リアスside
魔方陣で転移すると、テーブルだらけの場所にいた。
この場所には見覚えがあるわ。何度も皆と来たことがあるもの。
「駒王学園近くのデパートが舞台とは、流石に予想してなかったわね」
そう。ここは駒王学園の近くにあるデパートだった。
どうやら私達は飲食フロアに転移したようね。
『皆さま、このたびはグレモリー家、シトリー家の“レーティングゲーム”の審判役を担うことになりました、ルシファー眷属“女王”のグレイフィアでございます』
アナウンスはフェニックス戦のときと同じでグレイフィアが担当するみたいね。
『我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアスさまとソーナさまの通われる学舎“駒王学園”の近隣に存在するデパートをゲームフィールドとして異空間にご用意しました』
ゲーム会場が見知った場所だから、やりやすいとは思う。けれど、それはソーナも同じ。
地理的アドバンテージは互いに五分といったところね。
このデパートは二階建て。一階と二階は吹き抜けの長いショッピングセンターになっていて、横面積が長い。
屋上と立体駐車場もあるため、全体でみるとかなりの広さね。
『両陣営、転移された先が“本陣”でございます。リアスさまの本陣が二階の東側、ソーナさまの“本陣”は一階西側でございます。“兵士”の方は“プロモーション”をする際、相手の“本陣”まで赴いてください』
私達の陣地とソーナの陣地は端と端。私達の陣地の周りにペットショップ、ゲームセンター、飲食フロアなどが立ち並んでいる。
本陣の下の一回には大手本屋の支店とスポーツ用品店があったはず。
ソーナの陣地には食品売り場と電気屋、ジャンクフードのお店に雑貨品売り場があったはず。
これらをいかに活用するかが重要でしょうね。
グレモリー眷属には“兵士”がいない。
でも、向こうには二人の“兵士”がいる。こちらの数が不利な分、プロモーションされたら非常に厄介ね。
『今回のゲームでは特別ルールがございます。各陣営に資料が送られていますので、ご確認ください。回復品である“フェニックスの涙”は各陣営に一つずつ支給されます。なお、作戦を練る時間は30分。この時間内での両チームも接触は禁止となります。それでは、作戦時間です』
時間は僅か三十分。一分たりとも無駄に出来ないわね。
私は皆を集め、すぐに作戦会議に移った。
「今回の特別ルールは『バトルフィールドとなるデパートを破壊しつくさないこと』。……つまり、派手な戦闘は行うなって意味ね」
「なるほど、私や副部長にとっては不利な戦場だな。効果範囲の広い攻撃ができない」
ゼノヴィアの言うとおりね。
朱乃の広範囲に及ぶ雷やゼノヴィアのデュランダルによる聖なる斬戟波動も使えない。屋上でならば使えるかもだけど、それは相手もわかってるはず。
誘い込むことは容易ではなさそうね。
二人の攻撃は強力な分、周囲への影響も大きい。今回のゲームでは二人の持ち味を活かすことは難しいかもしれないわね。
「困りましたわね。大質量による攻撃戦をほぼ封じられたようなものですわ」
朱乃もそれをわかってるらしく、困り顔で頬に手を当てていた。
裕斗も息を吐きながら意見を言う。
「ギャスパーくんの眼も効果を望めませんね。店内では隠れられる場所が多すぎる。商品もそのまま模されるでしょうし、視線を遮る物が溢れています。闇討ちされる可能性もあります。……困りましたね。これは僕らの特性上、不利な戦場です。派手な戦いができるのがリアス・グレモリー眷属の強みですから、丸々封じられる」
