貰えないのなら、自分で作ればいいじゃない。という訳で書きました
あ、時間設定としてはレース引退後のドイツにて、という設定です
バレンタイン。こうして結婚してドイツに移住してなお言う事じゃない気もするがぶっちゃけバレンタインが好きじゃない。確かに今年もフラッシュの手作りお菓子が貰えることは確約されている。それは十二分に幸せな事なのだ。…が、やはり好きじゃない。
それは何故か。その理由は俺の学生時代にある。当時中学生の俺は今とは日にならない程間が悪かった。道を歩けば車に撥ねられ、自転車を漕げば何もないところで滑って壁に突っ込み、食事をすればそれなりの確率で食中毒。まだ体もそこまで丈夫じゃない当時の俺は、気づけば保健室の住民になっていた。となれば一番多く接するのは当然保健室の先生。思春期真っ盛りの少年は勿論、恋に落ちた。
それからはただひたすらにアプローチした。自覚はないがファルトレからよく言われていたイタリア人的発言を繰り返していたのだろう。彼女から、キザという評価を速攻で貰った。
それから時は流れ2月に入った頃。バレンタインも近く、貰えるだろうとうきうきしていた俺に絶望が襲い掛かる。
「彼氏にチョコ上げたいんだけど、男の子ってどんなチョコが嬉しいの?」
何かが壊れる音がしたこと、よく覚えている。今覚えば完全に脳が破壊された音なんだが…。
そんなよくある失恋を経験したとはいえその時の経験は今もトラウマとして深く残っているのだ。お陰でバレンタインが未だに少し怖い。フラッシュとの経験で多少緩和されても、だ。
余談だが、質問への返答は手作りにしといた。妻帯した今なら言える。○○なチョコが貰える、よりも彼女(妻)から貰える。という事が嬉しいのだ。愛されているという実感が湧く。
さて、これだけうだうだ言ってはいるがここはドイツ。日本と違って男がプレゼントをあげる側。そんな思い出ガムの包み紙と一緒にポイしてしまおう。
「フラッシュ~」
「ふふっ。いいですよ」
という訳で心行くまで甘え合おう(?)。まずは抱擁。やさしさに体が包まれる。マシュマロの様に柔らかい彼女の体はまさに極上の癒しだ。正面からすべてを包むような母性についつい幼児退行しそうになってしまう。…いやこれもうしてないか?
そのまま抱き着くこと数十分。時々モゾモゾと体制を変えながら堪能しているといつの間にか俺が後ろから抱き締める形になっていた。
そのまま髪に鼻を当て、スンスンと匂いを嗅ぐ。同居していれば当たり前だが同じシャンプーを使っているためか匂いが…どことなく薄い。やはり人の嗅覚だとその程度にしか感じることができないのだろうと思うと少し悔しくなる。…が、やはり女の子らしい匂いというものはあって、少し甘くフルーティーな香りが鈍った花を刺激し、それだけで幸福感で満たしてくれる。
「あの…あなた。恥ずかしいです///」
「ダ~メ。今日は俺のターン」
ちなみにいつもは逆だ。添い寝をする時フラッシュは毎度の如く俺の胸に顔を埋めて臭いを楽しんでいる。
「確かにこれいいね。フラッシュがハマる理由も分かる」
「///」
ビシビシと尻尾が当たる。少しばかり痛いが、これも彼女からの愛だと思い受け止める。
「愛してるよ」
さらに調子に乗り耳元で愛を囁く。敏感なお耳にダイレクトアタック。こうかはばつぐんだ。
速くなった尻尾のメトロノームを感じながらも、俺はある事への興味が湧いた。
耳を…触りたい。綺麗に整えられたあの耳が…無性に触りたくなった。
思い至ったが吉日。まず一撫で。季節の影響もあってか滅茶苦茶柔らかい冬毛。その触り心地はまさに楽園。エデンはここにあったのか。
「ひゃう///あ、あなた!いきなりはやめてください!///」
「じゃあ断りを入れればいいんだね。フラッシュ、いっぱい触るよ」
