帰ってきたらD×Dだった件   作:はんたー

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練習と研究です

 イッセーside

 

 

 

 

「おいっちにーさんしー、おいっちにーさんしー」

 

 俺とアーシアは早朝から体操着で二人三脚の練習をしていた。

 ゼノヴィアも付き添いで来てくれていて、最近ずっと朝練していた。

 レーティングゲームも気になるけど、だからといって体育祭で手を抜いていい理由にはならない。故に、こうして毎朝欠かさず練習してるわけだ。

 練習を始めた頃はアーシアがバランスを崩して何度も転びそうになっていたけど、今では競歩くらいの走りは出来るようになっていた。

 

「あぅ! いち、に! はぅぅ! さん、し!」

 

 アーシアは俺に遅れないようにするため、必死でついてきている。

 こういう日々の練習って大事だよな。俺もアーシアに合わせられるようになってきたし、これなら本番でもうまくいきそうだ。

 

「うん。だいぶいい感じだね。じゃあ、一度本番のように走ってみようか」

 

 ゼノヴィアが俺達のヒモを直しながら言う。

 ふと、アーシアを見ると、少し表情を陰らせていた。

 

「・・・・・・・・」

 

 ……これはかなり思い詰めているな。まあ、無理もない。次のゲームの相手が相手だからな。

 

「アーシア。思ってること、一回全部言ってみな」

 

 俺の言葉にアーシアは少し驚いたような表情をする。

 アーシアは少し考えた後、語り始めた。

 

「……あの時、彼を救ったこと、後悔していません」

 

 ディオドラはアーシアが教会を追放される原因となった悪魔だ。

 アーシアは境界にいたころ、傷ついたディオドラを救い、それが原因で異端者扱いされ、居場所を失った。

 今はこうして幸せそうにしてるけど、その出来事がアーシアの人生を大きく変えてしまったことは確かだ。

 ……それでも、アーシアは後悔をしないのだという。本当に、強い子だな。

 アーシアはそんな俺の顔を見てクスリと笑った。

 

「私、ここが好きです。この駒王学園も、オカルト研究部も好きです。部長さんも朱乃さんもミッテルトさんも木場さんも小猫ちゃんもギャスパー君もイリナさんもゼノヴィアさんも先生も黒歌さんもセラちゃんも桐生さんも、好きです。そして何より、イッセーさんも、ご両親も大好きなんです。ここでの生活は本当に大切で大事で、大好きなことばかりでとっても素敵なんです。だから、私は今の生活にとても満足しています。毎日楽しくて、皆と暮らせて幸せなんです」

 

 アーシアは眩しいくらいの笑顔で言い切った。その顔からは迷いが一切感じられない。

 きっと、アーシアは本当に今の生活が好きなのだろう。

 だったら、俺のやるべきことはアーシアが楽しく過ごせるこの生活を守ることだ。

 俺はアーシアの肩を抱いて言う。

 

「そうだな、俺達はずっと一緒だ! 嫁にも出しません! アーシア、ディオドラのことは深く考えるな。経緯はどうであれ、嫌なら嫌とハッキリ言えばいいんだぞ?」

 

 俺の言葉にアーシアは少しきょとんとするが、すぐに笑みを見せてくれる。

 

「はい」

 

 すると、今度はゼノヴィアが思い詰めた表情で言う。

 

「……アーシア、改めてだけど、もう一度君に謝りたい。初めて出会った時に暴言を吐き、刃を向けたこと。今でも後悔しているんだ。……アーシアは私と仲良くしてくれる……と、と、友達だと……」

 

 おおっ、ゼノヴィアが珍しく顔を紅潮させてるな。

 アーシアはそんなゼノヴィアの手を取り、満面の笑みで言う。

 

「はい。私とゼノヴィアさんはお友達です」

 

 真正面からの屈託のない一言。ゼノヴィアは少し涙ぐんでいた。 

 

「ありがとう……。ありがとう、アーシア」

 

 うんうん。なんだか俺まで泣きそうになったよ。

 本当、アーシアちゃんは優しい子ですよ。

 

「うぅぅぅっ! 良い話よねぇ……」

 

 突然聞こえてきた嗚咽。

 声の方向を見れば、イリナが号泣していた。

 

「イリナか。なんでここに?」

 

