秋(気候的には冬だが、URAがそう定めている)のG1祭りの〆、クリスマス有馬も終わり束の間の休息が訪れていた。
何故か師匠から忘年会のお誘いの手紙がトレーナー室のデスクに貼られていた。糊で貼り付けないで欲しい剝がすのが大変なんだ。手紙には『今年はチームで忘年会やるからお前も来い!来ないとお前の家に生牡蠣郵送するからな!』との文言が書かれていた。生牡蠣未勝利ボディにとって脅し以外の何物でもないので控えていただきたい。
というか我が家は今年結婚したての熱々新婚さんなのだ。年末は片時も離れずチョウチンアンコウみたいな生活を送りたいのだ。そういった事情を加味して欲しい。
『いいんじゃないですか?』
頭ごなしに断るのもチームの娘たちに悪いのでフラッシュに来てみることにし、帰って来た返事は予想を大きく外れたものだった。正直2人でいたいとかもっと束縛チックなのが来ると思っていたので拍子抜けだ。
『トレーナーさんにもお仕事の関係というものがいるのは私も承知しています。ですので、私は1人お家で待っていますのでどうぞ行って来てください』
あ、違うこれ拗ねているやつだ。
最近のフラッシュはW杯の影響で少し虫の居所が悪い・・・いや、今回は関係ないか。そりゃ新婚の年末に仕事の忘年会で過ごせないなんて言われたら流石に怒りたくなるだろう。俺もそうなのだから。ただ・・・
「俺いないとそもそも成り立たなさそうだしなあ・・・」
アンタレスには料理出来る人間がほとんどいないのだ。俺がいないと忘年会自体が出来なさそうなのだ。なのでここは納得いかないが!本当に納得できないが行くしか無いのだ。仕方がないのでここはこう提案するしかない。
『フラッシュも一緒に来る?』
この日の夜、俺は夜通し説教&詫びぴょいで罪を償うことにした。
「そういえばフラッシュってうちのチームに知り合い居るの?」
翌日、昨夜の情事で少しやせ細った俺はフラッシュと一緒に忘年会場に向かっていた。
「私が把握している限りでは・・・スカーレットさんとルーラーシップさんがいらっしゃるのは知っています」
スカーレット・・・ああ、ダイワスカーレットか。俺が抜けた後に入ったと小耳に挟んだな。
「知り合いがいるならいっか。ちょっとは気楽になるかな。あ、そろそろ部室に着くよ」
そう言って先に佇むプレハブ小屋を指差す。年季の入った、少しばかり黄ばんでいるその建物には玄関に、『アンタレス』と書かれた看板が付いており、その存在をでかでかと示していた。師匠曰く昔チームに書道が得意な娘がいたらしく、その娘の作品らしい。力強く、堂々としたその字からは、その娘の性格が表れているようだった。
「お~っすみんな!来たよ~」
部室のドアを勢いよく開け、快活な声で到着の挨拶をする。すると、中から懐かしい面々がワラワラと出てきた。時の流れは随分と早いようで、4年という長い時間の経過を感じさせる変化が皆にあった。ある娘は背が大きく伸びていたり、ある娘は垢抜けてオシャレにハマっていたりと変化は三者三様だった。
「お久~サブトレーナー!」
「久しぶりです。サブトレーナーさん!」
「よっ、URAファイナルズ優勝トレーナー!」
だが、どれだけ見た目が変わってもその娘の本質までは変わらない。みんな昔と変わらず親しげに話しかけてくれることが嬉しかった。同窓会に行った時の気分とはこういうものなのだろうか。誘われた事ないから知らんけど。
しばらく会話に花を咲かせているとふと、コートの袖を引っ張られる感触がした。目をやると、その手はフラッシュのだった。少し放置しすぎてしまっただろうかと反省しつつ、なだめる様に彼女の頭をそっと撫で、中に入ろうかと皆に提案をする。
「すみませんフラッシュさん。気が利きませんでしたね。こちらにどうぞ///」
2人の間に流れる空気を察したのか、1人が顔を赤らめながら案内してくれた。他の面々も、まるでグラビア雑誌をちらちら見る小学生みたいな目線をこちらに向ける。所々わあ・・・すごい・・・なんて感想も漏れ出ており、耳に届く度に恥ずかしさが込み上げてきた。その場から足早に立ち去り、中に入る。
