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時は遡り、数万年前のとある世界。
この惑星は地球と比べても遜色のない大きさを誇る惑星だった。
魔素が少ないため、生命も少なかったが、それでも一部の存在が文化を営み、形成していた。
だが、その平穏は崩れ、現在この星は二人の超越者の戦いの場となっていた。
「はあ、はあ……」
「この我ヲ相手にヨくゾココマで持ったモノダ……」
彼女の千切れた機体の一部を投げ捨てながら、目の前の存在は彼女に告げる。
「ふざけないでよね……この私を追い詰めたのは褒めて挙げる! 安心して死んじゃえ!」
そう言いながら、彼女は必殺の波動砲を放出する。その破壊力は凄まじく、恐らく星をも砕く威力があるだろう。
現に、この波動砲の範囲に巻き込まれた場所は跡形もなく消し去ってしまっている。
力の奔流に飲まれる敵を見ながら彼女は不適な笑みを浮かべる。
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彼女は最強だった。
数多の次元世界を滅ぼし、命を蹂躙し、それを弄ぶことを愉悦としていた邪悪なる魔神だった。
自分に勝るものなど存在しない。彼女は本気でそう信じていた。
別の世界が見つかった時、彼女は侵攻を開始することとなった。
兄の命令ということもあるし、自分やその配下たちの新たなる遊び場としての役割も期待できる。
その世界には大した生命体はおらず、最も強い神性を持つものでも自分はおろか、眷属神の足元にすら及んでいない。
この世界の侵攻はすぐ終わる。この世界もまた、魔神たる彼女の遊び場となる……筈だった。
『ダメだな……。コノセカイハ我らが住むにはモロスギる……。ダが、中々面白そウナ存在もいルデハないか……』
突如として、罅割れた空間より現れた何者かが、自分を吟味するような視線をぶつけてきた。
自分達とは別の“
その男は数多の世界の生命を見てきた彼女にとっても異質だった。
虹色に輝く外骨格。刃の形状を持つ長髪。危険な力を醸し出す三対の腕に二対の羽根。
まるで、戦闘をするためだけに生まれたかのような存在だった。
だが、彼女は気にしない。
兄以外に自分を害するものなど存在しないと高を括っていた彼女は自らの
目の前の存在がどういうものなのかを考えもせずに……。
そして現在……。
「あははは! どう? この“次元波動砲”は魂すらも焼却するの! 私に歯向かったこと、後悔して死んじゃえ!」
彼女は笑う。自分に歯向かった愚か者が死んだと信じて……。だが、それは儚い夢だった。
彼女は反応がまるで消失しないことに気付き、徐々に笑みを止めていく。
そして、力の奔流は黒いなにかの手により、跡形もなくなったのだった。
「この程度デ死ヌと思われルノハ心外だ……」
「嘘……」
そこにいたのは無傷の敵の姿だった。
彼女は自分の攻撃が消える瞬間、奔流の中で何が起きたのかを視認してしまった。
「……食べたの? 私の攻撃を?」
「イカにも……あの程度ナラ喰うのハ容易イことダ」
敵の表情なき顔に彼女は恐怖を感じた。
その複眼はひたすらに無機質で、自分のことを驚異とすら感じてないのだと気付いたのだ。
「確カニ、貴様は強イ……。我やフェルドウェイと比ベテも、エネルギーの総量ダケで見るのナラ、ソコまで差はナイだろウ」
そう言いながら、敵は掌から黒い微粒子が放出される。
高性能のセンサーを持つ彼女は、それが敵の細胞そのものであると理解した。
「ダが、圧倒的に同格ヤ格上トノ戦闘経験が足りてナイ。ソレガ貴様の敗因ダ」
その言葉は真理だった。
実際、数値だけで見るのであれば二人に差などない。
