「ホント、フラッシュがG1天秋だけにするって言ったときはどうしようかと思ったよ~」
「ですが、その時に貴方が頑張ってくれたからこそ、今の私たちがあるんじゃないの
?」
「・・・君には敵わないな」
『お母さ~ん、お父さ~ん』
「さて、行くか」
「そうね。子供たちが待ってるわ」
「フラッシュ~、膝枕~」
「ええ!///ととと、トレーナーさん!?」
温泉を満喫し風呂酒で無事に酔った俺はフラッシュに絡んでいた。あんなに濃い酒を飲むから・・・。
「ほ~ら~、フラッシュ~」
完全にめんどくさいおっさんのノリでフラッシュの肩に寄りかかる。あ、ほのかにいい匂い。
「ちょっと、トレーナーさん///離れてください///」
「どわあ!」
照れたフラッシュの1発でフラッシュから引き剝がされてしまった。
ただ、その衝撃で酔いが覚めたようでまともな思考がただいましてきた。おせーよ。
「あてて・・・ごめんごめん・・・」
吹き飛ばされた衝撃で頭を激しく打ったようで後頭部がガンガン響く。別に数秒すれば治るがあまり経験したくない。反省反省。
「全く・・・お酒を飲むのも程々にしてください。これからお話があるんですからね・・・」
「いやはや・・・出会いに乾杯してたらつい・・・」
「それに甘えくれるならお酒に頼らず素直に甘えてくれてもいいのに・・・」
「それは絵面が酷いからな~」
俺は変な難聴系ではない。もしそっちの方がウケるならそっちに転職するが。
話を戻して。音が鳴り止むことの無い都会の街中ならまだしもここは静かな温泉旅館だ。聞こえない方がおかしい。
「それでは・・・『いつか』。お願いしますね」
・・・え?『いつか』っていつ?なんかすごく嫌な予感するんだけど。
「ああ、いつかな」
とりあえずここは適当に流そう。流せてないって?シラナイナア。
「・・・よかった、フラッシュが元気になって」
俺の言葉に嬉しそうにはにかむフラッシュを見て、ふと安堵の声を漏らした。
「え?」
俺の呟きに反応しきょとんとするフラッシュ。この反応を見ると、なんで俺は今までこうしなかったのかとつい後悔の念を抱いてしまう。
いけないいけない。結局はこうして目的を着々と果たしているのだからよいではないか。
「ここ最近のフラッシュはほんと不安定だったからさ。こう・・・出会った頃みたいな?触ったら壊れちゃいそうで」
「トレーナーさんになら触られても大丈夫ですよ」
「言葉の綾だよ。分かってるでしょ?」
「ええ、もちろんですよ」
いたずらっぽく笑うフラッシュに心から安心する。進路問題は未解決ではあるが何とか希望は見えたようだ。
「それでさ・・・フラッシュ。腕相撲しない?」
浴衣の袖をまくり、床に肘をドンとついて腕相撲の姿勢に作る。
「・・・理解出来ません。ウマ娘に人が勝てるはずがないのに。それに・・・どうしてそんな急に?」
「もしかしたらがあるかもしれないだろ?とにかく、やってみようよ」
正直俺自身も未来は見えている。とはいえこれはあくまで前座、負ける前提なのだ。ダカラフラッシュサンヤッテクダサイオネガイシマス。
「ですが・・・手加減を間違えれば貴方は・・・」
「ふんっ!」
あまり乗り気でないフラッシュを納得させるため最近開発した技、筋肉膨張を使う。
説明しよう。筋肉膨張とは、多量の空気とある程度の気力で一時的に一部の筋肉を400%ほど膨張させる技なのだ。腕に施すと丸太位の太さになる。これにより防御面を大幅に上げることができる。ただし力は上がらないので要注意だ。
「これなら俺でも勝てるでしょ」
無理である。
「トレーナーさんは一体どこを目指しているんですか?ただ・・・これならあるいは・・・」
無理である。
「レディー・・・ファイッ!」
「ふんっ!」
「ぐはあ!!!」
勝敗は一瞬で決まった。接戦になると想定したフラッシュは全力を掛け、そのあまりに強大な力は俺の体を宙に浮かせ、そのまま畳に叩きつけるほどであった。
