20歳 現役引退。その後はドイツに帰国し菓子作りの勉強へ
21歳 第一子出産
23歳 日本国籍取得。第二子出産
24歳 自分の店を持つ
26歳 第三子出産
32歳←今ココ
エピローグ
カーテンの隙間から差し込むわずかな光で目を覚ます。体に染みついた生活リズムが目覚めを手伝い、瞬時に布団から出る。背伸びをして、肺に酸素を取り込むと少しばかり朦朧とした意識を完全に覚醒させる。
そして、
今の時刻は5時05分12秒。今から家を出て、市内を一周コースのランニングをする。10も歳が離れているのにまだまだ衰えることのないあの人と、いつまでもいるための大事な努力だ。
学生の頃と変わることのない、いい意味で都会っぽいこの街の景色は、いつの間にか私にとって最も愛おしい街並みになっていた。そんなこの街に再び帰ってきて、日々生活を送れている事に幸せを感じる。ランニングの中盤、多摩川沿いを走る。丁度冬の時期だとこの近辺で日の出を迎えることになる。その時に水面が朝日を反射し、キラキラと輝きを見せる。そんな日常に紛れた小さな幸せを重んじ、感謝をする。日本人らしさを己の内面に感じ、誇らしくなった。
45分20秒__
手の中にあるタイマーが指し示す数字だ。
昔と比べて、圧倒的に遅くなったこのランニングタイムは何度見てもショックを与える。私ももう32歳。現役を終えてから12年も経ち、身体能力は急激に落ちていた。あと数年もしてしまえば、彼と同じくらいになってしまうだろう・・・。
人間はウマ娘に勝てるはずなどない。こんな事を考えていた昔の自分が恥ずかしく感じる。あの時の力は一時のモノに過ぎないのだから。
そう思うと、なんだか酷く寂しくなってきた。無情な時の流れが残酷に感じ、私を無力感で満たしていく。考えたくもない未来が頭をよぎり、涙が零れそうになった。
っと。いけない。感傷的になっていた。
「ただいま」
思考を掃う様に首を振り、家の中に入った。
「おかえり~」
奥から愛しい人の声がする。いつまでも変わらない優しく、少しおどけた声が、さっきまで不安に駆られていた心に安堵をもたらす。
「シャワーの準備してあるから、ササっと浴びてきちゃいな」
「ええ、ありがとう」
ここまでが、『私』の朝。
そしてこれからが、『私たち』の朝だ。
『私たち』の1日は一緒に朝食を作ることから始まる。毎朝作るのは一般的な和食。しかし、
2人で楽しく会話しながら調理していると、あっという間に時間が過ぎてしまい子供たちが顔を出し始めた。
「パパ、ママ、おはよう!」「おはよう」
「2人ともおはよう。すぐにごはんできるからね~」
「おはようございます」
まずひょっこり顔を出したのは一筋の流星がチャームポイントな次女のオニャンコポン。そしてその後ろからやって来たのが私譲りの黒い毛を持つ長女のヴェラアズールだ。どちらも自慢の娘だ。
「あれ?渡は?」
「うん。渡君起こしたのにすぐ二度寝しちゃって・・・」
アズールは6年生になった頃から急激にしっかりし始めた。甘えん坊だった昔の頃と比べると大きく成長したものだ。こういう娘の成長は心から嬉しい。
「渡ちゃんったらにぶちんなんだから~」
オニャンコポンは最近どこで習得したか分からない言葉をよく使いようになった。夫も、「こんな時期あったな~」なんて懐かしんでいたのが記憶に新しい。
「しょうがないな・・・。パパが起こしに行って来るよ」
そして、先程から度々名前が挙がっている末っ子、渡。夫曰く末っ子性分というもので非常に甘えっ子でのんびりしている子だ。
数分すると、抱っこされながら渡もやって来た。今年小学生になったばかりの、可愛らしいフォルムがとても愛くるしい。
「ほら、渡。そんなお寝坊さんだと来週じーじとばーばのとこ行けないぞ」
「ん・・・起きてる・・・」
目が開いていない時点で嘘なのが一目瞭然だ。
「ほーら」
掛け声と共にブランコの如く大きく揺らされ、渡もようやく目を覚ました。困ったお寝坊さんだ。思わずくすりと笑う。
「渡。もうごはんは出来てますよ」
「はーい」
それでもまだ眠いのか、気怠そうにのそのそと歩き、ダラッと椅子に腰かける。
それを見届けると、私たちも座って、5人全員の着席が完了した。
「じゃあ」
夫の声でタイミングを合わせ、一斉に言う。
『いただきます』
子供たちを見送った時、私たちは仕事モードに切り替わる。
経営しているのは喫茶店。ケーキが名物の喫茶店だ。
喫茶店を始めるきっかけになったのは夫の一声だった。まだドイツにいた頃、ヴェラアズールが生まれたばかりで育児に追われながら忙しい毎日を送っていた時期だ。念願のマイスター資格まであと少しで届く、そんなある日のことだった。
「そういえばさ、フラッシュはマイスターになったらどうするの?」
