱乃さんに謝罪する。
それを見た朱乃さんは泣きながら笑っていた。
「殺し文句、言われちゃいましたわね。……そんなこと言われたら本気になっちゃうじゃない……」
「あ、朱乃さん?」
朱乃さんは立ち上がると俺に抱きついてきた。
豊満な胸が当たってこんな状況だがとても心地よい。
「ねえイッセーくん」
「は、はい!」
「これから二人きりの時は『朱乃』って呼んでくれる?」
「え?せ、先輩をそんな風になれなれしく呼ぶのは…………」
「……お願い」
そ、そんな潤んだ瞳で懇願されたら……。
いや、まあでも、確かに年上だけど呼び捨てで読んでる奴なんて結構いるし、今更かもしれない。
それでもこれほど美人のお姉さんに呼び捨てってのはかなりハードルが高い。
俺は少し悩んだ後、意を決してつぶやく。
「あ、朱乃……?」
「うれしい、イッセー!」
朱乃さんがさらに俺を抱き締めてくる。
やばい!朱乃さんが超かわいい!
そこにいつもの凛とした副部長の姿はなく、一人の女の子という感じだ!
もしかしたらこちらが朱乃さんの素なのかもしれない……。
やばい!朱乃さんの胸がさっきから押し付けられてる!たわわなおっぱいが超絶やわらかい!
しかも今の朱乃さんは上は裸みたいな状態だから、直で当たってるよ!
「あ、朱乃……?何を!?」
「いいから」
朱乃はそのまま俺を膝へと誘導し、膝枕の体制にした!感無量だぜ!
袴腰でもわかる太ももの柔らかさ。たまらねえ!
「うふふ。なんだかいけないことをしてる気分。イッセー君、気持ちいい?」
ああ、至福だ。
だが、これってミッテルトに見られたらまずいんじゃ……。
「そうと自覚してるなら自重してほしいっす」
「ほしいの!」
言ったそばから……。
勢いよく扉を開けたのはお怒りの様子のミッテルトだ。
何やら仁王立ちして異様なオーラを放っている。
ちなみにセラはよくわかってないようだが、ミッテルトの真似をしてる。可愛い……じゃなくて!?
「み、ミッテルト!こ、これはその!」
ミッテルトはオーラを霧散させてあきれた様子を見せてため息をついた。な、なんだ?
そしてそのまま、朱乃の前に向かい合うように座った。
「まあ、イッセーは後で処すとして……」
あ、処されるのは確定なのね。
「朱乃さん。ありがとうっす。うちを受け入れてくれて……堕天使のうちを……」
その言葉を聞いて、朱乃は驚いたように目を見開く。
「き、聞いてたの?」
「ごめんなさい。少しタイミング見計らっちゃって……。堕天使のうちが言っても嫌かもしれないっすけど、うちも朱乃さんのこと好きっすよ」
「……私も、堕天使は嫌いだけど、ミッテルトちゃんのことは大好きよ」
「ありがとうっす」
朱乃の言葉にミッテルトも笑顔で返す。
そこからは朱乃とミッテルトの女子トークが始まった。
俺は膝枕からは解放されていたので、取り敢えず手持ち無沙汰となったセラと遊びながらそれを隅から眺めていた。
朱乃も付き物が落ちたように楽しそうにしてるし、ミッテルトも同様だ。
かくして、俺たち三人は今まで以上に親睦を深めることができたのだった。
・・・・・・・なお、帰宅時、ミッテルトにぶっ飛ばされたことをここに追記しておくことにする。