「大丈夫ですか?!トレーナーさん!」
「ああ、何とかね」
にかっと笑い、覗き込むフラッシュの頭を撫でた。
「ですが・・・」
「よっ、と。ほら、もう元気でしょ?」
フラッシュを納得させるため、ちょっとフラッシュと距離を取り、首はね起きで立ち上がる。
その一連の動作を見た後、フラッシュはため息を吐いてから呆れたように言った。
「貴方はそういう人でしたね」
「そ。だからフラッシュ笑って。フラッシュみたいな美人さんは笑顔が似合うんだからさ」
そう言うと、フラッシュは照れながらも笑みを浮かべてくれた。顔をほのかに赤くしながらも浮かべる笑顔に、俺は思わずドキッとしてしまう。フラッシュ、すなわち閃光の様に眩い笑顔だが閃光の様に一瞬だけの笑顔ではない。確かにそこにあって、触れる笑顔だ。そう思うと不意に触りたくなってしまった。
「あの・・・トレーナーさん・・・どうしたのですか?」
「きれいだ」
「へっ!トレーナーさん!?///や、やめてください!恥ずかしいです!」
フラッシュの光沢ありながらももちもちとした柔らかさのある顔をペタペタと触っていたら怒られてしまった。
「ごめんごめん。あんまりにもフラッシュが綺麗だったから」
「っ~~///よくそんなことを恥ずかしげもなく言えますね!///」
「誉め言葉はちゃんと伝えないと意味がないからね」
「~~~~///と、トレーナーさん。私ちょっと席を外しますね///」
「お、おう・・・」
そしてフラッシュは部屋の外に出てしまった。部屋の外から物凄い深呼吸が聞こえる。
やっべやりすぎた。
「お待たせしました。それで、トレーナーさん。なぜあのような行動をしたのですか?どう考えても無茶だったと思いますが・・・」
数分した後、フラッシュが部屋の中に帰ってきた。先程は紅ショウガレベルで真っ赤な顔だったが、今はいつも通りのヨーロッパ系色白美少女になっている。
「あれはね・・・もう1つのイベントをこなしたら説明しようじゃないか」
そして俺はフラッシュの手を引いて『ある所』に向かった。
フラッシュと共に移動すること10分ほど、ようやく目的地に着いた。
「よし着いた」
「ここは・・・」
「温泉旅館といったらここ、卓球台だ」
寿司といえばマグロ、麺といったら蕎麦レベルの温泉旅館の代名詞、卓球。そこに俺たちはやってきた。
え?寿司はサーモン?麺はラーメン?うどん?よろしい、ならば戦争だ。
「フラッシュは卓球したことある?」
卓球台の横についている箱からピンポン玉とラケットを取り出してフラッシュに見せる。
「はい。何回か授業の方で・・・」
「じゃあなんとなくやり方は分かるね。今回はルールとか細かく決めずにやろっか。そうだね・・・20点先取位でやろっかな」
「分かりました」
こうして、本日2度目となる俺とフラッシュのスポーツ対決が幕を開けたのだ。
そんなこんなで始まった俺たちの試合。先攻フラッシュの正確なサーブをこちらも正確に打ち返す。しばらくラリーを続け、慣れた頃合いに早速俺が仕掛けた。
「さて、やるか」
向こうから帰ってきた美しいレシーブを、全力の回転を掛けて返す。返した球は台に着地すると同時にあらぬ方向に曲がり、フラッシュの予測を大きく外れた軌道を通る。
「よしまず1点」
「いえ、これからです」
毅然とした態度を崩さずに闘志を燃やすフラッシュ。今度は俺のサーブだ。ごくごく一般的なサーブを打ち、先程と同じような流れでフラッシュも打ちk
『カッコン』
「!?」
球が・・・見えなかった・・・。
フラッシュがラケットを振ったとほぼ同時に、俺の真横で物凄い風圧が起こった。
通称『消える魔球』。人間VSウマ娘で卓球をする時(そんなこと滅多にないが)にこれを攻略しないと勝てないとされる鬼門。ウマ娘の全力のパワーで放たれる球は人間の動体視力では到底とらえることは出来ない。しかしウマ娘はとらえることができるのだ。
