新世界の‪✝︎神‪✝︎になる   作:鳥ッピイ

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011.シーザーの断末魔

気候変動によりレジスタンスキャンプ一帯は雨があまり降らない地域だと教えて貰ったことがある。加えて、気温の変化も少ないのだそうだ。毎日が絶好のピクニック日和だなと口にした俺に、デボルとポポルはその時はお弁当を作ると笑っていた。

そう、思わず叫び出したくなるほどに今日も良い天気だ。

 

「誰か助けてくれえええぇ!!」

 

 

▲▼

 

「あ」

 

学ランを置いて、当たりを見渡す。

ジャッカスに魔法を見せた際、普段羽織っていた上着を置いてきてしまったのを思い出した。久しぶりに魔法を使ったせいか、少し眠かったので昼寝をしようと思っていたが仕方ない。とりあえず取りに行こう。

 

「あったあった......」

 

木箱の上に置かれた黒い上着を見つけてほっと息を着く。 無くしたと言ってもきっと喜んで新しいものを用意してくれるだろうけど、貰い物なのだから大切にしたい。

 

「ん?」

 

木箱の隣に丸いものが置かれている。覗き込んでギョッとした。

 

「ヒィ!」

 

ジャッカスに見せてもらったあの機械生命体の頭で作ったという爆弾が放置されていた。大方彼女が回収し忘れたのだろう。

他のアンドロイドに知らせようとかと考えたが足元に放置されていては、誰かが触れて爆発してしまう可能性がある。 わかりやすい場所に一旦移動させなければ。

 

「そーっと...そーっと......」

 

眠気から来る思考能力の低下か、丸い頭に丸い目が2つ付けられた顔はパッと見はかわいく見える。

 

『とても重いし機能性劣悪だけど、使うと鬱憤晴れるって案外人気なんだよねえ』

 

ジャッカスの笑顔が頭をよぎった。

やっぱり全く可愛くねえわ。

 

「うおっ!?」

 

刺激を与えないように慎重に持ち上げたつもりが、どうしても動かした分の衝撃が伝わってしまったらしい。ガコンと鈍い音を立てて頭部の装甲が剥がれ、地面に鈍い音を立てて落ちる。

 

「やっべ!!爆発しないよね!?」

 

だらだらと伝う汗を拭う事も出来ずに焦るが、シンと静まる辺りに止めていた呼吸を再開させる。

 

「ふ〜...焦った。まあ、この程度で爆発なんかしな、い......」

 

現れた顔面の半分以上を占めるむき出しの歯茎のような金属とそれを覆うメッキに体が固まる。そして、そのまま誤って手を滑らせてしまった。

 

「ミ゚」

 

視界が赤く染まる。

 

▲▼

 

そして、冒頭に戻る。

 

爆発の衝撃で意図をせずに転移魔法が再び発動してしまったのだろう。

気がつくと俺は大木樹の枝の上に立っていた。命綱も無く、ましてや降りることもできない。

 

「高い高い高い高い」

 

木の幹に張り付いて恐る恐る下を除くが、遠すぎる地面にその行動をすぐに後悔した。落ちれば絶対に死ぬ。異変に気づいた誰かが助けに来てくれるのを待つしかないだろう。

幸いビルよりも高い大木樹とあってその枝も安全とは言い難い。が、それなりにしっかりした足場であるようだ。動かない分には安全だろう。

 

「......いや無理だろ!!それでもやっぱり怖!!!!!!!爆発オチなんてサイテー!!ウェーーーン!!!!」

 

この際誰でも良い。最悪あの全裸でも構わない。俺を助けて欲しい。

 

「うぅ、鳥になりたい...翼が欲しい......」

「......何してるんだ。お前」

「!?」

 

泣きわめいていると、目の前にヒールを履いた足が映る。顔を上げると、白く長い髪をたなびかせた呆れた顔の女の人が俺を見下ろしていた。

 