「うぅ、えぇ、ゼノヴィアに誘われてね……。早朝の駒王学園も良いものだぞーって。で、来てみたら、美しい友情が見られるんだもの。これも主とミカエル様のお導きだわ……」

 

 涙を拭いながら、天に祈りを捧げるイリナ。よっぽど感動したのだろう。

 ここで俺はふと気になったことを聞いてみる。

 

「そういや、おまえ、オカ研じゃないよな?」

 

 俺が尋ねるとイリナは気持ちを切り替え、満面の笑みで親指を立てる。

 

「ええ、実は私、クラブを作ることにしたのよ!」

 

「へぇ、自分でクラブを立ち上げるのか。どんな内容なの?」

 

「うふふ、聞いて驚きなさい! その名も“紫藤イリナの愛の救済クラブ”! 内容は簡単! 学園で困っている人たちを無償で助けるの! ああ、信仰心の厚い私は主のため、ミカエルさまのため、罪深い異教徒どものために愛を振りまくのよ!」

 

 妙なポーズで天に祈りを捧げながら、目を爛々と輝かせるイリナ。

 ていうか、どんなネーミングだよ……。少なくとも俺は絶対に依頼したくない。

 

「……いや、うん。まぁ、がんばれ」

 

 俺は適当に相づちを打つと、イリナは胸をどんと叩いて言う。

 

「任せて! もちろん、オカルト研究部がピンチのときはお助けするわ! 今回はリアスさんのお願いでオカルト研究部の部活対抗レースの練習を助けるの!」

 

 はあ、体育祭は俺達のところに参加するのね。

 

「一応聞くけど、部員は他にいるのか?」

 

「まだ私だけよ! おかげで同好会レベルに留まっていて、正式な活動と運営資金は規制されているわ。まずはソーナ会長を説得するところからスタートね」

 

 まあ、オカルト研究部として参加すると聞いた時から察してはいたよ……。

 あの厳しいソーナ会長が、こんなわけわからん名称の部活認めるとは思えないけど……。

 そもそも、部員が集まるのかどうかが謎だ。

 正式に発足するには時間がかかりそうだな……。

 

「とりあえずはオカルト研究部に籍を置くことになっているの」

 

 それってほぼオカルト研究部の部員じゃねぇか! 

 いや、あえて突っ込むまい。本人のためにもそれがいいだろう。

 

「それはともかく、練習再開しようぜ」

 

 俺は気分を取り直して、アーシアとの練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 

「ふぅー。ちょっと、つ、疲れましたねぇ」

 

 アーシアが体操服をバタバタさせながら息を吐いていた。まぁ、早朝から結構な量走っていたからな。

 悪魔とはいえど、体力の少ないアーシアは疲れるだろう。

 俺の場合、アーシアを気遣いながらだったから、精神的に気疲れしているところもある。

 まだ、登校時間内だから、一息ついてから教室に向かうか。

 そんなことを考えながらライン引きを倉庫の奥に片付けていると……。

 

 ガラガラガラ、ピシャッ

 

 突如、扉がしまる音がした。

 見ればゼノヴィアが後ろ手に倉庫の扉を閉めていた。

 一体どうしたんだ? 

 アーシアもゼノヴィアの行動に可愛く首を傾げていた。

 俺はこの時点で嫌な予感がしていた。ゼノヴィアさんのことだ。何かをやらかすつもりだと……。

 

「どうしたんですか? ゼノヴィアさん」

 

 尋ねるアーシア。

 すると、ゼノヴィアは真剣な表情で語り出す。

 

「アーシア、私は聞いたんだ。私たちと同い年の女子はだいたい今ぐらいの時期に乳繰りあうらしいぞ」

 

 ………………。

 …………え? 今なんと? 

 

「ち、ちちくりあう?」

 

 アーシアが怪訝そうに聞き返す。ゼノヴィアはハッキリとした口調で言う。

 

「男に胸を弄ばれることだ」

 

 ────こ、この娘は……突然なにを言い出しているんだ!? 

 こんなところでこんな話を!? 扉を閉めてまで!? 

 しかも、乳繰り合うの意味、違うし……。

 

「む、む、む、胸を……っ!」

 

 アーシアは顔を真っ赤に染め上げ、声も上ずっている! 