ウマ娘と人間の動体視力の差が顕著な例としては24フレームアニメでも問題ない人間とは違って、ウマ娘はもう少しフレーム数を要するなどがある。
「これで追いつけました」
「いいね~燃えてきた」
次の展開も先程と同じように単調なラリーが少し続いた。その後、フラッシュが消える魔球で仕掛けてくる。俺の視力でとらえることはまず無理な球。だが・・・
「生憎この球は経験者でね!」
向こうがラケットを振ったタイミングとさっきの球が着弾するまでの時間からおおよそのタイミングを計算しそれに合わせてラケットを振る。
ちなみに返すのは跳ね方の調節だけした簡単な球だ。流石に見えない球に変化球かけれるほどの実力はない。
「えっ!?」
返されないと思い油断していたフラッシュの横を静かに通過して俺の2点目だ。
「油断大敵だよ、フラッシュ」
「もう油断しません」
それからは接戦が続いた。フラッシュは消える魔球を、俺はからめ手を使ってしのぎを削った。時に点を取り、時に点を取られる攻防戦は、この試合時間が無限に続くのではないかと思わせる程であったが、そんなことはありえなく、ついに決着の時が訪れた。
「はあ・・・はあ・・・」
「ひー、ひー、ふー」
全く意味のないラマーズ法を取り入れながらフラッシュと対峙する。今の点数は19ー19。泣いても笑ってもこれが最後の1点だ。
「ふー」
これまでの激しい
「いくよ」
ピンポン玉を台にコンコンと打ち付け、それを大きく上に放り、落ちてきた所をラケットで弾く。
「負けません!」
放たれたサーブをフラッシュは懸命に打ち返す。
「ほっ」
俺は見逃さなかった。フラッシュが返す時に回転を入れてきたことに。
計算を間違えずに冷静に回転付き消える魔球を返す。ここまでくればもう慣れたものだ。
「ふっ」
フラッシュも負けじと返す。だが・・・
「それっ」
向こうのネットスレスレを狙った、大きな山なりを持った球を打つ。急に打たれた変則的なボール。それは冷静に対処できればただのスマッシュチャンスになり、慌てると自滅を招くだけ、という大きな賭けだった。
「(どうする?フラッシュ・・・)」
球が向こうのコートでワンバウンドした。大きく跳ね上がり、俺が打った時よりも一回り小さい山なりを描く。そしてフラッシュは今、必死にコートの側面に向かって走っている。横から打つつもりなのだろう。
球が頂点まで達し、今度は坂をかけ降りる。フラッシュはタイミングを見極め、それを思いっきりのスマッシュで返した。
返された球を追って俺も走るが、これまで以上に速い球は、俺のラケットを素通りし、壁にぶつかった。
「・・・俺の負けだ」
緊張が解け、足に力が入らなくなってその場にぺたりと座り込んだ。
ここ一番でしっかりと決めることができる。フラッシュのそんな能力に可能性を感じ、レースファンとしての感情がまた強く主張したのを感じた。
ふっと息を吐くと、俺の足元にさっきまで激しく打ち合っていたピンポン玉が転がってきた。指で触れるとそれは弾けて壊れてしまった。ありがとう、命の限りを尽くしてくれたピンポン玉に敬意と感謝を送って、俺は体を床に預けた。さっきまで動き回っていたせいでひどく暑く感じていたが、床に寝転がると床の冷たさが薄着の浴衣によく伝わってくる。首や手、足といった場所からどんどん冷えていく。1分ほどそこにいると、ようやく寒く感じてきて立ち上がった。
フラッシュを探そうと辺りを見回した時、気付いた。ギャラリーが滅茶苦茶いたのだ。そりゃウマ娘VS人間の卓球勝負なんて普段目にすることはないのだ。物珍しさで集まってくるのも不思議ではない。俺はギャラリーたちに向けて軽く手を上げて応えてから、フラッシュの所へ行った。フラッシュも俺と同じように床に座って休んでいた。ただ、俺と違うのは寝転がるなんて真似はせず、人形のようにぺたりと座っていることだった。