「あ、お久しぶりです!師匠!」
通された部屋では皆コタツで暖を取りながらそれぞれ思い思いのぐうたらを満喫していた。そして部屋に広げられた2つの机には鍋が待ち構えられており、食材の投入を今か今かと待ちわびているようだった。
まずは、部屋の奥でどっしりと座っている師匠に挨拶をする。どうやら既にビールを吞んでいたようで、少しろれつの回っていない返事が返って来た。
「おう!来たかあ~。まあへぇれへぇれ!おっしじゃあお前ら!そろそろ始めっぞ~」
相変わらず酒飲み親父ムーブをかますこんな人でも、つい先日まで若者引っ張って全国駆けずり回ってたと思うと不思議な話だ。
「あ~もう飲んでる~」
「大丈夫ですかトレーナー?生活習慣病で入院でもしたら私たちの事をどうする気なんです~?」
「そこの新婚でも頼ればええ!」
「他力本願じゃねえかクソ師匠!」
渾身のツッコミにドッと笑い声が起こる。まさに実家のような安心感。すごく懐かしい雰囲気だ。
さて、これだけ立っているといくら部屋の中とはいえ寒い。そろそろコタツに入らせていただこう。そう思いフラッシュと一緒に座ろうとすると・・・いない。さっきまで横にいたはずのフラッシュがいない。慌てて探すとどうやらダイワスカーレットとルーラーシップに連れ去られているようだった。
「フラッシュさん!来てくれたんですか!?あ、どうぞこっちに」
「お~エイシン~座って座って~。ルーラーちゃんがよそったげる」
「え・・・あ・・・その・・・ありがとうございます」
慣れない環境のせいか知らない人に囲まれているせいかいつにもまして大人しい・・・いや、緊張している彼女は滑らかな動きでお持ち帰りされてしまった。珍しいこともあるものだな。こういう環境でも臆さずいるようなイメージを持っていたのだが・・・。こうしてフラッシュはスカーレットとシップに挟まれ、姫の如くおもてなしされるのであった。
少々大人げない嫉妬の感情も湧きはしたが、冷静になって気持ちをなだめる。今しかない学生時代をキチっと謳歌して欲しいと言ったのは俺自身だろう。
「・・・トレーナー殿。サブトレ氏の事を新入メンバーに報告しなくてもよろしかったので?」
「ん?あ!そりゃそうだ。知らねえ奴らもそらいるわな!サンキュー、バージュアン」
バージュアンと呼ばれたウマ娘のアドバイスに従って皆に呼びかける。
「忘年会を始める前に、知らない奴もそれなりに増えたから紹介だけするか。おい若僧、立てい!」
「へいへい」
仕方がなく立ち上がり挨拶をする。
いや、にしても人が増えたな。ひいふうみいや・・・わお。倍以上になってる。昔居ただけとは言えこのチームがここまで発展したことに誇らしさを感じる。
「エイシンフラッシュのトレーナーです。今日は昔ここでサブトレーナーやってた縁でここに呼ばれました」
ありふれた自己紹介を済ませ、直ぐにコタツに入る。ふぃーあったけ~。
コタツに身も心も温められ、上気分になった俺はすぐさま焼酎をグラスに注ぐ。焼酎はあまり飲まないがドイツのビールを飲んで以降、どうしても日本の缶ビールが美味しくないのだ。
「よぉし!ほんじゃ今年1年、お前らよく頑張った!間近で見ていた俺が言うんだから間違いねえ!今日は今年の厄全部吹き飛ばす勢いで楽しめ!・・・乾杯!」
年季のある重低音が部屋中に響く。相変わらずの荒い言葉遣いだが、その中の優しさや思いやりはしかと伝わる。・・・方便みたいなもんだろうか。
『乾杯!』
グラスのぶつかる音をゴングの代わりとし、忘年会は幕を開けた。
まずは鍋を作らねば。市販のだしをぶち込み、煮込んだ所に魚、肉、野菜の山を投入する。ここで投入されたイかれたメンバー紹介しよう。
魚部門、鱈&鮭。冬を代表する魚たちだ。だが俺はチー鱈で年中お世話になっているぞ!