「あ......」

「あ?」

「あの時のお姉さん!!!!」

「あの時?誰だ。お前は」

「助けて!!!!降りれない!!!」

「はあ?なんで私が......」

「無理!!!無理だから!!!!高いの無理ィ!!」

「はぁ......」

「無理無......むぐ」

「煩い。降ろしてやるから黙ってろ」

「ふぁい」

 

 

 

 

「地面......地面だ......」

 

「お前、この程度の高低差を越えられないなんてどんな脆弱な義体をしてるんだ?」

「人間はこの高さを飛び降りたら死ぬって......ァァ地面。俺、地面と結婚するわ」

「.........は?人間?」

 

揺れない地面とはなんと素晴らしいんだろうか。心臓がようやく落ち着いてきたタイミングで四つん這いから立ち上がる。

目の前の何故か驚く女の人は、やっぱり見間違いじゃなかった。

「前に機械生命体に襲われた時、助けてくれた人ですよね。また助けてくれてありがとうございまヴェ!!ゴホッゴホッ!!」

 

唾が気管に入った。めちゃくちゃ苦しい。

 

「人間......人間が.........」

 

咳が収まり、手で覆っていた顔を上げる。

ようやく直視できた女の人の顔を見れて、何か違和感を持つ。いや、これは既視感か?

 

「お前は何故ここにいる?」

「えっ?え〜と」

 

魔法を間違って発動した...とは言えないか。爆弾が誤爆した......これもなんか違うし。

 

「気がついたらここにいたから、何も分からない...」

「.................」

 

呆れた顔のお姉さんはくるりとこちらに背を向けた。待って俺呆れられてない?

 

「どこから来た?」

「廃墟都市のレジスタンスキャンプだけど」

「そこまで連れてって行ってやる。来い」

「い、いいんですか!?」

「お前みたいなクソザコ、放っておいた方が面倒な事になる」

「すみません...クソザコナメクジで...... 」

「そ、そこまでは言ってはない」

 

「.........」

「? どうした」

「何でも......ブベェ!」

 

......この世界に来た当初に俺を救ってくれた人だ。ついて行っても大丈夫だろうと宛をつける。

止めていた足を1歩踏み出した時、丁度足元に飛び出した木の根が引っかかり、 盛大に転ぶことになった。

 

「うぅ」

「............はぁ」

「(あっ2回目の盛大なため息)」

 

 

▲▼

 

「あのー…」

「なにか文句があるのか?」

「マッタクゴザイマセン!」

 

こちらの表情が見えてなくとも声音から察したのだろう。

A2の脇に抱えられた少年は途端に大人しくなった。正確に言えば、「荷物扱い?」と呟きながら投げ出された手足をぶらぶらと揺らしていたが、A2にとってその程度は“大人しい”の範囲内である。

 

「(なんで私がこいつの面倒を.........)」

 

再び吐き出されそうになったため息を飲み込むと、A2は歩き出す。

先程少年に言った通り、放っておいた方が面倒なことになると考え直して。

 

 

機械生命体を殺す。

それが第十四次真珠湾降下作戦を生き残った、生き残ってしまったヨルハA型2号―― A2に残された、唯一の生きる理由だった。

本来司令部から見捨てられ、捨て駒にされたA2に「ヨルハ」としての使命を全うする理由などは既に無い。 それでも機械生命体を殺すのは仲間を殺された復讐からだった。

大事なのは機械生命体を殺すことであって、今更自身の目の前に現れた人類なんて、A2にとってはどうでも良い事だ。この人間を保護する義務もしがらみも、もう無いはずだった。

 

「あの…」

「今度は何だ」

 

控えめに話しかけられた声に下を向く。

 

「お姉さんの名前はなんですか?」

「.........」

 

A2、と告げかけた口を閉じる。

 

「......お前に告げる名なんて無い。好きに呼べ」

 

 

人類である少年の保護には司令部も一枚噛んでいる、と考えた方が良いだろう。A2の存在が少年の口から知らされるのは、避けた方が賢明だと判断した。

 

そう考えたA2の脳裏にふと過ったのは、いつかの仲間の笑顔だった。

 

『君たちにも名前をつけてみようと思う』

 

 

