手に力を込めて『魔力』を練る。 槍の形に変化したそれは、鋭くコンクリートの壁を破壊した。
「おお〜」
黒い人に襲われてから何日経ったのかは分からないが、何度も練習しているうちに魔法の使い方が少しずつ分かるようになってきた。こちらを見ると襲いかかって来る機械も、小さい個体であれば対処できる(※ただし一体に限る)。
ついでに、川でちょうど良いサイズの鉄パイプを拾ったので武器にしている。ひのきのぼうよりかはまだマシな武器である。今は杖の役割の方が強いけど。
「やったぞ...これでもうあのロボットに逃げまくる必要なんてないもんね!見よ...俺の右手には......!!............いや、一人でやってるの虚しすぎる。やめとこう」
誰もいないので人目を気にしなくても良いことを幸いに、調子に乗って何本もの魔力の槍を形成し辺りに投げつけてみる。何処にも当たらなかった槍は空中をしばらく進むと、何も無かったかのように形を崩して散っていった。
「うーん。なんか、非効率だな。これ」
槍の方に投影すればただ魔力を打ち出すより威力は上がるものの、燃費が悪い。
「おお?」
試行錯誤していると、地面に流した水のように広がる魔力から槍を作れば、ある程度使わなかった魔力を吸収できることに気がついた。
今は死にかけたワニワニパニックのような動きしかできないが、練習すればかっこよく決まるようになるだろう、多分。
鍛えるのは良いが、あまりやりすぎると肝心の身を守るための魔力まで使ってしまう。練習はここでやめておく。
食事のために水面に魔法弾を投げつけて浮かんできた魚を捕まえる。火も魔力で以下略。塩もない焼き魚だが背に腹はかえられない。QOLはダダ下がりである。
ちなみに一度、肉が食べたくて猪に挑んだことがあるが......
『い...猪...だと...。』
『.........』
『倒せば肉が食える...ッテコト!? 喰らえ!闇魔破壊砲!!!』
『.........』
『..........』
『フゴォーーー!!!!』
『ア゛ー!!!!!』
手も足も出ませんでした。(完全敗北)
無力......圧倒的無力......
「せっかくの魔法なのに、使い方が現実的すぎるのが少し悲しいような.....」
俺はため息を吐いた。
▲▼
身を守れる手段自体は出来たので、廃墟都市をもう一度きちんと探索してみることにした。
人のいる場所に向かいたいけれど、俺はあの黒い人を誤って攻撃...攻撃...正当防衛.....向こうからすれば攻撃してしまったので、良い印象は持たれていない可能性が大きい。 それに、あれだ。絶対あのシーンは見てはいけないものを見てしまったやつだ。目撃者は全員消されるに決まってる。
「あれは黒の組織の取引現場だったんだ。消される......目覚めたら体が縮んでいるんだ... 」
助けを求めるとしても、あの黒い人達には見つからない方がいい。 陽射しを手で顔を隠しながらひび割れたアスファルトを進んでいると、大きな遮蔽物がみえた。
「でっか、何これ。よくみたらこのバカでかいの、木の根か!」
森で見た木も大きかったが、目の前のビルを支柱にして伸びた木は規格外の大きさだ。 ラピュタの木か????
「感覚狂うなぁ...。」
巨大樹を横目に崩れていない建物を選んで中を覗いてみる。
「ん?なんかココ、ものが多いような」
今まで見たビルはうち捨てられて久しいのか、むき出しのコンクリートだけを残すのみだった。 しかし此処には錆びた鍋や壊れた自転車、看板、瓶といった多くの物が残されていた。
しかもそれらは同じものがおざなりにではあるが、整理整頓されて配置されている。
「残されてるって言っても、ガラクタだよな。これ 」
割れたコップを片手に首を傾げていると、部屋の端に紙束が積まれている。手に取ってみると古いらしく、かなりボロボロだ。
なにか文字さえあれば、此処が何処だか見当がつくだろうと期待に胸をふくらませてひっくり返す。大分色褪せているが、お買い得!秋の大感謝祭セール!と書かれていた。
「スーパーのチラシィ!!?」
どうやら人参が安いらしい。 どうでもいいわそんなこと。
「え?異世界じゃないの?日本なのココ?」
「おい、誰かいるのか? 誰だお前は!?」
「ッア゛」
▲▼
「それにしても、2Bは物知りですよね。」
「?」
司令部から命じられた現地調査のため、ヨルハ部隊であるアンドロイド2Bと9Sは地球に降り立っていた。レジスタンスキャンプへ向かう最中、9Sが言葉をこぼす。
「ほら、さっき任務に行く前教えてくれたじゃないですか」
「私が教えた?何を?」
『お前たちには地上における現地調査にあたって、魔素を使う正体不明生命体の調査も頼みたい。そちらの方も現地のレジスタンス達と情報を共有してきてくれ。』
『魔素を使う正体不明の生命体...?分かりました。でも司令官、魔素って何ですか?』
『...旧世界の、失われた技術。』
『2Bの言う通り、もし機械生命体が魔素を使用するならば、後に大きな問題になりかねない。魔素はかつて人類が使っていた技術だからな。』
