イッセーside
オーディンの爺さんの訪問の次の日。
俺達グレモリー眷属は グレモリー家主催のイベントに主役として参加していた。
「はい、ありがとう」
そのイベントとは握手とサイン会だ。
子供一人一人にサイン色紙を渡して、握手をする。子供たちは俺のサインを嬉しそうに受け取り、握手をすると満面の笑みになる。
「おっぱいドラゴン! 頑張ってね!」
この言葉がオレの心に凄く響く! この言葉が聞けただけで、イベントに参加して良かったと思えるな!
「あ! スイッチ姫だ!」
「きゃっ!?」
俺の横で同じくサインと握手をしていた部長の小さな悲鳴があがる。
悪戯小僧が部長の乳をつついてるみたい。
グヌヌ……許せん! 部長のおっぱいをつつくだなんて!
……だけど、ここで俺が大声で怒っても大人げないよな……おっと?
「コラ! やめるっすよ。初対面でこんな事するのは失礼っすからね」
ここでフォールン・レディの格好をしたミッテルトが悪戯小僧に注意をする。
その言葉に悪戯小僧も反省したらしく、謝ってるようだ。
ちらっと木場の方を見ると女の子がすげー並んでる。うら羨ましすぎるっ!!
木場も番組内では敵組織の幹部“ダークネスナイト・ファング”となっていた。凛々しい鎧姿が中々どうして様になっている。
いや、今の現状に文句があるわけではない。子供達にヒーローとして慕われるのも嬉しいしね!
……でも、あれこそが俺の本来望んでいた姿なんだよ! 俺だって女の子にキャーキャー言われたいのにぃぃっ!!
いいもん! 元々コンセプトから女子ウケするだなんて思ってなかったしな! どうせ俺はおっぱいドラゴンなんだよ!
『……そうか。“おっぱいドラゴン”の名はここまで広がってるのか……ハァ……』
ドライグが何やら涙を流し始めたが、俺はどうすることもできないため、取り敢えず別の方向を向く。
そちらでは、小猫ちゃんも今は獸ルックの衣装を着て握手をしていた。
獣ルックのラブリーな姿だ。大きなお友達がたくさん並んでいる。
小猫ちゃんも“ヘルキャットちゃん”としておっぱいドラゴンの味方役となっていた。
小猫ちゃん、かなり丁寧に応対してるな。プロみたいだ。
「そろそろ時間だね」
「お、そうだな」
木場の言葉に俺は時計を見る。
既にサイン会の時刻は過ぎてるみたいだ。
俺は最後の子供にサインと握手をして、楽屋のテントに戻るのだった。
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「ふぅ〜、中々疲れるものだな」
「いつもとは違った緊張感があるっすね」
イベントも終わり、俺は鎧を解除して椅子に腰掛ける。
別に鎧状態が疲れる訳じゃないけど、子供の夢を壊さないように気を使ったりしてたからな……戦いとはまた違う緊張感があったな。
見ると、皆もかなり疲れてるみたい。
そこへスタッフが近づいてきた。
「イッセーさま、お疲れさまですわ」
タオルを持ってきてくれたのは縦ロールヘアが特徴的なお嬢様────ライザーの妹であるレイヴェル・フェニックスだ。
「おー、レイヴェル。ありがとな」
俺はタオルを受け取り、汗を拭く。
なんでもレイヴェルは今回のイベントのことを知ってアシスタントを自ら申し出てきたのだという。
俺がお礼を言うと、レイヴェルは慌てたように喋りだす。
「こ、これも修行の一環ですわ! 冥界の子供達に夢を与えることも立派なお仕事だと思えるからこそ、お手伝いをしてるのです! べ、別にイッセー様のためというわけではありませんわ!」
なんか、凄く必死だな……。
なんの修行かはよく分からないけど、凄く真剣に取り組んでくれているのはよくわかった。
この娘はかなり真面目なんだな。最初に出会った時は、高飛車でいけ好かないお嬢様って印象だったけど、ここ最近接することで随分と認識が変わったよ。
真面目で努力家でいい子だし、きっと将来は大成するだろうな。
「しかし、子供ってやっぱりいいものだよな。子供達に夢を与える仕事も悪くないな」
「はい。子供達は皆イッセー様に夢中でしたし、見ててとても素晴らしい仕事だと思いますわ」
教師として接してても思ったけど、子供はどの種族も変わらない。無邪気で可愛いものだ。
さっきも小さな手で一生懸命握手しようとする子供もいたし、この子達の夢を真剣に守らなくちゃって感じたな。
どこまでできるかわからないけど、おっぱいドラゴンの仕事も悪くはないかもしれない。もう少し続けてみようかな……。
「イッセー、そろそろ人間界に帰るわよ」
部長が楽屋テントへ入ってきた。
「確か、オーディン様の護衛でしたっけ?」
もうそんな時間か。今日はこの後、オーディンの爺さんの護衛だったな。
あの爺さん、来日してから無茶な注文ばかりで面倒くさいんだよな……。キャバクラ行くわ、おっぱいパブにも行くわ、道端のお姉さんをナンパするわでやりたい放題! 正直かなり疲れる!
