イッセーside
「あー、俺は……いや、私はグレモリー眷属候補の……」
俺は鏡の前で発声練習に勤しんでいた。
だってさ、テレビ出演だぜ? 論文の発表とかは、研究員時代に何度かあったけど、テレビは不特定多数に発信するんだ。そりゃ緊張もするわ。
部長たちは元々魔王の家族として有名人。前回のレーティングゲームでさらに知名度をあげたのだ。
負けたとしても、あの戦いは間違いなく名勝負。どちらの陣営も凄まじい人気が出たそうだ。
ソーナ会長達もそこは同じで、あの人達も既にテレビ取材を何度か受けてるらしい。
「イッセー、そろそろ時間っすよ?」
「おう、今行く」
ミッテルトに促され、俺は転移用の魔方陣へと向かう。
到着した場所は都市部にある大きなビルの地下だ。
転移用魔法陣のスペースが設けられた場所で、そこに着くなり、待機していたスタッフの皆さんに迎えてもらった。
「お待ちしておりました。リアス・グレモリー様。そして、眷属の皆様。さぁ、こちらへどうぞ」
スタッフの人に連れられて、エレベーターを使って上層階へ。
ビル内は人間界とあまり変わらない作りだが細かい点で差異があったりする。
魔力で動く装置と小道具が建物のあちこちに使われていたりする。
こういうのを見ると、“
廊下にでるとそこにはポスターがあった。
そこに写っていたのは部長。紅髪の美少女がこちらを見て微笑んでいる。こうやって見るとアイドルみたいだな。
その隣にはソーナ会長にシーグヴァイラさんのポスターもある。こちらは……なんというか、選挙の広告ポスターみたい。
と、ここで廊下の先から見知った人が十人ぐらいを引き連れて歩いてくる。
「サイラオーグ。あなたも来ていたのね」
部長が声をかけたのはバアル家次期当主のサイラオーグさんだった。
貴族服を肩へ大胆に羽織り、風格を漂わせている。
隙もほとんどない。常に臨戦態勢って感じだ。
そのすぐ後ろに金髪ポニーテールの女性、サイラオーグさんの“女王”が控えている。
……美人だよなぁ。この人。
「リアスか。そっちもインタビュー収録か?」
「ええ。サイラオーグはもう終わったの?」
「これからだ。おそらくリアスたちとは別のスタジオだろう。────試合、見たぞ。今回は残念だったな」
「ええ。でも、次は負けないわ。……貴方にもね」
サイラオーグさんの言葉に部長は答えた。
その言葉からは並々ならぬ情念が感じられる。相当悔しかったんだろうな……。
サイラオーグさんもそれを見て笑みを深めている。どうやら相当燃えてるみたいだな。
その視線は部長から俺へと移る。
「兵藤一誠。俺は“歴代最強の赤龍帝”と称される貴殿と是非とも戦ってみたいと思っている」
サイラオーグさんは闘志を燃やしながらそう告げた。
「……わかりました。受けて立ちましょう」
「ああ。楽しみにしているよ」
サイラオーグさんはそれだけ言うと、去っていった。
……正直な話、俺は今回のゲームに関わる気はあまりなかった。というのも、俺が出てしまえば、ほとんどのゲームはワンサイドゲームになってしまうからだ。
今回のディオドラは例外中の例外……のつもりだったんだけどな……。
あの人の眼を見ると、俺もあの人と戦ってみたいという気になってしまったんだ。
俺とサイラオーグさんがまともに戦えば、正直な話、俺が勝つだろう。
だけど、あの人はそれを承知の上で、俺と戦いたいと言っているのだ。ならば、受けて立つのが筋というものだろう。