そこで俺は、立てるか、とフラッシュに聞いた。疲れからか反応が薄いので、お姫様抱っこすることにした。膝と肩を支えるように手を伸ばし、力を入れて持ち上げ、バランスを取るためにこちら側に寄せた。フラッシュの肩と俺の胸がくっついて、フラッシュの体温が直に伝わってくる。俺よりもあったかい彼女の体温。それを感じ、俺は何故かホッとした。そして俺たちはギャラリーの黄色い声を浴びながら、卓球台を後にした。
卓球台から部屋に戻るまでの間、フラッシュがしきりに照れながら下ろしてくださいと抵抗したが、俺に芽生えたいたずら心がそれを拒んだ。
「ダメ」
「なっ、何故ですか!?」
「俺がそうしたいから」
そう言うと、フラッシュは、どうぞお好きに、と呟いてうつむき黙りこくってしまった。
部屋に着き、フラッシュを降ろす。
「さっきは意地悪してごめんな」
「うう・・・いえ、嬉しいのは確かなので構いませんが・・・その・・・恥ずかしいので///」
照れた声して俯きながらポツリポツリと言葉を紡ぐフラッシュ。そんな顔も、また美しく感じる。
短い息を吐く。そろそろ頃だ。
「フラッシュ、真剣な話をするよ」
先程までとは声色を変えて話すと、フラッシュの表情もそれに合わせて変わった。
「どうして、君はG1出走を取り消したいなんて言ったのかな?」
「・・・以前お話した通り、ウマ娘としての誇りを全うしたから・・・勝ちたいから・・・です」
「俺が聞きたいのはそんな使命感に満ちた声じゃない。君の、心からの叫びが聞きたいんだ」
~~~~~~
心の・・・叫び・・・。
トレーナーさんに言われた言葉を反芻する。
「俺はさっき、君に2つの勝利を味合わせたよね。1つは、圧倒的勝利。元から勝つのが目に見えた、勝てる勝負。もう1つは、ギリギリの勝利。実力が拮抗して、誰が勝つか分からない勝利」
私は黙ることしか出来ない。そんなの、答えは1つしかないからだ。
「君は、この魔境の世代の王者になる素質がある」
「私に・・・走りきれるんですか?」
「できる」
私の消極的な問いに、疑いなくはっきりと答える。
どうして、貴方はそんなに私を信じてくれているんですか・・・。
「どうして、貴方はそんなに私を信じてくれているんですか・・・」
口に出ていた。意識せず、口から漏れ出ていた。そんな行動に、弱さを感じため息を吐きたくなる。
さっきまでは旅館を楽しんで忘れていたが、今また自分を責めてしまいたくなる。勝てない私を。計画を完遂出来なさそうな私を。
「決まっているさ。俺は君に『ひとめぼれ』したから。それだけだよ」
『ひとめぼれ』・・・私は・・・そんなに魅力的なウマ娘なんですか・・・?
「フラッシュ。君の本音が聞きたい。余計な心配事なんて全部取っ払って、君が本当に望むもの、君が求める『誇り』をこの耳で聞きたい!」
「わ・・・たし・・・は・・・」
うんうん、と相槌を打ちながら私の答えを貴方は待つ。その柔らかな笑顔に押され、言葉が口から滑り出た。
「勝ち・・・たい。限界まで力を振り絞って、勝つか負けるか分からないような熱い戦いを・・・私は勝利して予定を完遂すること・・・それが私の求める『誇り』です!」
つぎはぎだらけだけど何とか口にできた私の気持ち。それを受け取ったトレーナーさんは満面の笑みで、よく言った、と言いながら私の頭を撫でた。
「ようやく、フラッシュの気持ちが聞けた」
ふっと微笑むその顔が、私にこびりついていたモノを取り払ったように感じられた。
「フラッシュ。君は以前・・・というか昨日、この世代の中でG1を走り抜く力はないって言ったよね」
私の肩に両手を置き、私の顔を真っすぐ見据えて、どこまでも真摯な態度がかっこよく感じる。
「君には才能が、可能性があるんだ。この世代の王者になる力が。フラッシュは、それを信じて走ればいい。俺は、君が転ばないように全力を尽くす。だから君は前だけを見て、走るんだ」
貴方という希望が、私を満たす。
「もう二度と、君の体を壊させない」
隙間なく、心を満たす。
「俺が、君を守る」