―――――きっと、自分が彼に告げる名前なんて最初から無かったのだ。

 

 

 

 

 

「月にいるはずの人類のお前が、何故こんな地上にいるんだ」

「ん?」

 

少年が人間であることは真実であると、彼女に植え付けられたプログラムが叫んでいる。

創造主である人類との接触に、自身の意志とは反して打ち震える体に酷い不快感を覚えた。

 

「どうして俺が人間だってわかったんですか!?」

「お前が自分で言ったんだろ!?」

「マジか」

 

A2から顔を背けた少年は、話題を逸らすように「月か、月ね」と眉を下げる。

 

 

「分からない。何もかも」

 

わからない、と口にした少年の表情は、誤魔化しの笑顔では無く今度こそ本当のように思えた。しかし、降りられず泣き叫んでいたあの衝撃の出会いといい、本当に隙が多い少年だ。こんなのが地上にいて大丈夫なのか?とA2は柄にもなく不安に思う。

 

「要するに、お前も月に見捨てられたって訳か」

「お前『も』?」

 

地上にたったひとりでも人類がいるとすれば、月面人類会議が放って置くはずがない。少なくとも、アンドロイド部隊を派遣して何としてでも少年を保護しようとするだろう。

この少年の存在を認知していないとも考えられるが、その線は少年がレジスタンスキャンプに保護されている時点で有り得ない。

ならば、月面人類会議は少年の窮地を意図的に看過しているとしか考えられない。

 

「...いや、なんでもない。忘れろ」

 

 

捨て駒であった自身とこの少年では立場に天と地ほどの差があると思い直したA2は、向けられる眼差しを逸らすように森の奥を睨んだ。

 

「木が盛りだくさんですね。森だけに」

「.........」

「.........なんか、森の奥深くに来てません?」

「..........」

「あの倒れてる木、さっきも見た気が...」

「......」

「もしかして、迷」

「気のせいだ」

「まだ最後まで言ってないけど!?」

「気 の せ い だ」

 

▲▼

 

「ほら、あそこあそこ。木が少なくなってる」

「ようやく森の出口か」

 

 

げっそりとした顔のA2は、まっすぐ歩けない程の木々の隙間の間隔が徐々に開いているのを確認する。物干し竿にかけられた洋服のような状態になっていた少年も顔を上げた。

 

「もう森はこりごりだ...」

「お姉さんが送り届けるって言ったのに迷うから...」

「何か言ったか?」

「いえ何も。って岩壁かよ!」

 

森の端にたどり着いたはいいが、はかなりの大きさの壁山が視界の果まで続いている。

こいつを抱えたままなのは気が重いがしょうがないと、A2は岩に足をかけた。

 

「行くぞ」

「ちょっ待ってぎゃぁぁぁああ!!!」

 

岩場を崖山の頂点にたどり着くと、そのまま反対側に回り込む。ちょうど良い足場を探しつつ、小脇に抱えた少年に配慮して慎重におりるがときおり聞き取れない言語を発していた。

 

「無理って言ったじゃん!!!地面と結婚するって言ったじゃん!!!人間は死ぬって言ったじゃん!!!」

「知らん。お前の身体がクソザコナメクジなのが悪い」

「俺の身体がクソザコナメクジミトコンドリア以前の話だって!!」

「だからそこまで言ってないだろ」

 

「ってここは」

「......砂漠?」

 

少年は開いた口に容赦なく飛び込む砂に、慌てて閉じる。

 

「森に戻りません?」

「またあの木の中を彷徨うのか」

「やっぱナシで」

 

どこまでも続く緑を思い出し、2人の顔が歪む。

「なんだ、あれ」

「...建物?」

 

砂嵐もなく、晴天の砂漠の先には四角の大きな影が見える。

 

「とりあえず、あそこまで行ってみるか」

「心綺楼じゃなきゃいいけど」

 

砂漠では少年は自分で歩くと言って譲らなかったが、砂に足を取られてもつれるのを見かねたA2に再び小脇に抱えられることになった。

 