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その後、俺達はスタジオらしき場所に案内され、中へ通される。
まだ準備中で、局のスタッフがいろいろと作業していた。
先に来ていたであろうインタビュアーのお姉さんが部長にあいさつする。
「お初にお目にかかります。冥界第一放送局の局アナをしているものです」
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
部長も笑顔で握手に応じた。
「さっそくですが、打ち合わせを────」
と、部長とスタッフ、局アナのお姉さんを交えて番組の打ち合わせを始めた。
スタジオには観客用の椅子も大量に用意されている。
つまり、お客さんもたくさん来るわけだ。これは練習しといてよかったな。向こうでの論文発表とかを思いだすぜ。
「……ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、僕、帰りたいですぅぅぅぅぅ……」
俺の背中でぶるぶる震えているギャスパー。
引きこもりにテレビ出演は酷かもしれないな。
安心しろ。俺だってそれなりに緊張してるんだ。だから、お前も我慢しろ。
「眷属悪魔の皆さんにもいくつかインタビューがいくと思いますが、あまり緊張せずに」
スタッフがそう声をかける。その視線にはギャスパーがいる。
まあ、ここまで震えてると、向こうも困っちゃうよね。
「えーと、木場祐斗さんと姫島朱乃さんはいらっしゃいますか?」
「あ、僕です。僕が木場祐斗です」
「私が姫島朱乃ですわ」
木場と朱乃さんが呼ばれ、二人とも手をあげる。
「お二人には質問がそこそこいくと思います。お二人とも、人気上昇中ですから」
「マジですか?」
俺が思わず聞き返すとスタッフは頷く
「ええ。木場さんは女性ファンが、姫島さんには男性ファンが増えてきているのですよ」
あー、イケメンと美女だもんな。そりゃ、人気でてもおかしくない。
前回のシトリー戦は冥界全土に放送されたらしいし、それで二人が人気出たわけか……。
クソッ、木場め! 羨ましすぎる!
朱乃さんは……少し複雑だな。でも、ココは素直に喜んだほうがいいか。
「ちなみに、兵藤一誠さんは?」
「あ、俺です」
名前を呼ばれたので自分を指差しながら答える俺。
「あ、あなたがですか! リアス様の眷属候補にして、“歴代最強の赤龍帝”として、とても有名ですよ」
前々から思ってたけど、その異名は本当に広まってるんだな。
なんでもサーゼクスさんやセラフォルーさんといった魔王様たちが俺の活躍を結構広く伝えているらしい。
メロウ、コカビエルとの戦いや和平会談での活躍などで、悪魔の味方として戦ったおかげで一般悪魔からは割と受け入れられてるんだそうだ。
「兵藤さんには別スタジオでの撮影もあります。“歴代最強の赤龍帝”として、是非とも参加してもらいたい企画があるのです」
「あ、はい。わかりました」
「では、さっそく別スタジオにご案内します。あ、そちらの堕天使のお嬢さんもどうぞ」
「あ、はい」
スタッフに何やら台本らしきものを渡された俺は、ミッテルトとともに別のスタジオへと移動する。
はてさて、何が待ち受けているのやら。
「失礼します」
部屋の中にいたのは……何やら胡散臭いサングラスと真っ黒なスーツに身を包むサーゼクスさんだった。
その横にはアザゼル先生、セラフォルーさんが座っている。どちらもサーゼクスさんと同じ……少し胡散臭い格好だ。
なんだなんだ?