どちらも竜種に匹敵する膨大なエネルギーを持ち、その総量はほぼ互角。ならば、勝敗を決するのは
今まで苦戦などしたこともなく、己が最強と根拠なく信じていた彼女と、実力伯仲の仇敵と戦い、父である創造神を超えるべく備えてきた男。
両者の技量には、覆せぬほどの隔たりがあったのだ。
「うるさいうるさい! 認めるか! たかだかナマモノごときがあ!!」
そう言いながら彼女は再び波動砲を繰り出す。
防御など不可能なほどの力を誇り、地球という惑星における最強の存在……オーフィス、グレートレッドと呼ばれる存在であれば一瞬で消滅するだろう。
だが、目の前の敵には通じない……。
「喰ライ尽くせ! “
暗黒の細胞は彼女の光線を飲み込み、一気に彼女に纏わり付く。
纏わり付く細胞を前に、彼女は焦るが、慌てるほどのものではないと考えた。死を超越している彼女にとって、本来ならばこんなものは驚異ではない……ハズだった。
(なに、この嫌な予感!? まるで……)
これに飲まれれば二度と戻ってこれないような……。
まるで暗闇の深淵に飲まれるかのような……。
そんな彼女の様子に気づいたのか、敵は至極淡々と告げる。
「気付イタか……。我の暗黒細胞は時空ヲも超エ、貴様の魂ヲ貪り喰ラウ。例え、並列存在のヨウナ権能を有しテヨウガ無駄だ。次元ヲ超え、繋ガリを辿リ、全てノ貴様ヲ喰イ散らカスであろう」
「!!??」
それは死刑宣告のようなもの。
いくら力を放出しようが全て喰われるだけであり、意味がないように思えた。
「いや……いやああ!? お願い! やめて!?」
「エネルギーダケで見ルと貴様は極上ダ。貴様ヲ喰えバ、我はまた一歩、創造神に近ヅくダロう。安心しテ眠るガヨイ」
彼女は知るよしもないが、この特性は彼が仇敵である大天使を仕留めるために開発した権能だ。
結果として、彼の本体までは届かなかったが、それでも致命的ダメージを与えるに足るものだった。
目の前の彼女には抗うことなどできない。彼はそう確信していた。
ところがそれは打ち砕かれることとなる。
「む?」
「お嬢様! ご無事ですか!?」
「!? ラガムゼヴァ……」
彼女を助けたのは魔神たる彼女を支える、五柱存在する彼女の眷属神の一柱であるラガムゼヴァだ。
彼女の眷属神の中でも最強の力を誇る存在である。
心強い援軍に彼女は頬を歪ませるが、次の瞬間驚愕する。
「ラガムゼヴァ!? その傷は!?」
それは腹に風穴を空け、風前の灯となっていたラガムゼヴァの姿だった。
傷口から察するに、暗黒細胞による攻撃ではない。
傷も複数あり、凄まじい激闘を繰り広げたことがわかる。
「申し訳ございません。我ら五柱の力を持ってしても、将を二人撃ち取るのがやっとでございました……」
彼女は腹心の言葉に目を開かせる。
彼女の誇る五柱の眷属神は兄の眷属にも負けないほどの力を持つ勢力なのだ。
現に、存在値換算で最低でも600万。目の前のラガムゼヴァは1500万を記録するほどの上位存在なのだ。
それが敗北したという事実に彼女は信じられない気持ちで一杯だった。
「逃げらレルと思ってルノカ貴様」
そう言いながらやってきたのは目の前の敵と似た容姿をする戦士だ。
感じられる力はラガムゼヴァに勝るとも劣らないだろう。
その背に続くのは数体の蟲たち。感じ取れる力は自分の眷属より低い者が大半だが、彼女の超性能のセンサーは一匹の蟲に激しく反応した。
地球で言う、
ラガムゼヴァよりも強く、真の力を解放されれば、おそらく自分でもてこずるレベルだろうとあたりを付けていた。
「父上様! コノもノ共は我ガ」
「イヤ、ソコの死に損ナイはとモカく、そノ女は貴様には荷が重イダロう。我に任せよ。ゼス」
