イッセーside
────私を抱いて
朱乃さんから言われた言葉を脳が認識すると同時に、俺の鼻から鼻血が吹き出しそうになる!
だ、抱いてって、マジで言ってますぅぅ!?
だが、そんなふうに興奮するのもつかの間、俺は朱乃さんと向かい合い、気付く。
朱乃さんの表情は、何処か虚ろで、自暴自棄になっているように見えた。
……朱乃さんは素敵な女性だし、こういうことをしたくないかと言われれば嘘になる。
……でも、これは違う。
俺は朱乃さんの肩に手を置き、俺の身体から離していく。
「……どうして? 私の身体は魅力ない……?」
朱乃さんは震える声で聴いてくる。俺は偽ってもしょうがないので、正直に今の気持ちを口にする。
「そんなことないですよ。朱乃さんの体は大きくてやわらかくて最高ですし、正直揉みしだきたいです。あらゆるところを堪能してみたいです」
「……なら、そうしてもいい────」
「でも、今の悲しそうな朱乃さんにそんなことするわけにはいきません」
「────っ」
俺の言葉に朱乃さんは正気を取り戻したような顔つきになる。
「朱乃さん、悲しみを忘れるためにこういうことをしようとしてますよね」
「……そうよ。そうやって、貴方に抱かれることで安心して決戦に臨もうとしているの。男の人に抱かれれば、この気持ちもきっと晴れると思って……」
「それで安心を得ても、一時的なものですよ」
それじゃあ、朱乃さんは前に進めなくなってしまう。
俺は朱乃さんが大人しくなったことを察して、白装束を身体にかける。そして、そのまま優しく朱乃さんを抱きしめた。
「……イッセー君?」
怪訝そうに俺を見つめる朱乃さんに俺は答える。
「悲しいんだったら、不安だったら、こうやって抱きしめますよ。俺、破れかぶれな人とそういうことしたくないんです。ずっとそばにいます。朱乃さんがつらくなったら、またこうやって俺が抱きしめてあげますよ。だけら、元気になってください」
俺の言葉を聞き入れると、朱乃さんはポロポロと涙を流し始めた。
朱乃さんは誰かに身を任せることで、偽りの安心を得ようとしていた。それはだめだ。だから、そんなことしなくても、俺が……俺たちがいつでも朱乃さんを支えているってことを、教えてあげないと。
「本当にバカ……私も……あなたも」
「安心してください。馬鹿でもなんでも、朱乃さんのことを護りますから」
「ありがとう……イッセー……大好きよ」
朱乃さんのその言葉には、確かな安堵が含まれていた。
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「なるほど、それでさっき朱乃さんが安心したような顔してたんすね」
その日の夜、俺はミッテルトに先ほどのことを報告していた。
ミッテルトは晴れた顔をした朱乃さんをみて、俺が何かをしたのだと考えたみたいだ。
「……いよいよ、明日だな」
「ロキとフェンリル……それに、神祖の高弟たち。相当厳しい戦いになるかもっすね」
「ああ。────もしかしたら、
「……そうっすか」
俺の言葉にミッテルトは少し不安そうに俺を見つめる。
あの力の危険性を知ってるからこそ、俺の心配をしてくれているのだろう。
「……うちは、黒歌っちを羨ましいと思ってるんすよ」
「……黒歌を?」
「ええ。うちは、強い覚醒魔王や、究極を持つ相手には太刀打ちできない。うちはまだ覚醒できてないっすからね……」
それは事実だ。ミッテルトはいまだ覚醒を遂げていない。
だから、相手が究極能力保持者だったり、究極に近い力を持つものが相手だと太刀打ちができないのだ。
「だから、いざという時、うちはイッセーの隣で戦うことができない。それが悔しいんすよね」
「ミッテルト……」
そんなこと考えていたのか。別に気にする必要なんてないのにな。
「そんなこと気にすんなよ。俺はいつもミッテルトが側にいてくれてるだけで嬉しいし、お前が支えてくれるってだけで、心強いんだ。それじゃあ駄目なのか?」