私を満たす貴方は、デュッセルドルフの街を照らす街灯の様に輝いていた。
~~~~~~
「また、貴方に助けられちゃいましたね」
「ん~、助けたってのはちょっと違うかな。・・・俺は、体よくエゴを押し付けた・・・だけだよ」
この温泉旅行の発端はそれだけだ。俺のエゴ、それに変わりはない。
「ですが、トレーナーさんのエゴは私のエゴでもあります。なら、それでいいじゃないですか」
「いいのか?俺のエゴも・・・背負わせても」
「さっきあんなにかっこよく言ってくださったのに、もうそんなこと言うんですか?」
ごもっともだ。どうして俺はいつもこう締まらないのか。苦笑してしまう。
「それに、私のエゴでもあるって言ったじゃないですか。これは、私たち2人のエゴですよ
柔らかな笑みと声が体に染み渡る。言葉が体の隅々まで広がり、心も体も和む。
「
フラッシュが俺に抱き着き、ゆっくり言う。俺もそれを受け止め、強くフラッシュを抱き締める。そして俺の心が叫ぶ。もう、隠す必要がない、と。
その声に従い、フラッシュの顔を俺の方に向ける。
「愛してるよ、フラッシュ」
突然の告白に困惑したフラッシュの様子を可愛く思いつつ、フラッシュの唇に俺のを重ねた。併せた時に鳴った短いリップ音だけが俺たちを支配する。お互いの瞳を見つめながら愛を確かめる。
そんな、唇と唇とが触れる程度の軽いキスは、俺が初めてフラッシュに伝えた愛だった。
【ファーストキスRTA 計測開始から724日】
それから、俺たちは互いの唇を啄みあった。始めは、俺がキス未経験なんのをバレるのを恐れて軽く触れるだけの軽いものだったが繰り返しているうちに俺も、フラッシュも抑えが効かなくなって激しく求めあうようになった。舌を入れるような真似はしなかったが激しいキスは何度もした。
「っっぷはぁ」
何度目か、数えるのももう忘れていたキスを終え、久方ぶりにも思えた20cm以上の空間を取った俺たち。ただしそれは口と口の話であって体はハグしたまんまだ。
「キス・・・しちゃいましたね///」
頬をほんのり赤く染め、照れるフラッシュの頭を優しく撫でる。再びキスをしたい衝動に駆られるが流石にキリがないのでしゃんと自制して話をした。
「そうだな。でも、付き合って1年ちょっとでキスって、遅い方なんだろうな」
後で調べて分かったのだが、付き合ってからキスまでは遅くて数か月とからしい。確かに一般的なカップルだったら、それからが妥当なのだろう。
「ええ、大分待ちました」
・・・普通のカップルなら。
「フラッシュからしてくれても、よかったんだよ?」
「トレーナーさんは女心が分からない人ですね・・・。私だって、女の子ですよ?初めては、好きな人からされたいんですよ」
「・・・待たせて・・・ごめんな」
「いいんです。それに・・・貴方とお付き合いを始めた頃は浮かれて気づいていませんでした。ですが、しばらく経てば分かりました。貴方は、私のためを思って、あの時OKと言ってくださったんですよね」
その通りだ。俺がフラッシュからの告白を受けたのは、あくまでもしたいことを叶えてやりたいなんて、随分と歪んだ理想からなのだ。当然、自分でもその行動を最低の行いだ、と何度も恥じた。罪悪感に苛まれ、眠れない日もあった。
「そっ・・・か・・・」
「ですが、それが私の心に火を付けました。絶対に貴方を落として見せるって」
そして俺は見事、フラッシュに恋をした。いつからだったのだろうか。やけに君のことばかり考えるようになった。日常のふとした瞬間でさえ、フラッシュと一緒にいたらと考えるようになった。その感情を明確にさせないまま、今日までグダグダと来ていた。しかし、今日はっきりと確信した。俺は、とっくにフラッシュに恋していたのだ。
「そして、貴方は私を求めてくれた。これほどまでに嬉しいことはありません」
うっとりとした表情で見つめてくるフラッシュは言葉の後に付け加えをした。
「で・す・が」