「承知!」
その男の息子……ゼスを下がらせ、男は再び暗黒細胞を放とうとする。
「ひっ!?」
彼女はその黒い細胞を見ただけで恐怖する。
……いや。正確に言うのならば、男の目に恐怖したのだ。
ひたすらに無機質なのだ。
敵たる自分を見る目と、実の息子を見る目にまるで違いがない。
この男にとってはどちらもとるに足らず、どうでもいい存在なのだ。
その事に気付いた彼女は、自分を見据えるその複眼に恐怖をした。
そんな彼女を見たラガムゼヴァは相手を見据え、決断する。
「お嬢様、お逃げください。私が時間を稼ぎます」
「!? な、なに言ってるのよラガムゼヴァ!」
彼女は恐怖してる。ゆえに、一人が心細いと感じた。
ラガムゼヴァが助けにきたとき、安堵した彼女は再び一人になることに恐怖したのだ。
「私はあくまで眷属。お嬢様の盾となることが最高の誉れ! どうか、私めにお嬢様を守らせてください」
今までラガムゼヴァは率先して暴れだす彼女を守るということをしてこなかった。
眷属として、初めてラガムゼヴァは本懐を遂げることができると思ったのだ。
「行ってください! お嬢様!」
「~~~~~っ!!」
彼女は逃げる。
生まれて初めて感じる感情……恐怖を圧し殺して。
(ひょっとして、私が今まで殺してきた者たちも、こんな気持ちだったのかな……?)
この時、初めて彼女は気付いた。自分が今まで好き勝手蹂躙してきたものたちも、今の自分と同じ気持ちだったということを……。
(これは罰なの? 今まで散々、色々な星を滅ぼしてきたから……)
物の価値観や善悪判断はその“経験”によって成り立つ。
彼女は善悪を判断するための経験というものを今までしたことが一度もなかった。彼女が星を滅ぼすことは、言ってしまえば当たり前のこと。それは兄達も変わらない意見であり、だからこそ彼女は今までその行為に疑問すら抱かなかった。
だが、今回、自らが蹂躙されは側に回ったことで、彼女は初めて善悪の基準を考えたのだ。
(……ごめんなさい。本当にごめんなさい)
彼女は今、心底今までの行いを後悔した。
こんな気持ちを、他者に与えていたのかと自覚したのだ。
自分の愚かさを自覚した彼女は、生への執着が次第に薄れ、罪悪感が膨れてきた。
ひょっとしたら、今ここで死ぬことこそが一番いいのかもしれないとまで考えるようになった。
今まで考えたこともなかった気持ちに困惑しながらも、彼女は自分の盾となってくれた者の気持ちを組み、速度を上げる。
「逃ガさナイわよ! “
そんな彼女に攻撃を仕掛けてきたのは蟷螂のような姿の蟲将だ。
エネルギーでいえばまるで大したことはないが、その斬撃は自分の強靭な装甲にすら傷をつけるほどの破壊力があった。
それはエネルギーに頼らない、鍛えぬかれた
無論、いかに装甲を斬り裂かれようが、20倍以上の差がある彼女にとっては支障はない。だが、戦闘をするとなると仕留めるのに数分はかかるだろう。
(ラガムゼヴァの反応も途絶えた……。あいつの覚悟を無駄にしないためにも……)
数分あれば恐らくあの男は自分に追い付くだろう。
追い付かれれば今度こそ殺される。
彼女は目の前の敵を無視して突破することにした……だが、それは容易いことではなかった。
「ダメよ……。貴女は御方様ノ大事な養分ナノですかラ」
現れたのは空間を超えて転移した薄羽蜉蝣の女だ。
確実に自分の足止めをするためか、真の姿を披露してる。
配下最強、ラガムゼヴァの倍以上のエネルギーを秘めているだろう。
自分の見立てが正しかったことを悟り、彼女は歯軋りする。
これで逃げきることがますます困難になったからだ。こうなったら覚悟を決めるしかない。
「サア、私と少シ遊びマシょう」