 

「ゼノヴィア! こんなところでそんな話をいきなりするな!」

 

 駄目だ。こんな場所であほの子(ゼノヴィアさん)を暴走させるわけにはいかない。

 俺は何とか穏便に場を収めようと、ゼノヴィアを嗜める。

 

「イッセーは少し黙っていてくれ。まずはアーシアと話す。イッセーの出番はそれからだ。すまないが、倉庫の隅でウォーミングアップでもしておいてくれ。これから激闘になる」

 

 だが、現実は無常だ。どうやら俺の言葉で止まるつもりはない……というか、俺が今の言葉を聞いて注意する気が失せてしまった! 

 出番!? 激闘!? ウォーミングアップ!? なんの!? 

 俺が混乱しているさなか、ゼノヴィアがアーシアに話を続ける。

 

「クラスの女子のなかには彼氏に毎日のようにバストを揉まれている者もいる。私はいろいろと調べたんだ」

 

 どうしておまえはそういう訳わからんことを真摯に調べてくるんだよぉぉぉっ! 

 

「アーシア。私たちもそろそろ体験してもいいのではないか?」

 

 ゼノヴィアはアーシアの肩に手を置き、真剣な面持ちで言う。

 ナニコレ!? なんで、ちょっと深刻な話し風になってるんだ!? 

 

「あ、あぅぅぅっ! そ、そんな、きゅ、急に言われても……」

 

 アーシアも困惑していた! それが当然のリアクションだ! 

 

「だいじょうぶだ。初めては多少くすぐったいらしいが、慣れてくればとても良いものらしいぞ。きっと乳繰りあえば、自然と二人三脚も上手にこなせる」

 

 ええええええええええええっ!? 

 そこに持ってくるの!? 

 

「……コ、コンビネーションはそこから生まれるのでしょうか……」

 

 アーシアちゃんが説得されかけてるぅぅぅっ!? 

 ウソだろ!? それで良いのか、アーシア! 

 迷うアーシアにゼノヴィアは笑みで応える。

 

「アーシア、私達は友達だ」

 

「はい」

 

「乳繰り合いも一緒にしよう。二人なら大丈夫だ」

 

「……は、はい? え、えっと、そ、そうなのですか?」

 

 不味い! 話が纏まりつつあるよ! 

 頼むから純真なアーシアをそんな話で懐柔しないでくれぇぇぇっ! 

 そんな俺の戸惑いを他所にゼノヴィアがこちらに顔を向ける。

 

「では、しようか。私は子作り練習も兼ねるよ。前回は邪魔されてしまったが、今回は部長たちもミッテルトもいないわけだしね……」

 

「ちょっと待て! いきなり、こんな場所で──―いや、雰囲気的に体育倉庫とか憧れるけどさ!」

 

 狼狽する俺の気持ちなど知ったことかといわんばかりに服を脱ぎ捨てるゼノヴィア。

 ぷるん……とブラに包まれても確かな弾力を予想させるおっぱいが露になった! 

 ブッ! 

 見事な脱ぎっぷりに俺の鼻血も噴き出た! 

 ゼノヴィアもおっぱいデカいよな! 良い形してるぜ! 

 そんなふうに思っていると、ゼノヴィアはブラのホックを外した。

 

 ぶるっ! 

 

 抑えるものが無くなったためか、見事な乳房が俺の眼前に! 

 うん! 相変わらず綺麗なピンク色の乳首だこと! 

 

「イッセー以外の男に障らせたことのない胸だ。感触は覚えてるか?」

 

 もちろん! 手でもんだわけではないけど、メチャクチャ柔らかかったの覚えてるよ! 

 肌もスベスベだし、体も引き締まってて正直最高です! 

 

「ほら、アーシアも」

 

 ゼノヴィアがアーシアへ迫る! おおおーい! 

 何アーシアの体操着を掴んで脱がそうとしてるの!? 

 

「で、でも、やっぱり、心の準備がまだ……」

 

 ゼノヴィアはもじもじするアーシアから強引に体操着の上を取り払った! 

 そして、現れるアーシアのブラジャー姿! 可愛らしいデザインのブラジャーじゃないか! お兄さん感動だよ! 