裕斗の言葉にギャスパーの件についてを言い忘れていたことに気付いた。いけないいけない。
私はギャスパーに視線を向けながら、ギャスパーに着いた制限についてを話始める。
「いえ、ギャスパーの眼は最初から使えないわ。こちらに規制が入ったの。『ギャスパー・ヴラディの神器使用を禁ずる』だそうよ。理由は単純明快。まだ完全に使いこなせないからね。眼による暴走でゲームの全てが台無しになったら困るという判断でしょう。しかもアザゼルが開発した神器封印メガネを装着とのことよ。────本当、用意がいいわね」
ギャスパーも色々と頑張ってくれたんだけど、それでもこの合宿中に神器を制御できるようにはならなかった。
イッセーが抜け、更にギャスパーまで規制が入る。なかなか難しい状況ね。ここまでのハンデを負いながら、ソーナに勝つのは難しいかもしれない。
……いえ、弱気になっては駄目ね。イッセーがいなくても私たちはやれるのだということを証明することが今回の戦いの目的なのだから。
「では、ギャスパー君には魔力とヴァンパイアの能力だけで戦うことになりますね」
「そういうことね。元々時間停止はリスクが大きいわ。能力を吸収する神器を持つ匙君が相手側にいるのだもの。例のカウンタータイプの存在もあるし、返し技をされると危険だわ」
今回のゲームは私たちにとっては不利なルールかもしれないわね。でも、これを乗り越えないでゲームに勝ち残ることなんてできない。
レーティングゲームはやり方次第でだれでも勝てる可能性がある。
「今回のゲームは私たちに不利な要素が多いわ。でも、これを乗り越えて、画面の向こうで見守っているイッセーに私たちの成長を見せつけましょう」
「そうですわね。不利なルールもいい機会かもしれませんわね。チームバトルの屋内戦に慣れておくのに今回の戦闘は最適ですわ」
朱乃の言葉に私も頷く。これから先、似たような状況なんていくらでもあるでしょうし、その為の予行演習に今ゲームは最適ね。
「作戦会議を始めましょう。まずは戦場の把握からね。向こうから本陣までのルートを確認しましょう」
「見た感じ、商品や商品棚まで再現されていますわね。ここが、デパートをそのまま再現しているとしたら、もしかしたら駐車されている車も再現されている可能性もありますわ」
「だとしたら、厄介ね」
もし車が再現されてるのなら車に隠れたりすることはもちろん、車を突っ込ませたり、爆弾にしたりと色々利用されてしまうかもしれない。
流石にあのソーナが暴走運転なんて策をするとも思えないけど、確認するに越したことはないのだから。
「部長、屋上と立体駐車場を見てきます。近くに階段がありますから、確認してきます」
「そうね。お願い、祐斗」
裕斗が足早に立体駐車場に向かうのを見送り、私はギャスパーに目を向ける。
「ギャスパーはコウモリに変化して、デパートの各所を飛んでちょうだい。序盤、あなたにはデパート内の様子を逐一知らせてもらうわよ」
「りょ、了解です!」
ギャスパーも気合が入ってるようね。思えばギャスパーはこれが初ゲームだったわね。
その分気合も入ってるのかもしれないわね。
その後も作戦会議は続き、一先ずのプランは決まった。
私は再度、頼りになる皆を見渡した。大丈夫。このメンバーでならば、ソーナが相手でも必ず勝てる!
