それは、その部屋には在るはずの無いもの――白い蝶、ヒラヒラと人を恐れるでも無く、部屋の中央に立つ少年に向かって降りていく。思わず手を伸ばして、指に羽ばたきが触れた瞬間、声が聞こえた。
「きみが一方通行<アクセラレータ>かい?」
「アア、なんだこれ」
「きみが一方通行<アクセラレータ>で間違いないね?」
「しつけェ。ああ、オレが一方通行<アクセラレータ>だ」
「ああ、よかった。別人だったらどうしようかと思っていたよ。ぼくは垣根帝督。これは、ぼくの能力で創ったんだ。きみにメッセージを伝えるために」
「能力だと?」
「未元物質<ダークマター>。とにかくよくわからない物質<もの>を作れるんだ。今はこの蝶を通じてぼくの言葉を発し、きみの声をぼくに伝えるようにしてある」
「ふゥーン、おもしれェじゃねェか」
「気に入っていただけたようでなにより。早速だけど、きみに相談したいことがある――」
空は輝きに満ち、爆音が響く。
「オラッ!」
「はぁぁぁ!」
白い翼が羽ばたけば、黒光を束ねた翼が揺らぎ、更に広がる。
鳥では無い。一目で常理の外にあると理解<わか>る、黒い光でできた翼もさることながら、一瞥だけでは常識的な色形に見える白翼も、近づけばこの世のものとは思えない輝きを放っていることが実感<わか>る。
そしてどちらもこれでもか、といわんばかりに慣性、重力、風の抵抗その他もろもろ、通常の物理を無視した動きを魅せつけていた。
光が散り、風が舞う。
黒光をその背から吹き出し翼とするのは、翼とは対照的に、髪も肌も白すぎるほど白い少年。対するは白い翼を三対生やし天に舞い上がる、柔らかな金に近い茶色の髪の少年。
天使とみまごう二人は、しかし天使ではありえない。闘争心をいっぱいにみなぎらせ、軽い焦燥や相手を探る視線、深い喜びと、余りにも人間的な表情の数々を、次々と浮かべているからだ。
白が渦巻き、黒が跳ねる。
黒翼が当たるかと思えば、片側三枚の白翼が合わせて振るわれて押しのけられ、カウンター気味に体をひねって白い翼で打撃を入れようとすると、即座に白翼の持つベクトルが解析され撥ね返される。
両者は絡み合い螺旋を形どり上昇。
黙示録に出てきそうな戦いも佳境に入る。凄まじい機動を以て、青空に黒白の光芒を刻む両者の動きが、ある瞬間をもって止まった。
少し離れて対峙。二人は空中に立つ。
広げた白翼の前面に無数の白い短剣が浮かび、黒翼の少年に向けられる。だが狙われた少年は不敵に笑い、避けようともしない。
「イイぜェ、受けてやるよォ!」
「んじゃ遠慮なく。……いけぇ!」
掛け声と共に、まっしぐらに相手に向かうものだけではなく、複雑な軌道を描いて攻撃対象にまわりこむように、どの方向に動いても必ず当たるように短剣が放たれる。
さらに、白翼がはためくと、突如翼から、ダメ押しとばかりに七色の光線が幾筋にも分かれて発射された!
光線が先に宙を往く短剣を追い越す。光線の当たった短剣は壊れず、むしろ加速がつく。
だが白の少年は笑みを崩すことなく、まず真っ先にやってきた光線を浴びて無傷。短剣はその場に立ったまま、最初の一本は後ろに逸らし、次は右に跳ね返し、あるいは後ろから来たそれを黒翼を振るって壊す。波状的に光線も飛来するが、全く意に介さない。透過でもしているのだろうか。そして短剣を全て処理し終えると、白翼の少年が必殺の意気で放った威力の高い光線を、最後の締めとばかりに、楽々反射する。この間一歩も動かない。
逆に加速をつけて跳ね返された光線を、白翼の少年はかろうじてかわす。しかし体制を崩したところで、腹部をうなりをあげるモーニングスターでしたたかに打たれ吹き飛ばされた。こちらに向かって加速するベクトルか強化されていたようだ。
「オーオー、よく飛んだなァ」
「ぐふっ」
「今回も俺の勝ちかァ」
地面にくずおれる茶髪の少年。すでにその背に白翼は無い。背骨が折れたと思われたが、黒翼を仕舞った白の少年の勝利宣言に、何事も無かったかのようにむくりと立ち上がる。
「っふぁ~。飽和攻撃すれば破れるかと思ったけど。フルバーストでも駄目かぁ」
「ばァーか、あの程度で俺の反射が破られるかよォ」
「やっぱ一方通行<アクセラレータ>は強いや」
「ボコボコにされてもケロッとしてるオマエの方に俺としては関心するンだがなァ」
ゾンビかっ、と軽口をたたき笑いあう二人の様子からは、先ほどまでの死闘の名残りさえ見当たらない。
友人をからかいふざける、黒光の翼を広げる白の少年は、学園都市第一位、一方通行<アクセラレータ>。
そして友人におどけてみせる、白翼ひるがえす茶髪の少年の名は、垣根帝督。能力名は未元物質<ダークマター>、学園都市第二位。
ふたりは超能力研究施設にいたころからの、十年来の親友だった……
一方通行の口調これでいいんかな? 戦闘描写が結構楽しかった。次回は未定。