 

「大丈夫だよ、アーシア。不安なら私が先にイッセーとしても良い。私とイッセーの行為を見ていればどういうものか理解できて、勇気と準備が整うはずだ」

 

「え! ……え、えっと」

 

「ふふふ、冗談だよ。やっぱり後から来た者に先を越されるのは嫌だと思っていた」

 

「い、いえ……そういうことじゃなくて」

 

「今日がチャンスだよ。さっきも言ったとおり、今はミッテルトも部長達もいない。誰にも邪魔されず、イッセーと乳繰り合えるチャンスは今しかないかもしれないんだ」

 

「────っ!」

 

 その一言にアーシアが黙り込んでしまった! 

 た、確かにここにはミッテルトも部長達もいないから、プールの時みたいに誰かが止めに入ることもないだろうけど……。

 

 パチン

 

 ゼノヴィアの手が静かに伸びて……アーシアのブラのホックをはずしたぁぁぁっ! 

 

「────あっ」

 

 露になった胸元をアーシアは顔を真っ赤にして手で隠す! 

 そう! それが女の子の普通の反応だよね! 

 ゼノヴィアさん、君、堂々とぶるんぶるんさせすぎ! いえ、ありがとうございます! 最高です! 

 そのゼノヴィアが俺の手を引き────トンと体を押した。

 

「おわっ!」

 

 突然の状況に対応できず、倒される俺。

 舞うホコリの中、上半身だけ起こした俺は体育用マットの上に押し倒されたことに気付く。

 

 がばっ! 

 

 何か覆いかぶさる! 

 

 ぶるぶるっ! 

 

 眼前で揺れるゼノヴィアのおっぱい! ゼノヴィアが俺の上に覆いかぶさってきた! 

 ゼノヴィアはそのまま俺の左手を取り、自身の胸に当てる! 

 

 ブハッ! 

 

 鼻血が止まらねェ! 

 殺傷能力の高いやわらかさが俺の手に伝わる! 

 埋没していく俺の五指! 掌に乳首の感触がぁぁぁぁ! 

 ま、まずい! このままでは本当に理性が崩壊してしまうぅぅぅ! 

 

「イッセーさん……私も……み、ミッテルトさんにも部長にも、負けたくないから……」

 

 隣に座ったアーシアが俺の右手を取って、自分の胸へ────

 

 ふにゅんっ! 

 

 ゼノヴィアほどではない。

 しかし、確かな存在感のアーシアのおっぱいに俺の五指がぁぁぁ! 

 よくここまで育ってくれた! 俺は猛烈に感動しているよ、アーシア! 

 ……って、いや、そうじゃねえよっ!! 

 

「……ぅん……」

 

 甘い吐息がゼノヴィアの口から漏れる。

 

「やはり、自分で触るのと、男が触ってくるのとでは違うね。さて、イッセー。私とアーシア、どちらも準備はOKだ。好きなだけ揉みしだくと良い」

 

「も、もみしだくって……」

 

「ああ、存分にな。イッセーは女の胸が好きなのだろう?」

 

 そりゃあもう! 大好きです! 

 でも、ゼノヴィアはともかく、アーシアは守るべき存在、汚しちゃダメな子なんだよ! 

 そう思いつつも、俺は無意識にアーシアのおっぱいを揉んでしまう! 男の性には逆らえないのか!? 

 まずい、このままじゃあ本当にいぃぃぃぃ!! 

 

 ガラララ

 

 突然開かれる扉。

 

「……中々出てこないから心配してきてみれば、な、な、な、なんてことを!」

 

 入ってきたのはイリナだった! 

 まずい! 完全に存在を忘れてた! 

 言い訳できない状況だ! 

 だって、上半身裸の女の子二人と男が一人だぞ!? 

 イリナのことだ、「不潔!」とかクリスチャン的な発言をしそうだが────。

 

「ベッドでしなさい! ここは不潔で衛生的によくないわ!」

 

 ……不潔の基準が違った。

 この娘もたいがい変な子だよなと俺は他人事みたいに考えるのだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 放課後。部活の時間。

 俺はミッテルトにぶん殴られた頬をさすりながら、ソファーに座っていた。

 あの後、ちょうど登校してきたミッテルトに見つかり、思いきりぶん殴られたんだよな。

 

「いや、あの現場見たらそうなるっしょ」

 

 ジト目で俺をにらみながら、ミッテルトはつぶやく。

 まあ、言い訳のしようもないから仕方ないけど……。

 ……それはそうとて、すごかったな……二人のオッパイ……。

 数時間たったけど、感触がまだこの手に残ってぇぇぇぇぇ……。

 

