帰ってきたらD×Dだった件   作:はんたー

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臨まれぬ戦いです

 イッセーside

 

 

 

 

 

「……か、母……様!?」

 

「……朱璃!?」

 

「……お前……何考えてるんだにゃん! メロウッ!!」

 

 信じられないものを見たことにより、固まるバラキエルさん達。黒歌はそれを見て、メロウに怒りをぶつける! 

 コイツ……なんて手段を使ってくるんだよ……っ! 

 

「フフフッ、何だ? あの二人に見覚えでも?」

 

「見覚えも何も、あの猫又は“藤舞”! 私の……私と白音の母親だにゃん!」

 

 黒歌は凄まじい剣幕で叫ぶ! 小猫ちゃんが驚いたようにしてることから、小猫ちゃんも知らなかったみたいだな。

 それに対し、メロウは嘲るように嘲笑するだけだった。

 

「……死霊魔法“死霊蘇生(レイズデッド)”。それで生み出した“使い魔(サーヴァント)”か! 巫山戯たことしやがって!」

 

「ほう? 知っていたか……」

 

 俺の言葉にメロウは興味深そうに笑う。

 

「貴様の言う通り、あれは死体に複数の邪霊や怨念、私の魔力をブレンドしたものを打ち込み作った“使い魔”だ。その力は最上級悪魔くらいはあるか……少なくとも、下手な魔王を上回るだろうな」

 

 死霊蘇生は複数の魂と膨大な魔力を使い、死体を操り人形にするという邪法の中でも最悪の部類に入るものだ! 

 この禁忌の邪法はかつて、“勇者”グランベル・ロッゾが使っていたものであり、グランベルは死んだ妻の遺体に大勢の“異世界人”やルミナスさんの“愛の接吻(ラブエナジー)”を注ぎ込んだことで、魔王級の力を得ていたという。

 そんな邪法を朱乃さんや小猫ちゃん達のお母さんに使いやがって……っ! 

 

「……相変わらず趣味が悪いなメロウ」

 

「ふん、なんとでもいうがいいカグチ。私は勝つためならば手段は択ばん。特に、そこの黒猫には嫌がらせをしたいからな」

 

 そう言うと、メロウは指揮棒を振るう。すると、二人の使い魔は反応し、うつろな瞳のまま、朱乃さん達を見据え、構えだした。

 それと同時にロキも二匹のフェンリルに指示を出し始める。

 

「さあ、スコル、ハティよ。父を捕えたのはあの者たちだ。その牙と爪で食らい尽くすがいい!」

 

 風を切る音と共に二匹の子フェンリルが駆けだした! 

 一匹は朱璃さんを背に乗せ、もう一匹は藤舞さんを頭にのせながら、二頭のフェンリルは皆のほうへと駆けていく! 

 

「ふん、犬風情が……っ!?」

 

 そう言いながら、タンニーンのおっさんはフェンリルめがけて炎を放とうとするが、それを庇うように飛んできた影を見て攻撃を止める! 

 ────朱乃さんだ! 朱乃さんは涙を流しながら、二頭のフェンリル……いや、自分の母親を庇うかのように、おっさんの前に立ちふさがった! 

 

「な、何をしている姫島朱乃!」

 

「やめて! 攻撃しないで!」

 

 朱乃さんは涙を流しながら叫ぶ! 

 

「駄目よ朱乃! イッセーが言っていたのを聞いてたでしょう! あれは貴方の母親じゃない! 母親の身体を操ったものよ!」

 

「わかっているわ。でも、それでも……」

 

 部長が言う、だが、朱乃さんは唇を震わせるだけだ。

 だが、こうしている間にもフェンリルは迫っている! やばい! 子フェンリルの牙が朱乃さんに襲い掛かる! 俺は即座に助けに行こうとするも、メロウがそれを邪魔をしてくる! 

 

 ガキィン! 

 

「ぐっ、邪魔だ! 退きやがれ!」

 

「そうはいかんな。今、面白いショーをやってるのだ。特等席でともにみようではないか」

 

 クソっ! メロウは邪悪な笑みを浮かべながら、そのようなことを俺に言ってきた! ふざけるんじゃねえぞ! 

 俺達は何とかメロウを突破しようとするが、メロウは音による防御幕を全開にし、俺達の行く手を阻もうとする! 

 まずい! このままじゃあ、俺も黒歌も間に合わねえ! 

 そのまま子フェンリルは朱乃さんに襲い掛かろうとする! 

 やられる────そう思った瞬間だった。

 

 ザシュッ! 

