冬月よ、エヴァに乗れ!   作:朝陽晴空

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冬月よ、エヴァになれ!:再

 

 空は赤く染まり、ガフの扉が開き始めた。

 このままガフの扉が開き切れば、人類補完計画は成り、私はユイ君とまた再会できる。

 年甲斐もなく私の胸は高鳴っていた。

 今まで碇には散々な目に遭わされたがそのお陰で私はエヴァをシン化させる力を手に入れたのだ!

 

「碇、刮目して観よ! お前も私に感謝するのだな!」

 

 私は碇に向かって勝利宣言をした。

 肉眼で悔しがる姿は確認できないが、偉そうにしていたお前の上に優位に立てたのは痛快だった。

 しかし私が参号機で起こそうとしたサードインパクトは、天から飛来した一本の槍によって止められた。

 

「ぐあああっ!」

 

 月面方向から降り立った槍は参号機のコアを貫き、シン化しかけていた参号機から力が失われて行く。

 開きかけていたガフの扉が閉じて行く、赤く染まった空が元の青い空へと晴れ渡って行く。

 私が起こしたインパクトは、不完全なサードインパクトとなり、人類補完計画は発動しなかった。

 もう少しでユイ君に再会できるところだったのに、なんと忌々しい事だ。

 

「碇シンジ君、今度こそ君を本当に幸せにしてみせるよ」

 

 カシウスの槍を投下したのは、月面基地で製造されたエヴァmk6に乗ったフィフスチルドレン、渚カヲルだった。

 人類補完計画で自分の母親と再会する、それが碇の息子の幸せでは無いのか?

 

「冬月先生、思わぬ伏兵に足元を掬われましたな」

 

 カシウスの槍にコアを貫かれ力を失った参号機。

 失望した私に碇が通信を通じて笑みを浮かべる。

 碇の息子とアヤナミシリーズ、その2つがあればゼーレに先駆けてサードインパクトを起こせる。

 それが私と碇が立てていた計画だった。

 しかし碇の無茶な指示で参号機に乗せられる事になった私は、戦わされるうちに参号機単独でサードインパクトを起こせる力を身に着けた。

 使徒の迎撃を口実に、私はゼーレも碇も出し抜いてサードインパクトを起こせるはずだった。

 

「参号機は現時点を持って凍結。今までご苦労様でした、冬月先生」

 

 私に先を越されそうだったと言う怒りもあったのだろう。

 碇は参号機ごと私を凍結する命令を出した。

 

「碇司令、それではあまりに非人道的行為です!」

 

 声を荒げて反論してくれたのは日向君だけだった。

 その他の者は私がサードインパクトを起こそうとした事に恐れを抱いた様子だった。

 

「ヤツは既に人ではない! 使徒だ!」

 

 碇は明確にそう断言した。

 やはり日向君の他に反論する者はおらず、私と目を合わせようともしない。

 自分を出し抜こうとした碇の私に対する怒りは半端では無いようだ。

 碇はネルフのナンバー2である私を警戒していた面もあった。

 

「…お前ひとりで計画を遂行できると言うのだな」

「ああ、問題ない」

 

 私は負け惜しみを碇にぶつける事しか出来なかった。

 凍結が決定された参号機はジオフロントの地底湖の底へと沈められる事になった。

 ユイ君に再会したいと言う下心を利用されたこの愚かな老人の末路がこれか。

 この場で碇に処刑されなかっただけマシだったのかもしれん。

 

 

 

 それから私は気の遠くなるような時を孤独に過ごした。

 エヴァの呪縛により使徒に近い存在になった私は永遠に眠りに就く事も出来ない。

 

「この場合は7一・角成か……そして相手の王将が角を取る。金を打って詰みだな」

 

 気が狂ってしまわないように、私はひたすら自分の作った詰将棋の問題を解くと言うルーティンを繰り返した。

 100万問目を解いた頃だろうか、私は地底湖の湖底でフォースインパクトの発動を感じ取った。

 

「碇のヤツめ、遂にやりおったか……!」

 

