イッセーside
次の日。俺達は再び地下の大広間に集まっていた。
ロキとの決戦が近づいている以上、学校に行く暇はないため本日は休みだ。
ここで先生が小言をつぶやきながら現れる。不機嫌な様子で何やらハンマーのようなものを弄っている。
「オーディンの爺さんからのプレゼント────ミョルニルのレプリカだ。ったく、あのクソジジイマジでコレを隠してやがった」
ミョルニル……凄えな。コレでレプリカなのかよ。
最下級ながら、“神話級”の力を持っていやがる。アザゼル先生曰く、本来のミョルニルが壊れた際に使う予備のようなもので、本物に限りなく近い力があるのだと言う。
「はい、オーディン様はこのレプリカを赤龍帝さんにお貸しするそうです」
俺はロスヴァイセさんからミョルニルのレプリカを借り受ける。見た感じは普通のハンマーだな。豪華な装飾やら文様が刻まれてるくらいか。
「オーラを流してください」
ロスヴァイセさんに言われ、俺はハンマーに魔力を通す。
すると、一瞬の閃光の後、ハンマーはぐんぐん大きくなっていく。
その威容はまさしく戦鎚! 俺の身の丈を越す巨大ハンマーとなっている!
さらにオーラを込めれば、コレ以上大きくもできそうだな。中々面白そうな武器だぜ。
「その状態で無闇に振るうなよ? 高エネルギーの雷で辺り一帯が消え去るぞ」
「はい。気をつけます」
確かに……それくらいの力はありそうだな。
ロキ対策には十分なレベルの代物だ。
「ヴァーリ、お前もオーディンの爺さんにねだってみたらどうだ? 今なら特別に何かくれるかもしれないぜ」
「いらないさ。俺は天龍の力を極めるつもりでね。追加装備はいらない」
ほう。流石はヴァーリだ。
コイツは魔王の血縁として受け継いだ魔力に白龍皇の力を兼ね備えている。
故にこれ以上は不要と。こいつのちょっとした拘りたいなものなのかもしれないな。
「美猴、ちょうどいい、お前に伝言貰ってるんだ」
先生は次に美猴に視線を向ける。
「あん? 俺っちに? 誰からだい?」
「『見つけ次第仕置』だそうだ。初代からだ。玉龍と一緒にお前の動向を探ってるみたいだぞ」
先生の言葉に美猴は汗をダラダラかきながら、青褪める。
いつもは脳天気な楽天家って印象だっただけに意外だ。初代ってことは、物語の孫悟空本人ってことかな?
「あ、あのクソジジイ……。俺がテロやってるのバレたんか……」
いや、バレないつもりだったのかよ!?
こんだけ暴れ回れば嫌でも目につくと思うぞ!
「美猴、一度お前の故郷に行ってみるか? 初代孫悟空と玉龍と戦ってみたい」
「止めとけよぅ。初代のクソジジイは正真正銘化け物だぞ。仙術と妖術極めてるからマジで強ぇんだ……」
あの美猴がここまで震え上がるほどの実力者か。俺も会ってみたいな。
ここで先生が咳払いして俺たち全員に言う。
「作戦の確認に入るぞ。まず、会談の場で奴が来るのを待ち、そこからシトリー眷属の力でおまえ達をロキ達ごと違う場所に転移させる。転移先はとある採掘地。広く頑丈な場所だから存分に暴れてくれ。ロキはイッセーとヴァーリ。二天龍が相手をする。フェンリルはグレモリー眷属とミッテルト、ヴァーリチームと元龍王タンニーンで鎖を使い、捕縛。その後に撃破しろ」
「あれ? 私は?」
「黒歌はその結界術でサポートだ。誰一人欠けないように立ち回ってくれ。イッセーとヴァーリが確実にロキを仕留め次第、そちらに回るから絶対に深追いするなよ。最悪、捕縛はできなくとも、場に抑えてさえいればそれでいい」
それが今回の作戦か。