「あ、これ。団地だ」

「団地?」

「集合住宅だっけ?ここでみんなで集まって暮らすんだと思う」

「人間はよく分からないことを考えるな...」

 

 

廃墟ではあるが、遮蔽物のおかげで道が砂に埋もれずに残っているのを確認すると、小脇に抱えた少年をA2は下ろした。

 

「ジャッカスが言ってた砂漠ってここのことなのかな?あ、ブランコ!ハハ、乗ったら壊れそうだ」

「おい、あまり離れるな」

「はいはーい」

 

少し離れた場所で興味深そうにしゃがみこむ少年に近づく。

 

「...何を見てるんだ?」

「あ、お姉さん、見てよ。これ」

 

壊れて風化した小さなものだ。しかし、なにか用途があるとは思えない。

「玩具?」

「きっとここには沢山子供がいたんだろうね」

「そうか」

 

団地をしばらく進んでいると、少年はひとつの違和感を覚えた。

 

「あそこ、ものが多くなってる気が?」

「......」

 

少し遠くに目を向け、首を傾げる少年は今にも好奇心のままに駆け寄りそうだ。

その正体をわかってしまったA2は少年の肩をつかんだ。

 

「もうこれ以上はいいだろう。とっとと他のところに行くぞ」

 

少年が目視した“モノ”は、アンドロイドの死体だった。気づかれる前に、ここを離れた方が良い。

 

「戦闘音?」

「うわ、どこから!?」

 

砂がコンクリートにあたる音しかないはずの砂漠に不釣り合いな鈍い音が響く。

 

「くそっ!!!来るな!!」

 

建物の曲がり角から機械生命体に囲まれた兵士が現れる。

 

「......!お前はここにいろ!」

 

少年の答えを待たず、A2は駆け出した。

 

「君は...」

「今はコイツらを全員倒すぞ!」

「わ、わかった!!」

 

機械生命体の群れも戦闘型であるA2が加勢すれば殲滅は容易い。目に見える敵を全員排除来るとA2は一息を着いた。

 

「無事か」

「あ、ああ。君!!後ろ!!」

「なっ!?」

 

兵士の声に振り向くと、殺し損ねた小型の機械生命体が至近距離まで近づいている。一撃は食らうかとA2が身構えた時、赤黒い何かが機械生命体に激突し吹っ飛んでいく。

 

「あ、あぶね〜........」

 

攻撃の方向先には少年が焦った顔があった。どうやら攻撃は少年が放ったものらしい。

A2は周囲に取り逃がした敵がもういないか入念に確認する。

 

「ありがとう。砂漠から廃墟都市に物資補給ルート確保途中に機械生命体に捕まっちゃってね」

「俺はいいよ。殆どやったのはお姉さんだし」

「何でも良い...」

「いやいや、そんなことないさ。君の最後の攻撃。かっこよかったよ?」

「そ、そうかな」

 

「うん、そうだよ。助けてくれて本当にありがとう」

「......今度から気をつけろ」

「ふふ、肝に銘じておこう。お礼に......と思ったんだが、機械生命体に物資を取られてしまってね」

 

何もいらない、と言おうとしたがA2は別の案が浮かんだ。

 

「だったら、こいつを廃墟都市のレジスタンスキャンプに送り届けてくれ」

「彼を?別に良いけれどどうして?」

「こいつはにん「ぁぁあああ゛ぁあ゛゛あ」」

「えっ?」

「に「ぁあ゛ぁ!」」

 

「(おい、どういうつもりだ!?)」

「(ダメなの!!あんまり人間ってバレちゃダメなの!!)」

「(はぁ!?私にはあっさりバラしてただろうが!)」

「(あれは事故!事故だから!)」

「だ、大丈夫なのか?2人とも...」

「「......」」

 

 

 

「...道中守ってやるから、私たちも一緒に廃墟都市まで案内してくれ」

「そんなことでいいの?」

 

A2は頷いておいた。

 

▲▼

 

 

 