「急に呼び出してしまい、すまないね、イッセー君」
「あ、いえ別に……それよりこの集まりは?」
魔王が二人に堕天使の総督……格好に眼を瞑ればそうそうたる面子だ。一体何が始まるというのか……。
俺がそう尋ねると、サーゼクスさんは立ち上がり、カーテンのシャッターを少し開ける。
冥界特有の光がサーゼクスさんを照らしている。
「僕たちは冥界の現状を憂いている。知っての通り、今の冥界は他種族や転生悪魔を見下したりする悪魔が数多くいる。しかも、その考えがこれからの冥界の未来を担う次世代にまで浸透している。もはや、それに頼らずには種の存続すら危うい状況だというのに、嘆かわしい限りだよ……」
それはそう。現状、悪魔には人間やら下級悪魔やらを見下す者たちが数多くいる。
古い悪魔の考えが、ディオドラやライザーみたいに若い悪魔にまで影響を及ぼしてしまっている状況だ。
だからこそ、サーゼクスさんたちはそれを変えようと努力しているのだろう。
「……そこで、差別意識を緩和させるために、イッセー君にお願いしたいことがあるんだ。人間でありながら、悪魔を守るために戦い、なおかつ、魔王以上の力を修練によりつかみ取った君にね」
「お前にもだ、ミッテルト。人間や下級の堕天使でもここまで強くなれる……それは、力のない民たちにとっては希望になりうるだろう。なにより、悪魔の友達を守るために戦ったお前は、和平を結んだ
なるほど。確かに、人間である俺がここまで強くなったことをアピールすれば、下級の子どもたちにとっては希望になりうるかもしれない。
元々は普通の中学生だった俺でもここまで強くなれたんだ。何より、子どもたちが向上心を持てば、ソーナ会長達の夢の一助にもなるだろう。
そこまで考えた俺たちは、サーゼクスさんの話とやらを受けることにした。
「何をするのかはわからないっすけど、力になれるならなるっすよ」
「俺も協力させてもらいます。で、俺達は何をすれば?」
俺達の言葉に満足げにうなずいた三人は、俺が先ほどスタッフさんに手渡された台本を指さし、笑みを深める。
「フフフ、それはその台本に書いてあるよ☆刮目するといいわ☆」
セラフォルーさんの言葉に促され、俺達は台本のページを開き…………
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『う、うおおおおおおん……』
「ど、どうしたんだい、ドライグ?」
『二天龍と称された俺が……赤龍帝と呼ばれ、多くのものに畏怖されたこの俺が……』
他の皆にも聞こえるほど悲しんでいるドライグ。木場もそんなドライグを見て心配している。
な、泣くなよ……。ほ、ほらあれだ。畏怖されてるばかりだと、お前も嫌だろ?
た、確かにあのタイトルはあれだと思うけど、子どもたちも親しみやすくなると思うと楽なものだろ?
「……まあ、ドライグの気持ちもわからなくはないっすけどね……」
俺達は今、楽屋でぐったりしていた。
あの後、企画がどういうものかを聞いて、俺達は再び部長の元へ戻った。
始まった番組は終止部長への質問。シトリー戦での感想や、これからどうするのか、これから戦う予定の若手で一番注目してるのは誰かといった内容だった。
部長は笑顔で答えていたが、ソーナ会長との戦いを語るときは、少し闘志を滲みだしていたように思う。
その後、インタビューが木場へと移ると黄色い歓声が飛び交った。朱乃さんも同様で、二人の人気が伺えた。
それだけじゃない。小猫ちゃんもかなり人気になってたらしく、その声援で本人もかなり戸惑っていたように思える。
ちなみに俺は一部の子どもとか、転生悪魔であろう人たちに声援をもらった。
別スタジオで企画したあれはそういう人達のこれからの希望になってくれたらうれしいな。
『うぅぅ……』
いや、だから泣くなって。
「ねえ、イッセー。別のスタジオで何をしてきたの? 何やらドライグには辛いことだったみたいだけど……」
「ああ、それはまだ言えないんですよ。サーゼクスさんにも、あまり広めないでくれって言われてますし……」
「……お兄様が関わってるの? 何やら少し不安だけど、貴方が言うなら楽しみにしてましょう」
部長は不安と期待を織り交ぜたような表情で言った。
と、ここで誰かが楽屋の扉をノックした音が響いた。
そこから入ってきたのは金髪の縦ロールが特徴的な美少女だった。
「失礼いたします。い、イッセー様はいらっしゃいますか?」
そこにいたのはライザーの妹、レイヴェルだった。
「久しぶりだな、レイヴェル。何か用?」