 碇がどのような方法でフォースインパクトを発動させたのかは私には分からない。

 初号機とアヤナミシリーズ。

 13号機と2本のロンギヌスの槍とゼーレの少年。

 インパクトを起こす駒は揃っていた。

 私が居ないとまるでダメな男だと思っていた碇のヤツは巧く立ち回ったようだ。

 

「碇は、ユイ君と会えたのだろうか……」

 

 正直に言おう。

 私はユイ君に恋心のような物を抱いてる。

 今まで数回の接触の機会があったが、それでもまだユイ君に会いたいと言う貪欲な気持ちは消えなかった。

 だから碇のヤツがユイ君に会えたのだとしたら、と私は嫉妬している。

 完全なインパクトが発動すれば私はまたユイ君に会える。

 碇よりも順番が後になるのが腹立たしいがな。

 しかし後で知った事だが、開かれたガフの扉はゼーレの少年の犠牲によって閉じられたらしい。

 碇の計画は頓挫してしまったわけだ。

 だから私もユイ君に会う事は叶わなかった。

 

 

 

 だが諦めの悪い碇はネルフ本部をセカンドインパクトの爆心地であるカルバリーベースまで移動させ、ゴルゴダ・オブジェクトで今度こそ完全なインパクトを発動させる気で居るようだ。

 ネルフ本部が移動した事により、私と参号機が封印された地底湖がむき出しになった。

 地底湖の蓋の様になっていたネルフ本部が移動したからだ。

 すると何者かが参号機を湖底から引き揚げる気配を私は感じた。

 久し振りに見る日光は私にとって刺激が強すぎた。

 眩しすぎて私は気を失ってしまったのだ。

 

 

 

「もしもし、聞こえますか?」

 

 気が付くと私は車輪付き担架のようなものに寝かされていた。

 

「ああ、聞こえるとも」

 

 私は声を掛けて来たあどけなさが残る若い女性にそう答えた。

 周りを取り囲む者達も、同じ青いスカーフを巻いている。

 

「あなたは自分が誰だか分かりますか?」

「ネルフ副司令、冬月コウゾウだ」

「さすがにそれは覚えているみたいですね、冬月先生」

 

 馴れ馴れしく私に声を掛けて来たのは確か……マリ君だったか。

 

「それなら冬月先生、今日が何月何日か分かります?」

「私を認知症の老人かとからかっているのかね?」

「あはっ、バレちゃった。当然、ここがどこかも判りませんよね?」

「当たり前だろう、私は拉致されたのだからな」

 

 私がマリ君とそんな話をしていると、廊下から艦橋の様な開けた場所へと出た。

 

「葛城艦長、冬月さんをお連れしました♪」

 

 マリ君が明るい口調でそう言うと、ブリッジに居るメンバーの視線が私に集中する。

 

「葛城艦長、DSSチョーカーは正常に動作しています」

「ご苦労、伊吹整備長」

 

 先ほどから違和感を覚えていた首に手をやると、私に首輪が着けられている事に気が付いた。

 しかしそれよりも大きな違和感は葛城君の隣に居るのが伊吹君だと言う事だ。

 私の協力を得られなくなった碇は赤木君を抱き込んだのか?

 赤木君も碇の目的を知りながら味方付いたのか?

 まさかあるいは……?

 

「ここはヴィレ、ネルフによる不可逆的なインパクトを阻止するために結成された組織です」

 

 私が問い掛ける前に葛城君の方から説明があった。

 

「それで私に何をさせるつもりかね?」

「冬月さんにはAAAヴンダーの主機、エヴァmk3に乗って頂きます」

「やれやれ、文字通り馬車馬のように私を扱き使う気か」

 

 大げさにため息をついて見せたが、私に拒否権は無いようだ。

 DSSチョーカーとやらは、私に着けられた安全装置のようなものだろう。

 

「お爺さんだからって、許しませんよ。あなたが起こしたニアサーのせいで世界はとんでもない事になったんですから」

 

 私に寄り添って来た若い女性は鈴原サクラと名乗ると、私の世話係兼監視係だと言った。

 孫の様な年齢の娘に見張り役をさせるとは、葛城君、加持リョウジはどうしたのかね?