その他魚介部門、海老&カニカマ。こらそこ!カニカマはスケトウダラが材料とか言わない!
お次は肉部門。これは俺の独断と偏見で豚と鶏だ。牛は入れないな。入れてるの聞いたことないな。
続いては野菜部門。もやし、にんじん、白菜、水菜、大根にキャベツ。無難なメンツの勢ぞろいだ。やたら野菜の価格が高くなってきているこの時期において安くて量がある食材は非常に重宝されるからな!大量に入れておいたぞ。
そしえ最後。なんだかんだ一番重要な〆だ。無論ラーメンだろう。え?うどん?あいつは星になったよ。いい奴だった。
「・・・頃合いかな?」
解説がいい時間稼ぎになったようだ。どれ、試しににんじんを1つ。・・・うん。しっかり火が通っているな。
「みんな~いいよ~」
その合図を皮切りに、皆が襲い掛かるように鍋に飛び掛かる。満帆だった鍋は見る見るうちにその量を減らしいき、底まで辿り着きそうな勢いだった。
「あれ?みんなこんなに食べるっけ?」
覚えているものと全くの様変わりをしてしまった忘年会に疑問を覚え、近くにいたフクちゃんに疑問を投えかける。
「サブトレさんがいなくなってからモグモグ料理ができる人がモグモグ居なくなってショクザイトリ皆こういうイベントに飢えてるモグモグんです」
朗報、俺は自他共に認める料理担当だった。こんな後付け設定の癖に。というかフクちゃん。食べるか話すかどっちかにしよっか。
まあ何はともあれ皆が喜んでくれたようで俺も嬉しい。あっそのカニカマ俺も食べた・・・。また今度ひっそりと買おう。
一方その頃。
「はい。これフラッシュさんの分です。こっちはルーラーシップ先輩の」
「ありがとうございます。スカーレットさん」
「スカちゃんありがとぉ」
「何言ってるんですか。2人は先輩方なんですからこれ位はさせてください!」
いやルーラーシップ、さっきの発言覚えてる?
予想の3倍のスピードで消えていく食材たちを守るために慌てて〆を用意してくるから待っていてと言い席を立つ。おかしいだろまだ10分しか経ってないんだぞ・・・。
「お、うどん頼んだぞ」
「ラーメンです」
「「あ?」」
師匠の要らん一言が闘争本能に火をつけ、今ここにラーメンVSうどんという世紀の大合戦が幕を開けた。
「古来から啜られてきたうどん、古来から食べられてきた鍋。そりゃ昔からの伝統が一番だろぉ?!」
「古いものの方がよいとはまた随分な老害になり下がったなあ師匠。そもそもラーメンに関しては原型である志那そばは古来から中国の食べ物。古さにそう大差はない」
「くっ・・・やるな。だがな、ラーメンなんざ所詮ひょろっこいちぢれ麺ばっかだろう?鍋との嚙み合いは悪い」
「フウン。甘いぞ師匠。今日俺が持ってきたのは鍋用のラーメン。濃いめの味噌鍋によく絡むよう汁をよく吸い、なおかつもちもち触感を損ねない様に設計された専用麺さ。知識の無さが仇になったな経験厨め」
「何おう!食材ってやつは調理法でいくらでも化けるのはお前さんの知るとこだろうアンタレス料理長」
「料理経験してからそういうことは言えや!」
鍋の〆はうどんかラーメンかという一見くだらなくも日本人を真っ二つにしかねない重要な口論を重ねていると不意に横槍が入った。
「お鍋は2つあるし両方作ればいいのでは?それにどうせ雑炊にするならあんまり関係ないですし…」
先程までの議論は世界一要らない議論だったようだ。
「それもそうだね。よーしみんな鍋一旦渡し…」