俺とヴァーリでロキの相手。俺達二人ならばすぐに片がつく計算なのだろう。
ロキさえ仕留めれば、フェンリルを仕留めるのに邪魔はいなくなるからな。
だが、それだけではない。
先生はどうやら、カグチの陣営も警戒してるみたいだ。先生は実際にカグチの戦闘を見たらしいけど、下手をすればフェンリルよりも恐ろしいかもしれないと感じたらしい。
だから、カグチを抑えられるであろう黒歌はサポートという立ち回りにしたほうがいいという判断だろう。
この中でカグチとまともに遣り合えるのは俺か黒歌だけだろうしな。
「さーて、鎖の方はダークエルフの長老に任せてるし、あと……。匙」
先生が匙を呼ぶ。
匙は自分がよばれるとは思ってなかったらしく、少し狼狽している。
「な、なんですか、アザゼル先生」
「おまえも作戦で重要だ。ヴリトラの神器持ってるしな」
先生の一言に、匙は目玉が飛び出るほど驚いていた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! お、俺っすか!? お、俺、兵藤や白龍皇みたいなバカげた力は無いっすよ!?」
かなり狼狽してるな。
まぁ、匙も地味に強くはなってきているが、まだ神を相手に出来るレベルじゃない。
先生もそれを理解して、嘆息した。
「分かってる。何もおまえに前線でロキ達とやり合えとは言わん。だか、ヴリトラの力で味方のサポートに回ってもらいたい。おまえの能力は今回の戦いで必要になると思うしな」
「サ、サポートって……」
「そのために、ちょいとばかしトレーニングが必要だな。試したいこともある。そういうわけで、ソーナ、こいつを少しの間借りるぞ」
会長に訊く先生。
匙は会長に対し、縋るような目をするが、現実は無情である。
「よろしいですが、どちらへ?」
「冥界の堕天使領────グリゴリの研究施設さ」
そういう先生の顔はすごく楽しそうだった。
あー、これは匙のやつ地獄を見るな。先生は基本的にはマッドサイエンティスト。これは相当えげつない実験につきあわされる羽目になるぞ。
「ひょ、兵藤!」
「匙……今までありがとな。俺はおまえのこと……絶対に忘れないよ」
「おいっ!! 不吉なことをいいうじゃねぇぇぇっ!!」
「はっはっはっー。行くぞ、匙! いざ、楽しい楽しい実験室へ!」
「マジかよ!? た、助けてくれええぇぇっ! 兵藤ぉぉぉぉっ! 会長ぉぉぉぉっ!」
匙の叫びと共に、魔法陣が光だし、やがて匙の姿は消えてしまった。
うう、いい奴だったよ。さらばだ、匙。お前のことは絶対に忘れない。
『あの少年の内に眠るヴリトラが少しずつ反応し始めていたからな。恐らくそれ関係だろう』
なるほど。これは生きてさえいれば相当パワーアップして帰ってきそうだな。
…………生きてさえ、いれば……。
「そういや、ドライグ。アルビオンとは話さないの?」
折角のライバル同士の再会なんだし、もう少し会話があって良さそうなものを、アルビオンはここに来てからずっと沈黙を保ってるのだ。
前回会った時はもう少し饒舌な方かと思ってたケド……何かあったのかね?
『いや、別に話す事もないしな……なあ、白いの』
ドライグは皆に聞こえるように話しかける。それに対し、アルビオンは────
『…………話しかけるな。私の宿敵に乳龍帝などという者は存在しない』
冷ややかな反応で返す……って、ちょっと待て!?
『ま、待て! ご、誤解だ! 乳龍帝は宿主の兵藤一誠であって俺ではない!』
ドライグが弁明しようと慌てて俺に罪をなすりつける! ……うん、何も言えねえ!