神様ってなんだっけ?
「レイヴェルもお疲れ様。今日はありがとう」
「これ、お土産っす。今日は本当に助かったっすよ」
「い、いえ、勉強のためですから」
部長とミッテルトの言葉に照れながらも、お土産を受け取る。
「ありがとな、レイヴェル。また今度」
「は、はい。イベントの時は呼んでください。わ、私でよろしければ手を貸して差し上げますから」
俺はレイヴェルと握手を交わした後、部長達と共に人間界に帰っていった。
握手イベント……縁があったらまたやろうかな。
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オーディンの爺さんの日本観光につきあわされた後、俺と木場、ギャスパーは我が家の地下の訓練室にいた。
「行くよ! イッセー君!」
木場がそう言うやいなや、騎士の力でジグザグに踏み込み、俺に急接近した。
なかなかの瞬発力だ。以前よりも速くなってるみたいだな。でも……
「甘い!」
ギィィィン!
俺はアスカロンを握り締め、木場の聖魔剣を容易く受け止めた。
ギィン! ギィン! ギィィィン!
木場は縦横無尽に飛び回り、俺から隙を見出そうとしている。だが、この程度ならば問題はない。
俺は一歩も動くことなく木場の斬撃の全てを受けきってみせた!
「流石だね……今の僕の剣では勝てないか……」
「いや、そんなことないぞ。現に純粋な剣術ならお前のほうが上だと思うし」
俺は木場を吹き飛ばしながら呟く。
実際、木場の剣術は俺を超えている。剣術は専門ではないとはいえ、一応俺も“朧流”を納めた身だ。少なくとも、並みの剣士相手なら剣一本で圧倒できる自信がある。
今、木場を追い込んでいるのは剣術というよりは肉体スペックのゴリ押しという言葉が相応しい。木場の剣を単純に目で見切って受け止めてるだけだからな。
純粋な剣術なら間違いなく木場の方が上だと思う。
「炎の聖魔剣!」
ゴォォォッ!!
木場は炎を帯びた聖魔剣を創り出すと、その炎を俺に向かって放ってきた────と見せかけて、本命は……。
「下だな!」
「っ!?」
俺は剣を回転させ、炎と
木場は炎の聖魔剣を出すと同時に手のひらサイズの氷の聖魔剣を創り出し、それを床に突き刺すことで俺を凍らせようとしていたのだ。
巨大な炎で視界を遮り、本命は床下の氷……随分と嫌らしい手を使うようになったな。
「まだだよ!」
おっと? 俺が炎と氷のを切り裂く傍ら、木場は雷を帯びた聖魔剣を創り出し、俺の懐まで接近していた。俺が氷をも防ぐことすら織り込み済みか……だが!
「甘い!」
俺は木場の剣を指で摘み、剣を封じる。雷を帯びていようが、この程度ならば腕にオーラを纏わせるだけで十分対処可能だ。
まあ、多少はビリビリくるけど……。
「そう来ると思ったよ!」
「ん? ────うおっ!?」
ガキィン!
剣を封じられた木場はなんと、足から聖魔剣を生やし、俺に蹴りを入れようとしてきた!
俺は慌てて木場の足の剣を口で止める! びっくりした! まさか、こんなところから剣が出るとは思わなかった!
凄い! ワール○トリガーのス○ーピオンみたい!
「歯で!?」
俺は木場が驚いている隙に掌打を叩き込もうとする!
手は塞がっており、片足を俺が剣ごと口で掴んでいる? ため、木場は反応することができない!
木場が俺の掌打に対応しようと柄頭を巨大化させ、盾のようにしようとする! ────瞬間
ビィ────!
