帰ってきたらD×Dだった件   作:はんたー

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アーシアは渡しません

 イッセーside

 

 

 

 

 部室のテーブルには部長とディオドラ、顧問であるアザゼル先生が座っていた。

 朱乃さんがお茶を淹れ、部長の傍らに待機する。

 俺たちもまた、部室の片隅で状況を見守っていた。

 にこやかなディオドラに対し、剣呑な雰囲気を醸し出す部長たち。空気が張り詰めている。

 婚約関連の騒動という意味では、ライザーの時と状況は似てるかもな。

 違うのは、今回の対象はアーシアという点だ。アーシアは不安そうに俺の手を握っている。

 心配するな、アーシア。

 ……いざとなったらコイツをブッ飛ばしてでも守ってやるよ。

 部長には迷惑かかるかもだけど、きっと部長も許してくれるとは思う。

 そんな俺の覚悟を余所にディオドラは部長と交渉する。

 

「リアスさん。単刀直入に言います。“僧侶”のトレードをお願いしたいのです」

 

「いやん! 僕のことですか!?」

 

 それを聞いたギャスパーが身を守るような仕草をする。

 そんなわけないだろ……。

 ……いや、コイツなりにこの張り詰めた空気を解したかったのかもしれないな。

 当の本人はそんなギャスパーをスルーしてアーシアへと視線を向けた。

 

「いや、悪いけど君には興味ないんだ。僕が望む眷属はアーシア・アルジェントだ」

 

 やっぱりアーシア狙いか。

 悪いが今ので俺のコイツへの印象はさらに最悪なものへとなった。

 曲がりなりにも求婚した相手を? トレード? 物扱いでもしてるつもりか? 

 

「こちらが用意するのは────」

 

「ごめんなさい

 先に言っておいた方がいいと思ったからいうけど、私はアーシアを手放すつもりはないの。大事な眷属悪魔だもの」

 

 部長も俺と同じ気持ちなのだろう。

 部長はディオドラの出したカタログらしきものを一瞥もせずに言い切った。

 

「それは能力? それとも彼女自身が魅力だから?」

 

 ディオドラは淡々と部長に訊いてくる。

 嫌な意味で諦め悪いな、こいつ。

 部長が断った時点でこの話は終わりだろ? 大人しく帰れよ! 

 

「両方よ。私は、彼女を妹のように思っているわ」

 

「────部長さんっ!」

 

 アーシアは手を口元にやり、美しい緑の瞳を潤ませていた。

 部長が『妹』と言ってくれたのが心底嬉しかったのだろう。

 

「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら? 私は十分だと思うのだけれど。それに求婚したい女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ、ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

 部長は迫力のある笑顔で言いかえす。

 やっぱり部長も俺と同じ考えのようだ。

 最大限配慮しての言動だったが、キレているのは傍から見ても一目了然。

 しかし、ディオドラは笑みを浮かべたままだ。それが逆に不気味だ。

 何を企んでやがる? 

 

「────わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

 ディオドラは立ち上がり当惑しているアーシアに近づく。

 そして、アーシアの前へ立つと、その場で跪き、手を取ろうとした。

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。だいじょうぶ、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

 訳のわからない戯れ事を抜かしながら、ディオドラはアーシアの手の甲にキスをしようとする。

 

 ガシ! 

 

 俺はディオドラの肩を掴み、キスを制止させる。

 

「見てわからねえのか? アーシアは嫌がってるんだろ」

 

 俺が肩を掴みながらそう言う。

 そもそもいきなりキスしようとするとかどういう了見だよ。

 すると、ディオドラは爽やかな笑みを浮かべながら言った。

 

「離してくれないか? 薄汚いドラゴンに触れられるのはちょっとね……いや人間だからそれ以下の蛆虫かな?」

 

 とうとう本性を出しやがったな、こいつ……。

 マジでぶん殴るぞ? 

 ミッテルトもかなりキレてる。アーシアを物扱いするかのような言動に怒りを感じてるのだろう。

 

 バチィ! 

 

 瞬間、アーシアのビンタがディオドラの頬に炸裂した。

 アーシアはそのまま俺に抱きつき、叫ぶように言った。

 

「そんなことを言わないでください!」

 

 これにはこの場の全員が驚いていた。

 あのアーシアが誰かを叩くなんて思ってもみなかったからだ。

 ミッテルトもこれには驚いている。

 対してディオドラは頬が赤くなっているが、笑みを止めずにいた。

 このまで笑みを続けるとマジで不気味だぜ……。

 

「なるほど。わかったよ。────では、こうしようかな。次のゲーム、僕は歴代最強の赤龍帝“兵藤一誠”を倒そう。そしたら、アーシアは僕の愛に答えてほしい……」

 

 薄ら寒い笑いをしながらディオドラは告げた。

 ディオドラが認めれば、眷属候補である俺もゲームに参加できる……とはいえ、すごい自信だな。

 俺はチラリとアーシアを見る。その眼からは信頼が感じ取れた。

 アーシアは俺が勝つことを信じてるのだろう。ならば、俺も答えるべきだな。

 