「ふふん!やっぱり1番は私ね!」
「スカちゃんさっすが〜」
「スカーレットさん、すごいです!」
スゥー鍋が…消えたか…。
魔法でも使ったのか、テーブルにデカデカと広げられていた鍋いっぱいに入っていた中身は忽然とその姿を消した。
状況証拠的にダイワスカーレットが犯人なのだろう。ルーラーシップとフラッシュから褒められ、鼻高々といった様子のスカーレットに周りから罪人を見る視線が向けられていた。
あまりに痛々しいその視線に誇らしげにしていた彼女も大人しくなり、静かにこちらを見る。
「…スカーレット」
感情を精一杯抑えてダイワスカーレットの名前を呼ぶ。
「…はい」
「そのさ…さっき俺、言ったよな。〆作るって」
「…」
「2000m。1本行ってこい」
残されたラーメンの袋を眺めながら、弱々しい声でそう告げたのだった。
「どおしてなのおお!」
涙混じりに外へ駆けていくスカーレットを眺め、良心が痛む感触がしながらも、コタツの中に入り直す。
「トレーナーさん…」
スカーレットがトレーニングに向かい、いつの間にかルーラーシップは見事爆睡をかまし、両隣が空いたフラッシュは俺の隣へと席を変えた。
「フラッシュ…」
見つめ合い、ゆっくりと距離を縮める。布団の下で隠れるように手を絡め、一緒に居れなかった時間を埋めるようにピッタリとくっつく。互いの体温を感じ合い、蕩けて混ざるように混濁していく。
ここが部室な事を忘れ、完全に2人の世界へと入ったのだった。
「…みんなどうしたの?!」
しばらくし、罰を終えたスカーレットが部屋に戻ってくる。白い煙となって空気中に霧散していく汗をタオルで拭き取りつつ、パッと皆の様子を眺めた彼女は刹那、己の目を疑った。その場にいるほぼ全ての者が死んだ魚のような目をし、その場に倒れていたのだ。倒れていないのは…寝ている何人かと、エイシンフラッシュ夫妻だった。
慌てて近くに居たマチカネフクキタルの下へ駆け寄り、事情を聞く。
「フク先輩!何があったんですか!?」
「のろ…け…」
「え?」
「惚気…が…」
「えっ?!のっ…惚気?!」
フクキタルが震えながら指を指す先には件の夫妻が身を寄せ合いながら甘い時間を過ごしていた。一瞬理解が及ばずその場に立ち尽くすスカーレットだったが、すぐにその意味を理解した。いや、体験させられた。
「フラッシュ…次の予定は?」
「24秒前に聞いたばかりですよ。…私をたっぷり愛してください」
うっわきつ。
結婚してなお付き合いたてのカップルみたいな事ができるこいつらに最早畏怖すら感じる。
聞かされるサイドからしたら何も面白くないのだが。ほら、あのスカーレットでさえドン引きを隠しきれていない。そりゃこんな甘ったるいのがチラチラと聞こえていたら精神も可笑しくなりそうだ。
「…お幸せに〜」
そうして、スカーレットは逃げる様に再びグラウンドに向かっていく。
「フラッシュ、愛してるよ。世界で一番」
「私もです。あなたの事を愛していますよ」
彼らの甘い囁き愛(合い)は、師走の忙しさと共に流れていくのだった。
…え?オチは?
深夜テンションのクソみたいな思い付きからぶっつけ本番で書いたんでオチとかなんもないです
クリスマスは書きません。何故なら誰かと過ごした経験がないからです(血涙)
という訳で忘年会です。ちなみにこっちもやった事ありません(大泣き)
誰か・・・誰か俺とやってくれる人いない?
あ、今作で今年は最後です
それでは皆様、よいお年を