「ゲーム開始は十五分後ね。十分後に此処に集合。各自、それまでリラックスして待機してちょうだい」
根のつめすぎもよくない。私はソーナとの戦いに備えるのだった。
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木場side
────定刻だ。
僕たちはフロアに集まり、開始の時間を待っていた。
そして、いよいよゲームの開始を告げる店内アナウンスが流れる。
『開始のお時間となりました。なお、このゲームは制限時間三時間の
今回のルールはブリッツか。……ということは短時間で決着をつけることになる。
「指示はさっきの通りよ。祐斗と小猫、ゼノヴィアと朱乃で二手に分かれるわ。祐斗と小猫は店内からの進攻。朱乃とゼノヴィアは立体駐車場からの進攻よ。ギャスパーは序盤、複数のコウモリに変化しての店内の監視と報告。進攻具合によって、私とアーシアも裕斗側のルートを進むわ。いいわね?」
部長の指示を聞き、全員耳に通信用のイヤホンマイクを取り付ける。
「さて、可愛い私の下僕悪魔たちっ!相手はソーナ!ある程度の情報は向こうも持ってるでしょう。それでも勝つのは私達よ!私達グレモリーの力を見せつけてやりましょう!」
『はいッ!』
全員、気合が入っていた。当然だ。
部長のためにも、イッセー君に強くなった僕たちを見てもらうためにも、このゲームは絶対に負けられない。
「それじゃ、ゼノヴィアちゃん、行きましょうか」
「ああ、よろしく頼むよ。副部長」
朱乃さんとゼノヴィアはフロアを飛びだし、立体駐車場へと向かっていく。
立体駐車場には車もあったけど、張りぼての作り物だったから、車を使っての突貫はない。
パワーのある前衛のゼノヴィアと後方から高威力の魔法を放てる朱乃さんの二人ならば早々遅れは取らないはずだ。
「小猫ちゃん、僕達も行こう」
「はい」
僕と小猫ちゃんも本陣を離れて店内を進む。
小猫ちゃんが本来の力、猫又の力を使うことは眷属の皆が知っている。
小猫ちゃんはお姉さんである黒歌さんとともに修行をしたことで、仙術の力がだいぶ強化されているらしい。頼もしい限りだね。
そんな小猫ちゃんはさっそく猫耳を出して、周囲を警戒しながら進んでいる。
僕と小猫ちゃんは店内に足音が響かないように細心の注意を払いながら、歩を進める。
ここは横に長い一直線のショッピングモール。気付かれないためにも物陰に隠れながら進むしかない。
とはいえ、それは向こうも同じはず。僕たち二人は陽動だ。
仙術で相手の位置や場所をつかめる小猫ちゃんの力で正面から距離を詰めていく。その隙に朱乃さん達が会長の喉元まで進んでいく手はずになっている。
「どうだい、小猫ちゃん?」
「……動いてます。真っ直ぐこちらに向かってきている者が二人」
流石だ。仙術の一部を解放している小猫ちゃんは気の流れである程度は把握できるみたいだ。
気の流れを見る仙術による感知は僕の“魔力感知”よりも広い範囲を探ることができる。
僕の“魔力感知”は精々が十メートルが限界なうえ、相手にも気づかれてしまうから小猫ちゃんの力が頼りとなるんだ。
「……あとどのくらいで接触するかな?」
「……このままのペースなら、おそらく十分以内です」
……十分か。
近くに隠れるか、真正面から迎え撃つか。
どちらにせよ、覚悟を決めるしかない。
僕はいつでも神器を出せるように準備をする。
その瞬間、僕の“魔力感知”が反応する。上空だ!
「────ッ!」
「……上っ!」
僕と小猫ちゃんは咄嗟にその場から飛び退いた。
瞬間、天井へ一直線に伸びるラインが降ってきた。
「────木場か!まずは一撃ッ!」
匙君が自身の神器のラインを使いターザンみたいに降りてきて攻撃を仕掛けてきた!
匙君の背中に誰かが乗ってる!
僕はすぐに魔剣を出し、匙君の蹴りを受け止める!
ドン!という音とともに、僕は背後のお店にまで吹き飛ばされる。
落下の勢いに加え、二人分の体重が乗った一撃だ。しかも、“気闘法”の要領で魔力を乗せている!