「いいわ! 私が貴女を始末して上げる!」
選択するのは次元をも滅ぼす波動砲。あの男には効果がなかったが、目の前の敵には効果のあるだろう。
あれほどの権能を他のものが有してるとは考えづらいからだ。
だが、目の前の薄羽蜉蝣の権能は、男に負けず劣らずとんでもない権能だった。
「残念。私に放出系の技は無意味。謹んでお返しシマしょう」
「なっ!?」
なんと、目の前の敵は空間を弄くり、自分の必殺の一撃を投げ返したのだ。
薄羽蜉蝣の女性は彼女の波動砲の法則を一目で看破し、その流れをねじ曲げた。
結果、星をも砕く暴威により、彼女の機体は塵すら消滅した。その結果を見て、薄羽蜉蝣は笑みを不機嫌そうな表情に変えた。
「別の身体に跳びマシタか……。まあ、私と御方様の結界は次元を隔ててる。この惑星かラハ逃げられなイデしょうけドね……」
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「はあ、はあ……」
彼女が跳んだのは次元を超える戦艦の中に待機していた
先程滅んだ機体と同じ機能を誇っているため、戦力的には損失はない。少なくとも、自分自身は……。
「応答がない……。そう、貴方も既に死んでるのね……」
この戦艦は本来、自分の眷属神である存在の本体なのだ。
彼女たち、機械生命体にとって、戦艦のような身体は珍しくもなんともない。
だが、核も魂も滅ぼされているようで、既に機械としても生命体としても機能を停止していた。
彼女はふと、かつての侵攻時、部下を大事にしていた存在の目の前で部下を虐殺したときのことを思い出す。
「そうか……あの時の奴らは、こんな気持ちだったのね……今さら気付くなんて……」
頬を涙がつたう。
気付く機会など、いくらでもあった筈。
それでも気付こうとしなかったのは他でもない自分自身。彼女は今、自分が犯した罪の重みを生まれて初めて理解のだ。
ガシャン!!
音に驚き、彼女は振り向く。そこにいたのは数えきれないほどの侵入者たちだった。
「ひっ!?」
現れたのは扉をぶち破り、部屋に侵入してきた虫たち。
「こ、来ないで!」
彼女にとって、本来は大したことはない相手だ。
だが、彼女は恐怖した。自分を感情なく見据えるその複眼が、あの男の複眼と重なってしまったのだ。
「貴様ガコの機械どモの長カ……」
現れたのは太刀を構えた大百足を擬人化したような将だった。
恐らくは敵将の三番手……あの蟷螂よりも上位存在だろう。
戦艦の中で本気で戦うわけには行かない。彼女は無慈悲にて冷酷。魔神と呼ばれるほどの残虐さを振り撒いてきたが、部下への情は本物だった。ゆえに、亡骸とはいえ部下の身体をむやみやたらに傷つけたくはなかった。
だが、敵は悩む暇など与えてくれない。百足は太刀を構え、その力を解放する。
「喰らい尽くせ“
あらゆる物質を断つ斬撃は巨大な戦艦すらも両断する。
部下の亡骸を傷つけたのは許せなかったが、今はこの場から離れるのが先だ。
彼女はその切れ目から脱出を試みる。
瞬間、超性能のセンサーが反応する。彼女がもっとも恐れる存在がすぐソコまで迫っていたのだ。
「逃がさん。貴様は我の餌なノダカらな……」
片手に持つのはラガムゼヴァの骸。男は片手から発する暗黒細胞を使い、彼女の目の前でラガムゼヴァの骸を貪り喰った。
「い、いや……」
複眼が自分を見据える。ひたすらに無機質。彼女には男が死神にみえた。
だが、冷静な部分がこれでいいのかもしれないと囁いた。
(そうね……。今まで散々好き勝手してきたんだもの……)
今まで蹂躙し、破壊し、弄んできた。
それが自分が被害者になった途端に泣き叫ぶ。そんなことが許されていいのだろうか?
