冬月よ、エヴァに乗れ!   作:朝陽晴空

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新作告知の為の短編です。
御老人の恋バナに興味の無い方は、冬月さんがパワーバトルを繰り広げる
『冬月よ、エヴァで翔べ!!:爆』
は下記のアドレスで公開しますのでよろしくお願いします。
https://syosetu.org/novel/294485/


(外伝)冬月よ、エヴァを偲べ!:恋

 私は晴れ渡った京都の鴨川沿いの土手を散歩していた。

 エヴァンゲリオンに別れを告げ、新世紀(ネオジェネシス)の世界で第2の人生を送っている。

 既に74歳になった私は再就職制度でも大学教授に戻る事は出来ない。

 しかし碇の息子たちが14年の時を巻き戻したお陰で、私は60歳に若返った。

 これで非常勤ながらも再雇用制度で70歳までの10年間、また大学教授になる事が出来た。

 エヴァと融合していたせいか、ヒトの身体に戻っても体力が有り余っている気がしている私は5時間ほど散歩をしていた。

 マリ君が言っていた、「素晴らしい女性に巡り合えるかもしれない」と言う言葉に私は踊らされていたのかもしれない。

 

「ほう、この公園では老人たちが集まってゲームをしているのか」

 

 私は歩き続けている間に、その公園まで足を延ばしてしまっていた。

 これ以上自宅から離れるわけにもいかない。

 そう思って私は踵を返そうとしたのだが、私は老人たちがやっているテーブルゲームは将棋や囲碁では無かった事に驚いた。

 

「これは、ガイスターと言うゲームですよ。将棋が好きな人でも、チェスが好きな人でも楽しめるゲームです」

 

 呆然としている私に、眼鏡を掛けた老紳士が声を掛けて来た。

 他の人からは先生と呼ばれている辺り、私と同じ教授なのだろうか。

 

「なあ、あんた。興味を持ったのなら1局やってみてはどうだい?」

「いや、私は……」

 

 もう自宅へと帰ろうと思っていた所だったが、白髪頭の快活な老人に気圧されて対戦する事になってしまった。

 私自身も知的戦略ゲームに興味があったのだ。

 

 

 

 ガイスターは《赤いお化け》と《青いお化け》の二種類の駒4個ずつと64マスのボードを用意して、相手の駒を取り合う将棋やチェスに似たゲームだった。

 勝利条件は3つ。

 1.相手の青いお化けの駒4つを全て取る。

 2.自分の赤いお化けの駒4つを全て取らせる。

 3.自分の青いお化けを相手陣地の端にある脱出マスから脱出させる。

 赤いお化けと青いお化けのマークは自分の方向からしか見えないようにマークされていて、相手からは赤か青か分からないようになっている。

 赤と青、合計8個の駒を好きな配置で自分の陣地に並べ、駒を一手で一個を一歩ずつ動かして交互に手を進めて行く。

 

「なるほど、これは軍人将棋に似た心理戦という訳だな」

「さすが冬月先生、飲み込みが早い」

 

 ゲームの説明を受けて質疑問答をしている間に、私は自分の職業の事を周囲の人間に漏らしてしまっていた。

 

「ゲームは人の心を繋ぐ、まさにその通りかもしれませんな」

 

 ジオフロントの地底湖に封印されて居た頃は、自我を保つためにで詰将棋を自問自答していた。

 マリ君に詰めチェスを勧められたが、もうボードゲームはウンザリだと思っていた。

 もう2度とボードゲームに興味を持たないと思っていたが、自分でも驚いていた。

 白髪頭の老人と私との対局結果は、私の圧勝だった。

 相手の青いお化け4つ全てを容赦無く奪る文字通りの殲滅だった。

 

「あんた、見かけによらず激しいプレイスタイルやな……」

 

 白髪頭の老人、私の事を甘く見てもらっては困るよ。

 かつて私は巨大な人造人間と融合してシン化まで遂げた男。

 立ちはだかる敵は全て殲滅だ。

 

「よおし、あんたの性格が分かったところでもう一勝負や!」

 

 白髪頭の老人はそう言って私に再戦を申し込んだ。

 その時私はこちらに背を向けてベンチに座り、鴨川を眺めている1人の帽子をかぶった老婦人の姿に気が付いた。

 その老婦人は姿がユイ君に似ているわけでは無かった。

 ただ年甲斐もなく私は寂しそうな彼女の背中が気になってしまった。

 