 

「加持はインパクトを止めるためにネルフに反乱を起こした時に犠牲になったんでさあ」

 

 そう言って髭面の男が私に向かって青いスカーフを巻いた腕を突き出した。

 

「姫がどうしてもワンコ君とペアを組みたいって聞かなくってさ。あたしはすっかりお邪魔虫」

「碇の息子はエヴァに乗っているのか」

「そう、恋する乙女は強いよね。あたしはこの物語のヒロインはワンコ君だと思ってるんだ」

 

 父親に呼び出されてネルフに着た時は優柔不断だった碇の息子。

 ついに苦境に立たされてもエヴァに乗るほど前向きになったか。

 

「冬月先生はAAAヴンダーの動力源になってさ、詰将棋の事でも考えていれば良いよ」

「何をたわけた事を!」

 

 マリ君の強烈な皮肉に、さすがの私も少しだけ腹が立った。

 毎日詰将棋を1,000問解く苦しさは君には分かるまい。

 

「ごめんなさい冬月先生、それなら詰めチェスの本をあげるから勘弁して!」

 

 私の目付きがさらに厳しくなったのを察したのか、マリ君は私に詰めチェスの本を差し出した。

 詰めチェスは詰将棋と違って連続王手の必要は無いのか、これは興味深い。

 と、乗せられている場合では無かったな。

 

「艦長、全ての僚船の出航準備が整いました。いつでもネルフ本部へ殴り込みに行けます!」

「よろしい。それでは冬月さん、エヴァマーク3への搭乗をお願いします」

 

 伊吹君の報告を聞いた葛城君は私にそう命令を下した。

 

「しかし参号機はコアを貫かれて死んだ。ワシは死にぞこないの老人に過ぎんよ」

「あなたの右目を見てください」

 

 サクラと言う女性に差し出された鏡で自分の顔を見ると、私の右目には以前と同じ眼帯があった。

 何かを封じてあるような……まさか参号機に侵食した使徒の残滓か?

 

「参号機は完全に死んではいないのだな」

 

 相棒の生存を確認した私は、フッと笑みを零した。

 葛城君、この場は命令に従おう。

 しかし戦場では最後に立っていた者が勝者なのだ。

 君は私を利用しているかもしれないが、私も君を利用しているのだよ。

 

「それではこれより、『ヤマト作戦』を開始します! 全艦目標、南極爆心地、カルヴァリーベース!」

 

 私が地底湖で封じられている間に、場面は最終決戦へと進んだか。

 私としてはヴィレがネルフに大勝してもらっても困る。

 せいぜい碇には頑張って貰わねばな。

 此度の戦いはネルフとヴィレの2大対決ではない、私を含めた3つ巴の決戦となるのだ。

 葛城君もそれに勘づいているのか、私への警戒を緩めない。

 主機の交代要員としてマリ君のエヴァ8号機が準備されている事からそれが分かる。

 

「マリ君は誰の為に動いているのかね?」

「もちろん、ユイさんの為だよ」

 

 私が質問をぶつけてもはぐらかされてしまった。

 ユイ君の望み……それは碇の息子の望みでもあるだろう。

 私の目的とは少し違う。

 私は年甲斐もなく希望と言う病に侵されてしまった老人だ。

 

「種のコンテナを放出、大気圏突入用意!」

 

 地球に生存していた植物の種を残すとは、恐らく加持君の遺志だろう。

 この艦は宇宙から直接南極を目指すつもりのようだ。

 回り道をせずに正面突破とは葛城君らしい作戦だ。

 私は城攻めをする場合、大手門から攻めずに搦め手に主力を置くがね。

 

「L結界表層に、着氷しました!」

 

 このままネルフが、碇のやつが何もせずに居るとは思えん。

 私がそう思った直後に艦体に衝撃が走った。

 

「ネルフの敵艦から砲撃を受けました!」

「ぬごおおおおっ!」

 

 当たり所が悪かったのか、私の身体に肛門を抉られるような痛みが走った。

 痔が酷くなったらどうしてくれるんだ、碇。

 私の碇への憎しみはさらに増した。

 

「不意打ちぐらいで怯むな!」

 