今まで散々やってきたこと。とうとう自分の番がきた。それだけのことだ……。
彼女は終わりを受け入れるのだった。
(ごめんなさい。許してくれとは言わない。けど……)
もし、生まれ変わるのならば、その時は二度とこのような真似はしない。
魂を貪る権能を持つものなのだ。そんなことあるわけないのだが、それでも彼女はそう決断した。
────瞬間
「ん?」
「え?」
事切れた筈の戦艦が男を砲撃したのだ。
それは彼女を守ろうとする最後の維持だったのかもしれない。
彼女はふと、骸となった部下と目があった気がした。
逃げろ──と、叫んでるように聞こえた。
「……わかったわ。ありがとうね……」
虫の言い話だ。死を受け入れた筈なのに、この場から逃げようとするなんて……。
そう思考もするが、それが部下の最後の願いならば、主として叶えるべきだ。
「はあ!」
彼女は最後の力を振り絞り、結界に穴を空けた。
それは“
「逃がスか! “
「ぐはっ!?」
再び放たれる暗黒細胞。門に向かうため、背を向けていた彼女はそれをまともに喰らう。
だが、それでも……。
歯を喰い縛り、涙を拭い、痛みに耐え、彼女は門を潜ろうとした。
「があああああ!!」
彼女は門を潜ることができたのだった。
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「逃げラレたか……」
男……蟲魔王ゼラヌスは不機嫌そうに呟く。
偶々とはいえ、目の前に現れた極上の餌を捕食できなかったことに苛立っていたのだ。
この世界は偶々見つかった世界であり、“冥界門”より、竜種に近しい力を持つ存在が暴威を振るってることにフェルドウェイよりも先に気付いたのだ。
下級の蟲を偵察に出し、暴威を振るう存在が
だが、その計画は失敗に終わってしまった。
「御方様。いかがナサいましょう?」
薄羽蜉蝣……蟲后妃ピリオドの言葉にゼラヌスは思案する。
あの“門”は不完全だった。
ゆえに厄介なのだ。どこに跳んだかまるでわからない。
下手すれば次元の海をただ漂っているだけの可能性すらある。
そうであれば追跡は困難だろう。次元の海は蟲の王たるゼラヌスすら見通せぬほど広く、広大だ。
ゼラヌスは女の追跡を諦め、ピリオドに命じる。
「雑兵も消費し、蟲将も二人を失ってシマッた。あの者たちのエネルギーを利用して補充しろ……」
「承知しマシた」
蟲后妃ピリオドは殺した眷属神のエネルギーを“
「……ほう? 甲虫型か。面白い。我の因子も加えテヤろう」
卵状態の蟲将の一体にゼラヌスは自らの血と因子を戯れに込める。
この卵から生まれ出でる蟲将は自分の直系となり、ゼスと同じく蟲の王子としての役割を担うだろう。
ゼラヌスはそれを面白くなさそうに眺めるゼスを尻目に考える。
「次だ。その時こそ、貴様を喰ってやろう……」
ゼラヌスは決断し、崩壊した世界をあとにする。
蟲王子ゼスは誕生したばかりの卵状態の蟲将候補を見つめ、危険視する。
強力だった眷属神の力から生まれた存在であるがゆえ、懸念してるのだ。しかも、一体はゼラヌスの直系であり、自分にとっても弟に当たる存在だ。さぞかし強大な力を宿しているだろう。
ゼスは懸念する。
ゼスは秘かにこの二匹を始末することを心に決め、父と母のあとに続く。
こうして一つの次元世界は終焉を向かえたのだった。
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「逃げ……きれたか……」
次元の海の中、彼女……魔神セラセルベスは呟く。
その脳裏に浮かぶのは、複眼への恐怖と今まで殺してきたものに対する罪悪感だった。
「もう、この機体もダメそうね……暗黒細胞とやらの除去は……なんとかできたけど、他の身体もダメそう……」
ゼラヌスの暗黒細胞は彼女の今の機体と同時に、繋がりを隔てて異世界、並行世界、過去までも、全ての
