二学期の始まりです
イッセーside
夏休みも無事に終わり、学校の方も二学期へと突入していた。
俺は下腹部あたりに違和感を感じ、目を覚ました。
「……うにゃ」
俺の股座で起き上がるのは小猫ちゃんだ!
小猫ちゃんは寝ぼけ目をさすりながら、俺の胸元に抱き着いた! 小さい身体がメチャクチャ柔らかい!
しかも、寝間着がYシャツだ! しかも、感触からして肌に直! 最高です!
「にゃん」
猫耳がピコピコ動き、尻尾もフリフリと揺れている! 尻尾ってことは、下履いていないってこと!?
夏休みとなり、小猫ちゃんも俺の家に住むことになったのだが……ことあるたびに俺の膝の上に乗ったりするようになったのだ。
こうして俺の部屋……もしくは黒歌の部屋に入り込んで一緒に寝てしまうことも一度や二度ではない。
毒舌は相変わらずだけど、もしかして懐かれてるのか?
俺としても、普段が普段だからどうすればいいのかわかんねえ。
「全く、小猫ちゃんにも困ったもんすね」
そういうのは俺と同室にてもう一つのベッドで寝ていたミッテルトだ。
ミッテルトは呆れた目で俺たちを見つつも起き上がって俺に近づいてくる。
「何度注意しても……こういうところは姉妹っすね」
「はは……」
ミッテルトのいいように思わず苦笑する。確かに黒歌もこういうところあるもんな……。
「おはようございます。イッセーさん」
「おはよう。イッセー」
そこにアーシアと部長が俺の部屋に入ってくる。
アーシアは少し申し訳なさそうにしており、部長はうんざりした様子でため息をついていた。
……またか。
「またっすか?」
ミッテルトもそれを見てうんざりした様子だ。
「ええ。またディオドラからのラブレターよ。これで何度目かしら?」
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冥界から帰ってきてから二週間。
俺は大量に積まれた豪華な箱の数々を見てどうしたものかと考えていた。
これは全てアーシア宛に送られた物だ。
送り主はディオドラ・アスタロト。
若手悪魔の一人で現魔王ベルゼブブを輩出したアスタロト家の次期当主。
今思い出しても腹が立つ。アーシアにプロポーズしてきたこと。
あの時は部長が間に入ってくれたお陰で追い返すことが出来たんだけど……。
ミッテルトとの共通意見として、あいつは信用できない。
この行動も完全なるストーカーだし、それ以前にあいつの眼が気になるのだ。
何を企んでるかわからない以上、注意をしなければならないな。
「おおい! 元浜! 情報を得てきたぞ!」
そんなことを考えてると、松田が教室に入り込んでくる。
どうしたんだ?
「やっぱり、吉田のやつ夏に決めやがった! しかもお相手は三年のお姉様らしいぜ!」
「くそったれ!」
松田からの情報を聞き、元浜は吐き捨てるように毒をはいた。
ああ。やっぱりか……。まあ、二学期に入ってから急にチャラくなったし態度も随分大きくなってたからな……。
そういうことだろうと思ってたよ……。
「それだけじゃない! 同じクラスの大場も一年生の子がお相手だったって話だ!」
「マジか! 大場が!?」
後ろを振り向くと、爽やかな笑顔で大場が手を振っていた。
この時期になると、クラスメイトにあか抜けた連中が増える。
いわゆる夏デビューというやつだ。
夏休みを境に今までの自分を変え、イメチェンを果たし、非常にチャラくなるやつらが出てくるようになる。
男子なら髪を染めたり、女子なら今時のギャル風スタイルになったりと、夏前までさえなかった奴らが新たなイメージを兼ね備え、二学期を迎えるわけだ。
この時期は童貞を捨てる奴も増えるため、こいつらは気が気じゃないんだろうな……。
「「黙れ! 裏切り者!」」
おっと? ここで俺にも飛び火がきやがった……。まあ、去年もそうだったわけだし別にいいけど……。
「くそったれ! てめえマジでふざけるなよ!」
「爆発しやがれ!」
「童貞臭いわねぇーあんた達」
くくくと二人を嘲笑いながら登場したのは桐生だった。
口元をにやけさせて、鼻をつまんでいた。
「桐生! 俺達を笑いにきたのか?」
元浜の問いに桐生は頷く。
「どうせ、あんた達のことだから、意味のない夏を過ごしたんじゃないの?」
「うっせー!!」
「ところで兵藤。最近、アーシアがたまに遠い目になるんだけど、何か理由知ってる?」
と、桐生が尋ねてきた。
まぁ、理由は間違いなくディオドラのやつだな。
最近のアーシアはボーッとしていることが多い。
授業でさされたアーシアが珍しく慌てていて、教科書を逆さまにしていたこともあった。
とうのアーシアはクラスの女子と談笑をしているが……。
……なんとかしてやりたいよな。
相手は上級貴族。しかも、これはただの勘だけど、油断ならない奴だからな。
そう簡単にはいきそうもない。一応、部長も対策は考えてくれてるけど、なかなか難しいそうだ。
「まぁ、私も出来る範囲でアーシアを助けてあげるから、あんたもしっかり支えてやりなさいよ」
「ああ。助かるよ」
桐生はアーシアとも仲がいいからな。
プライベートで支えてくれる友人がいるというだけでも気が楽になるだろう。
「お、おい! 大変だ!」
そんなことを話していると、クラス男子の一人が急いで教室に駆け込んでくる。
何かあったのか?
