相も変わらず暑すぎるほどの日差しが髪を焼いている。 煩わしい人間の雑踏もないこの場所は、絶好の日向ぼっこ日和なはずだ。このいつ崩れるか分からない高層ビルが目に入らなければ、の話だが。
ロボットからなんとか逃げ切ることが出来た俺が次にたどり着いたのは、天高いビルが立ち並ぶ廃墟だった。
ファッキン!
ファンタジー溢れる城から、ようやく知った建物が見えたと思ったら、緑が生えてるわ苔むしてるわ相変わらず誰もいないわ今にも崩れそうだわで踏んだり蹴ったりだ。
森ではロボットに殺されそうになったけれど、この廃墟都市では今にも崩れそうなビルに押しつぶされて殺されそうである。
歩いても歩いても廃墟ばかりで人っ子一人いない。 俺を助けてくれたお姉さんがいたから、人はどこかにいるのだろうが...。 この場所に住んでいたはずの人々は、一体どこに行ってしまったのだろうか。
「やっぱりここ、俺がいた世界じゃないのかなあ」
森や城を見た時はファンタジー系の異世界かと思ったが、古臭いロボットがいるし、今いる高層ビルだって見慣れたものだ。 廃墟になってるけどな!一度自動販売機らしきものを見かけたので何か買えないかなと向かったら、ロボットが群がってたので近づけなかった。
この場所に来てから未だに夜が訪れていない
今は丈夫そうな建物を選んでその下で過ごしているが、寝ても醒めても昼間なせいで時間感覚は全く分からない。この世界は本当にどうなっているんだ?
俺がここから離れられなかった理由は、あのロボットがいつ襲ってくるか分からないからだ。今は見晴らしが良い場所にいるので、何かあればすぐ気づける位置にいるが…今度襲われたら間違いなく死ぬだろう。
体育座りをしながら、森で助けてくれたお姉さんがまた来てくれないかなと晴天を睨んでいたら、光る物体......いや、何機もの戦闘機が空を駆け抜けていくのが見えた。
「どういう世界観?」
そして再び全てが赤く染まる。
▲▼
論理ウイルスによって視界機能をヤらレ、スノーノイズ化されタ視界は徐々に暗転し始めていた。
助けを求メようにも、通信機能は自身で壊してしまった。FCSは壊れ、センサー系の異常はもはや致命的な損傷になっている。体は動かず、私は地面に倒れ伏した。
こんなことになるのならヨルハを脱走しようなんて考えなければよかった。ごめんなさいごめんなさいと謝る。──一体誰に?私を殺そうと追いかけてくる◼️◼️に?頭に浮かんだのは何故か16Dの顔だった。
加速するように視界が暗くなる。 闇に意識が浸かるような感覚が恐ろシイ。
苦しい。痛い。...............シ...ダレ...
「ァ.........だ、れ.........」
「...............―――!」
「おねが...............タスケ...............」
「─────」
誰かがいると直感的にそう思った。 何を言っているんだろう。目の前の誰かは機械生命体なのか?誰でもいい。助けて欲しい。
暗闇の中、それでも私は手を伸ばした。 まるで神に縋るように。
▲▼
「―――――――はい?」
目を開けると、俺は工場のような場所にいた。
「いやいやいやいや!?は???どこだよここ!」
廃ビルとどこまでも広がる青空から一転、今度は外が見えないほど巨大な室内の中だった。
いつの間にか座り込んでいた踊り場から立ち上がり、すぐ側の手すりから見渡す。
「うわ......」
下から巻き上がってくる風を一身に浴びるが、底が見えない。 巨大な室内には何本ものパイプが規則的に並んでいて、俺はそのうちの1本の側面に作られた階段にいるようだ。
「うげええええええええお」
しかし目下のベルトコンベアからあのロボットが流れてきたのが見えた瞬間俺は逃げた。
全速力で意味もわからず逃げてしまいまたも迷子になってしまった。しかし、とてつもなくでかい工場の中にいることには変わりはないものの、幸いにも開けた外に出ることが出来たらしい。
「ようやく外か......はぁ......」
「ァ.........ダレ............」
「!!!?!?ファッ!?」
声がした方向に振り返ると、女の人が血まみれになって倒れているのが見えた。
「だ...大丈夫ですか!」
「おねが...............タスケ...............」
「!!」
駆け寄ると腹部からの出血が酷い。 とりあえず学生服で圧迫しようとボタンに手をかけた時、怪我人である女の人の腹から見えていたのは臓器ではなく、機械のコードが―――
「!?」
足元に威嚇のような射撃をされて思わず飛び退く。 目の前には黒い服に黒い目隠しという黒ずくめの人が剣をこちらに構えていた。 威嚇射撃は浮かんでいる隣の箱からされたらしい。
「お前は一体何者だ?」
「ま、待ってくれ!俺はこの人を助けようとしただけで」
「───助けようとした?」