「……お前ごときに負けるわけねえだろ」

 

「それはどうかな?」

 

 これほどの自信……。

 コイツは何やら俺を倒す秘策かなにかを用意してるのだろう。

 上等だ。真っ正面からぶっ壊してやるよ。

 

「赤龍帝、兵藤一誠。次のゲームで僕は君を倒すよ」

 

「ディオドラ・アスタロト。悪いがアーシアは絶対にお前には渡さない! お前の言う薄汚い蛆虫の力を見せてやるよ!」

 

 睨み合う俺とディオドラ。

 瞬間、先生のケータイが鳴り響く。メールを見た先生は俺たちに告げる。

 

「リアス、ディオドラ、ちょうどいい。ゲームの日程が決まったぞ。────五日後だ」

 

「五日後。その日にアーシアは僕の物になるのか。楽しみだね」

 

 最後にそう呟きながら、ディオドラは帰っていった。二度と来るな。

 魔王からの正式な通達が来たのは、後日のことだった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「上級悪魔……か……」

 

「ごめんなさいね、イッセー。でも、上級悪魔だって、あんな人ばかりじゃないのよ」

 

「それはわかってるっすよ。部長も会長もイイ人っすからね」

 

 深夜。俺たちは今、部長達と共に依頼のあったという邸宅に向かっていた。

 何でも、()()()()()()()()()()()()()()()()という依頼があったそうだ。

 俺とミッテルトもたま~に手伝いをしてるから、多分そこで知られたんだろうな。

 時間に余裕があるらしく、歩きでも構わないと言われたため、全員で向かっているのだ。

 そこで俺は物思いに耽っていた。ライザーといい、ディオドラといい、上級悪魔は他種族を見下す傾向が強い。

 あのパーティーでそんな人ばかりじゃないこともわかってはいるが、全体から見るとそれは少数派だろう。

 部長に会長、あの会合の後、共通の趣味で少しだけ話す機会のあったシーグヴァイラさんに努力家のサイラオーグさんみたいに、偏見を持たず接してくれる人もいるけど、あのヤンキーやディオドラみたいに古い価値観にとらわれた若手もいる。

 歴史が長いから、古い悪魔たちが凝り固まった価値観を持つのは仕方ないにしても、若い世代までそれが継承されてるのは何となくいただけないな……。

 

「ごめんなさい……」

 

「アーシアが謝ることじゃないっすよ。まあ、イッセーがあの程度の負けるわけないし、どっしりと構えてるっすよ」

 

 申し訳なさそうなアーシアをミッテルトが励まそうとする。

 瞬間、俺の感知に反応が出た。

 

「……っ!?」

 

「……小猫?」

 

 仙術を学んでいる小猫ちゃんも気配を感じ取ったのだろう。

 構えをとり、警戒している。

 

「何しに来たんだ? ヴァーリに……えっと美猴……だっけ?」

 

「覚えていてくれたのかい? 光栄だねぃ」

 

 俺の言葉に反応して、闇夜からラフな格好の男が姿を現した。

 斉天大聖孫悟空の子孫、美猴だ。

 

「やっぱりバレてるみたいだぜぃ、ヴァーリ。おひさ、赤龍帝」

 

 美猴のその声を聞き、もう一人の青年が暗闇から現れる。

 

「二ヶ月ぶりだな、兵藤一誠」

 

 そこから出てきたのは、白いシャツ姿のヴァーリだった。

 部長たちはそれを見て警戒している。今にも襲い掛かりそうだ。

 俺はそれを手で制しながら、とりあえず目的を聞いてみる。

 

「で? 結局、何のようだよ?」

 

 殺気は感じないし、どうやら戦いに来たわけじゃあなさそうだけど……。

 

「レーティングゲームをするそうだな? 相手はアスタロト家の次期当主だと聞いた」

 

 何処で聞いたんだよ……。決まったの先日だぞ? 

 まあ、聞いた話によると、こいつは“禍の団”でも上位のチームに位置するらしい。どうせ三大勢力の中にもお仲間はいるだろうし、知っててもおかしくはないか。

 

「ああ。それがどうした?」

 

「記録映像は見たか? アスタロト家と大公の姫君の一戦だ」

 

「……見た」

 