 

「────え?」

 

 肉に牙が突き刺さる鈍い音が響く! 子フェンリルの牙に身を貫かれたのは────朱乃さんではなく、バラキエルさんだった! 

 バラキエルさんは朱乃さんを庇う形で子フェンリルの牙に背中を貫かれたのだ! 

 

「ごふっ!」

 

 バラキエルさんの口と傷口から大量の血が流れ出る! どう見ても致命傷だ! 

 そのまま倒れ伏すバラキエルさんを、朱乃さんは信じられない様子で眺めている。

 

「……どうして?」

 

「……お前まで失くすわけにはいかないんだ」

 

 バラキエルさんの言葉に朱乃さんは何とも言えない表情になる。

 

 ギリギリ! 

 

 音に気付いた朱乃さんが振り返ると、朱乃さんのお母さん────朱璃さんの屍人形が弓矢を携え、朱乃さんをしっかりと狙っていた! 

 

「呆けないで、朱乃!」

 

 放たれた弓矢を部長が滅びの魔力で迎撃しようとする! だが、矢は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 

 

「なっ!?」

 

「リアス!」

 

 弓矢に貫かれた部長を見て、朱乃さんが叫ぶ! 今のは……ユニークスキルか! 

 

「この野郎っ!」

 

 龍王と化した匙はその黒い炎を纏い、子フェンリルに向かって放とうとする! 

 ……しかし。

 

 ゴォォォウ! 

 

「なっ!?」

 

 匙の黒い炎は藤舞さんが放つ白い炎によって浄化されてしまう! あれは、不浄を浄化する黒歌の“火車”か! 火車の浄化の力で匙の炎を相殺したんだ! 死体なのに、仙術を使えるのかよ……いや、それだけじゃない! 

 

「ぐおっ!?」

 

 それだけでなく、藤舞さんが匙に向かって気弾を放つと、その気弾から鎖が生成され、匙の巨体を縛られてしまう! その隙に子フェンリルは匙に向かって爪撃を食らわした! 

 

 ザシュ! 

 

「ぐはっ!?」

 

 元々龍王の力を完全に掌握したわけではない匙は、子フェンリルの攻撃に耐えきれず、人間の姿に戻りながら倒れ伏してしまった! 

 今のは捕縛系のユニークスキル! 二人共ユニーク持ちかよ! 

 

「当然だ。素材とした数多の死霊は別世界のものも含まれている。一つではない。こいつらは複数のユニークスキルを有しているのさ」

 

 複数のユニークスキルに魔王級のエネルギー……厄介すぎるだろ! 

 メロウ……神祖の新たなる種族の創造の補助を担当していたと聞いてはいたが、こんなこともできるのかよ! 

 

「シェムハザさん! 匙はもう戦えません! バラキエルさんも……急いで転移させてください!」

 

『は、はい。わかりました!』

 

 匙は元の転移魔法陣を使い、姿を消す。すぐ真下に通ってきた魔法陣があったのが幸いだな。バラキエルさんも早く……それを見たメロウは舌打ちをする。

 

「……後々逃げられるのは面倒だな」

 

 メロウはそう呟き、指揮棒を回す。すると、辺り一帯の空間が固定され、転移魔法陣も全て消え去ってしまう! 

 こいつ、逃げ道を潰しやがった……厄介な真似ばかりしやがって……っ! 

 

 オオオオオオオオンッ! 

 

 子フェンリルが動けなくなった部長たちを再び噛み殺そうとする! 

 それを木場とゼノヴィアが正面から防ごうとする! 

 

「ぐっ、すごい力だね」

 

「子どもとは言えフェンリルということか、凄まじいなっ!」

 

 ガキィン! と二人は子フェンリルの攻撃を何とかいなすことに成功する! 怯んだ子フェンリルに対し、ゼノヴィアはデュランダルとアスカロンを十字に構え、二つの光を相乗させる! 

 

「行くぞおおおおおおおおお!」

 

 ゼノヴィアの気合と同時に二本の聖なる剣の力が解き放たれる! 

 

 ザバァァァアアアアアアアアアアアッッ!! 

 

 ディオドラの眷属戦で見せた波動攻撃! “伝説級(レジェンド)”と“特質級(ユニーク)”の相乗効果により、覚醒魔王級の子フェンリルにも十分通用する一撃となっている! 

 

「まだまだ!」

 

 ズバババンッ! 

 

 大ダメージを負った子フェンリルに対し、駄目押しで木場が聖魔剣を叩きこむ! 足元に大量の聖魔剣を出現させ、その隙間に神速のスピードでどんどん切り込みを入れていく! 