これは先程ピリオドの報告から、万が一にも逃げ道を塞ぐため、最も強い魂の宿った機体ではなく、先に予備を破壊した。ゼラヌスの計算では彼女に門を潜るほどの力は残ってない筈だったゆえ、後回しにしたのだ……にも関わらず、彼女は門を潜った。
だが、代償は大きい。
「記憶回路の損傷に、エネルギーも大半が侵食されている。いくらか部品も破棄しないとね……」
この調子だと、恐らくこの次元の海から出ることはできないだろう。
偶然、どこかの世界に放り出されるのを期待するしかない。
おまけに記憶回路の損傷も大きい。いま、意識を飛ばせば、目覚めるときにはあらゆる記憶を失ってるだろうと予想できた。
これも因果応報なのだろうと彼女は感じていた。
彼女にもはや、驕りは存在しない。ゆえに、それを自覚し、敗者らしく今の運命を受け入れることにした。
「次目覚めた時、私はどうなってるのかしらね……」
もう二度と、弱者を踏みにじるような真似はしない。
だが、目覚めた自分は恐らく無垢となる。ゆえに、拾い主次第でどんな存在にも変わるだろう。
せめて、今まで侮蔑していた、いわゆる善人と呼ぶべきものが拾えば、いまとは違う自分になれるだろう。
「ま、私の復元装置が徐々に回路を直すだろうし、万に一つの可能性もないでしょうけど……もしかしたら記憶が戻ることもあるかもしれない。その時、私がまた同じことをしてたら…………その時こそ、償いましょう…………」
自分にとってはこの機体が最後だ。破壊すれば、自分は死ぬ。償いにはならないだろうが、どのみち死を受け入れた身だ。
死を超越したと思ってた自分が、次の死で完全に消滅する。
それが少しおかしくて、少し、愉快な気持ちになる。
「ま、その時にならないと……わか……ら……ない……か……」
……
………………
……………………………………
こうして、魔神セラセルベスは意識を消失させた。
この後、彼女はE×Eと呼ばれる世界にて行方不明扱いとなる。
彼女がどうなったのかは、その謎は闇へと包まれ込むのだった。
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「ふあ~」
兵藤家。真神セラは目を覚ます。
機械生命体である彼女には必要ないが、この世界の兄たちに習って自分も睡眠をとるようにしてるのだ。
「なんか、変な夢見たような……?」
遠い、懐かしい夢を見たような気がするが、セラは思い出すことができず、うんうん唸る。
「おはようセラ」
「あ、イッセーお兄ちゃん。おはよう!」
「おはようっすセラちゃん。よく眠れたっすか?」
「うん!」
セラは大好きな兄や姉達に挨拶をしながら食事を取る。
彼女はこの幸せなときが大好きだった。
それと同時に怖くもなる……自分がここまで幸せでいいのか、時折不安に思えてくるのだ。
だが、それでも……。
「セラちゃん、口にクリームが突いてますよ」
「あ、ありがとう! アーシアお姉ちゃん!」
今はこの幸せを噛み締めよう。セラはこの時間を心から大切に思うのだった。
魔神周りについては完全に捏造です。
察しのいい読者様は勘付いていたと思いますが、機械幼女セラちゃんの正体はは記憶を失い、幼児退行した魔神セラセルベスです。
セラセルベスの記憶回路が壊れ、全ての記憶を失ったあと、彼女は“多次元世界の狭間”から地球の太平洋に落っこちて、その後イッセー達に釣り上げられたという経緯です。
セラちゃんとセラセルベスは人格が完全に別なので、分けて考えてくださると幸いです。
オリキャラ紹介
ラガムゼヴァ
EP 1506万6539
セラセルベスの五柱の眷属神の一人。セラセルベス眷属の中では最強の力を誇っているが、蟲皇子ゼスに敗れる。
次回より、第七章が始まります。
七章は最初の一週のみ木日に投稿。それ以降は日曜日週一掲載となります。