「ようやく見なれた景色...」

「道中も君たちに助けられちゃったね」

「いやあ、お姉さんがほんと強いよ」

「彼女も強いけど、君も不思議な攻撃をするよね」

「ハハハ」

「さっさと来ないと置いてくぞ」

「そっちは砂漠に戻る道だけど」

「......」

 

言葉には出さないが、意味深な視線をよこす少年の頬を抓りあげる。

 

「おれふぁなにふぉいっふぇなふぃけふぉ!?」

「.........」

「そうだ。良かったらこっちに寄っていかないかい?お礼に案内したいところがあるんだ」

 

少年の体力の消耗を考えれば必要だと誘いに乗ったA2達を連れて兵士が案内したのは、地下へと通じる何かへの入口だった。入ると扉が閉じ、下に下がっていくところを見るにどこかに通じるエレベーターらしい。

 

「本当は会員証がないと入れないんだけど、君たちなら大歓迎だよ」

「おお...地下エレベーター...秘密基地みたいでかっこよくない?」

「わかったから引っ張るな」

 

チン、という音を立て扉が開く。

受付が設置された小さな広間だが、どこからか水の音が聞こえてくる。目には見えないが、広大な地下空間が広がっていることは察知できた。

 

「ああ、物資補給から帰ってきたのか。......そいつらは?」

「襲われていたところを彼女たちに助けて貰ってね」

「おお!こいつを助けてくれたのか。ありがとう!!」

「...特に何かした覚えはない」

「歓迎するさ。ぜひ立ち寄ってくれ」

 

 

 

 

 

「.........良い人達だろう?ぜひここを味わっていって欲しいと思ってさ」

「あー.....ちょうど今壊しちまったんだよな」

「なんだって!? あっ、この前捕まえた奴らは?」

「ええ?あいつら使うのか?予備のだから困るんだが...」

「そこの所を頼むよ。彼女たちに何かしたいんだ」

「そうだよなぁ...。ま、仲間を助けて貰った礼だしなぁ.........」

 

 

 

 

「ほら、水だ」

「ありがとう。...脱水症状になりかけてたよ」

「水がなきゃすぐ死ぬなんて本当に面倒臭いな」

「それは俺だけじゃなくて生き物不変の真理ですけど」

「私が知るか」

「お、横暴だ...」

 

人類というものはこんなにも脆いのかと何度目かのため息をつく。万が一を考え、廃墟都市ではあるが、レジスタンスキャンプの近辺までは少年を護衛する必要があるだろう。

 

「全く手間のかかる...」

「あ、いたいた! 体調や気分はどう?回復した?」

「ああ、もう大丈夫だよ」

「なら良かった」

こちらに駆け寄った先程の兵士に、少年が疑問を投げつける。

 

 

「ところで、ここはどこなの?キャンプ?」

「ここは地下闘技場。私はここで司会をしてるんだ」

 

「地下闘技場?ここで誰と戦うんだ?」

「何とって」

 

 

 

「オラ、さっさと立てよ」

「ゴメンなさい、ごめんなサイ」

 

「うわっ...汚い歯車だな」

「こドモだけハ...やめて....やめテ...」

 

 

 

「おかア、さん.........」

 

 

「機械生命体と戦うにきまってるだろ? 」

 

震えて縮こまる機械生命体を何人もの兵士が囲み、足蹴りにしている。 よく見渡せば、薄暗い部屋の隅には機械生命体の残骸がゴミ山のように寄せられていた。

 

「......戦う?これが?」

「.........」

 

 

A2の無意識に込められた咎める声音に気づかないまま、興奮した顔の司会の兵士は震える一体の機械生命体に近寄る。

 

「あ〜あ、足が動かなくなっちゃってる。こんなんじゃ使えないじゃないか」

 

そしてひしゃげた機械生命体の足をそのまま蹴飛ばした。

 

「アアア!」

 

チューニングを外したような不協和音が悲鳴が辺りに響く。

 

「毎日戦争で君たちも大変だろう?奴らが憎くてしょうがないだろう?

だから集めて、ここで壊しまくるのさ。自分で言うのもなんだけどさ、私の司会は場が盛り上がるって評判なんだよ!