 葛城君はそう言ってブリッジに居るクルーに喝を入れた。

 敵が擬装コクーンに隠れている可能性くらい、予見できなかったのかね。

 エヴァマーク3が直撃を受けたお陰で、私の尻はフィードバックでヒリヒリするぞ。

 

「艦長! 相手に撃たれまくっています!」

「本当に同型艦かよ!」

 

 ブリッジのオペレータの若い衆が騒いで居るが、私は自分の枯葉のようなボディに重いパンチを何度も食らっているような感覚だった。

 ネルフの戦艦は赤木君の手によって完成させられていたのだな。

 それに対して赤木君を欠いたヴンダーは未完成と言ったところか。

 伊吹君もそれなりに頑張ってはいるようだが。

 

「問題ありません、主機の実力はこちらの方が上です。そうですよね、冬月さん?」

 

 葛城君も無茶を言いよる。

 エヴァオップファータイプに負ける気はしないがな。

 私も段々と以前の感覚を取り戻せている気がして来た。

 頼むぞ、旧き相棒と新しい相棒、エヴァmk3。

 

「かーーーっ!」

 

 私は腹に力を入れて、思い切りエヴァmk3の出力を上げる。

 

「何かとっても臭いんですけど!」

「カレー臭か!?」

 

 若い衆が何か騒いで居るが、私は尻に思い切り力を入れてブーストした。

 ウンダーはスピードを上げてネルフの戦艦の射程外まで振り切った。

 

「L結界第2層に突入せよ!」

 

 だから馬鹿正直な正面突破は止めたまえ、葛城君!

 せっかく敵艦を振り切ったのだから、こちらも擬装コクーンを使うなどすればどうなんだ!

 

「エヴァインフィニティの大軍です!」

「雑魚は振り切れ! このまま直進!」

 

 エヴァインフィニティは蚊の様にヴンダーに取り付いて攻撃を仕掛ける。

 mk3に対しても例外ではない。

 私は気合いのA.T.フィールドでインフィニティを潰していくが数が多すぎる。

 心なしか蚊に刺されたように体が痒くなって来た。

 

「進行方向に高エネルギー反応! 大砲は7門と思われます!」

 

 またもやヴンダーは正面方向から別のネルフ戦艦の砲撃を受けた。

 主機であるmk3はうつ伏せの体勢でヴンダーの主機となっている。

 すなわちこの角度だと、敵艦の主砲を頭頂部で受ける事になる。

 7門の主砲は主機であるmk3に収束放火する。

 主機が止まれば、ヴンダーはエネルギーを失う。

 私は脳天を思い切りコンクリートブロックで叩かれたような痛みを感じた。

 

「ぐぉぉぉぉぉっ!」

「まだ行けますね、冬月さん」

「あ、ああ……」

 

 葛城君の言葉に私はそう答えた。

 弱気な態度を見せたら、ヴンダーの主機はエヴァ8号機に取って代わられるだろう。

 葛城君め、非情にもmk3を使い捨てる気で居るな。

 主機の被害を最小限に抑えようとする動きがみられない。

 減給だ、葛城一尉!

 ……そうか、もう私はネルフの副司令では無いのだな。

 

「このままでは挟み撃ちです、いかが致しましょうか葛城艦長!?」

「前方の敵艦を排除する!」

 

 このヴンダーの主砲は完成していない。

 7門の予定が実際には2門だけ、その火力で同型艦を落とせるとは思えん。

 

「全速前進、前方の敵艦に体当たり攻撃!」

 

 主機であるmk3の頭頂部には船角が取り付けられている。

 葛城君もまた無茶を言ってくれる。

 私は気が進まなかったが、尻から出力を上げる。

 回避行動が間に合わなかった敵艦に体当たりをする事は出来たが、私は再び脳天から痛みが走った。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!」

 

 敵艦の腹に突っ込んで砲塔を破壊したのは良いが、これではまるで中世の帆船の戦い方ではないか!