「いたぎ、いたひよ。こねこちゃん」

 

「……いやらしい顔ですね」

 

 半目無表情で小猫ちゃんに頬を引っ張られた。

 ミッテルトも氷の笑顔を張り付けながら、オーラを高めている。

 ハイ。ごめんなさい。反省しました。

 

「全員集まってくれたわね」

 

 部員全員が集まったことを確認すると、部長は記録メディアらしきものを取り出した。

 

「これは若手悪魔の試合を記録したものよ。私達とソーナの戦いもあるわ」

 

 戦いの記録。

 そう、今日は皆で試合のチェックをすることになったんだ。

 部室には巨大なモニターが用意される。アザゼル先生が用意したらしく、先生はモニターの前に立って言う。

 

「おまえら以外にも若手悪魔たちはゲームをした。大王バアル家と魔王アスモデウスのグラシャラボラス家、大公アガレス家と魔王ベルゼブブのアスタロト家、それぞれがおまえらの対決後に試合をした。それを記録した映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」

 

『はい』

 

 先生の言葉に全員が真剣にうなずいていた。

 皆、他の家がどんなゲームをしたのかすごく気になるようだ。

 実際、俺も気になる。参加している若手悪魔はほとんどが部長たちの同期だ。

 若手の悪魔たちはどのような力を持っているのか非常に興味がある。

 特にあの人……“サイラオーグ・バアル”。

 部長の従兄弟にして、若手のナンバーワンの悪魔。

 部長を含めた若手で見ても、明らかに別格の存在だ。

 

「まずはサイラオーグ────バアル家とグラシャラボラス家の試合よ」

 

 さっそく、サイラオーグさんか。相手はあのヤンキー。

 記録映像が開始され、数時間が経過する。

 そこに映っていたのは────圧倒的なまでの『力』だ。

 眷属同士の戦いは五分五分……表面上は、だけど。サイラオーグさんの眷属達にはまだ余裕がありそうだ。

 結局、ヤンキーの眷属は全滅し、サイラオーグさんを挑発し、一騎打ちに持ち込もうとしている。

 サシで勝負しろ、と。

 俺はそれを聞いて馬鹿だろと思った。まさかとは思うけど、彼我の差を見抜けていないなんてこと、ないよな? 

 サイラオーグさんはそれに躊躇うことなく乗った。

 そして始まるヤンキー悪魔とサイラオーグの一騎打ち。

 ヤンキーが自信満々に攻撃を繰り出すが、それはあっけなくサイラオーグにはじき返される。

 それに驚きつつも、ヤンキーはサイラオーグさんに魔力弾やらを放ち続ける。

 だが、サイラオーグさんにはまるで通じてない。まともにヒットしても何事もなかったようにサイラオーグさんはヤンキーに反撃していた。

 自分の攻撃が通じないことで、ヤンキーはしだいに焦り、冷静さを欠いていた。

 そこへサイラオーグさんの拳が放り込まれる。

 幾重にも張り巡らされた防御術式を紙のごとく打ち破り、サイラオーグさんの一撃がヤンキーの腹部に打ちこまれていく。

 その一撃は映像越しでも辺り一帯の空気を震わせるほどだった。

 曲がりなりにも上級悪魔(Aランク)であるヤンキーだからこそ耐えられたわけで、恐らくAランクに満たない奴なら今ので致命傷だろうな。

 

「……凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものか、サイラオーグ・バアル」

 

 木場は目を細め、厳しい表情でそう言った。

 サイラオーグさんのスピードは相当なものだった。多分、普通に木場より速い。スピードが持ち味の木場にとっては思うところがあるのだろう。

 見ればギャスパーがブルブル震えながら俺の腕につかまっていた。

 ビビりすぎだろ、ギャスパー……。

 まあ、気持ちはわからんでもない。

 サイラオーグさんの強さは既に一級品だ。恐らく、進化前のカリオンさんとだって正面から殴り合うことができるだろう。もちろん、“百獣化”を考慮しなければだけど、それでも若手でこの力は異常といえよう。

 魔王種並の格闘能力を持つ若手……ナンバーワンと呼ばれるのも頷けるな。

 

