誰かに頭を撫でられている。
害するためではなく、慈しみを持って触れられる手はとても優しい。 頭を撫でられたことなんて随分久しぶりだ。そういえば、前は誰が撫でてくれたんだっけ?
「に―――さ―――い゛って゛ぇ!!!」
「きゃあ!?」
「ポポル!?」
何かを思い出して起き上がった瞬間、ゴツンという音ともに頭の痛みに思わず手で抑える。 同じく頭を抑える目の前の赤い髪の人を見て状況を察した。
「ああ゛あ!?頭突きしちゃってごめんなさい!!!?大丈夫!?!?」
「私は大丈夫よ!。あなたこそ大丈夫?」
「いやほんと女の人にあばばばばばばばばばばばびばびゲホッ!!!!ゲボっ!」
「落ち着いて!急にそんな喋ったら身体に障るわ」
「フフ.........アハハ!!!!」
「ひえっ!?」
「デボル、笑ってないでなんとかして!」
「フフフ........ごめん、ごめんって。おい、お前。大丈夫って聞いているお前が1番大丈夫じゃないぞ。そいつは平気だから、ちょっと落ち着け。」
「へっ!?うん。」
「よし。おはよう、お寝坊さん。お前、3日は眠ってたんだぞ」
「3日も...!?」
「3日『も』と言うより、3日『で』ここまで回復した事が驚きなんだがな。」
もう1人の、おそらく双子である同じ顔女の人に水を飲ませてもらう。そこでようやく知らない天井というか知らない部屋にいて、ベッドに寝かされていたことに気づいた。血豆だらけでグロかった手や血が出ていた頭、身体中に包帯が巻かれている感触がする。
「酷い怪我よ、無理しないで。」
「手当...いや、まずここは......」
「なんだ。覚えてないのか?でも、あたし達が来た時には気絶していたし、仕方がないか 」
吐いた後9Sに背負われ、廃墟都市を通過している所までは覚えているが、それ以降の記憶はない。 どこに向かうって言ってたんだっけ
「......レジスタンスキャンプ?」
「その通り! ここはレジスタンスキャンプだよ」
「ヨルハ部隊があなたをここに連れてきた時は、本当に驚いたわ。まさかまだ人類が生き残っていたなんて......しかも、かなりボロボロだったし。まさか人の治療をする日がまた来るなんて、思わなかった。」
「あ、ああ...、月に逃げたって。というか、治療してくれたのか。その、ありがとうございます」
「礼ならここまで連れてきたヨルハ部隊に...って、9Sのあのはしゃぎ様からもう言ってるか」
「お礼を言うのはむしろ、私たちの方だわ」
「え?」
「...」
包帯にまかれた醜い手を、女性らしいしなやかな両手で握られて額に当てられる。
「
「......、?」
▲▼
「さてと、待ちに待ったアカツキの目が覚めたことだし、レジスタンスキャンプのリーダーがお待ちかねだ」
「ギィエ!? 待ってよデボル。なんていうか、俺突然押しかけて迷惑かけたから気まずいというか!?」
「迷惑なんかじゃないわ。むしろ嬉しい悲鳴をあげていたというか」
「みんな驚きのあまり動けなくて、2Bと9Sに薬草や抗生剤を取りに行って貰ってたよ」
「デボルの言う通りだ。」
「ドゥプシ」
「うわっ、10センチ飛び上がった!?」
「ははっ!!元気そうでなによりだ。はじめまして。私はアネモネ この付近のレジスタンスのリーダーをやっている。ようこそレジスタンスキャンプへ。 ――君を歓迎しよう アカツキ。」
アネモネと名乗った女性はそう言って笑った。ベッドで居住まいを正そうとした俺を諌めると、部屋に用意された椅子に座る。