俺を試すような眼差しで見つめる。もう、言いたいことは十分伝わってきた。
「私としては、一番言って欲しい事をまだ言ってもらっていません。それを、お願いします」
そんなフラッシュの甘えを可愛く思いつつ、一世一代の大一番に向けて喝を入れる。
「エイシンフラッシュ。君のことが好きだ。俺と、付き合ってくれ!」
「ふふっ、私たち、もう付き合ってますよ」
そして俺たちは、再びキスをした。
その後もひたすらイチャつき、夕食を楽しみ、明日の予定も立てて、布団に2人で入って寝ることにした。電気を消し、真っ暗になった部屋で布団を深くかぶって1月の寒さと戦う。
それでもなかなか寝付けないでいると、ふと、浴衣の裾に力が加わった。見ると、フラッシュが俺の浴衣の裾をキュッと摘まんでいた。
「離れ・・・ないで・・・」
起きているのか寝ているのかは分からないが、どうやらモゾモゾ動く俺を離すまいとしたのは分かった。そんないじらしい彼女の額に優しく唇を落とし、
「どこにも行く気なんてないよ。いつでも、フラッシュと一緒さ」
と声を掛ける。すると、フラッシュも安心したのか微笑んで寝息を立て始めた。
そう、フラッシュと別れる気などサラサラないのだ。・・・フラッシュはあと1年ほどしか日本に居ない。有マを走って引退。つい先日、第1回が開催されたURAファイナルズすらも走らない、契約当初のスケジュールになった俺たちの今後。だが、その先は・・・フラッシュの予定しかない。果たして俺の予定はどうなるのだろうか。
本当はとっくに答えを決めているはずの疑問を永久に繰り返す。
「・・・」
なんで、答えを言い切れないのかも、知っている。
でもそれを口に出す事。ましてや本人に言うことは禁忌なのだ。それは、彼女の将来を妨げるものでしかない。
ヤケになって無理矢理寝ようとする。
目を閉じればあの黒い閃光のような末脚が見えた。
翌朝、俺は隣で囁かれたフラッシュの声で目を覚ました。
「起き・・・やっと起きましたねトレーナーさん。4分55秒の寝坊ですよ」
「おはよう。耳元で囁くのは幸せだから構わないけどさ、腹んとこ跨るのはよろしくないと思うから止めよっか」
目を覚ますと、フラッシュが俺に跨り抱き着きながら耳元で起きるようにに囁いていた。
「予定が押してしまっています。早く着替えて朝食を取りましょう」
スッと俺の上からどいてフラッシュは俺を催促した。
「分かった、着替えるから一旦部屋を出てもらえるかな?」
「え?」
「え?」
「どうして部屋を出る必要があるんですか?」
「じゃあ着替える間あっちの方向いてて。醜い物見る必要はないから」
「トレーナーさんは醜くありませんよ」
フラッシュの強情な態度に1つの可能性が浮かんだ。
「・・・フラッシュもしかして俺の着替えを観たかったりする?」
「はい」
「え?」
「え?」
フラッシュのブレーキが壊れた。
その後、渋々俺の着替えを見ることを了承し、着替えに取り掛かる。スーツケースから私服を取り出して浴衣を脱ぐ・・・のだが。
「フラッシュ、そんなに熱心に見なくても・・・」
フラッシュの視線が熱すぎて着替えがしづらい。
「朝食が運ばれてくるまであと4分21秒です。早く着替えないと後の予定を詰めることになってしまいますよ」
最後の抵抗も虚しく打ち砕かれた俺は諦めて視線に耐えることにした。
この温泉旅行はあと6日もある。今日はフラッシュとどんな日を過ごすのだろうか。
いや、今日の予定は既に決まっているんだけどね。
続
光物の寿司って成長すると急に食べれるようになるよね。イワシやサンマの寿司大好き
前回のあらすじがあらすじしてないって?前回のあらすじは前回を見ることです
物語もついに佳境だあ。半年よく頑張ったよ。初期よりも1話当たりの分量も跳ね上がったし。あ、UA10000越えありがとうございます(大遅刻)
あ、温泉旅行編は今回でおしまいですが意見が多かったら1日1日短編としていつか書きます。いつかね