敵意がないことを伝えたつもりが、どうやら逆に地雷を踏んでしまったらしい。周りの空気が一気にピリつくのを肌で感じる。
『報告:何らかの妨害により対象の正体は不明。推奨:破壊の保留』
「知るか。脱走兵を庇うなんて、どうせ機械生命体が新しく作ったガラクタに決まってる」
「!!!?」
息を着く間もなく踏み込まれ、振りかざされた大剣に俺は顔を伏せることしかできなかった。
「なっ!?」
剣がぶつかる固い音に顔を上げる。
俺に刺さるはずの大剣は赤黒いオーラのような障壁...シールド?にうけとめられていた。
「なんだこれは!?うわぁぁあ!!」
まるで弾かれたように黒い人が遠くに吹っ飛んでいく。 ついでに俺の体も赤いモヤと文字が覆っていた。
「ヒェッ!?何これきしょい!」
『警告:魔素反応を検知。旧世界の魔法攻撃はあらゆる防御装置を通過する危険性。報告:対象判別システムの不調は魔素によるものと推測』
「魔法攻撃...!?」
「魔法って何!?」
「機械生命体が旧世界の技術を使うなんて...!」
「機械生命体って何!?」
「ふざけたことを!」
どうしよう。全く話が通じない。今度は喋る箱に命じて攻撃しようとする黒い人にパニックになっていると、再び全身が赤く染まった。
「ッ─────!!!」
「あれっ」
そして俺は、また別の場所に立っていた。
▲▼
何度も移り代わった視界の先は、再び廃墟の都市だった。
「も、戻ってきた?」
どっと疲れが来たので座り込む。
まず工場に突然瞬間移動するわ、おかしな事だらけだった。
「助けたのが不味かったのかなぁ」
せっかく人に会えたのに、倒れていた女の人を助けたことは、あの黒い人にとっては良くないことだったらしい。 良いことをしたつもりでも、結果的に裏目に出てしまったのは嫌なものだ。
しかし今回の遭遇で多くのことがわかった。
試しに手元に力を入れると赤いモヤが出てくる。
黒い人と一緒にいた喋る箱から言わせれば、これは魔法というらしい。
「ええ...............」
なんか...こう......。ロボットといい、先程見た戦闘機といい、工場や喋る箱とか世界観がSFだったのに、ここに来て俺だけファンタジー系の能力に目覚めている。
「色が汚い……」
赤は赤でも、黒が混じったどす黒い赤だ。
赤は嫌いだ。あの赤いやつらは.........、...............。このことを考えるのはやめよう。
最近まともな会話をしていないのを理由にブツブツと呟きながら、手に力を入れてみる。
「おお」
そうすると赤いモヤが集中することで、ひとつの大きな玉が出来た。試しに廃ビル向かって撃ってみると大きな音を立てて壁に小さな穴が空いた。
「うわぁ」
本来なら「俺の右腕に込められし闇の力が...!」とはしゃぎたいところだが、俺を襲ってきたロボットとか助けてくれたお姉さんとかミサイルとか黒い人とかロボットとかロボットとかと比べ、破壊力がショボすぎて感動はしない。 しかもこの黒い弾を打ったことで明らかにちょっと疲れたぞ
今回の瞬間移動もまた、この魔法が原因なのかもしれない。 というか訳の分からないことは全部魔法で片付けられないと、俺の脳のキャパシティが詰むのでそうであってくれ。機械生命体って結局何。俺を見て襲ってくるあのロボットの事なのかな...。
▲▼
『おはようございます 11B。当該機は65秒前に再起動が確認された。また活動再開によって司令部からの集合命令を確認。推奨:司令部への出向』
「わかった」
目が覚めた私はポットの言葉を受けて自室から出る。窓の外を見ると、どこまでも広がる黒い宙と地球は、時間があればいつまでも見つめたくなるが…そうしてはいられないだろう。 一刻も早く司令室に向かわなければならない。目が覚めて直ぐに呼び出しとは、司令部も少しはこちらを気遣って欲しいものだ。
「そういえば、しばらく地球に行ってないな...」
「――先輩!」
「?」
「目覚めたって聞いて、いてもたってもいられなくて。 無事で本当に良かった...!」
「.........」
「先輩?」
「先輩って、私の事?」
「―――え?」
『報告:ヨルハ機体バトラー型11号は、前作戦において機体が破壊され、バックアップによる再起動を受けている』
「ごめん。 バックアップデータの記憶領域に不備があったらしくて、最近の記憶がないの」
「私です。16Dです!先輩、忘れちゃったんですか!!」
「...............?」
16Dと名乗った彼女の顔を見つめるが記憶に覚えは無い。
「そういえば、前に司令部から合同任務が言い渡されるんだっ」
「そんな......。先輩」
「あ、ごめん。私は今司令部に呼び出されてて。急いでるから失礼させて貰うね」
「は、い......」
「―――11B先輩」
呼ばれた声に振り返る。
「何?」
「今度、また戦い方を教えてくださいね」
「うん、16D。―また今度」