とっさに出した魔剣ではその衝撃を殺しきれず、魔剣は粉々に砕け散っている。
それでも僕後ろがお店だった分、威力が逃げたのか、僕自身にそこまでダメージはない。
僕はすぐに立ち上がり、体勢を整えて、剣を構える。
「よー、木場」
現れたのは匙君。その隣には背中に乗っていた少女が佇んでいた。あの娘は確か、生徒会のメンバーで、一年生の仁村留流子さんだ。
匙君の右腕には黒い蛇が何匹もとぐろを巻いているかのような状態だった。
以前見た時と形状がまるで違う。
恐らく、修行を通して神器が進化したのだろう。匙君の複数のラインのうち、一つは僕の手首につながっていた。
僕は小さい魔剣を作り、ラインを切り裂いた。
「さすがだね匙君。あの一瞬でラインをつなげるだなんて」
「俺も修行したってことさ。おかげでこれだ。たまたま上から見てお前らがいてな。奇襲は成功ってところかな?」
僕は耳に取り付けたイヤホンマイクを通じて匙君達に聞こえない声で部長に連絡を入れる。
「……部長。相手と接触しました。匙君と仁村さんです」
『わかったわ。二人で行けそうかしら?』
部長の問いかけに僕は改めて匙君を見る。
相当修業したのだろう。以前とはまるで別人のように見える。
「……正直、わかりません。ですが、負けるつもりはありません」
「……相手は二人。私達もそれは同じです」
小猫ちゃんも通信にこたえ、相手を見つめる。数の上では二対二だ。やれる可能性は十分にあるだろう。
『わかったわ。二人の相手はあなた達に任せたわ』
「……了解です」
そこで通信を切る。
小猫ちゃんは一歩前に出て、オーラを纏わせた拳を構える。僕も魔剣を創造し、匙君たちに向ける。
────その時だった。
『リアス・グレモリー様の“僧侶”一名。リタイヤ』
────っ!こんなに早く!?
部長とはさっきまで通信で話していたわけだし、部長と一緒にいたアーシアさんがやられたとは考えにくい。
となると、ギャスパー君がやられたのか!?
……落ち着け。冷静になれ。頭に血が上っては勝てる戦いも勝てなくなってしまう。
出し惜しみをしている場合ではないと判断した僕は“聖魔剣”を作り、匙君に構えた。
「冷静だな。仲間がやられたってのによ……」
「こういうのには慣れておかないと身が持たないからね」
心中でははらわたが煮えくり返ってるけどねと付け足しながら、僕は二人の挙動を警戒する。
「私は仁村さんと戦います。祐斗先輩は匙先輩をお願いします」
「わかった。匙君は任せてくれ」
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イッセーside
「ギャスパーの奴……ニンニクくらい我慢しろよな……」
「まあ、実際予想外だったでしょうし、ある程度は仕方ないんじゃないっすか?ギャスパー君もまさかニンニクを使ってくるとは思わなかったでしょうし……」
俺達はアザゼル先生と同じ部屋に向かいながらタブレット端末の映像を見ていた。
まあ、確かに仕方ない部分はあるかもな。なにしろ、相手がニンニクを使ってくるなんて想定をしてるはずないし……。
これはソーナ会長が一枚上手と認めざるを得ないかもしれない。
今回、ソーナ会長の本陣が食品エリアだったというのが大きい。ニンニクなんざ大量にあるんだから。
誘い込むやり方も上手かったな。あえて不審な動きをしてギャスパーの興味を引いて、そこからニンニクで包囲網を囲む。
いくらギャスパーが大量の蝙蝠に化けているとはいえ、隠れる場所の多い食品エリアだ。誘い込むことは容易だろう。
地の利を生かしたいい戦法だ。
「これは一筋縄じゃ行かないな」
「そうっすね。なんていうか、ソーナ会長も眷属の人たちも気迫がいつもとまるで違う……」