 

「朧・流水斬!」

 

 そうして動きが鈍った子フェンリルに対し、ミッテルトが渾身の斬撃を叩きこむ! 

 

 オオオォォォォォン! 

 

 子フェンリルはさすがにこれらの連撃には耐えきることができなかったのか、とうとう動きを停止させる。

 

 ギリギリ! 

 

 それを見た朱璃さんはフェンリルの頭上から飛び降り、再び弓矢を携えるが、木場はそれよりも早く、巨大な聖魔剣を出現させ、朱璃さんを閉じ込めた! 

 

「これでしばらくは動けないはずです! 今のうちに回復を!」

 

「ええ、アーシア!」

 

「はい」

 

 アーシアはその隙に淡い緑色の光を発生させ、バラキエルさんと部長の治療を始める。

 

「させん!」

 

 それを見たロキは即座に魔術でアーシアを攻撃しようとするが、それをヴァ―リが同じ魔術で相殺する! 

 

「チっ、カグチ! 貴様も手伝わんか!」

 

「……了解。俺は兵藤一誠を貰うけど、いいか?」

 

「ふん、私は黒猫を先に始末するつもりだ。殺すのは私だが、それくらいならいいだろう」

 

 メロウはカグチに応援を求める。

 それに対し、カグチは先ほどのやる気なさげな態度から一転して、好戦的な笑みを浮かべ、俺に向かってくる! 

 

「くっ、仕方がないにゃん! 白音! 聞こえている!」

 

「姉さま!」

 

 黒歌はギャスパーとイリナ、ヴァ―リチームにロスヴァイセさんと共にもう一頭のフェンリル────そして、藤舞さんと戦っている小猫ちゃんに向かって叫ぶ! 

 小猫ちゃんは母親が相手ということで、やはり動揺が隠せないのか、明らかに精彩さを欠いているように見える。

 

「いい! 白音! お母様を攻撃なんてしなくていい! 私がそっちに行くまで、死なないように持ちこたえるんだにゃん!」

 

「────はい!」

 

 小猫ちゃんはそう言うと、攻撃の回避とフェンリルの動きを乱すことに専念する。

 

 

 

 

 ****************************

 

 朱乃side

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ……」

 

「しっかりしてください、部長さん」

 

 私は傷ついたリアスやお父様の姿を見ながら狼狽をしていた。

 わかっている。あれはお母さまなんかじゃないんだってことを……。でも、私はお母さまの身体に攻撃を加えることなんてできなかった。そのせいで、父様とリアスが傷ついてしまった。

 

「……私は……私は……!」

 

 私はなんてことを……。もし、私があの時前に出てなかったら、父様もリアスも傷つくことなんてなかったのに……。

 

 バゴォォン! 

 

 壁となっていた裕斗君の聖魔剣が崩れていく。

 空洞となった穴からは、母様が昔と何も変わらない姿で歩いてきた。

 

「朱乃さんは下がっててください!」

 

「ここはうちらがやるっす!」

 

「朱乃嬢は下がっていろ!」

 

 そう言いながら、ミッテルトちゃんや裕斗君、ゼノヴィアちゃん、タンニーン様が前に出る。

 彼女たちは剣を携え、母様の元へと向かっていく。

 私は……私はどうすれば……。そんな中、優しい誰かの手が、私の頭をなでてくれた。

 

「……しっかりしろ。朱乃」

 

「……父……様」

 

 父様はそういいながら、私の頭を昔のように撫でてけれた。

 その時、私は今までの思い出が弾けるように溢れ出してきた。

 

『手入れをしてくれるのか。ありがとう。朱乃』

 

 これは、父様と一緒にお風呂に入ったときのことだ。

 

『いいよ。父さまの羽、黒くてつやつやで、朱乃の髪の毛と同じだもん! 私、父さまの羽大好きよ!』

 

 そうだ。このときの私は堕天使の羽に悪い印象なんて持ってなかった。むしろ、私や母様と同じ黒い羽が大好きだったっけ……。

 

『母様! 父様はいつ帰ってくるの?』

 

『あら、朱乃。父様と何処か行くの?』

 

『うん! 速く帰ってきたら、一緒にバスに乗ってお買い物に行くの!』

 

 あの頃の、何も知らない私は父様のことが大好きで、いつも寂しかった。

 いつも父様がいてくれたら良かったのに……ずっと、そう思っていた。

 

『ねえ、母様? 父様は朱乃のこと、好きかな?』

 

『ええ、もちろんよ』

 