「ああ、寝たままでいいさ。怪我をしているんだろう?。目覚めてくれて、本当に嬉しいよ。ヨルハ部隊が君を連れてきた時は、ついにこの頭も狂ったかと我が身を疑ったものだ」
「あ、ありがとうございます。」
「起きたばかりの所急で悪いんだが、アカツキはどうして地上に?」
「...すみません。その、覚えていなくて」
「ああ、いや。責めているわけじゃなくて、危険な地上に何故独りでいたのか知りたかっただけなんだ。君に何かがあったらでは遅いからな。たとえなにか事情が有るのだとしても、私たちが君を死守することには変わりないから安心して欲しい。」
「死守?」
「ああ、私達レジスタンスキャンプのアンドロイドは君を必ず守り抜く。」
アネモネの顔をじっと見つめるが、その瞳は真剣だった。 アネモネだけじゃない、デボルもポポルも静かに頷く。
いくらアンドロイドが人間のために戦っているからと言って、たったひとりのために命に替えて守るのは非効率だ。
人類全体の利益という大きな目で見れば、俺の死よりも人類のために戦う彼等の死の方が損失はでかい筈だ。頭が良いわけでも強いわけでも特別でもない一般人の俺に、彼らが死守する程の価値はない。そんな疑問が顔には出ていたらしく、アネモネは苦笑する。
「私達アンドロイドにとって――......そうだな。君は存在理由そのものなんだ。人類のために生まれ、人類のために生き、人類のために死ぬ。そのために今日まで悠久の時を戦ってきた。
それに私は生産されてから200年、1度も人類をこの目で目にしたことがない。」
「―――――え?」
「大昔に製造されたアンドロイドならいざ知らず、少なくともこのレジスタンスにいるアンドロイドは、誰も人類と会ったことがないんだ」
アネモネがちらりとデボルとポポルを見るが、その意図を俺には察知できない。 確か、パスカルの話だと人類が月に避難したのは5000年前だと言っていた。 アンドロイドに寿命があるのかは分からないが、流石に5000年も経てば人類に会ったこともないアンドロイドが大半を占めるのだろうか。
「理屈じゃないわ。 みんな貴方に会えたことが何よりも嬉しいのよ。」
「義務じゃない。お前を守りたいって心から思ってるんだ。
――だからそんな顔をしなくてもいいんだ、アカツキ。」
デボルとポポルが優しく俺を諭した。
論理ではなく、感情を優先する。
それじゃあまるで――――――――
「失礼します。アカツキさんが起きたって聞いて、いてもたってもいられなくて...!」
「9S、2B............」
「ヨルハの2人か。丁度いい、長く話し込んでしまったな。私は浮き足立っているほかの兵士達を落ち着かせに行くとしよう。ヨルハの方でも話はあるだろうしな」
「お前の特異体質――魔法については後で詳しく話すよ」
「ゆっくり休んでちょうだいね。」
▲▼
「9Sは突然全裸の男性に「なんだァ?テメェ...」って言われたらどうする?」
「き、急にどうしたんですか?」
「2Bは突然絶世の美男子に『君の瞳は宝石の様に美しい...。どうかこの僕に一瞬だけでもその煌めきを魅せてくれないか』って言われたらどうする?」
「その、そんな経験は無いからわからない...」
「僕と2Bで質問の落差が激しすぎませんか!?」
2Bに9Sと同じ質問したらセクハラになるじゃん、言わないけど。
あの後、やはり俺はレジスタンスキャンプにたどり着く前に気絶してしまったらしい。多分、ドバドバに出ていた筈のアドレナリンも限界を迎えていたのだと思う。あと精神的ダメージ、言わないけど。
ヴッ.........頭をよぎる全裸が............