けたたましい音が鳴り響く。
「そ、そこまでですぅ! 制限時間が来ましたぁ!」
ギャスパーがストップウォッチを持ってぴょんぴょん飛び跳ねる。
俺はそれを見て苦笑しながら手を引いた。
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「今回は行けると思ったんだけどね……」
「実際、足から剣を生やすのはいい案だったと思うぜ。正直俺もビックリしたよ」
「あれはイッセー君の漫画から取り入れたんだけど、それなら編み出した甲斐があったよ」
あ、本当にワールド○リガーだったのね……。
スポーツ飲料を飲みながら、俺達はギャスパーの修行風景を眺めていた。
先生が用意した小型ロボットを目で停める練習。中々面白いよな。
この地下特訓施設は中々頑丈で、少なくとも素の俺の力にならば十分耐えられそうな作りになっている。魔王であるアジュカさんが設計したと聞いてるけど、これは相当なものだな。
俺の力に耐えられるってことは、魔王級の力にも耐えられるってことだろうし……。
「おー、やってるな」
そこへ第三者の声が。振り向くと、そこには弁当箱を持ったアザゼル先生がいた。
「ほれ、差し入れだ。女子部員の特製おにぎりだ」
「マジですか!? やった!」
俺達はその言葉に喜びながら、早速おにぎりを口の中に頬張る! 旨い! これはアーシアが握ったやつだな! 優しい味だ! ん? これはミッテルトかな? 塩加減が半端なくイイ!
アザゼル先生は座り込むと、何やら怪しい笑みを浮かべながら、何かを取り出す。
「……な、なんですか? これ?」
先生が出したのは小さな人形だ。
……何だろう。ハッ○ーセットのおもちゃみたいに少し歪な感じがする。
「“乳龍帝おっぱいドラゴン”と冥界のハンバーガーチェーン店とのコラボ商品。お子様セットを買うと付いてくるやつだ。こっちがスイッチ姫とフォールン・レディの人形な」
いや、マジでハッピー○ットかい!!
部長とミッテルトの人形はともかく、俺の人形は異様な雰囲気を感じる。
何ていうか……あれだ。サ○ケの飛び跳ねる玩具を思い出すデザインだ。部長とミッテルトの人形はとても精巧に作られてるのに……こっちも同じくらい精巧に作ってほしかったな……。
因みに部長とミッテルトの人形は青髪の職人が作ったらしい。
胸の部分をつつくと部長&ミッテルトがボイス付きで『イヤ~ン』と鳴り響くギミックが仕込んである。
凄えな! 俺もほしい!
「ちなみに、ミッテルトにも見せたんだが、凄え憤慨しながら何処かに行っちまってな……何か気に入らなかったのかね……?」
ま、まあミッテルトは嫌がりそうだな。
多分、これを作った人がいるであろう、あの屋敷に単身特攻しにいったのだろう。
俺が苦笑いをしていると、アザゼル先生は一転して真剣な表情になる。
「朱乃のこと。お前に頼んでいいか?」
────っ!?
突然のことに俺は目を見開く。そんな俺の反応など意にせずアザゼル先生は続ける。
「わかってるとは思うが、朱乃はバラキエル────堕天使が嫌いだ。今回、バラキエルが来たことで俺の話も聞かなくなると思う。そうなると、アイツとまともに話せる男はお前しかいなくなるんだ」
「それはいいですけど……朱乃さんはそもそも何であんなにお父さんを嫌ってるんですか?」
「聞きたいか? 別に話してもいいが……俺から聞いたんじゃ、堕天使の総督としてバラキエルを擁護するような話ぶりになっちまうだろうな。聞きたきゃサーゼクスかグレイフィアだな」
確かに、あの二人ならば客観的な視点から事情を話してくれるだろう。
次会う機会があったら聞いたほうが良さそうだな。
「アイツと暮らしてでわかってるとは思うが、朱乃は精神的な面で弱いところがある。普段は学園生徒憧れのお嬢様だが、メッキが外れると年相応の娘だ」
「……はい。わかります」
朱乃さんと関わる前は俺もそう思ってたけど、今の印象はまるで違う。
朱乃さんの本質はどこにでもいる普通の女の子なんだと思う。
「正直、お前は隠し事が多い。いつまで経っても自分のことを話そうとしねえしな」
ウグッ!?
ま、まあそうなんだけど、真正面から言われると結構刺さるな。
先生は俺の反応に苦笑しながらも肩に手を置き、憂いのある目で言う。
「だが、俺はそういうところも引っ括めて、お前を気に入ってる。俺だけでなく、朱乃もそうさ。お前の前で年相応のツラを見せた時はお前がなんとかしてやれ」
「な、なんとかって……」
「男の甲斐性が試されるぞ。なーに、抱きしめてキスのひとつでもしてやればいいさ」
い、いや……そんなことをすればミッテルトに殺されかねないのですが……。
「な〜に、大丈夫だろ。ミッテルトもお前の性格わかってて付き合ってるんだし、そもそも本人が言ってることだ。筋さえ通せば問題ないだろうよ」
う〜む、本当か?
まあ、いいや。先生がそういうのならば取り敢えず信じよう。
俺はそう想いながら、再度おにぎりを頬張るのだった。