 たまにしか父様に会えなかった。だから、時折父様が自分のことをどう思っているのか不安になってしまった。

 ────そんな時、あの悲劇が起きた。

 

『その子を渡してもらおうか。忌々しき邪悪な黒き天使の子だ』

 

『この子は渡しません! この子は大切な私の娘です! そして、あの人の大切な娘! 絶対に渡さない!』

 

『……貴様も黒き天使に心を穢されてしまったか。憐れだが、致し方あるまい』

 

『か、母様ぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 この時、私は父様を責めた。母様を助けてくれなかった父様を────責めてしまった。

 

『どうして! どうして、母様のところに来てくれなかったの!? ずっとずっと、父様を待っていたのに! 今日だって、早く帰ってくるって────ううん! そもそも今日はお休みだって言ってたのに! 父様がいたら、母様は死ななかったのに!』

 

 父様は悪くない。そんなこと、わかっていた。けれど────

 

『あの人達が言っていた! 父様が黒い天使だから、悪いんだって! 黒い天使は悪い人なんだって! 私も黒い翼があるから悪い子なんだって! 父様と私に黒い翼がなかったら、母様は死ななかったのに! 嫌い! 嫌い! こんな翼大嫌い! 父様も、皆大嫌いっ!』

 

 あのときの父様の悲しそうな顔は今でも覚えている。

 父様が悪い────そう思わなければ、私の精神が持たなかった。私は弱いから……。寂しくて……ただ、三人で暮らしたかっただけなのに……。

 

「……ごめん……なさい」

 

 私は涙を流しながら、父様を抱きしめる。

 

「私……はっ……、父様ともっとたくさん会いたかった! 父様にもっと頭を撫でてもらいたかった! 父様と……もっとたくさん遊びたかった! ……三人で、もっと暮らしたかった……っ!」

 

 父様は私の言葉を聞き終えると、私のことを抱きしめ返してくれた。

 

「朱璃のこと、お前のこと、1日たりとも忘れたことはなかった。……寂しい思いをさせて、済まなかった。朱乃……」

 

 ……暖かい。父様の抱擁は、昔から安心する感じがする。

 

 ドゴォォン!! 

 

「がはっ!?」

 

 弓矢が爆発を起こす。その巨体を生かし、皆の盾役としてミッテルトちゃん達を守ってくれていたタンニーン様が倒れ臥す。

 それを成し得たのは母様だ。

 その姿は────とても哀しそうに見えた。

 

「ぐっ……」

 

「父様、まだ立っちゃ……」

 

 それを見た父様は、力を振り絞り、立ち上がろうとする。

 いくら、アーシアちゃんの回復を受けたからと言って、失われた血液が戻るわけじゃない。父様はもうとても戦うことができる身体じゃないにも関わらず、立ち上がろうとしている。

 

「母さんは……朱璃は私が止める……それが、私の義務なんだ……」

 

 しかし、そういいながらも父様は立てないでいる。

 父様はもう限界だ。────私は覚悟を決めて、母様と向き合う。

 

「……いいえ。私が止めます」

 

 私の言葉に父様は驚いたような顔をする。

 

「駄目だ! お前にそのような業を背負わせるわけには行かぬ……これは私が……」

 

「いいえ。父様、それは違うわ」

 

 私は父様と視線を合わせ、言葉を紡ぐ。

 

「私は……朱乃は本当に弱い娘だった。弱いから、あの時は父様を攻めることしかできなかった。父様だけに背負わせることしかできなかったの……。でも、今は違う! 父様一人で背負うことない! 私は……母様のあんな姿を見たくない。父様やリアスを傷付ける母様なんか、見たくない。だから、私が母様を止める! もう、父様だけに背負わせたりしないわ!」

 

「朱乃……」

 

 そう。母様は絶対にこんなことしたくないはず! 

 父様やリアスの負傷を招いたのは私。ならば、私が責任を負うべきだ! 

 

「……頑固なところは……母様そっくりだな……」

 

 父様はそう言いながら、ひとつぶの涙を流し、微笑んだ。父様は再度、私の頭を撫でる。

 

「……貴女の覚悟はわかったわ。行ってきなさい。朱乃!」

 

 リアスは矢で貫かれた箇所を押さえながら言う。

 父様もそれを見て苦笑し、しばらく瞠目した後に口を開いた。

 

「……朱乃、母様を止めてやってくれ。朱璃もこんなことしたくないはずだ」

 

「……はい! 行ってきます、父様、リアス。母様を────止めてきますわ!」

 

 私は大嫌いで、大好きな黒い翼を羽撃かせ、母様の下へと向かった! 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 小猫side