そいつは水を飲み、呼吸を整えて、気持ちを落ち着かせると、クラス全員に聞こえるように告げる。
「このクラスに転校生が来る! しかも女子だ!」
一拍あけて────。
『ええええええええええええええええええええっ!!!』
クラス全員が驚きの声をあげたのだった。
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「えー、このような時期に珍しいですが、今日からこのクラスに新たな仲間が増えます」
先生の言葉にみんながワクワクしていた。
そりゃあそうだ! 転校生……しかも女子だもん! テンション上がるに決まってらぁ!
女子も男子の反応に呆れつつも興味津々なようだ。
「それじゃ、入ってきて」
先生の声に促され、転校生が入室してくる。
その瞬間、俺は驚いた。気配が天使だから、教会関連の人だろうとあたりはつけていた。
『おおおおおおおおおおおっ!』
歓喜の声が男子から沸き上がる。
登場したのが栗毛ツインテールの相当な美少女だったからだ。
しかし、俺は喜びよりも驚きの方が大きかった。
見れば、アーシアも同様でゼノヴィアに至っては目を丸くしてポカンとなるほどだった。
当たり前だ。彼女が突然転入生として表れれば、彼女を知る人からすれば驚くだろう。
栗毛のツインテ少女はぺこりと頭を下げた後、にこやかな表情で自己紹介をした。
「紫藤イリナです。皆さん、どうぞよろしくお願いします!」
そう! 転校してきたのは、夏前にゼノヴィアと共にエクスカリバー強奪事件で来日した紫藤イリナその人なのだったのだ!
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「紫藤イリナさん、あなたの来校を歓迎するわ」
放課後の部室。
オカ研メンバー全員、アザゼル先生、ソーナ会長が集まり、イリナを迎え入れていた。
ちなみに俺の膝の上には小猫ちゃん。最近、ここが小猫ちゃんの定位置になりつつある。
うーん、お尻の感触が素晴らしい! 髪の毛からいい匂いがするし、本当に最高です!
「はい! 皆さん! 初めましての方もいらっしゃれば、再びお会いした方のほうが多いですね。紫藤イリナと申します! 教会……いえ、天使さまの使者として駒王学園にはせ参じました!」
ドン! と擬音でも付きそうな勢いで自己紹介をしたイリナに対し、パチパチパチと部員の皆が拍手を送る。
話によると、イリナは天界側の支援メンバーとして派遣されたらしい。
確かに考えてみると、この駒王学園には悪魔や堕天使履いても天使はいなかったからな。
一応バックアップは受けているらしいが、協定を結んでいる立場上、それでは体裁が悪いだろう。
そんなイリナだが、いきなり「主への感謝~」とか「ミカエルさまは偉大で~」とか語り始めてしまった。
皆は苦笑しながらも聞いていた。
相変わらず、信仰心が強い娘だなぁ……。もしかしたらアダルマンさんといい勝負かも?
それから少ししてアザゼル先生が口を開く。
「おまえさん、“聖書に記されし神”の死は知っているんだろう?」
まぁ、ここに派遣されるってことはそうなんだろうな。
この駒王町は今や三大勢力の協力圏内の中でも最大級に重要視されている場所の一つ。
ここに関係者が来るってことは、ある程度の知識を持っているということになる。
ならば当然“聖書の神”の死についても知っているに違いない。
「もちろんです、堕天使の総督さま。私は主の消滅をすでに認識しています」
そんなイリナを見て意外そうな表情をするゼノヴィア。
「意外にタフだね。信仰心の厚いイリナが何のショックも受けずにここへ来ているとは」
そんなゼノヴィアの言葉のあと、一泊開けて、イリナの両目から大量の涙が流れ出る!