「あの御婦人は?」

「ああ、あの人はわしらの将棋仲間やったんや。明るくて良く話して、将棋も強かった。でも旦那さんを亡くしてからはずっと一人で鴨川を眺めて座っている……」

 

 私が尋ねると、白髪頭の老人は気落ちした様子でそう答えた。

 

「まあ誰にでも一人になりたい時はあるものです。そっとしておくのも優しさと言うものですよ」

 

 先生氏もそう同調するが、私はそんなものは真の優しさでは無いと怒りを覚えた。

 このままではあの老婦人の時が朽ちて行くだけだ。

 そして何よりも私はあの老婦人の笑顔を見てみたくなった。

 この年で一目惚れに似たような感情を覚える事に私は驚いた。

 

「あっ、冬月先生!」

 

 私はすかさず老婦人の隣に腰を下ろした。

 老婦人は見知らぬ私が声も掛けずに急に座った事に不機嫌さを隠さなかった。

 

「こんなつまらない年寄りの婆さんに、何か御用ですか」

 

 眼鏡の奥から睨みつけると、老婦人は静かな怒りを湛えてそう尋ねた。

 直ぐにでも腰を上げて立ち上がって去って行ってしまいそうになる老婦人に私は努めて優しい笑顔で言葉を掛けた。

 

「こんにちは。私は冬月コウゾウと申します」

 

 しかし老婦人から笑顔が帰って来る事は無かった。

 

「あの方たちから話を聞いたでしょう? 私は独りで居たいのです」

「しかしあなたはあの方たちとゲームを楽しんでいたとお聞きしました。ゲームが御嫌いになられたのですか?」

 

 なおも食い下がる私に対して、老婦人は奇妙なものでも見るような視線で私を見つめた。

 

「いいえ、そのようなわけではありませんが……」

「あなたは将棋がお強いと聞きました。私と一局、指しては頂けませんか?」

 

 すっかり怒りが消えたと見えた老婦人に向かって私はそう持ち掛けた。

 

「私は放って置いて欲しいと言ったはずですよ」

「それでも私はあなたと勝負がしたい」

 

 私が拝み倒すと、老婦人の方が折れた。

 

「あなたは強情な方ね。いいでしょう、一局お相手しましょう。ただし、この一局だけですからね」

「ありがとうございます」

 

 私が老婦人と将棋をする事になると、先生氏や白髪頭の老人から驚きの声が上がった。

 いくら自分たちが誘っても、老婦人は放って置いて欲しいの一点張りだったからだ。

 私と老婦人はテーブルがあるベンチへと移動して将棋盤を広げた。

 将棋盤を快く貸してくれたのは白髪頭の老人だった。

 初対面なのでハンデは無し、私は老婦人に敬意を表して玉将を自分から選んだ。

 振り駒で先手を取った私は初手で▲7六歩を打った。

 対する後手の老婦人は△4四歩を指した。

 勝負を見守っていた白髪頭の老人はたちから歓声が上がる。

 私がこの△4四歩にどう対処するかで将棋の実力がある程度分かるからだ。

 老婦人は△4四歩で私を挑発しているのだ。

 ▲同角とすれば激しい戦いに、△4四歩を無視すれば堅実な戦い方が出来る。

 

「私は定年まで高校で数学教師を続けていたのよ。将棋の棋譜を暗記するのは得意分野。何が最善手か分かっています」

「それだけではないでしょう。このように私の実力を試すような差し方をして、本当は将棋を楽しんでいらっしゃる」

 

 私はそう言って▲同角を打った。

 これは好手か悪手か判断の分れる所で、試合を見守っていた白髪頭の老人達も疑問手だと囁き合った。

 私がもし葛城君が率いるヴィレを迎撃するネルフ側の提督だったら、堅実な戦い方をしただろう。

 このような葛城君のような無茶をするとは、私も葛城君に毒されたのかもしれん。

 

「どんな方だったのですか、亡くなられた旦那様は」

「飽きっぽくて、短気で、大酒飲みで、定職に就けないろくでなしだったわ。いつも私にお金の無心ばかりして……」

 

 老婦人の話を聞きながら、あの碇よりも救いようのないバカ亭主がこの世には居るものだなと思った。

 