 

 

 

 

「くっ、本当に死体なのですか? 凄まじい力ですね」

 

「それに、子供フェンリルもとてつもなく厄介だぜぃ」

 

 聖王剣の担い手であるアーサーがそう言いながら、母様に切っ先を向ける。

 ……朧気だけど、母様はとても優しい人だった記憶がある。私がまだ、赤ん坊のときに死んでしまったけど、泣きじゃくる私の頭をいつも撫でてくれたことを、何となくだけど覚えています。

 そんな母様が、今子フェンリルの頭の上に乗っかりながら、私達と相対している。

 

「大きくなれ! 如意棒!」

 

 孫悟空の末裔である美猴が如意棒を使い、母様に攻撃を仕掛ける。

 美猴の如意棒による攻撃を簡単に見切り、逆に美猴を地面に叩きつけている。

 

「このぉ!」

 

「やらせません!」

 

 イリナさんが即座に光の槍を投げつけ、ロスヴァイセさんが北欧の魔術で雨のような弾を展開する。

 

 グルルルッ! 

 

 子フェンリルと母様はそれを気にせず、親のフェンリルの鎖を解こうと立ち回る。

 

「えいえいえい!」

 

 そこへ、コウモリと化したいギャー君がフェンリルの目に集まり、一瞬だけど、フェンリルの視界を塞いだ。

 ────今! 

 

「はああ!」

 

 ドン! 

 

 ギャー君のお陰で、子フェンリルに仙術の一撃を食らわせることができた。

 致命傷にはならないけど、弱体化させるだけなら充分だ。

 

「……今です!」

 

「ええ! 感謝しますよ! 取り敢えず目!」

 

 そう言いながら、アーサーは聖王剣を使い、子フェンリルの左眼を大きくえぐり取った。

 

「次に爪! 危険な牙! 聖王剣の力ならば、子供のフェンリルごとき、空間ごと削り取れるはずです!」

 

 ゴリュリュリュ! 

 

 その言葉通り、聖王剣は子フェンリルの爪と牙を根こそぎ削り取る。

 親のフェンリルには通じなかったけど、子フェンリルには効果抜群のようですね。

 

 ギャオオオオオオオオンッ! 

 

 凄い……。これが聖王剣の力ですか……。

 子フェンリルが怯んだ隙に、美猴が如意棒を、イリナさんが光の槍を、ロスヴァイセさんが北欧の魔術を展開しながら、構えだす。

 

「デカくなれ、如意棒っ!」

 

「行くわよ!」

 

「喰らいなさい!」

 

 三つの力の奔流が、子フェンリルを巻き込み、吹き飛ばす。

 気を断ち切られ、弱体化し、牙と爪をも失った子フェンリルは為すすべもなくそれを喰らい、ついに倒れ伏した。

 

「あとは、小猫ちゃんのお母さんだけね」

 

 イリナさんの言葉とともに、母様が地面に降り立つ。

 その瞳はひたすらに無機質で、朧気な記憶の中にある母様の面影があるようには見えなかった。

 

「嬢ちゃんは下がってろぃ。ここは俺っち達がやっとくぜぃ」

 

「ええ。貴方には少し荷が重そうですからね」

 

 そう言いながら、アーサーと美猴は私の前に立つ。

 ……この人達、私のことを心配してくれてるんですかね? 少しの間ですが、接してて分かりましたが、この人達、あまりテロリストが似合わないのかもしれませんね。

 

「……大丈夫です」

 

 私は美猴達にそう返しながら、前に立つ。

 

「おいおい、本当に大丈夫かぃ?」

 

「……はい! 問題ありません!」

 

 私は母様相手に拳を構える。

 本音を言えば、やりたくない。

 ほとんど記憶になくても、実の母親に拳を向けたくはない。

 ────でも

 

『いい! 白音! お母様を攻撃なんてしなくていい! 私がそっちに行くまで、死なないように持ちこたえるんだにゃん!』

 

 あの姉様の言葉は、私を思っての言葉だ。

 私の気持ちがわかってるからこそ、私が母様を傷つけないように……自らが母様を解放しようとしたのだろう。

 

(私は……姉様に酷いことをしてしまいました。姉様を傷つけるようなことをしてしまいました。……全ては、私が弱かったために……)

 

 だからこそ、これ以上姉様を傷付けさせたくない! 

 姉様だけに何もかもを背負わせたくはない! 

 

(……背負うなら、私も一緒です!)

 

 私はグローブを締め直し、母様に拳を向けた。

 

 

 

 

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