「駄目……ってわけじゃないっすけど、やっぱり、うちもイッセーと一緒に戦いたいっすからね。守ってもらってばかりじゃ嫌っすから」
「……そうか。でも、俺はその気持ちでもう十分に嬉しいよ」
「……イッセー」
それでもミッテルトは少し釈然としてない感じだな。でも、俺はぶっちゃけそこまで不安がることないと思うんだよな。
「大丈夫、ミッテルトなら、すぐに覚醒できるよ。ミッテルトの努力は俺が一番知ってるからな!」
ミッテルトはこの世界に来てからも、毎日のように修行をしている。
ならば、その成果は、魔素が薄いこの世界でもきっと届くはずだ。俺はミッテルトなら、いずれ覚醒して強くなると、前からずっと確信していたのだ。
それを聞いたミッテルトは、少し嬉しそうに微笑んだ。
「イッセーがそう言うんなら、信じるっす。うちが覚醒したら、今度はうちがイッセーを守ってあげるっすよ」
「ああ。その時はよろしく頼むよ」
俺がそう言うと、ミッテルトは俺に抱き着いてきた。
最近は、部長や朱乃さんが家に住むようになって、久しくこういうやり取りはしていなかったから、なんか懐かしい感じがするな。
「大好きっすよ。イッセー」
「俺もだよ。ミッテルト」
俺とミッテルトの顔は少しずつ近づいていく、静かに唇が重なった。
舌を絡め、優しく、深くキスをする。
こうして俺たちの夜は更けていくのだった。
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「おっぱいメイド喫茶を希望します!」
「却下」
「巫山戯てんじゃないっすよ?」
俺の意見に部長とミッテルトは嘆息しながら否定する。いい案だと思ったんだがな……。
俺達は今、学園祭の催しを考えてるところだ。大変な時期だけど、それは決めておいたほうがいいということで、今日は部活で会議をしていた。
「でも、そうなると他の男子に皆の胸が見られてしまうんだよ?」
────っ!
それは盲点だった! 確かにそうだな。他の奴らに皆の胸を見られるなど論外だ! 木場に助けられたな。
「……しかし、そうなるとおっぱいお化け屋敷もムリか……」
「……そんな事考えていたんですか? ドスケベ先輩」
「そもそもそれって何するんすか?」
膝の上に乗っかっていた小猫ちゃんとミッテルトが俺の言葉にツッコミを入れる。
ちなみに出し物は去年と同じことをしたくないということで、お化け屋敷以外のものをやることになっている。
それに、冷静に考えるとメイド喫茶は隣のクラスがやるんだよな……。
うーん、難しいよなぁ。
部長が部員一人一人に案を訊いていくが……これといって斬新なものが出るわけでもない。
「どうせならオカルト研究部らしさを出したものがいいっすね」
オカルト研究部らしさとなると、オカルト的な内容か? でも、あまり話題にならないだろうな。
むしろ、話題になるとすれば、部員達の方だと思う。
ミッテルトに二大お姉様に、ロリロリで可愛い小猫ちゃん、アーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオ、一部の特定の癖の方々から絶大な支持を得ているギャスパー、女子たちにとってのアイドル的存在木場。エロ学生の俺以外は全員人気者だ。
……自分で言ってて泣きたくなってきた。けど待てよ。俺と木場を除けば、部員全員が男子に人気の有名人だ。ギャスパーも女子として見られることもある。なにせ、ギャスパーは野郎どもに放り込まれるとなにされるかわからないという理由で女子に保護されてるくらいだからな。
仮にギャスパーを女子と同じ括りに入れるとすると……。
「オカ研女の子達で人気者投票とか?」
俺が何気なくそういうと女子部員が互いの顔を見合わせた。
「少し面白そうね」
おお、意外と好反応。これは決まるかもしれいぞ。
「二大お姉さまのどっちが人気あるのか気になりますぅ」
ここでギャスパーがポロッと言葉を漏らす。すると、部長と朱乃さんが揃って顔を見合わせた。
「「私が一番に決まってるわ」」
部長と朱乃さんの声が重なり、にらみ合いを始めた!