「リアスとサイラオーグ、おまえらは“王”なのにタイマン張りすぎだ。基本、“王”ってのは動かなくても駒を進軍させて敵を撃破していきゃいいんだからよ。ゲームでは“王”が取られたら終わりなんだぞ。バアル家の血筋は血気盛んなのかね」

 

 先生が嘆息しながらそう言う。

 部長は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

「あのグラシャラボラスの悪魔はどのくらい強いんだ?」

 

 ゼノヴィアの問いに部長が答える。

 

「今回の六家限定にしなければ決して弱くはないわ。といっても、前次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理ということで参加しているわけだけれど……」

 

 まあ、実際、あのヤンキーも弱いわけではない。

 Aランクは超えてるし、“豚頭魔王(オーク・ディザスター)”の名づけ主、魔人“ゲロミュード”……だったっけ? あいつと互角くらいはあるだろう。

 だが、サイラオーグさんと比べるにも及ばない。

 部長の言葉に朱乃さんも続く。

 

「若手同士の対決前にゲーム運営委員会がだしたランキング内では一位はバアル、二位がアガレス、三位がグレモリー、四位がアスタロト、五位がグラシャラボラス、六位がシトリーでしたわ。『王』と眷属を含みで平均で比べた強さランクです。それぞれ、一度手合わせして、一部結果が覆ってしまいましたけれど」

 

「しかし、このサイラオーグ・バアルだけは抜きんでている────というわけだな。部長」

 

 ゼノヴィアの言葉に部長は頷く。

 

「ええ、彼は怪物よ。『ゲームに本格参戦すれば短期間で上がってくるのでは?』と言われているわ。逆を言えば彼を倒せば、私たちの名は一気に上がる」

 

 と、部長は言う……。

 まあ、皆の今の実力ではサイラオーグさんには勝てないだろう。

 その辺りは皆も理解してると思うし、やるのは殺し合いではなく“ゲーム”。

 そこらへんの工夫を考えないとな。

 

「とりあえず、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られているものだ」

 

 先生が術を発動して、宙に立体映像的なグラフを展開させる。

 そこには部長や会長、サイラオーグさんなど、六名の若手悪魔の顔が出現し、その下に各パラメータみたいなものが動き出して、上へ伸びていく。

 ご丁寧にグラフは日本語だった。

 グラフはパワー、テクニック、サポート、ウィザード。ゲームのタイプ別になっている。

 最後の一か所に『キング』と表示されている。たぶん“王”としての資質だろう。

 部長、会長、シーグヴァイラがそこそこ高めで、サイラオーグさんはかなり高い。ヤンキー悪魔が一番低い。

 まぁ、あいつは王って感じはしないしな……。

 部長のパラメータはウィザード────魔力が一番伸びて、パワーもそこそこ伸びた。

 あとのテクニック、サポートは真ん中よりもちょい上の平均的な位置だ。

 そして────サイラオーグさん。

 サポートとウィザードは若手の中で一番低い。だけど、そのぶんパワーが桁外れだ。

 ぐんぐんとグラフは伸びていき、部室の天井まで達した。

 まあ、部長がこれくらいだとすると、あの人はこうなるよなって感じだ。

 サイラオーグさんを抜かしても、パワーだけなら部長と同等と表されてるヤンキー悪魔の数倍はある。

 

「ゼファードルとのタイマンでもサイラオーグは本気を出しやしなかった」

 

 だろうな。

 ヤンキーと戦ってる時のサイラオーグさんは映像からも分かるほどに余裕があったしな。

 サイラオーグさんだけでなく、眷属の方々もそうだ。

 

「やはり、サイラオーグ・バアルもすさまじい才能を有しているということか?」

 

 ゼノヴィアが尋ねると、先生は首を横に振って否定する。

 まあ、俺もそれは映像を見てて感じた。あの強さは才能というよりは……。

 

「いいや、サイラオーグはバアル家始まって以来才能が無かった純血悪魔だ。バアル家に伝わる特色のひとつ、滅びの力を得られなかった。滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟のグレモリー兄妹だったのさ。だからこそ、アイツは凄まじいまでの修行を行い、天才たちを追い抜いた。サイラオーグは、尋常じゃない修練の果てに力を得た稀有な純血悪魔だ。あいつには己の体しかなかった。それを愚直までに鍛え上げたのさ」