家族だ何だほざいてる奴らの片方を壊すのが最近の流行りでね。本当は抽選待ちなんだけど、助けて貰ったお礼に君たちもどう?」

 

「...いや、いい」

「そうなの?残念だなぁ。君は?」

「........」

「まあ、今はもうがらくた寸前のしかいないからねぇ、また来てよ。次はちゃんとしたの用意しておくから」

 

 

少年の開かれた眼孔は揺れ動き、血の気の引いた顔色は青を通り越して白くなっていた。

 

「うわ!?」

「行くぞ」

 

強引に首元を掴んだA2は、そのままエレベーターに向かって歩き出す。

エレベーターの扉が閉まり、地上に到達する前に先程と同じように少年を小脇に抱えた。

 

「もう歩けるよ」

「お前の歩幅はゾウリムシ以下なんだから黙ってろ」

「なんで俺歩幅で罵られてんの?」

 

暗いエレベーター内に差し込む地上の光に目を細めた。

 

「あの機会生命体さ、お母さんって言ってたね」

「......」

「機械生命体にも家族がいるのかな」

「気の所為だ」

「きのせい?」

「機械に家族がいる訳ないだろ」

 

傷んだのは、義体の何処だったのか。

思い出の残骸から掬われたのは「お姉ちゃん」として振る舞う、かつての仲間の姿だった。

 

「奴らはただ、プログラムに従って振舞ってるに過ぎない。そこに感情も何も無い」

 

「アンドロイドには感情があるのに?」

 

 

「私達はアイツらとは違う」

「...変なこと聞いてごめん」

 

暫くは、互いに何も喋らなかった。

少年がどんな表情をしているのかは分からない。

今の小脇に抱えたような体勢でも、直立の状態でもそもそも、A2がわざわざのぞき込まなければ視界に入ることは無い。

何故あんなにも衝動的に少年を連れ出したのか。 実態のない焦燥感の正体は掬いあげる前にこぼれ落ちていく。

 

「ついたぞ」

 

 

浅瀬に落とした踵にパシャンと水飛沫がかかる。

レジスタンスキャンプの居場所は元々知っていた。ただ、この少年の件がなければ訪れはしなかっただろう。

 

「?」

 

返事が無い事を疑問に眼差しを向けるが、頭をぐったりと重力に従ったまま地面に落とした頭は何も答えはしない。耳までゾウリムシなのかと少し揺さぶったが、振り子のようになすがままだ。

 

「......」

「お、おい!どこか体調が――」

「ウッソぴょーん。まんまと騙され......ギャアアア!!!!」

「.........」

「へ、ヘッドロック!!すみませんすみません調子乗りました!!」

 

「次やったらぶっ飛ばすからな」

「ウイッス」

 

片目をつぶる非常に憎たらしい顔をされたが、拳を握ると瞬時に謝られる。その素早さを戦闘や生存にいかせとしみじみと思う。

 

「私はこれで行かせてもらう」

「あれ、もう行っちゃうの?」

「こっちは忙しいんだ。お前に構ってる暇はもう無い」

 

背を向けて歩き出す。ここまで送り届ければもう充分だ。

...生き残ってしまった私が人間と出会うなんて、一体どんな皮肉な運命だろうか。

きっと彼と出会うことはもう無いだろう。

 

「お姉さん」

「......なんだ?」

「ここまで助けてくれてありがとう。何かあったら言ってくれ、俺が力になるよ。

...って思ったけど、よく考えたら俺一人じゃ何も出来なかったわ」

「それはそうだろうな」

「少しは否定してくれよ。目覚めるかもしれないだろ!人間パワー的な何かが」

「何だ人間パワーって...」

「魔法とか?」

「よく分からんが、もう勝手にどこか飛び出したりするなよ」

「......優しいんだね」

「また勝手にうろつかれたら迷惑だからな」

 

止めていた足を再び動かし始めたA2に、声がかけられる。

 

「いい加減私は行く。じゃあな」

「うん。――――またね」

 

 

A2は振り返らなかった。

 

 

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