 

「180度旋回! 位置を入れ替える! ネルフ3番艦を盾にして後方から迫り来る2番艦の砲撃を受け止める!」

「了解!」

 

 急旋回に今度は私の三半規管が悲鳴を上げる。

 

「おぇぇぇぇぇっ!」

 

 たまらず私はおう吐し、吐しゃ物がL.C.L.内に拡散する。

 L.C.L.と涙は混じらないのは有名な話だが、吐しゃ物もそうなのだ。

 長らく食物を口にしていない私からは胃液しか出ないはずだが、どうやら参号機がシン化する日に昼食で食べた回らない寿司が、私の胃の中で消化しきれずに残っていたらしい。

 化石のようになった、元はマグロの大トロだった石が私の額を直撃する。

 弾丸のようになった元イクラの粒が、私の鼻の穴に詰まり、左の眼球にヒットした。

 痛くて不快な事この上ない。

 

「おやおや冬月先生、ニアサーの直前にお寿司とは随分と豪勢な食事を成されたようで」

 

 マリ君の発言がブリッジに居るメンバーの憎しみを煽る。

 私に対する同情心が瞬時に掻き消えてしまったようだ。

 使徒化して味覚が無いのだから、目で楽しむ食事をするしかなかったのだよ。

 

「このままネルフ本部の表層を破壊し、13号機を露出させるためのポイントに向かいます!」

 

 葛城君、それは悪手だ。

 ネルフには4番艦があると言う事を知らないのかね?

 しかし私が指示に背く動きを見せたら、葛城君は容赦しないだろう。

 私は罠が待ち受けている事を知りながら、目標ポイントに着くように出力を調整した。

 悲しい事に私の役目はヴンダーの主機であるジェネレータ。

 乗り物のエンジンは運転手に意見を言う事は出来ないのだ。

 

「エヴァインフィニティの群れを突破! 狙撃ポイントに到着しました!」

「誘導弾、全弾発射!」

 

 日向君がネルフ本部をにらみつけながら手元も見ずに誘導弾を発射する。

 危なっかしい事この上ない、そう言うのは慎重にやるものだ。

 

「13号機、露出しました!」

 

 誘導弾の爆発により、ロンギヌスの槍とカシウスの槍が突き刺さった13号機の姿が白日の下にさらされた。

 

「シンジ君、アスカ、あなた達の出番よ! 初号機、弐号機両機出撃!」

 

 13号機に強制停止プラグを打ち込んでしまえば、13号機を破壊する事は出来ずとも碇のインパクトを止める事は出来る。

 だがそうはさせん、私がこのヴンダーを乗っ取り、ガイウスの槍へと作り変えれば、3本の槍でインパクトを起こす事が出来るのだ。

 すまんが葛城達には犠牲になってもらうよ。

 

「ぐはっっ!」

 

 しかし私が行動を起こす直前に、腹部に刃物を突き立てられたような鋭い痛みが走る。

 擬装コクーンに隠れていたネルフの4番艦の船角攻撃がヴンダーをエヴァmk3諸共貫いたのだ。

 

「冬月先生!」

 

 マリ君が血相を変えて私の名を叫ぶ。

 

「エヴァっぽい何かに取り付かれました!」

 

 エヴァmk9はヴンダーの甲板に降り立つと青く光るドロドロとした物質を送り込み浸食を始めた。

 

「これ以上の浸食を阻止して! マリ、甲板のエヴァの排除を頼むわよ!」

「合点承知の助!」

 

 葛城君の命令でエヴァ8号機が出撃した。

 これで主機の交代は無くなったが、変わりにヴンダーを介して私の中にアヤナミシリーズの思念が入り込んで来る。

 

「冬月先生」

 

 ユイ君そっくりの姿、ユイ君そっくりの声で私に微笑みかけて来るが、私は騙されん。

 ここに居るのは全てレイだ、ユイ君はどこにも居ない。

 

「冬月先生」

「冬月先生?」

「冬月先生!」

「そりゃあっ!」

 

 精神世界の中で、私の身体にまとわりついてくるアヤナミシリーズの思念を私は気合いで煙のようにかき消して行った。

 

「シンジ、雑魚にかまっている暇はないわ!」

「分かってる!」

 