『宿敵を模した『おっぱいドラゴン』などというヒーロー番組を見た時の私の気持ちがおまえに分かるか!? どれだけの衝撃を受けたことか! あれを見た日から涙が止まらんのだ!』
『俺だって泣いたんだぞ! 涙が止まらんのだ! うおおおおんっ!』
『ぐすっ、どうしてこうなった……? 我らは誇り高き二天龍だったはずなのだ……。それが、何故こんなことに……』
…………。
泣いてるよ。二天龍と謳われた、この世界に最上位の伝説のドラゴンが……泣いてるよ。
「また泣いてるのか。兵藤一誠のテレビ番組を見てた時もすすり泣いていたが……済まない、兵藤一誠。こういうとき、どう慰めればいいと思う?」
「俺が知るか! とりあえず、俺が謝る! ドライグ、アルビオン! マジでゴメン!」
こうして最後、グダグダな感じで対策会議は幕を閉じたのだった。
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「お嬢様。頼まれていたグレイプニルに関する書物です。鎖は当日に送り届けられることになっております」
俺達が準備を進めてると、グレイフィアさんが魔法陣を通じて部屋に現れた。
グレイフィアさんはどうやらグレイプニルについてを纏めてくれたらしく、書類を部長に手渡した。
部長は書類を受け取り、ペラペラとページを捲り、目を通す。
……丁度いいや。今聞こう。
「あの、グレイフィアさん、少し訊きたいことがあるんですが、いいですか?」
「なんでしょう?」
俺はこの状況で聞くのもアレだと思うけど、今を逃すといつ聞けるかわからないし、意を決して尋ねることにした。
「朱乃さんについてです。どうして、朱乃さんはお父さんと仲が悪いんですか?」
部長とグレイフィアさんは目を見合わせる。その後、部長が口を開いた。
「……悲しい記憶よ」
部長はポツリと語りだす。
朱乃さんのお母さんの名前は姫島朱璃といって、とある有名な神社の巫女さんをしていたという。
ある日、朱璃さんがいる神社の近くに、敵対勢力に襲われて重症を負ったバラキエルさんが飛来してきたらしい。
バラキエルさんを発見した朱璃さんは、傷付いたバラキエルさんを神社に匿い、手厚く看病したそうだ。
「その時、姫島朱乃のお母様とバラキエル殿は親しい関係になったようです。そして、その身に子を宿した」
グレイフィアさんは淡々と語る。
なるほど……そして、朱乃さんが二人の間に産まれたわけか。
「バラキエルさんは朱乃さんと朱璃さんを置いていくわけにはいかず、近くで居を構えて、そこから堕天使の幹部として動いていたらしいわ。三人は慎ましいながらも幸せな日常を送っていた────けど」
幸せは長く続かなかった……。
朱璃さんの親類は、堕天使に娘が洗脳され、手籠めにされたと勘違いし、襲撃をしてきたらしい。
それ自体はバラキエルさんが撃退したらしいが、それに対し、逆恨みをした家の者は、堕天使と敵対している勢力にバラキエルさん達の住まう家を教えた。
「……運が悪かったんでしょうね。その日、バラキエルは家にいなかった。敵対勢力は躊躇なく家を襲撃したわ。バラキエルが駆け付けたときには────朱乃のお母様は息絶えていた」
朱乃さんはその時、敵対勢力に堕天使がどれだけ他勢力から恨まれているかを聞いたらしい。そして、母親を目の前で殺され、現実を突きつけられた。
「その日から、姫島朱乃は堕天使に対して恨みを抱くようになった。殺された母親の無念を抱き、バラキエル殿に心を閉ざしたのです」
……そこまで壮絶な過去があったのか。
バラキエルさんが悪い訳では無い────でも、本人はわかってても、止められないんないんだろうな。
「けれどね、イッセー。私の眷属として、第二の人生を送り出した朱乃は以前に比べて明るくなったわ。貴方やミッテルトに出会ってからは、堕天使のイメージも緩和してきたの。……お母様が亡くなられたのはどうすることもできない事件だったと、朱乃自身も理解してるはずなのよ。けれど、素直に受け入れられるほど、朱乃はまだ強くないわ」
部長へそう言いながら、視線を俺に向ける。
俺は部長達の話を聞き、朱乃さんについてを考えるのだった。
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「…………俺が全部悪いのさ」
朱乃さんのことを聞いた俺は、アザゼル先生にそのことを報告する。
すると、先生も語りだした。────自分の責任だと。
「あの日、バラキエルを招集したのは俺だ。無理を言って呼び寄せたんだよ。その僅かな間に……。俺だ。俺が朱乃とバラキエルから、母と妻を奪ったんだ」
先生の悲哀に俺はなにもいえない。多分、先生はバラキエルさんの代わりに朱乃さんを見ようと考えたんだ。
だから、教師……なんて手段でこの学園に赴任した。朱乃さんを見守るために……。
「……朱乃さんも、いつかはきっとわかってくれます。朱乃さんなら、きっと乗り越えられる。家族がバラバラなんて、辛いですからね」
「……ああ。俺もそう信じてるよ」
先生はそれだけいうと作業に戻る。
そこに、ヴァーリが部屋に入ってきた。
「アザゼル。今戻った。北欧の術式をそこそこ覚えてきた。ロキの攻撃にも幾らかは対応できるだろう」
……マジかコイツ。ロキに対抗するために、ずっと魔術の本読んで、北欧魔術を覚えたのか?