二人とも笑顔だけど目が笑ってない! 凄えオーラを漂わせている! これはマジだ! ギャスパーも余計なことを言ったことに気付き、顔を青褪めさせている。
「あら、部長。何かおっしゃいました?」
「朱乃こそ。聞き捨てならないことを口にしなかったかしら?」
あ、朱乃さんの調子が戻ってきてるのはいいことだけど……怖い! 今にも部室でバトルが勃発しそうなんですけど!?
バチッバチバチッ
うおっ!?
朱乃さんから電気がほとばしっている!
ゴゴゴゴゴッ!
部長からは凄い魔力が! こ、これは不味いぞ……!
こうして、お姉さま方の口喧嘩が勃発し、会議はご破算。学園祭の催し物については後日に持ち越すことになった……。
これって本当に修学旅行前に決めることが出来るのだろうか……。
そんな他愛ない日常の一ページ。そこに、俺達の会議を静観していたアザゼル先生が呟いた。
「……黄昏か」
それを聞いて、皆が真剣な面立ちになる。もう時間か。もうすぐ日が暮れる。ロキとの決戦が近づいているんだ。
キーンコーンカーンコーン!
部活終了時間のチャイムが鳴り響く。それと同時に俺達は気合を入れて、立ち上がる。
「神々の黄昏にはまだ早い! お前ら、気張っていくぞ!」
『はい!』
気合は十分! 俺達は決戦の刻を迎えるのだった。
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決戦の時刻だ。
既に日は落ちて夜となっている。俺達はオーディンの爺さんと日本の神様の会談が行われる、都内のとある高級ホテルの屋上で待機していた。
五十階建ての建物だ。屋上ともなると、風もビュービューとはげしく吹いてる。
周囲のビルの屋上にシトリー眷属が配置されていて、いつでも転送できるようにしている。
匙は遅れるらしく、まだ到着していない。
いまだグリゴリの施設で特訓を受けているみたいらしい。まだ来ないとか、一体どんな特訓を受けているのやら……。
このままだと、すべてが終わった後登場するとかかなり恥ずかしい展開になるかもしれんぞ。
先生は会談の仲介役として爺さんのそばにいる。故に、今回先生は参加が難しいらしい。
この屋上には俺達オカ研メンバー以外に先生の代わりに戦闘に参加するバラキエルさん、鎧姿のロスヴァイセさん。遥か上空にタンニーンのおっさん。そしてヴァーリチームと黒歌が少し離れた位置で待機をしている。
「時間よ。会談が始まったわ」
部長が腕時計を見ながら呟く。その言葉に皆の顔が一層引き締まる。
会談が始まった。ホテルの一室で大事な話し合いが始まったということだ。
────瞬間、空間が歪み始める。
「小細工なしか。恐れ入る」
ヴァーリが苦笑した。それと同時に俺は上空の一点を睨む。
バチッ! バチッ!
ホテルの上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく! そこから姿を表したのは────悪神ロキと巨大狼フェンリルだ!