 

 やっぱり、サイラオーグさんも修行したんだな。

 ただ、才能にかまけているだけではあの動きは得られない。

 あそこまでの強さになるには相当、厳しいものだったのだろう。

 努力の果てに得た強さ。

 だから、あの人は自信に満ち溢れているんだ。己の強さと努力に確固たる誇りを持っているから。

 先生は続ける、語りかけるように。

 

「奴は生まれたときから何度も何度も勝負の度に打倒され、敗北し続けた。華やかに彩られた上級悪魔、純血種のなかで、泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでいる野郎なんだよ。才能の無い者が次期当主に選出される。それがどれほどの偉業か。────敗北の屈辱と勝利の喜び、地の底と天上の差を知っている者は例外なく本物だ。ま、サイラオーグの場合、それ以外にも強さの秘密はあるんだがな」

 

 試合の映像が終わる。

 結果は当然バアル家の勝利だ。

 最終的にグラシャラボラスのヤンキーは物陰に隠れ、怯えた様子で敗北宣言をする。

 サイラオーグさんは縮こまり怯え泣き崩れるヤンキーに何かを感じる様子もなくその場をあとにしていく。

 映像が終わり、しんと静まりかえる室内で先生は言う。

 

「先に言っておくがおまえら、ディオドラと戦ったら、その次はサイラオーグだぞ」

 

「────っ!?」

 

 部長は怪訝そうにアザゼルに訊く

 

「少し早いのではなくて? グラシャラボラスのゼファードルと先にやるものだと思っていたわ」

 

「奴はもうダメだ」

 

 先生の言葉に皆が訝しげな表情になる。

 

「ゼファードルはサイラオーグとの試合で潰れた。サイラオーグとの戦いで心身に恐怖を刻み込まれたんだよ。もう、奴は戦えん。サイラオーグはゼファードルの心────精神まで断ってしまったのさ。だから、残りのメンバーで戦うことになる。若手同士のゲーム、グラシャラボラス家はここまでだ」

 

 心を完全に折られちゃったのか……いくらなんでも脆すぎない? 

 ……いや、考えてみるとライザーも今は引きこもってるっていうし、本物の戦いを知らない上級悪魔は案外メンタルが弱いのかもな。

 

「おまえらも十分に気をつけておけ。あいつは対戦者の精神も断つほどの気迫で向かってくるぞ。あいつは本気で魔王になろうとしているからな。そこに一切の妥協も躊躇もない」

 

 アザゼル先生のその言葉を皆が頷く。

 だが、部長たちならそこら辺は問題ないだろう。部長の心の強さは俺もよく知ってるしな。

 部長は深呼吸をひとつした後、改めて言う。

 

「まずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も研究のためにこのあと見るわよ。────対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話しだもの」

 

「え? シーグヴァイラさんが負けた? マジですか?」

 

 俺は思わず、部長に尋ねてしまう。

 俺はてっきりシーグヴァイラさんが勝つと思っていたからだ。

 なんとなくだけど、あの人はライザーやヤンキーとは違い、それなりの強い精神力を持ってるように思えてた。

 慢心とかも一切感じられなかったし、純粋なEPでいっても間違いなくディオドラを上回ってたように思える。

 いや、レーティングゲームは王だけで勝てるもじゃない。

 ゲームの内容しだいじゃ格上をも降せるだろう。

 アイツは腹黒そうだし、何か策を練っていたのかもしれないな……。

 

「レーティングゲームは何が起こるかわからない。ソーナだって、私達を打ち倒してるのだもの。ソーナとアスタロトは大金星という結果ね。悔しいけど、ソーナに関しては私も納得してる。けれど、あのアガレスが負けるだなんてね……」

 

 そう言いながら、部長が次の映像を再生させようとしたときだった────

 

 パァァァァァ

 

 部屋の片隅で一人分の転移魔法陣が展開した。

 この紋様は見覚えがあるぞ。

 グレモリー家の勉強会で習ったことがある。

 確か……

 

「────アスタロト」

 

 朱乃さんがぼそりと呟いた。

 そして、一瞬の閃光のあと、部室の片隅に現れたのは爽やかな笑顔を浮かべる優男だった。

 そいつは開口一番に言う。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 ディオドラは腹黒そうな笑みを浮かべ、俺たちに告げた。

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