 遠くから出撃した2人のパイロットの声が聞こえる。

 2人は無数に出現した汎用エヴァを振り払いながら13号機の元へと向かっているようだ。

 

「A.T.フィールド!? 13号機は起動していないはずなのに! まさか、弐号機自身が13号機を恐れているって言うの!?」

 

 初号機が雑魚を駆除している間に、弐号機が13号機に強制停止プラグを打ち込む作戦は失敗したようだ。

 

「大丈夫だよアスカ、僕達2人が力を合わせれば、恐れる物は何も無いよ」

 

 碇の息子がそう言って弐号機の手を取ると、A.T.フィールドは消滅した。

 初号機と弐号機のユニゾンで使徒を倒した時、私は大きな希望の光を見たことを思い出した。

 

「これで終わりっ!」

 

 13号機に強制停止プラグが突き刺さる。

 ヴンダーに取り付いていたエヴァmk9もマリ君のエヴァ8号機によって無力化されたが、私の身体はボロボロだった。

 私も企みを実行する力は残されていない、完敗だ。

 だが13号機は動き出した。

 13号機は機能を停止したように見せかけた、碇の罠だったのだ。

 

「噓っ! 停止信号プラグを打ち込んだはずなのに!」

 

 私達は13号機の生み出したマイナス宇宙へと引き込まれてしまった。

 

「あっちゃあ、ゲンドウ君ってば、量子テレポーテーションを繰り返して、攻撃を全て避けるつもりだね」

 

 8号機に乗ったマリ君の言う通り、ロンギヌスの槍とカシウスの槍を両手に持った13号機はテレポーテーションを繰り返して、初号機と弐号機、私のmk3とエヴァ8号機に攻撃の的を絞らせなかかった。

 

「何故私の邪魔をする? お前達はユイと再び会いたいのでは無かったのか?」

「父さん、僕だって母さんとまた会ってみたいよ。だけどその為に他の人を巻き添えにするなんて、間違っているよ!」

 

 碇の息子の言葉が私の胸にも突き刺さった。

 やっと曇っていた私の目も覚めた気がした。

 そうだ、やはり人類補完計画は行ってはならないのだ。

 

「シンジ君、私が13号機の動きを予測して羽交い絞めにする。そうしたら13号機からロンギヌスの槍とカシウスの槍を奪って、mk3ごと刺し貫け!」

「冬月、そんな満身創痍の身体でこの13号機を捉えられるとでも?」

「碇、お前は将棋をした事はあるか? 無いだろう。お前は昔から孤独だったものな!」

 

 私が力を振り絞ると、マイナス宇宙は巨大な将棋盤へと化した。

 

「4四歩、角道は開けた! 対局の始まりだ! 初号機と弐号機パイロット、将棋は分かるかね?」

「まあ、ルールくらいは……」

「君達は私の指示通り動けばいい」

 

 私の駒は自分自身であるエヴァmk3に初号機と弐号機、そしてマリ君の8号機。

 碇のエヴァ13号機はテレポートを繰り返しているとは言え、この将棋盤からは逃れられん。

 将棋の事など全く知らない碇を詰ませる事など、簡単な事だ。

 

「初号機、6二の位置へ! 弐号機は6六、8号機は8八!」

 

 自分は8一の場所に立ち、他のエヴァ3機に指示を出す。

 碇、お前は桂馬の様に飛び回っているが、72手で私の勝ちだ。

 

「お前達の力では私には敵わない! 邪魔をするな!」

 

 碇は得意げになって初号機や弐号機、8号機を撥ね飛ばすが、自分が追い詰められている事に気が付いていない。

 ボロボロのmk3など放って置けば良いと言う傲慢さが裏目に出たな。

 私は指示を出しながらも、13号機を取り押さえるためのエネルギーを体内に蓄えていた。

 私の72回目の指示の直後に、13号機は私の目の前で背中を晒す事になるはずだ。

 

「捕まえたぞ、碇!」

「冬月、いつの間にそんな力を、放せ!」

 

 私に背中から羽交い絞めにされて暴れる碇の乗った13号機。

 

「今だ、初号機、弐号機、13号機から槍を奪い取れ!」

「はい!」

 