俺はミッテルトの言葉に軽く頷きながら、カメラに映る会長の姿を見つめるのだった。
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朱乃side
「全く、あいつは体の鍛えが足りないからな」
ゼノヴィアちゃんはアナウンスを聞きながら嘆息してそう言った。
「だが、可愛い後輩をやられたのでね。敵を討たせてもらうよ」
そう言いながら、ゼノヴィアちゃんはすさまじいプレッシャーを放った。
それを見ながら、相対している女性は怯まずにこちらを見据えている。
私とゼノヴィアちゃんは立体駐車場にてメガネをかけた黒髪長髪の女性と相対していた。
駒王学園生徒会副会長にして会長の“女王”真羅椿姫。
手には薙刀。彼女は長刀の使い手であり、かなりの有段者でもある。
何度か見ていますが、その実力は確かなものですわ。
「ごきげんよう、姫島朱乃さん、ゼノヴィアさん。二人がこちらから来ることは分かっていました」
淡々と話す椿姫さん。その横から二名。
長身の女性と日本刀を携えた細身の女性が現れた。
長身の女性が“戦車”の由良翼紗さん。
日本刀を持つ女性が“騎士”の巡巴柄さんですわ。
由良さんは体術に秀でており、巡さんはもともと悪霊退治を生業とする家の出。
どうやら私たちがここに来ることは読まれていたようですわね。
「ゼノヴィアちゃん。デュランダルは抑えてください。フィールドを破壊すると失格になってしまいますわ」
「ああ、分かっているさ」
今回、デュランダルは使えない。
ルールの特性上、デュランダルでは上手く立ち回れないでしょう。
私の攻撃はある程度、的を絞れば周囲へ影響を出さずに出来るでしょうが、破壊力に特化しすぎているデュランダルではそれも難しい。
こういった状況を想定していたわけではありませんが、イッセー君からあれを預かっておいててよかったですわ。
「私が後方から援護します。ゼノヴィアちゃんは前衛をお願いできますか?」
「ああ、心得た。使わせてもらうぞ、イッセー」
そう言いながら、ゼノヴィアちゃんは空間に穴をあけ、イッセー君から託されたもう一つの聖剣を取り出した。
「あれは、別の聖剣!?」
「ああ、これはアスカロン。イッセーから借りた龍殺しの聖剣だ」
『!?』
その告白に相手全員が驚いていた。
イッセー君とアザゼル先生は修行の最中、籠手と融合したアスカロンが取り外せることに気づきましたの。
そこで急遽、ゼノヴィアと裕斗君にもアスカロンに慣れるための訓練を施した。
今のアスカロンには龍殺しの力だけではなく、赤龍帝の力もある程度は宿っており、デュランダルよりも使える幅の大きい剣へと昇華していた。
今回はルールを確認しリアスはその剣を、あらゆる聖魔剣を作ることで臨機応変に対応できる裕斗君ではなく、ゼノヴィアちゃんに託したのですわ。
「はあ!」
「くっ」
ギィィィィィンッ!!
ゼノヴィアちゃんと椿姫さん、巡さんの剣が衝突する。
その勢いに剣から火花が散り、激しい金属音を奏でた。
剣の鍔迫り合いはしばらく拮抗するが、ゼノヴィアちゃんが再び空間に穴をあけると、空間の裂け目から聖なるオーラが漂い、アスカロンをさらに強化した。
「なんなの!?今のオーラはまるで……」
「ああ。お察しの通り、デュランダルのオーラさ。面白い使い方だろう」
リアスとアザゼルはデュランダルの力にも注視していた。デュランダルは破壊力に特化しすぎていて、ゼノヴィアちゃんでも完全には使いこなせなかった。
だから、そのオーラを別の剣に纏わせるという方法を見出したのですわ。
それだあけじゃありません。ここまではゼノヴィアちゃんの修行のせいか。
私も修行の成果、今ここで見せますわ!
「“雷光”よ!」
ドオオオオオオオオオン!