彼女はゼノヴィアに詰め寄りながら叫び出した。
「ショックに決まっているじゃなぁぁぁぁい! 心の支え! 世界の中心! あらゆるものの父が死んでいたのよぉぉぉぉっ!? 全てを信じて今まで歩いてきた私なものだから、それはそれは大ショックでミカエル様から真実を知らされた時あまりの衝撃で七日七晩寝込んでしまったわぁぁぁっ! ああああああ、主よぉぉぉぉぉ!!」
イリナはテーブルに突っ伏しながら大号泣してしまった。
そ、そこまでの事なのか? 実際に会ったこともない人なのに?
……ああ、でも、そんなものなのかもしれないな。
アーシアとゼノヴィアがその事実を知ったときは相当ショック受けて他っぽいし……。
俺の家は基本的に無宗教だし、そういうのは正直分からないんだけど。
「わかります」
「わかるよ」
アーシアとゼノヴィアがうんうんとうなずきながらイリナに話しかける。
そして、三人はガシッと抱き合う。
「アーシアさん! この間は魔女だなんて言ってゴメンなさい! ゼノヴィア! 前に別れ際に酷いこと言ったわ! ゴメンなさい!」
イリナの謝罪に二人とも微笑んでいた。
「気にしてません。これからは同じ主を敬愛する同志、仲良くしていきたいです」
「私もだ。あれは破れかぶれだった私が悪かった。いきなり、悪魔に転生だものな。でも、こうして再会できてうれしいよ」
『ああ、主よ!』
三人でお祈りしだしたよ……。
とりあえず、和解ってことで良いのかな?
色々あったけど、わだかまりが消えたのであれば俺もうれしい。平和が一番だからな。
「ミカエルの使いってことでいいんだな?」
アザゼル先生の確認にイリナも頷く。
「はい、アザゼルさま。ミカエルさまはここに天使側の使いが一人もいないことに悩んでおられました。現地にスタッフがいないのは問題だ、と」
「ああ、そんなことをミカエルが言っていたな。ここは天界、冥界の力が働いているわけだが、実際の現地で動いているのはリアスとソーナ・シトリーの眷属と、俺とレイナーレを含めた少数の人員だ。まあ、それだけでも十分機能しているんだが、ミカエルの野郎、律義なことに天界側からも現地で働くスタッフがいたほうがいいってんでわざわざ送ってくると言ってきてたのさ。ただでさえ、天界はお人好しを超えたレベルのバックアップ体制だっつーのに。俺はいらないと言ったんだが、それではダメだと強引に送ってきたのがこいつなんだろう」
アザゼル先生はため息を吐きながらそう言った。
イリナが派遣されたのにはそういう背景があったのか。
部長の根城も随分と大所帯になったものだ。最初のころは堕天使が縄張りに入っただけで大騒ぎだったのに、今では天使も堕天使も普通に談笑している。これも和平のおかげだな。
ある程度の話が分かったところで俺はイリナに質問することにした。
「なぁ、イリナ。お前、どうやって天使になったんだ?」
「あれ? 分かるの、イッセー君?」
「そりゃあ、気配が人間と異なるからな」
「聖なるオーラも感じるし、悪魔と同じように転生したと考えるのが妥当っすよ」
「へえ~、流石イッセー君ね! じゃあ、見せてあげるわ! 生まれ変わった私の姿を!」
イリナは立ち上がると、祈りのポーズをとる。
すると、彼女の体が輝き、背中から白い翼が生えてきた。
それだけでなく、頭上には金色に輝く天使のわっかがふよふよと浮いている。
部長たちは気付いていなかったのか、驚きを隠せないでいる。
アザゼル先生だけが顎に手をやりながら、感心するようにイリナを見ていた。
「……紫藤イリナといったか。おまえ、天使化したのか?」
「天使化? そのような現象があるのですか?」
木場が先生に訊くと、先生は肩をすくめた。
「いや、実際にはいままでなかった。理論的なものは天界と冥界の科学者の間で話し合われてはいたが……」
考え込むように目を細める先生にイリナが頷く。
「はい。ミカエルさまの祝福を受けて、私は転生天使となりました。なんでもセラフの方々が悪魔や堕天使の用いていた技術を転用してそれを可能にしたと聞きました」
なるほど。“
天使は昔は聖書の神によって生み出されていたらしいが、神が消滅し、新たな天使は誕生できなくなったと聞く。
だから、悪魔と同じように転生で天使の数を増やそうとしているのだろう。