「だけど……あの人はとても寂しがり屋だったわ。だから2人でベンチで座って、この鴨川を眺めて時を過ごした事もありました」

「あなたはその旦那様を愛しておいでだったのですか」

 

 私の質問に対して、老婦人は答えるまで時間を要した。

 即答出来ないと言う事は、思う所があっての事だろう。

 

「あの人が生きている時は、愛しているなんて思っても居ませんでした。でもあの人が無くなってから、後悔の念に駆られているのです。あの人が生きている間に、もっと何かしてあげられなかったかと。だから私はあの人が寂しい思いをしないようにあそこに座っているのです」

 

 そう話しながらも老婦人は将棋を指す手を緩めなかった。

 私はだんだんと劣勢になって来たように見えるが、終盤に強いのが私の真骨頂だ。

 詰将棋を10万回繰り返した結果、終盤戦の練習ばかりをするようになってしまった弊害だ。

 

「今度は冬月さんの話を聞かせてくださいな。あなたにも愛する人はいらっしゃいますか?」

「私は研究一筋で生きて来た人間ですから……恋人のようなものは居ないのです。しかし私の研究室に入所して来た若い学生の中に、気になる女性が居ました」

 

 そう言って私は若き日のユイの事を思い浮かべた。

 

「私は教授と言う立場にありながら、その女子学生の知性がにじみ出る美しさに心を乱されてしまいました。才色兼備と言う言葉がまさに当てはまるような女性でした」

 

 素直な感情を吐き出してしまった私は顔を思わず伏せてしまった。

 

「顔をお上げになさってください。別に恥じる事ではありませんよ。それでそのお嬢さんとはどうなりました?」

「彼女は若くして命を落としました。私は長い間、彼女の影を追い求めて周囲の人間に多大なる迷惑を掛けてしまいました」

 

 私が人類補完計画について話しても、老婦人には到底理解できるはずもあるまい。

 

「ごめんなさい、辛い事を聞いてしまって」

「そのような事はありません。ですが私は彼女の息子に諭され、彼女の死を受け止め、別れを告げたのです」

 

 エヴァンゲリオン初号機の消滅は、ユイ君の消滅と同義だった。

 この世界にはユイ君は居ない。

 もし居るとすれば、私の心の中だ。

 

「私は彼女の息子を通して彼女に諭された気がする。自分の死を悲しむために残りの人生を費やさないでくれと。だから私は新しい人生を歩み始める事が出来たのです」

「死んだ人間の気持ちなんて、分からないでしょう? 自己満足に過ぎないのでは?」

 

 私の言葉が老婦人の胸に刺さったのか、老婦人は声を荒げてそう言った。

 

「あなたの旦那さんも自分が死んだら、自分の分まであなたには幸せになって欲しいと願っていると私は思います。あなたが自分のせいで無理矢理に寂しい思いをしてると知ったら、旦那さんは悲しむでしょう。赤の他人の私ですらあなたが悲しむ姿を見たくはない」

 

 私の言葉を聞いた老婦人は驚いた顔になって息を飲んだ。

 

「まさか冬月さんは私にその事を言うためにしつこく将棋の勝負を申し込まれたのですか?」

 

 老婦人に見つめられた私は、バツが悪そうに目を逸らした。

 

「そうね、私が暗い顔をして独りぼっちで居たら、余計あの人を悲しませるだけだったわね」

 

 それは私が初めてみる老婦人の笑顔だった。

 

「冬月さん、これからはこの公園に来て私たちのゲームの相手をしてくれないかしら」

 

 コウゾウが周囲を見回すと、白髪頭の老人や先生氏たちの笑顔に囲まれていた。

 将棋盤の玉将と同じく私には逃げ場が無いように感じた。

 これでは仲間に加わるしかなさそうだと私は観念した。

 

「失礼いたしました、私の名前は綾波ユイと申します」

 

 勝負を終えて老婦人の名前を聞いた私の身体に、電流が走ったような気がした。

 青々としていた鴨川はすっかりオレンジ色に染まっていた。

 

「マリ君、これが運命だと言うのかね。参号機、mk3、ユイ君。今の私は幸せだよ」

 

 私はL.C.L.に似た色の水面を見つめながら、そう呟くのだった……。




幸せを掴んだ冬月さんですが、散歩の途中で光の粒に撃たれて、戦闘力50万の化け物が居る惑星へと転移したようです。

冬月さんが異世界に飛んでパワーバトルを繰り広げる
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