フラッシュが言ったのはそういう事じゃない。もちろん理解はしている。だが内から湧き上がるこの欲求に魂を売ったのだ。あの言い方をすればフラッシュが断れない、それを踏まえてあの手を取った。姑息だとか卑怯だとかの罵倒がお似合いだと言われそうだ。だが一度立ち止まって考えてほしい。目の前に極上のモフモフ、それも愛する妻のものだとなった時、きっと皆迷わず同じ手を取るだろう。
まずは上側。フラッシュらしい整った毛並みを崩さぬように優しく撫でる。先に述べた様に非常に柔らかく、一生撫でていたくなる衝動に駆られる。
「はぁ…柔らけぇ…」
思わず感嘆の声が漏れ出てしまう。
さて、名残惜しいがこれ以上触っていると抜け出せなくなってしまう気がするので踏ん切りをつけて先に進む。
次は中腹。先端よりかは硬いが、広い分より撫でやすさを感じた。あまりよろしくはないがせっかくなので(もちろん許可を取って)内側も触らせてもらう。内側にも毛が生えており、こちらも外側とはまた違った感触がした。当然、フラッシュらしく丁寧に整えられてはいたが、それでも仄かに毛羽ついた印象を受けた。フラッシュがそんなミスをするとも考えにくい。俺が大学時代にスポーツ学を専攻しすぎたため詳しいことは分からないが、もしかするとウマ娘全体の傾向として、内側は毛羽ついているのかもしれない。
そして最後は付け根。骨に近いので当然他と比べて硬い。が、それも他と比べて、というだけだ。別段触り心地が悪いという訳でなく、温かい感触は健在だった。それに少しの硬さがアクセントになり、軟骨のようないい塩梅の柔らかさが非常に楽しい。正直一番好きな感触だ。
それからはひたすら付け根を堪能した。フラッシュも心地良いらしく、時折、あ…、と言った声を上げていた。にしてもこの感触はクセになりそうだ。毎日でもやりたい。
「///」
フラッシュはもう伸びてしまっている様だった。少しやりすぎてしまったか?
「あの…もう終わりでいいのですか?」
フラッシュの様子を確認するために手を止めたら尋ねられた。文面だけ見ればもっとやって欲しそうに感じるがその実全くの逆。随分と余裕がなさそうな声で聞かれた。ここらが止め時だろう。
「うん。いっぱい堪能させてもらった。ありがとうね」
「はい…楽しんで頂けて私も嬉しいです…が、今度からはもっと優しく///」
やはりやりすぎだったようだ。
「そっか。ごめんね」
「大丈夫ですよ。あなたを癒せたのなら、私も嬉しいですから。…それに、あなたの想いも、十分に伝わりましたから」
「そっ…か。それなら、俺も嬉しいな///」
ゆったりとした時間が流れる。言葉ひとつなく、ただ寄り添い合って互いの愛を受け取り合う。
フラッシュからの包まれるような愛が全身に伝わり、ほのかに眠気を感じる。今日はこのままチョウチンアンコウみたいな状態で寝るのも悪くないかもなんて考えながら夢の世界へと旅立ってゆく。
…あれ?何か忘れている気が…。あ!バレンタインサプライズ!
今日のメインイベントを消化しきってないことを思い出し慌てて意識を戻し、イベントへの導入を始める。
「フラッシュ、こっち向いて」
「どうしましたか?」
こちらを向いた瞬間に口付け。そして口から口へあるものを受け渡す。
「ん…。これは?」
「バラのキャンディー」
「バラ?」
「そ、今日…バレンタインでしょ?だからバラ。他にも、家中にもたくさんあるからさ、探してみてよ」
今日のサプライズはバラ探索ゲーム。まだトレーナーだった頃、君に贈られてからいつかやろうと画策してきたイベントだ。『一目惚れ』への返事を今日、返そう。
そう思いながら、手に持つカウンターの残り表示を、98へと変えた。
__99本のバラを贈る意味、『永遠の愛』『長年の想い』『ずっと一緒にいてください』