『なるほど。人類の技術を僕達アンドロイドではなく、機械生命体が使っているとなればとても不味い状況になりますね...。』
『魔素があらゆる判別装置を弾くせいで、実際は調査対象が機械生命体かどうかすら分かっていないのが現状だ。もし、その生命体の正体が万が一......』
『司令官?』
『なんでもない。ともかく頼んだぞ。』
「情報収集はスキャナー型の任務なのに、僕が2Bに教えてられてばかりですよ。僕ばっかり助けられてるようで申し訳ないです」
2Bの脳裏に過ぎったのは、バンカーにてあった司令官とのやり取りだった。9Sの台詞から、彼が同じ出来事を思い浮かべていることは明白だ。
「私はただ、任務が円滑に遂行できるよう務めるだけ。それに私も、9Sにたくさん助けらている。」
「2B...!」
2Bとしてはただ事実を述べているに過ぎない。しかし9Sはゴーグル越しからも分かるほど嬉しそうな表情を浮かべていた。2Bは9Sが嬉しいならそれで良いと思った。
▲▼
初めて訪れたレジスタンスキャンプでは、リーダーであるアネモネがヨルハ部隊である2人を歓迎してくれていた。正にアネモネに砂漠地帯の凶暴な機械生命体の調査を頼まれた時、3人の会話に1人のレジスタンスの兵士が話に割って入ってきたのである。
「アネモネさん!大変なんです!」
「急にどうした?今私はヨルハの2人に機械生命体の調査を依頼しようと」
「大変なんです!!!!」
「ぼ、僕達は大丈夫ですから。彼の話を聞いてあげてください」
「私は普段、旧世界の遺物を収集しているんだが。」
「人類が残した遺物を、ですか?」
「ああ、人類が月から帰ってきた時、建物だけじゃなくて道具も残ってた方がいいだろう?」
「なるほど。確かに重要な案件ですね」
9Sが神妙な顔で頷く。いつか月から帰還する人類のために、人類文明の遺跡は補修作業が行われているが、手の回っていない範囲も多い。
「まあ、殆どは使い物にならなくなっているけどね。物が多いから、遺物は普段廃墟都市に置いてあるんだ。でも今日向かったら誰かが遺物を物色してたんだよ」
「!それは機械生命体ですか?」
「私が声をかけたら、その後すぐ赤い光が迸って消えたからわからない。機械生命体が今まで人類の物に興味を示したことなんて無かったんだがな...。」
「赤い光...2B!」
「ああ」
司令部から送られたファイルには、魔素反応の大きな特徴のひとつに、魔法行使の際は赤い光源が確認されることが示されていた。
レジスタンスの兵士の話から、倉庫に居た人物が2B達の追う正体不明の相手に関わっている可能性が高いだろう。
「すみません。その赤い光の調査は僕たちに任せてくれませんか。」
「いいのか?君たちには砂漠地帯の調査も頼んでいるし、これ以上は申し訳ないのだが。」
「問題ない。」
「......そうか。それでは頼む。」
2Bの答えにアネモネは苦笑した。
「レジスタンスの兵士さんが言っていた場所はここですね。」
「ポッド、魔素反応は?」
『小規模な魔素反応に加え、継続的な魔素反応を確認。しかし、発生源の特定は不可能。推奨:倉庫内の捜索』
「この中から探さなきゃいけないってことか...」
旧世界の遺物を集めたという倉庫を9Sは落ち着きなく見回している。 その表情からはゴーグル越しでもなお溢れ出る興味を抑えられていなかった。
「わぁ!見て2B!これ、何に使うんでしょう?」
9Sが2Bに見せたのは、正方形の物体だった。 ブラックボックスに似ていると思ったが、各面が褪せていても色とりどりに彩色されていることがわかる。
「それぞれがマスに別れてて、回転するのか...」
『報告:9Sが手にする正方形体は、旧世界におけるパズルにデータが一致』
「パズル?」
『パズルとは、論理的な思考を使用する、人類における娯楽の一種。』
「へー。人類って面白いことを考えるんですね」
2Bが丸い形に取手がついた鉄に首を傾げているうちに、9Sは速いテンポで遺物を調べている。9Sの楽しそうな顔を見ていうちに任務に集中するよう口を開いた2Bの口はいつの間にか閉じていた。
「これは...」
『報告:魔素反応を感知。継続的な魔素の発生源を特定』
2Bの視界に入ったのは、倉庫の隅に落ちていた皮で出来たカードケースだった。
「あれ、有機物が形を保ってるのは珍しいですね。しかも、保存状態もとても良いなんて」
いつの間にか戻ってきていた9Sが肩越しにこちらを覗き込んでいる。 表面にひっくり返すと、カードには文字と共に写真が印刷されていた。
「これは...人類、いや人間の顔?」
▲▼
「ア゛ー!!!!ごめんなさい泥棒じゃないんで.........あれっ」
赤い視界が再びうつり変わり、目を覚ました。今度は目の眩むような緑だ。
「た、助かった......ってまた森かよォ!!!」
助かった...助かったのか?俺はなんで人に会えたのにいつもタイミングが悪すぎるんだろう。あの場で土下座でもかませばもしかすれば弁明の一つや二つ出来たかもしれないのに。.........もしかすると俺が命の危険を感じたり驚いたりすると、制御出来ずに魔法が発動してしまうのか?