……正面から堂々と来やがった。
「目標確認。作戦開始」
バラキエルさんの言葉と同時にホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開された。
会長を始めとしたシトリー眷属が俺達を戦場に転移させるための大型魔法陣を発動させたんだ。
「ふむ、場所を変えるか。良いだろう」
ロキは特に慌てる様子もなく、不敵に笑んで大人しくしていた。
そして、俺達は光に包まれる。
「────」
光が止み、目を開くとそこは大きく開けた土地だった。
岩肌ばかりで何もない。ここは使われていない古い採石跡地らしい。
ミッテルトに黒歌、グレモリー眷属にバラキエルさん、ロスヴァイセさん、ヴァーリ達を確認。うん、全員いるな。
「逃げないのね」
部長が皮肉気に言うと、ロキは笑う。
「逃げる必要などない。どうせ抵抗してくるだろうから、ここで貴殿らを始末すればいい。どのみち遅いが早いかの違いでしかないのだからな」
「貴殿は危険な考えにとらわれているな」
バラキエルさんが言う。
「ふん。各神話の協力……などと夢物語を見る貴殿達に言われたくはないな。そのようなこと、不可能だ」
「やはり、話し合いは不毛か」
バラキエルさんは雷光を纏い、背中に十枚もの黒い翼を展開した。
それを見て俺とヴァーリが前に出る。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』
赤と白、二つの閃光が戦場を覆う。
俺の体に赤龍帝の力が赤い鎧として具現化され、ヴァーリも一切曇りのない純白の全身鎧に身を包んでいた。
それを見てロキが歓喜する。
「これは素晴らしい! 二天龍が共闘しようというのか! こんなに胸が高鳴ることはないぞ!」
ロキは”神話級“の剣────レーヴァテインを呼び出し、盾のように防御の魔法陣を展開する!
「赤と白の競演! このような戦いができるのは我が初めてだろうな! 早速見せてもらおうではないか!」
ロキはそう言いながら、俺たちに向けて幾重もの光を放つ!
俺はそれを見切り、上空のある場所へといなした!
ドドドドドンッ!
光の帯は何かへと激突し、ロキに突っ込もうとしていたヴァーリはそれに気付き、急停止する。
ロキはそれを見て、愉快そうに笑っている。
「ほう。気付いていたのか?」
「ああ。お前が転移してきたと同時にな。────どうやら、気配の隠蔽はカグチの方が得意みたいだな────”メロウ“!」
俺が自然を向けると、そこにはローブを纏ったメロウの姿があった。
本当の戦いはこれからのようだ。俺は無傷で佇むメロウを見ながら覚悟を決めた。
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セラside
「……お兄ちゃん達、大丈夫かな……」
私はお父さんとお母さんと一緒に今日のご飯を選びながら、何処かに行ってしまったお兄ちゃんやお姉ちゃん達のことを思い出す。
お兄ちゃん達は何やら大変なことをしているらしい……。私も行こうとしたんだけど、お母さん達を守っててほしいって言われちゃったの。
「セラちゃん、どうしたの?」
「え? な、何でもないの!」
心配そうにしてくれるお母さんを見て私は慌てて言う。
(……なんだか、嫌な予感がするの……)
私は不安に思いながらも、家に帰ろうとする。家はお兄ちゃんの知り合いの人が作ってくれたという結界があるし、取り敢えず、お兄ちゃん達に言われたとおりに、お母さん達を守らないと……。
「……え?」
そこで見た光景に、私は思わず声を出す。
「……あれ? まだこんなに暗くなる時間じゃないはずだよな……」
「変ねえ……」
お父さん達の言うとおり、今はここまで暗くなる時間じゃないの。これは……“隔離結界”?
ドゴォォン!!
結界を解析しようとしたら、何かが私達の目の前に落ちてきた……あれは……っ!?
「と、トーカお姉ちゃん!?」
落ちてきたのはお兄ちゃんの友達のトーカお姉ちゃんだ! 傷だらけでボロボロになりながらも何とか立ち上がろうとしている!
「と、トーカちゃん!」
「だ、大丈夫かい?」
「くっ、来ちゃ駄目よ! セラ、二人を連れて逃げて!」
トーカお姉ちゃんが私達に逃げるように促すと同時に、何かが天から舞い降りてくる。何やら懐かしい感じがする……なんなの?
「……あれがターゲットか」
「……そのとおりだ。よもや本当にこんなところに居られようとは……しかも、ナマモノを父母なぞ……なんと嘆かわしい……」
一人はお姉ちゃん達と同じ悪魔で、もう一人は……私と同じ? あの人達は一体……?
「まあいい。とっとと連れて行くぞ」
「ふん、ナマモノか指図するでない!」
「っ!? 二人共!」
私はお父さんとお母さんを守るため、武装の全てを開放しようとする。その瞬間、現れた