コイツ、魔王の血筋に二天龍というだけでなく、魔法の天才でもあったわけか。
俺は魔法を覚えるのにかなり苦労したってのに、コイツは本を読んだだけで一発習得か。これは、ウカウカしてるとマジで追い抜かれるかもしれんな。
「了解した。じゃあ、俺は少し休憩してくるわ」
そう言い残すと先生は部屋から出ていった。
部屋に残された俺とヴァーリ。ヴァーリはソファに座り、俺も椅子に座る。ヴァーリは相変わらず、魔術関連の本を読んでいるみたいだ。
「……なあ、ヴァーリ。読み終わったら俺にも貸してくれない?」
北欧の魔術……俺も少し興味がある。
魔法関連は苦手だけど、使えないわけじゃないし、北欧の魔術を覚えれば、多少はプラスになるかもしれない。
「ああ。構わないよ。俺は既に読み終わってるからな」
そう言うと、ヴァーリは俺に本を手渡してきた。
ふむ、なかなか難しそうだな。思考加速しながら読むか。
俺は思考加速と並列演算を使いながら、魔術の内容を覚えていく。
「……なあ、ヴァーリ」
「なんだ?」
「お前さ、何で強くなりたいんだ?」
俺は少し気になったので、ヴァーリが強くなりたい理由について聞いてみることにした。
すると、ヴァーリは少し考える素振りを見せる。
「……さあね。考えたこともない。この世界には強い奴がわんさかいる。だから、俺はそいつらに挑戦したいんだ」
ヴァーリはキラキラした瞳で夢を語る。
強い奴と戦いたい……か。うーん、いかにもヴァーリらしい戦闘狂然とした理由だな。
「そういえば、君は拳法を主として使うが、それは誰から習ったんだ?」
おっと、今度はヴァーリからの質問か。しかも、結構答えづらいやつ。
……まあ、少しくらいならいいかな?
「……俺の拳法は、ヴェルドラって人から教わったんだ」
「ヴェルドラ……聞かない名だな」
「まあな。────でも、目茶苦茶強くてカッコいい、自慢の師匠だよ……」
そう言いながら、俺は師匠に思いを馳せる。
普段は頼りない感じだけど、いざとなるとすごく頼りになる最高の師匠。それがヴェルドラ師匠なんだ。
「……君より強いのか?」
「ああ。俺が百人いても勝てねえよ。他にも、兄弟子のゼギオンって人は、”禁手“を使っても手も足も出ないほど強いんだぜ」
「ほう、それは興味深いな。いつか手合わせしてみたいものだ」
「今のお前じゃ逆立ちしても勝てないけどな」
少し喋り過ぎな気もするけど、まあいいか。
コイツは別に他のやつに広めようとはしないだろうし、基軸世界について話さなければ、問題はあるまい。
「お主ら仲がよいのぉ」
そこでオーディンの爺さんとロスヴァイセさんが現れる。何やら感心してる様子だ。
「今回の赤白は個性的じゃい。昔のはみーんな唯の暴れん坊で、各地で大暴れしては周囲の風景吹き飛ばしてたからのぅ。この対決のせいでいくつ山や島が吹き飛んだか……」
ため息交じりに爺さんは語る。
「確かに……片方は卑猥で片方はテロリストですけど、二人共意外に冷静ですね。出逢ったら即殺し合いをするのが赤龍帝と白龍皇だと思ってました」
「ま、まあ、俺はぶっちゃけライバル対決に興味ありませんでしたからね……」
卑猥で申し訳ないと思いつつ、俺はヴァーリを見据える。
確かに珍しいのかもな、こういう関係になる赤龍帝と白龍皇って。
実際、歴代の赤龍帝と白龍皇はすぐにドンパチやってたみたいだし、こうして他愛無い会話をしてる時点で仲がいいとは言えなくもないのかもしれない。
「ところで白龍皇。お主はどこが好きなのじゃ?」
爺さんがいやらしい目付きでヴァーリに訊く。
おいおい、爺さん。まさか、ヴァーリ相手にエロトークをする気か?
「? なんのことだ?」
首をかしげるヴァーリ。
ヴァーリは爺さんの意図は分からないらしい。
すると、爺さんはロスヴァイセさんのおっぱい、尻、太ももを指差していく。
「女の体の好きな部位じゃよ。赤龍帝は乳じゃろ? お主も何かそういうのがあるんじゃないかと思うてな」
「心外だ。俺はおっぱいドラゴンなどではない」
心底心外そうに言うヴァーリ。ゴメンね! 全部、俺のせいだよね!