 ディオドラが帰ったあと、俺は部長達と共にディオドラ対シーグヴァイラさんの記録映像を確かに見た。

 試合はディオドラの勝ちだったけど……違和感のある試合だった。

 ディオドラの実力は圧倒的。奴だけがゲームの途中から異常なほどの力を見せ、シーグヴァイラさんとその眷属を撃破したんだ。

 ディオドラの眷属は奴をサポートするぐらいで、“王”自ら、孤軍奮闘、一騎当千の様相を見せた。

 ディオドラは魔力に秀でたウィザードタイプだ。しかし、試合では部長を超えるほどの魔力のパワーでアガレス眷属達を追い詰めていた。

 これを見て訝しげに思ったのはほぼ全員。ゲーム自体ではなく、ディオドラのみに注目していた。

 あいつは急にパワーアップしたんだ。

 それまではシーグヴァイラさん率いるアガレス眷属があと一歩のところまで追いつめていたのに途中から急に力強くなったディオドラに敗北した。

 二人のEP値から見ても、これはありえないことだ。

 二人ともAランクだけど、魔力面でも身体面でもシーグヴァイラさんがディオドラを上回っていたのは間違いない。

 現に先生もディオドラの力に疑問を抱いていた。

 先生は生でこの試合を観戦していたらしいけど、事前に得ていたディオドラの実力から察してもあまりに急激なパワーアップに疑問を感じたようだ。

 部長も同じ意見だった。

 ディオドラはあそこまで強い悪魔ではなかった────と、部長と先生の意見は一致した。

 正直、修行前ならともかく、今の部長や会長と比べるとディオドラは大きく劣っていた。実際、ゲーム序盤は俺の予想の範疇を出ていなかった。

 試合途中からディオドラは皆が驚くほどの力を発揮していた。

 短時間でそこまで強くなれるハズがない。

 俺の予想が正しければディオドラは……

 

「まあ、俺の言い分だけでは、上級悪魔の者たちには通じないだろう。だが、君自身が知っておけばどうとでもなると思ってね」

 

 ……ここは礼でも言っとくべきなのかね? 

 俺がそう思ったときだった。

 とてつもない気配とともに、ふいに人影が────。

 この場にいる全員が予想外だったようで、そちらへ視線を向けていた。

 ぬぅ……。

 闇夜から姿を現したのは────ものすごい質量の筋肉に包まれた巨躯のゴスロリ漢の娘だった。その頭部には猫耳がついている。

 

「────ミルたん?」

 

 その圧倒的存在感に、現れた瞬間、ヴァーリたちも部長たちもが二度見していた。

 わが目を疑ったのだろう。当然だ。この人? はこの世のものとは思えない姿をしてるからな。

 

「にょ」

 

「ど、どうも……」

 

「お久しぶりっすね……」

 

 手をあげ、俺にあいさつし、横を通り過ぎていく。

 俺も手をあげて引き攣る笑顔で挨拶を返したが……。

 

「……なんですか、今の? 全く気付けませんでした……」

 

「うちもっす。修行が足りないんすかね?」

 

「頭部から察するに猫又か? 近くに寄るまで俺でも気配が読めなかった。仙術か?」

 

「いんや、あれは……トロルか何かの類じゃね? ……猫トロル?」

 

「いや、信じがたいけど、人間だよ」

 

『え?』

 

 俺の答えが信じられないのか、しばし無言の状態が続く……。

 

「……まぁ、いいか。帰るぞ、美猴」」

 

「お、おう」

 

 いち早く我に返ったヴァーリはそれだけ言うと、美猴と共にこの場を後にしようとする。

 

「待てよ。それだけ言いに来たのか?」

 

 俺がそう訊くとヴァーリは笑って見せる。

 

「近くに寄ったから、忠言に来ただけさ」

 

「じゃあな、赤龍帝。なぁ、ヴァーリ。帰りに噂のラーメン屋寄って行こうや~」

 

 ヴァーリはそう言うと歩みを進める。

 そのまま二人は暗闇の中に溶け込んでいった。

 

「何を企んでるのかしら?」

 

 部長は訝しむが、俺はヴァ―リへの印象を少し改めていた。

 戦闘狂という一面を除けば、やっぱりヴァ―リも先生の教え子なんだな……と。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ここよ」

 

 気を取り直して俺たちは依頼主の家へと向かっていた。

 なかなかの豪邸だ。相当のお金持ちなんだろうな。

 そんなことを考えていると、扉が開き、使用人らしき人が────っ!? 

 

「お待ちしておりました。悪魔の皆々様方。私、当屋敷の使用人“美空”と申します。どうぞよろしくお願いします」

 

 現れたのは空色の髪色が特徴的なメイドさん。

 何処かで見たことある。厳密には俺が通ってたフィギュア教室で。

 見るとミッテルトも絶句してる。

 この人が使用人ということは、この屋敷の主はもしかしなくても……。

 

「フフフ、きましたね。待っていましたわ。悪魔の方々!」

 

 そう言いながら、邸宅の扉より屋敷の主であろう“悪魔(デーモン)”が現れた。

 青い髪に紅い私服を纏いながら、腹の立つどや顔を見せている。

 

「私は“青原(あおはら)雨葵(あお)”。芸術家兼メイドをしていますわ。どうかよろしくお願いします」

 

 隠す気0の偽名を名乗りながら、目の前のサボり魔(青い悪魔)はスカートをつまみ、優雅なお辞儀をするのだった。

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