「やっぱり魔法のせいぢゃん...」
森には危険なロボットが多いので早く逃げようとすると、自分がいるのは吊り橋の上にいることに気づく。
「うわあああ微妙に高いいい怖ァ!」
「あ、アノ............」
「ヒュッ」
かけられた声に思わず仰け反るとゴン!という音と共に視界が暗くなった。
「ああ、良かった。目を覚ましたんですね。」
「ミ゜」
「入口の監視番があなたを連れてきた時は一体何事かと思いましたが...。どうやら彼とぶつかって気絶してしまったみたいで。お怪我はありせんか?」
「............た」
「た?」
「食べないでください!!!?俺美味しくないんで!!!!!!!」
「お、落ち着いてください。私達に敵対意志はありません。食べませんよ!」
「じゃあ非常食にするってこと!?」
「非常食にもしませんよ!!」
▲▼
「ご、ゴメン......。取り乱しちゃって」
「いえいえ。他の凶暴な機械生命体に襲われたのなら無理もありません。改めてようこそ人間さん、私たちの村へ。 私はパスカル。この村で村長をしています。」
「助けてくれてありがとう。俺は......うぉう!?」
「パスカルオジイチャーン! 」
「遊んデ!」
「遊んデ! ア、アノときノオニイチャン!」
「ンビィェエエエ!!!?ろ、ロボット!!.........あ、あのときの?」
「ウン、オンナノヒトにハ、会エタ?」
『オンナノヒトッテダアレ?』
「き、君はこの前の......」
「今はお客様の相手をしていますから、もう少し待っててくださいね。さあ、あちらで遊んでらっしゃい」
「「ハーイ」」
▲▼
話をまとめると魔法によって飛ばされた俺がたどり着いたのは、パスカルの村という俺がロボットと呼んでいた機械生命体の村の入口だった。それで監視番のロボ...機械生命体にぶつかって気絶したと。 死ぬほど恥ずかしいんですけど。
「ほんとだ...。ロボ、いや機械生命体がいっぱいいる......」
木に括り付けられたような小屋から顔を出すと、森に沢山の機械生命体がいる。 こちらを見て襲ってくる訳でも無機質でもなく、まるで人間のように楽しそうに遊んでいる。
「はい。しかし皆、戦争を放棄した平和主義者の村です。ここなら襲われる心配もありませんよ」
「戦争?」
「ええ。お察しの通りエイリアンと人類の戦争です。私達もネットワークから切り離されて久しいので、戦況がどうなっているのかは全くわからないのですが」
「エイリアン?????」
「......もしかして、ご存知ないのですか?」
ご存知ないです。と答えようとした口はパスカルの神妙な口調に圧倒されて頷くことしか出来なかった。
▲▼
西暦5012年に地球に侵略したエイリアン。エイリアンが作り出した機械生命体に人類は敗北。 月に逃げた人類はアンドロイドを使い地球奪還を計画。 戦況は数千年膠着し、今に至る.........。 俺が出会った人々は人間ではなく、アンドロイドだろうと教えてくれた。パスカルが話してくれたおかげでようやく知るに至った世界は、あまりにも俺の理解力を超えていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ほ、本当に地球に人は誰もいないのか?」
「......わかりません。私も生産されて数百年間、一度も人間を見たことはないんです」
廃墟の町を見て何となくは勘づいていたが、実際に世界がバルスっていたというのはなんとも言えないショックがある。これから俺は、どうすれば良いのだろう?
空を見上げても、青い空では輝く月は見えない。
「...なにやら事情がありそうですね。でも安心してください。私達はレジスタンスのアンドロイド達とも交流を持っているんです。彼らに連絡すれば、きっと保護してくれて――人間さん!?」
「へ?」
「か、体が赤くなって!」
「う、うわ......」
俺の体にかかった赤黒いモヤはどんどん大きくなっていく。制御出来なくても魔法によって、次の瞬間またどこか別の場所に飛ばされることは直感でわかった。
「あ、ありがとうパスカル!!!」
そして、また俺はどこかに飛ばされた。
次回 人間さん某全裸機械生命体に襲われるの巻