「まぁまぁ、お主も男じゃ。何処かあるじゃろう?」
ヴァーリは本当にわからないらしく、暫く唸るように考える。やがて────
「……あまり、そういうのに感心がないのだが。しいて言うならヒップか。腰からヒップにかけてのラインは女性を表す象徴的なところだと思うが」
ヴァーリは多分、適当に言ったんだろう。何か、マジで考えたことなさげだし……。だが、何気にそう答えた次の瞬間────。
「なるほどのぉ。ケツ龍皇というわけじゃな」
『…………ぬ、ぬおおおおおんっ!』
その言葉にとうとうアルビオンは無念の涙を流し始める。
流石に不憫だ! 可哀そうだ!
「……アルビオン、泣くな。相談ならいつでも聞いてやる」
あのヴァ―リが優しい言葉をかけるレベル! 二天龍の心の傷は想像以上に深いぞ!
「爺さん、やめてあげてくれ。今、二天龍はとても繊細な時期なんだよ」
「ほう、言うではないか。……流石はあの災厄の弟子を務めるだけのことはあるのぅ」
「────え?」
今、この爺さんなんて言った? 聞き間違いじゃなければ、爺さんは俺の師匠を災厄といったのか?
「爺さん、今のって────」
「ん? なんのことじゃ?」
俺は今の言葉の真意を尋ねようとするも、はぐらかされてしまう。
「しかし、やはり若いものはいいのぅ」
爺さんは突然年寄り臭いことを言い出す。どのみち、さっきの質問には答えてくれそうにないし、話を聞いてみるか。
「わしはのう、この年になるまで爺の知恵袋で何事も解決できると思っておった。だがのぅ、それは老人の傲慢じゃ。真に大切なのは若いころの可能性……今更それを思い出してきた。わし……いや、わしらの傲慢がロキを生んでしまったのじゃろう。そして、その傲慢で若い者たちが苦労をしとる」
そういう爺さんの眼はとても悲哀に満ちるものだった。
「そう思うんなら、今からでも一歩一歩進めばいいと思いますよ」
間違いを犯したのならば、やり直せばいい。俺は基軸世界で出逢った沢山の人達を思い浮かべながら、呟く。
俺が何気なく口にした言葉に爺さんはぽかんと間の抜けた顔になる。しばらくすると、くっくっくっとおかしそうに笑いだした。な、なんですか、その反応は?
「……若さはいい。年寄りをも刺激してくれる。ああ、そうじゃ、その通りじゃのぅ」
なんだかわからないけど、爺さんはとても満足そうな顔をしていた。
この人は、今までどのような人生を送ってきたんだろうか……。
「……爺さんは若いころ、どんな感じだったんですか?」
「……さあのぅ。とっくに忘れてしまったぃ」
そういう爺さんの瞳は、何かを懐かしむような遠い瞳だった。
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「ふぅ~、今日はいろいろ情報量の多い日だったな」
朱乃さんの過去にオーディン爺さんの話など、いろいろと考えることの多い一日だった。
……今日ははぐらかされたけど、次に機会があれば、もう一度オーディンのじいさんから話を聞かないとな。あの人は、間違いなく基軸世界についてを知っている。
ティアマットさん……じゃあないよな。あの人が他者に基軸の話をする必要性なんてないし、ヴェルグリンドさんか? いや、あの人からオーディン爺さんの話なんて聞いたことないしな……。もしかしたら、本人にとってとるに足らないことだから伝えてないだけかもしれないけど……。
ガチャ……
不意に部屋のドアが開く。
俺はミッテルトが帰ってきたのかと思い視線を向ける。
すると、そこには白装束を纏った朱乃さんの姿があった。
「朱乃さん?」
朱乃さんは俺の言葉など気にも留めず、後ろ手にドアを占め、鍵を閉めるとともに施錠魔法でドアを厳重にふさいだ。
なにやら朱乃さんは髪を下ろしており、心なしか艶のある表情をしてる。
「イッセー君」
「は、はい?」
朱乃さんは俺にゆっくりと近づいていき、すぐ目の前に立つと、帯をシュルシュルと解き、投げ捨てる!
ぱさっ!
床に白装束が落ちる。
予想だにしない飛んでも展開で俺は完全にフリーズしてしまう! 朱乃さんは動くことができない俺に近づき、首に手を回し、そのまま俺に抱き着いてきた!
おっぱいが! 太ももが! 二の腕が! 全部が俺を包み込む! 女性特有の柔らかな感触と甘い匂いいちょり、身動きがまるでできねえ!
「あ、朱乃さん、何を────」
うろたえる俺に対し、朱乃さんは耳元でつぶやく。
「────お願い。私を抱いて」
その言葉に、俺の思考は完全に停止するのだった。