今までの雷だけじゃない。これまで封じてきた堕天使の力が私の掌から放たれる。
これを見て、椿姫さんは目を見開く。
「これは……姫島さん、あなたは堕天使の力を受け入れたのですか!?」
その問いに私は静かに頷く。
「ええ……。この戦いはイッセー君も見てくれている。イッセー君に私の決意を見てもらうためにも、強くなった自分を見てもらうためにも、この忌まわしい力を使いこなしてあなた達に勝ってみせますわ」
私は改めて雷光を椿姫さん達向けて放つ。彼女たちはそれを躱すも余波によるダメージを受けているようだ。
「きゃあ!?」
私の放った雷光の衝撃により、“騎士”である巡さんが刀を離して倒れこんだ。
この絶好の好機に私はゼノヴィアちゃんと目配せをする。ゼノヴィアちゃんもアスカロンを構え、一気に距離を詰めた。
他の者たちもそれを見て助太刀に行こうとするが、私の雷光に阻まれ、手出しできずにいる。
これで一人目……私たちの確信していた。
だが、巡さんは不敵な笑みを浮かべながら、両手をゼノヴィアちゃんに翳した。
「“
瞬間、ゼノヴィアちゃんの剣は聖なるオーラから魔のオーラに変質した。
アスカロンはそのまま巡さんの肩もとに深々と突き刺さる。ですが、聖なるオーラではなくなっている影響で大ダメージには至っていない。
戸惑うゼノヴィアちゃんのスキを突き、巡さんはゼノヴィアちゃんのお腹を蹴り飛ばした。
「がはっ!?」
ゼノヴィアちゃんはその拍子にアスカロンから手を放してしまった。巡さんは肩に刺さったアスカロンを抜き取ると、ゼノヴィアちゃんに向けて構えだした。
「安心してください。ゲームが終わったらちゃんと返却しますので……」
私は目の前の現象に絶句する。
巡さんは“
巡さんの能力?わかりませんが、これは厄介ですわね。
本来、ゼノヴィアちゃんや裕斗君のような例外でもない限り、悪魔では握ることのできない聖剣が巡さんの手にしっかりと握られている。
「ゲーム終了を待つつもりはない。それはイッセーのものだ。返してもらおうか!」
ならばとゼノヴィアちゃんは念のためにと裕斗君から譲り受けた聖剣を取り出し、剣戟を繰り出す。
巡さんは肩を貫かれた影響で片手を使えない。両手で互角だった以上、手はないはず。
ゼノヴィアちゃんも先ほどの“反転”を警戒している。二度目はないでしょう。
それなのに、私は嫌な予感をぬぐえずにいた。
そんな私の隙をついて、今度は“戦車”である由良さんが近づいてきた。
「油断大敵ですよ。姫島先輩」
「くっ……」
しまった。私は由良さんの拳をとっさに受け流し、距離を取る。
ダメージはないけど、放っていた雷光が途切れてしまった。もう一度発動させようとすると、その都度由良さんは距離を詰めてくる。
雷光を使わせない気なのね。ならば……。
「私はイッセー君の修行メニューも欠かさず続けています。体術だって負ける気はありませんわ」
私は由良さんの拳を紙一重で交わし、柔術の要領で由良さんを投げ飛ばした。
「巡!避けて!」
「えっ……きゃあ!?」
投げ飛ばした方向にはゼノヴィアちゃんと戦っていた巡さんがいた。狙い通りですわ。
偶然ですが、拳を受け流せるちょうどいい方向に巡さんがいたので利用させてもらいましたわ。
ゼノヴィアちゃんも先ほどの“反転”から学び、刺突ではなく、上段から二人を切り裂こうとする。
────瞬間、三人の間に“女王”である椿姫さんが滑り込んだ。
「神器“
椿姫さんの前に装飾のされた鏡が出現する。ゼノヴィアちゃんの剣戟はその鏡を構わず破壊するが……
「!?」
割れた鏡から放たれた波動がゼノヴィアちゃんを襲った!ゼノヴィアちゃんは鮮血を出しながら吹き飛ばされてしまう。
「この鏡は破壊された時、衝撃を倍にして跳ね返します。パワータイプのゼノヴィアちゃんをぶつけたのは失敗でしたね」
以前の能力とは違う。あれは本来、“魔物を鏡から呼び寄せる”というものだったはず。
椿姫さんの神器も変化と成長を遂げている……というわけですか。