出産という嬉しい誤算で少し狂ってしまったスケジュールを見ながら、彼は私に問う。
無論、両親の店を継ぎたい。そう思った。しかし、言おうとした瞬間私の脳裏にある記憶がよぎった。それは日本での記憶。ファルコンさんを始めとした日本の友人たち。彼女らの笑顔。私のお菓子で生まれた笑顔が頭をよぎったのだ。それを自覚した瞬間、1つの感情が湧いてきた。
_もう一度日本で暮らしたい。
気付いた時にはもう、言葉に出ていた。
「!?・・・うん。君と一緒なら、俺はどこまでも付いていくよ」
一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに決断をしてくれた。
「ありがとうございます」
こうして再び、予定の変更が行われた。
それから2人で相談に相談を重ね、お店の形は喫茶店になった。私がお菓子を作り、彼がその美味しさを引き出すドリンクを淹れる。お客さんの笑顔が、一番近くで見える形だ。
その会議の際、彼が言った「じゃあ~そうだ!君のケーキがもっと美味しくなるためのドリンクを、俺が作るよ。世界一美味しいお菓子を、最高な形で食べてもらうために」はプロポーズと同じくらい嬉しかった。
そして無事私もマイスターの資格を手にし、彼も勤めていたドイツのトレセンを辞職しコーヒーの修行の道を進んだ。
2年後、オニャンコポンの出産と同時にこの店、『
あれから8年。今ではこの店も、府中を代表するようなお店にまで成長していた。名物は勿論シュトーレン。両親の味を完璧に受け継いだ自慢の1品だ。
お店の宣伝も程々に、今日もいつもと同じように誇りを持って仕事を行う。クリスマスの近いこの時期、主に2つの仕事が存在する。1つはクリスマスケーキ。材料の確保が大きな難題だ。最近はコンビニなどもクリスマスケーキを売り出すので、材料は品薄状態に陥り材料費がかさむ。特にイチゴなんかは高騰の様子が目に見えて分かるので恐ろしい。
そしてもう1つは勿論お店のケーキ。いくら美味しいものだろうと、常に同じメニューでは飽きられてしまう。そこで季節の要素をふんだんに取り入れた限定品の開発が必要だ。今期は柚子のケーキ。故郷ではあまり食すことがなかった食材に胸が躍る。
酸味の強いこの果物はチーズケーキなんかと相性がいいだろう。
「
考え抜かれたレシピを用いて、寸分の狂いもない完璧な調理を行う。夫にゆとりを持った生活の仕方を教えてはもらったが、お菓子作りにおいては適応されない。一切の妥協を捨て、究極を求めて仕事を完遂する。それが私の誇りだ。
開店まであと1時間24分。それまでに午前分の準備をしなければならない。
「フラッシュ!フルーツのカット終わったよ!」
「ありがとうございます。では、あなたはお店の清掃を!」
「喜んで!」
先述の通り、このお店は2人で経営している。お菓子の調理を主に私が引き受け、清掃会計ドリンクに軽食の調理とお菓子以外のほぼ全てを彼が担っている。ああやって支えてくれているからこそ、私がこうしてお菓子作りに専念出来ているのだと思うと感謝してもしきれない。
10時きっかり。ついに開店時間だ。準備万端。お店自体が輝いて、お客さんを出迎えているようだった。
「「いらっしゃいませ」」
これまで、スケジュール通りにいかない事の連続だった。だが、その出来事全てが今の私を作っているのだ。スケジュール通りに進んでいてはきっとあり得なかった今。こんなにも幸せな今を感じると、スケジュール通りでなかったことすら、『素晴らしい事』とさえ思えてくる。
不意に、楽しみ。という気持ちが湧く。あれだけ想定外を嫌い、予定通りを求めた私が、だ。こうして家庭も持ったから分かる。父も、母も、きっとお互い結婚するなんて予定に入っていなかったのだろう。だが、結婚し、私を生んだ。それは紛れもなく、想定外。でも幸せなのだ。そう。想定外だからこそ、幸せなのだ。楽しいのだ。嬉しいのだ。それが分かった私はまた、完璧に1歩近づけただろう。
私は、いや、私たちはこれからも予定通りの想定外な幸せな日々を過ごすだろう。
世界一、幸せな夫婦として___
同時投稿だぜベイベー
という事でこれからはこういった妄想日記になります
初回は勿論トレフラ結婚後妄想
3人の子供を持ち喫茶店を営んでいますね
3人の理由は単純に作者自身の理想です。でも3人子供がいるって素敵じゃない?
裏話 これ構想段階は子供が、ムーランナヴァン(フラッシュ最初の産駒・・・のはず)、オニャンコポン、男の子1人。だったんです。それで行こうって思ってたらなんか・・・ヴェラアズールがジャパンカップ優勝しちゃってw結果ムーランナヴァン君に取って代わってヴェラアズールになったんです