「怪我は大丈夫ですか?」
「怪我?ああ、手当もしてもらったし、あとは安静にしていれば大丈夫だって言われたよ。」
「...私たちがもっと早く辿り着いていれば」
「間に合ったし、それに2B達は俺を助けるために駆け回ってくれたんだろ? それで充分だよ」
「2Bがコストの高い飛行ユニットをダメにして、司令部は許してくれましたけど整備部に誤魔化すのが大変でしたよ。」
「な、9S!」
ベットに寝そべる俺に向かい合う形で座るクールビューティな2Bの恥ずかしがるような素振りは付き合いの短い俺でも貴重な光景だと思う。
暫く2Bと9Sのじゃれあいをな眺めているとおもむろに9Sが口を開いた。
「アカツキさんの怪我を考慮して、ヨルハ部隊司令部との通信はもう少し待ってもらうことにしたんです。デボルさんとポポルさんから言われてると思いますけど、暫くは絶対安静ですよ」
「司令部? 9S達の上司ってこと?」
「はい! あんなに驚く司令官、初めて見ました。すごく通信したがってましたよ。」
「......そんなに人間って貴重というか珍しいものなのか?」
「え? そうですね。上層部の月面人類会議から定期的に一斉通信で連絡は来るんですけど、僕達はアカツキさんに出会ったのが初めてです。」
「......」
「月面人類会議...」
「9S、司令官からの贈り物を渡そう」
「あっ、そうだ。忘れてた!」
2Bの言葉に慌てた9Sから手渡されたのは、綺麗に包まれた布のような物だ。2Bが手を背中に介助してくれながら起き上がり、包みを開けるとヨルハ部隊の黒い制服がピカピカの新品で入っていた。9Sとはデザイン違いっぽい。
「すげえ。かっこいい」
「アカツキさんが着ていた服はもうボロボロでしたから。司令官からのささやかな贈り物なんです」
「マジか。後でお礼を言わなきゃ」
着ていた学生服は血やらなんやらでもう着れなくなっていたのでありがたく貰っておく。もしかしたら、俺がかっこいいと言った言葉を覚えていてくれたのかもしれない。
「本来なら、僕たち同じ黒ではなく白い服を渡すべきだったんでしょうけど......。」
「そう? 黒の方がカレーうどんを食べても死なないからこっちをありがたく貰っとくよ」
「人間はカレーうどんを食べると死ぬんですか?」
「いや俺が個人的に死ぬだけ」
あっ俺の背中の2Bの手が跳ねた。
▲▼
さらに3日ほど寝た後、包帯を解いてもらうと怪我はほとんど治っていた。手をグーパーと開いても違和感は無い。
「あたし達の治療を踏まえてもこの自然治癒速度は尋常じゃないな。」
「やっぱり、魔素の影響なのかしら」
「十中八九そうだろうな。アネモネ、旧世界のデータをもっと沢山頼む。欲しい情報の詳細は後で送るよ」
「承知した。お前たちは引き続き彼を頼む。正直人間の健康状態においては我々はお手上げだ。」
「わかってるわ。彼のことは私たちにまかせてちょうだい。」
ブリッジしようがカバディしようが体はどこも痛まない。これは...RPGにおける自己回復能力持ちとして活躍出来るのでは?アタッカーも兼任出来れば最強である。
「お前たちのモデルは過去に魔法が使えたと聞いていたが...今は使えるのか?」
「......ごめんなさい、その記憶も消されているわ。」
「そうか...。例えそうだとしても、お前たちが頼みの綱だ。頼んだぞ」
「...わかってるさ。
と思ったら、何やら俺の健康状態をめちゃくちゃ真剣に話し合われていた。大怪我が6日で治ったのにこの扱い。やだ...俺の戦闘力、弱すぎ!?
一応魔法という力を手に入れて戦闘力は以前と比べればインフレしまくっているにも関わらず世知辛すぎる。
「ンァア゛!!」
「アカツキ!?」
「こ、小指が角にあたって......!!」
「あなたの体は取替が効かないんだから、絶対無理しちゃダメよ」
「はい......」
「何か痛みや違和感があるならすぐあたし達に言うんだぞ。いいな?」
「ウイッス.........」