「ゼノヴィアちゃん、大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな……」
もしもあれがデュランダルの力を有するアスカロンだったら、今の一撃で戦闘不能になっていたかもしれますんわね。
裕斗君の聖剣も強力ですが、アスカロンに比べると威力は低い。それが功を期しましたわね。
「これで終わりです!」
「くっ、タダでは死なん!」
倒れこんだゼノヴィアちゃんを巡さんは手に持つアスカロンで切り裂こうとする。ゼノヴィアちゃんも聖剣を強く握り、巡さんに鋭い刺突を放った。
アスカロンはゼノヴィアちゃんを深々と切り裂き、聖剣は巡さんの腹に深々と突き刺さった。
「仕事は果たしました……」
巡さんはそう言い残し、輝きとともにこの場から消えていった。
「……ゼノヴィアちゃん」
私はゼノヴィアちゃんに駆け寄っていく。ゼノヴィアちゃんは息も絶え絶えになりつつも、立ち上がろうとする。
しかし、それはかなわず、その場に倒れ伏せてしまう。
「アスカロンは……返してもらうぞ……」
ゼノヴィアちゃんはその場に残ったアスカロンを握り締め、消えていった。
『ソーナ・シトリー様の“騎士”一名、リアス・グレモリー様の“騎士”一名、リタイア』
……ゼノヴィアちゃん。貴方の思いは無駄にはしませんわ。
私は改めて二人と向き合い、雷光をかざしながら構える。
「これで貴方一人。雷光の力は厄介ですが、これで終わりですね」
「……それはどうでしょうね?」
そう言いながら、私は懐から
瞬間、駒は魔力を放ちながら光り出す。
驚愕した二人の虚を突き、光から“滅びの魔力”が放たれた。
「まずい!」
「きゃああああああああ!」
椿姫さんと由良さんはその魔力を受け、吹き飛ばされてしまった。
威力を弱めたとはいえ、滅びの魔力をその身に受け、大ダメージを受けたのでしょう。二人とも立つことができずにいた。
「まさか……“キャスリング”?未使用の駒でそれを使うだなんて」
「さすがのソーナもこれは予期してなかったようね。まさか、“王”である私がこんな前線に、しかも直接転移してくるだなんて予想外だったでしょう?」
転移魔法時により現れたリアスが不敵な笑みでそう告げる。
これは戦況が不利になったときの第二案。キャスリングが未使用の駒でもできることは、和平会談の件で知れている。
その仕様をゲームに利用したというわけですわ。
本陣のアーシアちゃんはこの間無防備になってしまう諸刃の剣でもありますが、この距離ならば、数分もあれば合流できるでしょう。
椿姫さんと由良さんの体が淡い輝きを放つ。これで終わりですわね。
そう考えていると、椿姫さんがクックッと笑い出す。
「何がおかしいの?」
「確かに、こんな方法で、とは予想外でしたが、貴方が前線に出ること自体は予想していました。まさかそれが、貴方だけだとでも?」
「手の内は引き出せるだけ引き出せた。これで、私達の仕事はある程度は完了だ」
『ソーナ・シトリー様の“女王”一名、“戦車”一名、リタイア』
そう言いながら、二人の姿は消えていった。
言い知れない不安を搔き立てながら……。
****************************
木場side
「はあ、はあ……」
完全に想定外の展開だ。まさか、あの会長がこんな大胆な手を使うだなんて……。
「ぐう……ごめんなさい、匙先輩。会長」
『ソーナ・シトリー様の“兵士”一名、リタイア』
視界の端では仁村さんが小猫ちゃんに打ち込まれた拳により、リタイアしていく光景が見えた。
だが、僕はその光景よりも、目の前に佇む二人に目が離せないでいた。
小猫ちゃんも同様の様で、仁村さんが消えたのを確認するや否や、すぐさま構えだす。
「ご苦労様です。よくやりました。匙、留流子」
「ありがとうございます。────会長」
今、僕達の目の前には、目標であるはずの“王”ソーナ・シトリーが濃密な魔力を出しながら立ちふさがっていた。