 息の合ったコンビネーションで初号機と弐号機は13号機からロンギヌスの槍とカシウスの槍を奪い取る。

 13号機とmk3から力が失われ、マイナス宇宙は閉じた。

 私達は南極爆心地に浮かぶネルフ本部へと戻って来た。

 

「ううっ……ユイ! ユイ! どこだ! どこに居る! 姿を見せてくれ!」

 

 排出された13号機の2本のエントリープラグから出て来たのは、碇と赤木君だった。

 

「こんな男に従っていたなんて、情けないわ」

 

 プラグスーツを着た赤木君は正気を失ってうろたえている碇に向かって拳銃を撃った。

 銃弾を受けた碇のバイザーが派手な音を立てて壊れる。

 

「リツコさん!」

「大丈夫よシンジ君。この男はネブカドネザルの鍵でもう人を捨ててしまっているから、撃っても死なないの。余りにも見苦しいから、黙らせただけ」

 

 碇がボクシングの試合でK.O.負けした選手の様に大人しくなると、赤木君は拳銃を捨てた。

 

「シンジのパパって、シンジより相当ガキじゃない。自分の勝手な願いの為に、世界を巻き込んじゃってさ」

 

 その弐号機パイロットの言葉は私の胸にも刺さった。

 私もユイ君にもう一度会うためにフォースインパクトを起こそうとしたのだから。

 

「赤木君はロンギヌスの槍とカシウスの槍を碇に使わせないためにネルフに味方したのか?」

「土壇場で裏切ってやるつもりだったけど、十分お灸は据えられたようですね」

 

 私の質問に赤木君はそう答えた。

 

「さて、ロンギヌスの槍とカシウスの槍、そしてガイウスの槍が揃ったから、これでネオ・ジェネシスの世界が創れるね」

「マリ君はやはり全てを識っていたのか」

「ユイさんにお願いされたからね。冬月先生、ユイさんに会わせてあげられなくて残念だけど、運命の女神様はきっとネオ・ジェネシスの世界で先生を良い女(ひと)に巡り合わせてくれるよ」

 

 マリ君のその言葉を最後に、旧き世界は終わった。

 

 

 

 次に意識を取り戻した時、私は宇部新川駅のホームへと立っていた。

 反対側の駅のホームには、ヘッドホンを付けて外界との接触を拒絶しているベンチに座って居る青年。

 私の知る、若い頃の碇ゲンドウだった。

 そんな碇の背後に忍び寄り、碇からヘッドホンを奪い取る明るい笑顔を湛えた若い女性。

 私の知る、ユイ君と同じゼミ生だった頃のマリ君だった。

 碇とマリ君が何を話しているかは私の耳には聞こえない。

 しばらく見ているとマリ君は碇の手を引いて、駅の出口へと通じる階段を昇って行ってしまった。

 

「父さんは孤独から解放されたんですね」

 

 その振り返ると、碇の息子と弐号機パイロットの少女の2人が学生服を着て立っていた。

 

「どうやら、ユイ君の願いとは碇の心の時計の針を進める事だったらしいな」

 

 碇と同じ希望と言う病に侵されていた私にはそれが出来なかった。

 成し遂げたのはマリ君だったという訳か。

 

「これで物語の幕は上がったようだが、君達はどうするつもりかね?」

「アタシたち、これから下関水族館でデートなのよ」

「ありがとうございました、冬月さんのお陰です」

 

 碇の息子と弐号機パイロットの少女はホームに到着した電車に乗って行ってしまった。

 そう言う答えを期待した訳では無いのだが、どうやらこの世界では今までの常識は通じないらしい。

 私も碇と同じように改札から宇部新川駅を出たはずなのに、いつの間にか故郷である京都の鴨川沿いの土手を歩いていたのだ。

 マリ君が言っていた、私はこれから素晴らしい女性に巡り合えるかもしれないと。

 それならばもうしばらくこの散歩を楽しむまでだ。

 

「さらば私の相棒、エヴァンゲリオン」

 

 私は青い空に浮かぶ雲の形がエヴァに似ているような気がしてそう呟いた。




 連載は完結ですが読み切り外伝を予定しています。

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