「四大セラフ、他のセラフメンバーを合わせた十名の方々は、それぞれ、Aからクイーン、トランプに倣った配置で“
先生がイリナの話に興味を示していた。
この人は技術とか、その手の話が大好きだからな。
「なるほど“悪魔の駒”の技術に堕天使の人工神器の技術を応用しやがったんだな。ったく、伝えた直後に面白いもん開発するじゃねぇか、天界も。悪魔がチェスなら、天使はトランプとはな。まあ、もともとトランプは“切り札”という意味も含んでいる。神が死んだあと、純粋な天使は二度と増えることができなくなったからな。そうやって、転生天使を増やすのは自軍の強化に繋がるか。そのシステムだと、裏で“ジョーカー”なんて呼ばれる強者もいそうだな。十二名も十二使徒に倣った形だ。まったく、楽しませてくれるぜ、天使長様もよ」
くくくと先生は楽しげに笑いを漏らしていた。
トランプを模してるのならば、確かに“ジョーカー”の札もありそうだし、もしあれば相当強いことが伺える。
悪魔と堕天使。二つの勢力の協力により、天使陣営も以前以上に強化されたということだな。
「それで、イリナはどの札なんだ?」
俺は気になったのでイリナに尋ねた。すると、彼女は胸を張り、自慢げに言う。
「私はAよ! ふふふ、ミカエルさまのエース天使として栄光な配置をいただいたのよ! もう死んでもいい! 主はいないけれど、私はミカエルさまのエースとして生きていけるだけでも十分なのよぉぉぉぉっ」
目を爛々と輝いているイリナ。
掲げている左手の甲に“A”の文字が浮かび上がっている。
手の甲に階級が浮かび上がるって、なんか“鬼○の刃”みたいだな。
それに、この言い分から察するに……。
「なるほどな。イリナの新しい人生の糧はミカエルさんか」
恐らくイリナは信仰の対象を神の副官だったミカエルさんに移し、心を保ったのだろう。
俺が嘆息しながら呟くと、隣でゼノヴィアも応じる。
「自分を見失うよりはマシさ」
ま、そりゃそうだ。
神様の消失で自分を見失うよりは新しい主のもとで仕事に励んだ方が前に進めるってもんだ。
イリナは俺達に楽しげに告げる。
「さらにミカエルさまは悪魔のレーティングゲームに異種戦として、“悪魔の駒”と“御使い”のゲームも将来的に見据えているとおっしゃっていました! いまはまだセラフのみの力ですが、いずれはセラフ以外の上位天使さまたちにもこのシステムを与え、悪魔のレーティングゲーム同様競い合って高めていきたいとおっしゃられていましたよ!」
その言葉を聞いた部長たちは再び驚愕の表情を見せた。
おお、そりゃあ面白い。
「ま、天使や悪魔のなかには上の決定に異を唱える者も少なくない。長年争い合ってきた中だ、突然手を取り合えと言えば不満も出るさ。しかし、考えたな、ミカエル。そうやって、代理戦争を用意することでお互いの鬱憤を競技として発散させる。人間界のワールドカップやオリンピックみたいなもんだ」
不満を持った人達のうっぷん晴らしみたいなもんかな?
どちらにしても面白そうだ。
俺も参加してみたいものだぜ。
まあ、候補という立場上、相手が参加を了承しないと出れないんだけど……。
「楽しめそうね」
「面白そうだね」
「きょ、教会は怖いですぅ……」
ソーナ会長と木場もかなり楽しげだ。たいしてギャスパーは複雑そうにしている。
まあ、教会は吸血鬼狩りは今だ続けてるっぽいし、ギャスパーからすれば恐怖の対象なのだろう。
まだ、吸血鬼と和平は結べてないらしいしな……。
こっちの世界の吸血鬼は傲慢な奴らが多いっていうし、そのあたりは難航しそうだな。
平和が一番だし、仲良くできないものかね……。
「まぁ、その辺りの話はここまでにして、今日は紫藤イリナさんの歓迎会としましょう」
ソーナ会長が笑顔でそう言う。
イリナも改めて皆を見渡して言った。
「悪魔の皆さん! 私、いままで敵視していきましたし、滅してもきました! けれど、ミカエルさまが『これからは仲良くですよ?』とおっしゃられたので、私も皆さんと仲良くしていきたいと思います! というか、本当は個人的にも仲良くしたかったのよ! 教会代表として頑張りたいです! よろしくお願いします」
複雑な経緯もあるけど、これでイリナも駒王学園に仲間入りってことだ。
その後、生徒会の仕事を終えたシトリー眷属も加わり、イリナの歓迎会がおこなわれたのだった。