俺と視線が合うと、レイヴェルは何やら嬉しそうな顔をしたが、すぐに不機嫌そうな表情になり、手に持っていたバスケットを突き出してきた。
「こ、これ! ケーキですわ! この局に次兄の番組があるものですから、つ、ついでです!」
そ、そうなんだ? なら、そのお兄さんに渡せばいいような……。
そう思いながらも、取りあえず俺はレイヴェルからバスケットを受け取った。
中身はとても旨そうなケーキが入っていた。
「これ、レイヴェルが作ったの?」
「え、ええ! 当然ですわ! ケーキだけは自信がありますの! そ、それに、ケーキを御馳走すると約束しましたし!」
ああ、確かにパーティーの時、そんな約束したっけ。
覚えていてくれたのか。律儀な子だな。
「ありがとな、レイヴェル。とても嬉しいよ」
俺がそういうと、レイヴェルは顔を赤くしながらくるりと背を向け、扉へ向かう。
「で、では、私はこれで────」
「あ、ちょっと待って!」
俺はレイヴェルを引き留め、木場からケーキナイフを作って貰う。
それを使い、レイヴェルのケーキを切り取り、口に運ぶ。
……うま! チョコの甘味が口一杯に広がるし、仄かな苦味が最高だ。
以前、審査員として参加した“スイーツコロシアム”に出されても可笑しくないかもしれない。
「目茶苦茶旨いよ! ありがとな! 残りは家で食べさせて貰うから。ほら、次、何時会えるかわからないし、感想とかお礼とか今言った方がいいかなって。お茶も今度別にしような。まあ、俺でよければだけど……」
そう言うと、レイヴェルは眼を潤ませ、顔を最大限に紅潮させていた。
あれ? この娘のことだから、てっきり「当然ですわ!」とでも返されると思ってたんだけど……。
「い、イッセー様、次の試合は参加されるのですよね?」
「あ、ああ」
「で、でしたら、次の試合、応援しますわ!」
レイヴェルら俺たちに一礼し、早足にその場を去っていく。
な、なんだったんだ?
そんなことを考えながら、振り向くと────眉をしかめる部長と雰囲気の怖い女子達が俺を睨んでいた。
「イッセー、あなたいつの間にレイヴェルを……?」
な、なんの話ですか!?
そこで、ガサガサとバスケットの方から布切れの音が聞こえてきた。
「……うん。割りとマジで美味しいにゃん。これは案外強力な伏兵かもだにゃん」
振り向くと、そこには可愛らしい猫耳をピョコピョコと動かしながらケーキを切り分ける美女と、薄い緑色の髪の毛と、少し無機質な肌を持つ可愛らしい女の子が座っていた。
「く、黒歌!?」
「姉様!? セラちゃんも……」
そこにいたのは黒歌だ。何やらレイヴェルのケーキを勝手に食べている。
「とっても美味しいの!」
そう言いながら、ケーキを食べるセラ。……ていうか、二人ともいつの間に!?
いや、黒歌はわかる。黒歌の究極級にまで高められた仙術なら、これくらいの隠密行動は容易いだろうからだ。
だけど、俺は黒歌だけでなく、セラがいることにもまるで気付かなかった。
セラはどうやって……? 黒歌に気配を消してもらったのか?
そう考えていると、黒歌は割ととんでもない発言をぶつけてきた。
「いや~、すごいにゃん。この娘、私の気配の消し方を完璧に模倣しちゃって」
黒歌の技術を模倣した!?
マジで!? そんなことできるの!?
見ると、確かにセラは独自に仙術らしきものを使っていた。
曰く、黒歌と小猫ちゃんの修行風景を見ているうちに解析して覚えたのだそうだ。
「すごいでしょ! お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「すごいですね。セラちゃん」
そう言いながら、アーシアは無邪気にセラを褒めるが、俺は何やら恐ろしいものを感じていた。
こうして見ると、セラの気配遮断能力は凄まじいものだ。
トーカたち“
これを見て覚えた? だとしたら、とんでもない学習能力だぞ?
『あれとんでもない存在だぞ。多分、お前が思ってる以上に……』
リムルの言葉がふと俺の脳裏に浮かぶ。
「? どうしたの? お兄ちゃん?」
「あ……ごめん、何でもないよ。すごいな、セラ」
そう言いながら、俺はセラの頭を撫でた。
すると、セラは気持ち良さそうに眼を細めた。
……まあ、別にそこまで気にしなくてもいいか。セラが何者かはこの際どうでもいい。
あの時リムルに言ったとおり、この娘はいい娘なんだから。
セラはセラ……ということでいいだろう。
俺は気持ちよさそうにするセラにほっこりしながら、セラの頭を撫で続けるのだった。